個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について(諮問)

27文科生第38号
平成27年4月14日
中央教育審議会

次に掲げる事項について、別紙理由を添えて諮問します。

 

個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について

 

平成27年4月14日 

  文部科学大臣 下村 博文

(理由)

 日本は課題先進国であると言われています。 急激な高齢者人口の増大と生産年齢人口の減少により、諸外国に先駆けて突入した超高齢社会、人口の自然減と社会減が急激に進んだ地方の消滅危機、世界のフラット化・ボーダレス化による国際競争の激化、産業構造の変化や厳しい経済状況による経済的格差の拡大やその固定化の懸念。 こう した先進国共通の課題が、我が国においては急速に進行しており、ひとつひとつ迅速に解決していくことで、課題解決先進国とならなければなりません。  さらに、技術革新に伴う今後の社会の変化についても、特に職業の在り方は急速に変化していくことが予想され、今ある職業の多くが存在しなくなることも想定しなければなりません。
 一方、社会の成熟化に伴い、個人の価値観やライフスタイルが多様化しており、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が重視される時代にあって、仕事以外の時間をいかに創造的かつ生産的に過ごすかということは、それぞれの幸福や生きがいにとって重要性を増してきています。 また、昨年12月に中央教育審議会が答申した 「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、 大学教育、 大学入学者選抜の一体的改革について~すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、 未来に花開かせるために~」 では、 これからの時代に求められる力を見定めた上で、 高等学校教育や大学教育、 大学入学者選抜において、 多様な背景を持つ一人一人が積み上げてきた多様な力や学習成果を、 多様な評価方法によって公正に評価することが重要であると述べられていますが、誰もが社会に出た後も学び続ける 「全員参加型の生涯学習社会」 を実現する上でも、積み上げた学習の成果が可視化された上評価され、次の段階の活動につながっていくことは極めて重要です。課題先進国である我が国が抱える様々な課題の解決に全員参加で取り組んでいくためにも、生涯学習による自らの可能性の拡大、 自己実現、そして社会貢献や地域課題解決への発展が今まで以上に求められる時代になったと言えます。

 このような状況を踏まえ、その前提条件とも言うべき、個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について、次の事項を中心に御審議をお願いいたします。

 第一に、社会 ・ 経済の変化に伴う人材需要に即応した質の高い職業人の育成についてであります。

 中央教育審議会においては、平成23年に 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」が答申されました。その中では、実践的・創造的な職業人、あるいは卓越した知識・技能を有する人材を高等教育機関が育成していく必要性を指摘しており、職業教育の充実方策の一つと して、 職業実践的な教育のための新たな枠組みの整備を御提言いただきました。  しかしながら、社会のグローバル化はさらに急速に進み、世界的に人材の流動性も高くなってきています。また、変化のスピードが年々増しており、近い将来、今ある職業の多くが、新たな職業に入れ替わっていくことも想定しなければならなくなっています。 このような状況下においては、 どんな状況の変化にも対応しうる汎用的な知識・技能・態度を備えることを基本として、専門的かつ高度な職業能力を有しつつ、国際的に通用する人材や、新たな技術や技能を素早く修得して、変化に対応し続けることができる人材が産業界をはじめとする社会から求められており、 質の高い実践的な職業教育を受ける機会を充実させる必要性が高まっています。 そうした状況も踏まえながら、教育再生実行会議の第5次提言においては、 既存の学校種における職業教育の充実に加え、 人材需要に即応した質の高い職業人育成と社会人の学び直しの機会の充実などを目的とした実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化が提言されました。 また、第6次提言においても、 地域経済の活性化や地域課題の解決に向けた職業人育成の観点から新たな高等教育機関の制度化に向けた取組の推進が提言されています。 文部科学省としては、 こうした提言を踏まえ、 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議を開催し制度化の基本的な方向性について議論を進めてきたところであり、先般、 「審議のまとめ」が取りまとめられたところです。
 これらを踏まえ、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関(以下「新機関」という。)の制度化に向けて、 具体的に以下の事項について検討をお願いします。

○  産業・経済の状況により変化が激しい社会の多様な人材ニーズに対応し、各職業分野の特性を踏まえた質の高い職業人養成を行うことができる制度設計について
○  現在の大学の制度や体系との関係を踏まえ、 高等教育機関としての教育の質を確保し、 新機関における学修成果が国際的にも国内的にも適切な評価を受けられる制度の在り方について
○  専門高校生を含む高校生の進路の選択肢拡大や、より高度な技術や知識の習得を目指して学び直す際に、 就職後も社会人が学習しやすい仕組みについて
○  その他、 新機関の制度化に関し必要な事項について

 第二に、生涯を通じた学びによる可能性の拡大、自己実現及び社会貢献・地域課題解決に向けた環境整備についてであります。

先にも述べたとおり、職業を通じての社会貢献のみならず、仕事以外の時間を使い、様々な機会を通じて学びを深め、自身の可能性の拡大、自己実現、社会貢献や地域課題解決に取り組むことは、今後ますます重要になってくると考えられます。 そして、これらの課題解決に取り組む人と人のネットワークを構築し、地域の人の力を結集することで、地域が自立的に発展していくことが求められる時代、正に全員参加による課題解決の時代になっていくと考えられます。
こうした考え方の一部は、中央教育審議会が平成20年に答申した 「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について~知の循環型社会の構築を目指して~」 でも示されていたものです。 具体的には、学習機会の提供・支援における情報通信技術を活用した具体的方策の充実のほか、各個人の学習成果が社会全体で幅広く通用し、評価され、活用できるようにするための教育サービスの質保証の在り方や学習成果の評価の在り方を検討することが必要であるとされていました。  しかしながら、国を超えて展開する MOOC (大規模公開オンライン講座)、家庭におけるタブレット端末を使用した学習サービス、スマートフォンによる移動中の隙間時間を利用した学習の広がりなど、その後の情報通信技術の進展によって、人々の学習スタイルは劇的に変化しています。 一方、学校教育上の効果や資格取得に結びつく ものについては、 各種教育プログラムや検定試験の信頼性や質を確保する仕組みがより一層求められるようになりました。本年3月にまとめられた教育再生実行会議の第6次提言においても、社会人がいつでも学び、キャリアアップを図ることができるよう e-ラーニングを活用した教育プログラムの提供を推進するとともに、個々人が学んだ成果を蓄積し、その後の就業や更なる学修にいかすことができるような学習成果の評価・活用の仕組みや、それらが社会的に認められるようにその質・内容を保証する仕組みを構築することが提言され、 改めてその実現に向けた検討が求められています。
 これらを踏まえ、 具体的には以下の事項について検討をお願いします。

○  e- ラーニングの発展にも対応した、各種教育プログラムや検定試験の信頼性や質を保証する仕組みづくりと、これらを、進学や就職、キャリアアップなどの人生における節目や、地域課題の解決など、様々な場面で活用できるようにするための方策について
○  情報通信技術の進展も踏まえ、民間事業者、放送大学をはじめとした大学、社会教育施設等における各種教育プログラムや検定試験について、学習履歴を安全に管理するとともに、適切に活用し、 より高度な学習や幅広い活動等につなげる仕組みについて
○  その他、生涯を通じた学びによる可能性の拡大、  自己実現及び社会貢献・地域課題解決に向けた環境整備について

 以上が中心的に御審議をお願いしたい事項でありますが、この他にも、個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方に関し、必要な事項について御検討をお願いします。

お問合せ先

○社会・経済の変化に伴う人材需要に即応した質の高い職業人の育成について:生涯学習政策局参事官(連携推進・地域政策担当)付、高等教育局高等教育企画課

○生涯を通じた学びによる可能性の拡大、自己実現及び社会貢献・地域課題解決に向けた環境整備について:生涯学習政策局生涯学習推進課

(生涯学習政策局参事官(連携推進・地域政策担当)付、高等教育局高等教育企画課、生涯学習政策局生涯学習推進課)