「子どもの心身の健康を守り、安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について」(諮問)

18文科ス第492号
 
中央教育審議会

 次に掲げる事項について,別紙理由を添えて諮問します。

 子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について

 平成19年3月29日

文部科学大臣 伊吹 文明


(理由)

 子どもが学校はもとより家庭や地域社会において,勉強や運動,遊びなどに意欲を持って取り組み,生き生きとした生活を送るとともに,将来にわたり心身ともに健やかに成長していくためには,学校における安全・安心な環境が確保されるとともに,子どもの心身の健康を守り,育むことのできる確かな指導体制を築いていくことが極めて重要である。

 近年,通学路を含めた学校の内外における子どもが犠牲となる事件・事故が生じており,地域ぐるみで子どもの安全を守り,安心して育つことのできる生活環境を作っていくことが求められている。また,メンタルヘルスに係る課題やアレルギー疾患など子どもの心と体にわたる様々な健康問題が生じており,学校における取組を充実させていくことが求められている。さらに,子どもたちの食生活において朝食欠食,偏食,孤食といった課題が生じており,子どもたちが健やかに育つ上で大切な生活リズムを身につけさせる上でも,また,将来にわたって,今や国民病とも呼ばれているメタボリックシンドローム等の生活習慣病を予防するためにも,正しい食に関する知識と望ましい食習慣を育むことを目的とする食育に学校が積極的に取り組むことが求められている。

 このような子どもの心身の健康,安全・安心に関する課題の解決のためには,一部の教職員のみによる個別の努力に委ねるだけでは到底十分な成果を期待することができるものではなく,養護教諭や栄養教諭を中核としつつ,全教職員のそれぞれの役割を明確にし,かつ,相互の効果的な連携の在り方を探求した上で,学校全体の取組体制を整備することが必要である。
 また,それぞれの課題は学校のみでは十分な対応ができないものも少なくないことから,地域の専門家や関係機関の知見や能力を最大限に活用し,かつ,子どもの健やかな発達について大きな責任を有する保護者との連携を強化する取組や体制を一層整備・充実していくことが必要である。

 以上の観点から,子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保するための学校全体としての取組を進めるための方策について検討する必要がある。


文部科学大臣諮問理由説明

平成19年3月29日

 学校において安全・安心な環境を確保し,子どもの心身の健康を守り育むことのできる確かな指導体制を築くことは,全ての学校活動においての基礎となり,また,その前提となるものであります。
 今日,子どもを取り巻く生活環境が変化する中で,子どもが健やかに成長する上での様々な課題があり,とりわけ学校教育の果たすべき役割には大きなものがあると考えられます。
 このため,このたび,子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について,その在り方を御検討いただきたく,以下,諮問理由を若干敷衍して説明させていただきます。

 近年,通学路における犯罪,学校への侵入者など学校の内外において児童生徒等が犠牲となる,あってはならない事件・事故が発生しています。また,交通事故や地震・風水害などの自然災害に子どもが巻き込まれる事件・事故も引き続き生じています。そのため,子どもたち自身に危険を予測・回避する能力を習得させるための取組はもとより,学校が何より安全で安心できる場となるとともに,保護者や地域の関係団体などの協力を得て地域ぐるみで子どもの安全を守り,安心して育つことのできる生活環境を作っていくことが求められています。

 また,子どもを取り巻く生活環境の急激な変化を背景として,心と体の両面に関わる様々な健康課題が生じています。ストレスによる心身の不調などメンタルヘルスに係る課題への対応や,ぜん息,アトピー性皮膚炎,食物アレルギーなどのアレルギー疾患への対応,さらには,薬物乱用,感染症の問題など,粘り強い継続的な取組が必要とされる課題が顕在化しております。これらの健康課題への取組に当たっては,正しい理解に基づく迅速かつきめ細かい対応が必要です。日々の健康観察において,子どもの示す表情や行動のささいな変化に気付き,課題を把握し,的確な対応を図ることが求められます。また,子どもの心と体の悩みや痛みに適切に応える健康相談活動を充実・強化していかなければなりません。

 さらには,将来にわたって健康を維持するためには望ましい食習慣を身に付けることが必要です。食は,子どもの健やかな成長と活動の源になるものであり,郷土の産物を食することにより,それを育んだ文化を子どもが実感として理解することにつながる教育的効果を有しています。また,食を通じて家族の団欒や社交性などを育むことができるとともに,人は他の動物や植物の命によって自らの命を維持することを子どもが学び,自然に対する畏敬の心を培うことができます。今日,食生活において朝食欠食,偏食,孤食といった課題が生じており,子どもたちが健やかに育つ上で大切な生活リズムを身につけさせる上でも,また,今や国民病ともいえるメタボリックシンドローム等の生活習慣病を予防するためにも,子どもの発達段階に応じて,また,各教科の内容や学校給食を関連付けながら,効果的な食育の推進を図ることが求められています。さらに,食育の生きた教材である学校給食の果たす役割について改めて検討することが求められています。

 このような子どもの心身の健康,安全・安心に関する課題の解決については,一部の教職員が個々に対応するだけでは,十分な成果を期待することはできないものです。
 そのため,養護教諭や栄養教諭などの教職員を中核としつつ,日常的に子どもの状況を把握している学級担任などを含め,全教職員のそれぞれの役割を明確にし,相互の効果的な連携の在り方を探求した上で,学校全体の取組体制を整備することが必要であると考えます。

 また,それぞれの課題は学校のみでは十分な対応ができないものも少なくなく,地域や家庭との連携・協力による総合的な取組が必要です。例えば,安全の確保については,警察等の関係機関や地域の防犯パトロールにあたる地域ボランティア等が,通学路や地域で子どもを見守る活動を行っています。また,心身の健康問題は,地域の医療機関などの関係機関と連携・協力を図ることによって,効果的な取組を行なうことができます。さらに,食育については,地域の生産者団体等において,農林漁業体験,地場産物を活用した調理体験などを子どもに提供するなど,食文化の継承について重要な役割を果たしています。
 学校での教育課程における指導とともに,家庭内の約束事として起床・就寝時間を決めたり,そのような各家庭での取組をPTA活動として支えるというような,学校・家庭・地域が一体となって子どもの生活リズムの向上に取り組む「早寝早起き朝ごはん」運動の取組も広まってきています。学校においては,このように様々な知見や能力を持ち,地域で活動する専門家,関係機関や家庭と密接に連携・協力することが必要であると考えます。

 以上の観点から,子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保するための学校全体としての取組を進めるための方策について,御検討いただきたいと思います。

 以上,御検討をお願いしたい点について申し上げました。会長,副会長をはじめ,委員の皆様におかれては,幅広い観点から十分な御審議をいただき,新しい時代にふさわしい教育の実現に向けた御提言をいただきますようお願い申し上げます。