栄養教諭の養成・免許制度の在り方について

平成16年1月9日
教員養成部会

栄養教諭の養成・免許制度の在り方について

(報告)



中央教育審議会初等中等教育分科会
教員養成部会


栄養教諭の養成・免許制度の在り方について(報告)

教員養成部会
平成16年  1月  9日

はじめに

  • 平成15年9月10日の中央教育審議会「食に関する指導体制の整備について(中間報告)」(以下「中間報告」という。)において,学校における食に関する指導を充実する観点から,栄養教諭制度を創設することが提言されたことを受けて,初等中等教育分科会教員養成部会においては「栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ」を設け,栄養教諭免許制度の内容や栄養教諭の養成カリキュラムの在り方等について専門的な調査審議を行ってきた。
  • 栄養教諭の免許状を創設するためには,他の教諭等と同様に,教育職員免許法上に,免許状の種類,各免許状の授与にあたっての基礎資格,大学等で修得することが必要な科目の内容と単位数などを新たに規定することが必要である。
  • 栄養教諭は,食に関する指導と学校給食の管理を一体的に担う職員として,教育に関する資質と栄養に関する専門性を併せ有し,学校給食を生きた教材として活用した効果的な指導を行うことが期待される。
  • こうした栄養教諭の資質能力を確保するため,栄養教諭の免許状を創設するに際しては,保健指導と保健管理をその職務とする養護教諭の例を参考としつつ,栄養教諭の職務の特性を十分踏まえるという観点から行うことが必要である。
  • このような認識の下に,栄養教諭の養成・免許制度の創設に関係する地方公共団体,大学等の養成関係団体,教職員団体等から意見等を聴取しつつ検討を行った結果,以下の結論を得たところである。

1.栄養教諭の職務内容と専門性

  •   中間報告においては,栄養教諭は,以下のような食に関する指導と学校給食の管理を一体のものとしてその職務とすることが適当であるとされている。

(1)食に関する指導

  • 1  児童生徒への個別的な相談指導
      生活習慣病の予防や食物アレルギーへの対応などの観点から,児童生徒の個別の事情に応じた相談指導を行うことが,児童生徒の健康の保持増進のために有効である。その際,保護者に対する助言など,家庭への支援やはたらきかけも併せて行うことが重要である。
  • 2  児童生徒への教科・特別活動等における集団指導
      学級担任や教科担任が作成する年間指導計画の下に学校給食の時間や学級活動,総合的な学習の時間などにおいて,学級担任や教科担任と連携しつつ食に関する指導を行う。なお,食に関する指導は,学校教育活動全体の中で広く行われるものであり,学校において食に関する指導に係る全体的な計画を策定するに当たっては,栄養教諭がその高い専門性を活かして積極的に参画し,貢献していくことが重要である。
  • 3  食に関する教育指導の連携・調整
      食に関する指導を効果的に進めるため,保護者への啓発や学校内外を通じて教職員や関係機関等との連携を密接に図るため,食に関する指導のコーディネーターとしての役割を果たすことが期待される。

(2)  学校給食の管理

  学校給食における栄養管理や衛生管理,物資管理等の学校給食の管理は,栄養教諭としての主要な職務の柱の一つである。

  •   このような職務内容に照らし,栄養教諭には,学校栄養職員と同等以上の栄養に関する専門的知識・能力に加え,児童生徒の心理や発達段階に配慮した個別又は集団での指導,学校教育全体に参画し,学級担任や養護教諭,学校外関係者と連携・調整を行うことができる教育の専門家としての資質が求められる。

2.栄養教諭の免許状の種類及び養成の在り方

  • 栄養教諭の養成段階においては,栄養教諭としての職務内容を適切に行うための資質能力の基礎として,栄養に関する専門性と教職に関する専門性を身に付ける必要がある。
  • その際には,現在の教員養成・免許制度の基本理念を踏まえ,以下のような制度とすることが適当と考える。

(1)  免許状の種類

  •   栄養教諭の免許状の種類は,大学院,大学,短期大学等の学校種別,修業年限や修得単位数に応じて多様な教員養成機関から栄養教諭になる途を開くことにより,教員組織全体の活性化を図るとともに,上位の免許状等の取得を目指すことによる現職教員の自発的な研修を促すため,複数の種類の免許状を設けることとし,普通免許状として専修免許状,一種免許状,二種免許状の3種類とすることが必要と考える。
      このうち他の教諭等と同様に,一種免許状は普通免許状の中で標準的なものと考える。
      栄養教諭の配置についての中間報告における考え方,栄養教諭の職務内容として給食の管理が含まれていることなどの栄養教諭制度の性格等にかんがみ,臨時免許状や特別免許状を設ける必要はないと考える。

(2)  免許状取得のための基礎資格

  免許状取得のための基礎資格としては,大学における教員養成の基本原則を踏まえ,専修免許状については修士の学位(大学院修士課程修了程度),一種免許状については学士の学位(大学卒業程度),二種免許状については準学士の称号(短期大学卒業程度)を有することを原則とすることが必要と考える。

(3)  栄養に関する専門性の養成

  •   栄養に関する専門性として,免許状の種類にかかわらず食に関する指導を行うための資質能力を身に付けるため,基礎資格として栄養士の免許を取得することが必要と考える。
  • さらに,栄養に関する深い専門的知識・技術を養うために,標準的な免許状である一種免許状の取得のためには,管理栄養士養成のための教育課程と同程度の内容・単位数を修得することとすべきである。このため,一種免許状を取得するための基礎資格としては,栄養士の免許に加えて管理栄養士免許を取得するために必要な程度の専門性を有することとすることが適当と考える。また,専修免許状を取得するための基礎資格としては,管理栄養士の免許を有することとすることが適当と考える。
      二種免許状の取得のためには,上記のように基礎資格として栄養士の免許の取得を求めることにより,栄養士養成のための教育課程と同程度の内容・単位数を修得することとすべきである。
      また,いずれの免許状の取得においても,食に関する課題を踏まえ,栄養教諭としての使命の自覚や,職務内容について理解を深めることが必要と考える。
      なお,これらの管理栄養士養成のための教育課程,栄養士養成のための教育課程のうち,教職に関する科目との類似等があるものについては,重複して課すことのないよう配慮することが考えられる。

(4)  「教職に関する科目」の内容と単位数

  •   教育の目的・原理,教育の内容・方法,児童生徒の心身の成長・発達等についての深い専門的知識・技術といった教職に関する専門性を修得するための「教職に関する科目」は,養護教諭の養成課程と同程度の内容・単位数を基本として,教職の意義等に関する科目,教育の基礎理論に関する科目,教育課程に関する科目,生徒指導及び教育相談に関する科目,総合演習,栄養教育実習について修得することが必要と考える。

(5)  養成課程

  •   大学における開放制の教員養成の基本原則に照らし,栄養教諭の養成においても,文部科学大臣の課程認定を受けた大学の課程において,必要な科目・単位数を修得することを基本とすべきである。
  • 一方,現在の管理栄養士,栄養士の養成課程として,大学以外に専門学校等においても,学校栄養職員等として教育現場に優れた者を輩出していることにかんがみ,他の教諭等の養成において指定教員養成機関の制度を設けていることと同様に,専門学校等について文部科学大臣が指定を行い,栄養教諭の養成を行うことができるようにすべきである。
      また,専門学校において修得した栄養に関する科目について,栄養教諭の養成を行う大学等が単位認定を行うようなことも考えられる。

3.栄養教諭の上位の免許状等の取得のための方策

  •   教員免許制度上,現職の教員が研修によって,自ら資質能力の向上を図ることが期待されており,これは栄養教諭についても同様である。このため,栄養教諭の二種免許状や一種免許状を有する者が,それぞれ一種免許状や専修免許状を取得しようとする場合に,栄養教諭としての一定の在職年数と,免許法認定講習等において一定の単位を修得することにより,都道府県教育委員会が行う教育職員検定を経て取得できる措置を講ずることが必要と考える。
  • この場合,二種免許状を有する者には,養護教諭の場合と同様,標準である一種免許状取得の努力義務を課すとともに,栄養教諭としての在職年数等に応じて修得が必要な最低単位数を一定程度まで逓減する措置を講ずることが必要と考える。
  • その際,栄養教諭は生活習慣病の予防や食物アレルギーへの対応等についての児童生徒に対する個別指導を担うことから,管理栄養士免許を取得することが望ましく,管理栄養士免許を取得した者には,栄養教諭としての在職年数や免許法認定講習等における単位修得について配慮することが必要である。
      なお,管理栄養士免許,専修免許状や一種免許状の取得が促されるような環境づくりにも留意が望まれる。

4.学校栄養職員に対する措置

(1)  教員免許を有しない学校栄養職員に対する措置

  •   現在,学校栄養職員である者が栄養教諭の免許状を取得する場合には,職務を行いながら円滑に必要な資質を身に付けるため,特別非常勤講師としての活動実績も含め,学校栄養職員としての一定の在職年数と,長期休業期間中などに実施される免許法認定講習等において一定程度の単位修得により,教育職員検定を経て授与することが必要と考える。

(2)  他の教員免許を有する学校栄養職員に対する措置

  •   他の教諭や養護教諭の免許状を有する学校栄養職員が,栄養教諭の免許状を取得する場合には,教職に関する科目は既に修得していることから,栄養教諭としての使命の自覚や,職務内容について理解を深めつつ,管理栄養士免許を有する程度の専門性を有する者については一種免許状を,栄養士免許を有する程度の専門性を有する者については二種免許状を取得できるようにすることが必要と考える。

5.その他

  •   栄養教諭としての資質能力は,その養成・採用・研修の各段階を通じて形成されていくべきものであり,大学における養成課程の整備とともに,都道府県教育委員会等における現職研修の促進を図ることが必要である。また,食に関する指導の重要性にかんがみ,栄養教諭以外の教諭等に対しても,必要な資質能力を身に付けることが必要であり,現職研修の促進を図ることが望まれる。

第2期中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会
委員名簿

部  会  長 國  分  正  明 独立行政法人日本芸術文化振興会理事長
副部会長 田  村  哲  夫 学校法人渋谷教育学園理事長,渋谷幕張中学校・高等学校長
  赤  田  英  博 社団法人日本PTA全国協議会会長
  小  栗  洋 東京都立新宿高等学校長
  渡久山  長  輝 財団法人全国退職教職員生きがい支援協会理事長
  橋  本  由愛子 東京都北区立王子中学校長
  横  山  洋  吉 東京都教育委員会教育長
  岡  本  靖  正 前東京学芸大学長
  小  野  具  彦 東京都中野区立中央中学校長
  河  邉  貴  子 立教女学院短期大学助教授
  高  倉  翔 明海大学長
  永  井  順  國 女子美術大学芸術学部教授
  西  嶋  美那子 日本アイ・ビー・エム人事サービス株式会社人材開発アドバイザー
  西  村  佐  二 東京都目黒区立中目黒小学校長
  野  村  新 前大分大学長・大分大学名誉教授
  宮    英  憲 東洋大学文学部教授
  森  川  直 岡山大学教育学部教授
  天  笠  茂 千葉大学教育学部教授
  大  南  英  明 帝京大学文学部教授
  小  川  正  人 東京大学大学院教育学研究科教授
  川  並  弘  昭 学校法人東京聖徳学園理事長
  平  出  彦  仁 中部大学人文学部長
  松尾澤  幸  恵 稲城市教育委員会教育長
  山    準  二 静岡大学教育学部教授
  山  極  隆 玉川大学文学部教授
  横須賀  薫 宮城教育大学長
  渡  邉  重  範 早稲田大学副総長
  渡  辺  三枝子 筑波大学教授

(平成16年1月現在・敬称略)


栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ
委員名簿

天笠  茂 千葉大学教育学部教授
  香川  芳子 女子栄養大学長
  田中  延子 北海道教育委員会スポーツ健康教育課主査
  中村  丁次 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授
平出  彦仁 中部大学人文学部長
  村田  光範 和洋女子大学大学院総合生活研究科教授
  八木下  覺 千葉県松戸市立幸谷小学校長
    準二 静岡大学教育学部教授
  山本  茂 徳島大学大学院栄養学研究科教授
  横山  洋吉 東京都教育委員会教育長
  渡邉  二郎 神奈川県茅ヶ崎市教育委員会教育長

(五十音順・敬称略)
◎は主査、○は副主査


「栄養教諭の養成・免許制度の在り方について」
(教員養成部会報告)審議経過

○教員養成部会(第20回)

日時: 平成15年  9月22日(月)13:00~15:00
場所: 霞が関東京會舘「ゴールドスタールーム」
議題:
  • 中央教育審議会「食に関する指導体制の整備について(中間報告)」について
  • 「栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ(仮称)」の設置について

○栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ(第1回)

日時: 平成15年10月  6日(月)10:30~13:00
場所: 霞山会館「霞山の間」
議題:
  • 中央教育審議会「食に関する指導体制の整備について(中間報告)」について
  • 栄養教諭の養成・免許制度の在り方に関する全般的討議

○栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ(第2回)

日時: 平成15年10月14日(火)10:20~13:00
場所: 東海大学校友会館「朝日・東海の間」
議題:
  • 栄養教諭免許制度の在り方に関する関係団体からの意見聴取  (第1回)

○栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ(第3回)

日時: 平成15年10月24日(金)10:00~13:00
場所: 東海大学校友会館「朝日・東海の間」
議題:
  • 栄養教諭免許制度の在り方に関する関係団体からの意見聴取  (第2回)
  • 栄養教諭免許制度の在り方に関する検討の方向について

○栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ(第4回)

日時: 平成15年11月  4日(火)13:00~15:00
場所: 霞が関東京會舘「エメラルドルーム」
議題:
  • 栄養教諭免許制度の在り方に関する検討状況の経過報告について

○教員養成部会(第21回)

日時: 平成15年11月10日(月)10:30~13:00
場所: 霞が関東京會舘「シルバースタールーム」
議題:
  • 栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループにおける検討状況について

○栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ(第5回)

日時: 平成15年11月17日(月)10:30~13:00
場所: 文部科学省分館「201・202特別会議室」
議題:
  • 栄養教諭の養成カリキュラムの内容等について

○栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ(第6回)

日時: 平成15年11月25日(火)13:00~15:00
場所: 文部科学省別館「第5・第6会議室」
議題:
  • 栄養教諭の養成・免許制度の在り方について(報告案)

○栄養教諭免許制度の在り方に関するワーキンググループ(第7回)

日時: 平成15年12月16日(火)10:30~13:00
場所: 霞が関東京會舘「ゴールドスタールーム」
議題:
  • 栄養教諭の養成・免許制度の在り方について(報告案)

○教員養成部会(第22回)

日時: 平成16年  1月  9日(金)10:30~13:00
場所: 如水会館「松風の間」
議題:
  • 栄養教諭の養成・免許制度の在り方について(報告案)

栄養教諭の養成・免許制度の在り方に関する
意見聴取団体一覧

  • (教育委員会)
    • 全国都道府県教育長協議会
    • 全国市町村教育委員会連合会
    • 指定都市教育委員・教育長協議会
    • 中核市教育長連絡会
  • (学校)
    • 全国連合小学校長会
    • 全日本中学校長会
  • (教職員団体)
    • 日本教職員組合
    • 全日本教職員連盟
    • 全日本教職員組合
  • (大学・短大)
    • 日本教育大学協会
    • 日本私立大学団体連合会
    • 日本私立短期大学協会
  • (栄養士関係)
    • 社団法人全国学校栄養士協議会
    • 社団法人全国栄養士養成施設協会