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第2章  地域が参画する新しいタイプの公立学校運営の在り方について

1  地域が公立学校の運営に参画することの意義について

2  制度化に当たっての基本的な考え方について

(1)制度導入の対象

  •   保護者や地域住民が一定の権限を持って運営に参画する新しいタイプの公立学校(以下便宜上「地域運営学校」という。)に関する制度の導入の対象としては,地域とのつながりが特に深い小学校や中学校が中心になると考えられるが,地域の実情に応じ,学校を設置する地方公共団体の教育委員会の判断で,幼稚園や高等学校などを対象とすることも考えられる。
  •   地域運営学校は,学校運営の在り方の選択肢を拡大するための手段の一つとして新たに制度化すべきものである。したがって,その導入は,すべての公立学校に一律に求められるものではなく,地域の特色や学校の実態,保護者や地域住民の意向などを十分に踏まえて,学校を設置する地方公共団体の教育委員会の適切な判断により行われることとし,その指定の手続については教育委員会において定めることが適当である。

(2)基本的な制度の内容

ア  学校運営協議会の設置

  •   学校の運営への保護者や地域住民の参画を制度的に保障するための仕組みとして,地域運営学校には,保護者や地域住民も含めた学校運営に関する協議組織(以下便宜上「学校運営協議会」という。)を設置することが必要と考えられる。
      学校運営協議会は合議制の機関であり,その委員としては,校長,教職員,保護者,地域住民,教育委員会関係者などが考えられ,当該学校を設置する地方公共団体の教育委員会において委嘱することが適当である。委員の数,構成,委員の委嘱の手続,任期,学校運営協議会の議事に関する事項等については,教育委員会規則において定めることになると考えられる。なお,教育の中立性や公正性を確保する観点から,例えば学校運営協議会の委員の委嘱に当たり守秘義務を課すことなども検討されるべきである。

イ  学校運営協議会の役割

  •   学校運営協議会の役割としては,
    1)学校における基本的な方針について決定する機能,
    2)保護者や地域のニーズを反映する機能,
    3)学校の活動状況をチェックする機能
    が考えられる。すなわち,学校運営協議会は,当該学校の教育目標の設定とその達成について校長と責任を共有する立場から,例えば,学校における教育課程編成の基本方針,予算執行や人事配置等に関する基本方針について,校長等の提案に基づいて承認を行うなど,学校における基本的な意思決定に関与する役割を果たすことが期待される。校長は,承認された基本的な方針に基づき,学校運営の最終的な責任者として具体的な事項について決定し,校務を行うこととなる。このように,校長と学校運営協議会は当該学校の運営に関し,協同して役割を果たすことが求められる。
      また,学校運営協議会の委員には,保護者や地域住民を代表する立場にある者として,学校に対する保護者の要望や地域ニーズを公平・公正に,かつ,幅広く把握・集約し,学校運営に反映させることが求められる。さらに,基本的な方針に照らした学校の教育活動の実施状況について絶えず目を配り,評価を行い,必要があれば改善を求めるなどの働き掛けを行うことなども期待される。
      このような権限を有する学校運営協議会には,自らの活動に関して,保護者や地域住民,教職員等の学校関係者に対して説明を行う責任が生じる。また,当該学校において所期の教育目標が十分に達成されないなどの場合には,その役割を十全に果たしているかどうかについての責任が問われることとなる。
  •   学校にどのような校長や教職員を得るかということは,地域の意向を踏まえた特色ある学校運営の成否に特に重要な影響を与える問題である。このため,実践研究校のこれまでの研究においても,校長を公募し,その選考に学校運営協議会が関与したり,教職員の人事について要望を行うなどの取組が試みられてきたところである。
      こうしたことを踏まえ,地域運営学校においては,現在の校長による意見具申や市町村教育委員会による内申に加えて,学校運営協議会が校長や教職員の人事について具体的に関与することができるようにするとともに,人事に関し最終的な権限を持つ教育委員会においては,地域運営学校制度の趣旨にかんがみ,校長や学校運営協議会の要望等を可能な限り実現するよう努める必要があると考えられる。
  •   なお,市町村教育委員会が市町村立小学校又は中学校を地域運営学校に指定する場合,当該学校における教職員は県費負担教職員であることから,教職員の任命権者である都道府県教育委員会に対し事前に協議を行うなどの手続が必要と考えられる。
  •   保護者や地域住民に学校運営に当たっての一定の権限を与えること,すなわち,学校運営協議会に具体的にどのような権限を与えるか,その際,校長や教育委員会との関係をどのように位置付けるかなどについて法令上規定することは,現在の地方教育行政制度に全く新しい視点に立った仕組みを導入するものである。このため,その制度化に当たっては,教育委員会の自主的,主体的な取組が促進されるよう,地方教育行政全体の在り方にも照らしつつ,十分な検討を行う必要がある。

ウ  校長の裁量権の拡大等

  •   地域運営学校の運営をより効果的なものとするためには,学校の創意工夫を生かした様々な取組が可能となるよう,学校運営の最終的な責任者である校長の裁量権を拡大することが重要である。先に述べたように,教職員人事については,学校運営協議会の関与の下,校長の権限の拡大を図る等の制度上の措置を講じることも必要であるが,これに加えて,例えば,地域運営学校の校長に係る裁量経費を増額することや,学校の判断に基づき非常勤講師の採用を可能にすることなど,現行制度の運用の改善等による対応が可能な事柄については,各学校の設置者において積極的な検討を行うことが求められる。

(3)点検・評価等

  •   地域運営学校は,これまで行政内部で完結していた学校運営に保護者や地域住民が責任を持って参画するものである。地域運営学校が,公立学校として担うべき公共性や公平性・公正性を担保しつつ,その特色を生かした教育を実践していくためには,当該学校による自己評価が重要である。さらに,学校を設置する地方公共団体の教育委員会において,学校運営協議会の活動も含め,地域運営学校の教育活動を不断に点検・評価するとともに,その結果を例えばインターネット等を通じて情報公開し,その成果を他の学校の教育活動にも生かしていく必要がある。
  •   教育委員会が行う点検・評価においては,例えば,学校運営協議会が期待される機能を十分に果たしているか,公立学校としての公共性・公平性・中立性の確保や教育水準の維持等は適切に図られているか,地域の信頼に応える学校づくりに具体的な成果が上がっているかといった観点から,それぞれの地域運営学校の特色に応じた評価項目を定め,適切に実施していくことが求められる。その際,第三者による評価委員会等を設置し,その評価を参考にすることや,保護者や地域住民に広く意見を求めることなども有効であろう。点検・評価の結果によっては,地域運営学校に教育活動の改善を求めたり,その指定を取り消すなどの措置を講じる必要も生じるものと考えられる。
  •   地域運営学校の円滑な運営を実現し,所期の目的が達成されるよう,地域運営学校を設置する地方公共団体の教育委員会においては,あらかじめその指定や取消しに関する手続き等必要な事項を教育委員会規則において定めるとともに,地域運営学校の運営に関する調整や評価などを行う組織を明確にするなどの十分な体制整備を図ることなどが求められる。また,国においても,地域運営学校に関する情報の収集・提供や評価方法に関する研究開発等を通じて,新しいタイプの学校運営を積極的に支援していく必要がある。
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