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第2章  新学習指導要領のねらいの一層の実現を図るための具体的な課題等

1  学習指導要領の「基準性」の一層の明確化

(1)現状と課題

(学習指導要領の「基準性」の趣旨)

  学習指導要領は、全国的に一定の教育水準を確保するなどの観点から、各学校が編成する教育課程の基準として、国が学校教育法等の規定に基づき各教科等の目標や大まかな内容を告示として定めているものである。
  この学習指導要領には、小・中学校等の義務教育諸学校についてはすべての児童生徒に対して指導すべき内容が、高等学校等については当該科目を履修するすべての生徒に原則として指導すべき内容が示されており、各学校においては、まずは児童生徒に学習指導要領の各教科等及び各学年等に示された内容の確実な定着を図ることが求められている。各学校は、この指導を十分に行った上で、個性を生かす教育を充実する観点から、児童生徒の実態に応じ、学習指導要領に示されていない内容を加えて指導することも考える必要があり、これにより、共通に指導した内容について、さらに知識を深め、技能を高めたり、思考力・判断力を高め、表現力を豊かにしたり、学習意欲を高めたりすることも期待される。
  また、新学習指導要領では、全国共通に指導すべき内容の厳選や大綱化・弾力化を一層進めることによって、社会全体に進む地方分権、規制緩和の流れもある中で、学校の裁量により、学校や教員の創意工夫を生かした指導を行うことがさらに可能となっている。
  告示として示されている学習指導要領は、以上のような性格(基準性)を有しているものと考えられる。このような「基準性」を学習指導要領が有していると考えた場合、以下の課題がより明確になる。

(基準性の趣旨を生かした教育に係る課題)

  児童生徒に[確かな学力]をはぐくむためには、各学校において学習指導要領の「基準性」を理解した上で個性を生かす教育が行われることが大切であるが、このような取組が多くなされる一方で、各学校に対する学習指導要領の「基準性」の趣旨についての周知が不十分であるため、学習指導要領に示されていない内容を加えて指導することが適切な場合であってもそれが十分考慮されていない状況も見受けられる。

([はどめ規定]等に係る課題)

  学習指導要領では、その性格を踏まえ、従来から、各教科等の内容の取扱いにおいて「〜は扱わないものとする」などの取り扱う内容の範囲や程度を明確にする記述(いわゆる[はどめ規定])や「〜については○種類又は△種類扱う」などの事例数等の範囲や程度を明確にする記述がなされている。
  学習指導要領の「基準性」を踏まえれば、これらのいわゆる[はどめ規定]等の趣旨は、学習指導要領に示された内容をすべての児童生徒に指導するに当たっての範囲や程度を明確にしたり、学習指導が網羅的・羅列的にならないようにしたりするための規定であり、児童生徒の実態等に応じてこの規定にかかわらず指導することも可能なものであるが、その趣旨についての周知が不十分であるため、適切な指導がなされていない状況もみられる。

(入学者選抜の取扱いに係る課題)

  新学習指導要領において「基準性」が一層明確化されていること等に伴い、入学者選抜の実施について、学習指導要領に示されていない内容と出題範囲との関係が不明確になるのではないかという懸念が学校現場にみられる。

(2)当面の充実・改善方策

  各学校においてこのような学習指導要領の「基準性」の趣旨を十分理解した上で、個性を生かす教育が行われることが大切である。そのためには、以下の2点を当面の充実・改善方策として提案する。

(学習指導要領の記述の見直し等)

  国においては、学習指導要領の「基準性」の趣旨についての周知が不十分であるという実態にかんがみ、学習指導要領の「基準性」を一層明確に示すため、小・中・高等学校等の学習指導要領総則の「基準性」に関する記述を見直すことが必要である。また、いわゆる[はどめ規定]等は学習指導要領に示された内容をすべての児童生徒に指導するに当たっての範囲や程度を明確にしたり、学習指導が網羅的・羅列的にならないようにしたりするための規定であり、児童生徒の実態等に応じてこの規定にかかわらず指導することも可能であるという趣旨を一層明確に示すため、小・中・高等学校等の学習指導要領の[はどめ規定]等に係る記述を見直すことが必要である。なお、既に教科書については、同様の観点から、すべての児童生徒に指導すべき内容と区別する形で、それ以外の内容を記述することも可能とされているところである。
  各学校では、このような趣旨を踏まえ、地域の実態や各学校の実情、建学の精神等を生かし、各学校の教育目標に応じた適切な教育課程を編成・実施することが重要である。ただし、学習指導要領に示されていない内容の指導については、学習指導要領に示された各教科等及び各学年等の目標や内容の趣旨を逸脱しないこと、児童生徒に与える負担、高等教育との連携も視野に入れた小学校から高等学校までの指導方針の連続性等の観点から、無制限に行われることがないように配慮すべきである。
  なお、国においては、今後、各学校における教育課程の編成・実施の状況を分析し、個性を生かす教育を推進するための教育課程の基準の在り方について研究することも必要であろう。

(入学者選抜における取扱い)

  各大学、高等学校等においては、それぞれの学校が目指す教育に基づいた入学者選抜を実施しているが、学習指導要領の内容がすべての児童生徒に共通に指導する内容等を示していることを踏まえ、小・中・高等学校の教育に与える影響等に配慮して選抜することが必要である。また、社会や大学が真に求めている学力は、[確かな学力]であることにかんがみ、選抜に際しては、新学習指導要領の基本的なねらいを踏まえ、児童生徒の知識や技能の評価はもとより、思考力・判断力・表現力や学びへの関心・意欲・態度などまでを含めた[確かな学力]の総合的な状況を評価することができる学力検査問題の作成に努める必要がある。特に、大学にあっては、高等学校以下の教育に与える影響等に配慮しつつ、各大学がそれぞれの方針に基づいた選抜をどのように行っていくのか、具体的な検討をさらに進めることが期待される。
  なお、国等においても、[確かな学力]の総合的な状況を評価することができるような良質な学力検査問題等を収集し、各教育委員会や各学校等に対して積極的に情報提供することが求められる。

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