新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(中間報告 概要)

2002/11/14
中央教育審議会

新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について
(中間報告 概要)

■第1章  教育の課題と今後の教育の基本的方向について

1  教育の現状と課題

  •   国民の間での自信の喪失とモラルの低下、青少年の凶悪犯罪やいじめ・不登校・中途退学・学級崩壊など、現在の我が国社会と教育は深刻な危機に直面。
  •   一方、世界的には、教育が国民の未来や国の行く末を左右する重要課題と認識され、各国において「国家戦略としての教育改革」が急速に進行。
  •   この状況を踏まえ、教育の在り方を根本にまでさかのぼって見直すことが必要。

2  21世紀の教育が目指すもの

(1)教育の役割と継承すべき価値
  •   教育の役割は、個人の能力を伸長し、自立した人間を育てることと、国家や社会の構成員として有為な国民を育成すること。このような教育の役割と、個人の尊重、公共の精神など継承すべき価値は、しっかりと踏まえていくことが必要。
(2)歴史的変動の時代への挑戦
  •   新しい時代の教育を考える上で重要な時代の潮流は次の通り。
    1少子高齢化社会の進行と家族・地域の変容、2高度情報化の進展と知識社会への移行、3産業・就業構造の変貌、4グローバル化の進展、5科学技術の進歩と地球環境問題の深刻化、6国民意識の変容
(3)これからの教育の目標
  •   「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」を目指し、以下をこれからの教育の目標に位置付けるべき。
  • ▲自己実現を目指す自立した人間の育成
  • ▲豊かな心と健やかな体を備えた人間の育成
  • ▲「知」の世紀をリードする創造性に富んだ人間の育成
  • ▲新しい「公共」を創造し、21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成
  • ▲国際社会を生きる教養ある日本人の育成
(4)目標実現のための課題
  •   教育は未来への先行投資であり、これからの教育の目標を実現するためには、施策の総合化・体系化・重点化等により、教育投資の効率化を図りつつ、必要な施策を果断に実行していくことが必要。

■第2章  新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について

1  見直しの主な視点

  •   現行法の「個人の尊厳」「真理と平和」「人格の完成」などの理念は今後も大切。
  •   以下のような重要な理念や原則が不十分であり、これらを明確にすることが必要。
  • ▲国民から信頼される学校教育の確立
    • 一人一人の個性に応じてその能力を最大限に伸ばす視点
    • 豊かな心と健やかな体をはぐくむ視点
    • グローバル化、情報化、地球環境、男女共同参画など時代や社会の変化への対応の視点
  • ▲「知」の世紀をリードする大学改革の推進
  • ▲家庭の教育力の回復、学校・家庭・地域社会の連携・協力の推進
  • ▲「公共」に関する国民共通の規範の再構築
    • 「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵養の視点
    • 日本人のアイデンティティ(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)の視点、国際性の視点
  • ▲生涯学習社会の実現
  • ▲教育振興基本計画の策定

2  見直しの方向

教育基本法関係条文 見直しの方向
■前文
  われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
  われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。
  ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。
  前文については、法全体の見直しの考え方が決まった後で、あらためて検討。
■教育の基本理念
一条(教育の目的)  教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 
二条(教育の方針)  教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によつて、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。
  現行法の基本理念に加え、以下を規定すべきとの意見があり、引き続き検討。

個人の自己実現と個性・能力の伸長、創造性の涵養
感性、自然や環境との関わり
社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心
日本人としてのアイデンティティ(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)と、国際性(国際社会の一員としての意識)
生涯学習の理念
時代や社会の変化に対応した教育
職業生活との関連の明確化
■教育の機会均等
三条(教育の機会均等)  すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない。
2   国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によつて修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。
  「教育の機会均等」は、将来にわたって大切にしなければならない重要な原則。
  「教育を受ける機会」を「教育を受ける権利」に改めること、「生涯にわたり学習する権利」「障害者など教育上特別の支援が必要な者についての規定」を新たに規定することについては引き続き検討。
■義務教育
四条(義務教育)  国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。
2   国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。
義務教育の期間(9年間)、授業料無償は今後とも維持
義務教育制度の弾力化を進める観点から、学校教育法等の見直しについて、今後関係分科会等において検討
1 発達の個人差に対応した就学年齢の弾力化
2 学校の課程の分割や小中など校種間の多様な連携
3 保護者の学校選択、教育選択などの仕組み
■男女共同参画社会への寄与
五条(男女共学)  男女は、互に敬重し、協力し合わなければならないものであつて、教育上男女の共学は、認められなければならない。
  男女共同参画社会の実現や男女平等の促進に寄与するという視点から、教育の基本理念として規定。
■学校、教員等
六条(学校教育)  法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
2   法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。
■ 学校
  例えば、知・徳・体の教育を行う場であること等、学校の役割を明確に規定。具体的内容は引き続き検討。
  高等教育の視点や私学振興について盛り込むことにも留意。

■ 教員等
  教員の使命感や責務を明確に規定するとともに、資質向上・研修の重要性について規定。
  子どもが、教員等の指導に従い、規律を守り、学習に取り組むことを明記することについて、引き続き検討。
■家庭教育

  家庭(保護者)の果たすべき役割や責任について新たに規定。
■社会教育
七条(社会教育)  家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によつて奨励されなければならない。
2   国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方法によつて教育の目的の実現に努めなければならない。
  「社会教育」の在り方については、地域における教育や継続教育を支援し、また学習機会の充実を一層図ることが適当。
■学校・家庭・地域社会の連携・協力

  学校・家庭・地域社会の連携・協力等について新たに規定。
■国家、社会の主体的な形成者としての教養
八条(政治教育)  良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
2   法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
  国民が国家、社会の形成者として、国家、社会の形成に主体的に関わっていく態度を育成することが重要であり、その旨規定。
 
  学校における特定の党派的政治教育等を禁止することは、今後も重要な原則。
■宗教に関する教育
九条(宗教教育)  宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。
2   国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
  宗教一般に関する教育については、その重要性を指摘する意見が多いが、具体的内容等については意見が集約されていない。今後、引き続き検討。
 
  国公立学校においては特定の宗教のための宗教教育や宗教的活動が禁止されることは今後も大切。
■国・地方公共団体の責務等
十条(教育行政)  教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
2   教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
 
十一条(補則)  この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。
  教育は不当な支配に服してはならないとの原則は重要な教育の基本理念として今後とも大切。
 
  「必要な諸条件の整備」の内容に関しては、国、地方公共団体の責務を含めた教育行政の基本的な在り方を示すという新しい視点から規定。
 
  教育振興基本計画の策定の根拠となる規定を置く

■第3章  教育振興基本計画の在り方について

1  教育振興基本計画策定の必要性

  •   教育の基本理念、基本原則の見直しとともに、具体的な教育制度の改善と施策の充実とがあいまって、はじめて教育改革が実効あるものとなるのであり、教育の根本法である教育基本法に根拠を置く教育振興基本計画を策定することが重要。
  •   今後、本審議会の関係分科会等において検討を行うとともに、政府においては、教育基本法改正後、関係府省が協力して、速やかに教育振興基本計画を策定することを期待。

2  教育振興基本計画の基本的考え方

(1)計画期間と対象範囲
  •   計画期間については、おおむね5年間とすることが適当。計画の対象範囲は、原則として教育に関する事項とし、学術、スポーツ、文化芸術教育等も含む。
(2)これからの教育の目標と教育改革の基本的方向
  •   教育振興基本計画には、これからの教育の目標と教育改革の基本的方向性を示すことが適当。
(3)政策目標の設定と施策の総合化・体系化、重点化
  •   計画には国民にわかりやすい具体的な政策目標を明記するとともに、施策の総合化体系化、重点化に努めることが必要。
(4)計画の策定、推進に際しての必要事項
  •   教育は我が国社会の存立基盤であり、未来への先行投資である教育投資への国民の支持・同意を得るためには、教育投資の一層の質の向上を図り、投資効果を高めることにより、その充実を図っていくことが重要。
  •   国と地方、行政と民間との間の適切な役割分担等に配慮することが必要。
  •   厳格な政策評価を定期的に実施し、その結果を計画の見直しや次期計画に適切に反映することが必要。また、評価結果の積極的な広報を行うことが必要。
3  教育振興基本計画に盛り込むべき施策の基本的な方向
  •   今後、関係分科会等において、計画に盛り込むべき施策を検討することが適当。