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生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に
関する教育及びスポーツの振興の在り方について(抜粋)

〜保健体育審議会  答申  平成9年9月22日〜

III   学校における体育・スポーツ及び健康に関する教育・管理の充実
  学校健康教育(学校保健・学校安全・学校給食)

(4) 健康教育の実施体制
(組織としての一体的取組)
  以上のように、健康教育は広範かつ専門的な内容を学校の教育活動の様々な場で指導していくことが必要であるので、学校の中にいる専門性を有する教職員や学校外の専門家を十分活用していくことが、効果的かつ実践的な指導を行う上でも、極めて重要である。
  健康教育を担当する教職員としては、教諭のみならず、保健関係では養護教諭はもとより学校医、学校歯科医、学校薬剤師等の職員、栄養関係では学校栄養職員など、専門性を有する教職員まで幅広く考える必要がある。さらに、教職員以外にも、例えば、カウンセリングについては、スクールカウンセラーなど、それぞれの分野における専門家の協力を得ることが重要である。このように多様な教職員等が健康教育に関係することから、専門性を有する教職員で構成される学校が組織として一体的に健康教育に取り組むことを、実施体制の基本とすべきである。換言すれば、健康教育は、学校が組織体としての教育機能を発揮すべき典型的な実践の場ととらえることが必要である。
  このように学校における組織的な指導体制を整備するためには、まず校長が健康に関する深い認識を持ち、健康教育を学校運営の基盤に据えることが重要である。その上で、校長のリーダーシップの下、教頭、体育・保健体育担当教員、保健主事、学級担任、養護教諭、学校栄養職員等はもちろん、学校医、学校歯科医、学校薬剤師等がそれぞれの役割を果たし、日ごろから全教職員で児童生徒の健康課題等を把握するとともに、情報交換や研修に努めるなど、組織的な機能を発揮できるよう、指導体制を整えることが必要不可欠である。

(6) 学校給食の今日的意義
(食に関する現代的課題と食に関する指導)
  個々人のライフスタイルの多様化や外食産業の拡大など、食生活を取り巻く社会環境等の変化に伴い、外食・加工食品の利用者の増加や朝食欠食率の増加など、個々人の食行動の多様化が進んでいる。このような食行動の多様化を背景に、カルシウム不足や脂肪の過剰摂取などの偏った栄養摂取、肥満症等の生活習慣病の増加及び若年化など、食に起因する新たな健康課題が増加している。
  学校における食に関する指導は、従来から関連教科などにおいて、食生活と心身の発育・発達、食生活と心身の健康の増進、食生活と疾病などに関して指導を行ってきているところであるが、こうした食に関する現代的課題に照らすと、生涯を通じた健康づくりの観点から、食生活の果たす重要な役割の理解の上に、栄養バランスのとれた食生活や適切な衛生管理が実践されるよう指導することが求められる。

(学校給食の今日的意義)
  学校給食は、栄養バランスのとれた食事内容、食についての衛生管理などをじかに体験しつつ学ぶなど、食に関する指導の「生きた教材」として活用することが可能である。こうした学校給食の活用により、栄養管理や望ましい食生活の形成に関する家庭の教育力の活性化を図る必要がある。さらに、学校給食は、社会全体として欠乏しているカルシウムなどの栄養摂取を確保する機会を、学齢期の児童生徒に対して用意しているという機能を果たしている。
  このような学校給食の今日的意義と機能を考えると、現在、完全給食の実施率が約6割である中学校については、未実施市町村において積極的な取組が望まれる。

(食に関する指導体制)
  食に関する指導体制については、学校における食に関する指導の充実を図るためにも、教育活動全体を通して行う健康教育の一環として、食に関する専門家である学校栄養職員の積極的な協力を得て、関連教科において発達段階に沿った指導を行うとともに、学校給食の今日的意義を踏まえて、適切な指導に取り組む必要がある。このため、教科等の特性に応じて、学校栄養職員とティームを組んだ教育活動を推進するとともに、学校栄養職員が学級担任等の行う給食指導に計画的に協力するなど、学校栄養職員の健康教育への一層の参画を図ることが必要である。

  教職員の役割と資質
(4) 学校栄養職員
(学校栄養職員の新たな役割)
  食の問題は、本来それぞれの家庭の価値観やライフスタイルに基づいて行われるものであり、基本的には個人や家庭にゆだねられるべき問題である。ただし、学校給食の今日的意義、さらには家庭の教育力の低下を勘案すると、学校においても、食の自己管理能力や食生活における衛生管理にも配慮した食に関する基本的な生活習慣の習得などに 十分配慮する必要がある。その際、健康教育の一環として、教科等や学校給食における 取組とともに、食の問題の悩みを抱えた児童生徒にきめ細かい個別指導を行うことも必要である。さらに、保護者からの児童生徒の食に関する相談のアドバイスや、児童生徒を介した家庭への情報提供も重要である。この中で、学校栄養職員は、食に関する専門家として、このような学校における食に関する指導に専門性を発揮することが期待されている。
  近年における食の問題とそれに伴う児童生徒の健康問題の深刻化に伴い、これら健康教育の一環としての食に関する指導の場面が従来以上に増加し、学校栄養職員には本来的職務に付加してその対応が求められている。
  このため、学校栄養職員について、栄養管理や衛生管理などの職務はもとより、担任教諭等の行う教科指導や給食指導に専門的立場から協力して、児童生徒に対して集団又は個別の指導を行うことのできるよう、これらの職務を実践できる資質の向上を図る必要がある。

(求められる資質)
  学校栄養職員は、食に関する専門家として栄養士の免許を有し、栄養学等の専門に関する知識や技術は確保されてはいるものの、近年充実が求められている食に関する指導を児童生徒に行うために必要な専門性は、制度的に担保されていない。したがって、今後求められる学校栄養職員の資質としては、i)児童生徒の成長発達、特に日常生活の行動についての理解、ii)教育の意義や今日的な課題に関する理解、iii)児童生徒の心理を理解しつつ教育的配慮を持った接し方、などである。

(資質の向上方策等)
  このような学校栄養職員の役割の拡大に伴い、食に関する指導等を行うのに必要な資質を担保するため、新たな免許制度の導入を含め、学校栄養職員の資質向上策を検討する必要がある。なお、各学校において、学校栄養職員が、健康教育の一環として、専門的立場から担任教諭等の行う教科指導や給食指導に協力して、児童生徒に対して集団又個別の指導を効果的に行うことができるようにするため、最終的には、各学校で効果的な指導が可能となるような学校栄養職員の配置の改善が必要である。
  また、現職研修のうち、採用時の研修については、既に平成9年度より日数が大幅に拡充され、経験者研修についても新たに実施されたところであるが、今後は、担当教諭とティームを組んだ教科指導や給食指導に関する実践的な指導力の向上も含め、研修内容の充実に努めるとともに、とりわけ経験者研修について格段の充実を図る必要がある。


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