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障害者の生涯学習の推進方策について―誰もが,障害の有無にかかわらず共に学び,生きる共生社会を目指して―(報告)

平成31年3月
学校卒業後における障害者の学びの推進に関する有識者会議

 

はじめに

 平成30年3月の第1回会議から約1年間,全16回にわたり,14名の委員が議論に加わり,「障害者の生涯学習の推進方策について―誰もが,障害の有無にかかわらず共に学び,生きる共生社会を目指して―」をまとめることができました。

 平成29年4月7日,当時の松野文部科学大臣から「特別支援教育の生涯学習化に向けて」と題する大臣メッセージが出されました。これは,障害者が一生涯を通じて教育や文化芸術,スポーツなど様々な機会に親しむことができるよう,福祉や労働も含めた関係施策を連動させながら支援していくことの重要性を指摘されたものであり,こうした考えの下に本有識者会議は設置されました。本会議を設置したもう一つの意義として,障害者の権利に関する条約第24条に明記されている「障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保」とあるうち,「生涯学習の確保」に向けた検討を行ったという点が挙げられます。

 本報告の第1章にまとめた,障害者の学びを取り巻く現状と課題にあるとおり,障害者の生涯学習を支える基盤は脆弱であると言わざるを得ない状況です。この現状を踏まえた上で,本会議においては,障害当事者のニーズの把握をしっかりと行いながら,地方公共団体,特別支援学校,大学や福祉・労働関係の事業所等における障害者の学びの場づくりに係る様々な取組に関するヒアリングを行い,すばらしい実践事例が全国各地に点在していることを共有してきました。そうした事例をもとに,議論を重ね,障害者の生涯学習の推進に関する基本的な考え方や具体的な方策について本報告にとりまとめました。

 今後,本報告をもとに,障害者の生涯学習について,国,地方公共団体,大学,特別支援学校,社会福祉法人や企業等の民間団体による基盤整備が進み,誰もが,障害の有無にかかわらず共に学び,生きる共生社会が実現することを願ってやみません。  

 最後に,本会議において,ヒアリングや意見募集で取組の発表や御意見を提出いただいた関係団体の皆様をはじめ,検討に関わったすべての皆様に心よりお礼を申し上げます。  

第1章 背景 ―なぜ今,障害者の生涯学習について考えるか―

1.障害者の生涯学習推進の意義

(1)障害者をめぐる社会情勢の進展

 平成18年国連総会において「障害者の権利に関する条約」(以下,「障害者権利条約」という。)が採択された。日本国政府はその翌年条約への署名を行ったが,条約の批准については,国内法の整備をはじめとする障害者制度改革を先に進めるべき,との障害者等からの意見が寄せられた。

 このことを受け,政府は平成21年に「障がい者制度改革推進本部」(以下,「本部」という。)を設置し,当面5年間を障害者制度改革の集中期間と位置付けた。平成23年には障害者基本法(以下,「基本法」という。)を改正するとともに,平成24年には障害者自立支援法を改正し,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下,「障害者総合支援法」という。)に改めた。基本法の主な改正内容は,障害者権利条約の趣旨を反映させるため,「障害者」の定義に,いわゆる「社会モデル 」の考え方を反映したこと,「合理的配慮」について我が国の国内法で初めて規定したこと,「障害者政策委員会」を内閣府に設置したことである。

 さらに,平成25年には「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下,「障害者差別解消法」という。)が成立するとともに「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下,「障害者雇用促進法」という。)の改正が行われるなど,制度改革が一挙に進められた。

 各個別分野は事項ごとに関係府省において検討することとされたことを踏まえ,教育分野については,平成22年より文部科学省において,障害者権利条約で提唱されているインクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえた教育制度の在り方や,子供の特性に応じた教育を実現するための教員の専門性向上等のための具体的方策について議論がなされた。平成24年には「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(中央教育審議会初等中等教育分科会報告)」(以下,「24年報告」という。)としてまとめられ,共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築,就学相談・就学先決定の在り方,障害のある子供が十分に教育を受けられるための合理的配慮,多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進,特別支援教育を充実させるための教職員の専門性向上等について提言がなされ,当該内容を踏まえた制度改正が行われた。

 こうした国内の環境整備を踏まえて,平成26年障害者権利条約が批准された。

 政府は,基本法第 11 条に基づき,政府が講ずる障害者のための施策の最も基本的な 計画として,障害者基本計画(以下,「基本計画」という。)を策定することとなっている。改正された基本法に基づく基本計画は,平成25年に,平成29年度までの概ね5年間を対象とする第3次計画として策定され,教育,文化芸術活動・スポーツに関する基本的考え方や施策についても盛り込まれた。

 このような中,文部科学省において,障害者の生涯を通じた多様な学習活動を支援するための取組が開始されることとなり,平成29年4月「特別支援教育の生涯学習化に向けて」と題する大臣メッセージが出された。大臣メッセージの直接的なきっかけとなったのは,当時の文部科学大臣 が特別支援学校訪問時に聞いた,子供たちは学校卒業後には学びや交流の場がなくなるのではないかとの不安を抱いていた保護者の声だった。こうした不安を取り除き,障害者が夢や希望を持って活躍できる社会を形成していくことが不可欠であるとの認識の下,平成30年3月に策定された第4次基本計画においては,「生涯を通じた多様な学習活動の充実」が盛り込まれ,障害者の学校卒業後における学びを支援し,地域や社会への参加を促進することで,共生社会の実現につなげる旨が明確に位置付けられた。

(2)「共生社会」実現の必要性

 先に述べた24年報告の冒頭においては,「「共生社会」とは,これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が,積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは,誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い,人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。このような社会を目指すことは,我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である。」とされている。

 また,平成27年9月の国連サミットでは,「持続可能な開発目標」(SDGs)が採択され,地球上の「誰一人として取り残さない(leave no one behind)」をテーマに,持続可能な世界を実現するための国際目標が定められた。教育はSDGsの17のグローバル目標の一つとして位置付けられており,すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し,生涯学習の機会を促進することとされている。SDGs を受けて策定された日本国内の実施指針においても,優先的に進める分野の一つとして「あらゆる人々の活躍の推進」が挙げられている。

 さらに,人口減少や人生 100 年時代と言われる長寿化が進む中,新たな社会の姿として Society5.0 の実現が提唱されている。人生 100 年時代には,「高齢者から若者まで,すべての国民に活躍の場があり,すべての人が元気に活躍し続けられる社会,安心して暮らすことのできる社会をつくる必要 」がある。社会が大きく変化する中にあって「今後より多様で複雑化する課題と向き合いながら,一人一人がより豊かな人生を送ることのできる持続可能な社会づくりを進める 」ためには,「様々な主体がそれぞれの立場から主体的に取り組むこと 」が必要であり,ICTの新たな技術も最大限活用しつつ,一人一人が生涯にわたって学び続けることが一層重要となる。

 こうした考え方を基本として踏まえながら,障害の有無にかかわらず,一人一人が,生涯にわたり学びを通じてその能力を維持向上し続けるとともに,その成果を個人の生活や地域での活動等に生かしつつ共に生きることのできる「共生社会」の実現を目指し,国は地方公共団体や学校,関係団体との連携も図りながら取組を推進する必要がある。

2.障害者の学びを取り巻く現状と課題

 障害者の生涯学習推進方策の検討を行う前提として,障害者の学びを取り巻く現状と課題についていくつかの視点から確認しておきたい。

 なお,本有識者会議においては,検討の対象となる「障害者」について,基本法第2条に規定された「身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であつて,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」との定義に従って捉えている。その数は,身体障害者436万人,知的障害者108万2千人,精神障害者392万4千人であり ,全人口の7%程度となっている。

(1)障害者本人等へのアンケート調査

 文部科学省は,平成30年度に「学校卒業後の学習活動に関する障害者本人等アンケート調査」(以下,「本人アンケート調査」という。)を実施 し,障害者の生涯学習活動への参加状況,参加の阻害要因・促進要因,学習ニーズ等について把握した。

 その結果では,「共生社会」の実現に向けて学習機会が充実されることについて,重要であるとする者が81.1%を占める一方,学習の場やプログラムが身近に「ある」と感じている者の割合は3割程度と低くなっている。

 学校卒業後の学習経験として多いのは「余暇・レクリエーション活動」(31.1%),「健康の維持・増進,スポーツ活動」(30.3%),「学校段階で学んだ内容の維持・再学習に関する活動」(27.4%)であり,「特になし」は38.8%となっている。

 学習経験と今後のニーズを比較した際,ニーズの方が高くなっているものとしては,「一緒に刺激し合って向上していける仲間づくり,学習意欲を高めてくれる人間関係等に関する学習」(3.1ポイント),「社会生活に必要な知識・スキルに関する学習」(0.5ポイント)がある。

 また,メディア,学習拠点の活用経験として多いのは,「自宅での学習活動(書籍など)」(57.6%),「テレビやラジオ」(42.3%),「インターネット」(42.4%)である。活用経験と今後のニーズを比較した際,ニーズの方が高くなっているものとしては,「公民館や生涯学習センターなど公的な機関における講座や教室」(3.1ポイント),「カルチャーセンターやスポーツクラブなど民間の講座や教室,通信教育」(2.7ポイント),「同好者が自主的に行っている集まり,サークル活動」(1.5ポイント)などがある。

 さらに,生涯学習に関する課題として多いのは,「一緒に学習する友人,仲間がいない」(71.7%),「学習費用を支払う余裕がない」(71.5%),「学ぼうとする障害者に対する社会の理解がない」(66.3%)などがある。

(2)学習機会提供主体への実態調査

・都道府県,市町村,特別支援学校への調査

 文部科学省は,平成29年度に「障害者の生涯学習活動に関する実態調査」(以下,「地方公共団体等実態調査」という。)を実施し,学校卒業後の障害者の学校から社会への移行期や人生の各ライフステージにおける効果的な学習に係る支援の推進に向け,全都道府県,市町村,特別支援学校における学習プログラム提供の実態や体制整備の状況等について把握した。

 その結果では,障害者の生涯学習活動に関する域内の取組を把握している都道府県は62.9%,市区町村は29.8%となっているほか,障害者の生涯学習に関する組織がある都道府県は5.7%,市区町村は4.1%,コーディネーターがいる都道府県は2.9%,市区町村は4.2%であり,体制がない状況が明らかとなった。

 また,都道府県,市町村,特別支援学校いずれにおいても,優先的な課題として「体制の整備」が上位3位までに挙げられているほか,都道府県と市町村においては「ニーズの把握」,市町村と特別支援学校においては「講師及び指導者の確保・養成」が上位3位までに挙げられている。

・大学等への調査

 文部科学省は,平成29年度に「開かれた大学づくりに関する調査研究」を実施し,全国の大学・短期大学(以下,「大学等」という。)における,住民等の学習機会として重要な公開講座の実施状況や,地域連携に関する取組状況の把握・分析を行った。その中で,障害者の生涯学習に関する実態についても調査した。

 その結果,地域社会に対する大学等の貢献のため実際に取り組んでいる項目として「障害者の生涯学習に関する取組を実施すること」を挙げたのは,大学5.7%・短期大学1.5%(以下同様),専門機関・組織が「ある」との回答は4.8%・3.2%,予算が「確保されている」との回答は4.7%・3.2%といずれも大変低調な結果となった。

 オープンカレッジ(公開講座を除く)を開設する予定が「ある」としたのは,3.2%・3.3%,障害者の生涯学習に関する公開講座を行っている大学等において,公開講座のうち「障害者の方への支援に関する講座」は11.0%・9.2%,「障害者の方を対象とした講座」は3.2%・0.9%と極めて低い割合だったが,今後の予定としては,「障害者の方への支援についての講座」を「検討中である」としたのは14.3%・16.4%,「障害者の方を対象とした講座」について「検討中である」としたのは10.6%・13.7%と1割を超える割合となった。

・公民館,生涯学習センター等への調査

 文部科学省は,平成30年度に「地方公共団体(公民館・生涯学習センター等)へのアンケート調査」 を実施した。障害者の学習活動の支援に関わる担当者が「いる」との回答は5.6%,組織が「ある」との回答は3.3%,障害者の学習活動の支援に関わった経験が「ある」との回答は14.5%となった。

 障害者の学習活動の支援に関わった経験があると回答した施設において,支援経験のある学習分野としては,「文化芸術活動」(49.1%)「余暇・レクリエーション活動」(41.3%)「健康の維持・増進,スポーツ活動」(35.0%)の順に高くなっている。    

 障害の有無にかかわらず参加可能な生涯学習事業の実行が困難となる要因については,「ICTを活用した学習プログラムの開発・提供」(35.4%),「障害者が使いやすい施設・設備の整備」(32.3%),「自宅等で学べる学習プログラムの開発・提供」(26.7%)となった。

・都道府県,市町村(地域生活支援事業)への調査

 文部科学省は,平成30年度に「地方公共団体(地域生活支援事業担当)へのアンケート調査」 を実施した。

  「学び(学習活動)」の支援を内容に含む地域生活支援事業については,【都道府県】においては,「社会参加支援」(175.9%)「地域生活支援促進事業」(103.4%)が ,【市町村】においては,「手話奉仕員養成研修事業」(39.5%)「社会参加支援」(32.7%)「理解促進研修・啓発事業」(28.0%)が高い割合となっている。

 具体的な「学び(学習活動)」の支援内容としては,【都道府県】【市町村】いずれにおいても,「障害者等に対する理解促進のための研修・啓発,手話奉仕員養成・ボランティア養成の事業等,共生社会に資する地域住民対象の学習活動支援」(110.3%,122.1%)「余暇・レクリエーション」(75.9%,82.2%)が高い結果となった。

・民間における障害者の学習支援の状況

 学習機会の提供主体として,社会福祉法人やNPO法人,企業等の民間団体の存在の果たす役割は大きい。その取組の全体像についての数値による把握はできていないが,例えば「障害者の生涯学習支援活動」に係る文部科学大臣表彰においては,社会福祉法人が,障害児・者のスポーツ・音楽による自立や社会参加等の促進事業を行うもの ,障害者による伝統芸能の上演を国内外で行うもの ,企業が,障害の有無にかかわらず,誰もが科学に触れることができるよう科学体験・ものづくり講座を実施するもの ,企業の役員・従業員がボランティア団体を作り,全国の特別支援学校が参加する文化祭の開催を支援するもの ,障害者スポーツの大会に長年にわたり特別協賛をするもの など,多様な取組が取り上げられている。

 また,民間団体自らが生涯学習を支援する活動を行うものに加え,企業内で障害のある社員を対象とした研修を行うもの,受講費を徴収して通信教育の機会を提供するものなど,多様な学習支援の取組が行われている。

(3)「障害者に関する世論調査」

 内閣府は平成29年に「障害者に関する世論調査」を行った 。

  「共生社会」の考え方について「言葉だけは聞いたことがある」又は「知らない」(53.3%),「障害のある人が身近で普通に生活しているのが当たり前だ」という考え方について,「そう思う」又は「どちらかといえばそう思う」(88.3%)に対し,「どちらかといえばそう思わない」又は「そう思わない」(7.2%)であった。

 障害のある人が困っているときに,手助けをしたことが「ある」(61.8%),「ない」(38.2%)であった。手助けをした理由としては,「困っているときはお互い様という気持ちから」(61.7%),「障害のある人を手助けするのは当たり前のことだと思うから」(51.9%)などが挙げられた一方,手助けをしたことがない理由としては,「困っている障害者を見かける機会がなかったから」(79.5%)などとなっている。

 世の中には障害のある人に対して,障害を理由とする差別や偏見があると思うかについて,「あると思う」又は「ある程度はあると思う」(83.9%),「あまりないと思う」又は「ないと思う」(14.2%)となり,5年前と比べて障害のある人に対する差別や偏見が改善されたと思うかについては,「かなり改善されている」又は「ある程度改善されている」(50.7%),「あまり改善されていない」又は「ほとんど改善されていない」(41.5%)となった。

 障害のある人がない人と同じように生活していくために必要な配慮や工夫を,企業などがどの程度行うべきと考えるかについては,「可能な範囲の負担であれば,配慮や工夫をするよう義務付けるべきと思う」(25.6%),「可能な範囲の負担であれば,配慮や工夫を行うよう努力すべきと思う」(23.5%),「負担の程度にかかわらず,配慮や工夫を行うよう努力すべきと思う」(23.0%)などとなった。

 障害のある人のために企業や民間団体が行う活動についてどのようなことを希望するかについては,「障害のある人の雇用の促進」(66.3%),「障害者になっても継続して働くことができる体制の整備」(62.3%),「障害のある人に配慮した事業所等の改善・整備」(49.0%)などとなった。

 障害のある人に関する国や地方公共団体の施策のうち,もっと力を入れる必要があると思うものについては,「障害のある子どもの相談・支援体制や教育と,障害のある人への生涯学習の充実」(48.1%)となり,「障害のある人に配慮した住宅や建物,交通機関の整備」(52.0%),「障害に応じた職業訓練の充実や雇用の確保」(50.4%)に次ぎ,3番目に高い割合となった。

第2章 障害者の生涯学習推進の方向性

1.目指す社会像 「誰もが,障害の有無にかかわらず共に学び,生きる共生社会」

 政府は,基本法において,「すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現を掲げている。このことを学びの観点から説明すると,「誰もが,障害の有無にかかわらず共に学び,生きる共生社会」と言うことができ,とりわけ以下のような側面が重視されるべきと考える。

(1)誰もが,障害の有無にかかわらず学び続けることのできる社会であること

 知らなかったことを知ること,できなかったことができるようになること,そして人や社会とつながることは人間の根源的な喜びである。障害の有無にかかわらず,すべての人が,より良く生きるためにそれぞれが必要とする学習を生涯にわたって継続することのできる社会を形成していくことが必要である。

 しかしながら,障害者にとって,これまで生涯を通じて学ぶ機会が十分にあったとは言えない。特に学校卒業後においては,仲間と交流し日々の悩みを相談しながら,それぞれに合った学習を行う場が非常に限られていること,また,学びの場についての情報が適切に提供される体制となっていないことなどの課題がある。

 現在,障害のある児童生徒に対しては,学校教育段階から将来を見据えた教育活動(キャリア教育や自立活動の指導等)が展開されている。自立して社会生活を営む力の育成に関わる内容については,特別支援学校や高等学校を含む後期中等教育段階(以下,「特別支援学校等」という。)で確実に指導を行うだけでなく,障害の状態や特性及び心身の発達の段階等を踏まえ,その後の実生活にも即しながら,ライフステージ全体を通じ,本人が希望する学習を主体的,継続的に行うことができるよう,条件整備を行う必要がある。生涯を通じて自己の発達や成長に向けて学び続ける環境の整備を図ることで,障害者の真の社会参加・自立を実現することが期待できる。

(2)障害者が,健康で生きがいのある生活を追求することができ,自らの個性や得意分野を生かして参加できる社会であること

 学ぶことや働くことなどの活動は,人々のつながりや相互理解の土壌となり,健康で生きがいのある生活を追求する基盤となるものであり,障害の有無にかかわらず,すべての人にその機会が開かれたものとなる必要がある。

 その際,障害者を単に支援される側として一方的に捉えるのではなく,一人一人の多様な個性や得意分野を生かす視点が重要である。障害者が,一人一人の特性に応じて,得意分野の能力を開花させ,就労の場を含め,社会の中で誇りを持って活躍する可能性を広げられるよう,ICTも積極的に活用しつつ,多様な学びの場づくりに多様な主体が連携して取り組むことが必要である。

 さらに,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会では,障害のあるアスリートたちが自分の限界に挑戦し,世界の競合するアスリートに果敢に挑んでいく姿が各競技会場で繰り広げられることになるが,障害者に勇気を与えるこのような機会を大きな契機の一つとして捉え,障害者の学びをさらに推進し,障害者が地域とのつながりを持ちつつ様々な人々と共に学び,支え合って生きていくことができるようにすることが必要である。

2.障害者の生涯学習推進において特に重視すべき視点

 このような社会の実現に向けて,障害者の生涯学習を推進するに当たっては,生涯学習が,スポーツ活動や文化芸術活動,就労に向けた訓練,又は働くことそのものも含め,多様な活動の中で行われる側面があることを念頭に置く必要がある。すなわち,生涯学習は多様な活動と切り離して推進できるものではなく,活動における学びにも着目して「障害者の生涯学習」の推進を図ることで,多様な活動の充実,質的向上が図られることを関係者が理解し,生涯学習・社会教育,学校教育,スポーツ,文化芸術,福祉,労働等に携わる者が相互に連携していくことが重要になる。

 そのことを踏まえた上で,特に以下のような視点を重視すべきと考える。

(1)本人の主体的な学びの重視

 障害者の間では,「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing about us without us)」という考え方が大切にされている。障害者権利条約の起草の過程においても,この考え方が尊重され,障害者団体も発言の機会を得て参画した。

 「誰もが,障害の有無にかかわらず共に学び,生きる共生社会」の実現に向けて,障害者の学びの環境整備を行うに当たっても,本人の学ぼうとする意志を出発点に,本人が学びたいことや課題を自ら発見して取り組む学習とすることが重要である。

 そのためには,本人の学びの動機や主体的な参画に重きを置くとともに,支援者は本人のニーズに合った支援を行うことが求められる。また,学習の企画の段階から実施まで本人が継続的に関わることは,真に障害者のニーズに沿った学びの場づくりを行う上で大きな意義がある。

(2)学校教育から卒業後における学びへの接続の円滑化

 学校教育を通じて身に付けた資質・能力を維持・開発・伸長していくことができるよう,学校教育における学びと学校卒業後の学びを接続させ,生涯にわたって学び続けられるようにすることが重要である。障害のある生徒が望む将来の進路目標に基づく個別の教育支援計画について,卒業後の進路先等への引き継ぎ・活用を図る等,学校教育から卒業後の学びに円滑に移行するための仕組みを強化する必要がある。

(3)福祉,労働,医療等の分野の取組と学びの連携の強化

 障害者は学校卒業後,企業等において就労したり障害福祉サービスを利用したりしながら社会生活を送ることが多い。日々の生活において円滑かつ継続的に学ぶことができるよう,生涯にわたる学びと福祉や労働,医療などの分野における取組との連携を強化する必要がある。

(4)障害に関する社会全体の理解の向上

 社会全体で共生社会の実現に向けて取り組むためには,障害者の学びの場づくりを進めることと並行して,障害に関する社会全体の理解の促進を図ることが極めて重要である。障害者がどのようなことに困難を感じており,どのような配慮や支援があれば周りの人と共に学んだり交流したりしやすくなるのか,といったことについて,家族や支援者などの関係者だけでなく,社会全体の理解を進め,障害の有無にかかわらず共に生きる「共生社会」の実現につなげていく必要がある。

第3章 障害者の生涯学習を推進するための方策 

 「第1章2.障害者の学びを取り巻く現状と課題」で述べたとおり,障害者の生涯学習に携わる人や組織の整備はいまだ不十分であり,学校卒業後の学びの場やプログラムが不足している状況を踏まえ,障害者の生涯学習の推進に向け,学びの場づくり,障害に関する理解促進,取組を推進するための基盤の整備の観点から取り組むべき方策を以下に提言する。

1.学校卒業後における障害者の学びの場づくり

(1)学校から社会への移行期の学び 〈視点1〉

 学校教育から卒業後における学びへの接続を円滑化するとともに,卒業後の学びの機会の充実を図る必要がある。

 特別支援教育を行う学校においては,障害のある生徒が自己のもつ能力や可能性を最大限に伸ばし,自立し社会参加するために必要な力を培うため,障害の重度・重複化,多様化への対応,一人一人に応じた指導の充実,自立と社会参加に向けた職業教育やキャリア教育の充実が図られている。   

 本人アンケート調査においては,障害者本人の最終学歴は,全体として「高校卒」(30%)と「大学卒」(24.2%)が多い傾向にあったが,知的障害及び発達障害(自閉症あり)と回答した者については,「特別支援学校高等部卒」(46.2%,21.3%)が多くなっている。

 知的障害のある生徒について,平成30年度の特別支援学校高等部卒業後の状況は,就職6,338人(34.0%),施設・医療機関11,267人(60.3%)が大半を占めており,大学・短大・高等部専攻科・専門学校への進学者数は90人・進学率は約0.5%となっている。

 知的障害者等の中には,高等部卒業後も引き続き教育を受け,多様な生活体験・職業体験を行ったり,他者とのコミュニケーションを行ったりする中で生活や就職の基盤となる力を身に付け,成長したいと考える者もいる。

 しかしながら,現状において継続的な学びの場は少なく,卒業後すぐに就職したが,適応できずに早期に離職することになったり,自らの能力を十分に発揮する機会に必ずしも恵まれないまま過ごしたりする場合もあることなどが指摘されている。

 こうした中,昨今,障害福祉サービス等と連携して,学校卒業直後の一定期間,学びの機会を提供する例が見られる(※ 確認できた範囲では,平成30年度時点で41か所)。本人アンケート調査においては,メディア・学習拠点の活用経験と比較して今後のニーズが高いものとして「障害福祉サービス事業所等の講座,余暇活動」(+1.1ポイント)があり,特に,知的障害,発達障害(自閉症あり)のある者の「障害福祉サービス事業所等の講座,余暇活動」のニーズ(30.7%,32.6%)が,他の障害種と比較して突出して多くなっている。

 こうした状況も踏まえながら,国においては,学校から社会への移行期の学びに関する支援方策を立案する必要がある。

・学校教育段階からの将来を見据えた教育活動の充実
(学習指導要領を踏まえた取組の推進)

 特別支援学校小・中学部学習指導要領,特別支援学校高等部学習指導要領では,学校教育段階から将来を見据えた教育活動の充実を図る観点から,新たに,

・生涯学習への意欲を高めるとともに,社会教育その他,様々な学習機会に関する情報の提供に努めること

・生涯を通じてスポーツや文化芸術活動に親しみ,豊かな生活を営むことができるよう配慮すること

  が盛り込まれた。

 同解説では,「引き続き,特別支援学校の場においても,学校教育のみならず,社会教育,文化及びスポーツといった,就労や日常生活の時間とは異なる,生涯を通じて人々の心のつながりや相互に理解し合える活動の機会が提供されるような機能が総合的に発揮されるようにすることも大切」とされている。

 これらの内容も踏まえ,例えば,特別支援学校在学中から,生徒に対し,地域の社会教育施設等における学習機会に関する情報提供を行ったり,学校の休業日に生涯学習に関するプログラムに参加することを促進したりすることにより,学校段階から生涯学習への意欲の向上を図り,特別支援学校と卒業後の学びの継続・連携を図ることが重要である。

 その際,例えば,教育委員会が地域の社会教育施設等における学習機会に関する情報を整理して学校に提供することや,学校運営協議会等を活用しながら学校と地域が連携・協働し,学校や地域の実情に応じ,学校運営の方針や現状と課題を協議する中で地域の社会教育施設等における学習機会に関する情報を整理して互いに共有したり,卒業後の学びについてイメージできるよう,卒業生との交流機会を設けたり,卒業後の学びを支援する関係団体が外部講師として教育活動に参画したりすることも有効であると考えられる。

 特別支援学校の教員が,生涯学習への意欲を高める指導や,社会教育その他様々な学習機会に関する情報提供,生涯を通じて豊かな生活を営むことができるような配慮を適切に行うことができるよう,国において,特別支援学校高等部学習指導要領等における生涯学習に関する主な記載事項 について,教育委員会,特別支援学校向けに周知していくことが必要である。

(特別支援学校における卒業生のフォローアップ)

 現在,多くの特別支援学校においては,卒業生の様子(例:就職先での状況など)をフォローアップしたり,進路などの相談窓口になったりするなどの支援に取り組んでおり,国においても,「障害者の生涯を通じた多様な学習活動の充実について(依頼)」(平成29年4月7日文部科学省生涯学習政策局長・初等中等教育局長等通知)を発出し,障害のある生徒が学校卒業後,円滑に次のステージに進めるよう,こうした取組の充実を促しているところである。

 学校によっては,こうしたフォローアップの一環として,仕事への適応や上司・同僚とのコミュニケーション等の不安などに対応するため,卒業生の学びの場(例:職場報告会,生活設計・雇用制度・職場でのコミュニケーションの学習など)を提供している例も見られる。

 今後,特別支援学校等の教員,卒業後の学びを支える社会教育関係者の双方が,学校教育から卒業後における学びへの円滑な移行の重要性について理解を深めることが重要であり,各地域の(自立支援)協議会や,国が平成31年度予算により,全国5~6か所程度で実施しようとしている「共に学び,生きる共生社会コンファレンス 」(以下,「コンファレンス」という。)等の場において,教員と社会教育関係者の双方の参加を得た上で協議することも考えられる。

・移行期に求められる学習内容   

 本人アンケート調査においては,移行期(18~24歳)の学習経験としては,「余暇・レクリエーション活動」(40.5%)が最も高い結果となったが,今後の学習ニーズとしては,「社会生活に必要な知識・スキル(自立した生活のための学習)」(34.6%)が最も高く,「個人の生活に必要な知識・スキル(日常生活を向上させるための衣食住等の学習)」(31.0%)も高い結果となっている。また,学習した理由としては「様々な経験を通して成長するため」(59.3%)が最も高くなっている。

 学校から社会への移行期の学習内容としては,このことも踏まえつつ,例えば,  

・学校教育を通じて身に付けた資質・能力をさらに発展させるための学習  

・多様な生活体験,職業体験等を体系的に行う中で,主体性を持って物事に取り組みやり遂げる力,コミュニケーション能力や社会性などを伸ばし,その後就業し自立した生活を送る基礎力を身に付けるための学習

などの充実を図ることが重要と考えられる。

 学校卒業後における障害者の学びに関するプログラムは,各実施主体において,本人のニーズや障害の状態,特性,心身の発達の段階等も踏まえ策定するものであるが,国において,学校から社会への移行期における学習内容の例や,ライフステージにおいて生じる課題への対応に向けた学習内容の例を示すなど,各実施主体が学習プログラムを策定する上で一般的に留意すべき観点を整理して示すことは有効であると考えられる。  


<プログラム策定に当たって留意すべき観点例> ※主に知的障害者を想定

ア 学習の目標(育成を目指す資質・能力)

例:「自分で考え決定し行動する力」や「人や社会と関わる力」など

イ 特に重要と考えられる学習内容   

例:・学校教育を通じて身に付けた資質

     ・能力の維持・開発・伸長に関する活動 ・就業体験・職場実習

     ・多様な生活体験や社会体験

     ・性に関する学びや防犯教育

     ・教養,文化芸術,スポーツ

ウ 効果的と考えられる学習方法   

例:・自ら主体的・協働的に調べ・まとめ・発表する学習

     ・自分たちで学習や交流を企画する学習

・学校卒業後の組織的な継続教育の検討

 本有識者会議における検討を通じて,特別支援学校等の学校を卒業した後,一般企業での就労や障害福祉サービスの利用のほか,一定の場において学習を継続する選択肢が欲しいとの希望が障害者本人や支援者にあることが確認された。

 継続的な学習機会の確保に向けて,本有識者会議では,障害福祉サービスと連携した学びの場づくりと,大学における知的障害者等の学びの場づくりについて検討を行った。今後,国の行う「障害者の多様な学習活動を総合的に支援するための実践研究 」(以下,「実践研究」という。)の成果も踏まえながら,より具体的に検討を進める必要がある。

(障害福祉サービスと連携した学びの場づくり)

 学校卒業後に,生活や就労の基盤となる力を身に付けるための学習を継続して行いたい者の願いと,日常生活や社会生活を支援する障害福祉サービスの各事業の目的は共通する部分が多い。

 社会福祉法人,NPO法人等が自立訓練や就労移行支援,就労継続支援(A型・B型)等の障害福祉サービスを行う中で,実態として,学校卒業後の一定期間,重点的な学びの機会を提供している取組がある。このような取組の強みとしては,自由度の高いプログラム運営を行う中で,本人のニーズに寄り添いながら,障害福祉サービス等を効果的に活用して障害者への訓練や就職支援を行うほか,柔軟に学びの機会を提供できることがある。一方,課題として,学びの支援を行う専門職員の確保を含めて,取組内容が個々の団体の経験等によるところが大きく,障害福祉サービス等との効果的な連携のノウハウやプログラムが共有されていないことなどが挙げられる。

 このため,国は今後,30年度に行った地域生活支援事業における学びの実態把握に加え,他の障害福祉サービスの関係事業における学びに関する活動の実態を把握した上で,実践研究等も有効活用しつつ,障害福祉サービスとの連携を図った効果的な学びの場づくりを推進する必要がある。

(大学における知的障害者等の学びの場づくり)

 障害に関する国内法の整備や社会全体の障害に対する理解の浸透に伴い,大学における障害のある学生の在籍者数も近年増えており,修学支援の取組の充実が求められている。国においても,平成29年に「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)」において,障害者差別解消法で示された「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮」についての大学における基本的考え方や留意点等を示すなど,大学の取組の促進を図っている。

 障害のある学生の支援に係る関係機関の連携を強化し,個々の大学における受入れや修学支援の充実,修学・就職支援等に必要なノウハウの蓄積・開発・共有,就労移行の円滑化による社会進出の促進を図っていくことが重要である。

 そのうち,知的障害者については,平成30年度の特別支援学校高等部卒業後の進学率が0.5%であることや,高等部卒業後も教育機関において継続的に学びたいとする意見があることを踏まえ,対応を検討する必要がある。

 特別支援学校高等部卒業後における知的障害者等の学びについては,障害福祉サービスと連携して実施しているものや地域の社会教育施設における学習機会等があるが,大学における学びの場づくりも,本人のニーズを踏まえた対応の一つの有力な選択肢となりえる。我が国においては,知的障害者等の大学在籍者は少数であり,一部の大学において,一部の研究者を中心にオープンカレッジや公開講座を活用した多様な学びの機会を提供している例がある。

 諸外国の状況を見てみると,アメリカ,フランス,イギリス,ドイツ,中国,韓国等において,多様な形態で,知的障害者の大学での学びを提供してきている。単位や学位の取得を目指すものも一部あるが,多くは聴講生の形態で大学の講義を受講するものとなっている。また,知的障害者のみが受講する講義もあれば,知的障害者が一般の学生と共に受講する講義もある。

 大学においては,諸外国の状況も参考にしながら,その自主的な判断により,公開講座等の機会の提供など,多様な学びの機会を提供することが考えられる。国においては,知的障害者等の学びの場を継続的につくるためにはどのような準備が必要となるのか,知的障害者等の学びの場を大学に設けることで大学にどのようなメリットがあるのか,社会的な効果としてどのようなことが考えられるか,といった観点から,実践的な研究を行うことが求められる。

(2)各ライフステージにおいて求められる学び 〈視点2〉  

 障害者が社会生活を送る上で様々な課題に直面し,一旦就職しても職場になじめず早期に離職する場合もあり,生涯の各ライフステージにおいて生じる様々な課題や障害者本人の困り事の解決に向けた学習の場や,地域で仲間と過ごせる交流の場,職業的な学びを行うリカレント教育の機会 が求められている。

 これまでも,公民館や特別支援学校,大学等において障害者の生涯学習の場づくりに取り組む例はあるものの,障害者にとっては,休日等に地域での学習活動に参加するなどの機会が少なく,選択肢も十分でない状況にある。現に,実態調査の結果では,学校卒業後の障害者が生涯学習活動として取り組める事業・プログラムについて,特に市町村等における取組は低調な状況にある。

 本人アンケート調査においては,生涯学習の経験者は全年代を通じて「様々な経験を通して,成長するため」(45.8%),「暮らしの中で生じる課題の解決を図るため」(39.4%),「健康の維持・増進のため」(38.0%)に学習する者が多くなっている。また,「現在の,または当時就いていた仕事において必要性を感じたため」との回答も28.6%となっている。55歳以上の「オールドアダルト」では「健康維持・増進のため」(49.4%)学習を実施している者が特に多くなっている。

 これらを踏まえ,「就労の場」や「生活の場」だけでなく,仲間と共に新しいことを学んだり,スポーツや文化芸術活動に親しんだりするほか,職業生活に関わる学習を行うなど,生涯の各ライフステージを通じて,就労や生活を支える「学びの場」づくりを推進する必要がある。

・各ライフステージで求められる学習内容

 生涯のライフステージで求められる学びの機会充実に取り組むに当たり,重要な視点として,親からの自立を見据えることが挙げられる。どのような障害があっても,必要な支援を得ながら,地域において自立して生活できるようになることを見据えて,学びの場づくりを推進していく必要がある。

 また,地方公共団体等実態調査の結果では,都道府県,市町村,特別支援学校いずれにおいても,今後提供したい事業・学習プログラムとして,「社会生活,職業に必要な知識・スキル(資格や免許に関すること,社会保険(年金・保険等)や住民福祉サービス,コミュニケーション,ストレスマネジメント等)」が高い割合となっている実態も踏まえつつ,国においてプログラム開発の支援を進めることが求められる。

<プログラム策定に当たっての留意すべき観点例> ※主に知的障害者を想定

ア ライフステージの考え方   

例:青年期・成人期・高齢期などの生活年齢に基づく一般的な区分のほか,個人の障害の状態や特性,環境因子が影響する生活機能の状態を考慮

イ 学習の目標(育成を目指す資質・能力)

例:各ライフステージにおける課題に対応するための力として,「自分で考え決定し行動する力」や「人や社会と関わる力」 など

ウ 重要と考えられる学習内容   

例:「個人の生活」「社会生活」「職業」の各々に必要な知識・スキルや,スポーツ,文化芸術,教養に関することなど

※ その際,多様な学習内容が想定されるため,一定の類型(例:「知識や経験を広げる学習」「自立生活に関する学習」「就労に向けた学習」「コミュニケーションを豊かにする学習」など)に即して整理することも検討

エ 効果的と考えられる学習方法

例:・日常生活に根差した生活課題を取り上げて学ぶ学習   

     ・講義だけでなく,学習者による活動や発表等も組み込んだ,主体的・協働的な学習

     ・仲間や多様な人々との交流学習 ・資格取得に向けた学習 など

 学習プログラム策定に当たっては,<視点1>の学校から社会への移行期の学び,<視点2>の各ライフステージにおいて求められる学びに共通して,以下のような点に留意すべきと考えられる。

・本人が学びたいことを起点としたプログラム構成としていくことが重要である。本人の興味・関心を喚起する内容とすることで主体性が引き出され,本人の決定に基づく,社会の様々な活動への主体的な参画を行うための基盤を形成することが期待される。

・本人が自らの成長を確認しながら進めることができるようなプログラム構成とすることが望ましい。

・障害の状態や特性,心身の発達段階,地域ごとの課題に対応して内容を組み立てられるような構成とするのが望ましい。支援者が一方的に作りこみすぎないようにすることも重要である。

・学習効果の把握による学習内容や方法の改善方策等についても留意すべきである。学習効果の把握においては,学習の目標として掲げた内容に関する効果以外の,周辺に生じる変化についても把握することが望ましい。

・一定の学習プログラムを修了したら修了証を授与するなど,次のステージに進むことができるような構成とすることが望ましい。

・スポーツや文化芸術活動においては,それらの活動を通じた人格形成の機能が十分に発揮されるよう,活動のプロセスを丁寧に支援していくことが望ましい。

・多様な実施主体による多様な学びの機会提供の促進

 各ライフステージにおいて求められる学びの機会の充実に向けて,多様な学びの場の整備に取り組む必要がある。障害者の学びの機会をどのような方法で提供していくかについては,各分野の垣根を越えて社会全体として受け止めるとともに,地域ごとに直面する課題や学習機会を提供できる主体も異なることにも留意しながら対応する必要がある。また,持続可能性確保の観点からは,地域の多様な主体による学習機会の提供が行われることが望ましく,多様な主体間の相互の連携も重要である。

(公民館等の社会教育施設や生涯学習センターにおける講座等)

 本人アンケート調査において,学習経験と比較して今後のニーズが高いものとして,「公民館や生涯学習センターなど公的な機関における講座や教室」がある。

 社会教育施設等における講座等を場とした学びについては,社会教育主事等や社会教育施設という人材と場がある中で,地方公共団体による継続的な学びの場が提供できることがメリットとして挙げられる。

 一方,課題としては,公民館や生涯学習センター等で行われている障害者青年学級での学習を希望する障害者数が増加する一方,障害の多様化や参加者の高齢化が進むとともに,スタッフ,ボランティアが不足していることなどがあり,本人の自主的な活動の促進や,人材の育成・確保が必要である。

 また,社会教育主事等をはじめとした関係者のノウハウ等が必ずしも十分でないことを踏まえ,障害者の生涯学習に関する理解を促進し,専門的知見を有する関係機関・団体等との連携も図りながら,学びの場をつくることも求められる。

(特別支援学校の同窓会組織等が主催する学びの場)

 特別支援学校の同窓会組織等が主催する学びの場においては,母校である特別支援学校の施設設備やノウハウ,人的ネットワーク等を有効活用することができる。

 卒業生の主体的な学びへの参画の促進を図ることや,地域の企業や地域住民などの協力を得て継続的に取り組むことができるようにすることが肝要であり,そうした者がスタッフとして組織的に参加できる仕組みづくりが重要である。また,教員が関与する場合,勤務形態を含めた教員の働き方への配慮が必要である。

(大学のオープンカレッジや公開講座)

 大学を場としてオープンカレッジや公開講座を行うことで,本人がモチベーションを高く持って参加することができること,大学の研究機能を活用し,研究成果を広く情報発信することができるといったことが期待される。

 一方,担当教員任せでは持続が困難であるとの意見もあることから,大学としての組織的・継続的な取組としていくことが期待される。

(社会福祉法人,NPO法人等における,障害福祉サービス等と連携した学びの場)

 本人アンケート調査において,日中の活動状況について「障害者のための通所サービスを利用している」(11.4%)と回答した者が比較的多くなっており,中でも,知的障害(40.3%),発達障害(自閉症あり)(23.8%)において高くなっている。

 このことも踏まえ,自立訓練や就労移行支援,就労継続支援(A型・B型),地域生活支援事業等の障害福祉サービス等との連携の効果的な促進に向け,先進的な事例も踏まえつつ,連携可能な事業のメニューや,連携に当たっての留意点などを具体的に提示することも考えられる。

 また,学齢期の放課後の学習については,放課後等デイサービスを実施する中で障害のある児童生徒の学習が行われていたり,放課後児童クラブや放課後子供教室において障害の有無にかかわらず共に学ぶ取組が行われていたりする実態も踏まえ,障害福祉サービス等と連携した放課後の学習に関する優れた実践事例の研究を行うことも期待される。

(3)障害の特性を踏まえ特に考慮すべき事項

 学校卒業後における障害者の学びの場づくりを行うに当たり,一人一人のニーズや特性に寄り添いながら学びの場づくりを行っていくことが求められる。

 ここまでは特に知的障害者を主に想定した学びの場づくりについて述べてきたが,障害者の生涯学習を推進するに当たっては,障害種ごとにその特性を踏まえた配慮が必要となる。

(視覚障害者の学び)

 視覚障害者の学校卒業後の活動状況は,社会参加が実現している者もいればそうでない者もいる状況であり,前者の多くは視覚障害のみ,後者は主に視覚障害と他の障害が重複している状況にあって,施設入所や在宅等の場合が多いとの指摘がある。特に後者の場合にあっても学びへの参画が進むよう,本人のニーズを踏まえた学びの場づくりが望まれる。

 視覚障害者が利用しやすい形態で提供されている,点字図書,大活字本,録音図書や電子書籍はいまだ少ない状況にあり,国や地方公共団体においては,視覚障害者の読書環境の整備を推進する必要がある。

 視覚障害者については,先天性か中途失明かによっても学びに関するニーズが異なることがある。個のニーズを踏まえるとともに,障害の有無にかかわらず共に学ぶ場の充実に向けた環境整備を行うことが求められる。

(聴覚障害者の学び)

 聴覚障害者には,音声が小さくなって聞こえる伝音性難聴(補聴器装用の効果が得られやすい)と音声がゆがんで聞こえる感音性難聴(補聴器装用の効果に個人差がある),そのいずれをも併せ持つ混合性難聴があり,それぞれの聞こえ方の違いを踏まえた支援が求められている。

 聴覚障害全体に共通して求められる学習プログラムとしては,各自が直面する障壁や必要な配慮について意思表明する方法を学ぶプログラム,主体的に学ぶ機会の確保や拡充につながるICTの利活用に関する学習プログラムの提供等が挙げられる。

 また,先天性の聴覚障害者については,日本語(読み書き)と意思疎通の方法等に関するプログラムが,中途失聴者については,聴覚障害などに関わる社会資源(福祉サービス等)やコミュニケーション等を学ぶプログラムが求められており,そうした状況も踏まえた学習プログラムの開発が期待される。

(肢体不自由者の学び)

 肢体不自由者については,身体の動きの困難により,移動手段の確保や環境の整備状況により,様々な社会的体験をする機会が少ない状況や健康の維持・増進に向けて取り組むことが少ない状況があり,本人が自ら他者と関わり体験することによる学びを推進することが望まれている。   

 肢体不自由者の学びについては,障害の有無にかかわらず社会の中で共に学ぶことができるような環境の整備を行うことが肝要であり,学びの場に参画する際に必要となる支援が適切に提供されるようにしていくことが重要である。さらには,外出せずに自宅でできる学習の推進なども重要な課題である。

(難病患者等の学び)   

 難病患者等 が地域で尊厳を持って生きることのできる環境づくりが必要である。そのためには,難病患者等自身が自分の病気について正しく知り,病気に立ち向かう心を持てるようにすることや,同じ病気を持つ患者同士の交流や意見交換の場を設けること,さらには,地域における難病患者等への理解を広めることが求められている。また,自分の病状やできないこと,手伝ってほしいことを周囲の人たちに伝え理解を得る力を育むことも重要である。こうしたことを念頭に置き,難病患者等が必要な支援を得ながら地域で学ぶことができるよう,取組を進める必要がある。   

 なお,先述の医療的ケア児への支援の在り方は,難病患者等の卒業後の学びの場づくりにおいても同様に参考になるものであると考えられる。

(精神障害者の学び)

 精神障害者の学びの場として,本人や経験者がピアサポーターとして関わりながら,精神疾患に関する経験や今困っていること,考えていることなどについて学習者間で共有し,交流するようなプログラムがある。そうしたプロセスが,自らの特性を理解し,夢や希望を持って生活する力を身に付けることや,社会への復帰(リカバリー)に向けた意欲を喚起することにつながる。

 イギリスの国民保健サービスの一つであるリカバリーカレッジは,治療的アプローチではなく主体的に学ぶことでリカバリーを目指す実践であり,(1)本人と支援者が共に企画・実施している,(2)参加者が自分の能力・強みに気づき活用できるよう支援している,といった特徴を持つ。リカバリーや生活満足度の向上,カレッジへの参加後は入院等の医療サービス利用の減少による医療費削減等の効果があったとする研究がある 。こうした実践も踏まえ,精神障害者のリカバリーを目指す学びの場づくりが求められる。

(発達障害者の学び)

 発達障害者の学びについては,自分らしく社会に参加するために,その基盤となる力を養うことが重要である。具体的には,自分や社会のことを知ること,それにより自分らしさを獲得していくこと,自分で回復する力を身に付けること,自分に合った就労のスタイルを見つけることなどが重要である。また,人生を豊かにする活動を行うことで,対人交流や社会参加のモチベーションの向上を図ることも重要である。その際,興味や意欲を喚起する内容をテーマとして取り上げることや,ありのままの自分を,多様な方法で自己表現する経験をすること,自分のペースで社会に参加すれば良いことを理解することなどに留意する必要がある。

 そうした活動を行う上で,感覚や思考,経験,特性が類似するピアサポーターがいることで,本人と一緒の活動やサポートがしやすくなるため,ピアサポーターの確保が有効である。多様な生き方が肯定され,自分に合ったロールモデルと出会うことができるような学びの場づくりが求められる。

(重度・重複障害者の学び)

 東京都重症心身障害児(者)を守る会の各分会の協力を得て,地域ケアさぽーと研究所が実施した調査(平成28年)によれば,重度・重複障害者の生涯学習ニーズとして,音楽を楽しむことや健康・体づくり,アロマセラピー,読書活動等が挙げられた。重度・重複障害者が,学校卒業後も生活年数を重ねることで感情の表現なども豊かに成長することに鑑みると,ICTを活用した意思伝達,意思表示装置を使用した学習や,タブレット端末を活用した音楽に関する学習,身体活動等に関するプログラム開発を行っていくことも重要と考えられる。

 学校における医療的ケアについては,医師や看護師と連携した校内支援体制を構築するとともに,医療的ケア実施マニュアル等を作成するなど,医療的ケア実施体制の充実が図られている。また,医療的ケア児の生活の向上を図るため,福祉の事業所等における医療的ケア児の受入れ促進や,医療的ケア児等に対する支援が適切に行える人材の養成,支援に携わる保健,医療,福祉,教育等の関係機関等の連携体制の構築が進められている。こうした取組も参考にしながら,卒業後の学習支援方策について検討することが重要である。

 視覚障害と聴覚障害が併発した盲ろう者についても,そのニーズ・課題を踏まえたプログラム開発が必要である。日本の推定手帳交付盲ろう者数は14,000人強 であると言われているが,盲ろう者に対して効果的な教育や職業訓練等が確立されておらず,盲ろう者の社会参加は極めて厳しい状況にある。盲ろう者は学校卒業後,地域の盲ろう者団体主体の学習会等に参加する場合もあるが,学びの場は都市部が中心である等,活動自体が極めて限られている状況にある。

 重度・重複障害者にとっての学習は,人や社会とのつながりを持つ上でも大変重要なものである。本人や保護者,支援者には,学校に就学している間にできていた学習や周りの人との交流を卒業後も継続したいとの希望が極めて強いことも念頭に置いて,学びの場づくりを進める必要がある。

 このほか,本有識者会議においては,在宅での学習活動に係る意見もあったことから,文部科学省においては,関係省庁との連携も図りながら,在宅での生涯学習の機会を設ける取組について,障害者にとっても学びやすい遠隔学習の在り方も含めて,優れた実践事例から研究を進める必要がある。

2.障害の有無にかかわらず共に学ぶ場づくり

 共生社会の実現に向けて,障害の有無にかかわらず,共に交流し学び合う環境を整備することが重要である。

 障害者権利条約では,障害者が差別なしに,かつ,他の者との平等を基礎として,生涯学習を享受することや,合理的配慮が障害者に提供されることを確保することなどが盛り込まれている。

 国内法としては,教育基本法第3条(生涯学習の理念),第4条(教育の機会均等),第12条(社会教育)の規定のほか,障害者基本法第3条では,「すべて障害者は,社会を構成する一員として社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること」等の内容が盛り込まれている。

 また,障害者差別解消法では,国・地方公共団体等や事業者における不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供など,差別解消のための措置等が盛り込まれている。これらを受け,学校段階での差別解消のための取組は進展しつつあるが,生涯学習分野での取組は十分に進んでおらず,今後の課題となっている。

 生涯学習の分野においては,学びの場における施設・設備面における環境のバリア,学習機会の提供主体等の「障害」に対する理解や合理的配慮に関する知識の不十分さによる意識のバリア,学びの場にたどり着くまでの情報や学習に参加した際の情報保障の不十分さによる情報のバリアが存在し,本人や保護者は,周囲に理解し受容してもらえるか不安感を抱えていることが指摘されている。これらに加え,学習機会の提供主体の運営費が,補助金や助成金等の外部の資金により賄われることが多く安定的な財源がないこと,参加する本人の所得が必ずしも高くなく,様々な機会への参加が困難であることといった,経済のバリアについても指摘されている。

 これらを踏まえ,障害の有無にかかわらず共に学ぶ場づくりに向けて,生涯学習分野における「環境」,「意識」,「情報」など様々な面でのバリア を解消していくことが必要である。

(1)生涯学習分野における合理的配慮の推進

 学校段階だけでなく卒業後においても,障害の有無にかかわらず交流する機会や,共に学ぶ機会を広く整備していくことが必要である。

 合理的配慮は,一人一人の障害の状態や必要な支援,活動内容等に応じて決定されるものであり,本人・保護者とよく相談し,可能な限り合意形成を図った上で決定し,提供されるものである。「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(平成27年11月。以下「対応方針」という。)等も踏まえ,学習プログラムの提供主体が不当な差別的取扱いをせず,合理的配慮を行うよう,国は,生涯学習の場における物理的環境,人的支援,意思疎通(筆談,要約筆記,読み上げ,手話,点字等)などの考え方も含め,合理的配慮の在り方等について,調査研究等を通じて明らかにすることが求められる。その際,各障害の特性やニーズにも留意し,障害の有無に関係なく学べるような「学びのユニバーサルデザイン」を目指すべきである。

 地方公共団体においては,その主催する講座の内容を合理的配慮の観点から見直し,可能な限り障害の有無にかかわらず共に学ぶ場としていくことが望ましい。

 また,支援者側の配慮と同時に,本人も能動的に「自己選択」,「自己決定」ができるよう,学校在学中から,自ら能動的に関わるスキルの習得に向けて,丁寧に指導していくことも必要である。

(2)多様な形態の「共に学ぶ場づくり」
(フォーラム等の開催)

 文部科学省が平成30年度に実施した「超福祉の学校 ~障害をこえてともに学び,つくる共生社会フォーラム~」は,障害者本人による表現や学びの成果発表等を通じて,支援者や関係者の学び合いを促進するとともに,関心の薄い層も広く巻き込み,共生社会の実現に向けて共に学ぶ場として,有意義な成果を収めた。

 今後も,スペシャルサポート大使 の協力も得ながら,障害の有無にかかわらず共に学ぶ場づくりの一環として,また,共生社会の実現に向けた啓発の観点からも,本人が企画に関与するこのようなフォーラムを継続していくことが重要である。その際,関係省庁との連携を図るとともに,メディア等の協力も得て,本人,支援者,地方公共団体,関係機関・団体等に広く周知し,取組の効果が十分に共有されるようにすることが求められる。

(カフェ等の取組)

 近年,社会教育施設や福祉施設等の中に,障害者が働く喫茶(カフェ)が増加してきており,全国600か所以上存在すると言われている 。こうしたカフェのように,障害者の就労の場の中には,住民が交流し学び合う場としても機能する可能性のあるものがあり,障害の有無にかかわらず共に学び活動する場としてこのような取組を推進することも有意義であると考えられる。

 また,サービス付き高齢者向け住宅や障害児入所施設,訪問介護施設などのほか,天然温泉やキッチンスタジオなど周辺地域から人を呼び寄せる多様な施設を「ごちゃまぜ」をコンセプトに集積し,高齢者や障害者が住みやすいだけでなく,地域の人々と自然な形で交流する町づくりを行う取組 がある。多様な人が関わり合うことは,相互に支え合いながらそれぞれの立場から地域社会に参画することを実現する前提となるものである。こうした取組について,共生地域のモデルとして普及していくことも有効であると考えられる。

(障害者スポーツの推進)

 スポーツの分野では,障害者が身近にスポーツに親しめる環境を整備することにより,スポーツを通じた共生社会の実現を目指している。その中でも,障害のある人とない人が一緒に親しめるスポーツ・レクリエーションの推進の観点から,ボッチャ競技のように障害の有無にかかわらず共に競技できるスポーツを推進することは有益である。また,「スペシャルオリンピックス日本」が行っているユニファイドスポーツ® のように障害のある人,ない人との交流やお互いを理解し合うような取組を促進することも有効と考えられる。

(障害者による文化芸術活動の推進)  

 近年,障害者による文化芸術活動に注目が集まっており,日常的に文化芸術活動に親しむものから,文化芸術活動による国際的な交流を行うものまで,多様な事例が見られるようになっている。

 平成30年6月には,文化芸術活動を通じた障害者の個性と能力の発揮及び社会参加の促進を図ることを目的として,「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が公布,施行された。当該法律においては,「国民が障害の有無にかかわらず,文化芸術を鑑賞し,これに参加し,又はこれを創造することができる」ようにすること,「障害者による芸術上価値が高い作品等の創造に対する支援を強化すること」,「地域において,障害者が創造する文化芸術の作品等の発表,障害者による文化芸術活動を通じた交流等を促進すること」などが基本理念として掲げられている。

 障害者の生涯学習推進の観点からも,文化芸術活動の一層の推進が求められる。

(3)多様な社会参加の在り方の提示   

 障害者の社会参加には,企業等での一般就労以外にも,ピアサポーターとして同様の障害に困難を感じる者に対する支援を行うことや,障害者と共に調査や研究を行うインクルーシブリサーチの取組を通じてものづくりやまちづくり等に協働的に参画することなど,多様な形がある。自分の得意なことを生かしながら,希望に応じて,多様な形態で社会参加ができることを,あらゆる場を通じて発信するとともに,そのために必要な場づくりを進めていくことが重要である。

3.障害に関する理解促進  

 障害に関する社会全体の意識向上は,政府をあげて取り組む必要のある課題であり,文部科学省においては,生涯学習,教育,スポーツ,文化芸術の振興を図る中で,障害に関する理解促進を図る必要がある。障害に関する理解促進を図る上では,一般的知識や理解にとどまらず,障害者一人一人を個性のある人として理解し,尊重する態度を養うことが重要である。

(1)学校教育段階における障害に関する理解促進

 学校教育においては,障害の有無にかかわらず可能な限り共に教育を受けられるような条件整備を進めるとともに,個々の児童生徒の教育的ニーズに最も的確に応える指導ができる教育システムの整備を推進している。障害の有無に関わらず共に学ぶことにより,同じ社会に生きる人間として,互いに正しく理解し,共に助け合い,支え合って生きていくことの大切さを学ぶことができると考えられる。

 学校教育段階からの障害に関する理解を促進する上で,学校,教育委員会が中心となって「心のバリアフリー学習 」を推進することも重要である。子供たちが多様性を受け入れ,互いに協働する力を身に付けることができるよう,小・中学校等や特別支援学校の学習指導要領においては,交流及び共同学習の機会を設けることなどを規定している。

 平成30年2月には,文部科学省の「心のバリアフリー学習推進会議」において,「学校における交流及び共同学習の推進について」として,学校における教育を展開するための具体的施策についてまとめられた。これに基づき,文部科学省においては,心のバリアフリーに関する事業の実施,「交流及び共同学習ガイド」の改訂等を行うこととしている。また,「心のバリアフリー」に関する理解を深めるため,様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり,支え合うことを自分ごととして受け止め,活きて働く知識や経験とするための「心のバリアフリーノート」を作成することが予定されている。こうした取組を通じて,豊かな人間性を育むとともに,お互いを尊重し合う大切さを学ぶ機会の充実を一層図っていくことが重要である。

(2)多様な主体と連携した社会における障害理解の促進   

 障害者の学びの推進を図るに当たっては,学びを最も身近で支える行政機関である地方公共団体(障害者学習支援担当)職員の障害に関する理解を深める必要がある。このために,地方公共団体(障害者学習支援担当)職員向けの普及啓発資料の作成や当該職員向けの人材育成研修の継続的な実施などが重要である。   

 あわせて,地域における障害及び障害者への理解を深められるよう,障害者学習支援担当が障害福祉担当等とも連携を図りながら,生涯学習・社会教育関係者や住民等に対して普及啓発を図ることが望まれる。

 その際,全国各地にある,「住民主体の理念に基づき,地域の福祉課題の解決に取り組み,誰もが安心して暮らすことのできる地域福祉の実現を目指す(新・社会福祉協議会基本要項)」社会福祉協議会 (以下,「社協」という。)と連携・協働を図ることが望ましい。全国各地の社協では,ボランティア・市民活動センターを設置し,ボランティア活動の希望者への情報提供,ボランティアグループやNPOによる活動の支援などを行っている。また,各地域に根差した形で地域福祉の推進を図っている。行政機関が社協と連携・協働を図ることで,地域福祉の担い手のネットワークを生かした,地域に根差した有効な啓発とすることが期待できる。

 また,市町村の社協においては,学齢段階から幼少者・高齢者・障害者等との交流体験などの福祉体験活動を中心としたボランティア活動を進めることで,子供たちが様々な人々を自然に受け入れ,交流できる態度や福祉への関心を育む福祉教育・ボランティア学習を展開している。さらに,最近は小・中学校や高校などと協力して地域の福祉課題について子供が自ら気づき,主体的なかかわり方を考える「サービスラーニング」(社会活動を通して市民性を育む学習)の手法を取り入れた活動などにも取り組んでいる。地方公共団体においては,障害者学習支援担当を中心に,こうした取組とも連動させながら,地域における障害に関する理解促進を図ることが望まれる。

 国においては,地方公共団体等における障害に関する理解促進を図る取組が推進されるよう,障害理解教育等のプログラムについて関係機関・団体等とも連携・調整の上で,全国への普及を図ることが求められる。

 また,国の開催するコンファレンス等においても,共生社会の実現に向け,障害の有無にかかわらず共に学ぶとはどのようなことなのかなどについて,各地で関係者が考えを深め,情報共有や意見交換をすることが期待される。

4.障害者の学びを推進するための基盤の整備

(1)地方公共団体における実施体制・連携体制の構築   

 障害者の生涯学習を推進していく上で,学びを最も身近で支える行政機関である地方公共団体の果たす役割が大変重要である。

 地方公共団体等実態調査では,障害者の生涯学習活動に関する組織が「ある」との回答は,都道府県が5.7%,市町村が4.1%であり,都道府県,市町村いずれにおいても,体制の整備が必要である。

 また,都道府県においては生涯学習課や特別支援教育課などが,市町村においては学校教育課などが,障害者学習支援担当となっている場合が多いが,学校卒業後の障害者の学びは,生涯学習だけでなく,教育,スポーツ,文化芸術,福祉,労働等の分野と密接に関わりながら展開されることから,担当部局が単独で域内の情報収集をし,提供するのは困難であり,庁内連携が不可欠である。

 同時に,スポーツ,文化芸術,福祉,労働等の担当部局において,各分野の活動に学びの観点を導入することで,各分野の活動の充実につながることについて,理解を深めることも重要である。  

 さらに,学校卒業後の障害者の学びの場づくりは,社会福祉法人やNPO法人,企業等,障害者支援に関わる民間団体において幅広く行われている実態に鑑みると,地方公共団体と外部の関係機関・団体等との連携も重要である。

 多様な関係者との連携の場として,障害者本人や家族,福祉,医療,教育等の関係者により構成され,地域支援体制づくりに重要な役割を果たす(自立支援)協議会に社会教育をはじめとした関係者も参加し,学校卒業後における障害者の学びの場の整備・拡充や情報共有の仕組み等について協議することは有効であると考えられる。その際,地域ごとに課題や,学びの場づくりを進める中核的な人材,学習機会の提供主体等が多様であることを踏まえ,地域に合った形で柔軟に,規模やメンバー等の構成を検討することも重要である。そのほか,地方公共団体において,関係者が連携する仕組みとして,総合教育会議を活用することや,新たに連絡協議会,コンソーシアムの設置を行い,関係機関・団体と協議する場を設けることも考えられる。

 こうした地方公共団体における対応については,「障害者芸術文化活動普及支援事業 」とも連動させていく必要がある。当該事業においては,都道府県が「障害者芸術文化活動支援センター」を設置し,事業所等に対する相談支援,芸術文化活動を支援する人材の育成,関係者のネットワークづくり,発表等の機会の創出などを行っており,こうした動きとの連動を図ることで,地方公共団体の対応の強化を図ることが期待される。

(2)障害者の生涯学習推進を担う人材の育成・確保  

 障害者の生涯学習を着実に推進していくためには,地方公共団体の職員が,障害者の生涯学習推進に関する基本的な考え方や先進事例について学び,理解し,必要な専門性を身に付けることが重要である。都道府県の障害者学習支援担当においては,庁内の福祉・労働・スポーツ・文化芸術等の関係部局と連携し,国における動向等も踏まえた上で,市町村の担当者を対象とした人材育成研修を行っていくことが求められる。

 特別支援教育や障害者福祉等の専門的知見を有するコーディネーターが「いる」と回答した地方公共団体は,都道府県で2.9%,市町村で4.2%にとどまっている状況であり,障害者の生涯学習を地域で総合的に充実していくためには,社会教育や特別支援教育,障害者福祉等における取組をつなぎ,学びの場づくりを進める中核的な人材を育成する必要がある。

 このような中核を担う人材には,社会教育や特別支援教育,障害者福祉の各分野の制度や仕組み,人的リソース等を理解し,地域の実情に即して,実際に障害者の学びの場をつくることや,既にある学習機会につなげること等が求められ,社会教育関係職員のほか,障害者理解等に関する専門性の高い特別支援学校等の教員経験者や障害者福祉の関係者などがその候補として期待される。国においては,このような人材について,(1)期待される役割,(2)育成の過程で身に付けるべき専門性等,(3)どのような者が適切か等の観点から,研究を行うことが期待される。その際,平成30年度より実施している実践研究事業の研究成果や課題も十分に踏まえる必要がある。

 また,コンファレンスにおいて,各地で障害者の学びの推進に携わっている地方公共団体や民間団体の実践者同士が集まり,このような人材の育成・確保に向け,相互の情報共有や実践交流を進めることも有意義と考えられる。

 社会教育主事等には地域における取組への参画が期待されるため,大学等で開設される社会教育に関する科目や社会教育主事講習,さらには現職研修の機会を捉えて,「障害者の生涯学習支援」に関する内容を積極的に取り入れるなど専門性の向上を図ることも重要である。さらに,今後,社会教育士の制度も有効活用し,例えば,特別支援学校等の教員経験者や障害者福祉の関係者等の,社会教育主事講習等の受講機会を充実させていくことについても検討を進める必要がある。

(3)幅広い人々の参画を得た障害者の学びの推進

 大学の公開講座として障害のある社会人を中心とした学びの場を展開する中で,特別支援教育に携わることを希望する学生が運営に参画している取組がある 。特別支援学校の教員志望の学生をはじめとした学生がこのような学びの場の運営や活動支援のスタッフとして関わることは,学生にとって障害者と関わる機会となるほか,運営側が継続的な取組とする上で欠かせない,若い世代のボランティアの確保にもつながるものである。このような,双方にとってメリットのある形で,多様な人の参画を得ていくことも重要である。

 地方公共団体等実態調査では,「生涯学習活動に係る講師及び指導者の確保・養成」を優先的な課題として挙げた市町村は55.3%に上っており,特に市町村での指導者を育成・確保していくことが急務である。講師や指導者の候補としては,特別支援学校等の教員経験者に加え,スポーツや文化芸術分野,他分野の専門家(例:アーティスト,IT関係者等)の協力を得ていくことも考えられるところであり,これらの多様な者の参画により,教育や福祉,医療関係者が思いつかない視点や,実施しきれないような豊かな広がりと深まりをもった学習を提供することにもつながることが期待される。

(4)本人のニーズを踏まえた,学びに関する相談支援体制づくり

 障害者の学習機会の整備に向けては,学習プログラムの充実を図るだけでなく,本人・家族のニーズの把握や相談への対応,多様な実施主体による学習活動の情報収集・提供を切れ目なく行うためのシステムづくりを進める必要がある。

 その際,障害者学習支援担当が,障害者総合支援法に基づき地域における相談支援の拠点として設置された基幹相談支援センターや,障害者雇用促進法に基づき,障害者の就業と生活に関する一体的な相談・支援を行っている障害者就業・生活支援センター等と連携し,学びに関する相談支援体制を充実するなど,教育と福祉や労働等の機能との連携強化による取組を進める必要がある。

 また,特別支援教育を受けている児童生徒については,在学中は学校において個別の教育支援計画 が作成される。卒業後も生涯にわたる学習支援がなされるよう,個人情報保護の観点に留意しつつ,個別の教育支援計画を進路先の企業や福祉施設等へ適切に引き継ぎ,活用していくことも重要である。教育委員会が作成する個別の教育支援計画の様式例に「余暇・地域生活」等の形で項目が示されている場合があるが,その中に「生涯学習」という項目を位置付けるよう,国から教育委員会に対して周知していくことが望まれる。このことにより,教員,保護者,本人が生涯学習に対する関心・意欲を高め,地域における生涯学習につなげていくことが期待される。

 さらに,平成30年度の障害福祉サービス等報酬改定にあわせ,障害児相談支援については,質の高い支援の実施や専門性の高い相談支援体制等を評価する加算の創設を行い,その中で,サービス利用支援等の実施時に相談支援を担当する職員が教育機関等の職員と面談等を行い,必要な情報提供を受け協議等を行った上でサービス等利用計画等を作成した場合に,加算が行われることとなった。このことも契機として,在学中から教員が福祉の相談支援に携わる職員との連携を強化し,サービス等利用計画作成などの障害福祉サービスの利用の流れについて,教員や本人・保護者等の理解を深めていくことなども期待される。

(5)企業等の民間団体と連携した,学びに関する環境整備

 障害者本人のアンケート調査において,今後どこで学習活動をしたいと思うか,との問いに対し,「職場の教育,研修」との回答が14.5%となった。このことも踏まえ,障害者の学びを持続可能なものとしていく観点からも,企業と連携して障害者の学びの場づくりに取り組むことも考えられる。

 企業においては,「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある(Diversity and Inclusion)社会の実現のため,2030年を年限とする17の国際目標として定められたSDGsと関連付けたミッションの設定なども行われてきている。その中で企業が社会貢献活動として障害者支援を行う取組を超え,本業を通して企業自体の利益を高めながらいかに社会課題を解決していくか,という観点からの取組も進みつつある。

 企業にとって,障害者を社員として受け入れ,共に働くことは,障害者が自らの特性を発揮して働くことにより企業に経済的な価値をもたらす側面だけでなく,社員のマネジメント能力やコミュニケーション能力の向上の面でも意義がある。また,障害者が求める学びに関するプログラムの開発・提供を行ったり,学びの場づくりを支援したりすることは,その存在を社会に対して示し,企業価値を高めることにもつながる。障害者と企業の双方にとってメリットとなるような形で,障害者の生涯学習の推進に企業が関わることが期待される。

 このほか,社会福祉法人やNPO法人なども含めた様々な団体や法人が協力して,障害者の生涯を通じた学びに関する社会環境整備を行っていくため,コンファレンスなども契機として,各地における関係者のネットワークづくりや実践の拡大といった環境整備を進めることが重要である。

第4章 障害者の生涯学習推進に向けて早急に実施すべき取組   

 国においては,本報告において提言した内容を踏まえ,障害者の生涯学習を総合的に推進していくことが求められる。幅広く提言した内容のうち,特に,早急な取組が求められる事項について以下に示す。

1.国に求められる取組

(障害者の学びの場づくりに関するモデル開発・普及)

 これまで,学校卒業後における障害者の支援は主に福祉,労働政策の中で行われてきた。地方公共団体等実態調査においては,都道府県の90.0%が障害者の生涯学習活動の推進に関する国からの支援を「必要」と回答し,その内容としては「好事例・先進事例の紹介(取組のモデルやプログラムを含む)」が最も多かったことを踏まえると,今後,障害者の生涯を通じた学びを支援していく上で,国において,障害者の学びの場づくりに関するモデル開発を行い,全国に普及していくことが求められる。特に福祉との連携を図った学びの場の在り方については,今後,国において福祉事業の中で行われている学習活動に関する実態把握を行った上で,福祉事業と連携した学習活動の効果的な在り方を検討していくことが求められる。

 国が多様な学びの場づくりの在り方を示していくことで,全国的な学びの場の整備,充実につなげることが期待される。

(障害者の学びの場づくりを担う中核的人材の育成)   

 障害者の学びの場づくりを行うに当たり,社会教育と特別支援教育,障害者福祉等をつなぎ,中核的な役割を果たす人材が重要であり,このような人材に期待される具体的な役割,育成の過程で身に付けるべき専門性等について国において研究し,その成果を全国に発信していくことが求められる。その中で,平成32年度より新たに称号の付与が行われる社会教育士の活用方策についても,具体的に検討することが重要である。

(地方公共団体における体制整備,取組促進)

 都道府県・指定都市の担当者が集まる会議における説明や,地方公共団体の担当者向けの人材育成研修会の実施等により,障害者の学びの場へのアクセスや情報保障,学びに関する相談支援体制が確保されるよう,地方公共団体に促していく必要がある。

 また,地方公共団体の取組について定期的に実態把握を行い,全国的に体制整備が進むよう,検証改善サイクルを回していくことが重要である。

(障害の有無にかかわらず共に学ぶ環境づくりに向けた啓発)

  障害に関する社会的意識の向上を図る必要がある。そのため,障害に関する理解促進を図るとともに,障害の有無にかかわらず「共に学ぶ」とはどのようなことなのか,関心の薄い層も巻き込みながら考え,共に学ぶ環境を実現する方策について,実践研究やフォーラムの開催等も通じて検討を深め,関係者に提供することが求められる。  


 国においては,上記も踏まえ,国及び地方公共団体に求められる役割を整理し,政策の目標と具体的な施策を総合的に示し,着実に実行することが期待される。

 また,施策の実施により,障害者の学びに関する国内の環境が改善されているのかを把握するため,障害者本人に対する意識調査等も適切に行いながら客観的な根拠に基づき成果と課題の検証を行い,より効果的・効率的な施策の立案に生かしていくサイクルを実践していくことが重要である。

2.地方公共団体に求められる取組

(庁内連携,関係機関・団体等との連携の推進)

 地域における障害者の学びの場づくりを中心的に支えるのは地方公共団体であり,地方公共団体の障害者学習支援担当においては,まず,庁内の関係部局等との連携を推進することが求められる。これまで,福祉や労働,スポーツ,文化芸術等の部局,あるいは関係機関や団体において,障害者の学びに資する活動が行われてきている。障害者学習支援担当において,そうした関係部局との連携を図り,関係機関・団体とのつながりも確保した上で,幅広い視野から障害者の学習支援の推進を図っていくことが肝要である。

(障害者の生涯学習推進を担う人材の育成)   

 都道府県の障害者学習支援担当においては,障害者の学びの場づくりに中核的な役割を果たす者を確保するとともに,庁内の福祉・労働・スポーツ・文化芸術等の関係部局と連携し,国における動向等も踏まえた上で,市町村の担当者を対象とした人材育成研修を行っていくことが求められる。

(障害者本人のニーズを踏まえた学びに関する相談支援体制の整備)   

 障害者本人の学びに関するニーズを踏まえ,学びの場につなげていけるような相談支援体制の整備を図ることが重要である。そのためには,地方公共団体の障害者学習支援担当が,障害者の生活や就労に関する相談を行う場である基幹相談支援センターや障害者就業・生活支援センターと連携し,両センターにおいて受けた学びに関するニーズも踏まえ,学びの場につなぐ取組なども重要となる。その際,(自立支援)協議会等で連携している庁内の福祉・労働等の部局や関係機関・団体等との連携関係も生かしていくことが重要である。

(障害者の学びの場に関する実態把握・情報提供,学びの場の確保)   

 障害者の学びの場づくりは,障害者の周りの支援者や福祉サービスに携わる者を中心に行われている実態があることを踏まえると,市町村には,特に,庁内他部局や関係機関・団体とのつながりを確保した上で,域内の学びの場に関する実態を把握し,情報提供を行うことが求められる。   

 その上で,学びの場が十分にない場合には,市町村独自の事業として,又は関係機関・団体と連携して,地域の実情に応じて学びの場を確保していくことが求められる。

(地方公共団体の教育振興基本計画等への位置付け)

 地方公共団体においては,障害者の学びを最も身近で支える行政機関として,地域の障害者が学校卒業後も学び続けることができるよう,一貫した視点から取組を進めることが重要である。このため,都道府県や市町村が作成する教育振興基本計画や障害者計画等への障害者の生涯学習に関する目標や事業等の記載を進めていく必要がある。

 教育基本法においては,政府の策定する教育振興基本計画を参酌して,地域の実情に応じて地方公共団体の基本計画を定めるよう努めなければならない旨が規定されているが,政府が平成30年に策定した「第3期教育振興基本計画」においては,障害者の生涯学習について明記されたところであり,地方公共団体においては,本計画を参酌した基本計画の策定が求められている。

 同様に,障害者基本法においては,都道府県・市町村は政府の障害者基本計画を基本とするとともに,域内の障害者の状況等を踏まえた都道府県・市町村障害者計画を定めることとされている。平成30年に策定した「第4次障害者基本計画」においては,障害者の生涯学習について明記されており,都道府県・市町村障害者計画に生涯学習に関する記載を盛り込むことも考えられる 。

 さらに,地方公共団体において独自に策定する総合計画や,社会教育・生涯学習の推進に関する計画への障害者の生涯学習に関する事業等の位置付けなども有効であると考えられる。

 こうした地方公共団体の計画に,地域の実情に合った形で障害者の生涯学習に関する目標や事業を位置付けることで,各地域における取組の着実な推進が期待できる。


 地方公共団体における取組については,国においてもフォローアップを行い,着実に進めていくことが求められる。

3. 特別支援学校に期待される取組   

 特別支援学校においては,生涯にわたる学習とのつながりを見通す観点から特別支援学校高等部学習指導要領等が改訂されたことを踏まえ,学校教育段階から卒業後を見据えて,生涯学習への意欲を高める指導や社会教育との連携を図った教育活動の推進を行うことが求められる。

 また,特別支援学校等の学校においては,心のバリアフリー学習等を通じて,障害に関する理解促進を図ることや,個別の教育支援計画をツールとして,在学段階からの福祉との連携推進を図ることが求められる。さらに,生徒の進路先の企業や福祉施設等との連携も図りながら,卒業時に個別の教育支援計画を適切に引き継いでいくことなどが期待される。

4.大学に期待される取組

 大学は,多様な学生の受入れを通じた教育研究の一層の高度化の観点からも,地域や社会への貢献の観点からも,特別支援学校等を卒業した後の障害者の学びの場としての役割を果たすことが求められている。

 具体的には,これまで行ってきたオープンカレッジや公開講座,障害のある学生に対する支援の取組を一層充実していくことが期待される。また,本報告で提言している,知的障害者の大学における学びの場づくりについて,特別支援学校等卒業後の組織的な継続教育の観点から,また,一旦就職した障害者が職業生活の充実や仕事のスキルアップのために学ぶ,障害者のリカレント教育推進の観点から,国との連携も図りながら,積極的な取組を検討していくことも期待される。

5.社会福祉法人やNPO法人,企業等の民間団体に期待される取組

 社会福祉法人,NPO法人等には,今後も実質的に障害者の最も身近なところで学びの場づくりの担い手としての役割を果たすことが期待される。

 全国的な障害者の学びの場の整備を推進していくに当たり,「学び」そのものや「学びの場づくり」に関する知見のある民間団体においては,地方公共団体や関係機関・団体との連携を図り,障害者の学びに関する知見を周囲と共有していくこと,そのことを通じ,地域における障害者の学びの充実を図ることが期待される。

 企業には,障害者を社員として受け入れ,共に働くことに加え,CSR(企業の社会的責任)推進や社会貢献活動にとどまらず,企業価値を高めるための活動として障害者の生涯学習に関する学習プログラムの開発・提供を行うことや,学びの場づくりを支援することなどが期待される。

 特別支援学校等の卒業生が就職や通所することになる企業や社会福祉法人等においては,卒業生が在籍していた学校との連携を図り,個別の教育支援計画の内容を社員や職員としてのキャリアプランに引き継ぐこと等により,学びに関するニーズを含め,障害者に対する一貫した支援が継続されるよう取り組むことが望まれる。

第5章 今後の検討課題

  本報告においては,学校卒業後における障害者の学びの場の充実に向けて,学校段階からの生涯学習を見通した取組の充実や,卒業後の学習プログラム等学びの場づくりに関するモデル開発・普及,卒業後の組織的な継続教育の検討や,障害の有無にかかわらず共に学ぶ場の充実,障害に関する理解促進,障害者の学びを推進するための基盤の整備などを課題として取り上げた。

 こうした課題への対応を全国で着実に推進するため,本有識者会議としては,国において具体的な成果指標を掲げ,フォローアップを行っていくことを提案したい。なお,具体的な成果指標については今後さらに検討を深める必要がある。


<成果指標として取り上げることが考えられる事項の例>

* 教育振興基本計画や障害者計画等に「障害者の生涯学習」に関する目標や事業を位置付けている都道府県・市町村の割合

* 障害者の生涯学習活動に関する実態把握,ホームページ等による情報提供を行う都道府県・市町村の割合

* 生涯学習,教育,スポーツ,文化芸術,福祉,労働等の部局や関係機関・団体等による「障害者の生涯学習」に関する協議を行った都道府県・市町村の割合

* 生涯にわたる学習とのつながりを見通した教育を行うことについて,学校運営に関する方針や計画等に位置付け,実施している特別支援学校の割合

* 障害者が参加して共に学ぶ生涯学習事業を実施した都道府県・市町村の割合


 こうした環境整備をしていくことで,学びの場や学習プログラムは身近にあると感じる障害者本人の割合の向上を図っていく必要がある。 国においては,成果指標の提示と,当該指標の確認を通じて政策の成果と課題を検証し,改善につなげていくことが求められる。

 このことをはじめとして,何よりも,障害者本人の主体的な学びが実現できるよう,国は政策の推進を図り,今後一層,地方公共団体や特別支援学校や大学等の学校,障害者の学習支援に携わる社会福祉法人やNPO法人,企業等の民間団体とも密接に連携し,新たに生じてきた課題への対応も含めて,全国における障害者の生涯学習を総合的に推進していくことが望まれる。

お問合せ先

総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課障害者学習支援推進室

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-- 登録:平成31年04月 --