教育安心社会の実現についての議論の整理(案)

1.教育費負担に関する基本的考え方

論点1:教育の目的をどのように考え、誰が教育費を負担すべきなのか。

1人生前半の社会保障(機会の均等)

○ 国民一人一人が生活を送る上で、その努力や能力を発揮する機会は、経済的・社会的な事情にかかわらず誰もが等しく与えられるべきであり、この前提条件として、次代を担う子ども全てが共通のスタートラインに立って能力を最大限に高められるようにすることが教育の役割。

○ 教育がその役割を十分に果たすためには、「人生前半の社会保障」と位置づけ、全ての子どもたちが安心して教育を受けることのできる「教育安心社会」を実現するための取組が重要。

2社会の活力増進の原動力(将来への先行投資)

○ 教育の効果は、教育を受けた本人に帰属する「私的効果」(例:知識技能の獲得、社会性の獲得、所得向上、健康増進など)と、広く社会全体に還元される「公的効果」(税収の増大、社会的サービス向上、治安改善など)があり、その2つの効果は相互に連関。

3教育安心社会実現に向けて

論点2:教育安心社会の実現に向けて、どのような安心を保障すべきか。

(ア)公教育の負担に対する安心

○ 近年にあっては、高度成長期が終焉し雇用の総量が拡大しない中で人生前半における生活上のリスクが高まり、教育に関する家計の負担は、公的な負担と比較して、年々重くなるなど、教育に関する不安が増大。

○ このような状況において、教育に関する家計の負担が大きいままにしてしまうと、少子化の流れを止めることができないこととなるとともに、教育の階層間格差や貧困の再生産につながり、若者の再チャレンジの機会を奪うことにもなりかねない。

○ このため、公財政支出による教育費の充実、とりわけ、教育に関する家庭負担の軽減方策の充実が求められる。

○ なお、軽減方策の実施に当たって税金を投入する以上は、施策の趣旨について国民の十分な理解を得ることが重要であるため、施策の十分な説明はもとより、モラル意識の向上に向けた取組や奨学金延滞額の抑制を図る措置を講じるなど制度に対する信頼を得ることも重要。

(イ)公教育の質に対する安心

○ どんなに教育の機会均等が図られても、教育現場で基礎学力の向上や道徳教育など教育の質の充実が図られないのであれば目的の達成は難しい。

○ 核家族化や地域のつながりの希薄化などに起因した社会全体や家庭の教育力低下、また、子どもの学ぶ意欲や学力の低下、いじめや不登校といった問題行動など公教育に対して様々な不安が指摘。

○ このため、
・新学習指導要領の着実な実施による学力向上、(将来への志や学習意欲を持たせるための取組、補充的な学習など個に応じた指導の充実など)
・規範意識の向上、いじめ・不登校対策、
・子ども一人一人に向き合う環境づくり(教職員の定数改善や学校の事務処理体制の強化など)
・教員の資質の向上
・特別支援教育の推進
・学校の経営基盤の強化、組織運営体制の確立、(学校評価を中心としたPDCAサイクルの一層の推進による、保護者・地域の理解協力を得ながらの不断の改善努力の促進など)
・家庭教育への支援(教育が困難な家庭に対する関係機関と連携した支援など)
・地域の教育力の向上
・安全な教育環境、質の高い教育環境
・大学等の教育力の強化と質保証(各大学における教育内容・方法の改善や学習成果を的確に判定する成績評価システムの導入・普及、大学間連携の促進など)
・卓越した教育研究拠点の形成と大学等の国際化の推進

など教育振興基本計画に基づく諸方策を着実に実行していくことが必要。

○ そして、これらの取組を実行化に向けた予算を十分確保することが必要。

(ウ)安心の実現に向けた検討について

○ この2つの安心を保証するための具体的な施策の在り方については、安定財源の確保や家計による私的な負担と社会全体による公的な負担の在り方に留意しつつ、各学校段階毎の特性を踏まえ、検討することが課題。

○ その際、家計負担、公財政支出だけでなく、地域・家庭・企業等で教育を支える仕組み(例えば、学校支援地域本部、コミュニティ・スクール、ボランティア活用への支援、民間団体等の自立的・継続的活動の支援、社会における寄付文化の醸成など)もあわせて検討することも必要。

○ 本懇談会では、昨今の経済情勢の急激な変化により、経済的理由により教育の機会が奪われる児童生徒学生が出ないようにする観点から、特に家計負担の軽減に着目して整理する。

2.各学校段階での方向性(案)

論点3:教育費負担の軽減策について、各学校段階の特性を踏まえ、どのようなものが考えられるか。(どのような生徒を対象に、どの程度の支援をするのか。)

(1)幼児教育段階

【基本的方向性(案)】

生涯にわたる人格形成及び義務教育の基礎を培うという重要性等を踏まえ、希望する全ての3~5歳児が無償で幼児教育を受けられるようにする。

【施策例】

○幼稚園就園奨励費補助金の拡充による無償化等の実現

(2)義務教育段階

【基本的方向性(案)】

義務教育の根幹(機会の均等、水準確保、無償性)を踏まえ、授業料、教科書等以外の教育費(学用品、修学旅行費等)についても、低所得者層の家庭の児童生徒については、各市町村の財政力に左右されず就学援助を支給できるようにする。※生活保護の受給対象相当及びそれに準ずる世帯
(モデル:年収おおむね350万円以下※P.6の注参照)

【施策例】

各市町村が行う就学援助への援助に係る地方財政措置の増額等

(3)高等学校段階

【基本的方向性(案)】

義務教育ではないが、進学率が98%に達する「国民的な教育機関」となっていることを踏まえ、教育の機会均等を図る観点から、当面、特に低所得者層(※)の家庭の生徒について、授業料等の負担を軽減することとする。また、高等学校における修学支援に関する新たな仕組みを検討する。
※生活保護の受給対象相当及びそれに準ずる世帯
(モデル:年収おおむね350万円以下※P.6の注参照)

【施策例】

○授業料減免の拡充(例:減免対象の拡大)
○奨学金事業の充実・改善(例:支給対象の拡大、入学関係経費の支援等)
○私立高校生の授業料の負担を軽減

(4)大学・大学院段階

【基本的方向性(案)】

○ 学術の中心として高度の教育研究を行うことにより、高度人材の輩出と研究成果の還元の両面で社会貢献を行うという性質を踏まえ、意欲と能力のある学生を支援する。

○ 特に、公教育の機会均等を図る観点から、授業料の負担軽減とともに、低所得者層(※)の家庭の学生についてきめ細やかな負担軽減策を講じる。
※生活保護の受給対象相当及びそれに準ずる世帯
(モデル:年収おおむね350万円以下※P.6の注参照)

○ また、大学院段階では、高度の人材養成の観点から、TA・RA等を通じた実質的給与型の経済的支援の拡充を図る。(15万円以上(生活費相当額)の支援を受けるTA・RA等(現在9.4%)の大幅拡充)

○ 併せて、学生が将来の経済的負担の見通しをあらかじめ立てられることにより安心して学習や研究に打ち込めるよう、進学に係る「ファイナンシャルプラン」を計画できるようにするための必要な環境整備を行う。

○ 地方大学の運営支援を通じて、地方の学生が進学機会を確保できるようにする。

【施策例】

○ きめ細かな負担軽減策の実施
・大学学部段階:家計基準に着目した負担軽減策の充実(例:授業料の負担を軽減、低所得世帯に対する授業料減免措置の拡充、奨学金貸与人員の増)

・大学院段階:給与型の経済的支援の拡充

(例:大学院を対象とする競争的資金においてTAやRAの雇用を義務付けるなど、新たな給与型経済的支援の仕組みを検討)

○ 進学に係る「ファイナンシャルプラン」の作成支援
(例:進路選択時における奨学金制度等に関する情報の提供、インターネットで奨学金貸与額等が試算できる仕組みづくり、大学の相談体制の整備
卒業後における経済的理由による返還猶予者に対する減額返還)

○ 地方大学の運営支援による進学機会の確保

(例:基盤的経費の充実、地域における大学間連携・協同等の推進、教育・学生支援分野における共同利用拠点の創設、大学の経営基盤の安定化への支援)

低所得者層の世帯(生活保護受給相当等)の年収モデルについて

【要保護世帯】

・4人家族(父44歳、母42歳、14歳と12歳の子ども2人)で東京都区部在住のケースの場合の生活保護基準年間250万円程度[生活扶助基準約250万円+α(住宅・医療扶助等)]を想定。
・家族構成は、平成7年人口動態統計を参考。
・地方在住の場合は、受給基準は低くなる。

【準要保護世帯】

・上記要保護の受給基準×1.3=350万円程度を想定。
※ 認定基準は自治体によって異なるが、生活保護基準の1.3倍以下として定めている例がある。

○ 各学校段階の施策対象の低所得者層には、準要保護相当の世帯も含むとすれば、おおむね年収350万円以下の世帯がモデルとして想定される。

○ なお、上記はあくまでモデルであり、実際の生活保護受給対象は、子どもの数、住所等によって異なる。

 

<別紙>

~家計負担と関連施策の現状~

1家計負担の現状

○ 我が国では、国際比較では、教育費に占める家計負担の割合が大きい
○ 若年層への教育サービスに関する給付は少なく、負担は大きい。
○ 低所得者層で教育費負担が重くのしかかっているケース等が指摘。
○ 特に、就学前教育段階と高等教育段階における家計負担の高さが顕著。
○ 就学前教育について、幼稚園費等の軽減のニーズが強い。
○ 高等教育段階については、大学の授業料が国公私立を問わず年々上昇
○ 子ども2人が同時に大学教育を受ける場合、その教育に係る費用負担は可処分所得の約3分の1に上るという試算。
○ 大学の中途退学者のうち経済的理由で退学する学生は約16%。
○ 義務教育段階では、就学援助を受ける生徒数が増加
○ 私立高校において授業料を滞納する生徒の割合は0.9%
○ 世帯所得のジニ係数、相対的貧困率、年間労働所得150万円以下の労働者の割合の統計からみて、所得格差が緩やかな拡大

2親の所得等が子どもの教育等に及ぼす影響

【親の所得等と子どもの教育等との相関関係を示すデータの例】
○親の所得が高いほど子どもの学力調査の結果が高い、
○就学援助を受けている児童生徒の割合の高い学校の方が平均正答率が低
い傾向、
○父親の職業等に応じて学習時間や学習の好き嫌いに差がみられる、
○親の所得が少ないほど子どもの大学進学率が低く、就職の割合が高い、
○中卒・高卒におけるフリーター比率は高く、年々増加傾向にある。(その増加率は大卒と比べても高い。)
○経済的なゆとりがあれば子どもの就職よりも進学を望む割合が、年収が少ない層ほど高い

3家計負担軽減のための施策の現状

○ 就学前段階:地方公共団体による幼稚園就園奨励費補助、
※ 地方公共団体が行う就園奨励事業に対して、国が3分の1以内を補助
○ 義務教育段階:国公立学校における授業料の不徴収
教科用図書の無償給与
低所得者に対する就学援助
※ 学用品、学校給食、修学旅行費等

○ 高等学校段階:全都道府県による公立高校授業料の減免措置
全都道府県による奨学金事業
各私立高校による授業料の減免措置
※ 私立高校が行う減免措置への都道府県の補助に対して、国が2分の1以内を補助

○ 高等教育段階:独立行政法人日本学生支援機構等による奨学金事業
※無利子、有利子:全国立大学、各公立、各私立大学による授業料減免

※国立:運営費交付金において考慮、私立:国が2分の1以内を補助

:給与型の経済的支援

※TA(ティーチングアシスタント)やRA(リサーチアシスタント)

※ その他、税制措置として、扶養控除、授業料等の消費税非課税、福祉政策上の措置として、児童手当や保育所における保育料軽減もある。

○ さらに、昨年来の我が国の経済情勢、雇用情勢の悪化にともない21年度補正予算においても、経済情勢の悪化により修学が困難な学生・生徒に対する授業料減免・奨学金事業等へ緊急支援。

○ 今後とも、安定財源を確保の上、国民が実感できる家計負担の軽減に向けて、現在行っている施策の充実はもとより、更なる政策展開を検討し、可能なものから速やかに実行していくことが必要不可欠。

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生涯学習政策局