「新しい時代の博物館制度の在り方について」(中間まとめ)に関するヒアリングにおける意見等概要(案)

平成19年5月24日

 平成19年4月13日(金曜日)及び4月19日(木曜日)に行われた「新しい時代の博物館制度の在り方について」(中間まとめ)に関するヒアリングにおける意見等の概要は以下のとおりである。

第1章 博物館をめぐる昨今の動向

2 博物館を取り巻く状況

  •  教育委員会に所属していることは,予算や新たな事業展開という点では首長部局より不利。教育委員会内においても,学校教育に重点が置かれがち。
  •  都道府県レベルの博物館行政のポリシーがあるのかよく見えない。

第2章 博物館とは

2 博物館法上の博物館の定義の在り方

(1)博物館の基本的要件

(2)博物館の定義について

  •  日本動物園水族館協会では,動物園水族館の社会的な意義,機能として,教育,レクリエーション,自然保護,研究の4つを掲げている。この4つの機能を備えた動物園,水族館は社会的に認知され,支援され,非常に公共性が高い。
  •  「楽しく学べる空間」という考え方も大事である。
  •  我が館は,常設展というものはないが,企画展を連続して毎月行っている。登録博物館になることを指向したが,常設展がないことがネックになった。
  •  欧米におけるライブラリーやアーカイブズの役割を,日本では博物館が担うべき部分がある。欧米におけるミュージアムの部分だけを見ていると,その役割は抜け落ちてしまう。

第3章 博物館登録制度の在り方について

1 現行制度の問題点

(1)登録制度の現状

  •  博物館実習の受け入れについても,登録博物館であることが条件にされていない。

2 博物館登録制度改善の方向性

(1)新しい登録制度の意義

  •  民間会社の場合,経営者が変わることが多々あり,経営方針が大きく変わることがあるので,博物館の活動が登録博物館制度によって変動がなくて済むメリットは高い。
  •  動物園・水族館は,野生動物の取扱いについては「動物の愛護及び管理に関する法律」上,動物取扱業者である。登録博物館の位置づけになれば対象外になることはできないか。
  •  私立登録博物館では,税制上の優遇措置を受けているが,登録制度がなくなって,固定資産税が課せられたら,経営は困難。
  •  県に所在する博物館の個々の分担と役割が不明確である。図書館の方はうまくいっているので参考にすべき。
  •  ある博物館では指定管理者の導入に住民から反対の声が上がらなかった(他の施設では反対があった。)。住民の方を向いていないとこうなる。
  •  登録制度はあってよい。永続的にモノを残していきたいという考えで個人博物館をつくった場合,登録を選択することで保証され,古いモノが散逸するのを防ぐことができる。
  •  行政内でも,市民サービスの点から登録になることは博物館がよくなるという理解をされると思う。登録に経費が必要であれば,既存の経費から支出するしかない。
  •  博物館にかかわった人たち,あるいはそことかかわる分野,そことかかわる地域の人たちが保存と継承を考えるような土壌をつくらないと,資料の散逸の状況はなくならない。

(2)新しい登録制度の考え方

  •  設置者,運営者,コレクション,ミッションの多様性を保障することが大事。
  •  登録博物館内での一定期間の人事交流があってもよいのではないか。
  •  民間の場合は,税制上のメリットが最大のメリットになる(特に地方税)。また,博物館のグレードがアップしていく中では,社会的なステータスとしてのメリットも出てくる。
  •  寄附行為にかかる税制優遇の充実が必要。
  •  登録審査は,各館の中身に係る各項目にまるばつをつけるような単なる成績表的なものではなく,優れた館を選定するようなものでなければ価値がない。
  •  設置母体別,職員数別に適切な基準を考慮していただきたい。
  •  地域の資料・個人所蔵の文化財保護には,必要な調査と調査後の保存方法等のアフターケアは不可分。継続的に活動をする人・館を支えていくシステムの実現は大事である。
  •  私有財産であるコレクションに基準を設けようとするならば,万一何かあった時にサポートができるようなシステムに組み込むことが必要。

(3)新しい登録制度の範囲

  •  私立博物館は後継者不足で,オーナーが亡くなれば資料が散逸するおそれがある。
  •  株式会社でも入場料収入で博物館が賄えることは希で,企業利益の社会還元という意味で運営をしている。
  •  営利法人でも博物館に係わる事項を区分し,経理を明白にすることは可能であるが,それをもってどのように検討を行うのかが疑問。
  •  営利法人は,基本的には利潤の追求をするのが基本である。赤字経営が続けば施設の存続ができなくなるため,博物館の定義を利潤の追求の有無の枠で区切られるのは厳しい。

(4)新しい登録基準の骨格

  •  博物館は多種多様で,それぞれに適応する学芸員がいると思うので,一括りにするのは難しく,重点をわけたすみ分けが必要なのではないか。
  •  地域の住民の支持を得るには,職員・スタッフが変わらずいることが大事である。5年,10年かけて地域の事情に合わせたコミュニケーションを蓄積することができなければ,住民の支持は得られない。

(6)更新制について

  •  5年では短すぎ,10年くらいは様子を見るべき。

(7)「登録博物館」の名称独占

  •  防火のまる適マークのように,住民がそれを見てしっかりした運営がなされていることが,一見してわかるようにするべき。

(9)博物館評価について

  •  博物館のミッション・施策・事業・実績等を公開していくことが必要。

第4章 学芸員制度の在り方について

1 現状における問題点

(1)学芸員制度の現状

(2)学芸員制度の問題点

  •  公立博物館の採用方法の見直しを図り,非常勤職員で雇用されることが多い問題を解決するべき。
  •  多くの動物園や水族館では,学芸員も飼育技師などの資格と同じ位置づけをしており,学芸員だから採用するということは行なっていない。学芸員としての能力が実績に現れる必要がある。
  •  館長の資格制度があってもよいのでは。世界的に見て,日本のように館長が頻繁に替わることについて,異端児扱いをされている。
  •  博物館実習について,博物館まかせになっている。実習を出す大学の心構えをしっかりしていただければ,お互いによい。
  •  留学を終えて帰国して,教育普及やドキュメンテーションを関心があるといっても,日本に受け皿がない。熱意ある若者の希望が実現するような方策を望む。
  •  博物館実習を受け入れる際,大学によって学生の質や対応に差がありすぎる。

2 学芸員制度の見直し

(1)見直しの考え方

  •  学芸員という名称を改め,博物館博士や修士という考え方にしたらどうか。実際学芸員という名称よりも,キュレーターなどの名称を使用している。
  •  学芸員という職は必要だが現行程度の資格では機能しない。
  •  資格はあった方がよい。ランクをつける形が学芸員の励みになる。
  •  今の学芸員をすべて準学芸員にするという新聞報道があったが,それは問題だと思うので,今の学芸員はそのままで,さらにその上のステータスのある,一つランク上の,それを持ったらどこの博物館へ行っても採用してもらえる位のものができれば,モチベーションになると思う。

(2)学芸員に求められる専門性

  •  博物館以外の部署への一定期間の異動も,仕事上有効。
  •  多くの民間の場合は,研究職を専門に置いていない。学芸活動も研究も同じ職員が行なっている。
  •  我が館では,研究を重要視している。研究紀要を書くことはほぼ義務になっている。
  •  情報を集めて物にすることについて,実施的には学芸活動をしていると言えるのではないか。
  •  本人のやる気が伴えば,経費が少なくても研究はできる。
  •  学芸員資格を持っていても,博物館の取り扱う分野すべてに精通しているわけではない。教育主体のミュージアムエデュケーターなど,館の特性に応じた形があってよい。
  •  学芸員は研究職だというスタンスだと館運営に支障が出る。地域の人々が博物館に来るときには,それほど高い学問性を求めて来ることは少ない。地域の人々とかかわる能力が求められる。

(3)専門職員としての基礎的資質の養成

  •  民間の場合,必要な人材は,独自に採用をして養成していく考え方を取っており,一般常識も含めてマネジメント能力のある人材を採用している。研究だけをやっていればよいという人材は不要。
  •  学芸員は研究職というスタンスだと館運営がうまくいかないし,地域の人が博物館へ来るときは,それほど高い学問性を求めて来られることは少ないのが現実。
  •  小規模館では,むしろ地域の人たちとのかかわりの能力をつける方面に力を入れていただきたい。キュレーターだけではなくエデュケーターを養成することもあっていい。我々の館では地域の人たちと一緒にやっていて,観察会では当然,講師側に立って活動してくださる方もいるし,講演の講師という形で外へ行っている方もいるので,そういう人も大きな流れの学芸員の中に組み入れるようなシステムがないか。
  •  博物館の基本的な機能のどこに重点を置くかによって,教育普及に重点を置くところはエデュケーター的に,また国宝級,重要文化財級の資料を扱う部分は物を大事にする技術を養った人というように,すみ分けが必要なのではないか。

(4)学芸員の養成と資格の在り方

  •  学芸員の流動化や質の向上を図るためには,第3者機関によるキャリア設計,相談という形をとるべき。
  •  博物館学芸員になりたいという意思決定の学部段階と高度職業人としての教育を大学院で行う段階を設けるべき。他の専門職もそのような流れになっている。
  •  インターンシップを導入することで,大学学部段階での実習は廃止すべき。
  •  制度を長続きさせるためには,大学と博物館との関係が,ギブ・アンド・テイクの関係になるように制度設計をすべき。
  •  上級学芸員は個人のキャリアに限定するのではなく,博物館が社会活動をしていく中で,どのような位置づけにしていくかが課題。また,博物館の現場でどのように運用していくのかについて,見通しを立てることも不可欠。
  •  上級資格にある経験年数7年は短すぎるのではないか。学芸員と上級資格が二局化しているので,もう一つ中間的な資格を設けて,上級資格をもっとランクを高くしてよいのでは。一つ一つの職務をこなしてキャリアアップしていく形が望まれる。
  •  インターンシップをきちんとやれば必ず自分の行きたいところで働ける制度になるべき。
  •  大学院レベルのミュージアム専攻コースで,博物館,ミュージアムで働ける人間を育てる,いわゆる実務,ビジネスコース的なものができないか。また,学部レベルでも,ミュージアムに関する仕事を学ぶ専攻コースをつくり,博物館で働く人材を養成するのであれば,その修了者を人材として採りたい。
  •  博物館にとって必要な者を養成するのであれば,大学院大学という形で,実際の博物館で預かって実習をするべき。少数精鋭で全国で数十人単位でよい。
  •  実務経験については,現在の博物館実習の延長線上で預かってくれと言われても困る。
  •  企業内での人事制度があり,博物館においてのみ採用を前提とした実務経験をさせることはできない。
  •  インターンシップについて,アメリカでは支援する団体があって,金銭的援助をしている。インターンシップにかかる費用を博物館で負担するとなると,導入は困難。
  •  上級学芸員というのは,世の中に対する資格として,それが尊敬されるかどうかにかかっている。果たして美術館にそのようなものが必要かは疑義がある。
  •  統一的な試験のみで資格を与える方がよく,無試験によって資格を与える制度は適当ではない。
  •  これまでやってきた学修のほかに,大学を卒業後1年〜2年(のインターンを課すことは),つまり希望する学生は,就職できずに無給でインターンをするということになる。今の学生にとって,過大な負担を要求するものだと思う。
  •  1年間1人か2人の,あまり仕事をよくわかっていない学生を,教育的配慮のもとに,教育の評価もちゃんと提示した上で評価する負担は現実には相当なもので,実際お願いできる館があるのか。
  •  現状でいいと思っているわけではなく,もっと実質的な実習と学修内容の強化についてはぜひそうありたいと思っている。現状を変えてくれるなという話ではなくて,実現可能な,実現の道筋がちゃんと見える形での変革をぜひともお願いしたい。
  •  (大学院は,教員専修免許との)バランスのとれた考え方をぜひ実現していただきたい。(略)現実の問題を考えたときに,今の大学で博物館学を専門とする教員がそれほど多くないという現実がある。全国各地の大学院で博物館学にかかわる教育を展開するとなれば,相当の体制の整備と,大学院教育全体の中での位置づけが必要。大学院も大学院としての全体の教育の方向があるので,その中での整合的な位置づけをぜひともお願いしたい。
  •  (大学と博物館の)連携については,現実の問題として,地方公共団体は,自分のところの職員がほかに行って講義をするということは嫌う。そういうのは基本的に行うな,もしするのであれば自分の休日の時間だと。報酬についても,各自治体でそれぞれ立場が違って,考え方が違う。私ども(大学)も博物館と連携したいし,一緒にやりたい。そういう思いは強いが,なかなか制度的な側面で難しいところがある。今の博物館はものすごく忙しくて,とてもそんなことできないということも多くの館で聞く。制度的な枠組みや全体の方向性を,今回の改正でぜひ整合性のある形でお示しいただければ大変うれしいと思っている。
  •  (学修の実質化について)学修の中身としては,展示に関するきちんとした学修が必要だろう。今のさまざまな展示を見ていると痛感するところでもある。もう一つは,地域ときちっと連携をとって,コミュニケートできる,表現できるところでは,今までの博物館法の科目の中では十分ではないと思っているので,これから地域に根差して活動できる館を育成するという方向性で,そういう科目をぜひ加えてほしい。実務実習に関しては,教育普及,展示,研究という1つ1つの項目について,こういうことを実務実習でやるということをつくった上で,4年の期間の中でぜひともそれが実現できるような配置にしていただきたい。
  •  (インターンシップが)機能している部分はあるかもしれないが,なかなか機能していないという現実はある。現実に,相当施設を含めて約1,200の館が,それができる枠組みと状況を持っているかという話になると,それは難しい。

第5章 博物館運営に関する諸問題について

1 指定管理者制度等について

  •  登録博物館の指定管理者の税金負担について,控除措置,財政的支援措置が必要。

2 公立博物館の原則無料規定の扱いについて

  •  博物館を地域のコミュニティの拠点にしていく上では,博物館に気軽に訪れるようにする空間であるべきであり,有料化はなじまない。
  •  国公立といえども,経営健全化ができてこそよい博物館活動ができる。民間の場合は入館料無料では経営ができないため,無料化には抵抗がある。しかし,多くの博物館では青少年に対する入館料の割引は行っている。
  •  有料でも通常展の価格が公立は安すぎて,競争の観点では民間は不利である。
  •  入館料無料というのは,個人立博物館については現実的ではない。イギリスでは学校に補助金を出して,入館料相当を補助する学校側が館を選んでいくことができる補助システムがあると聞いている。そのような支援制度の実現を望む。
  •  若者にもっと博物館に触れて欲しいと思うのであれば,22歳以下無料のように年齢で決めるべき。

3 博物館を支える多様な人材の養成・確保

  •  様々な仕事人が博物館活動に参画することで,その人のキャリアに学び,自分に活かしていくことができるような仕組みの構築も考えるべき。
  •  「地域学芸員」という名前で地域の人々の参画を得ている。そのような人々も大きく学芸員の中に組み入れるようなシステムができないか。

4 博物館倫理について

  •  利用者から見れば,ボランティアなど地域学芸員も同じように博物館で働く者として見られる点も考慮すべき。