これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議(第18回) 議事録

1.日時

平成20年7月24日(木曜日) 14時~16時

2.場所

社会教育実践研究センター2階「実習室」

3.出席者

委員

 中川主査、水嶋副主査、鷹野委員、青木委員、小川委員、猿渡委員、竹内委員、長谷川委員、山下委員、榎本委員、小林委員、佐々木(秀)委員、高安委員、名児耶委員

文部科学省

 森社会教育課長、栗原社会教育課企画官 ほか 関係官

4.議事録

(1)説明(資料等)について

 事務局から資料の説明及び今回の議題に関して本日欠席の委員から提出された文書の内容が報告されたのち、以下のとおり討議が行われた。

【主査及び副主査】
 今回は基本的に、一つの結論を出すのではなく、これまでの資料・検討のプロセスを踏まえたうえで各委員のご意見をいただき、さらに分析・検討を行うこととしたい。
 「こう思う」というご意見を述べていただくことに主眼を置きたいと考えているので、よろしくお願いしたい。

【委員】
 科目の改正については、3年くらいの周知期間を設けるべき。
 科目については、「汎用性のある基礎的知識を」ということが基本的な目的となっている。このことから先行研究や明治以来培った博物館学の体系を大学の授業に組み込むことが基本になろうかと思う。
 「博物館あって博物館学なし、展示あって展示学なし」と言われて久しい。しかしそれは個体の羅列でしかないはず。理論をまず教えることが必要。
 また「博物館保存科学論」という科目名について、「科学」は必要ないかと思うが、保存科学の分野とのかかわりもあるので調整願いたい。
 これらのことを考えると単位数については、A案かB案というところになろうかと思うが、A案の「博物館情報論」は独立できるかどうか疑問がある。ほかの分野に吸収できるのではないだろうか。
 A案の10科目21単位を9科目19単位にするのが好ましいのではないかと思っている。

【委員】
 ワーキンググループの検討案であるA案に対して、現状では21単位での実施は難しいという論点が多いが、たとえば2、3年あるいは4、5年かけて段階的に単位を増やしていき、最終的に21単位にするというような段階的措置はとれないだろうか。
 また、「見直しに関する基本的な考え方」にある「Museum Basics、基礎的な知識」から考えると、A案はかなり基本的なものに絞られているように思うが、「博物館と地域社会」はちょっと応用的な部分があるのではないかと感じている。単位を減らすのであればここを落とすのも案ではないか。
 もし、先ほどのような段階的措置ができないのであれば、例えばC案の選択科目に現状で実施の難しい内容を集めておき、少しずつ単位を増やしながら最終的に21単位にしていくやり方もあるのではないだろうか。

【委員】
 この議論の当初には、学芸員の有資格者が運良く就職できても現場ではなかなか即戦力になり得ないことが問題とされていた。その結果として、状況が刻々と変わる現場からの要請に対応するような形で問題への対応が具体的な科目名として挙げられ、出来たものが理想的な改正A案となっているのだと思うが、大学の状況や他の委員の報告・意見を聞いてみると、一足飛びに実現するのは非常に難しく、また実現によって学芸員志望者や現場で働きたい人たちの意欲を萎えさせるのではないかという、現実的に十分予想されるマイナス面も挙がってくるため、その落ちどころとして他の改正案が出ているではないか。
 即戦力を身につけていて、かつ技術的・実習的な部分についても充実した教育を受けてきた人に学芸員の資格を与えようという方向性と、大学院や現場に入ってからも研修等が行われることを前提とし、限られた単位数であっても、あくまでもカリキュラムの中ではMuseum Basicsを充実させるという方向性、その2つの方向性を融合させてしまわない方が将来像を明確にできるのではないかという印象を抱いている。
 指定管理者制度等刻々と変わっていく現場の状況を目にしていると、現実に即した対応だけを考えていたのではむしろ時代遅れになると考えるようになった。
 博物館・美術館が、どうしたら私たちの暮らしや人生、これからの若い人たちにとって役立つことができるようになるのかという極めて根本的な哲学的な考え方に立ち返った議論をしていかないと、妥協的な、単なる現状追認型の、5年も経てば非難されるようなカリキュラムになりかねないと考えている。

【委員】
 学芸員資格見直しの一番の目的は、この資格の社会的信用を高めることにあると考えている。多くの大学で簡単に資格を出し過ぎているために、質がばらばらな学生が生まれているのではないか。
 「基本的考え方」のなかに、科目数・単位数を増やすことにより、課程を開設している大学が激減しないよう配慮する必要があるとの記述もあるが、急激な変化でなければある程度の減少はむしろあったほうがいいと思われる。開講できる、教えられる教員がいる大学が課程を開設すれば良いと考えている。
 アンケートの結果、15、16単位で開講している大学が一番多いということだが、もう少しハードルを高くするのは現実的に可能ではないか。21単位は大学の負担が大きいかもしれないので17、19単位あたりで考えていくと、B案は保存科学論が含まれていないが、この科目は博物館業務にとって非常に重要なものである。B’案は博物館情報論と教育学概論が一緒になっているが、かなり異なる内容を扱うと思われるので、一緒にするのは難しいのではないか。
 単位数的にはC案が妥当ではないかと思うが、特論が選択制になっている。学部レベルでの講座は、博物館を運営するに当たっての広く全般的な知識や技術、教養を身につけることが最大の目的かと思うので、選択にしてしまうとそれらの面で偏りが生じてしまうのではないかと考えられる。
 また、資格取得者が増えているのに対して、その受け皿がないことが大きな問題となっている。なんとか博物館での雇用、学芸員のポストを増やしていかなければ自己満足的な改革で終わってしまうと思われる。
 どんな小さな博物館であれ、専門職である学芸員の設置を義務づけるなどしなければ、課程の見直しとポスト拡大の実現は難しいのではないだろうか。

【委員】
 内容の高度化及び専門性に対する教育環境の整備、雇用の問題等単純に科目をどうするかだけではすまないいろいろな課題があることを改めて感じている。
 そのうえで改正案を見てみると、A案は、学芸員の仕事・博物館の実態を伝えるという趣旨であれば科目や単位は多いにこしたことはないと考えているが、教育環境の面からいうと実現するのは非常にハードルが高い現状がある。
 「博物館保存科学論」・「博物館と地域社会」など内容としては重要かつ必要であることは分かっているものであっても、単体の科目として導入できる環境が整っているかどうかよく注意しないといけない。
 そういったことから、何らかの関わりがあると考えられる他の科目に内容的に含めるといった手段もあるのかもしれない。
 また内容的に他の科目に分散できそうなものであっても、どうしても分散できない部分をどう取り扱うのかが難しいところ。
 科目名によって随分と性格が変わってくることもあるので詰めておく必要があると考える。
 B案、C案のどれが良いかという話は難しいが、そのあたりに検討の余地があると感じている。

【委員】
 課程を偽装開講している大学が多いという実態に対して、その改正を数年かけて行うのであれば、こういったことが偽装になるから行わないようにという指導も同時に行う必要がある。
 また、例えば保存科学論のように教える人の少ない科目であっても、必要な知識なり体系であるならば、そのための人を養成する仕組みもやはり必要ではないか。
 先日、ある写真美術館でプロを目指すカメラマンのためのワークショップを行っていた。こういったことが学芸員の養成とリンクできるとすれば、大学と博物館が連携し、科目を学ぶ場が博物館の中であってもいいのではないかと思った。

【委員】
 自分も現場の人間で、大学卒業後の人はある程度使えるようにと考えているが、結局は完璧ではないので就職してから学んでもらっている。その際、伸びるかどうかにとって一番大事なことは、基礎的なことがきちんと出来ているかどうか。
 理論があって現場が成り立つのではなく、現場から出てきたものを分析して理論が生まれ、博物館学が生まれてくると考える。それが無いという状況に対してまずすべきことは、現実をしっかりと把握している人が、今あるものをきちんと分析していくこと。だがそういったことも難しい現状があるので理想論を持たなければならない。
 単位については、現実に教える人がいない問題があるので、可能ならば段階的に21単位や24単位にすべき。
 教える人がいない問題に対しては、必要であるならばつくっておくべきで、年次計画で教える人を養成するシステムも考えなければいけないのではないか。
 また他大学や施設との連携や、単位の認定を緩やかな考え方で行うことによって開講に関する地域差も解消できるのではないか。
 少し融通を利かせ段階的に増やしていくことにより、現実にも対応でき、何年後かに理想の形にできると考える。

【委員】
 今回の議論の根底は、時代の変化に対応した博物館の在り方を考える中で出てきた話。教育振興基本計画に記述されているような、全般的なことに対応していかなければならないと考えている。このことは養成に関しても同様。学部卒で得られる資格ということを考えると、実務的な資格を与えるという考えに立つべきではないかと思う。実用としての資格と考えると、B案でよいのではないか。

【委員】
 学部でやるべきことは、「汎用性のある基礎的な知識(Museum Basics)」に特化することに尽きるのではないかと考える。中身としては、どこへ行ってもこれを知っていれば何とかなるだろう、応用が利くというものに精選すべき。知見の蓄積、哲学・理念、存在意義といったところに重きをおいてはどうか。
 また、将来への見通しを持った上での提言という位置づけを是非とってはどうかと思う。
 個人的にはC’案がよいと考えるが、「博物館と地域社会」は1科目で独立させるのは難しいようなので、内容を他の科目で扱うこととし8科目17単位ではどうか。

【委員】
 学部レベルでの養成は、博物館というものを基礎的に知ることを中心においてもいいのではないか。博物館はどういったもので、人々にどういう影響を与えてといった位置づけを考えるべきで、そのことに重点を置いた方が現実的ではないかと考える。
 高度で専門的なことについては、その後に大学院や現場の中で教える、といったようにレベルを分けて養成したほうがよいのではないか。
 科目については、大学にとってはC案がやりやすいのではないかという印象を持っている。

【委員】
 改正A案は非常によくできている。21単位は多いという論もあるが、現行科目をすべて2単位にするだけで17単位となり、4単位2科目増えるだけではないか。この範囲内では選択科目を作るべきではない。専門性は選択科目で担保されている。
 教える人材がいないという論についても、探せばいる。保存科学についても、博物館・美術館の現場には人材がいるはず。
 また段階論についても避けるべき。A案の少し無理かもしれないところも調整すれば実施できるのではないか。

【委員】
 A案については、現状に対してこれだけの内容のものが必要であろうというものを積み上げたもの。21単位案は理想論ではない。もし折衝の過程で減らさざるを得ないとするならば、C’案が良いと考える。

【主査及び副主査】
 博物館法が改正され、都道府県も研修に努めることが求められるなど状況が変化してきていることを踏まえ、広い視野で議論しなければならない。現状は他機関との連携システムが構築されていないが、個別でプログラムを行うには限界が来ている。この現状も視野に入れ、全体像を考えていかなければならないと思う。

【主査及び副主査】
 現代社会の変革に対して博物館がどう対応していくのかということを検討するためにこの会ができたと思うが、それを踏まえて考えると、今行っているカリキュラムについての議論というのは、現代社会が求めているMuseum Basicsとは何なのかを明らかにすることだと思う。
 ワーキンググループで議論された結果である21単位については、教員の不足や大学の経営といった困難性があるが、それらはアジャストする問題であり、議論の基本的な部分をゆがめてしまってはならない。
 100パーセントよいかどうかはともかく、ワーキンググループでベストだと考えたものであれば、基本的には現代社会に求められているベーシックなのではないか。それを文部科学省に答申し、必要があればアジャストが行われる、それが一つの方向性だと思う。
 また段階説もあったが、理論的には可能だが、法律との関わりもあり実践するのは非常に難しいのではないか。

【委員】
 その通り。資料を集め守る部分、コミュニケーションの部分、地域との関わりの部分、この3点を新しいMuseum Basicsとして確認すべき。この理念をきちんと押さえた上での補正・調整をしていただきたい。

【委員】
 大学も博物館も求められることが極めて多角的になっており、個別にすべてのことをやるのは困難になっている。
 大学間、大学と博物館、外部の専門家・専門業界といったネットワークや人材バンクを取り入れるべきではないか。

【主査及び副主査】
 先の発言の中に、大学は博物館学を教える場であって学芸員を養成するところではない、という内容のものがあったが、これはある意味正しいのではないか。
 だが我々のこれまでの議論は、大学を学芸員の養成機関・養成課程という位置づけで検討してきた気がする。この部分をどう考えるべきか。
 また大学の経営状態に配慮する内容もあったが、この委員会としての最終的な報告書等においてこの件について配慮するというスタンスが必要であるかどうか。

【委員】
 真理の追究だけではなく、実社会においてある程度の実用性を重んじたものも学問の一種だと考えれば、例えば工学部のように、実学として学芸員養成課程も大学で教える学問ととらえて良いのでは。

【委員】
 この委員会として大学の経営に慮る必要はないと考えるが、改正案を実現させるために文部科学省として何か財政的な提示をしてはどうか。

【主査及び副主査】
 これまでの議論は具体的な部分が非常に多く、ベースに立ち戻って見直してみることが出来なかったが、今回見直してみると新たな観点もでてくるなど良い方向に進んだ感がある。
 今回の議論を事務局にまとめていただき、それを元に他の機関との調整をお願いしたい。

(事務局から、今後のスケジュール等についての説明が行われたのち、散会となった。)

(以上)

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