主権者教育推進会議(第2回) 議事録

1.日時

平成30年10月24日(水曜日)

2.場所

文部科学省 旧庁舎6階 第二講堂

3.議事録

【篠原座長】  皆さん、おはようございます。定刻となりましたので、ただいまから第2回主権者教育推進会議を開催させていただきたいと思います。
 本日も大変御多忙の中、御出席いただき、まことにありがとうございます。
 また、本会議につきましては、報道関係者より会議の撮影及び録音の申出がありますので、これを許可しておりますので、御承知おきいただければと思います。
 まずは、本日の議題に入る前に、前回御欠席の委員の皆様について事務局より紹介をお願いします。また、事務局にも異動があったようですので、併せて御紹介をお願いいたします。
【大内学校教育官】  おはようございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、机上にお配りをしております委員名簿の方、お手元に御用意いただければと思います。
 前回御欠席で、本日、御出席をいただいております。小玉重夫委員でございます。
【小玉委員】  よろしくお願いします。
【大内学校教育官】  続きまして、近藤やよい委員でございます。
【近藤委員】  どうぞよろしくお願い申し上げます。
【大内学校教育官】  続きまして、松川禮子委員でございます。
【松川委員】  松川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【大内学校教育官】  委員の御紹介につきましては以上でございます。
 また、事務局に異動等がございましたので、併せて御紹介させていただきます。
 初等中等教育局長の永山でございます。
【永山初等中等教育局長】  よろしくお願いいたします。
【大内学校教育官】  所掌替えがございまして、教育課程課を御担当いただきます大臣官房審議官の下間でございます。
【下間大臣官房審議官】  下間でございます。よろしくお願いいたします。
【大内学校教育官】  教育課程課長の松永でございます。
【松永教育課程課長】  よろしくお願いいたします。
【大内学校教育官】  以上でございます。
【篠原座長】  永山局長はこの後、御予定がおありだと聞いていますので、一言御挨拶いただいて、どうぞ御退席いただいて結構です。
【永山初等中等教育局長】  はい。恐縮でございます。10月16日付けで初中局長を拝命しました永山と申します。
 この主権者教育推進会議につきましては、選挙権年齢、あるいは成年年齢の引下げ等々も踏まえて、大変大事なテーマを御議論いただくということになってございます。私も第1回の議事録等も拝見いたしまして、大変活発な有益な御意見をたくさん賜りました。ありがたく思ってございます。また引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は所用ございまして、この後退席をいたします。失礼いたします。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 それでは、本日の配付資料について事務局から説明をお願いします。
【大内学校教育官】  それでは、議事次第に基づきまして、本日の配付資料でございますけれども、資料の1から3を配付させていただいております。過不足等ございましたら、事務局の方にお申しつけいただければと思います。
 以上でございます。
【篠原座長】  それでは、議事に入りたいと思います。本日は、新しい学習指導要領における主権者教育について事務局から説明をまず受けた後、10時頃を目途で、関係団体からのヒアリングを行います。前回御欠席の委員もいらっしゃいますので、まず事務局から、前回の主な意見などについて御報告をお願いしたいと思います。
【大内学校教育官】  失礼いたします。それでは、お手元に資料1を御用意いただければと思います。
 前回第1回といたしまして、8月7日に開催をした際、委員の皆様方から頂戴いたしました主な意見ということで、大きく6つ程度に柱を立てさせていただきまして、整理をさせていただきました。主なものを御紹介させていただきたいと思います。
 まず1点目でございますけれども、主権者意識の涵養ということについて整理をさせていただいております。これにつきましては、例えば1つ目の中点にございますけれども、新学習指導要領で示されたことをどのように具現化するかが課題であると。特に小・中学校において政治や経済が自分の生活に身近に感じられるような指導が必要であるというような御指摘、御意見でありますとか、あるいは次の中点でございますけれども、選挙の大切さは分かるが、自分の生活に影響するかを認識することが難しいので、そこをどうするかが課題であるというような御意見。2つ飛ばしまして5つ目でございますけれども、最終的に自分の意見を持つことが主権者教育では重要であるということ。社会への関心を持つことが、そのための第一歩になってくるというような御意見でございますとか、次の中点でございますけれども、若い人を客体から主体にしていくことが重要であろうというような御意見を、主権者意識を涵養するに当たってということで頂戴をいたしました。
 また、学習内容や指導方法についてでございますけれども、2点目の中点でございますが、主権者教育は、例えば租税教育といった具体的なものから、「個人の利益と公共の利益の調整」、こういったものまでを含んでいると。学校教育全体を通じて総掛かりで取り組む必要があるのではないかというような御意見でございますとか、その次の中点でございますけれども、身近な課題に取り組ませて解決させるといった実体験を伴う学習が重要であるというような御意見を頂戴してございます。
 また、次の柱といたしまして、こうした主権者教育を進める際に基盤となる資質・能力も重要でしょうという御意見を頂戴しておりまして、例えば1点目でございますけれども、議論して互いの違いを理解し、それに基づいて自分たちが何を選択するかということが投票行動に結び付いていくのではないかというような御意見。こういったことが、まさにアクティブ・ラーニング、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善、こういったものを推進していくことになるのではないかという御意見でありますとか、1枚おめくりいただきまして、その次の中点でございますけれども、メディアリテラシーを含めて、社会全体の課題に対して正しい認識や判断をする力であるとか、あるいは議論のルールやロジック、こういったものが主権者として基盤的な力であるのではないかというような御意見を頂戴しております。
 また、外部の専門家や関係機関等との連携につきまして、学校の先生方の負担軽減の観点からも連携が重要であるということ。その際、選挙管理委員会を呼んで模擬選挙を行うという取組は非常に多く行われておるわけでございますが、こういった取組だけではなくて、例えば税理士さんを呼んで租税や財政について学ぶといった、政治そのものに関わる学習の充実が重要ではないかというような御意見を頂戴しております。
 次に家庭教育との連携につきまして、2つ目の中点でございますけれども、学校で実際にどういう主権者教育が行われているかというようなことについては、家庭は意外に知らないのではないかと。家庭において、そういった主権者教育に関わる内容について話題にしてもらって、学校の取組を後押ししてもらうためにも、実際に保護者の方々に、皆様に子供が受けている授業、どういったことを授業で受けているのかというのを知ってもらう必要があるのではないかというような御意見を頂戴しております。
 また教員養成、教員研修につきまして、当然のことでもございますが、教育課程を具現化するために、具体化するために養成課程あるいは教員研修との連携が重要であるというようなこと。
 このほかにも、その他のところでございますが、小・中・高等学校あるいは大学までの接続、こういったものが課題であるということ。さらには、一番下にありますけれども、海外における主権者教育の状況を把握していくこと、こういったことも必要なのではないかというような御指摘、御意見を頂戴したところでございます。
 前回の御意見につきましては以上でございます。
【篠原座長】  ありがとうございます。前回、フリートーキングということで、私を含めて6名の委員の方から、自由に御発言を頂きました。きょうは9人全委員おそろいということで、前回御欠席になりましたお三方も含めて御出席を頂いております。まず主権者教育に関わって、これまで御自身が関わられていた取組やお考え、思いなど、御挨拶を含めて、お1人3分ずつぐらいでお話を頂ければありがたいと思います。
 発言の順番については、小玉委員、近藤委員、松川委員の順番でお願いをしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【小玉委員】  ただいま御紹介いただきました東京大学の小玉と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 資料の1番で前回の議事録を頂きまして、私が関心を持っていることも、かなり網羅されているなと思いました。
 私自身、主権者教育との関わりでいいますと、2011年から2012年にかけて、当時の総務省の中に設置されました「常時啓発事業のあり方等研究会」というところで、主権者教育に関わる提言の作成に少し参加させていただいたことがあります。今から思い起こしますと、その提言の中で、政治的リテラシーの涵養ということと社会参加の促進ということの2つの柱が掲げられ、次期の学習指導要領の改訂に政治教育の充実を期する内容として盛り込まれたことが、その後の文科省と総務省の間での協議に発展し、今、全国の高校で配られている主権者教育の副教材「私たちが拓く日本の未来」の発行につながったという意味では、非常に大きな意味がある提言だったと考えております。
 そうした流れの中にあって、今回の主権者教育推進会議は、18歳選挙権が実現して以降、文科省が日本の主権者教育に関して出す意思表示としては、事実上はじめてのものであると思っておりまして、非常に重要な会議であると思っておりますので、その成果には期待しております。
 そのうえで、前回の議事との関わりで二点ほどコメントさせていただきたいと思います。1つは、前回の議事録に若い人を客体から主体にすることが重要だという指摘がありまして、これは、日本のみならず世界で現在進められている教育改革と深く関わっている内容だと思います。
 OECDがエデュケーション2030という、今のキー・コンピテンシーに次ぐ次の段階の新しい教育改革の方向性をエデュケーション2030という形で示しておりまして、文科省の教育課程課の中でも、それについての検討が進んでいると聞いておりますけれども、そこで語られている、生徒をエージェンシーにしていく、つまり変革を促す主体にしていくという視点がエデュケーション2030の中に書かれておりまして、まさにこのエージェンシーという考え方が、議事録に書かれてある客体から主体にしていくということに密接に関わっていると思いました。これまでの学校教育が、どちらかといえば社会に対する適応とか、秩序や社会の規範を受け入れていくというところに焦点を当てた形で主体形成を行ってきたのに対して、むしろこれからは自らが社会の変革を促していく主体になっていく。その主体の育成に学校教育が、より進んで関わっていくべきである、そういう方向性がOECDの中でも示されており、日本でも、まさにその中心的な軸として、この主権者教育は関わっていくという視点が取り入れられるべきだと思います。その意味で、この若い人を客体から主体にしていくという点を今後、OECDの議論などとの関わりも意識しながら、1つの内容として入れていくことが重要なのかなと思っております。
 それから2つ目は、政治教育を定めた教育基本法の第14条で、そこに政治的教養の尊重ということが書かれてありまして、この政治的教養の尊重、育成ということが、先ほど言及させていただいた「常時啓発事業のあり方等研究会」では政治的リテラシーの涵養という言い方で表現されております。これは、ドイツやイギリスにおけるシティズンシップ教育や政治教育が重視している考え方とも、まさに重なる視点であると思います。
 この政治的リテラシーの涵養という部分につきまして、新学習指導要領でも「公共」という新しい科目ができますけれども、その「公共」も含めて、学習指導要領全体を貫く軸として、この政治的リテラシーの涵養というところを大きな柱として据えていくということを考えていくことが必要ではないかと思います。これについては、イギリスのシティズンシップ教育を主導したバーナード・クリックの議論やその政策文書であるクリック・レポートなども参考にしながら、この場でも議論を深められたらと思います。
 以上2点を私の方からコメントとして付け加えさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【篠原座長】  ありがとうございました。
 じゃあ、近藤委員。
【近藤委員】  東京足立区の区長の近藤でございます。ちょうど12年目に入りまして、この間、公立の小・中学校でなされてきた主権者教育というものを少しベースにして、具体的な内容になりますけれども、コメントさせていただきたいと思います。
 まず1つは、今でも様々な主権者教育、若しくはもどきというものは展開されているわけですが、全て散発的であって、どうも体系化されていない。小・中を通じて最終的に何を教えていくんだ、そのために今こういう具体的なカリキュラムがあるんだということがまとまっていない気がします。
 例えば今、一番、公立学校で具体的に取り組まれているのは租税教育。これは税理士会ですとか法人会さん等が、様々な事業を通じてなされています。そうしたところで、作文コンクールなどを見て上がってくる作品を見てみますと、税金によって自分たちが生かされている、そして将来はきちっと税金を納められる経済的に独立した大人になりたいと。ここまでの教えというか、教育は入っているような気がしますが、その先、納めた税金がどのように使われていくかをチェックする考え方が弱いなという気がします。そこのところを、これからどういうふうに伝えていくかということ。それが、先ほど小玉先生がおっしゃったところの変革の主体にしていくですとか、客体から主体にというところにも具体につながってくるかと思います。
 そして、若い方の投票率が、特に足立区は23区の中で一番低いということです。理由を聞いてみると、いろいろありますが、よく言われるところの1票で何が変わるのかという、選挙に1票を投じることに対する不信感とか徒労感といったものが、やはり圧倒的に強いということですけれども。ただ、これは、選挙に1票を投じるだけが世の中を変えていくという非常に単純な思考であって、主権者として様々なツールを地域や世の中を変えていく武器として持っているんだということの教えというか、教育が圧倒的に不足をしていると思います。
 地域自治体にすれば、例えば区長にメールを送るというようなきちっとした制度もありますし、陳情や請願等を議会に出すというようなこともあります。具体的な手段、方策を全く知らないなということです。
 知らないだけに、自分たちの意見や行動によって世の中を変えることができるという実体験を持たない。これを小学校、中学校の間に、簡単なものでもいいですから、そうした体験、実感を味わって社会に出していくという何らかのプロセスが必要なんだろうと思います。
 そうしたときに是非活用していただきたいのが、素材としての地方自治をきちっと教え込むということです。国レベルの非常に大きな話になってしまうと、前回の意見の中にもありました、なかなか実感として身近に感じることができない素材ですけれども、例えば、先だって来、問題になっております学校の冷房の問題。普通教室にも冷房が付いていない地域があると思えば、一方では、もう学校の中全てに付いていて、体育館の中にも冷房を入れていこうという時代になってきている。ですが意外に、大人も、お子さんたちも、住んでいる地域で自分たちが享受しているサービスが、日本あまねく同じように受けられていると誤解されがちです。
 ところが今、自治体間競争も非常に激しくなってきている中で、23区の中にあっても、例えば高校や大学に進学するときの支援も自治体によって違っています。まず、その違いに気付いて、どうしてそこの違いが出てきているのか。じゃあ自分たちが生活する町として、どういうサービスを求めて、そこに移り住むのか、選択していくのか。またなければ、それを勝ち取っていくのかといったところを、地方自治の比較を通じて、先ほど来のお話の客体から主体に、変革のというところの実感として、1つ身近なところでの素材として使っていただけるのではないかなと思います。
 一連の流れの中ですけれども、以上3点申し上げます。ありがとうございました。
【篠原座長】  どうもありがとうございます。
 それでは松川委員、お願いします。
【松川委員】  ありがとうございます。岐阜女子大学の松川でございますが、この3月まで岐阜県の教育長を11年ほど務めさせていただいておりましたので、その中で主権者教育につきまして取り組んできたことなどを少し御紹介しつつコメントさせていただきたいと思います。
 もともと全ての教育活動を通して主権者を育てるということが教育の役目であろうと思うわけですけれども、平成27年の6月に法が改正されて、高校に在籍している生徒が在学中に新たな有権者になり得るということになりましたので、それを契機にしながら新たな取組を進めてきたところでございます。篠原座長にも一度来ていただきまして、教育委員会の幹部とか学校の管理職の方々を対象に講演をしていただきました。
 岐阜県といたしましても、平成27年度末に、小・中・高、特別支援学校共通に使っていただくような主権者教育のリーフレットというのを作りまして。ちょっとこんなような簡単なものですけれども、ふだんやっている関係ないように見える教科であっても、その中で、それがどのように生きているかと。例えば技術・家庭科というような教科の中でも、エネルギー問題だとか、幾つか関心のあるテーマがあるということを改めて自覚していただくようなものとして作りました。それから、先ほど御紹介されました、文科省と総務省が作りました副教材と、それの指導資料がありますので、それを使いまして教員研修というのも進めてきたところでございます。
 平成28年度になりましてからは、先ほどもちょっとお話が出ておりますが、小・中学校は意外に、キャリア教育も含めて地域と密接に絡んでいて、地域人材を活用し、地域に出掛けていくということがありますが、高校になりますと、特に進学校あたりは進学指導一辺倒で、学校の地域というのがはっきりしない、どこの県に住んでいるのかも余りはっきりしないような実態がございまして、県立高校を指定校にいたしまして、政治的教養を育むカリキュラム開発事業というのを立ち上げました。これは、県下の代表的な進学校ですけれども、そこが立地しております市が、やはり若者の県外流出、都会へ出ていくということに大変危機感も持っておりまして、そこの市の職員、市議会の議員さん、それから商工会議所等々とつなぐNPOがありまして、そこに仲介をしていただきながら、高校生が市会議員の方と討議をするとか、議会でいろいろお話しするとかというような取組をやりました。その中で、市にある病院の産婦人科医がいないとか、小児科医がいないということについて、どういうふうに対応を立てていくのがいいのかというような、医療、福祉に関わるような問題1つ取り上げても、やはり高校生が住んでいる地域の事柄にいかに目を向けていくことが大事かということを再認識しました。進学校特有の大学受験勉強との兼ね合いもあって、課題もありましたけれども、いろいろ取り組みました。そして、それはその指定校だけの成果ではなくて、ホームページにいろいろの事例を挙げて、他校でも参考事例にしていただくというような試みをしてまいりました。
 それ以外にも、どこでもやっていることですけれども、模擬選挙だとか模擬請願、模擬議会とかもやりまして、高校生とそれぞれの市、県の職員との意見交換会、それから市町村議会議員との対話集会、それから市町村職員の出前講座だとか、あるいは検察庁、裁判所なども実際行って見学するというようなこともやっております。ともすれば社会科とか公民の先生だけがやるということではなくて、学校を挙げて全体として取り組んでいくような試みがこれからも必要だと思っております。
 前回の議事録も拝見させていただきながら、特に私が感じている問題点を2点だけ申し上げさせていただきたいと思います。
 主権者教育というのと広い意味では関わると思いますが、人口減少というのが、地方においては急激に進んでおります。そのことが、今後大きな問題になってくるだろうということです。
 ともすれば高校等の進路指導は旧態依然としているわけですけれども、地元に若い人が残らないような事態がどんどん進んでいるということについて、高校生が社会を形成していく主体であるという当事者意識をどう持つかということは大事でありまして、特に地方においてはそのことを、高校の進路指導とかキャリア教育とも絡めて主権者教育を進めていくことが必要だというのが1点でございます。
 もう1点は、若者がどういうところから情報を得ているのかというのが、私たちが想像しているものとは大分変わってきていると。今、NIEというので教育に新聞をという活動は非常に盛んですが、実際、新聞をおとりでない御家庭が増えてきていて、やはりネットを通した情報を得るということが進んでいる中で、今後、主権者教育についても、メディアリテラシー、広い意味ではそうですけれども、若い主権者がどのように情報を得て自己の意見を形成していくのかという点にも非常に注目してまいりたいと思っております。
 以上でございます。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 この後、事務局から新しい学習指導要領の中で主権者教育がどういうふうに位置付けられているかの説明をしていただこうと思っていたのですが、神津会長が御到着されておりますので、まずは、そちらのヒアリングの方から先に始めて、学習指導要領の話は、時間があれば、なければ次回に、また説明をしていただくということにしたいと思います。きょうはヒアリングの第1回目ということでございますので。
 いろんな関係団体が主権者教育というのを最近、非常に推進していただいているわけですけれども、本日は日本労働組合総連合会の神津会長にお越しをいただきました。ヒアリングのトップバッターということでございますので、よろしくお願いいたします。
 連合におかれては、年度方針において、主権者教育の推進というのを掲げておられます。そうした観点から、大体20分程度お話を頂き、その後、質疑と意見交換を行わせていただきたいと思っています。
 それでは神津会長、よろしくお願いいたします。
【神津連合会長】  改めまして、おはようございます。御指名、御紹介いただきました神津です。
 きょう、こういう貴重な機会、お時間頂いたこと、まず感謝を申し上げておきたいと思います。20分ほど説明させていただきます。
 お手元に横長で資料の3、右上に銘打ってある、こちらを御参照いただきながら、私の話を聞いていただきたいと思います。
 今、篠原座長に御紹介いただいたように、方針において、連合としての考え方を持っております。それをベースにしながらも、私なりに、この主権者教育ということについては非常に思いを持っていますので、そのあたりも含めて説明させていただきたいと思います。
 表紙を開けていただいて目次です。まずは1、国政選挙の投票率の推移ということで、これは要するに、もちろんオープンになっているものですので、周知の事実ですが、やはり戦後すぐから投票率がどう推移してきたかということは、とりわけこういう場に御参集の皆さん方からすれば、とうに先刻御承知の話であるですけれども、改めて、基本のところを振り返りつつ話を進めていきたいと思います。
 御承知のように、上がり下がり、もちろんありますけれども、こうやって補助線引っ張ってみると、下がり続けているということだと思います。70%台が普通であったところが、今は50%ちょっとという現実です。この下がり続けていることの問題性というのは極めて重たいと思っています。
 ある意味で私の勝手な解釈みたいなところもあるんですけれども、やはり戦後すぐ、ああいう大変な戦禍に遭って、こういうことを繰り返してはいかんという、そういう原点といいますか、政治意識が、放っておいても高い状況であったものが、徐々に下がりっ放しということではないかと思います。
 私、今62歳ですけれども、親の背中を見ながら、決して何か強制された記憶は一切なく、投票に行くのは当たり前だと思っていました。しかし、だんだん代替わりをしていって、政治意識の縮小、再生産を繰り返しているというのが、これまでの状況ではないかと思います。
 それから、同じく戦後すぐからの推移を地方選挙において見たのが次のページで、2ポツであります。統一地方選の投票率の推移ということで、これも一貫して下がり続けているということです。ある意味、地方選挙というのはより身近なものであるということだったのでしょう。80%を超えていた、あるいは90%台があったみたいなところから、むしろ今これは、国政選挙以上に投票率は下がっているというのも御存じのとおりであります。より身近なものであるはずの地方選挙の投票率の落ち方が強いということであります。そしてこれは、あえて言えば、投票があったものの数字ということでありますから、今、地方選挙では無投票当選というものが随分と増えてきておるということも頭に入れておく必要があるだろうと、このように考えるところであります。
 次に3ポツに行きまして、この投票率を、とりわけ直近のところで、これも私どもの危機意識の1つなんですけれども、若者の投票率についてです。20代の人が30%台だというのは、これもよく言われるところです。
 これは諸外国と比較してどうだろうということで、連合事務局の方で統計、下に出所がありますが、これを基にして拾って作り上げたグラフであります。棒グラフのところが全体の投票率でして、そのうち18歳から24歳だけを抜き出したところが、ひし形の部分です。日本の全体投票率は52%でありますけれども、うち18歳から24歳まで抜き出すと31.2%ということです。
 右端にスイスがありますが、スイスは大体、国民投票で物事を何でも決めるというところがありますので、余り単純な比較はできないのかなと思います。ここに挙げた主要国の中では最も後塵を拝しているということでありますし、その中で、特に若者の投票率が低いということであります。
 そのことと、ここで少し注釈的に記載をしていますけれども、こういった諸外国、先進国では、例えばドイツは、政府の機関が学校等における政治教育の支援をしている。あるいはスウェーデンでは、選挙の際に、先生が生徒を連れて候補者の選挙事務所を訪問する。これが定着化している等々、欧州では様々な形で主権者教育の取組が積極的に行われている。そういったことも如実に反映しているのかなと思います。
 言ってみれば、3人に1人も投票に行っていないというのが、日本の若者の実態でありますから、その年代同士の中では、選挙があって「投票に行った」と言ったら、なかなか変わったやつだなと思われているというのが実態ではないでしょうか。このまま政治意識の縮小、再生産が進めば、全体が30%台になるような、そういう国に、未来はないのではないかなと、思うわけであります。
 そして、次が4ポツでありますが、こういったことを我が国の人口ピラミッドに重ね合わせて考えたいと思います。人口ピラミッドがつり鐘型なわけです。超少子高齢化の真っただ中にある、人口減少の真っただ中にあるということです。
 したがって、説明書きの真ん中辺からですが、20歳代をくくると、約1,250万、60歳代をくくると1,830万人ということで、大体1.46、1.5倍ぐらいの差があります。これに投票数を掛け合わせると、右側にありますように、1,300万票余りと423万票ということで、3倍以上の差になっているということであります。政治家からすると、投票に行く人を大事にするというのが、「さが」でしょう。ますます若者は放っておかれるということの悪循環の中に我が国はあるということだろうと思います。
 ということで、ここまでは少しおさらいも含めて、悲観的な数字ばかりで恐縮でしたが、悲観論ばかりでは、ちょっと悲しくなるばかりでありますので、いや、そんなことだけじゃないねというのが次からの内容であります。
 5ポツ。政治は「他人ごと」ではなく「自分ごと」と気付けば事態は随分変わるという1つの例ということで、イギリスについてです。目下、EU離脱ですね、本当にできるのかどうか、大変揺れている状況にありますが、ある意味、それはイギリスの国民自体があっと驚いたのが、このEU離脱を決めた国民投票だったわけです。これは年代ごとに随分差があるということは言われておったわけですが、改めて、こうやって数字を引き直して出してみると、本当に歴然としたものであって、18歳から24歳は36%しか実は国民投票へ行っていなかったということです。概して若者はEUにとどまるべきと考えていた人が多かったので、余計、驚き、落胆が大きかったということです。
 その翌年の2017年の総選挙については、保守党が大きく後退をしたわけですが、これは資料の出所が違いますので、年齢の刻み、ゾーンが一緒ではないんですが、18歳から24歳を、同じく赤色で表示をしました。大体57から9の間、58%あたりということで、そこは、国民投票と選挙という違いはありますけれども、しかし投票の熱ということでいえば、劇的にそこは改善をしたという実例です。
 実際に私も総選挙直後に、イギリスのナショナルセンターであるTUCとの定期協議があって、その熱気といいますか、これはイギリスのTUCですから、労働党サイドなわけですけれども、若者の、そういう手応えを感じたということを、じかに聞いてきたところであります。
 そして、じゃあ日本の若者どうなのかということなんですが、6-マル1、これは連合として、いろんな形で世論調査を行っています。ネットを使って、かなり従来に比べると簡単に意識調査というものができるようになっています。2015年の7月ですから少し前になりますけれども、18歳前後の若者1,000名を対象に実施したインターネットアンケートの結果についてです。
 これは非常に勇気付けられる結果でありました。この投票に行くかどうかという問いに対して、投票に行きたいと思うというのが大体、7割前後はいるということです。ですから、投票率自体は30%台にまで低下しているんですが、行きたいと、潜在的に思っている人は少なからず若者の中にいるんだということの調査結果でありました。
 投票する場合に何を基準に選ぶかということの中では、掲げている政策ということで、実に真っ当な結果であったのかなと思います。
 ただ、右下の方にありますけど、何を基準に選べばいいか分からないというのも、いろいろある数字の中では比較的多い。判断材料が示されれば、若者の政治参加、行動を促す可能性があると逆に見えると、そういう結果であったと思います。
 それから次のページにまいりまして、6-マル2なんですが、これは同じアンケートについてです。選挙がどのように変わったら「投票しよう」という気持ちが強くなると思いますかという設問の答えで圧倒的に数字が大きかったのは、インターネットで投票できるようになればという回答です。やはり、若者らしい反応であったということが言えると思います。
 ただ諸外国を見ても、実際にインターネットで投票ができるというところは余りないのも御承知のとおりであります。エストニアの例を挙げています。エストニアでは、国政選挙でもインターネット投票ができているということですが、インターネットの普及度が、抜群に高いという背景もあるようです。だから日本もやろうよと、そう簡単な話ではないとは思います。しかし、こういう若者の意識をどうやって受け止めていくのかということは、やはり重たい話ではないかと思います。
 あと、このアンケート結果で、やっぱりそうだよなと私なりに感じたのは上から6点目です。投票することが当たり前の空気になればという、これも割と高い回答になっております。3人に1人しか投票に行かないということになると、まあ、行かなくてもいいんだろうと思ってしまう、そういう怖さの裏返しの話だろうと思います。
 次に7ポツに参りまして、次世代への負担の先送りということです。政策テーマとして、代表的なところで1つ申し上げると、借金についてです。国と地方の長期債務残高です。1,000兆円をはるかに超えるということでありますので、若者に視点を当てるときに、この問題を抜きに考えるわけには全くいかないということだと思います。よく使われる例え、比喩ですけれども、私たちは、子どものクレジットカードで、ぜいたくな買い物をしていると言われてもしようがないということではないのかと思います。
 そして、これも諸外国との間での比較についてです。次のページの8ポツですが、こういう将来世代が負っている借金というのは、先進国の中で日本だけが突出しているということです。プライマリーバランスを黒字化させるという話も、2025年に先送りされたわけですけれども、今の調子でいくと、本当にどうするつもりなんだろうと、思うわけであります。
 諸外国はいろんな形で主権者教育が進んでいて、その蓄積があって、若い人たちも投票に行く、政治意識がそれなりに高い。そういう中で、この負担の構造というのが全く二極分化しているというのも、皮肉というのか、ある意味、だからこそそうなったのかという気もするわけです。
 20年後、30年後の国のありようが政治の世界で示されていないというのは、日本の抱える問題の最も深刻なことではないかと思います。与党も野党も、その辺は少しおざなりにし過ぎているのではないかというのが、私自身の率直な思いです。
 次に9ポツに参りまして、18歳以上選挙権です。これは2016年7月、国政選挙としては、この参議院選挙で初めて適用されたものです。先ほど30%台が当たり前になっているということを申し上げましたけれども、ある意味、打てば響くというか、やればできるというか。もちろん満足いく水準では全然ないにしても、このとき18歳の投票率が51.28%、19歳は42.30%。18歳選挙権というワーディングが、19歳の人たちはどう見たのか分かりませんが、そういう結果になりましたが、多少引き上がったわけです。
 しかしながら、1年ちょっと経った後の総選挙においては、18歳は47.87%、19歳は33.25%ということですから、3つ目の段落で記載していますように、18歳の人たちがおおむね19歳になっていたとすれば、同じ人たちの投票率が18%も下がってしまったということです。わずか1年間で投票しないということになってしまった人たちは18%もいたということで、これは極めて大きい問題というか、そんなものだったのだなということだと思います。
 いろんなことが考えられると思うんですが、一番下の行に、これは根っこにある問題ですけれども、必ずしも文部科学省に係る話だけでないところも含めての議論と考えさせていただいていますけれども、大学生は親元から離れて大学に通うというケースが多いわけです。選挙権が20歳からではなく18歳からになったというのは、すごく大事なことだと思ったのは、スタート時点が20歳だと、もう親元を離れてしまって、住民票を手元に移していない。そうすると、煩雑な不在者投票の手続を経なければ投票に行けないということですから、スタートのところで投票に行かない。投票に行かなくても別に世の中変わるわけじゃないし、何も自分の身の回りで困ったことは起きない。まあ、それだったらいいかということで、そういうスタートの原体験が、その後ずっと引きずってしまうということになってしまってはいないかと思うわけであります。
 18歳選挙権というのは、投票のしやすさということでは、良かったのかなと思うんですが、しかし、すぐ大学に入って、何かえらい面倒なことをしなければいけないという壁にぶち当たって、投票率が18%下がった大きな要因になっているのではないかなと、思うところであります。したがって、環境整備は、若い人たちに向けては非常に大事な要素だろうと思います。
 そしてもちろん、投票に行こうということだけだと、弱いんだろうなということで、ではなぜ政治に向き合わなければいけないのか、政治に向き合うことが当たり前だということが染みついていないと、面倒だったら、もう行くのをやめるということになってしまうと、いう根っこの問題があると思います。
 最後のページは、今申し上げたことを大体まとめているようなことです。とりわけ真ん中の3つ目の段落ですが、「今の若いやつは投票に行かない」なんて言われることもあるわけですけれども、よくよく考えると、そうなった責任は私たち大人にあり、ある程度の年代にある人にほかならないと思います。諸外国との差を見ても明らかでありますし、諸外国はどういう主権者教育を長年にわたって積み重ねてきたのかということは、もう少し知見が必要なのかなと思いますが、この差は本当に歴然としていると思います。すでにある雰囲気に日々生活している若者からすると、投票に行こうという気持ちにならないということも、これはある意味、仕方のないことと思います。
 ですから一方で、先ほど改めて申し上げたように、この間、将来世代にツケを相当程度先送りしていることも含めて、私たちの年代には相当の責任があるということではないかと思います。
 最後の段落で表現していますけれども、こういったことを踏まえれば、しかし打てば響くという要素もありますから、今からでも、もちろん遅くないというか、今からねじを巻いていかないと、本当に日本という国は一体どうなるんだろうということだと思います。義務教育段階から主権者として必要な資質を粘り強く育むということ、地道に主権者教育を続けていくということが求められているのだろうと思います。
 大体20分ということで、私からは以上とさせていただきます。よろしくお願いします。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 それでは、神津会長の今の御発表に対して御質問、また御発表を受けての御意見など、御自由に御発言を頂ければと思います。御発言の際には、また名札を立てていただいて、終了したら、またもとに戻していただくということで、お願いをいたします。
 いかがでしょうか。どうぞ、植草委員。
【植草委員】  千葉県の実籾高校の校長の植草と申します。ありがとうございました。
 ちょっと質問と意見、混ぜたような格好なんですけれども、今お話あったところで、学校現場等で、やはり政治的な教養を育む教育、これは進めていく必要が非常にあるかと思います。ただ、現場では非常に、やっぱり政治的な中立性というのがすごく大きくのしかかると言っていいんですかね、それがあります。なので、実を言うと、非常にリアリティーのある政治、又は選挙の教育というのに、やっぱりどうしても制限が掛かってくる。先ほど御紹介していただいた、いわゆる候補者のところに教員が連れて行くというのは、今現状としては、日本の学校では難しいかなと思います。
 そういうところがあるということを踏まえると、連合としては、そういったところも大きく日本としては変えていく必要があるとお考えなのか、あるいは、やはり教育基本法にもありますように、政治的中立性というものは大きくあるとお考えなのか。その辺も含めて、お願いします。
【神津連合会長】  ありがとうございます。一言で申し上げると、私は、そういうところも含めて変えていかないと、主権者教育というのは本物にならないと思います。ただ、これを変えていくのは、相当大変なことなので、次善の策として、実際の学校現場でどういうふうに進めていくのかということは、それはそれでまた工夫は必要だろうと思います。
 だから、諸外国がやっている例を、そのままストレートに日本に当てはめるというのは、今、植草委員からもお話があったように、まず、この成り立ちからして不可能という部分も相当あると思います。それをどううまく工夫してやれるのかということは、進めていく必要があると思います。
 それで、話を戻すと、根っこのところですけれども、日本人の選挙との向き合い方というのは、日本の公職選挙法というのが、世界の中で一体どうなのかというのをよくよく考える、見極める必要があると思っています。あれやっちゃいけない、これやっちゃいけないというのが多過ぎます。ですから、国際標準からしても非常にオーバースペックだと思います。
 公職選挙法について、専門の弁護士の先生に、いろんな話を聞いて、学習会もやりますが、グレーゾーンが大きいです。ですから、危ういと思ったら、李下に冠を正さず、もうやらない方がいいという指導を受けています。
 明らかにだめだということの中には、例えば事前運動は禁止だということで、要するに公示前、立候補届前に、この特定の選挙で特定の候補者の当選のために有権者に働き掛けるというのはだめです。私は普通に考えて、何でこんなことだめなのかなと。自分がこの人の政策なり、この人の人柄はこうだから、何とかこの人当選させたいということを言えない。もちろん公示されればいいんですけど、それは期間としては極めて限定的なことは御承知のとおりです。
 それと、ネット選挙がやっと解禁されたと言われていますけれども、SNSだったらいいけれども、個人のメールはだめだというわけです。全く理解に苦しむような形で、あれやっちゃいけない、これやっちゃいけないみたいなことが、我が国の公職選挙法です。これはもとをたどると、昭和の初期に男だけという、非常に不完全でありましたけれども、普通選挙法がスタートしたときに作られた枠組みがほとんど踏襲されていると聞きます。お金の問題は、厳しく取り締まる必要あると思いますけれども、ほかのところは、もう少し考え直す必要があるのじゃないのかなと思います。
 お尋ねに対しては、そういう感じを持っています。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 佃委員。
【佃委員】  神津会長の今のご意見にあった、禁則事項が多過ぎるというのは全く賛成でございます。選挙に限らず、社会そのものに、日本人の寛容性というものが非常に少なくなって、マゾヒスティックに叩きのめすという事に快感を覚えるような社会になっていっているという気がします。この寛容にみんなを認め、許すという文化は、もともと日本の文化だったはずなのですが、これが欠け始めるというのは危ない。これは全てに言えることだと思うので、まず、教育の場で考えてもらいたいと思います。そういう意味で、全く賛成でございます。
 また、若者が投票に行っていない、若者を何とかもう少し投票させる努力が必要であるというプレゼンの内容についても、全く賛成でございます。選挙に行かせるには、これは松川先生からも御指摘ありました通り、新聞等の媒体ではなくて、SNSとか、それからネット配信とか、個人のブログだとか、メールだとか、そういう情報から若者が学ぶものであるから、もう新聞に頼らないメディアのリテラシーというものを、是非広めるべきだと思います。新聞は、偏りがちとよく言われています。この新聞はこっち系、この新聞はこっち系というのが、一般の人にも、観念が固定されてきたかと思います。そういう意味では、むしろ新聞離れしつつある若者を歓迎すべきで、新聞に頼らないメディアを、むしろ志向すべきだと考えております。その意味でも、神津会長の今のプレゼンに私は賛成でございます。
 次に、そういう多数の、不特定多数のメディアから自分がどう学ぶかという点。基本的には若者が個人の判断力、情報を整理し判断する力が必要になってきます。これは、この前回の議論にもありますが、基盤となる資質・能力の育成ということで、高校時代までの間に、いわゆるリベラルアーツと言われた、数学、国語、理科、社会、音楽、体育、こういう基礎学力を徹底的に教え込むことによって、基盤となる資質を高校時代までの間にしっかりと各個人に育成する。この教え込むというのは当然、双方向教育、及び議論による教育のことで、黒板に書いて教えるというものではなくて、自ら能動的に学ぶという形で、基礎力を徹底的に付けることが必要だと思います。これは前回の議論に出てきましたので、重なりますけれども。
 したがって、主権者教育とは何かというと、基本的には、そういう全人格的な教育というのを高校時代までにしっかりと教え込む。その基盤の上で、個人の利益と公共の利益とのバランスをどうとるのか、どう人間としてあるべきか、社会人としてどうあるべきかということを、各個人が考えていく。そういう教育をしていくということだと思います。
 以上です。
【篠原座長】  ありがとうございます。神津会長、今の佃委員のお話についてコメントございますか。
【神津連合会長】  私も全く同意見ですし、本当に基礎のところからやっていくということは極めて重要だと思います。
 あと、メディアの触れ方、触れ合い方というんですか。新聞からネットに、かなり移行しているということを、私も実感として持っています。寄附講座で、大学に出向いて講義を持つことがあるんですが、この間、50人ぐらいの受講生相手に、「新聞を読んでいる人、手を挙げて」と言ったら、1人もいませんでした。1週間置いて、別の大学に行ったんですけど、300人ぐらいのところで同じことやったら、まあ、二、三十人ぐらいいたでしょうか。本当に、もうそれが現実だと思います。
 ネットメディアを前提にしてリテラシーを高めていく必要があるというのは、これは全く私もそうだと思っています。新聞によって傾向が随分違うというのは私も身にしみて感じています。一方で、新聞からネットメディアにシフトしていることで注意を要することが私は1つあると思っています。新聞には、いろんな記事があって、それは自分が見ようと思っていない記事も結構目に飛び込んでくるという良さがあるんですね。そういう良さを感じているかどうか分かりませんけれども、私なんかも、やっぱり新聞紙広げないと、ちょっと気持ちが落ち着かないところがあります。一方で、若い人たちに、もう一度、新聞を読みなさいと言っても、多分難しいだろうと思います。
 ただ、それはそれで、そういうことも試みとしてやっていく必要はあると思います。改めて新聞の持っている良さに気付いてもらうということも大事だと思うのは、ネットメディアはどうしても、見出しがあって、それを選ぶと、この人はこのニュースが欲しいんだな、この類いのニュースが欲しいんだなということで、そればかり送られてくる傾向があります。そこは結局、自分が選んでいるようでいて、実は偏りのある情報しか接しないような仕組みになっている。そういうネットメディアというか、今のITの流れがありますので、気を付けながら、しかし、リテラシーを高めていくということについては、大いに力を入れていくべきだと思います。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 寺本委員、どうぞ。
【寺本委員】  ありがとうございました。今ずっとお話を頂いた中で、6-1の若者1,000人を対象にしたアンケートで、潜在的な政治参加意識はあり、投票に行きたいと思うというのは70%ありますということを教えていただきました。確かに行こうという気持ちはみんな持っているというのは私たちも実感として思うんですが、まさにここに書かれているとおり、判断材料がよく分からないとか、何を基準にしたらいいかというのが分からない。これ、投票に結び付くような判断材料ということもそうですが、ちょっと見方を変えて、何かを買うというときの判断もそうですが、比較ができて、なるほど、これだったらという納得ができれば、商品を買うという行動に、購買活動につながるんですが、投票という行動についても、比較をして、そして自分たちで判断し、賛同できるような中身が示されている、そういった方に投票してみようかなということになるので、その判断材料を、できれば、それぞれがばらばらに出すのではなくて、もちろん選挙広報等でやっていますが、もっと若者にも分かりやすいような示し方をしないと、具体的な若者の投票行動に結び付くということには確かにならないのかなと思っています。
 またインターネットというのは、まさに今お話のあるとおり、もう片手に必ずスマホというぐらいの時代になっていますから、インターネットでという気持ちになるのは、もちろん十分に解ると思っています。
 ただ一方、先ほどメディアリテラシーの関係がありますから、たくさんあるいろんな情報の中から、きちっと自分に合った情報と、そうではない情報がたくさん世の中にはありますから、様々な情報の中から総合的な判断をするという力を身につけることが、この主権者教育をしていく上で、教育の分野であり、きちっと自分で判断をして決めて、そして行動する、こういったことをしていくのが主権者教育の基本になってくるのではないかな、こんなふうに思っています。
 それから若者の投票率がどんどん低下していくというのありましたが、先ほどお示しいただいた表にあるとおり、どうしても年代が、若者の数が少なくて、高齢者に向かってどんどん人口が多くなっていて。絶対的な数からすると若者は少ない。若者が投票しても、結果的に自分たちが思ったようにはならなかったということになると、じゃあ、もう次行かなくてもいいかという形になりがちなんですね。だとするならば、学校現場とか、ほかのところでも、若者だけが、自分たちが主権者として選択をして、選択をした結果が見えると、なるほど、こういう形で変わったんだというようなことが、例えば自治体単位でも結構ですし、もう少し小さなコミュニティの単位でも結構ですが、こういったことをずっと繰り返していくことによって主権者意識の涵養にもつながっていくということと、継続して、こうした投票だとかの行動にもつながっていくのではないかなと思っています。
 また大都市ほど低いという結果が出ているのも、大きい都市になればなるほど当然、有権者の数も多いんですが、全体の数、投票された数の合計も多くなるものですから、その中で自分の1票が割と薄くなるという感覚もあって、ああ、変わらないんだなみたいなことにつながっているのもあるのかなということと、それから先ほど下宿人という言葉がありましたが、やはり地方から都市部に出てきて学んでいる学生たちにとって、そこに住民票を移していなければ、その地域の方を投票ができないものですから、そういったことも含めて、減っていく材料は確かにあるのかなと感じた次第です。
 以上です。
【篠原座長】  では、小玉委員の方から先に順番で。終わってから、まとめて神津会長の方にコメント頂きます。
【小玉委員】  東京大学の小玉と申します。どうもありがとうございます。大変興味深いデータをいろいろ頂きました。特に投票率の推移のところで、総選挙について言うと、39回から40回、41回のところで急激に下がっているんですけれども、ちょうど選挙制度が変わって、中選挙区制から小選挙区制になったことと対応しているわけです。これを一概に、政治的無関心の増大と言えないと思うのは、中選挙区制というのは候補者がたくさん立つので、その分、多くの候補者が有権者を動員するため、比較的投票率が高い傾向になります。それに対して小選挙区制になると、政権選択型の選挙になり、候補者の数自体が少なくなるので、全体として投票率が下がる傾向になる部分もあるのかなと思うんです。ただ、例外的に2005年と2009年の44回と45回が非常に高くなっていて、これは、44回は、小泉首相の郵政選挙があった年で、45回は政権交代で民主党が政権とったときです。つまり、郵政民営化の問題、それから政権交代の問題というふうに、争点がかなり明確であると投票率が上がるのは、主権者教育的にも重要な意味があると思います。争点があって初めて政治になるので、争点がはっきりしているということは、主権者教育の側の問題であると同時に、政治を創り出していく私たち自身の課題でもあって、それが可視化されると投票率が上がるというのは重要な示唆だなと思います。
 神津会長にお聞きしたいポイントは、ちょっと聞きにくい部分もあるんですけれども。統一地方選挙の投票率の減少傾向と関わって、欧米の場合には、働く側を代表する政党と、経営者側の意見を代表する政党があって、それらの競い合いの中で、地方選挙でも、それぞれの側が候補者を立てて競い合うので、それが政治的な関心の向上に寄与している部分があると思うのです。これに対して日本の場合、ともすれば、特に首長選などになりますと、相乗り型の選挙になることが多く、有権者が無関心になるというか、そういう状況があって、その辺、連合的にどうなのか、是非この機会に、ちょっと質問してみたいなと思ったというのがあります。
 最近でも、新潟とか沖縄のように、それぞれの側が候補を立ててやれば投票率が上がるということが逆にありますので、相乗りになってしまうと、争点が可視化されないのかなと思います。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 小原委員、どうぞ。
【小原委員】  まず投票率の低下ですけれども、確かにこれは、他の国と比べると非常に危機という指標なのかもしれません。一方、年々投票率が下がってきているということは、日本の社会がより安定してきているという証ではないのかなという気がいたします。こういった国々の投票率と日本を比較していますけど、その国と日本の国の在り方が異なっていて、日本の場合は、法律が作られて、それを行政が推進していくのですが、その行政機関が非常に強いというか、しっかりしているので、選挙で国が変わるというよりも、行政が任せておけばうまく進むという感覚が、もう国民の中に出てきている気がします。遵法になればなるほど、過去に作られた法律に縛られていくわけですから、それを淡々と行政が進めていけば国は安定していく感覚が日本の中にあって、そのため、国が安定しているという特徴が1つ、この投票率の低下に表れている気がします。これは日本の場合の強さというような見方もできるのではないかと感じております。
 それから、国民投票をきっかけにということになると、より具体的にそれを進めていくと、とりあえず日本にとっては憲法どうするかという、この問題に行き着いていってしまうのではないか。これはまさしく国民にとって大きな課題となるので、ただ単に若者だけじゃなくて、親と、みんなで話し合うきっかけになるのではないかと思います。
 先ほど言いましたように、小選挙区制になればなるほど、もう地域のことしかならない。それはもう行政に任せておけばいいと、そういう風土の中にあって、国を左右、揺るがすようなテーマということになると、非常に難しい問題がそこにあるのではないかなという気がいたします。
 もう一つ、我々が学校教育における主権者教育の推進者として考えなければいけないのは、政治と教育の分離です。どう政治に関わるように教育していくのかという難しさが、ここにあると思うんです。主権者という言葉が、欧米で言うシティズンシップとどう違うのか。シティズンシップ・エデュケーションでは、恐らく義務ということも教えているのではないでしょうか。その義務の中で、主権者教育というものが、その一部なのか、あるいはそれをもっと包括する概念なのか、ここあたりが今後、主権者教育を推進していく上で大きな問題になっていくのではないかなという気がいたします。
 日本の社会の安定さが、ある意味、投票率低下ということもありますし、投票率上げるために何か国を大きく揺るがすようなテーマを提供することで投票率を上げられるのか、それをもって主権者教育に結び付けられるのかという、非常に難しい課題が、この主権者教育には突き付けられているような気がいたします。
 ですから、主権者教育を、ただ単に投票すればいいという権利の行使だけで終わらせるのか、それとも、もう少し市民としての必要な知識をそこで授けるのかということを考えていかなければいけないのではないかなと思っております。
【篠原座長】  ありがとうございます。今、委員お三方から、御自分の御意見を交えながら、お話がありました。神津会長、このお三方の意見を聞いて、コメントありますか。
【神津連合会長】  ちょっと順不同になるんですけれども、首長選の御質問も具体的に頂いていますので、まずそのお話から先にしたいと思います。
 確かに現象としては、御指摘いただいたようなことに、どうしてもなってしまっています。私ども47の都道府県に、それぞれ地方連合会がありまして、各都道府県の行政との関係では、できるだけ私たち、働く者の立場の政策を要請して、それを取り込んでいただくということをそれぞれやっています。連合は来年で30周年になるんですけれども、そういうことをずっと積み重ねてきた中で、一言で言えば、例えば都道府県の知事とは、ある意味で、いい関係持っているんです。したがって、具体的に選挙戦で、かつて戦った相手であっても、大概はそういう、お互いに意思疎通をする関係になっていて、その方が再選目指して手を挙げられるというときに、やっぱり支持をするというケースが非常に多いんです。したがって、一方で政党がそれぞれどういう候補を擁立、支持するのかということは、それはそれで、ある意味、別列車で走っているんですが、結果的に、現職の場合、相乗りということも多いわけですから、そうなってしまうというケースは多いことは事実です。
 お話の中にあった沖縄とか新潟の場合は、国政マターがそのまま持ち込まれる。そうならざるを得ないということも含めて、そういう図式にあったものですから、これは全く対立型で、連合も、例えば沖縄であればオール沖縄の、そこはむしろ中心的存在として選挙戦を戦ってきたというようなことです。ただ、そういうことになるケースはむしろ少ない。
 私は、だから、それを連合として、政治意識を目覚めさせるためにということにはなかなか、正直言ってならないんです。一方、小選挙区制になって選択肢が少なくなったということが、確かにこれ投票率に影響しているなと、お話を聞いて思いました。選択肢が少ないということに対して、どういう投票行動に出るのかということも、これも1つの主権者教育の中であっていいのかなと思います。
 白票を投じるということも、ある意味で一つの選択肢です。本当は選べることが一番いいんですけれども、白票を勧めるというと、また語弊があるのかもしれませんけれども、ただ、投票に行かないということは何らの意思も表示しないんだということも、少しそこは示していくことは必要なのかなと。これは私の感じていることです。
 それと、安定していることのあかしという、確かに、そこは本当そうだと思うんです。私は日本の官僚は極めて優秀だと思っていまして、これは世界の中でもトップクラスだと思います。したがって、いろいろ問題があっても、きちんとした行政が進められるということがある一方で、先ほどの小選挙区制になったというのも、一連の政治改革の中でこうなってきたんですが、僕は1つ、ここが欠けていたなと思うことがあります。選挙制度は、イギリスの制度を相当程度参考にしたと思うんですけれども、官僚と政治の関係も、もうちょっと踏み込んで参考にすべきだったのではないかと思っています。
 イギリスの官僚の方々の政治との関わりというのは非常にはっきりしていて、与党であろうが、野党であろうが、必要なサービスはすると。だから、総選挙のときに、野党のマニフェスト作りにも官僚の方々は力を同じように提供するということだそうです。一方で政権との関係では、そこはもちろん官僚としての役目を果たすんだけれども、かといって、与党だからといって、何でもかんでもサービスをするということではなくて、そこは極めて区別というか、けじめを持っているとも聞くわけです。そういったところも含めて、一連の政治改革の中で、もっと参考にすべきだったのではないのかなと思います。
 今の図式の中だと、政権与党には徹底的に、そこは官僚としての力を発揮する。それが当たり前だというのが今の日本の仕組みだと思うんですが、小選挙区制になって、悪いところばかりが結局進んでしまっているのではないのかなという感じを私は持っています。だから私が深刻な問題だと思うのは、若い人たちからすると、そんな問題意識を持っている人はあまりいないんだと思うんです。
 連合は今の政権とも是々非々で接していますから、働き方改革であるとか、教育の無償化とか、私は非常にいい方向に進んでいると思っているんです。もちろん政策がいろいろある中で、是々非々ですから、非とする部分も少なからずあります。
 だから若い人たちは、与えられた感だとか、やってくれる感といいますか、「お任せ民主主義」という言葉があるように、今うまくいっているし、いいではないかということが、どんどん広がっている。そういう形で、放っておいてもやってくれるようなことになりはしないかというのが、更に深いところの危機感です。ですから、容易なことではないなと思っています。
 一方で現実を見据えれば、借金が膨大になっておりますので、このこと1つとっても大変なことだと思います。若い人たちは納得感を持つか持たないかで行動を判断するというお話が、先ほど寺本委員からもありました。そうだと思うんです。だから、やはり希望もあるはずだと思います。私たちが、主権者教育ということについて、若い人たちに遠慮しないで働き掛けるようなものを作っていくことが必要ではないかと思います。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 本日の会議は11時までになっていますけど、皆さんの御予定がよろしければ、10分ぐらい延長したいと思っておりますが、よろしいでしょうか。ありがとうございます。では、田村委員、どうぞ。
【田村座長代理】  手短にお話をさせていただきたいと思いますが、今、大変いいお話を神津会長から頂いて、また、いいお話を先生方からも頂いているんですけれども、若い人を預かっている現場の立場で言いますと、今、若者が希望する職業の一番格好いいのはユーチューバーなんですね。人工頭脳が支配する社会というのが近々、まいります。つまり、今年幼稚園に入った子が二十何歳のときに2040年なわけですね。ですから、もう明らかにコンピューターの影を非常に強く意識しているんですね。
 ですから、そのことは無視することができないというのが根幹にあるんですね。それが一種のビッグデータとかそういう扱い方で、人間が考えるよりもっといい結果をコンピューターがしてくれるんだったら、お任せ民主主義が生まれてくると、そういう余地は確実にあるんだろうと思っているんです。
 ですから、余り若者は責められないなと思うんですが、一方、私たちが分かる範囲でいっても、先ほどもエージェンシーという話が出ましたが、人工頭脳にとって、一番難しいと言われて、できないかもしれないと言われているのが、いわゆるセンス・オブ・エージェンシーという問題なんですね。これは今のところ人間しかできないこと。ですから、エージェンシーを意識として持つことは非常に重要なことだろうということで、私のところでは若者といろんな機会に話をするときに、そういう時間をとってるんですけれども、その話をよくします。
 簡単に言えば、これからの世界は個人ですね。英語で言うとセルフというんですか。セルフが基盤になる世界、社会。それで、そのセルフを支えるものは、パブリック・セルフとプライベート・セルフと、こういう構造なんだと。日本人は大体、プライベート・セルフがセルフだと思っているんだけど、実は重要な部分でパブリック・セルフがあるんだと。その中で、具体的にはパブリック・セルフを抽出しているのは、学問でいえばリベラルアーツは、その典型なんですね。人間の普遍性みたいなものを突き詰めていって、パブリック・セルフというものを抽出してくる。イシューの中に、それを打ち立てていくことができて初めて本当の意味の民主主義。これは、お任せ民主主義じゃない民主主義ですね。これが生まれてくるんだろうと思っています。
 その部分の教育というのは、本当は小・中・高でやるべきなんだけど、時間がないし、難しいんですね。なかなか徹底してできない。ですから、今回の若者に投票権が与えられたという時期を見計らって、政治教育、投票教育をするというのは、学校の現場というのは教育等も中立性という意味で非常にやりにくいんですけれども、是非やらなきゃいけない。小玉先生がお話になったとおり、エージェンシーという言葉がOECDから発せられたというのは、恐らく人工頭脳の関連から、その問題が意識としては生まれてくるんだろうという気がしているんですが、それを是非かき立てるような教育をしていく必要があるんだなと思って、そういう意味で、これを議論することの意味を強く感じたんですけれども、いかがでございましょうか。
【篠原座長】  どうぞ。
【神津連合会長】  ありがとうございます。私もAIやネットの知見を余り持っていませんが、若い人は、その辺の力がありますし、いずれにしても近未来に第4次産業革命とか、IoTとか、これは人間が使いこなせるということがあって、その良さが本当に生きるということだと思います。
 私ども連合も、例えば電話相談を年間1万5,000件ぐらい受けるんですけど、働いているあなたが何に悩んでいるか、こういう悩みだったら、どこそこの労働組合にこれをつなげば、問題解決ができますよとAIが答えるという、多分そういう世界に、もう遅かれ早かれなっていくだろうと思います。
 だから、若い人たちが、おっしゃるようなパブリック・セルフという形でつながりを持って、選挙は何につながっているのか、投票するということは具体的に何につながるのか、現状に不満があれば、それをどうつないでいくのかということは、可能性としてはすごくあるということではないかなと思うので、そのあたりも含めて可能性を私たちも探っていく必要があるんだろうと思いました。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 ほかに御意見は。松川委員、どうぞ。
【松川委員】  若い人のことがいろいろ言われているんですけれども、既に、その若い人と言われている人の親の世代が、もうネット世代になっているんですね。ですから、大学生以下の人たちではなくて、そういう人の親の世代、40代ぐらいまでも含めて、かなり変わってきているということですよね。若い人の投票率が低いということだけが問題にされているけれども、私は、その親の世代も含めて変わっていく必要があると思っています。
 きょうお話がありませんでしたけれども、新しい学習指導要領では、「主体的で対話的で深い学び」の視点からの授業改善ということがうたわれていますけど、その対話を学校の中で同級生同士、あるいは先生と生徒だけが対話しているのでは全然膨らみがないんです。家庭で親とも子供がきちんと政治的なマターを話題にすべきだと思いますし、社会の学校外の人たちと対話しなければ、幾ら主体的・対話的でといっても、似たような考えを持っている同じような同級生としゃべっていても全然深まらないんですよ。新学習指導要領では「社会に開かれた教育課程」ということになっていますので、主権者教育をやるなら、学校外の人たちをかなり巻き込んでやるというシステムに変わっていく必要があると思っています。
 それからもう1点、神津会長がおっしゃったのに賛成なんですけれども、18歳の投票率よりも19歳、二十歳が下がるという実態は、大学生がうちを離れているということが決定的に効いているので。岐阜県だと、岐阜県の高校を出たうちの8割は県外へ出ていくんですね。だから、この住民票の問題を何とかするということと、インターネット投票というのを、やっぱり真剣に考える必要があると。私は投票率だけなら上げることは、そう難しいことではないと考えております。
【篠原座長】  ありがとうございます。では神津会長、今のお話に一言ありますか。
【神津連合会長】  ありがとうございます。これは説明を省いてしまったのですが、春香クリスティーンさんという人と、対談したときに、政治の話が日本の高校では全然されないということをお聞きしました。 さっきイギリスの例を言いましたけど、私も海外の労働組合の人といろんな話をするんですけれども、家庭で政治の話を当たり前にするよと、よく聞きます。ですから今、松川先生がおっしゃられたことは非常に大事なことだと思いますし、ある意味、今までそこが足りなかった分を親の世代も含めて取り返していかないといけないということだと思います。
【篠原座長】  ありがとうございます。
 どうぞ。
【佃委員】  先ほど植草委員から主権者教育にあたり、政治的な中立性ということと、具体的な事例で議論するということの整合性をとるのに、先生方は大変に苦労しておられるというお話を伺いまして、私、都内私立一貫校の理事長に就いておりますから、その現場の苦しみがよく分かります。それに対して神津会長が、そこも含めて基本的に変えていく必要があるのではないかというご回答は、大変衝撃的だったと思います。
 実は私もそう思っておりまして、地雷を踏むようなことになるかもしれませんが、先生が完全に政治的中立であることは難しいと思います。やはり自分自身の考えはこうだ、というのがあるはずです。だから、先生は中立でなくても良いのではないかと思います。私はこう思っている。したがって、このように考えている。隣のB組の先生は、こういう意見だと、きちんと宣言して、この問題については私はこう思うが、君たちはどう思うかと。このような言い方をした方が、かえって問題に対する議論が深まってくるのではないかと思います。公正、中立を求められたら先生もつらいだろうという気がします。もっと赤裸々な議論の方が、むしろ中立というものは何か、公正というものは何かという議論が深まるのではないかと思います。新聞が、もうそうなっているわけですから。
【篠原座長】  連合としてのコメントなかなかしにくいところあるかもしれませんが、いかがですか。
【神津連合会長】  詳しくということは、またむしろ皆さん方で深掘りしていただければと思うんですけれども、歴史的経過の中で、そうなってしまったというところはあるんだろうと思います。しかし今、佃委員がおっしゃられたように、時代も変わっていますから、かつ、その間、諸外国がやっていることとの開きというのは、歴然としていると思いますので、むしろ原点に立ち返って、どうあるべきかということを議論し、決めていただくには、本当にいいタイミングなのではないかと思います。
【篠原座長】  ありがとうございます。他によろしいですか。
 では最後に私から一言だけ。今の佃委員の御意見にも関わりますが。
 先ほど小玉委員からも2011年の総務省での会議の話がありました。実は私は2008年、2009年に首相官邸にできました教育再生懇談会の委員もやっておりまして、田村先生も御一緒でした。その中で、主権者教育のワーキンググループができて、その責任者として私もこの問題に関わってまいりました。
 先ほど佃委員や植草委員の話の政治的中立性の問題というのは当時からありました。それで私たちは、ワーキンググループで提言書を作りましてアピールさせていただきましたが、なかなか難しかった。それが、この18歳選挙権で、空気がかなり変わったんです。
 ですので、今後いろんな議論をしていきたいと思います。例えば、先ほど家庭教育の問題もありました。私は、本当に家庭教育がすごく大事だと思っています。この間も申し上げましたが、子連れ投票などから始めていくだけでも、原体験を作るという意味で随分変わってくると思いますし、親の世代がもっと、という松川委員の御指摘もそのとおりだと思います。では、どういうふうに家庭教育を学校教育と連動させながら、この主権者教育というテーマで進めていくかということも、是非これから皆さん方と議論をしていきたいと思っております。
 それから、若者の投票率の問題も重要です。イギリスの国民投票で若者が覚醒をして、次の総選挙でずっと投票率が上がったということですが、本当に投票質まで高まっているのかどうか。日本は無論ですけど、イギリスも。国民投票の日は天気が悪かったですよね。天気が悪いと行かないという若者の特性を考えると、本当に根付いているのかなと、非常に疑問に思いました。離脱になってしまった、まずかった、行けば良かったと後から後悔しているというところで、やっぱり投票質を伴った、根付いた投票率の向上に持っていくにはどうしたらいいかということも、しっかり考えていかなきゃいけないと思いますね。
 それからメディアの問題。新聞、新聞と言っても、もう世の中しようがないだろうと、ないものねだりだろうということが言われていますが、ネットメディアに志向することについての、いろいろなリテラシー能力を付けると同時に、やっぱり活字メディアに対するリテラシー能力を付ける努力も放棄すべきではないと思います。この両立でいくべきだと思うんですね。というのは、ネットメディアは1つの方向へ引っ張られる傾向がございますから、ある面で危ないところがあります。新聞は偏っていると言われますけれども、もう両極に明確に分かれています。だから、それを前提に新聞を教材に使えば、逆に言えばリテラシー能力を付けることができると思います。こっちの新聞はこう言っているけど、こっちの新聞の社説はこう言っている、君らの意見はどうか、というふうに使っていけばいいのではないかと思っています。私は今、大学で教える際に、そういう使い方もさせていただいているということでございます。
 それで、本日は新学習指導要領の中で主権者教育がどういうふうに位置付けられているかということの御説明を頂く時間がございませんでした。資料はここにあるんですね。
【大内学校教育官】  はい。資料2でございます。また改めて御説明させていただければと思います。
【篠原座長】  そうですね。ということでございまして、少し時間を延長して、御議論を頂きました。
 神津会長には大変お忙しい中、ヒアリングということでおいでいただきまして、ありがとうございます。
 連合としても主権者教育の問題に大変関心をお持ちだということ、よく分かりましたので、今後もまたオブザーバーなどの形で、この会議に参画していただければありがたいと思っております。今後とも是非よろしくお願いいたします。
 それでは、本日はこの辺で会議を閉じさせていただきます。ありがとうございました。
 事務局から、何かありますか。
【大内学校教育官】  次回の日程だけお伝えさせていただきます。今現在、各委員の先生方に調整をさせていただいておりますので、来年の1月までの分で頂いておりますので、その間でもう一度、候補日を絞りまして、再度御照会させていただきたいと思っております。
 以上でございます。
【篠原座長】  皆さん、多忙な方ばかりなので、きょう2回目で初めて全員そろいました。こういう形になるのが理想ですが、なかなか全員というのは難しいかもしれませんけれども、是非、事務局では、できるだけ皆さんの日程をよく伺って、何とか全員に近い形で、開催をしていただきたいなと思います。
 ということでございまして、よろしいですか。本日はこれにて散会をいたします。本当にありがとうございました。


―― 了 ――

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