【資料2-2】有識者会議 報告書骨子(案)

【1 外国人児童生徒等を巡る状況と検討課題】

 1.在留外国人数、外国人児童生徒等数、日本語指導が必要な児童生徒数等の状況

・在留外国人数は、平成20(2008)年のリーマンショック以降減少傾向にあったが、平成24(2012)年以降増加に転じ、平成27年度末の在留外国人数は約223万人と過去最高。近年の傾向としては、ブラジル等の南米系の減少及びアジア系の増加及び多国籍化。
 
・平成26年5月現在、小・中・高校等の外国人児童生徒数は73、289人、うち日本語指導が必要な児童生徒数が約4割の29,198人。日本語指導が必要な日本国籍を有する児童生徒数(7,897人)と合わせると、日本語指導が必要な児童生徒数はこの10年で1.6倍に増加。
 
・日本語指導が必要な児童生徒の母語の多様化(南米系に加えてアジア系の増加、多様化等)、国際結婚等による日本国籍・二重国籍者などの増加、在留外国人の在留期間の長期化・定住化、「日本生まれ・日本育ち」や母国からの「呼び寄せ」などの日本滞在期間の多様化等の理由により、母語及び日本語の習得度合いの多様化(バイリンガルから「ダブル・リミテッド」まで)。
 
・日本語指導が必要な児童生徒の在籍数の上位6都道府県(愛知、神奈川、東京、静岡、大阪、三重)の合計が全体の6割を占める(集住化)一方、日本語指導が必要な児童生徒が在籍する学校が全国の学校の2割、在籍する自治体が全自治体の約5割に達する(散在化)。
 
2.これまでの取組と成果・課題(平成20年度~)

・平成20年の検討会報告のとりまとめ以降、文部科学省において、外国人児童生徒等学校における受入れ及び日本語指導の充実のための取組を推進。

  (これまでの取組)
・外国人児童生徒を受け入れる学校・自治体等における体制整備のために必要な情報・知見の提供の観点から、「外国人児童生徒受入れの手引き」の作成・配布(平成23年3月)

・また、取り出しによる日本語と教科の統合的指導(JSLカリキュラム)の実施のための条件整備として、児童生徒の日本語能力把握のためのDLAの開発(平成26年3月)、多言語文書や教材の情報検索サイト「かすたねっと」の構築・運用(平成23年3月~)、「特別の教育課程」の編成・実施を可能とする制度改正(平成26年1月改正)。

・加えて、自治体に対する人的・予算的支援として、外国人児童生徒教育のための教員配置(加配)の支援、指導・支援体制の構築を図る自治体の取組への支援(「きめ細かな支援事業」)を実施。

・自治体の人材育成の支援のため、教員・管理職・指導主事等への研修の実施(平成5年~)、教育委員会のための研修マニュアルの作成(平成26年3月)等の実施。

・小・中学校における外国人児童生徒の就学機会の確保のため、学校における就学促進や、柔軟な受入れ等についての自治体に対する通知等による要請(平成18年、平成21年、平成24年等)。

・文化庁においては、地域の自治体やNPO等で行っている、外国人児童・生徒を持つ保護者を対象として、子育てに必要な知識を含めた日本語教室や親子日本語教室の取組を支援。
 
   (成果及び課題)
・これらの取組の結果、
(1)外国人児童生徒教育のための教員配置(加配)の人数の拡大
 (平成20年:約1,100人→平成25年:約1,600人)、
(2)「拠点校」等の整備を行う自治体数の増加
 (平成22年:176市区町村 → 平成25年:206市区町村)、
等、取組が全国に着実に進展。

・しかし、日本語指導が必要な児童生徒のうち実際に指導を受けている者の割合は横ばい又は低下傾向(平成20年:84.9%→平成22年:82.2%→平成26年:82.9%)にあり、特に散在地域の自治体を中心に、日本語指導が必要な児童生徒数の増加に対応し切れていない状況への対応が急務。

・また、日本語と教科の統合的指導のための「JSLカリキュラム」による取り出し指導を適切に行うための「特別の教育課程」を導入して日本語指導を行っている学校は、平成26年1月の制度導入から間もない平成26年5月現在、在籍学校の2割程度であり、一層の普及が課題。

・さらに、外国人生徒等が、日本語能力が十分でない等の理由により希望しても高校進学できない状況が生じており、小・中学校を通じた学力保障及び高校進学の促進、高校における学習の支援等を通じた外国人の子供の経済的・社会的自立の促進が課題。

・外国人児童・生徒を持つ保護者に対する日本語教育や親子日本語教室は、一部の地域で取組が広がっているものの、全国的な広がりとはなっていない。

 3.これからの外国人児童生徒教育にあたっての基本的な考え方

・外国人児童生徒等が在籍する学校・自治体の範囲が拡大している状況を踏まえ、外国人児童生徒等に対する教育支援が全ての自治体・学校・教員が今後直面し得る課題であるという認識を関係者が共有し、必要な体制整備や人材育成等に取り組んでいくことが必要。特に、これまで外国人児童生徒教育への取組の実績や知見に乏しい散在地域における意識向上及び体制構築が急務。

・国・自治体・学校・地域のNPO・大学等の適切な役割分担及び連携のもとに指導・支援体制の構築等に取り組むことが必要。
    -国は外国人児童生徒教育における基本的な方針の策定、教員の配置のための支援、自治体の自主的な取組の支援等を行ことが必要。
    -都道府県では外国人児童生徒教育に携わる県費負担教職員の配置や研修の実施、域内の教育実施のための方針の策定、基礎自治体の受入れ・教育条件整備のための支援、県立高校等の設置者としての受入れ・外国人生徒教育の体制整備、学校種間接続に係る市町村との連携等に取り組むことが必要。
    -市町村は、小・中学校の設置者として受入れ・外国人児童生徒教育体制の整備、就学促進活動、支援員配置等の域内の学校に対する支援等を行う。
    -地域のNPO・大学等は、教員養成、日本語教育、多言語コミュニケーション支援、教材開発等、各組織の目的に沿って学校等と連携し、地域として外国人児童生徒教育を推進するための体制づくりに協力することを期待。
 
・各学校・学年における学習内容の履修にとどまらず、就学前から小・中・高校を経て大学進学や就職につながるといった、外国人児童生徒等のライフコースの視点に立って体系的・継続的な指導・支援の在り方を検討することが必要。また、外国人の子供等にとって、学校における学びの先にどのような未来が開かれているのかといった将来像や具体的なロールモデルの提示により、学びの動機付けを図っていくことが重要。

・外国人児童生徒等が学校教育を通じて我が国の社会に円滑に適応できるようになるとともに、経済・社会的に自立するために必要な知識・技能等を習得し、我が国と母国の架け橋となるグローバル人材として活躍することは、我が国の経済・社会の安定・発展にとって有意義。また、共に学ぶ日本人児童生徒にとっても異文化理解能力やコミュニケーション能力の向上といった効果も期待。

・学校における外国人児童生徒への教育支援は、単に「日本語指導」を行うだけではなく、児童生徒の学校生活への適応や学力保障の観点から、日本語と教科の統合指導、生活指導等を含めた総合的な支援を行うという基本的考え方について、関係者の共通理解を図ることが必要。この観点から、今後、「日本語指導」に留(とど)まらず、全体として「外国人児童生徒教育(外国人児童生徒指導)」の語を用いるような展開も必要。

・学校に受け入れる児童生徒の状況の多様化の進展を踏まえ、初期日本語指導、「取り出し」による日本語と教科の統合的指導(JSLカリキュラム)、母語支援員の「入り込み指導」、在籍学級担任・教科担任による指導上の配慮等の多様な指導法を組み合わせ、個々の児童生徒の状況に応じた指導計画を作成するなど、きめ細かな指導を一層推進することが必要。
 
・上述のような「外国人児童生徒教育」の総合的・多面的な性格を踏まえ、今後の学校における外国人児童生徒教育を担う教員を中心とした人材の育成が急務。国、自治体、教員養成系大学・学部、NPO等が連携し、教員養成課程及び現職研修を通じた体系的・総合的な人材育成施策を推進することが必要。


【2 学校における外国人児童生徒教育の指導体制の整備・充実】

 1.現状及び課題

・日本語指導が必要な児童生徒の在籍が10名未満の少数在籍校(6,006校)が全在籍校(6,864校)の87%にも達する状況を鑑みると、近隣の複数の学校を包括する形で、「拠点校」「日本語サポートセンター」「コーディネーターの配置」等の拠点的機能を各地域において整備し、これらの「拠点校」等を中心とする関係者の連携ネットワークによる指導・支援体制を構築することが必須の課題。
      これまでも国において「公立学校における帰国外国人児童生徒に対するきめ細かな支援事業」の支援対象となる自治体における拠点的機能の把握や、都道府県の指導主事等を対象とする連絡協議会におけるモデルの普及促進を図っているが、全国の自治体への普及の取り組みを加速することが必要。

・外国人児童生徒教育担当教員の学校への追加的配置の取組は全国的に拡大傾向にある(平成20年から平成26年までで約1.5倍に増加)ものの、日本語指導が必要な児童生徒数も増加しており(平成16年から平成26年までで約1.6倍に増加)、絶対的な教員配置数が不足している状況。また、特に散在地域(1校あたり数人程度在籍等の少数在籍学校)や極端な集住化が生じている地域(1校あたり100人超在籍等の集中在籍学校)では適切な日本語指導等が困難な状況であり、教員配置の更なる充実が課題。

・また、専門的知見により教員をサポートする日本語指導の支援員となりうる人材の情報が学校現場で得られにくい状況にある。さらに、児童生徒の母語の多様化により、母語による通訳などを行う支援員となる人材の確保が困難な場合が生じており、これらの外部専門人材の学校現場における円滑な活用の促進が課題。
 
・特に散在地域の学校・自治体においては、外国人児童生徒教育に関し、限られた人員・予算・専門的知見の中で指導を行うことが求められることから、リソースに乏しいこれらの学校・自治体が効果的かつ迅速に指導・支援体制を構築できるような条件整備・支援の在り方が課題。この点、学校・自治体が、知見を有する地域の国際交流協会、NPO、大学、保育所等の関係機関との連携により初期対応のための体制整備を図っている事例も見られるところであり、これらの成功モデルの他地域への普及を図ることが必要。

 2.今後の方向性及び具体的方策(提言)

 (1)「拠点校」等を中心とした指導体制の構築

・外国人児童生徒等の受入れに取り組む自治体・学校における、「拠点校」「日本語サポートセンター」「コーディネーター」等の様々な拠点機能の事例・モデル及びその成果に関する情報を把握し、他の自治体・学校に普及するための取り組みを強化。

・特に、散在地域等において、「拠点校」等の拠点的機能を中心とした広域の学校間・基礎自治体間に渡る指導・支援体制を構築する取り組みを一層促すため、体制構築に必要な専門的アドバイス・コーディネートや予算・人員面での支援を含めた自治体の総合的な取り組みに対し、国として重点的に支援。

 (2)地域のNPO、大学、社会教育、福祉等の関係機関との連携体制の構築

・日本語指導や母語支援員の人材確保、放課後・土曜日等の課外活動の活用、就学前からの初期日本語指導・就学促進等、学校のみでは対応が困難な課題について、地域の教育活動との連携を図る観点から、日本語教育、国際交流、放課後における学習・体験活動、子育て支援、地域医療・福祉、住民登録等の知見を有する地域のNPO、国際交流協会、大学、社会教育、福祉等の関係機関と学校との連携・協働の促進。

 (3)外国人児童生徒教育を担当する教員の配置の拡充

・学校において外国人児童生徒教育を担当する教員には、日本語能力に応じた日本語指導や教科指導、児童生徒の母国の文化的背景や家庭環境等を踏まえた生活指導、個々の児童生徒の状況に応じた指導計画の策定、学級担任(教科担任)教員や日本語指導支援員や母語支援員等との指導内容に関するコーディネート等の様々な役割を果たすことが求められている。
 
・増加・多様化する日本語指導等が必要な児童生徒に対し、これらの日本語指導・教科指導・生活指導等の統合的な指導を充実するため、こうした役割を担う教員の拡充を図ることが必要。
 
・また、1学校あたりの日本語指導が必要な児童生徒数が少ないため教員が配置されない場合が多いことから、(1)の広域に渡る指導・支援体制の構築に取り組むとともに、外国人児童生徒教育に携わる教員を安定的に確保することも重要。

 (4)日本語指導や母語による支援を行う支援員の人材確保・配置の推進

・外国人児童生徒等が在籍する学校・自治体が、日本語指導や母語による支援を行う支援員・ボランティアとなり得る人材を安定的・継続的に確保できるよう、日本語教師の養成を行う地域の大学等、多言語コミュニケーションの専門人材を有する大学、企業、NPO等に加え、地域の日本語教室で活動している地域日本語教育コーディネーター等を活用した、大学生、留学生、ボランティア等の地域の支援員人材ネットワークの形成の取り組みを促進。


【3 外国人児童生徒教育に携わる教員・支援員等の養成・確保】

 1.現状及び課題

・外国人児童生徒教育にあたっては、日本語能力に応じた日本語指導や教科指導、児童生徒の母国の文化的背景や家庭環境等を踏まえた生活指導、個々の児童生徒の状況に応じた指導計画の策定、学級担任(教科担任)教員や日本語指導支援員や母語支援員等との指導内容に関するコーディネート等、多様かつ専門的な役割が求められる一方、県費負担教員の追加的配置等により外国人児童生徒教育に携わることとなった全ての教員が、必ずしもこれらの役割に必要な専門的能力を習得するための教育・研修を受けている訳ではない。

・現状では、在外教育施設教員派遣制度や、JICAの青年海外協力隊現職教員派遣制度等の経験など、外国人児童生徒指導に関する経験の豊富な教員等を活用する取り組みが自治体で進んでいる。今後も教員や教員を目指す学生等がグローバルな経験を積む機会の拡大を各関係者に働きかけるとともに、これらの経験者を活用しながら外国人児童生徒教育担当教員の配置を引き続き推進することが必要であるが、並行して、当該教員に求められる資質・能力を身につけるための教員養成・研修の充実に取り組むことが必要。

・外国人児童生徒教育のための教員の養成に関しては、大学の教員養成課程等において「日本語教育」関連科目が設置されている例が見られるが、必ずしも学齢期の児童生徒の学校における学習活動に必要な日本語習得に着目したものでないことが多い。また、日本語と教科の統合的指導や生活指導など、外国人児童生徒教育を担う教員に求められる資質・能力や、養成のための教育課程・科目の在り方についての共通理解に乏しい状況。
 
  
・また、現職教員が外国人児童生徒教育に携わるにあたり、必要な専門性を身につける機会を確保することが必要であるが、法定研修、都道府県教育委員会独自の研修などにおいて、外国人児童生徒教育に関するプログラムに乏しい状況であり、独立行政法人教員研修センターの中央研修における研修プログラムが主たる研修の機会となっている状況。

・これらの状況を踏まえ、外国人児童生徒教育のための専門的な資質・能力について関係者の共通理解を図った上で、教員養成・研修等を通じてそのような資質・能力を有する教員を確保するための方策について検討することが必要。

・日本語指導員や母語による支援員は、大学等において第二外国語としての日本語教育について学んだ人材や、外国語によるコミュニケーションに長(た)けた人材を活用し、外国人児童生徒教育担当教員や学級担任(教科担任)を補助しつつ、児童生徒の学習・生活をサポートする重要な役割を担っている。しかし必ずしも年少者の日本語習得過程に特化した教育や、学校の教科学習の文脈に精通した者でないことがあり、これらの外部の人材を、学校における支援員として活用するための研修機会の充実が課題。

 2.今後の方向性及び具体的方策(提言)

 (1)外国人児童生徒教育を担う教員の養成及び現職教員の研修の充実

・日本語指導・教科指導・生活指導等の多様な役割を担う外国人児童生徒教育担当教員に必要な資質・能力を具体的に示すとともに、教員養成学部等の課程・現職教員研修を通じてそのような教員の専門能力養成のために必要なモデル・プログラムを研究・開発。開発にあたっては、既存の教員養成学部等の課程における関係科目の設置状況、教育委員会等における現職教員研修における関係プログラムの設置状況等を踏まえつつ、関係学会等の専門家の協力を得つつ実施。

・これらのモデル・プログラムの内容を踏まえ、教員養成学部等の課程や現職教員研修等において、外国人児童生徒教育の関係科目が設置され、教員を目指す学生や現職教員が履修することが可能となるような方策を検討。

・加えて、現職教員研修においては、中央教育審議会「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について ~学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて~ (答申)」(平成27年12月21日)の提言内容等を踏まえ、「教員育成協議会(仮称)」の仕組みを活用しつつ、地域の教職大学院等と都道府県教育委員会が、外国人児童生徒教育に携わる現職教員の専門能力養成のための研修プログラムの構築や履修証明等の仕組みの構築を促進。


・以上の検討にあたっては、国際理解教育や年少者に対する日本語指導の基本的な知識・理解等、外国人児童生徒等を在籍学級に受け入れる全ての教員に必要な資質・能力と、外国人児童生徒教育担当教員として日本語と教科の統合指導を実施する際の指導法等の専門的な資質・能力の違いに留意しつつ、教員養成学部等の課程及び現職教員研修それぞれにおいて必要なプログラムを検討することが必要。

 (2)日本語指導や母語による支援を行う支援員の育成

・日本語教育や外国語によるコミュニケーション等の専門的な能力を有する外部の人材を、学校における外国人児童生徒教育において教員を補助する支援員として一層活用できるよう、学齢期の児童生徒の日本語習得に関する留意事項や、学校における教科学習や生活指導上の基礎的な知識について習得することができるような研修機会の充実。

・日本語教育の専門的な能力を有する人材が教員を補助する支援員として関わるために必要な基礎的な知識・資質・能力・について検討することが必要。


【4 外国人児童生徒教育における指導内容の改善・充実】

 1.現状及び課題

・平成15~18年度に開発された日本語・教科統合指導のモデル・カリキュラムである「JSLカリキュラム」、児童生徒の日本語能力の把握のための評価ツールである「DLA」(平成26年3月)及び、外国人児童生徒等に対する取り出し指導についての制度的手当としての「特別の教育課程」の導入(平成26年1月)により、学校において取り出しによる日本語と教科の統合的指導を行うための基礎的条件が整備された。今後は、現在2割程度である「特別の教育課程」の導入割合を高める観点から、日本語・教科統合指導のノウハウに乏しい散在地域等の学校・教員における導入を支援するための取り組みが必要。

  ・一方、中学校から編入し母語による概念理解力・学習能力等を有するものの日本語能力が十分でない生徒への指導の在り方や、日本語能力に加えて基礎的な学力や学習習慣等に課題がある生徒への指導の在り方、更に日本語を初めて学ぶ児童生徒への初期日本語指導の在り方など、従来のJSLカリキュラムの枠組みを超えた対応が求められる事例が生じており、多様化する児童生徒の状況に応じた指導の在り方の改善・充実が必要。

・日本語指導のための多言語教材・リライト教材や、児童生徒の文化的背景を踏まえた生活指導のための連絡文書等については、実践校における活用・授業研究の成果が蓄積されている状況であり、文部科学省の教材・文書検索サイトである「かすたねっと」上にも一部蓄積され、他の学校の関係者が検索・閲覧・使用が可能な状況。今後はこれらの教材等の情報の拡充に加え、より幅広い学校による効果的な活用を促すための方策の検討が必要。

 2.今後の方向性及び具体的方策(提言)

 (1)「JSLカリキュラム」、「DLA」及び「特別の教育課程」による指導の普及

・ノウハウに乏しい学校・教員が日本語指導の必要な児童生徒を初めて受け入れる際、DLAによる児童生徒の能力の判定、初期日本語指導、JSLカリキュラムによる日本語・教科統合指導、個別の指導計画の策定などの対応を円滑に行えるよう、初期対応時に必要な指導案・教材案等をパッケージにした「初期対応マニュアル」等の参考資料を作成。

・中学校におけるJSLカリキュラムによる指導に関し、母語による学習能力を有する児童生徒への通訳を介した教科指導の在り方や、中学校における教科担任制を踏まえた学び直し等を含めた基礎的な学力定着のための日本語指導・教科指導の在り方等について、現行の「JSLカリキュラム」による日本語・教科統合指導の手法を補完するものとして検討が必要。

・「特別の教育課程」を導入した場合であっても、日本語指導が必要な児童生徒が大半の時間を過ごすこととなる在籍学級における学習において、教員が日本語能力等を踏まえて行うべき指導上の配慮事項を明確化し、これらの児童生徒を受け入れる全ての学校・教員が指導上配慮することを求める。

 (2)就学前・初期段階からのきめ細かな初期日本語指導の実施

・全く初めて日本語の学習を始める児童生徒に学校生活に必要な基本的な日本語を習得させるため、就学前段階にプレクラス等の初期指導教室を開催する自治体・学校の取り組みを一層推進。

  ・初期日本語指導の取り組みをより効果的なものにする観点から、乳幼児検診等の機会における保護者に対する初期日本語指導の必要性の啓発活動や地域で受講できる日本語教室の情報の提供、小学校・自治体と外国人の幼児等が在籍する近隣の幼稚園・保育所等との連携や、初期日本語指導におけるDLAの活用による日本語能力の把握の結果を学校における受入れ体制整備等への反映等、きめ細かな初期日本語指導体制の構築を促進。

 (3)外国人児童生徒教育のための教材の充実

・日本語指導のための多言語教材・リライト教材や、児童生徒の文化的背景を踏まえた生活指導のための連絡文書等、各学校で開発・蓄積された教材の共有・活用の促進の観点から、現状では必ずしも幅広い学校関係者に活用されている訳ではない教材・文書検索サイト「かすたねっと」を、より利用しやすい機能・内容となるように改善。


【5 外国人の子供の就学・進学・就職の促進】

 1.現状及び課題

・外国人の子供の義務教育諸学校への就学の促進に関しては、平成24(2012)年に現行の在留管理制度を導入以降、各自治体では、住民基本台帳に記載された在留外国人の登録情報に基づき、学齢簿に準じた書類の作成、就学案内の通知の送付、域内の学校や外国人学校への在籍者との照合による継続的な就学状況の把握、戸別訪問の実施等、様々な就学促進の取組が行われており、不就学者の減少に効果があるとする事例も報告されている。

・これらの取組は集住都市等の外国人児童生徒等の受入れに積極的な自治体において、相当の予算及び人員の手当を伴って行われている現状。国の補助事業においても受入れ・指導体制の整備の一環としてこのような取組への補助が行われているが、今後、各自治体の実情に応じて、効果的な就学促進のための取組を支える体制整備、情報共有等の取り組みが必要。

・また、学校生活への不適応や、学習意欲の低下、進学に関する情報・理解不足等の理由により、不登校、中退等を強いられることのないよう、児童生徒本人に対する生活・進路指導等に加えて、日本語能力が十分でない保護者との就学相談・生活指導・進路相談等におけるコミュニケーションの向上が課題。
      また、貧困等の児童生徒の家庭環境が不就学・不登校の原因となっていることも考えられることから、就学促進方策と社会福祉との連携の強化が課題。

・外国人生徒等の高校進学に関しては、13都道府県において県立高校における在留外国人のための高校入学の「特別枠」を設置する他、学力検査におけるルビ振りや辞書の持込み等の配慮等の取組が行われており、集住都市会議における調査では、中学卒業者の約8割が高校に進学しているとのデータもある。その一方、高校進学後に学習のための日本語能力に課題がある外国人生徒等が4割超とする調査もあり、高校における日本語指導などの教育支援が課題。

・外国人の子供等のライフコースの観点に立って、学校における学びの先にどのような未来が開かれているのかといった将来像や具体的なロールモデルを提示し、学びの動機付けを図っていくことが重要であり、進路ガイダンス、キャリア教育、インターンシップ等の取り組みをより推進することが必要。また、外国人児童生徒等の個性を伸長させる観点から、外国人児童生徒等を受け入れる学校において、多言語コミュニケーション能力、異文化理解・環境適応能力、グローバルな課題解決能力等に焦点を当てた学習活動への取り組みを促進するための方策について検討が必要。

 2.今後の方向性及び具体的方策(提言)

 (1)外国人の子供の就学促進

・外国人の子供の就学が妨げられることのないよう、学校・教育委員会と地方入国管理局、住民基本台帳担当部局、福祉担当部局(子育て支援等)、保護者の通う保健センターや病院等の公共施設等との連携による就学ガイダンス、就学相談、就学促進コーディネーターの配置、就学状況調査等の取組の一層の促進。

・特に保護者の日本語能力不足や我が国の学校制度・学校生活・進学・就職等についての理解不足、教員等とのコミュニケーション不足等の理由により、子供の就学・進学等が妨げられることのないよう、就労者や生活者である外国人児童生徒等の保護者と行政や地域住民によるNPO等が接する様々な機会を利用した継続的なコミュニケーション促進のための自治体やNPO等の取り組みの支援。特に、多言語による就学案内の通知の発出の一層の促進や、多言語による「就学ガイドブック」の利用促進に取り組む。

・さらに、貧困等の家庭環境面での課題を踏まえた就学促進、不就学への対応を図るため、スクールソーシャルワーカーや地域の民生委員・児童委員等と学校・外国人児童生徒教育担当教員との連携の一層の推進。

・日本語指導が必要な児童生徒において、LD(学習障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)等の発達障害の可能性のあるケースについて、日本語能力面での課題や文化的背景、行動様式等の相違により、必要な支援の判断が見極めにくいことがある。このため、日本語指導が必要な児童生徒であって発達障害の可能性がある者への指導・支援の在り方についての専門家・専門機関等による研究についての情報収集の推進。

 (2)外国人生徒等の高校進学の促進

・日本語能力が十分でないが、高い学力を有する外国人生徒等の高校進学を促進するため、県立高校等の入試における在留外国人生徒に対する「特別枠」の設定や、学力検査における日本語能力への配慮等の取組について、入学者選抜における日本人生徒との公平性等に留意しつつ、引き続き推進。

・都道府県域内における外国人生徒等の進学・就職の動向を踏まえた、高校における日本語指導等の支援体制の構築のための自治体の取り組みの支援。その際、公立小中学校の設置者である市町村教育委員会と県立高校の設置者である都道府県教育委員会等の連携の促進。

 (3)外国人生徒等の社会的・経済的自立のための教育の推進

・外国人生徒等の進学・就職を通じた社会的・経済的な自立を促進する観点から、地域で外国人労働者を多く受け入れている又はグローバル人材を積極的に活用する企業等との連携による、外国人生徒のための進路指導・キャリア教育・インターンシップ等の学校・自治体の取り組みとともに、学齢期に就学できなかった外国人の学びの場としても重要な役割が期待される夜間中学の設置を促進。また、外国人生徒等の就職の機会をより高める観点から、ハローワーク・労働局・企業等との連携による、外国人生徒等に対する卒業後の職業訓練機会や就職相談の機会等の拡大。

・外国人児童生徒等が多言語コミュニケーション能力や異文化理解・環境適応能力等の個性を生かして就学・進学し、グローバルに活躍できる人材となれるよう、例えば外国人児童生徒等が多数在籍する小・中学校において、「教育課程特例校」などの制度を活用しつつ、在留外国人の児童生徒が学習しやすい環境を整えるための方策を検討。
 特に、高校においては、スーパーグローバルハイスクール(SGH)等の仕組みを活用して、在留外国人生徒・留学生・日本人生徒を対象に、グローバルな環境で外国語での授業を通じた国際理解教育・多文化共生教育等による人材育成を行う高校教育の推進。


お問合せ先

総合教育政策局国際教育課

電話番号:03-5253-4111(内線3479、2035)