全国的な学力調査に関する専門家会議(平成27年6月24日~)(第13回) 議事要旨

1.日時

平成29年1月11日(水曜日)10時~12時

2.場所

東海大学校友会館 阿蘇の間

3.議題

  1. 埼玉県教育委員会及び戸田市教育委員会より学力調査に関するヒアリング
  2. 平成29年度追加分析調査のテーマ検討について
  3. 市町村教育委員会による結果公表事例
  4. その他

4.出席者

委員

耳塚座長、福田座長代理、大津委員、鎌田委員、齋藤(芳)委員、柴山委員、種村委員、垂見委員、土屋委員、戸ヶ崎委員、長塚委員、渡部委員

5.議事要旨

議事1 埼玉県教育委員会及び戸田市教育委員会より学力調査に関するヒアリング

・埼玉県教育委員会(安原 埼玉県教育局市町村支援部部長、大根田 埼玉県教育局市町村支援部義務教育指導課長)及び戸田市教育委員会(渡部 戸田市教育委員会教育政策室室長、川和田 戸田市教育委員会教育政策室教育政策担当主幹兼主任指導主事)より学力調査に関する取組についてヒアリングを行い、その後、これらに関する質疑応答が行われた。質疑の方法は、最初に埼玉県教育委員会に対する質問を委員より受け付けた上でまとめて回答、戸田市教育委員会についても同様の方法で質疑を行った後、自由質疑とした。主な質疑応答は以下の通り。

【委員】
埼玉県の取組について、追跡調査をすることによって、より科学的に分析できるという点と、学校現場が伸びに着目するという点が、分かりやすく説明されていて、今後も、実施する上での課題の把握や分析が楽しみである。
質問の一つ目であるが、SESに関する保護者調査は見受けられなかったが、代替指標などが入っているのか、あるいは、今後、保護者調査を実施する予定なのか、SES指標をどのように捉えているのか、今後捉えていくのかについてお聞かせいただきたい。
また、二つ目に、私立に進学する割合がどれぐらいなのかということをお尋ねしたい。基本的には個人を追跡しているので関係はないと思うが、学力の伸びを把握する際、私立に抜ける割合が高いと、見ている母集団が違うのではないかと思う。

【委員】
埼玉県の取組について、個人の児童生徒を追跡していくということと、調査結果が集団の結果の分析になる点にギャップを感じた。個人の伸びを調査していくという点に関する結果がどうなっているのかという点に関心がある。
言語習得に関しては、最初、どんどん単語やフレーズを覚えていくが、システム化されていないので伸びないように見える時期があり、今度はそれがシステム化されて、初めて習得が進んでいく、それを繰り返すという現象が見られる。個人の伸びが見られない場合に、これは自然なプロセスなのだと、特に頑張っている子供には、そのような心理的なサポートも必要なのではないかと感じた。
また、テストの項目の信頼度が100%確保されることはあり得ないと思うので、例えば継続して先生の観察記録を残すことで、より有益なものになるのではないか。

【委員】
埼玉県の取組における、小学校5年生の個人結果票のアドバイスに関して、子供たちや保護者の声は、どのようなものが届いているか。それから、本当に子供たちの意欲を高めるためには、担任の先生や学校が生の声をアドバイスして届けていく必要があると思うが、この点についてはどのように取り組んでいるのか。

【委員】
埼玉県の取組について、問題形式に短答記述も含まれているということだが、採点は誰がどのような形で行っているのか。それから、4月に調査を実施して、いつ頃子供や学校にはフィードバックされるのか。

【座長】
埼玉県の調査にさいたま市は含むのか。それから、調査の実施と分析の委託について、初年度と2年度以降で違うかもしれないが、幾らの費用が掛かったのか。

【埼玉県教育委員会】
調査結果の学力の伸びに関して、中学校1年のところで落ちるという集団のグラフと個人との関係について、当然、一人一人を見ると、本当に集団的な傾向とは異なる子供も当然いる。ただ、この調査の目的の一つとしては、授業改善に役立ててほしいと考えており、県全体としての集団の傾向も示している。
心理的なサポートに関して、個人票に記載されているアドバイスが本当に合致しているかという点は、日頃接している教師は理解しているので、アドバイスは教師へのサポートとして役立ててほしいと考えている。
信頼性の確保に関しては、大きな枠組みでの大きな傾向を把握すると同時に、限られた教科と問題数の中で、一人一人の子供に関して見えてくるものを生かしたいと考えている。信頼性を規定することは難しいが、できる限り信頼性の高い客観的なデータを手に入れたいと考えている。
個人票の扱い方については、アドバイスを、教師や子供自身はもちろんのこと、家庭とも連絡を取りながら、うまく生かせるようにどの学校も工夫しているようである。
関係者の声については、ここで述べられるほどの数の保護者や子供の声は、まだ十分に集まっていないので、この場での回答は差し控えさせていただきたいと思う。
さいたま市の参加については、埼玉県としては声をかけているが、さいたま市は独自の調査も行っているとのことなので、今回は参加していないが、今後のことについては決定しているものではない。さいたま市も参加するのであれば、データ的には多い方がそれだけ信頼性が増すので、門戸は開いている。
予算に関して、この調査の実施に係る全体のもろもろの予算は、全部で約2億円である。また、分析委託に係る委託業者への委託料の予算は、900万円となっている。
SESの統制について、調査には加えていない。社会経済的な要因を調査できれば、より正確な分析ができると考えているが、それに伴うコスト面も考慮する必要があり、経年変化の把握、縦断調査を行うことによって、一定程度それをコントロールするという形で、代替的に対応している状況である。
私立の中学校への進学状況について、正確な数値は持っていない。ただ、小学校6年生のときの公立小学校の在籍人数と中学校1年生の公立中学校の在籍人数を比較すると、1割程度の差があるので、参考の数値にはなるのではないかと思うが、正確なデータは持っていない状況である。
結果を返却するタイミングについて、本年度は、1学期が終わる段階で返却できるようにした。ただ、1学期が終わる直前にデータを現場に返すと、現場の先生方が詳しくデータ上の分析をする前に、まず児童生徒に返却するという状況になる場合もあり、むしろじっくり分析をしてから返却したいという声もあるので、今後、学校に返却するタイミングは検討したいと思っている。
採点については、採点基準の原案を委託先が作成し、それを県の指導主事が適宜修正した上で確認する。委託先はこの基準をもとに採点を行う。採点の段階においても、適宜委託先から県教委に相談を受け、基準の統一を図っている。

【委員】
教育施策・教育効果の文脈の中で、エビデンスという言葉が、広い意味での統計的な資料という意味と、狭い意味でランダム化実験をした上でという二つの意味で使われているが、ここではデータ収集の方からの結論を導いていると思うが、見たい変数以外の条件を統制して、複数の学校を比較したのか。
【座長】

学力はパネルということだが、指導方法等に関する調査と、資質能力等に関する調査も複数回調査をしているのか。

【座長代理】
教員調査の実施時期について、4月に実施した場合は既にメンバーが替わっている可能性があったり、新しいメンバーが入ったりしていて、結び付けが難しくなるのではないかと考えるかどうか。また、経験や資質能力、指導方法等について、毎年問うのか、あるいは年度によって変わる部分だけを調査していくのか。

【戸田市教育委員会】
統制をしているのかという点に関しては、市内全校をやっているので、特段統制はしていない。子供単位で見ることは学校でもできるので、教育委員会としては、学校ではできないような分析を大学の研究者にも御協力いただいて行っている。
教員に関する調査は、今年度が第1回目だったので、来年度以降も行う必要があると考えているが、現在、分析を進める中で、今回の調査の設計に関して、一部、聞き方に問題があるのではないかという点も見えてきているので、そのような点を見直した上で、来年度以降も継続していきたいと考えている。教員としての経験や保有免許など、基礎的なデータに関しても、教員の異動の関係等もあるので、毎年聞いていこうと考えている。
教員調査は、県の調査と大体同じタイミングで、今回は4~5月に実施し、前年度のことを聞くという形で行ったため、異動した人などがサンプル数として少し減るという課題もある。

【座長】
クロスセクション分析を行ったのであれば、ほかの変数はどうやって統制したのか。また、ほかの様々な変数を取らないのであれば、説明変数の方も時系列的に取っていかないと説明したことにならないのではないか。

【戸田市教育委員会】
調査の設計は、変数の観点も含め、研究者と相談をしながら進めている。

【委員】
学校間ピアレビューについてについて、特徴的、あるいは参考になる内容があれば、教えていただきたい。例えば、授業改善に向けた管理職や教員の意識改革は、具体的にはどのような内容で行ったのか。効果的な取組の学校間での共有は、それは効果的な取組としては何が挙がっていたのか。

【戸田市教育委員会】
今回の調査結果を生かした学校間ピアレビューは、まだ行っていないが、これからはエビデンスに基づいた効果的な取組を共有していくことができればと考えている。

【座長代理】
調査に回答する教員や学校の反応はどうか。

【戸田市教育委員会】
学校には、質問紙の内容自体が授業の進め方などにも参考になるものであり、教員研修の一環として行ってほしいとお願いをしてあるので、学校の方からも、非常に意義のある取組だったという声を頂いている。

【委員】
埼玉県の調査に関して、今後の課題として、問題の幅が限られているということが挙げられていたが、この点を解決しようとすると子供の負担を増やしてしまうので、この点は諦めた上で、調査問題は原則非公開で一部類似問題を公表しているというメリットを生かし、せっかく作った尺度の上で、このレベルにいる子供たちはどういうところでつまずいているのかなどを質的に分析して、そのような類似問題を挙げて、指導に生かす方がよいのではないか。

【委員】
埼玉県の調査について、試験問題の作問の体制はどのようになっているのか。また、IRTは、アイテムバンクで、これから逐次、問題のセットをメンテナンスして、ずっと手入れをしていかなくてはならないと思うが、その体制はどうなっているのか。英語のヒアリングとかスピーキング、ライティングは、どの程度行っているのか。

【埼玉県教育委員会】
作問の体制は、県教委から大きな方向性を示し、委託先で作った問題の案を、県や市町村の教育委員会の指導主事や小中学校の教員がブラッシュアップしている。ただ、プレテストを行っているわけではなく、まずは調査を行ってみて、その解答の状況とセットで、本人の学力レベルと問題の難易度を、その場でセットしていく。問題の難易度の設定に関しては、そのような形で行っている。
問題の手入れについても、常に視点を示しつつ、常に新しい問題を加えているが、基本的にはIRTの基本的な手法であるアンカー問題も使いながら、問題の難易度を設定している。ただし、プレテストを行っておらず、ルーブリックがあるわけでもないので、今やっている学力調査自体が、若干プレテスト的にやりながら精度を上げていくという形のIRTになっている。
英語に関しては、リスニングとライティングはやっているが、スピーキングはやっていない。

【座長代理】
実施時期が全国学力・学習状況調査に近いが、何か結び付けを意図しているのか。また、例えば2月、3月にやって、新学期が始まる前に結果を返して、新年度の指導改善に生かしていくという考え方などもあると思うが、なぜ4月なのか。

【埼玉県教育委員会】
4月の実施は、全国学力・学習状況調査の実施日に近く、子供たちや学校も大変だという意見もあるが、できるだけ早く学校に返して、その年度で、授業改善や一人一人の子供への指導に生かしてもらいたいというのが大きな狙いである。
学年末での実施は、学校の事情を考慮した際、県全体で一斉に実施するので、それぞれ地域間格差が大きく、私立中学校の入試の時期などとの関係で、実施が難しい。今後、改善をしていく可能性はあると考えている。

議事2 平成29年度追加分析調査のテーマ検討について

・事務局より平成29年度追加分析調査のテーマについて説明があり、その後、質疑応答が行われた。主な質疑応答は以下の通り。

【委員】
研究が進んでいくことは望ましいが、学校現場等がそれについていっているのかという危惧がある。
現在、学習指導要領の改訂を目前にして、学校現場がアクティブ・ラーニングなど指導の改善がなされているのかということを考えると、小学校は比較的スムーズに改善されていると思うが、中学校がなかなか進んでいない。その理由は、教員自身がアクティブ・ラーニングなどについて指導を受けていないことにあると思う。講義主体の授業を受けてきた教員が、何をどう変えていけばいいのかということ明確に示さない限り、なかなか指導改善は進まないのではないか。
全国学力・学習状況調査のデータを、研究者向けに提供し、その研究から得られたエビデンスや成果を教員や教育委員会が利用しやすいように視覚化したり、日々の授業で活用できる指導改善のツールを開発したりするなど、そのような研究にも力を入れてほしい。

議事3 市町村教育委員会による結果公表事例

・事務局より市町村教育委員会による結果公表事例について説明があり、その後、質疑応答が行われた。主な質疑応答は以下の通り。

【座長代理】
全国の教育委員会が、結果の公表だけではなくて、その後の指導改善に資する資料を作成するようになってきているようだが、文科省でその状況を一括して把握しているのか。また、このように作成された資料は、実際に現場で活用されているのか。

【事務局】
文部科学省として、各教育委員会の公表状況及び資料の作成状況などは網羅的には把握していない。今回は、都道府県教育委員会を通じ、域内の市町村教育委員会における好事例を提供してもらったものである。
学校現場における活用までは当省としても踏み込めていないが、全国学力・学習状況調査の学校質問紙調査で、調査結果を学校内で活用したかという問では、90%以上が肯定的な回答となっている。今後、学校現場での活用については、分析指標の設定等ワーキング・グループで御議論いただいている指標の活用や、各都道府県の特徴をより分かりやすく示すなど工夫していきたい。

【委員】
各都道府県で学力調査の報告書の作成に携わった方が教育現場に戻ると、指導力が向上していると感じる。

【委員】
学力調査の結果を踏まえ、授業改善のモデル指導案まで作成できる人物を育成する必要がある。教科教育研究の状況に関心を払い、その質を高めていくこと、その取り組みを支援することが必要である。

【委員】
文部科学省の委託する調査研究で、研究者だけではなく、教員を対象としたテーマを設定することも有効なのではないか。

【委員】
小学校は全教科を指導するので、全員で共有することができるが、中学校は教科担任制なのでそれができない。そのため、専門的に研究している人とそうではない人の温度差があり、そのような点を考慮した研究も進める必要がある。

【委員】
全国学力・学習状況調査を活用した授業改善や学校経営のモデルを作成し、年次研修や管理職研修に生かすことができれば、取組が進むのではないか

議事4 その他

・事務局よりOECD生徒の学習到達度調査の結果について説明があり、その後、質疑応答が行われた。主な質疑応答は以下の通り。

【委員】
読解力の向上に向けた対応策について、21世紀型学力やジェネリックスキルなど、スキル面に落とし込むような学力を測っており、伝統的な国語教育に悪影響を及ぼさないようにする必要がある。

【委員】
CBT調査はウェブ上で行ったのか。全ての対象校が同じような環境で行うことができたのか。全国学力・学習状況調査でも、ICTの活用を検討していくのか。

【事務局】
各学校に整備されているパソコンにUSBを差す形で実施している。
全国学力・学習状況調査は、悉皆(しっかい)調査であり、全校でCBT調査が実施できるほどICT環境が整備されていない。まずは、経年変化分析調査など抽出で行う調査の一部から、ICTを活用した調査研究を進めていくことを検討している。

お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)