全国的な学力調査に関する専門家会議(平成27年6月24日~)(第9回) 議事要旨

1.日時

平成28年8月30日(火曜日)13時~15時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室(東館3階)

3.議題

  1. 全国学力・学習状況調査の結果を用いた理科に関する調査研究について(調査研究報告)
  2. 全国学力・学習状況調査個票データの貸与の在り方について(案)
  3. 分析指標の設定等ワーキンググループについて
  4. 全国的な学力調査の今後の改善方策について「論点の整理」・全国学力・学習状況調査における中学校の英語の実施に関する「中間まとめ」
  5. その他

4.出席者

委員

耳塚座長、福田座長代理、大津委員、鎌田委員、北川委員、齋藤(芳)委員、柴山委員、清水(康)委員、田代委員、田中委員、種村委員、垂見委員、土屋委員、寺井委員、戸ヶ崎委員、長塚委員、吉村委員、渡部委員

5.議事要旨

議事に先立ち、事務局より、事務局の異動についての報告があった。

議事1 全国学力・学習状況調査の結果を用いた理科に関する調査研究について(調査研究報告)

・三菱総合研究所荒木研究員より、平成27年度「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の報告があり、その後、質疑応答が行われた。質疑内容の主な内容は以下のとおり。

【委員】
高い成果を上げている学校の特徴分析については、これまでもほかの先行する調査委託研究などでも示されている、教職員の連携や学校長のリーダーシップ、家庭との連携などが、理科を含めて学力全般で重要であるということを確認できた。
特徴的な取組として紹介されている学校について、全国学力・学習状況調査の結果がよかったのか、あるいは何か結果に特徴があったのか。

【発表者】
特に数値については、各学校の理科全体、それからA問題・B問題それぞれの24年度と27年度の平均正答率を示しているが、I校については、24年度が49.1に対して27年度は65.1ということで、27年度のところだけ取り出してみると、中学校の中では平成24年度と27年度の両方で結果の高かったF校以外では、一番高くなっている。どこまで因果関係があるかということは精査が必要であるが、理科の学力向上が、一つの要因になっている可能性はあるかもしれないと感じている。

【委員】
学習の成果の社会に対する影響など理科特有の動機付けもあり、興味深い取組であると感じた。ほかの教科との関係で、理科特有の力はあるのかということも、今後の研究として興味深いと感じた。

【委員】
テレビゲームやインターネットの利用、就学援助の受給の割合が高いと正答率が低くなっている。この傾向は、理科に限らず国語や算数・数学についても、同様の傾向はあるのか。

【発表者】
今回の調査の枠組みの中では従属変数は理科に関するものだけなので、今回の分析として申し上げることはできないが、以前に別の調査研究において、国語、算数・数学に関する分析を児童生徒質問紙調査も行った際には、このような変数が関係あるという傾向は見えてきた。

【委員】
個人レベルの中に読書習慣が取り上げられているが、日本は実験や観察を重視しているが、諸外国だと本で理科の勉強をさせているところがあるので、学校レベルでの読書活動というのが、データとしては大切ではないか。また、学習情報センターで調べ学習等を行うことなどが影響を与えている可能性があるので、学校レベルでの読書活動として、学校図書館の利用について、具体的に数値がなければ個別の様子等を教えていただきたい。

【発表者】
学校レベルでの読書については、個人レベルほど直接的に聞いてはいないが、質問紙において、例えば朝の読書などの一斉読書の時間を設けた、あるいは学校図書館を活用した授業を計画的に行ったという項目がある。今回の分析では読書だけを取り出した変数ではなく放課後学習などをまとめた変数として使っているが、その学力向上に向けた取組の展開というところが従属変数にどれだけ影響を与えているかというところについては、従属変数に対して有意な結果が得られなかった。
一方、中学生に関する分析結果については、読書に関する活動がどれだけ影響を与えているかということについては直接的には見られないが、ほかの変数と合わせた統合変数を説明変数として分析をした場合には、今回の枠組みの中では、中学生のA・B問題無解答率については有意な関係性が出ている。

【委員】
定性分析を行った学校は、学習規律あるいは生活指導が十分なされた上で、基本的な指導方法の体制をどう組むかという状況になっていると理解してよいか。

【発表者】
特に中学校で多く見られたが、24年度ではかなり荒れが激しかったけれども、まずは学習規律を徹底した結果、落ち着いて学習をするような環境や態度が生まれてきて、それに上乗せする形で学習指導を更に活発化することによって、こういった結果が出てきたのではないかということは、今回訪問したほぼ全ての中学校から聞かれており、定量分析と整合的であると考えている。

【委員】
定性分析の内容について、拡大解釈になるが、理科だけではなく他教科にも、応用できるような結果が出ていると思った。また、アクティブ・ラーニングが重視されるようになってきていて、それを学校レベルでどのように組めばよいかということに対するヒントが挙げられていると感じた。

【委員】
日常的に教員同士で授業を参観し合うことは、小学校の文化としては非常によく分かるが、中学校の文化としては、いろいろな見せ合い方があると思う。つまり、教科を越えて学校ぐるみで見せ合っているのか、理科の先生方だけで見せ合っているのか。この点についてはどちらなのか、あるいはその他なのか。
また、要因分析について、学校レベルの要因で、児童生徒の主体性を促す指導が、A問題では関係が見られないが、B問題は正答率が上がっている。無解答率はプラスになるということは増えているということでよろしいか。そうであるならば、学校あるいは先生が、児童生徒の主体性を促す指導をしたら、正答率は上がったけれども無解答率も上がったということになると思うが、この場合、ほかのものと比べて、そもそも児童の主体性を促す指導とは何かという難しい問題があると思う。主体性の捉え違いなのか、主体性についてはきちんと考えていたけれども、その促し方の捉え違いなのか、その点について教えていただきたい。

【発表者】
やはり小学校の方が、授業を見合ってコメントし合うということが見られた。一方で、中学校でも、日常的に授業参観等をし合っているというようなことが報告されており、中学校でも、今回高い成果を上げているところでは見られた特徴であると考えている。
それから、具体的な変数の設定は、いろいろな変数を織り交ぜた形になっており、この中の特定の取組が今回の従属変数に特に何かしら影響を与えた可能性がある。また、純粋に主体性を促すような指導をすることによって、回答を書いた中でも正答か誤答かというところで、正答の人が増えている一方で、誤答の中で無解答の人が増えているというような可能性が、感覚的には主体性を促すことによって生まれてしまっている可能性もあるとは思う。ただ、いずれにしても今回の限られたデータセットでの結果として出てきたこととしては、こういう結果が見られたと御解釈いただければと思う。

【委員】
学力の3要素に関して、その中でも学ぶ意欲がPISAの調査などでも課題として指摘されており、変数の中では理科に対する親和性のところが、その点を一番表している問いだと思う。理科の勉強が好きだとか大切だとか、そういうことが学力として考えられるようになってきている中で、平均正答率を学力の定義としてしまうと、その点が見抜けなくなる、関係性が抜けてしまうのではないか。今後、学力の3要素を捉えるときには、この点が学力の一部であるということから、親和性が高まるようなこととの関係性にはもう少し着目していった方がよいのではないか。

議事2 全国学力・学習状況調査個票データの貸与の在り方について(案)

・事務局より、「全国学力・学習状況調査個票データの貸与の在り方について(案)」についての説明があり、その後、これらに関する意見交換が行われた。主な意見は以下のとおり。

【委員】
多くの研究者等に広く貸与されることは研究の深まりや、研究の信頼性・再現性が保証されるという意味でも非常によい試みだと思うが、学校現場に近い教育委員会や学校がもっと主体性を持って、研究者の方と共に共同研究できるような仕組みを作ることが大切だと思う。受け身ではなく、お互いに共同の立場で研究を進めていく仕組み作りを考えるべきである。
教育委員会にも提供されているデータをどのように分析すればよいかということは、基礎自治体にとって非常に難しい問題であり、それだけの知見が教育委員会にないので、教育委員会と研究者が共同する仕組みができるとお互いにとってよいと思う。それにより、追加の実態調査や、教育委員会独自の調査との関連付けが出てきて、データの貸与というものが一層効果的になっていくのではないか。

【委員】
外国の研究者からの貸与申請が出てくる可能性もあると思うが、外国語に対応できる体制を整えることは非常に難しいと思われるので、その点についても検討した方がよい。

議事3 分析指標の設定等ワーキンググループについて

・座長より、「分析指標の設定等ワーキンググループ」の委員及び主査の指名について報告があった。

議事4 全国的な学力調査の今後の改善方策について「論点の整理」・全国学力・学習状況調査における中学校の英語の実施に関する「中間まとめ」

・事務局より、6月15日に取りまとめられた「全国的な学力調査の今後の改善方策について『論点の整理』」及び「全国学力・学習状況調査における中学校の英語の実施に関する『中間まとめ』」について報告があった。

議事5 その他

・事務局より、平成28年度全国学力・学習状況調査の中学校業者の集計の誤り及び分析・公表について報告があり、その後、質疑応答が行われた。質疑内容の主な内容は以下のとおり。

【座長】
集計に際して全体の数というものをチェックするという非常に基本的なことをやりさえすれば防げることであり、今後繰り返すことのないように、業者選定の仕組みや審査すべき事項について再度検討し、より優れた業者に決定できるようにすることが必要だと思う。

【委員】
全国学力・学習状況調査については、教科の結果も質問紙調査の結果も、こういった客観的なデータを基にして、各学校や教育委員会がPDCAを回すという意味では、既に定着している。たくさんある事実の一つとしてしっかり捉えて、PDCAサイクルを回しているので、当然公表という行為も、そのサイクルの中の一つだと思う。保護者や市民、地域の方々にどのようなメッセージをどのように届けるかということによって、改善のサイクルも更に加速すると思うので、その点が重要である。質問紙調査の詳細な内容、教科の結果との相関も含めた関連性も含めて、教育委員会として市民に訴えたい生活習慣や地域の協力などについてメッセージができるだけ伝わるような方法を考えることが大切だと思う。
各学校については、改善行動を地域住民や保護者と共に行っていかなければならないので、公表に際しては、質問紙調査の結果や質問紙調査と教科との関連、教科の平均点よりも解答の傾向などを具体的に示しながら、成果や課題を示すことが重要。

【委員】
全国学力・学習状況調査が、序列化や過度な競争を招いているとは思わないが、平均点や順位に振り回されることがないように、各自治体においては取組を進めることが重要である。
例えば、本市では、市全体の結果の概要を教育委員会のホームページで公表した上で、各学校の結果については、学校だより等を使って自分の学校と全国平均の差を任意で公表している。その際、単に数値だけの公表だけではなく、自校の取組の成果や課題を経年的・多角的に分析して公表するようにしている。
また、各学校の学力向上プランの見直しに全国学力・学習状況調査を活用するということを行っている。毎年、結果が出る時期を、学習向上プランを見直す時期と位置付けている。飽くまでも調査結果は小学校6年生と中学校3年生だけだが、その結果を有効活用するために、学校全体のものとして位置付けるように努めている。
さらに、調査結果を踏まえながら、夏季休業中から9月の上旬に掛けて、産官学民の様々な知のリソースを生かして、校長や教頭対象の研修会、主幹教諭や教務主任を対象とした学力向上の研修会などを実施している。それらの研修会で明らかになった課題や解決策を各学校でしっかりとまとめて、学校間でお互いによさや課題を話し合って(学校間ピアレビュー)、共有などを図りつつ、再度各学校の学力向上プランへ落とし込んでいる。
その学力向上プランをより実効性のあるものとし、授業改善に生かしていくために、個に応じた指導とともに、教育委員会の学校訪問や研究授業の際には、全国学力・学習状況調査の結果を受けた改善策を明確にした授業を実施するという取組も行っている。また、B問題の授業改善については、大学との連携による協調学習や国立の研究所のリーディングスキルの育成、県で実施しているパネルデータやIRTを基にした独自の学力調査との関連を図りながら分析を行っている。

【委員】
数値の上昇のみを目的として捉えるような行き過ぎた取扱いをする事態を招かないようにするためには、やはり全国学力・学習状況調査の趣旨・目的をしっかり踏まえ、県としては、それを各市町教育委員会や各学校へ周知徹底することが大切だと思う。
本県では、全国学力・学習状況調査の結果を県独自の学力調査の結果と併せて分析し、成果を上げている市町村や学校の取組や指導事例を紹介した報告書を作成し、各学校、関係機関に配付している。各学校はこれを活用し、県としてもその報告書を活用して管理職研修あるいは教務主任研修会など各種研修会で全国学力・学習状況調査の趣旨・目的をしっかり説明するとともに、分析の方法・結果、指導改善のポイントなどを、例えばB問題を実際に先生方に解いてもらいながら、この問題を解くにはどういった力が必要か、あるいはその力を付けるためにはどういった指導が大切なのかということを演習や協議を取り入れながら研修の充実を図っている。そして、その研修を受けた者は、各学校に持ち帰って校内研修を更に充実させていくという取組をしている。
全国学力・学習状況調査の学校質問紙調査における、全国学力・学習状況調査の結果の活用に関する回答状況からも、各学校は趣旨を踏まえた取組をおおむね行っているが、引き続き実態は把握していく必要があると考えている。
ある研修会で、ある校長先生が言われたことだが、その学校は記述式の問題の正答率が非常に低く、無解答率が高いという状況が見られたため、研究体制をまずは整えて、先生方が校内研修を積み重ねて、自分の考えを書くことや、問題を解くときに解き方を説明することなど、自分の考えを根拠を持って丁寧に説明するということにずっと取り組んでおり、次年度の全国学力・学習状況調査では、記述式の問題の正答率が上がったので、職員が職員室で拍手をして、これまでの取組の方向は間違っていなかったと自信や手応えを感じ、指導改善の意欲が高まったという話をしていた。これは正に検証改善サイクルが確立したということだと思う。県としては、このような全国学力・学習状況調査の趣旨・目的を踏まえた取組を県内に広げていきたい。

【委員】
実際に過度な競争が行われている状況を把握しているのか。そのような負の部分についても向き合っていかなくてはならないと思うが、注意を喚起するような方法が有効なのか。

【事務局】
実態として、そういう状況があるかどうかは把握していない。また、都道府県教育委員会を通じて、そのような実態があるか調査しても、そのような実態はないという回答があることが予想される。そのため、本年4月28日に発出した通知においては、教育委員会は、学校と一緒に全国学力・学習状況調査の趣旨・目的を改めて共有し、認識を共有しようということをお願いしている。それ以外にも、都道府県教育委員会、指定都市教育委員会に対して、4月くらいに、突然、文部科学省の人間が伺い、例えばほかの授業を潰して過去問ばかりやっているような実態がないか見に行くということを伝えている。そのようなことを通じて、実態を把握していきたいと思っている。

お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)