「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議(第2回) 議事録

1.日時

平成27年6月30日(火曜日)16時から18時まで

2.場所

文部科学省3F1特別会議室
東京都千代田区霞が関3-2-2 中央合同庁舎7号館東館

3.議題

  1. 「学びのイノベーション事業」実証研究報告
  2. ヒアリング(一般社団法人教科書協会)
  3. 自由討議
  4. その他

4.出席者

委員

堀田座長、天笠座長代理、新井委員、井上委員、尾上委員、金子委員、黒川委員、神山委員、近藤委員、高梨委員、中川委員、東原委員、福田純子委員、毛利委員、山内委員、若江委員

文部科学省

前川文部科学審議官、徳久大臣官房総括審議官、浅田大臣官房総務課長、豊嶋生涯学習政策局情報教育課長、小松初等中等教育局長、伯井大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、望月初等中等教育局教科書課長、宇高教科書課課長補佐

オブザーバー

【広島市立藤の木小学校】島本校長、有馬教諭 
【一般社団法人教科書協会】佐々木会長、松尾事務局長、長谷部情報化専門委員会副委員長、福尾情報化専門委員会常任委員、

5.議事録

【堀田座長】 定刻となりましたので、ただいまから「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議の第2回会議を開催させていただきます。皆様お忙しい中御出席いただきまして、ありがとうございます。
 本日は、「学びのイノベーション事業」についての実証研究報告と、一般社団法人教科書協会の皆様からのヒアリングの後に、それらを踏まえた議論を行いたいと思います。
 議事に入る前に、事務局より資料の確認をお願いいたします。
【事務局】 まず、配付資料の確認をさせていただきます。資料1といたしまして「『学びのイノベーション事業』実証研究報告」、資料2といたしまして「広島市立藤の木小学校『学びのイノベーション事業』報告」、資料3といたしまして「『デジタル教科書』の現状と課題」、資料4といたしまして「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議(第1回)における主な意見」、資料5といたしまして「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議 今後のスケジュール」を配付しております。
 また、参考資料として第1回の議事録をお配りしております。こちらにつきましては、委員の皆様に既に御覧いただいておりますが、問題なければホームページに掲載させていただきますので、御了承ください。
 また、机上配付資料といたしまして、紙ファイルで第1回の配付資料をまとめております。こちらは会議終了後回収させていただきます。
 また、冊子で、「学びのイノベーション事業 実証研究報告書」を配付させていただいております。こちらにつきましてはお持ち帰りいただいても構いませんので、よろしくお願いします。
【堀田座長】 ありがとうございました。
 それでは、議事に先立ちまして、本日初めて御出席いただく委員の御紹介をいたします。
 まずに公益社団法人日本PTA全国協議会会長の尾上委員でございます。尾上委員、一言お願いいたします。
【尾上委員】 日本PTA全国協議会の尾上と申します。本日から参加させてもらいます。よろしくお願いします。
【堀田座長】 ありがとうございました。
 また、若江委員が少し遅れていらっしゃる予定ですので、到着され次第、御紹介させていただきます。
 なお、本日は福田孝義委員が所用により御欠席でございます。
 早速、議事を進めさせていただきます。議題1「学びのイノベーション事業」実証研究報告につきまして、まず情報教育課より御説明をお願いいたします。本日は「学びのイノベーション事業」の実証校でもあります広島市立藤の木小学校からも御報告いただくことになっております。
 それでは、豊嶋情報教育課長、よろしくお願いいたします。
【豊嶋課長】 情報教育課長の豊嶋でございます。
資料1に沿いまして、「学びのイノベーション事業」の実証研究報告のポイントを、学習者用デジタル教科書・教材の内容を中心として説明させていただきたいと思います。資料1、横版の資料を御覧ください。
 表紙をめくっていただきまして、本事業の概要でございますが、本事業は平成23年度から平成25年度まで3か年にわたって実施したものでございます。総務省のフューチャースクール推進事業と連携して、一人一台の情報端末、電子黒板、そして無線LAN等を整備した環境の下で、教科指導等におけるICTの効果的な活用について実証をするという目的の事業です。実証校として、小学校10校、中学校8校、特別支援学校2校、計20校を対象として実施しました。
 本事業の主な取組内容は右上に記載しておりますが、ICTを活用した指導方法の開発、教科指導等におけるICT活用の効果・影響の検証、そして学習者用デジタル教科書・教材の開発の3つでございます。
 下の方に本事業の目的としている学びの基本的なフレームワークについて写真で載せておりますが、この写真にあるような学びを実際に実証校20校で実践をしていただきました。
3ページでは実際に参加していただいた実証校20校のリストでございます。本日は、そのうちの1校である広島市立藤の木小学校にお越しいただきましたので実際の取組の詳細について後ほど御説明いただきたいと思っております。
 5ページからは実証研究の報告書の概要でございますが、本報告書は平成26年4月に公表しました。例えば、小・中学校における取組としては、画像や動画を活用した分かりやすい授業の展開をすることを通じて興味・関心を高めながら学習意欲を向上させる、あるいはデジタル教材等を活用することにより知識・理解を定着させる、といった活用事例が見られたところです。
 その一方で、学習者用デジタル教科書・教材を提示するだけではなく、観察や実験などの体験的な学習が必要だとか、あるいは対面でのコミュニケーション活動を併せて行うことが必要だということが、実践を通じて見えてまいりました。
 実際のICTを活用した指導場面を6ページに掲載しておりますが、各実証校で行った授業を整理し、10通りに分類しております。6ページの上段に分類を記載しておりますが、一斉学習、個別学習、協働学習、それぞれの分類において、全部で10通りの学習の場面が見られたということでございます。
 6ページ下部に記載している実際の各教科の授業展開は、この学習の場面を組み合わせて実証されておりますが、導入から最後のまとめまで、上記の10類型の中を組み合わせながら授業展開がなされていたということで、報告書には21の事例を収録しております。
 7ページ以降でございますが、3年間を通して行ったICTを活用した教育の効果ということで、児童生徒や教員の意識等について調査しましたが、児童生徒の意識としては、約8割の児童生徒が、全期間を通じて肯定的な評価を見せております。教員についても、ICTを活用した授業について、8割以上が効果的であるという評価をしております。 
8ページになりますが、教員のICT活用指導力につきましては、この事業の展開に伴って、事業開始当初から向上してまいりました。
8ページ下部は、標準学力検査(CRT)の結果を活用して学力の傾向を示したものでございます。幾つか棒グラフがございますが、例えば左上、小学校の国語の欄を見ますと、平成23年度、小学校3年生のときに国語でCRTを実施した後、この3年生の子供が平成24年度に小学校4年生になったときにもう一度CRTを実施し、その結果を比較したものです。
 小学校でのCRTの評定は1、2、3の3段階評定になっておりますが、棒グラフの高さは、それぞれの評定の出現率です。評定1を受けた全国の子供の出現率を1とすると、該当校における国語での評定1の出現率は小学校3年生では1.38、つまり全国に比べて1.38倍だったのですが、1年後には1.00になっております。算数についても同様に低い評定の出現率が減少する傾向が見られました。
中学校については5段階評定になっておりますが、もともと非常に高い評定を受けている学校とそうではない学校が混在しておりましたので、それぞれの集団に分けて分析しておりますが、一般的には低い評定の出現率が減少している傾向が見られ、高い評定の出現率が多い集団では更に出現率が高くなる傾向が見られました。
 9ページ以降は学習者用デジタル教科書・教材の開発についての御説明でございます。学習者用デジタル教科書・教材を3年間通じて開発しましたが、教科書の内容に加えて画像、動画、あるいはシミュレーション機能等々の機能を付加し、小学校3年から中学校3年の国語、社会、算数(数学)、理科、外国語・活動について開発をしていきました。
 10ページに開発の流れがございますが、平成22年度から順次増やしていったものです。ただし、飽くまでも実証研究の中身ですので、教科書の全てを学習者用デジタル教科書・教材として開発したものではなくて、一部の単元について開発し、各実証校で実践していただいたというものです。
 11ページに、学習者用デジタル教科書・教材に付加した主な機能の一覧がございます。ここにありますように、拡大、音声再生、アニメーション、参考資料、あるいは書き込み、作図、描画、文房具、保存、正答比較等々の機能を載せております。
主な機能の詳細を12ページ以降に記載しております。12ページは拡大機能の説明です。左上の画像が教科書の紙面に該当する部分ですが、挿絵の部分をダブルクリックすることで、その挿絵が大きく表示されます。また、「さし絵」ボタンをクリックすると、挿絵の一覧が表示されます。
 次の13ページは書き込みの機能の紹介です。タブレットPCを開きますと、書き込みのためのいろいろなツールが左側に出てきます。ペンやマーカー、文字のスタンプ等のツール、その下には移動・拡大、あるいは朗読するツールも搭載しております。また、当然のことながら、書き込んだものの保存ツールも付加されております。
 この書き込み機能の主な例として、14ページにお示ししているのは小学校4年生の国語の『ごんぎつね』の一部分ですが、実際に線やマーカーを引いた画面を掲載しています。例えば、気持ちや行動、様子に対応して色や線の形を変えながら引くことにより、上のページと下のページを比べると青色の線が多くなるということで、視点が移ったことが視覚的に分かります。
 15ページが、それ以外の主な機能として、例えば算数では立体の展開図のシミュレーション、あるいは外国語活動では、発音練習ということで、児童が発音したものを音声認識しながら自動でチェックする機能が搭載されています。国語では、漢字の筆順についてアニメーション表示が可能です。また、理科について、例えば「天気の変化」の単元では、「次の日」というボタンをクリックすると、衛星写真とアメダス図が連動して翌日の気象状況に切り替わります。また、社会でも動画コンテンツ等を搭載しております。 
このような、開発された「デジタル教科書」を実際に小・中学校で使っていただいた結果ということで、16ページ以降にアンケート結果を掲載しております。「デジタル教科書は使いやすいと思う」について肯定的な評価をした児童生徒は、小学校では80%以上、中学校では約75%以上です。また、中学生については、1年生の数値が他学年より比較的高い傾向が見られたところでございます。
 17ページを御覧ください。「もっと多くの授業で、デジタル教科書を使った勉強をしたいと思う」について肯定的な評価をした児童生徒は、小学校で80%以上、中学校で70%以上です。中学生については、先ほどと同様、1年生の数値が他学年より比較的高い傾向が見られたところです。
 さらに、実際に授業でどのような機能を使ったかについて、教員の方々にもアンケート調査を行いました。小学校では、科目によって活用した機能に若干の違いがございますが、「画面を大きくしてみること」や「画面上に線や文字を書くこと」について国語、算数、理科、社会の授業の60%以上で、「アニメーションや動画を見ること」については理科、外国語活動の授業の60%以上で使用されたということです。また、「紙の教科書にはない写真、絵、資料などを見ること」については、社会科、理科、外国語活動の授業の60%以上で使用されております。
 18ページ下部に、それぞれの機能を使用したという回答の割合を教科ごとに並べた表がありますが、小学校、中学校ともに、教科ごとに、より多く使用した機能に違いがございます。
また、19ページ以降ですが、本事業は一人一台のタブレットPCの環境で学習をする初めての取組でしたので、児童生徒の体の調子の変化についても併せて調査をいたしました。結論としては、この調査において児童生徒の身体の調子に顕著な変化は見られませんでした。ただし、タブレットPCや電子黒板の画面への光の反射による映り込み、あるいは児童生徒の姿勢の悪化への対応が必要であるということが報告書にまとめられております。
 19ページ右側は、授業の前後の体調の変化に関するアンケート結果を実証校の学校と同じ区域内の実証校以外の学校で比較したものでございますが、特段差は見られませんでした。
 一方、実地調査として、検討会に参加していただいた有識者の先生に実証校へ行っていただいた際、タブレットPCや電子黒板について再度アンケートをとった結果、見にくかったという回答が一部見られたところです。そのうち、例えば小学校では、タブレットPCが見にくかったと回答した児童が17名おりました。見にくさの要因としては、タブレットPCも電子黒板も共通ですが、画面に光が反射していることが一番の理由として挙げられており、教室の明るさや電子黒板を使用する際の遮光カーテンの使用等についての留意事項をまとめたガイドブックを、実証研究の報告書の発表と併せて、各教育委員会に配付したところでございます。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。
 続きまして、有馬先生、お願いいたします。
【有馬教諭】 失礼いたします。広島市立藤の木小学校から来ました、6年生の担任をしております有馬と申します。本日は校長が遅れておりますので、代わりに私がお話させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 スライドの1ページを御覧ください。本校は、広島市の西北の団地にある小学校です。現在児童数223名、1年生と6年生のみ2クラスで、残りの学年は1学年1クラス、全部で10クラスの、比較的小規模で穏やかな学校です。本校は、平成22年から3年間、「フューチャースクール推進事業」に、そして平成23年から3年間、「学びのイノベーション事業」に、それが終わった平成26年と27年度は広島市によってICT環境は維持され、広島市学力向上推進事業の指定校として、ICTを活用した授業改善の推進を行っております。
 本校のICT環境を説明いたします。スライドの2ページを御覧ください。本校では各教室に電子黒板、デスクトップパソコン、実物投影機があります。児童、教師には一人一台のタブレットPCがあり、それが校内無線LANでつながれています。そのため、それぞれのどのパソコンからでもインターネットに接続することができます。デジタル教材などはクラウドサーバー上に置かれ、児童や教師が作成した書き込みなどのデータと併せて管理されています。
 スライド3ページの写真は、本校の50インチの電子黒板です。実物投影機と併用して実物の拡大提示や、フラッシュ型教材などのデジタル教材の拡大提示、更にタブレットPCと授業支援システムを連動させて、電子黒板に児童のタブレットPCの画面をそのまま映したり、児童が書き込みながら説明を行ったりと、活用しています。
 スライド4ページはタブレットPCでの授業風景です。個別学習ではデジタルワークシートを操作したり、書き込んだり、動画や写真を閲覧したり、更にインターネット上のコンテンツを利用して調べ学習などを行ったりしています。学習者用デジタル教科書・教材には、これらの機能が全て含まれているのです。
 スライド5ページを御覧ください。本校の一人一台端末活用のための基本的な考え方です。全ての学級で、全ての教員が、指導の道具として、授業過程に適切に位置付けて活用すること、全ての児童が、学習道具として適切な使い方を身に付け、授業で活用することが大事だと考えています。
 全児童に効果的に使用できるよう、次のようなことを学校全体で指導していきました。まずは、学習規律と授業での言語活動について統一して指導しました。それから、タブレットPCの使い方の指導です。タブレットPCの使い方については、低学年、高学年別にプレゼンテーションソフトで指導資料を作成して、毎年、使用開始時に「タブレット開き」の授業を行っております。
 指導者側の取組として、次のようなICT活用を位置付けた授業過程モデルを作成しました。つながる、広がる、深め合うという1時間の授業の流れの中に、ICT機器を授業充実のための道具として位置付け、効果的に活用できるようにしました。タブレットPCは書いたり、消したり、付け加えたりする操作が簡単にできるので、個別学習の充実に効果的です。ペアや班での交流の場面では、タブレットPCに書き込んだものを基に話し合ったり、友達の意見を聞いてメモをとったりして、自分の考えを確かなものにしていくことができます。また、全体思考の場面では、電子黒板に画面を転送し説明していきます。皆の視線が集中し、分かりやすく説明することができます。最後にタブレットPC上の適用問題を解いて学習を定着させていくという授業過程モデルを全教員で共有し、実践しました。
そして、日々の実践を支える研修を計画的に行いました。教師自身のリテラシー向上研修と、授業研究を両輪で行ってきました。リテラシー向上研修としては、短時間で機器の操作、ソフトの活用方法、実践の交流を行いました。学習者用デジタル教科書・教材の活用研修は、ここで行いました。授業研究では、講師の方々に来ていただき指導を受けたほか、公開研究会のための模擬授業を行いました。模擬授業は効果的で、教員がいろいろな使い方を学ぶきっかけとなりました。
 スライド10ページの写真は、日々の実践の様子です。私たちは、黒板と電子黒板、ノートとタブレットPCの併用を当たり前としています。ICT機器だけを使って授業をするというわけではありません。タブレットPCは飽くまで道具として、授業の中で必要に応じて使っていくという形をとっています。
 当初、タブレットPCは整備されても、授業で使えるデジタル学習材はない状態でした。そこで教員がアイデアを出し、ICT支援員の先生に作成していただきながら授業で活用し、児童のためのデジタル学習材を蓄積するということを全員で行ってきました。
 成果について説明します。スライド11ページを御覧ください。まず、一人一台端末活用によって、多様な資料の閲覧が可能となり、一人一人の試行錯誤を伴う操作活動が確実に行えるようになったことで、個別学習が充実しました。学習者用デジタル教科書・教材は、児童の学習材として有効でした。また、電子黒板とタブレットPCの連動によって、個々のデータが瞬時に共有できるので、協働学習が充実しました。
 指導者側の成果としては、授業の充実、特に個別学習の充実に役立てることができるようになったことで、児童がより意欲的に学習に取り組むようになりました。
 児童の方は、しっかり考える力、相手に分かるように説明する力が伸びたように思います。さらに、タブレットPCを学習道具として適切に扱うことが当たり前となっていきました。
 スライド13ページを御覧ください。今後に向けて、授業におけるICT活用の段階を踏まえたICT環境と、支援員配置等を含んだ活用支援体制の整備が必要だと思います。また、指導者の授業におけるICT活用指導力の向上のための計画的な研修も実施していく必要があると思います。
 「デジタル教科書」の普及に当たっては、「デジタル教科書」を含む児童のためのデジタル学習材の系統性のある整備が必要だと思います。例えば、現時点においても既に、効果のある単元について学習者用デジタル教科書を作成し、カリキュラムに位置付け、どの学校にも設置されているコンピューター室(デジタル学習ルーム)で授業を行うことは、実現可能ではないかと思っております。
 では、実際にどんな授業を行っていたのか、実際の学習者用デジタル教科書・教材を使って説明させていただきたいと思います。
 それでは、実際の授業の様子を見ていただこうと思います。今日は、私たちが学校でいわゆる学習者用デジタル教科書と呼んでいる、こちらの教材を使用します。これがどのようなものなのか、5年の理科の授業を実際に取り上げて、一部体験していただきながら説明させていただきます。これより先は、この教材を学習者用デジタル教科書と呼ばせていただきます。
 この理科の「天気の変化」は、実験、観察から考えていく多くの理科の単元と違って、様々な情報を読み解いて天気の規則性を見つけていこうとする単元です。下から空を見上げての観察や、教科書紙面の資料だけでは分からないことを、学習者用デジタル教科書に入っている豊富な情報を活用して学ぶことができました。
 学習者用デジタル教科書では、紙の教科書のようなつながったページだけではなく、教科書のページがばらばらになった、スライドと呼んでいるものが入っています。そしてそこに、紙の教科書にはなかった動画が付け加えられています。実際の授業では、その授業で使うスライド、つまりばらばらになったページのうち必要なページだけを取り出して使っております。そして、それを児童に送って使うことができます。
 紙の教科書だと、その授業では必要のない情報であったり、考えさせたい場面で違うものが見えてしまったり、又は、答えが見えてしまったりということがあるのですが、このスライドを使うと、必要な情報のみ児童に見せることで、集中して学習を行うことができます。
 これは本時の導入で使ったプレゼンです。本時までに既に雲の様子と天気との関係について学んでいます。
 4月29日に藤の木の天気は晴れであるということは、児童はこの雲画像から読み取ることができます。しかし、雲の動きについてはまだ学習しておりませんので、翌日の天気は子供たちには分からない状態です。
 そこで、どうすれば、今日の雲を見て明日の天気を予想できるのかという疑問を解決していくために、まず、雲の様子や動きに決まりはないか調べていくことにしました。
 では、そこで使ったスライドです。このスライドには、下の部分に春夏秋冬、梅雨、台風の六つの動画が追加されています。これは紙の教科書にはないものです。この動画では、それぞれの時期の雲の静止画像が、約2週間分連続して早送りで流れます。学習者用デジタル教科書に入っていることで、途中で止めたり、戻したり、繰り返しもう一度見たりと、各自のペースで見ることができます。子供たちは、この動画から、雲の様子について分かったことや気が付いたこと、思ったことをノートに書いていきました。これが実際に書いた児童のノートです。
 では、実際に体験していただこうと思います。お手元のタブレットPCを開けていただけますでしょうか。子供たちは興味のある動画を見ていきながら、共通する決まりを見つけていきました。子供たちは、様々な動画を見ていく中で、例えば、梅雨の時期には雲が西から東に動き、濃い雲が切れ間なく続いていることに気付いていきました。
 冬の動画では、子供たちはやはり同じように、雲が西から東に動いていることや、薄い雲がずっとかかっていることを見つけていました。
 台風の動画からは、台風は南から北に向かって来ているけれども、北の方を見るとほかの季節と同じように雲は西から東に動いているということを見つけていました。やはり、動画を見たからこその気付きではないかと思っています。
 しばらく時間をとりたいと思いますので、それぞれの動画を見ていただけたらと思います。
 なお、今日は本来の学習者用デジタル教科書の機能の一部しか入っていないことを御了承願います。
それでは、タブレットPCを閉じていただけますでしょうか。
 発表時には、電子黒板で開いた学習者用デジタル教科書の動画を見たり、動画の方に今私が書いたように直接書き込んだりして、児童の意見を全体で共有していきました。その後、どの時期にも共通する決まりは何かについて班で話し合い、雲がおおよそ西から東に動いているということを確認しました。
 それでは、実際の授業の様子を見てください。
(動画再生中)
【有馬教諭】 最後の児童が、「どの時期も大体西から東に動いている。」と言っていました。紙の教科書では、静止画像から雲の動きの決まりを見つけていきます。しかしながら、児童の中には、静止画像を頭の中で連続した動画として再生して考えることができない児童もおり、実際にテストをしてみると理解できていなかったということも多々ありました。一方、学習者用デジタル教科書では動画で確認することができ、一目瞭然です。その効果は大きいと思いました。
 全児童が雲の動きの決まりに気付き、テストをしてみると、定着度がとても高くなりました。また、児童は、雲の大きさや形、濃さ、量や、更に速さなど、私が意図していなかった多くの事柄まで動画から読み取っていました。
 その次に、「天気も雲と同じように西から東に変わっていくはずだ。」という児童の意見を受けて、その証拠を学習者用デジタル教科書の中にある広島と東京の天気の表から見つけて印を付けるように指示をしました。この中には、なかなか証拠が見つけられない児童へのヒントもあります。このように囲ってあるところに注目し、証拠を見つけていくこともできます。
 また先ほど私が行ったように、タブレットPCに手書きで気付いたことを書き、それを電子黒板に大きく映して自分の考えを発表することもできます。
 実際の授業では、児童のデータを電子黒板の学習者用デジタル教科書に転送させ、全体で共有して天気の変化の決まりを見つけていきました。
 それでは、実際の授業の様子を見てください。
(動画再生中)
【有馬教諭】 実は、この学習者用デジタル教科書には、紙の教科書には含まれていない補充資料が入っています。今日は見られないのですが、実際には、このような映像クリップ集とリンク集に分かれていて、天気の変化に関連した外部の素材を使用することができます。
 では、実際に授業で使用した様子を見てください。
(動画再生中)
【有馬教諭】 今見ていただいた動画は、補充資料の中に入っている映像クリップ集です。この補充資料は、デジタル資料集として活用できます。このデジタル資料集には、気象を多面的にとらえた多くの情報が入っています。この授業では、まとめとして視聴しましたけれども、特に調べ学習に効果的です。
 授業は再び、導入で使ったプレゼンテーションソフトへと戻りました。翌日の藤の木の天気は何かということが、元々のスタートでしたので、それについて学習したことを基に、ペア同士で説明を行いました。どの児童も、この後、雲は西から東へ動いていく、だから天気は雨になるということを、自分の言葉で相手に伝えることができました。その後、考察を書いて授業は終了しました。
 今回の単元における学習者用デジタル教科書の一番の利点は情報量の多さだと思います。紙はスペースに制限があるため、情報量は限られています。でも、学習者用デジタル教科書には膨大な量のコンテンツが入っていて、多方面から情報を読み取ることができます。実験、観察が難しい単元では、特に効果が高いと感じました。
 この授業以外でもデジタル資料集を活用して、天気のことわざや雲の秘密、気象情報の種類などの調べ学習を行ったり、天気予報をするために必要な気象情報を集めたりということも行いました。補充資料の中に一括して資料が入っているので、効率的に調べ学習を行うことができました。
 そのほか、協働学習にも効果的だと感じました。友達に自分の書いたものを送ったり、電子黒板に映して説明したりすることで、お互いの学びを深めることができました。
 更に改善を重ねながら、学びを深める道具として今後活用できる日が来ることを楽しみにしています。これで終わりたいと思います。ありがとうございました。(拍手)
【堀田座長】 ありがとうございました。 
それでは、ただいまの御報告につきまして御意見や御質問等ございましたら、挙手をお願いいたします。
 毛利委員。
【毛利委員】 御発表ありがとうございました。
 私も「学びのイノベーション事業」の委員でしたので、藤の木小学校には何度かお邪魔することがありましたので、そのときの様子をお話しさせていただきたいと思います。
私が見に行ったとき、理科の授業で、タブレットPCを外に持ち出して活動されていました。
 良いところだと感じたのは、教科書やワークシートなどを全部ばらばらに持っていくのではなく、一つのタブレットPC、学習者用デジタル教科書で、実験の確認をしたり、デジタル化された教科書の写真をワークシートに貼り付けて使ったり、書き込んだりすることができることです。国語の授業でも、テキストを取り出し、別のワークシートに貼り付けて使うことができます。
 今まではそれに時間がかかり過ぎ、思考する時間がすごく短くなっていたのですが、学習者用デジタル教科書ではその作業が素早くできますので、話合いの時間や考える時間を長く確保することができ、子供たちが本当に活発な授業を展開され、すばらしいと思いました。
 そのとき、校長先生に地域の方と保護者の方の反応をお伺いし、地域の方も保護者の方も応援していると御回答いただいたことを覚えています。
 以上でございます。
【堀田座長】 はい。近藤委員。
【近藤委員】 2点教えていただきたいことがあるのですが、一つは、「デジタル教科書」には非常に豊富なコンテンツが含まれており、それが利点であるということを御説明いただきました。また、毛利委員から、「デジタル教科書」を使うことでディスカッションに非常に長い時間を充てることができ、授業の在り方がシフトするというコメントを頂き、非常に参考になったのですが、学習者用デジタル教科書を考えたときに、先生が考えられるデジタルでなければできないことで、学習支援で特に重要だったポイントは何か教えていただきたいと思います。
二つ目は、それに関連して、御発表では、成果として、学習意欲や説明する力について触れていらっしゃいましたが、こういったことに関して、何かエビデンスベースで御説明いただけますでしょうか。いろいろな観点でエビデンスがとれると思いますが、例えば学力向上などに関してのエビデンスや、何か証拠に基づく説明ができるようなことがあれば、教えていただければと思います。
【有馬教諭】 学習者用デジタル教科書の良さはやはり動画です。そして、操作性のあるワークシートです。本校で作っているものとして、例えば426割る4などの割り算のやり方を考えるとき、100の固まりを10の固まりに変換できるようにしておき、それをタブレットPC上で実際に操作しながら100の固まりを10の固まり10個分に変えて理解しながら進めていくことのできるワークシートがあります。操作しながら考えることができるので、思考が深まります。
 図形もそうです。学習者用デジタル教科書のものは切って移動できます。複合図形の求積方法を試行錯誤しながら考えるのに有効です。 
それから、証拠に基づいて説明できるかについて、全国学力・学習状況調査では、一般的には多くの学校でA問題の点数の方が高いのだと思いますが、本校はB問題が比較的良いのです。学習者用デジタル教科書を活用することで、子供たちの説明する機会がとても多くなり、進んで発表しようとします。言語活動の充実につながっていると考えています。A問題よりB問題の方で比較的高い点数が出ているということは、その現れではないかと分析しております。
【堀田座長】 ありがとうございました。豊嶋課長、何かありますでしょうか。
【豊嶋課長】 後者のエビデンスの関係で申し上げますと、アンケート調査の結果として、この「学びのイノベーション事業」の期間を通して、中学校について見ると、例えば自分の考え方、意見を分かりやすく伝えることができましたかという質問に対して、実は平成23年度の時点では数値が高くなかったのですが、平成25年度、すなわち3か年の最終年度については17%の上昇が見られていますので、特に自分の発表する部分について、アンケートのベースですが、変化が多く見られました。
 そして、「学びのイノベーション事業」とは別の話になりますが、平成25年度、26年度の全国学力・学習状況調査中の質問紙調査において、ICTを活用して協働学習や課題発見・解決型の学習指導を行っているかということと、国語と数学の点数の相関関係について、一般的には、よく行っているというものの方が国語、算数ともに点数が高いというデータが出ております。以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございます。山内委員、お願いします。
【山内委員】 すばらしい発表をありがとうございました。先ほど、「デジタル教科書」をお使いになる際には、教員が事前に授業準備をするときに、紙の教科書の内容の配列を再編成して、教科書とは違う順番で提示をしたり、授業を展開したりできるというようなお話がありました。これは非常にすばらしいことだと思うのですが、逆に、教員の指導力や授業力によって、「デジタル教科書」を使った場合の授業の質、また子供たちの学びの深さというものが、かなり変わってきてしまう。つまり、教員指導力、授業力が、紙の教科書を使っているよりも「デジタル教科書」を使っている方が、むしろ、よりストレートに反映されるという危険性はないのかどうか。
 そして、先生の学校の場合に、「デジタル教科書」を使われる際に、そのような心配をどのように解決されてきたのか、教えていただけますでしょうか。
【堀田座長】 有馬先生。
【有馬教諭】 指導力については、むしろ逆ではないかと私は思います。学習者用デジタル教科書の中にはいろいろなものが入っていますので、時間がなくて授業の準備が難しい場合でも、ある程度の質が保証できるという効果が大きいと思います。
 ただ、先ほど言われたように、教員の研修はとても大事だと思います。本校でも、ICT機器の使用に当たっては、ICT支援員の先生を中心にしながら、全員でたくさんの研修を積んでいきました。実際に授業をするときには、お互いに模擬授業で公開し合って、そのようなやり方もできる、このようなやり方もできると言いながら、自分だけでは限りがあるものを、いろいろなやり方でできるようになりましたので、そういった環境を整えていくことも大事だと考えています。
【山内委員】 ありがとうございました。
【堀田座長】 ありがとうございました。神山委員。
【神山委員】 3点お伺いします。まず、6.5%いるという発達障害の子供がもし学級にいたら、このようなものを使い出してから、その子供の学習はどのように変容したかを教えていただければと思います。藤の木小学校に特別支援学級はございますか。
【有馬教諭】 あります。
【神山委員】 2点目は、特別支援学級でも何か使えるコンテンツがあるだろうかということを思ったのですが、そちらではどのような活用をしているのでしょうか。
 最後に、授業でタブレットPCを使うことで、実際に西の空を見る子はどのぐらいいたのかということが気になりました。
 以上、三点お願いいたします。
【有馬教諭】 6.5%いるという支援の必要な子供ですけれども、特に有効だと思いました。
特別支援学級に在籍していない子供の中にも支援の必要な子供がいます。視覚優位の子供には、こういったものがあることで、文字だけでは読み取れないことも、図や動画などを利用することで理解しやすくなります。見せる物がスライドという形ではっきりしており、余計な情報が見えないので、気が散らず集中して学ぶことができます。
 むしろ、そのような子供の方が伸びたように感じます。もともと勉強が苦手だという子供の方が、授業中、顔が上がってきます。ですから、本校がICTを使うようになってから、全員が授業に参加しているという印象を持っています。
 実際に、特別支援学級でも活用しています。文字を読むのが苦手な子供は、音があることで、しっかりと読んでくれます。教科書を読み上げてもらうことで、目では難しいけれども耳では文字が入るとか、少し行間を空けるとか、ゲーム的要素を取り入れながらやっていくとか、いろいろな方法で授業に取り組むことが可能ですので、よく活用しています。
 最後に、実際に西の空を見た子供についてです。どのぐらいのパーセントの子供かは分かりませんが、授業の後、社会見学がありました。そのときに子供が、西の空を見て、「あしたの天気は晴れだよ。」と言っていました。机の上だけで終わってしまうのではなく、学んだことが実際の生活に生きてきてほしいと思って「デジタル教科書」を導入したのですが、子供たちは授業後も、天気はどうかと意識を持ってくれたのではないかと思います。
 この後の授業では、この中にある補充資料の気象情報を見ながら、翌日の藤の木の天気を調べようという活動を1週間ほど続けましたが、その活動と実際の西の空を見ることを両方行っていたので、そのことも子供の意識につながったのかもしれません。
【堀田座長】 ありがとうございます。では、天笠委員。
【天笠座長代理】 一つ御質問させてください。今、電子黒板に表示されている一覧表が作られるまでの過程はどのようなものだったのでしょうか。子供が観察、観測して、そしてそれを記録したものが今見ている表になっているのでしょうか。それとも、既存のデータが表となっていて、そしてそれを子供たちに示すことで、法則性、規則性を考えさせようとしたのでしょうか。
 小学校の理科では、やはり観察や観測などを削ることはできないのではないかと思いますが、その上で、それら観測、活動、体験したことをデータとして整理し、それを思考するということが重要だと思います。
 この場合には、データや資料が大きなポイントになる部分ではないかと思ったのですが、単元構成に当たってどのようにお考えになったのでしょうか。
 その上で、デジタル、あるいはタブレットPCを活用することの利点をどのように考えていらっしゃるのか、お聞かせいただければと思います。
【有馬教諭】 単元構成ですが、教科書の並びは逆になっています。
【堀田座長】 今出ているのは、教科書の紙面がそのまま大きくなっているものですね。
【有馬教諭】 はい。
【堀田座長】 だから、藤の木小学校で作ったものではないということですね。
【有馬教諭】 はい。藤の木小学校の天気も探してみたのですが、やはり子供たちに最初に考えさせるのであれば、天気の移り変わりがはっきり読み取れるものが良いと思いました。そうしたときに、教科書で出しているものが良いと思い、こちらの方を使わせていただきました。
【堀田座長】 教科書には偶然にも広島の統計だったわけですね。
【有馬教諭】 そうです。ちょうど良いと思いました。
【堀田座長】 はい、分かりました。
【天笠座長代理】 どうもありがとうございました。
【堀田座長】 ありがとうございました。では、東原委員。
【東原委員】 本日、学習者デジタル教科書を使用した授業を体験させていただいたわけですけれども、学校の環境とここの環境で一番大きな違いは、先ほどおっしゃったとおり、ネットワークでつながっていないことです。ですから、ネットワークでつながっている場合にはどのようなことができるのか、教えていただけると有り難いです。
【有馬教諭】 ネットワークでつながれていると、私が必要なページだけを取り出して、それだけを開いて見ることができます。そしてヒントのページを見られるようになります。
【東原委員】 先生があらかじめ教科書のここを開かせたいというところを設定しておくと、そこからスタートするということですね。
【有馬教諭】 そうです。そして、補充資料やネットにもつながるようになっています。
【東原委員】 書き込んだものと電子黒板との関係はどのような感じですか。
【有馬教諭】 実際に子供が書き込んだものは、アルバムに保存できます。保存をしたときに、自分のところにも保存できるし、ほかの児童や電子黒板に送ることができます。本日は電子黒板の方に送ったものを見ていただきましたが、友達同士で書いたものを送り合って交流することもできます。
【東原委員】 ありがとうございました。
「デジタル教科書」に関して検討するということになると、「デジタル教科書」だけを考えてしまいがちですが、「デジタル教科書」を含むICT環境、そして黒板やノートも含む全体の環境について考えることに意味があるというお話として受け取らせていただきました。
【有馬教諭】 ありがとうございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。
「学びのイノベーション事業」では、東原委員がおっしゃったように、電子黒板、ネットワーク、子供のタブレットPCといった様々な機器が使用され、タブレットPCに入っているいろいろな教材の一部として「デジタル教科書」と言われるものが入っていたようです。そのような総合的な環境での実践の成果と課題を、本日お示しいただいたということになります。私どもの会議体は「デジタル教科書」を検討する会議なので、全部を広く把握した上で、「デジタル教科書」はどうすれば良いかを議論するということになっていきます。
 続きまして、議題2に移らせていただきます。本日は一般社団法人教科書協会の皆様をお呼びしまして、教科書発行者の立場から見た「デジタル教科書」の現状と課題について御意見を伺いたいと思います。
 佐々木会長はまだ御到着されていないので、代わりに松尾事務局長にお願いしたいのですが、ちょうど今、若江委員がお見えになりましたので、初めての御参加ということで、一言だけ御挨拶を頂けますか。
【若江委員】 株式会社キャリアリンクの若江と申します。
民間の立場から学校現場を支援する役割を担ってまいりましたので、いろいろと勉強させていただきながら意見も申し上げたいと思います。よろしくお願いいたします。
【堀田座長】 ありがとうございました。 
それでは、松尾事務局長、お願いいたします。
【松尾事務局長】 本日は、このような機会を設定いただきまして、誠にありがとうございます。
 最初に、教科書協会の御紹介と現在の検定教科書制度に対する考え方についての御説明をさせていただき、その後、いわゆる「デジタル教科書」に対する現在の教科書協会の取組状況について御説明を申し上げたいと思います。
教科書協会に加盟している教科書出版社各社は、検定教科書を中心に、学校教育で使われる数多くの教材を作成しております。教科書協会は昭和28年に設立し、検定教科書発行出版社、総数52社のうち39社が加盟しております。主要な教科書出版社は、ほぼ全て加盟しております。
 私どもの検定教科書に対する所見を申し上げます。検定教科書は日本の発展の礎であり、学校教育の中において常に中心となる教材とし使用されてきました。また、国民一人一人にとって最も重要な社会インフラの一つであると認識しております。常にその自覚を持って、日夜、教科書の作成に取り組んでまいりました。
 最近の情報通信技術の急速な発展、進歩が社会全体に大きな変化をもたらしております。そのような環境の中で科学技術、文化芸術の立国を目指す日本にとりまして、学校という公教育の場における今後の検定教科書の在り方、役割は、子供の将来や国家の繁栄にとって大きな影響を与えるものと考えております。
 特に私どもが憂慮しますのは、子供の貧困、つまり子供の受ける教育の格差が深刻になりつつある日本の社会情勢です。子供の教育を、決して保護者の私事だけにしてはならないと考えております。無償給与制度、検定制度によって品質、水準がしっかり保証された教科書が、全ての子供たちに例外なく無料で確実に届けられるという仕組みは、今後とも、子供たちの将来の幸せを実現させるための日本の公的教育、ひいては社会の健全な発展を支える極めて重要な役割を担っていくと考えております。
 そういったことを踏まえて、検定教科書の媒体や形態が将来どのようなものになったとしても、私どもとしましては、今求められている主体的で多様な能動的な協働学習の推進等の観点を視野に入れながら、学ぶ子供たちと指導する教員の方々の思いをしっかりと反映させて、教育効果の高い教科書・教材作りに取り組んでまいる所存でございます。本会議から、今後学ぶべきメルクマールを示していただければ幸いに存じます。
 それでは、当協会の情報化専門委員会の長谷部副委員長より、現在のデジタル教材、いわゆる「デジタル教科書」に関する教科書協会の取組状況について説明させていただきます。
【長谷部副委員長】 教科書協会情報化専門委員会の副委員長をしております長谷部でございます。
 まず、「デジタル教科書」の現状です。「デジタル教科書」と呼んでいますが、指導者用デジタル教科書、それから学習者用デジタル教科書という2種類があります。これは先ほど藤の木小学校の「学びのイノベーション事業」の実証で御覧いただいたとおりでして、先生方が提示するものが指導者用、子供たちのタブレットPCに入っているものが学習者用、と考えていただければと思います。
 それでは、「デジタル教科書」の現状ということで、指導者用と学習者用、それぞれについて現状を御報告させていただきます。
 まず指導者用の「デジタル教科書」ですが、現在、学校現場で非常に普及が進んでおります。特に現行の指導要領が小学校で全面実施された平成23年度から各教科に広がってまいりました。
 スライド4ページを御覧ください。この指導者用デジタル教科書は、先ほど御覧いただいたように、電子黒板やプロジェクターを通して使用するものであり、普通教室での授業で活用される一斉指導型授業のスタイルをベースに開発されているものです。
 これは当然のことですが、飽くまでも教科書準拠の教材であって、いわゆる制度上の教科書ではありません。また、子供たちは紙の教科書を持っていますので、この指導者用、学習者用デジタル教科書は、紙の教科書と併用して活用するものです。
 実際にはどのようなものかということを、一部スライドにて御紹介させていただきます。
 スライド5ページを御覧ください。これは小学校4年生の算数の「直方体と立方体」という単元ですけれども、御覧いただいているのはレイアウトも忠実に再現された教科書紙面そのものです。赤く囲った枠がありますが、ここをタップすると個々のコンテンツが出てくる仕組みになっています。例えば、先ほど左上にあった枠をタップすると、このように問題だけが拡大表示される。先ほどの藤の木小学校のお話にもありましたが、紙の教科書では全て見えてしまう一方、このように一部問題だけを表示することで、ここに着目することができ、これをベースにいろいろな考え方を示すことができるという効果があります。そして、図のみを表示することもできます。この図からどのようなことが分かりますかといった問いかけができます。つまり、図に焦点化する機能があるということです。
 続きまして、この図をベースに、書き込み、アノテーションの機能があります。これは立方体の展開図ですが、実際には箱が滑らかに開いていって展開を示す動きのあるコンテンツが入っています。
 続きまして、スライド10ページ目は3年生の「円と球」の単元ですけれども、ここではコンパスの使い方が扱われています。教科書では、御覧のように何枚かの写真で構成して、理解してもらおうということになりますが、指導者用デジタル教科書には実際に子供がコンパスを使って円を描いている映像資料を収録していますので、実際に動くものとして理解を高めるという役割を担っています。
 指導者用デジタル教科書の発行状況ですが、まず、小学校についてです。
スライド12ページを御覧ください。平成23年度~26年度版、つまり現行の指導要領に対応した最初の教科書に準拠したものは、62.7%(32種)が発行されていました。次に、スライド13ページは平成27年度から使用されている教科書に準拠した指導者用デジタル教科書の発行状況ですが、90%と、大幅に増えております。つまり、この4月から小学校で使用されている教科書は改訂後のものですが、改訂に併せて指導者用デジタル教科書の発行点数も増えているということです。この指導者用デジタル教科書の発行点数を教科別で見ていくと、小学校の場合は、国語、書写、社会、算数、理科、音楽、図工、家庭において100%発行されています。
 続きまして、中学校についてです。スライド15ページは、平成24年~27年度版、つまり今年度まで使用される、現行指導要領に対応した最初の教科書に準拠した指導者用デジタル教科書の発行状況ですが、これが70%です。来年4月から、中学校では改訂版の教科書が使われますが、小学校では改訂を機に指導者用デジタル教科書の発行割合が90%まで増えたことを考えますと、中学校の指導者用デジタル教科書につきましても、来年4月には相当に増加することが予想されます。教科別に発行状況を見ると、数学と英語が非常に高い発行率になっています。これは教科特性に関係しているのではないかと思われます。
 続いて、スライド17ページの指導者用デジタル教科書の普及率を見てみますと、平成22年度は小中ともに10%程度だったのですが、平成25年度時点では、どちらも40%を超える普及率になっています。
 この変化の要因の一つとしては、インフラ整備、つまり、電子黒板の普及率が大きく影響しているからだと思いますが、加えて、先生方が指導者用デジタル教科書を使うことが効果的だという印象を持たれたことも挙げられると思います。つまり、実際に使ってみて評価できるものである、という印象が定着しつつあるのではないかと考えております。
 先生方が指導者用デジタル教科書には効果があると思われる理由、要因をスライド18ページにまとめています。
1点目に、紙では表現できなかった映像などが豊富であり、非常に分かりやすい授業ができることが挙げられます。また、プレゼンテーションとして子供たちに見せるので、子供たちが皆、前を見て集中するということが挙げられます。
 2点目として、自由度の高い授業ができること。つまり、教科書は一つのストーリーを持って紙面を構成していますが、その中の図や写真をピックアップして、それをベースに自由に授業を組み立てることができる。これについては、先生方のスキルが問題になるのではないかとの御指摘がありましたけれども、自由度の高い授業ができることは効果として挙げられると思います。
 3点目は、授業準備の効率化です。実際には指導者用デジタル教科書だけで授業をされる先生はほとんどおらず、いろいろなものと併用していますが、指導者用デジタル教科書によって授業準備を効率化することができると言えると思います。
 これから学習者用デジタル教科書の話に移ります。イメージとして「学びのイノベーション事業」で開発された学習者用デジタル教科書の写真を入れさせていただきましたが、こちらは、先ほどの藤の木小学校からの御報告で御理解いただけたのではないかと思います。
 スライド20ページを御覧ください。学習者用デジタル教科書は、指導者用デジタル教科書と違って様々なパターンが考えられ、まだ実験段階と言っても良い状況です。また、これも指導者用デジタル教科書と同様、制度上の教科書ではなく、飽くまで教科書に準拠した教材という位置付けです。先ほど東原委員の御指摘もありましたように、学習者一人一台の端末に対応してネットワークの中で使うことを前提にされたものです。 
そして、先ほどの御報告でもありましたが、一斉授業で使用することはもちろんのこと、個別学習、協働学習といった多様な授業スタイルに対応することを想定して開発しています。
 学習者用デジタル教科書の商品は、平成25年から高校用が出てまいりまして、平成27年度から小学校の学習者用デジタル教科書が発行され始めました。これは、インフラの整った先進校において実証的な活用が始まったばかりという状況です。
 将来的には、例えば児童生徒がタブレットPCを持ち帰ることや、あるいはBYOD(Bring Your Own Device)といってデバイスを選ばずに同じコンテンツにアクセスできるということも当然視野に入ってくると思いますが、これは今後の課題だと思います。
 先ほど申しましたように、一口に学習者用デジタル教科書と言っても、まだ制度上の教科書ではありませんし、いろいろなタイプのものが出ております。その中で、電子書籍の国際標準規格であるEPUB3をベースにした学習者用デジタル教科書について御紹介させていただきます。
 スライド21ページ目、電子書籍の書棚のようなところから該当する教科書を選ぶと、22ページの画面になります。これがEPUBに準拠した、いわゆる固定レイアウトの画面で、教科書の紙面そのままです。
 右上に救急車の写真がありますが、ここをタップすると拡大されるという仕組みになっています。さらに、この上にプラスマークがありますが、更に拡大することができます。そうすると、これは細かいところが見にくい児童生徒のためだけの機能ではなく、よく見るといろいろなものがあるということで、教科書の写真を資料としてより深く見ることができるという学習効果が期待できます。
 また、上のツールバーに音声の再生ボタンがあり、この図のキャプションや説明を自動読み上げするという機能を盛り込んでいます。読み上げは、TTS(Text To Speech)、SSML(Speech Synthesis Markup Language)の技術を使っていますけれども、この図に関するテキストがあれば、それを自動読み上げするということで、特別支援教育に対応した機能と言えるかと思います。
 今までは図でしたが、今度は教科書の本文をタップすると、タップした本文の部分がポップアップで拡大されます。ここで、設定を変えることによって、まず書体、行間、文字の大きさを変えることができます。
 さらに、下の方に、文字の色と地の色の組合せがあるのですが、どの組合せの地の色と文字の色が見やすいかという研究に基づいたパターンを幾つか用意して、その最適なものを選んで設定するという機能があります。
 続きまして、スライド30ページの画面は白黒反転に設定しています。いわゆるピンチイン、ピンチアウト、あるいはプラスマークで文字の大きさや行間を自由に変えることも可能であり、加えて、この部分はリフローが可能です。固定レイアウトの紙面ページでリフローするのは非常に難しいのですが、このように本文をポップアップしてリフローすることは可能です。
スライド31ページを御覧ください。学習者用デジタル教科書の発行の有無ですけれども、27年度からの小学校では6割近い発行割合になっていますが、先ほどお話しましたとおり、形態は様々です。
 教科別で見ますと、やはり算数、理科、国語が多いという状況になっています。
 先ほど御覧いただいた特別支援の機能については、利用可能な段階に近づいているのではないかと思いますが、来年の4月から障害者差別解消法が施行されますので、それもある程度視野に入れる必要があると考えています。
 特に学習者用デジタル教科書は、一人一台のデバイスという環境整備が大前提になることもありまして、佐賀県などの非常に進んだところとそうでないところの間で、かなり差があるように思います。また、授業研究自体もまだまだこれからですので、当面はトライアルのような状況が続くのではないかと思います。
 「デジタル教科書」を推進していく上では、スライド34ページ以降に記載しているような様々な問題、課題が山積しております。この中で特に標準化ということでお話しさせていただきますと、児童生徒や先生方が使う上で、仕様やソフトがばらばらということは非常に不便なので、標準化すべきであるということです。
 もう1点、大きなことで言うと、法整備です。法整備については、「デジタル教科書」が制度化された場合には、いわゆる紙の教科書で適用されている規定が果たして適用できるのかが問題となります。また、掲載期間も問題になります。紙の教科書は、一度子供たちが持てばそれをそのまま持っていますが、「デジタル教科書」閲覧の期間制限をどうするのかという問題もあると思います。
 そして、著作権の管理も課題になってくると思います。
 スライド38ページを御覧ください。最後に、提言として、今後のことを考えますと、学習者用デジタル教科書は、次の学習指導要領の目指すアクティブ・ラーニングにおける情報活用型のツールとして期待できます。
 一方で、検定をどこまで広げるのかという課題があります。先ほど、映像などのコンテンツが非常に有効だという話がありましたが、それを検定の対象にできるかということです。
 さらに、自治体によって、あるいは学校によってインフラの整備状況がまちまちな中で、果たしてドラスティックに全て「デジタル教科書」に切り替えられるのかと考えますと、やはり紙とデジタルの併用も検討せざるを得ないのではないか、と提言としてまとめさせていただきました。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。ここで、佐々木会長がお見えですので、一言御挨拶いただけますと幸いです。
【佐々木会長】  教科書協会の佐々木でございます。遅参しまして申し訳ございません。 
私たちは、一人でも多くの子供たちが幸せになれるような日本の公教育を地べたで支える教科書を、何とか懸命に作っております。ICT技術、電子情報通信技術、発達しております。これらには、法的にも、社会の土壌としても、克服しなければならない点が多々あると思いますが、是非良いところをとらえて、先ほど申し上げた私たちの信念の下に、頑張って教科書作りを進めたいと思います。
 先生方からのいろいろなアドバイスを頂ければ幸いに存じます。どうもありがとうございました。
【堀田座長】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの議題2の説明につきまして、何か御意見や御質問を頂きたいと思います。山内委員。
【山内委員】 全体像がよく分かるまとめと御解説をありがとうございました。2点、質問させてください。
 一つは、中学校の指導者用デジタル教科書の発行率で、数学と英語が非常に高いという御発表がございました。なぜ、数学と英語が高いと思われるのか、その理由をお聞かせください。そして、ほかの教科で発行率を上げるためには、どのような工夫や手立てが必要だと思われますか。
二つ目の質問は、今、教科書には検定制度があります。基礎的、基本的な教育内容の保障という意味での検定は非常に重要だと考えますが、「デジタル教科書」を検定することについて、教科書作成側からどのようにお考えでしょうか。そして、今までの教科書を検定に出すときの準備や構えと比べて、「デジタル教科書」を検定に出すときの臨む姿勢や準備、心構えは変わってくるのでしょうか。紙の教科書ですと、表紙が付いていない白表紙というものを出していただくわけですが、「デジタル教科書」ですと、何もラベルが付いていないDVDで提出していただくのか分かりませんが。
【堀田座長】 では、よろしくお願いいたします。
【長谷部副委員長】 1点目の、数学と英語の指導者用デジタル教科書の発行点数が非常に多いということについて、明確な根拠があるわけではありませんが、数学はできる子、できない子が小学校の段階からはっきりします。そうすると、先ほど立体を回転させたような視覚的な機能により、数学が分かりやすくなる実感が得られるのではないかという気がいたします。
 英語については、これははっきりしておりまして、英語の先生方は昔から、カセットテープ、CD-ROM、MP3などいろいろな音声教材を活用されていて、その延長線上で、音声教材をベースにそれと紙面がリンクしたようなものを望んでいた方が多いのではないかと思っております。
2点目の検定についてですが、私は理科の教科書を編集しておりましたが、やはり厳密な検定は必要です。そうすると、映像など情報量の極めて多いものを、紙の教科書と同じように厳密に検定することは困難ではないかと思います。
 それから、今の教科書制度のスケジュールにおいて、紙の教科書で表現できなかったコンテンツを検定の対象にした場合に、修正等が果たして物理的に間に合うのかということは、正直なところ疑問に思います。
【堀田座長】 ありがとうございます。
 ほかに何か、この議題につきまして御意見や御質問はございますか。中川委員。
【中川委員】 本日見せていただいたプレゼンテーションの中の「デジタル教科書」は、どちらかというと情報量が非常にたくさん含まれたものだと思います。
一方で、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」に基づく、いわゆる拡大教科書を中心とした既存のものが幾つかあると思いますが、よろしければ見せていただきたいのと、この両者において違いはどれぐらいあるものなのでしょうか。
【長谷部副委員長】 準備の関係で実際に見ていただくことができず、すみません。
お話のあったように、拡大教科書というものがございます。拡大教科書は、大きさが一つのパターンで作られており、全体を拡大しています。
 ところが、「デジタル教科書」は、先ほど御覧いただいたように自由に大きさを変えられるため、本当に見えるところまで拡大して見る生徒さんから、ある程度小さくても見える生徒さんまで、いろいろな方に対応できるかと思います。また、先ほど色の組合せも御覧いただきましたけれども、どのような組合せが見やすいかについてもパターンがあると思いますので、一人一人の子供に見やすい環境で対応できるのは「デジタル教科書」ならではないかと思います。さらに、「デジタル教科書」には音声があります。現在の自動読み上げの精度では、まだまだおかしな発音もありますが、少なくとも何もないよりははるかに分かりやすいです。
 先ほど、藤の木小学校の有馬先生も読み上げ機能が有用であるとおっしゃっていましたが、そのとおりではないかと思っております。
【堀田座長】 ありがとうございました。
 それでは、議題2につきましてはここまでとさせていただきます。
 この後、ただいまの御説明を踏まえながら、前回に引き続きまして「デジタル教科書」について皆様から自由に御討議いただきたいと思います。資料4として前回の主な意見を事務局と私で整理しておりますので、これを参照していただきながら御質問いただければと思います。
 また、藤の木小学校の島本校長先生が到着されましたので、一言御挨拶を頂ければと思います。
【島本校長】 遅れて申し訳ございません。藤の木小学校で3年間、「学びのイノベーション事業」の中で学習者用デジタル教科書を活用した授業研究、事業推進を行ってまいりました。3年間取り組んでみて、やはり学習者用デジタル教科書は有効であるととらえています。
 これまでにも教師は、良い授業をしようと、一生懸命、教材研究・教材作りを行い、子供たちに何を示そうか、どんな活動をさせようかと工夫を凝らしてきました。これまでは、教師というメディア・媒体を通して学びの対象が子供たちに伝わっていました。
しかし、今回の学習者用デジタル教科書の活用を通して、「学びの対象そのものが、学習の主体である子供の側に渡った。」と私は感じました。だから「学びのイノベーション」なのではないかと私はとらえています。
 一方で、各学校のICT環境には様々な実態があり、その現実を踏まえたICT活用の推進が重要だと思いますので、本日の報告が参考になれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
【堀田座長】 ありがとうございました。
 それでは皆様、御意見をお願いいたします。
【尾上委員】 保護者の立場からしますと、ICT教育や「デジタル教科書」に関しては、まだ情報が少なく、認識がほとんどなかったというのが現状でした。今後は、アンケートという形式になるか分かりませんが、どんどん情報を取っていく必要があると思います。社会環境がデジタル化していく中で、「デジタル教科書」に取り組んでいくことは必須だといった意見は相当多くを占めておりましたが、現状はよく理解されておりません。検定教科書の説明などから始めなければならないので、少し時間を要するかと思いますが、文科省なり、我々なりがどんどん発信していかなければならないと思います。
 もう一つ言えば、お金、環境などはとても気になります。現在、教科書は無償措置されておりますが、「デジタル教科書」が導入されると、費用も個人負担になるのではないかとの危惧はございます。
 以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。若江委員、お願いします。
【若江委員】 前回の議論を今ざっと拝見をしておりまして、話を戻してしまうかもしれませんが、「デジタル教科書」の可能性というのは非常に感じてはいるところなのですが、何を目的にこれを使うのかによって、全くアプローチが変わってくると思います。今、日本の教育は、知識偏重型のものから協働的な思考活動による課題解決型の学習に変わっていかなくてはなりません。そして、その中で教員が授業スタイルを変えていかなければならなりません。そのようところに、ツールとしてICTは不可欠であると思うのですが、言い換えると、そのような新しい学習を実現していくためのきっかけとして「デジタル教科書」を位置付け、強制的に、日本の子供たちや教員が教科書として使わなければならない状況にすることは、教育の大きな変革の一歩になるのではないかと思っております。
 使う対象や学校種、目的についていろいろな議論はあるかと思いますが、プレゼンテーションを拝見していますと、学力向上に資する分かる授業のために、といったことに重きが置かれているという気がします。しかし、これからの思考支援型のアクティブ・ラーニングのようなところに軸足を置くとするならば、「デジタル教科書」の在り方自体も、もっと変わってくるのではないかと感じました。
【堀田座長】 貴重な御意見ありがとうございました。
 では、井上委員。
【井上委員】 先日、全国高P連の総会がありまして、そのときに、望月課長から「デジタル教科書」について御説明いただきました。全国高P連では、8月に岩手で全国大会がございますので、そちらで保護者にアンケートをとらせていただきたいと考えています。
 この「デジタル教科書」を使用するに当たり、現場が新しい環境に適合するのにどのくらい時間がかかるのかという懸念もありますし、これまでも教員の皆様や生徒の負担教材になることがないような関わり方をされてきたとは思いますが、従来の授業の内容を上回るような授業ができるように期待して、これから議論していくべきだと思います。
 県立高校では唯一、佐賀県がデジタル教材を使っておりますが、やはり保護者の立場からは余り身近に感じてはおらず、初めて聞く保護者の方が多いかと思います。佐賀県でも教材のタブレットPCで5万円の自己負担が生じ、教科書費用は別途必要ということで、新入生徒の経済的な負担が倍増し、故障等々も含めての費用負担も必要になります。
 先ほど、今のところ身体に関わる影響は見られないというお話もございましたが、引き続き、子供たちの健康に悪影響をもたらすかどうかを含めて検証していただきたいと思っております。
【堀田座長】 貴重な意見です。ありがとうございました。
 では、天笠委員。
【天笠座長代理】 一つ目の発表と二つ目の発表、それぞれが勉強になりました。その中で、「学びのイノベーション事業」について関心をより深めさせていただいたのですが、この分析に当たり、私の専門とする領域に照らして、このような観点はどうだったのだろうか、ということを改めて知りたくなりました。
今日御説明いただいたような「デジタル教科書」を用いた指導に当たっては、個々の先生による授業方法の工夫改善はもちろん大切なのですが、それが学校として組織ぐるみで受容されたか否かが重要です。
 ですから、資料4の整理でいくと、「導入に当たって必要となる環境整備」という論点について考えるに当たり、昨今話題になっている「チーム学校」のような視点も必要となるのではないかと思います。
今後、ハードウェアの整備の在り方や行政の在り方まで議論が進むと同時に、校長のリーダーシップや学校の教職員集団の協働性といった視点も絡んでくるのではないかと思います。ただ、メインは「デジタル教科書」の在り方であるということは認識していますので、整理の仕方が、今後、重要になってくるのではないかと思っております。
 もう一つは、改めて、子供の発達段階を考慮することが大切になってくるのではないかと思います。大ざっぱに言えば、具体を具体として学ばなければならない段階と、具体を抽象化して学ぶ段階と、それから抽象段階を抽象的に学ぶ段階がありますが、そこにデジタルはどう絡んでいくのか。とりわけ教科書というのが、そこにどのような意味でプラスに位置付いていくのか。あるいはプラスマイナス、どのようにとらえていくのか。このあたりは今後また理解を深めていきたいと思っております。
 以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。では、黒川委員、お願いします。
【黒川委員】 今回、一番話題になっているのは学習者用デジタル教科書です。これは検定教科書ではありませんが、これからの時代を開くという意味で、学習者自体の多様な学びをサポートしていく重要なツールだということは先ほど申し上げたとおりです。一般化に向けては、天笠委員もおっしゃいましたが、一部の先生方だけでなく、学校現場全体に納得していただいて進まなければならないと思います。それに際しては、授業設計や授業デザインの問題がよく見えていないという課題があります。
 「学びのイノベーション事業」には、私たちは開発の側から参加させていただいたのですが、開発した単元は学年で二つ、あるいは四つ程度でした。年間を通して学習を行っていませんので、今回の成果は先生方の日常的なお力によるところだと思いますが、「デジタル教科書」を活用した学びという面からは、十分に効果が試されていないようにも感じております。
 それから最後に、「学びのイノベーション事業」では、各教科を超えてビューアーを統一させました。そういった開発は非常に我々にとって勉強になったということと、学校の各現場で整備環境がばらばらなため、導入に苦労したということも付け加えておきたいと思います。特に名簿の管理は毎年やらなければならないのですが、このようなことは外しては考えられないので、是非その辺も今後は議論させていただきたいと思いました。
【堀田座長】 当事者であり委員である黒川委員から御意見を頂きました。
 では山内委員。
【山内委員】 今日は「デジタル教科書」の利活用の具体例を拝見しまして、非常に感動いたしました。ただ、「デジタル教科書」の場合、デジタルですから、いろいろな情報が詰め込めるわけです。資料4にありますように、教科書の意義・役割として「基礎的・基本的な教育内容の履修を保障する」ということを考えると、「デジタル教科書」については、どうやって紙の教科書と同じように内容と質を保証していくのかということが非常に重要な課題ではないかと思います。
 教科書協会の御発表についての私に質問に対して、教科書協会の長谷部副委員長からの回答で、音声や動画を入れた場合に、今までと同じように全ての内容を検定の対象にすることができるのか、また、検定のスケジュール的な問題で、きちんと修正ができるのか、というお話がありました。
検定では、実は「35日ルール」というものがあり、検定意見の通知を受けた場合、35日以内に修正を提出しなければ不合格になります。そのような現状のルールの中で、果たして、この「デジタル教科書」の検定ができるのか。
 また、検定のための検定ではなく、その内容と質を保証するために「デジタル教科書」をどのようにチェックしていくことができるのかということが、非常に重要な課題ではないかと感じました。
 以上です。
【堀田座長】ありがとうございます。検定をする側の委員の山内委員の御意見ということで、非常に貴重な御意見だと思います。
 そのような意味では課題がいろいろ出てきたわけで、教科書協会からは法整備や標準化の話もしていただきました。これも非常に貴重な部分でございまして、ほかには、各学校のICT環境の整備等、様々な課題がございます。
 この検討会は、「デジタル教科書」の位置付けを検討し、それから課題を明確にして方向観を見いだすというところまでがミッションではございますが、課題が山積しているということがよく分かりました。課題の一つ一つが随分具体的になってきたのではないかと思います。
 本日の議論は、資料4に付け足して整理をしていくことにしたいと思います。
 では、事務局の方から、今後のスケジュールをお願いいたします。
【事務局】 先ほど座長もおっしゃいましたが、委員の先生方で御意見を言い足りない点等ございましたら、我々の方にお教えいただければと思っております。
 資料5でございますけれども、今後のスケジュールといたしまして、来月21日(火曜日)の14時半から17時、こちらの3F1特別会議室で第3回の会議を開催させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。
 本日まで2回の会議を開催しましたが、「デジタル教科書」の導入に向けて今後検討していくべき事項について、委員の皆様から出していただいた意見がある程度重なってきていると思います。整理の枠は資料4で示しており、随分と整理がついてきたと思いますが、まだまだ意見が足りませんので、是非、電子メール等でお寄せいただければと思います。
 次回までに私の方で事務局と相談しまして、議論の観点をもう少し明確にして資料を用意し、フォーカスした形で検討を進めてまいりたいと考えております。
 皆様には非常にお忙しい中、本日も御出席いただき、たくさんの御意見を頂きまして、ありがとうございます。時間が十分にとれない中でプレゼンテーションをしていただいた有馬先生、急に登壇いただきました松尾事務局長、長谷部副委員長、ありがとうございました。おかげさまで非常に具体的なものを見ることができまして、これからの議論に役に立つ情報を頂けたと考えております。改めてお礼申し上げます。
 今後ともよろしくお願いいたします。本日は、これで閉会といたします。ありがとうございました。

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