奈須委員提出資料

育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(第8回)

上智大学 奈須正裕

1)育成すべき資質・能力について

・子どもたちの発達可能性のうち,ややもすれば一部の知的教科の知識・技能を他よりも優越させて価値付ける従来のあり方から,意欲や対人関係能力をも含めた,より幅広い資質・能力の育成と評価へと関心が高まってきた背景には,経済や産業が要請する人材の質的変化があることは否定できないが,実は拡充が求められている資質・能力の多くは,かつて教育界が自ら進んでその十全な育成と正当な評価を求め,強く主張してきたものではなかったか。経済や産業の要請にただただ従属することには問題があるが,純粋に教育の論理で検討した結果,望ましいと考えられた資質・能力と,経済や産業が要請したものが一致することには特に問題があるとはいえないのではないか
・教育の論理で育成すべき資質・能力を考えるにあたり重要なものに,依拠する知能論・能力論が考えられる。かつての一般知能(general intelligence)的な見方ではなく,多重知能(multiple intelligence)的な見方に立脚するならば,対人関係能力も数的シンボル操作の能力と同等に価値のある知性であり,十分に教育可能でもある。したがって,より幅広い資質・能力の育成と評価への動きは,より多くの子どもたちの潜在的な発達可能性に光を当て,公教育の中で公正且つ豊かに実現し,さらに社会の活力として生かしていくことで,個人と社会の双方に大きな利益をもたらす可能性を秘めているのではないか
・言うまでもなく,育成すべき資質・能力と内容は,二者択一的な関係にはなく,両者の関係について考えることは,結果的に学力の構造に関する議論を要請するだろう。私個人としては,(1)領域固有の個別的知識・技能等,(2)教科の本質(その教科ならではのものの見方・考え方,処理や表現の方法等),(3)教科・領域を超えた汎用技能(generic skills)や意欲・態度等,(4)メタ認知の4層で考えてはどうかと思う

2)学習指導要領の改善について

・昭和33年以来用いている表し方が,基本的にコンテンツ・ベースを前提としているとすれば,その表し方,書式,用語自体を,コンピテンシー・ベースの観点も含めた今日的視点から見直してみてはどうか
・諸外国におけるコンピテンシー・ベースの教育課程においても,その枠組み自体は在来の教科等を用いている事例も多い。我が国において,教育課程を資質・能力を踏まえたものとする可能性を検討する場合にも,学習指導要領の枠組み自体は,まずは現行の各教科等の枠組みを維持して検討を進めることでよいのではないか
・現行の各教科等の目標・内容等について,資質・能力の観点から全面的に見直し,必要に応じてそれぞれを整理し,統廃合し,修正し,あるいは価値付け直したりする作業の中で,比較的穏当であり且つ実用上十分な程度に資質・能力を踏まえた,と同時に内容との対応関係もしっかりと押さえられた教育課程の構造が見えてくるのではないか
・育成すべき資質・能力について考える中でpolitical literacyやcritical literacyなど,従来ややもすれば敬遠しがちであったものについても,積極的にその可能性を検討してはどうか
・今後の教育課程政策が,何を教えるか(知識の量)に留まらず,どのようなものとして身に付く(知識の質)ことを望むか,あるいは,その知識を教えることを通して,どのような資質・能力の育成を目指すかをも問題としていかざるを得ないならば,それは各知識をどのように教えるか,つまり教育方法に関する何らかの踏み込みが避け難いことを意味するのではないか。もっとも,教育方法については現場の裁量が大幅に認められるべきであり,徹底して慎重であることが望まれるが,同時に教育方法を「野放し」としたままで資質・能力の育成を十全に実現することは極めて困難ではないか

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