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資料11 「生きる力」と資質・能力について(平成20年中央教育審議会答申抜粋)

「生きる力」と資質・能力について」

「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について
 (平成20年1月17日中央教育審議会答申)」関係部分抜粋

2.現行学習指導要領の理念

(現行学習指導要領の理念の重要性)

○  現行学習指導要領は、平成8年7月の中央教育審議会答申(「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」)を踏まえ、変化の激しい社会を担う子どもたちに必要な力は、基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力などの「生きる力」であるとの理念に立脚している。この「生きる力」は、自己の人格を磨き、豊かな人生を送る上でも不可欠である。

○  この点について今回改めて検討を行ったが、平成8年の答申以降、1990年代半ばから現在にかけて顕著になった、「知識基盤社会」の時代などと言われる社会の構造的な変化の中で、「生きる力」をはぐくむという理念はますます重要になっていると考えられる。

(「知識基盤社会」の時代と「生きる力」)

○  すなわち、平成17年の中央教育審議会答申(「我が国の高等教育の将来像」)が指摘するとおり、21世紀は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」(knowledge-based society)の時代であると言われている。
  「知識基盤社会」の特質としては、例えば、(1)知識には国境がなく、グローバル化が一層進む、(2)知識は日進月歩であり、競争と技術革新が絶え間なく生まれる、(3)知識の進展は旧来のパラダイムの転換を伴うことが多く、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく判断が一層重要になる、(4)性別や年齢を問わず参画することが促進される、などを挙げることができる。

○  このような知識基盤社会化やグローバル化は、アイディアなどの知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させるとともに、異なる文化・文明との共存や国際協力の必要性を増大させている。
  「競争」の観点からは、事前規制社会から事後チェック社会への転換が行われており、金融の自由化、労働法制の弾力化など社会経済の各分野での規制緩和や司法制度改革などの制度改革が進んでいる。このような社会において、自己責任を果たし、他者と切磋琢磨しつつ一定の役割を果たすためには、基礎的・基本的な知識・技能の習得やそれらを活用して課題を見いだし、解決するための思考力・判断力・表現力等が必要である。しかも、知識・技能は、陳腐化しないよう常に更新する必要がある。生涯にわたって学ぶことが求められており、学校教育はそのための重要な基盤である。
  他方、同時に、「共存・協力」も必要である。国や社会の間を情報や人材が行き交い、相互に密接・複雑に関連する中で、世界や我が国社会が持続可能な発展(※1)を遂げるためには、環境問題や少子・高齢化といった課題に協力しながら積極的に対応することが求められる。このような社会では、自己との対話を重ねつつ、他者や社会、自然や環境と共に生きる、積極的な「開かれた個」であることが求められる。
  また、グローバル化の中で、自分とは異なる文化や歴史に立脚する人々と共存していくためには、自らの国や地域の伝統や文化についての理解を深め、尊重する態度を身に付けることが重要になっている。

○  もちろん、知識基盤社会化やグローバル化の時代だからこそ、身近な地域社会の課題の解決にその一員として主体的に参画し、地域社会の発展に貢献しようとする意識や態度をはぐくむこともますます必要となっている。

○  このように個人は他者や社会などとのかかわりの中で生きるものであるが、一人一人の個人には興味や関心、持ち味に違いがある。さらに、変化の激しい社会の中では、困難に直面することも少なくないことや高齢化社会での長い生涯を見通した時、他者や社会の中で切磋琢磨しつつも、他方で、読書などを通して自己と対話しながら、自分自身を深めることも大切である。

○  これまで述べてきたとおり、社会の構造的な変化の中で大人自身が変化に対応する能力を求められている。そのことを前提に、次代を担う子どもたちに必要な力を一言で示すとすれば、まさに平成8年(1996年)の中央教育審議会答申で提唱された「生きる力」にほかならない。

○  このような認識は、国際的にも共有されている。経済協力開発機構(OECD)は、1997年から2003年にかけて、多くの国々の認知科学や評価の専門家、教育関係者などの協力を得て、「知識基盤社会」の時代を担う子どもたちに必要な能力を、「主要能力(キーコンピテンシー)」(※2)として定義付け、国際的に比較する調査を開始している。このような動きを受け、各国においては、学校の教育課程の国際的な通用性がこれまで以上に強く意識されるようになっているが、「生きる力」は、その内容のみならず、社会において子どもたちに必要となる力をまず明確にし、そこから教育の在り方を改善するという考え方において、この主要能力(キーコンピテンシー)という考え方を先取りしていたと言ってもよい。
   また、内閣府人間力戦略研究会の「人間力戦略研究会報告書」(平成15年4月)をもとにした「人間力」(※3)という考え方なども同様である。  

(改正教育基本法等と「生きる力」)

○  平成18年12月に約60年ぶりに改正された教育基本法において新たに教育の目標等が規定された。同法第2条(※4)は、知・徳・体の調和のとれた発達(第1号)を基本としつつ、個人の自立(第2号)、他者や社会との関係(第3号)、自然や環境との関係(第4号)、日本の伝統や文化を基盤として国際社会を生きる日本人(第5号)、という観点から具体的な教育の目標を定めた。

○  また、平成19年6月に公布された学校教育法の一部改正により、教育基本法の改正を踏まえて、義務教育の目標が具体的に示されるとともに、小・中・高等学校等においては、「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と定められた(第30条第2項、第49条、第62条等)。

○  これらの規定は、その定義が常に議論されてきた学力の重要な要素は、
  1 基礎的・基本的な知識・技能の習得
  2 知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等
  3 学習意欲
 であることを明確に示すものである。

○  このように、改正教育基本法及び学校教育法の一部改正によって明確に示された教育の基本理念は、現行学習指導要領が重視している「生きる力」の育成にほかならない。

5.学習指導要領改訂の基本的な考え方

○  教育基本法の改正等やこれまで述べてきた現在の子どもたちの課題を踏まえ、学習指導要領の理念を実現するための具体的な手立てを確立するという観点に立った学習指導要領改訂の基本的な考え方は次のとおりである。

(1) 改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂

○  前述のとおり、平成18年12月に教育基本法が約60年ぶりに改正され、21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指すという観点から、これからの教育の新しい理念が定められた。また、平成19年6月の学校教育法の一部改正では、教育基本法改正を受けて新たに義務教育の目標が規定されるとともに、各学校段階の目的・目標規定が改正された。
   学習指導要領は、学校教育法に規定する各学校段階の目的・目標規定に従って、文部科学大臣が定めることとなっている(学校教育法第33条、第48条、第52条等)。このため、今回の学習指導要領改訂は、これらの法改正を十分踏まえる必要がある。

○  そこで、まず、各教科等の具体的な教育内容の改善については、教育基本法第2条(教育の目標)や学校教育法第21条(義務教育の目標)などの規定を踏まえて検討を行った。

○  具体的には、教育基本法第2条に規定された教育の目標において、今後の教育において重視すべき理念として、従来から規定されていた個人の価値の尊重、正義と責任などに加え、新たに、公共の精神、生命や自然を尊重する態度、伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うことなどが規定された。このような観点から、今回の改訂においては、7.で示すとおり、伝統や文化に関する教育や道徳教育、体験活動の充実、環境教育などを重視し、道徳のほか、社会や理科、音楽や美術、特別活動といった教科等の具体的な教育内容を改善する必要がある。

○  次に、改正教育基本法や学校教育法の一部改正は、「生きる力」を支える「確かな学力」、「豊かな心」、「健やかな体」の調和を重視するとともに、学力の重要な要素は、(1)基礎的・基本的な知識・技能の習得、(2)知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等、(3)学習意欲、であることを示した。そこで示された教育の基本理念は、現行学習指導要領が重視している「生きる力」の育成にほかならない。

○  このため、今回の学習指導要領改訂では、改正教育基本法等で示された教育の基本理念を踏まえるとともに、現在の子どもたちの課題への対応の視点から、
  1 「生きる力」という理念の共有
  2 基礎的・基本的な知識・技能の習得
  3 思考力・判断力・表現力等の育成
  4 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保
  5 学習意欲の向上や学習習慣の確立
  6 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実 
 がポイントであり、その中でも、特に、2を基盤とした3、5及び6が重要と考えた。

(2) 「生きる力」という理念の共有

○  どんな組織でも構成するメンバーで理念や目標が共有されていなければ、それを実現・達成することはできない。4.(2)の第一にあるとおり、何よりも教師や保護者を含む大人自身が「知識基盤社会」の時代の中にあって変化への対応を日々求められていることを前提に、子どもたちの「生きる力」をはぐくむことの必要性や「生きる力」の内容を教育関係者や保護者、社会が自ら考え、理解の上共有することは、今回の学習指導要領改訂に際してまず行わなければならないことである。

○  「生きる力」という目標を関係者で共有するに当たっては、特に、次の3点を重視したい。
  第一は、変化が激しく、新しい未知の課題に試行錯誤しながらも対応することが求められる複雑で難しい時代を担う子どもたちにとって、将来の職業や生活を見通して、社会において自立的に生きるために必要とされる力が「生きる力」であるということである。これからの学校は、進学や就職について子どもたちの希望を成就させるだけではその責任を果たしたことにはならない。
  第二は、このような変化の激しい社会で自立的に生きる上で重要な能力であるものの、我が国の子どもたちにとって課題となっている思考力・判断力・表現力等をはぐくむためには、各教科において、基礎的・基本的な知識・技能をしっかりと習得させるとともに観察・実験やレポートの作成、論述といった知識・技能を活用する学習活動を行う必要があることである。
  したがって、特に、教科担任制の中・高等学校の教師には、レポートの作成・推敲や論述といった学習活動を行うのはすべてが国語科の役割だと考えるのではなく、必要に応じ国語科の教師と連携して、これらの学習活動を自らが担当する教科において行うことを求めたい。このような活動を行うことは、学校の教育活動全体で子どもたちの思考力・判断力・表現力等をはぐくむとともに、その教科の知識・技能の確実な定着にも結び付くものである。
  第三は、自分に自信がもてず、自らの将来や人間関係に不安を抱えているといった子どもたちの現状を踏まえると、コミュニケーションや感性・情緒、知的活動の基盤である国語をはじめとした言語の能力の重視や体験活動の充実を図ることにより、子どもたちに、他者、社会、自然・環境とのかかわりの中で、これらと共に生きる自分への自信をもたせる必要があることである(※5)。

○  文部科学省や教育委員会等が学習指導要領の具体的な規定や学習指導要領改訂の趣旨や内容についての教育関係者等への説明に当たっては、このような「生きる力」という理念の共有を最も重視する必要がある。
  また、教育関係者だけではなく、保護者をはじめ広く国民に学校教育の目指している方向性への理解を求めることも極めて重要であり、積極的な情報発信が必要である。

(3) 基礎的・基本的な知識・技能の習得

○  4.(2)の第二にあるとおり、「自ら学び自ら考える力の育成」といった「生きる力」の理念は、基礎的・基本的な知識・技能の習得を重視した上で、思考力・判断力・表現力等をはぐくむことを目標としている。

○  学習指導要領における各教科の知識・技能については、前回の改訂において、これを厳選し、基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得とともに、思考力・判断力・表現力等の育成を図ったところである。
  このような基本的な考え方は引き続き重要であるが、今回の改訂においては、改正教育基本法(第5条第2項)が義務教育の目的の一つとして「社会において自立的に生きる基礎を培」うことを規定したことや理数教育を中心に教育課程の国際的な通用性が一層問われている状況を踏まえ、系統性に留意しながら、主として、
 1 社会の変化や科学技術の進展等に伴い、社会的な自立等の観点から子どもたちに指導することが必要な知識・技能、
 2 確実な習得を図る上で、学校や学年間等であえて反復(スパイラル)することが効果的な知識・技能、
等に限って、内容事項として加えることが適当である。 

○  このことを前提に、基礎的・基本的な知識・技能の一層の習得・理解を図る具体的な方策として、次の二点について検討を行った。

○  第一に、発達や学年の段階に応じた指導Ⅰの重視である。個人差等はあるものの、一般的に、小学校低学年から中学年までは、体験的な理解や具体物を活用した思考や理解、反復学習などの繰り返し学習といった工夫による「読み・書き・計算」の能力の育成を重視し、中学年から高学年にかけて以降は、体験と理論の往復による概念や方法の獲得や討論・観察・実験による思考や理解を重視するといった指導上の工夫が有効であると考える。
  このような観点から、「読み・書き・計算」などの基礎的・基本的な知識・技能の面については、小学校の低・中学年を中心に、発達の段階に応じて徹底して習得させ、学習の基盤を構築していくことが大切である。
  また、形式知のみでなく、いわゆる暗黙知(※6)も重視すべきである。このため、家庭とも連携しつつ、体験的な活動や音読、暗記・暗唱、反復学習などを通じて、基礎的・基本的な知識・技能を体験的、身体的に理解することも重要である。

○  第二に、義務教育段階において、基礎的・基本的な知識・技能の一層の習得を促す一つの方策として、「重点指導事項例」の提示が考えられることである。すなわち、文部科学省が、学習指導要領が示す内容事項の中で、社会的な自立の観点から重要であったり、子どもたちがつまずきやすいといった観点から、各学校において、重点的な指導や繰り返し学習といった指導の工夫や充実に努めることが求められる事項の例を「重点指導事項例」として整理し、提示することが考えられる。

○  「重点指導事項例」で提示する基礎的・基本的な知識・技能については、
 ・ 社会において自立的に生きる基盤として実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能(※7)
 ・ 義務教育及びそれ以降の様々な専門分野の学習を深め、高度化していく上で共通の基盤として習得しておくことが望ましい知識・技能(※8)
 といった類型が考えられ、更に具体的な検討を深めることが必要である。

(4) 思考力・判断力・表現力等の育成

○  3.で示した子どもたちの学力に関する各種の調査の結果は、いずれも知識・技能の活用など思考力・判断力・表現力等に課題があることを示している。今回の改訂においては、各学校で子どもたちの思考力・判断力・表現力等を確実にはぐくむために、まず、各教科の指導の中で、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、観察・実験やレポートの作成、論述といったそれぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を充実させることを重視する必要がある。各教科におけるこのような取組があってこそ総合的な学習の時間における教科等を横断した課題解決的な学習や探究的な活動も充実するし、各教科の知識・技能の確実な定着にも結び付く。このように、各教科での習得や活用と総合的な学習の時間を中心とした探究は、決して一つの方向で進むだけではなく、例えば、知識・技能の活用や探究がその習得を促進するなど、相互に関連し合って力を伸ばしていくものである。

○  現在の各教科の内容(※9)、PISA調査の読解力や数学的リテラシー、科学的リテラシーの評価の枠組み(※10)などを参考にしつつ、言語に関する専門家などの知見も得て検討した結果、知識・技能の活用など思考力・判断力・表現力等をはぐくむためには、例えば、以下のような学習活動が重要であると考えた。このような活動を各教科において行うことが、思考力・判断力・表現力等の育成にとって不可欠である。

 1 体験から感じ取ったことを表現する
     (例) ・ 日常生活や体験的な学習活動の中で感じ取ったことを言葉や歌、絵、身体などを用いて表現する 
 2 事実を正確に理解し伝達する
     (例) ・ 身近な動植物の観察や地域の公共施設等の見学の結果を記述・報告する
 3 概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする
     (例) ・ 需要、供給などの概念で価格の変動をとらえて生産活動や消費活動に生かす
         ・ 衣食住や健康・安全に関する知識を活用して自分の生活を管理する      
 4 情報を分析・評価し、論述する
     (例) ・ 学習や生活上の課題について、事柄を比較する、分類する、関連付けるなど考えるための技法を活用し、課題を整理する
             ・ 文章や資料を読んだ上で、自分の知識や経験に照らし合わせて、自分なりの考えをまとめて、A4・1枚(1000字程度)といった所与の条件の中で表現する
             ・ 自然事象や社会的事象に関する様々な情報や意見をグラフや図表などから読み取ったり、これらを用いて分かりやすく表現したりする
             ・ 自国や他国の歴史・文化・社会などについて調べ、分析したことを論述する 
 5 課題について、構想を立て実践し、評価・改善する
     (例) ・ 理科の調査研究において、仮説を立てて、観察・実験を行い、その結果を整理し、考察し、まとめ、表現したり改善したりする
         ・ 芸術表現やものづくり等において、構想を練り、創作活動を行い、その結果を評価し、工夫・改善する
 6 互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる
     (例) ・ 予想や仮説の検証方法を考察する場面で、予想や仮説と検証方法を討論しながら考えを深め合う 
         ・ 将来の予測に関する問題などにおいて、問答やディベートの形式を用いて議論を深め、より高次の解決策に至る経験をさせる

○  これらの学習活動の基盤となるものは、数式などを含む広い意味での言語であり、その中心となるのは国語である。しかし、だからといってすべてが国語科の役割というものではない。それぞれに例示した具体の学習活動から分かるとおり、理科の観察・実験レポートや社会科の社会見学レポートの作成や推敲、発表・討論などすべての教科で取り組まれるべきものであり、そのことによって子どもたちの言語に関する能力は高められ、思考力・判断力・表現力等の育成が効果的に図られる。
  このため、学習指導要領上、各教科の教育内容として、これらの記録、要約、説明、論述といった学習活動に取り組む必要があることを明示すべきと考える。

○  その際、生命やエネルギー、民主主義や法の支配といった各教科の基本的な概念などの理解は、これらの概念等に関する個々の知識を体系化することを可能とし、知識・技能を活用する活動にとって重要な意味をもつものであり、教育内容として重視すべきものとして、適切に位置付けていくことが必要である。

○  思考力・判断力・表現力等の基盤となる言語の能力の育成に当たっても、発達の段階に応じた指導が重要である。幼児期から小・中・高等学校へと発達の段階が上がるにつれて、具体と抽象、感覚と論理、事実と意見、基礎と応用、習得と活用と探究など、認識や実践ができるものが変化してくる。
  このため、小学校の低・中学年の国語科において、音読や漢字の読み書き、暗唱などにより基本的な国語の力を定着させるとともに、古典の暗唱などにより、言葉の美しさやリズムを体感させた上で、小・中・高等学校を通じ、国語科のみならず各教科等において、記録、要約、説明、論述といった言語活動を発達の段階に応じて行うことが重要である(※11)。

○  なお、(3)で示した「重点指導事項例」には、基礎的・基本的な知識・技能の習得に関する例示とともに、知識・技能のようには具体的に示すことはできないと考えられるが、思考力・判断力・表現力等にかかわるものについても例示し、各学校において、これらの力の育成にしっかりと取り組むようにすることが必要である。

(5) 確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保

○  4.(2)の第四にあるとおり、現行学習指導要領は、自ら学び自ら考える力の育成の観点から、総合的な学習の時間の創設や中学校における選択教科の授業時数を充実し、必修教科の授業時数を削減した。
  しかし、子どもたちの思考力・判断力・表現力等をはぐくむため、教科において、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、観察・実験やレポートの作成、論述といった知識・技能を活用する学習活動を行うためには、現在の小・中学校の必修教科の授業時数は十分ではない。

○  このため、各教科において、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに、それぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を充実することができるよう、特定の必修教科の授業時数を確保することが必要である。授業時数の確保に当たっては、これらの学習活動を各教科で行うことを前提に、教科等を横断した課題解決的な学習や探究活動を行うという総合的な学習の時間と各教科との円滑な接続を図る観点から、総合的な学習の時間や中学校の選択教科の授業時数の在り方を見直す必要がある。また、学校の実態等を踏まえ年間授業時数を増加する必要がある。

(6) 学習意欲の向上や学習習慣の確立

○  3.のとおり、PISA調査の結果からは、学力の重要な要素である学習意欲やねばり強く課題に取り組む態度自体に個人差が広がっているといった課題が認められる。
  また、全国学力・学習状況調査においては、子どもたちの正答率の分布が二極化しているような状況は見られなかったが、一方で、特に中学校の数学を中心に、一部に都道府県や学校による平均正答率の差が見られた。
  学習意欲や学習習慣に課題がある背景には、雇用環境の変化や社会の風潮等による将来への不安、様々な家庭環境などがあり、これらは学校教育のみで解決できるものではない。しかし、学校においては、次の(7)の自分に対する自信の欠如も学習意欲が高まらないことの一因でもあることにも留意しつつ、子どもたちに対して、次の四つの観点を踏まえた対応が必要である。

○  第一は、家庭学習も含めた学習習慣の確立に当たっては、特に小学校の低・中学年の時期が重要である。
  第二は、「重点指導事項例」なども参考に、習熟度別・少人数指導や補充的な学習といったきめ細かい個に応じた指導などを必要に応じ外部人材の活用を図りつつ行うことにより、子どもたちがつまずきやすい内容をはじめ基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図る必要がある。分かる喜びは学習意欲につながる。このため、前述のとおり、学習指導要領においても知識・技能の確実な習得を図る上で、学校や学年間等であえて反復(スパイラル)することが効果的なものについては、内容事項に追加することが適当である。
  第三は、観察・実験やレポートの作成、論述など体験的な学習、知識・技能を活用する学習や勤労観・職業観を育てるためのキャリア教育(※12)などを通じ、子どもたちが自らの将来について夢やあこがれをもったり、学ぶ意義を認識したりすることが必要である。また、職業資格、語学や漢字、歴史などについての各種検定への取組など具体的な目標設定の工夫も重要である。
  第四は、全国学力・学習状況調査等を通じた教育成果の様々な評価により、設置者等において、学習意欲や学習習慣に大きな課題を抱えている学校を把握し、これらの学校に対する支援に努める必要がある。

○  各学校や設置者は、以上の4点を踏まえ、改善計画を策定し、学習意欲や学習習慣などを含めた学力に課題を抱えている子どもたちへのきめの細かい指導の充実を図ることが求められる。また、都道府県単位で、子どもたちの学力面での課題についての対応策を講じたり、これらの取組を国が支援したりすることも重要である。

(7) 豊かな心や健やかな体の育成のための指導の充実

○  4.(2)の第五にあるとおり、学校教育における子どもたちの豊かな心や健やかな体の育成について、家庭や地域の教育力の低下を踏まえた対応が十分ではなかった。この問題についての重要な観点は、以下の三つである。

○  第一は、自分に自信がもてず、将来や人間関係に不安を感じているといった子どもたちの現状を踏まえると、子どもたちに、他者、社会、自然・環境とのかかわりの中で、これらと共に生きる自分への自信をもたせる必要がある。
  そのためにも、国語をはじめとする言語の能力が重要である。特に、国語は、コミュニケーションや感性・情緒の基盤である。自分や他者の感情や思いを表現したり、受け止めたりする語彙や表現力が乏しいことが、他者とのコミュニケーションがとれなかったり、他者との関係において容易にいわゆるキレてしまう一因になっており、これらについての指導の充実が必要である。
  また、親や教師以外の地域の大人や異年齢の子どもたちとの交流、自然の中での集団宿泊活動や職場体験活動、奉仕体験活動などの体験活動は、他者、社会、自然・環境との直接的なかかわりという点で極めて重要である(※13)。体験活動の実施については、家庭や地域の果たす役割が大きく、学校ですべてを提供することはできないが、家庭や地域の教育力の低下を踏まえ、きっかけづくりとしての体験活動を充実する必要がある。体験活動は活動しただけで終わりでは意味がない。体験したことを、自己と対話しながら、文章で表現し、伝え合う中で他者と体験を共有し広い認識につながることを重視する必要がある。
  自分に自信をもたせることは、決して自分への過信や自分勝手を許容するものではない。現実から逃避したり、今の自分さえよければ良いといった「閉じた個」ではなく、自己と対話を重ね自分自身を深めつつ、他者、社会、自然・環境とのかかわりの中で生きるという自制を伴った「開かれた個」が重要である。他者、社会、自然・環境と共に生きているという実感や達成感が自信の源となる。

○  第二は、第一とも関連するが、道徳教育の充実・改善である。
  子どもたちに、基本的な生活習慣を確立させるとともに、社会生活を送る上で人間としてもつべき最低限の規範意識を、発達の段階に応じた指導や体験を通して、確実に身に付けさせることが重要である。その際、人間としての尊厳、自他の生命の尊重や倫理観などの道徳性を養い、それを基盤として、民主主義社会における法やルールの意義やそれらを遵守することの意味を理解し、主体的に判断し、適切に行動できる人間を育てることが大切である。
  このような観点から、道徳教育の充実・改善が必要である。 

○  第三は、体力の向上など健やかな心身の育成についての指導の充実である。
  体力は、人間の活動の源であり、健康の維持のほか意欲や気力といった精神面の充実に大きくかかわっており、「生きる力」の重要な要素である。子どもたちの体力の低下は、将来的に国民全体の体力低下につながり、社会全体の活力や文化を支える力が失われることにもなりかねない。
  子どもたちの心身の調和的発達を図るためには、運動を通じて体力を養うとともに、望ましい食習慣など健康的な生活習慣を形成することが必要である。
  そのため、幼いころから体を動かし、生涯にわたって積極的にスポーツに親しむ習慣や意欲、能力を育成することが重要である。また、心身の健康の保持増進のため、心身の成長発達についての正しい知識を習得し、実践的な判断力や行動を選択する力を養うとともに、食育の充実が必要である。さらに、子どもの生活の安全・安心に対する懸念が広まっていることから、安全教育の充実も必要である。


(※1) 2004年(平成16年)の国連総会では、持続可能な発展のためには、教育が極めて重要な役割を担うとの認識の下、2005年(平成17年)より始まる10年間を「国連持続可能な開発のための教育の10年」(ESD:Education for Sustainable Development)とすることが全会一致で決議された。なお、持続可能な発展とは、「環境と開発に関する世界委員会」が1987年(昭和62年)に公表した報告書で取り上げられた概念であり、将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような発展を指し、環境の保全、経済の開発、社会の発展を調和の下に進めていくことを目指している。
(※2) 主要能力(キーコンピテンシー)は、OECDが2000年から開始したPISA調査の概念的な枠組みとして定義付けられた。PISA調査で測っているのは「単なる知識や技能だけではなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用して、特定の文脈の中で複雑な課題に対応することができる力」であり、具体的には、(1)社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する力、(2)多様な社会グループにおける人間関係形成能力、(3)自立的に行動する能力、という三つのカテゴリーで構成されている。
(※3) 市川伸一東京大学教授を座長に内閣府が設置した人間力戦略研究会の報告書は、人間力を「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義した上で、(1)知的能力的要素、(2)社会・対人関係力的要素、(3)自己制御的要素を総合的にバランス良く高めることが人間力を高めることであるとした。また、人間力は、それを発揮する活動に着目すれば、「職業生活面」、「市民生活面」、「文化生活面」に分類されると指摘している。
(※4) 教育基本法
  (教育の目標)
 第二条  教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
  一  幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
  二  個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
  三  正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
  四  生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
  五  伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
(※5) 教育課程部会では、このような観点から、「生きる力」をはぐくむに当たって重要な要素の例として次の内容を整理した。
 ・ 自己に関すること (例) 自己理解(自尊・自己肯定)・自己責任(自律・自制)、健康増進、意思決定、将来設計
 ・ 自己と他者との関係 (例) 協調性・責任感、感性・表現、人間関係形成
 ・ 自己と自然などとの関係 (例) 生命尊重、自然・環境理解
 ・ 個人と社会との関係 (例) 責任・権利・勤労、社会・文化理解、言語・情報活用、知識・技術活用、課題発見・解決
(※6) 「形式知」とは、知識のうち、言葉や文章、数式、図表など明確な形で表出することが可能な客観的・理性的な知識のこと。これ に対し、「暗黙知」とは、勘や直感、経験に基づく知恵などを指す。
(※7) 例えば、「整数、小数、分数の意味が分かり四則計算ができること」、「ヒトや動物のつくりについて知ること」などが考えられる。
(※8) 例えば、「三平方の定理について理解すること」、「物質は粒子からできていることについて理解すること」などが考えられる。
(※9) 現行学習指導要領の小学校の理科は、第3学年は「比較」、第4学年は「関係付け」、第5学年は「条件制御」、第6学年は「多面的な追究」などそれぞれの学年ではぐくむべき科学的な見方や考え方を明確にしている。
(※10) PISA調査では、それぞれの領域で、思考のプロセスを、
  ・ 読解力は、「情報の取り出し」、「テキストの解釈」、「熟考・評価」、
  ・ 科学的リテラシーは、「科学現象の描写、説明、予測」、「科学的調査の理解」、「科学的証拠と結論の解釈」、
  ・ 数学的リテラシーは、「再現クラスター」、「関連付けクラスター」、「熟考クラスター」、
 に分けて測定している。
(※11) 例えば、理科では、
  ・ 小学校中学年では、植物の観察などにおいて、問題意識や見通しをもちながら視点を明確にして、差異点や共通点をとらえ記録・表現する、
  ・ 小学校高学年では、ものの溶け方などにおいて、条件や規則性に着目して事象を説明する、
    ・ 中学校から高等学校の段階では、観察・実験の結果や状況により資料等を加え考察し、科学的な概念を理解し、実証性・再現  性・客観性などの視点から評価、論述したり、討論する、
  といった発達の段階に応じた言語活動が考えられる。
(※12) 「キャリア教育の推進に関する総合的な調査研究協力者会議報告書」(平成16年1月28日)では、キャリア教育を「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」と定義し、端的には「児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てる教育」としている。また、平成11年12月に公表された中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」では、「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」としている。
(※13) 平成18年2月の教育課程部会の「審議経過報告」は、体験の意義について、「体験は、体を育て、心を育てる源である。子どもには、生活の根本にある食を見直し、その意義を知るための食育から始まり、自然や社会に接し、生きること、働くことの尊さを実感する機会をもたせることが重要である。生活や学習の良い習慣をつくり、気力や体力を養い、知的好奇心を育てること、社会の第一線で活躍する人々の技や生き方に触れたり、自分なりの目標に挑戦したりする体験を重ねることは、子どもの成長にとって貴重な経験となることが指摘されている。」とした。

 

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