育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(第7回) 議事要旨

1.日時

平成25年7月31日(水曜日)10時00分~12時30分

2.議題

  1. 真の〈自立〉と〈共生〉を目指す教育課程の創造(新潟県上越市立大手町小学校より発表)
  2. 国際バカロレアMYPにおける教育目標・内容と評価(東京学芸大学附属国際中等教育学校より発表)
  3. 課題探究型学習でつけたい力・ついた力(京都市立堀川高等学校より発表)
  4. その他

3.出席者

委員

安彦座長,天笠委員,市川委員,奈須委員,村川委員,吉冨委員

文部科学省

前川初等中等教育局長,義本大臣官房審議官,勝野教育課程研究センター長,塩見教育課程課長,大金教育課程企画室長,橋田教育課程企画室専門官

4.議事要旨

(1)新潟県上越市立大手町小学校の加藤誠雄校長,阿部勉教頭,松岡貴徳研究主任より,資料1「真の〈自立〉と〈共生〉を目指す教育課程の創造」について発表があり,その後,質疑応答が行われた。

【委員】 育てたい資質や能力を六つ掲げているが,カリキュラム開発や実践において目標を設定し実現していくに当たっての基本的な考え方について伺いたい。御説明では,「経験主義を貫いた教育をやってきた」という言葉があり,また「担任が目標を具体化する」との話もあった。一般的には,まず,教育工学的な考え方として,目標を砕いていき行動目標にしていくという考え方がある。一方,大まかに目標を作っておき,子供たちの経験の中から育成されたものを抽出するというアプローチもある。この二つの考え方について,両者のバランスを取りながら進めているのか,あるいは,いずれか一方で徹底しているのか,基本的な方針を伺いたい。

【有識者】 大手町小学校では,過去の研究において,総合的な学習の時間で学ぶ子供の姿から,発揮されている資質・能力について整理してきた。それらを統合した際に,当初は五つであったが,六つの資質・能力に集約されるのではないかと考えた。また,総合的な学習の時間だけではなく,教育課程全体を通じて育んでいくものであり,これからの正解のない時代を生き抜くために大事なものと考えている。そして,これらを重点的に育む六つの領域を設定し,更に実際の授業の中で,子供のより具体的な姿として,各領域の具体的な様相を各時間や各単元の目標として設定し,その姿を目指して授業を行っている。

【委員】 目標をより具体的なものにしていくということか。すなわち,「子供たちの疑問を止めずに活動を展開する中で,目標としたもの以外でも価値のあるものが見いだされる」という考え方で良いか。一方で,目標を砕き過ぎると,それ自体にこだわってしまい,価値のある資質・能力の育成に向けた展開がしにくくなったり,見いだしにくくなったりするのではないか。その点のバランスを取り方について,何か明確な考え方があれば教えていただきたい。

【有識者】 指導案の段階で,目指す子供の具体的な姿について想定はしているが,子供の思いや願いを基にして授業を行うと,その枠には収まらなくなる。したがって,指導案に記載されているもの以外でも,子供の資質・能力として幅広く捉えている。例えば「問題解決力」を重点的に育む領域として設定したとしても,その学習の中では様々なものが出てきており,それらをどのように規定し整理していくかが,現在の課題。

【委員】 教科と6領域との関係について,一般的な学校では,各教科,道徳,総合的な学習の時間などの領域が設定されているが,その各教科を崩して6領域にしたということか。崩すからには,崩した方が良いとの考えによるのだと思うが,例えば「数理」は算数と理科を併せたものにも見えるし,「健康」も保健体育と家庭科を併せたものに見える。既存の教科を組み換えた際の意図について伺いたい。

【有識者】 設定した資質・能力を育成するため,既存の各教科をベースとして,6領域へと組み替えている。類似の教科をまとめたという側面もあるが,今の子供たちや義務教育にとって明らかに不要と考えられるものを削除しながら進めている。したがって,資質・能力の育成を基として,既存の各教科を,関連,統合,削除の視点から組み換えた結果,現在の6領域がある。

【委員】 6領域に組み替えた結果,各教科がなくなっており,見方を変えれば新教科を編成しているようにも見えるが,教科書との対応はどのようにしているのか。既存の教科書を使って6領域を教えているのか,それとも,既存の教科書は使わずに,6領域に対応する新しい教科書を作っているのか。

【有識者】 全てを新たな単元として設定するのは難しいため,教科書をベースに進める単元と,各担任が資質・能力の育成の観点から開発した単元とを,並行して進めている。

【委員】 資質・能力をベースとして6領域を設定したが,一方では教科も引きずっているということか。例えば,「創造・表現」については,音楽や図工に関する内容が多く見えるが,「ことば」や「数理」の中には創造や表現はないのか,といった疑問が生じてくる。資質・能力を横割りとすると,各教科を縦割りとした方が,一見分かりやすいと考えるがどうか。すなわち,「創造・表現」は「創造・表現」の中でまとまるものなのか,領域間の重なり具合が気になる。

【有識者】 各領域には重なるところもある。実際に領域をまたぐ単元も出てきており,資質・能力を重点的に育むところとして各単元が妥当であるか,現在検討中である。

【有識者】 例えば,習字の単元について「ことば」の中に位置づけて実践しているが,実は「創造・表現」だったのではないかと気付くこともある。6領域が全てを覆っているとは言い切れず,実際には相互に乗り入れている。ただし,例えば,「創造・表現」とすることで,従来の音楽や図工の概念にこだわらずに,より自由な表現活動が生まれていることは事実としてある。また,「数理」では,数学的な内容と理科的な内容が合致する部分は少ないが,資質・能力をベースに見ていくことで,授業が変わることは間違いない。

【委員】 「視覚的カリキュラム」について,作成のプロセスを伺いたい。一般的な学校では,学年経営案や学級経営案を作成しているが,「視覚的カリキュラム」については,どのような作成のプロセスをたどった結果,どのように位置づけられているのか。

【有識者】 「視覚的カリキュラム」の作り方としては,昨年度の場合,まず年度末において,1年間授業を行ってきた担任が,その間の成果を踏まえた上で,資質・能力をベースとしつつ,更に関連,統合,削除の視点から不要な部分の削除を行った。そして,4月の段階で新しい担任が引き継ぎ,再度カリキュラム表を検討し直すという作業を行った。 また,「数理」のように,学年をまたいで単元を変更したものもある。各学年において育てたい資質・能力があり,発達段階に応じてその比重が変化するという考えから,例えば,「情報活用力」の中でも,まずは「情報編集力」を身に付けた上で,「批判的思考力」や「論理的思考力」を育成すべきと整理した。この視点に基づき,3年生の早い段階では,動かないものをじっくりと見る単元を重視し,次第に動くものの観察へと移行し,情報を集める力を付けた上で,論理的に思考する活動を取り入れるなど,各単元の配置を見直している。

【委員】 「視覚的カリキュラム」の活用の実態について,どのような形で研究開発の記録の中に収められているのか。また,それが学校の研究開発にとってどのような意味を有しているのか。

【有識者】 活用方法としては,まず学級経営案があり,それを実現するため,カリキュラム表を作成している。そして,1学期の子供の姿や,子供の思い・願いをカリキュラム表に落とし込み,2学期にはどのように子供の思いや願いを実現するのかという視点から更に修正し,新たなカリキュラム表に基づいて2学期の授業を行うというように,随時更新する形で活用している。

【委員】 研究開発やカリキュラム開発において,「視覚的カリキュラム」をどう意義付けているのか。

【有識者】 大手町小学校では,担任や学年の考えが最も表れる「生活・総合」を軸として,他の領域との関連性を考えていく。そして,この6領域で子供たちの資質・能力を本当に育むことができたのか,1年間終わったときに,カリキュラム表の中に落とし込まれてくるものと考えている。

【委員】 現在取り組んでいる研究開発について,他の学校でも同様に取り組もうとした場合は,どのような点に目を付ければ一般化できるのか。研究開発における手続や視点,成果を出すための方法について,他の学校でも使えるような形で提案いただきたい。研究開発は,今後全国の学校においても活用できるように,その成果を提示することを目的の一つとしている。「本校だけのことではない」という意識が欲しい。

【有識者】 「視覚的カリキュラム」のカリキュラム表は,領域間の相互の関連性が視覚的に分かるため,全体の見通しを持つことができ,かつ,子供の思いや願いに応じて柔軟に変えていけるという特徴を有している。

【委員】 大手町小学校におけるカリキュラム開発は,「全体を捉えたカリキュラム表を作成し,それに基づいて実践を重ねていくこと。さらに,そのプロセスの中でも随時修正を加えながら,最終的に評価を行うことで,カリキュラム開発の成果を明確に捉えることができること。これらがカリキュラム作りにとって意味のある方法である」という前提のもとで取り組まれていると思う。一方で,こうした手法自体の持つ意義や限界などについても,先生方が自覚的になることで,更なる研究開発やカリキュラム開発につながるのではないか。カリキュラム開発の手立てや手法についても,言葉を更に開発していっていただきたい。

(2)東京学芸大学附属国際中等教育学校の星野あゆみMYPコーディネーターより,資料2「国際バカロレアMYPにおける教育目標・内容と評価」について発表があり,その後,質疑応答が行われた。

【委員】 「重要概念」について,子供たちがこの概念を持つことによって,物事の関係や本質を見つけ,様々な課題に対して応用が利くようになる点は賛成。その際,「重要概念」は教師側が提示するのか,あるいは子供たち自身に見つけさせるのか。大手町小学校の学びの時間は,教科を超えて,生活や読書,人との語りなどを自分の概念でくくっていき,次第に生活や各教科のつながりを子供自身で見つけていくもの。「重要概念」を教える際に,理解力が低位な子供に対しては,このような概念を扱った方がより理解できるのか,あるいはより難しいのか。大手町小学校のような「知の総合化」に基づく学びの時間であれば,理解力の低い子供でも自分の言葉でつないでいくことで理解ができるが,教師側がこの概念を中心に教科の学びを教えていく場合,理解が苦手な子供にとっては,よりハードルが高くなるのではないか。

【有識者】 生徒の中には重要概念を既に有している子がいる一方,結び付けることについて手助けが必要な子も多いため,最初は教師側から提示する。ただし,学年が上がるにつれて,教師がそれを隠して授業をしたり,どんな概念だったかを生徒に問うたり,生徒の方から概念と教科との関連性を提示したりするようになってきたため,少しずつ自分で結び付ける訓練ができてきているように感じている。また,結び付けが得意ではなかった生徒にとっても,より大きい枠で物事を考える際のヒントとなっている。学校としても,できるだけ上の学年では生徒たち自身から概念を引き出していきたいと考えている。また,中1の入学当初は,単元の最後に「単元を通して学んだこと」を問うような授業を行うと,難しくて悩む子供もいるが,他の子供たちの回答をシェアすることで,自分とは異なる結び付け方を学び,次第に自分でも自由な結び付けをするようになり,視野を広げ興味を持つようになる。

【委員】 中1から高3までの学習における「重要概念」には段階があるのか。また,「重要概念」の一つに変化があったとすると,中1から高3までを貫く形で概念が変化し,それに関連して様々な学習が展開されるのか,それとも,学習の展開の過程を通して変化が次第に積み上げられていくのか,カリキュラムの全体構想について,説明いただきたい。

【有識者】 基本的にMYPは中1から高1までであり,高2・高3に相当するIBのカリキュラムであるDPはまだ導入していないため,5・6年では一般的な高等学校と同様の授業を行っている。したがって,観点別学習状況の評価や概念,探究型の授業など,5・6年もできる限りIBの精神に即した取組を行っているが,1年から4年ほど精緻に取り組めているわけではない。また,中1にとっては,概念自体が非常に抽象的な言葉であるため,理解しにくいという問題もある。一方で,分からないなりに説明し,他の子供の考えを聞く中で,抽象的な概念を自分なりに理解していくことに役立っている面もある。設定の仕方については,基本的にIBでは,教科間連携の授業を目的とした単元の入替えなどは全く想定していない。むしろ,中1で学んだ単元と,中3で学んだ単元の概念が同じであることに気付く方が,教科間連携としては成功であるため,概念のスパイラルのような形で学習が進むように作られている。なお,国際中等教育学校でも,誰が,いつ,どの単元で,どの概念を扱っているのかを整理した「カリキュラムマップ」を作っている。これは,教科間連携を行うに当たり,教員同士が他の教員の授業内容について余りにも知らなかったことが契機となり,同じ概念を持っている教員同士でコミュニケーションを取り,教科間連携の授業を作ることを目的として導入された。現在では,教員同士の日常会話の中に概念の話題が上ることが増え,常に他教科の先生にも,自分の授業や「重要概念」について話すようになるなど,インフォーマルな形での教科間連携の実現に役立っている。

【委員】 理念的にも実質的にもすばらしい実践だと思うが,それを行う教師の力量や研修についても,極めて高水準のものが必要だろう。IBのカリキュラムを実施する際に,国際本部からはどのようなものが提供されるのか。例えば,概念については,教育内容に応じて先方から提示されるのか,それとも,各学校での検討に委ねられるのか,その線引きについて伺いたい。

【有識者】 IBにおいては,カリキュラムを「カリキュラムフレームワーク」と呼んでいるように,MYPは大枠という位置付けである。様々なガイドはあるものの,生徒たちに考えさせることを目的としたプログラムであるため,概念の正しさなどについても,各学校にて判断した上で,独自のプログラムを作ることとなっている。なお,最終的な目標については,世界共通のものとして与えられるが,その下の各学年の目標は,学校の実情に合わせて作る必要があり,他校の取組がそのまま活用できるわけではない。
 また,研修については,各教科一人の参加が求められており,ガイドの改訂ごとに研修を受け直す形となっている。期間は三日間,8時半から4時半まで,他のIB校の先生方と一緒に単元を作るなど,実践的な作業を中心とした内容となっている。

【委員】 国内でのIB校同士の連携はあるのか。

【有識者】 IB校同士のつながりは非常に強く,実際に迷いながら取り組んでいることも多いため,学習指導案を持ち寄って検討したり,他校の指導案を持ち帰って自校で活用させてもらったり,学校の枠を超えて相互に情報交換をしながら,より良い授業実践について議論を行っている。

【委員】 今年,IBのカリキュラムを経験した卒業生が大学に入学したと思うが,卒業生の反応について把握しておられることはあるか。

【有識者】 ある大学に進学した子供の場合,人数制限のある人気の授業において,授業を取りたい理由を書いたプロポーザルを提出したところ,全ての授業の審査に合格したという。そして,他の大学生がプロポーザルの書き方がわからないことに驚いたとのことであった。国際中等教育学校では,何かを行う際には,細かに理由やエビデンスを求められ,それを苦労して書く経験を積んでいるため,大学でのレポートやプロポーザルなどの課題に際し,とても役立っているとの報告を数多く受けている。MYPの成果として,自分でやりたいと思ったことに対して,足りない部分を調べ,人を説得していけるような行動力や表現力が身に付いているように感じている。

(3)京都市教育委員会の荒瀬克己教育企画監及び京都市立堀川高等学校の飯澤功先生より,資料3「課題探究型学習でつけたい力・ついた力」について発表があり,その後,質疑応答が行われた。

【委員】 盛岡第三高等学校の教科の授業を見学した際に,どの教科もアクティブな双方向授業が行われており,先生方も他の教科の学習内容とつなげて話をするなど,工夫して取り組まれていた。このような授業のきっかけについて伺ったところ,総合的な学習を通じて子供たちの学び方が変わり,先生方も教科を超えてつながったことで,各教科の授業も変わった,とのことであった。堀川高等学校では,「探究基礎」を行ったことにより,子供自身や教師が変わっていく中で,従来の教科の授業についてはどのように変わっていったのか。子供の学び方や教師の授業・教材の組み方,他教科との関連などについて伺いたい。

【有識者】 まず,授業における取組として,探究と近い内容の単元を扱う際に,生徒に仮説を説明してもらい,そこから探究について取り上げたり,授業の話題の中で,「探究的な課題を見つける」という視点から教材を見せたりしている。また,教員が評価や授業の目標を共有するために行っている会議においても,課題や問いの解決について「何をもって解決と言うのか」など,哲学的問題まで含めた議論を行う中で,通常の授業とは異なる視点での言葉の共有がなされ,授業の中でもその言葉を活用するなど,教員同士の刺激につながっている。現在は,これらの体系化に向けて取り組んでいる。

【委員】 高等学校にこそ総合的な学習が必要であり,かつ効果的であることがよく分かった。教科の系統的な学習と総合的な学習とが相互促進的に働くことで,むしろ教科学力を底支えし,学ぶ意味を明確化させる一方,大学の学習の基礎や大学進学にもつながるなど,力強く感じた。学問的な探究について,個人課題として取り組むことで子供たちの探究力が育つ一方,ホームルームや学校行事との関連付けの中で生かすことを考えると,二つの問題が生じる。まず,個人課題に対して,より集団的な共同体の問題解決が求められる点,そして,真実を追究する学問的な「What」の問いから,生活実践的な「How」の問題解決が求められる点である。総合的な学習では,学問的な探究力を育成しようとする一方,市民性の育成にもつなげる側面がある。異なる課題や側面を有する場面において,個人探究的な追究力がどのように働くのか。また,教師の工夫やサポートが必要なのか。この点について,カリキュラム上工夫されている点があれば御教示いただきたい。

【有識者】 集団における解決と学問的な解決には相違がある。この相違を埋めるためには,まず,学問的な解決手法についての学びを通じて,実際には具体的な活動を行うという点が重要。探究そのものを目的としないところに価値があり,締切りや条件,使えるものなどの制限の中で,場合によっては人に手伝ってもらいながら,実際の作業としては具体的な問題解決を行っているため,別の問題解決の場面においても,転移しやすいのではないかと考えている。また,議論の姿勢という点においても,探究の場合は,お互いの研究が分からない中で議論をするため,単なる意見の言い合いではなく,確認しながら議論を進めることになる。この姿勢がホームルームでの議論等にも役立っている。さらに,市民性や社会性とのつながりについては,「イントロダクションをどう書くか」という点に価値がある。研究は,個人的な興味に基づいて行うものであるが,イントロダクションを書く際には,社会的な問題とつなげて考える必要がある。この場面において,社会的な問題を認識していなければ,個人的な興味と研究の社会的意義とをつなげることができない。加えて,重要な要素として,生徒による主体的な運営を目的とした「探究基礎委員会」の存在がある。論文の締切りに向けた自主的な目標設定などに組織的に取り組んでおり,これがホームルーム活動や学校行事との親和性を高める効果をもたらしている。

【委員】 テーマについて,学術的で真理探究に近いものが多いように思うが,調べ学習のようなテーマも認めているのか。例えば,現在話題になっているTPPについて調べ,最後に論点や自分の意見を述べるような,「興味を持ったことを調べてまとめる」形式でも良いのか。

【有識者】 調べ学習のようなテーマはほとんど認めていない。研究の過程においては,当然調べ学習のプロセスも含まれるが,研究のテーマとしては,単に調べて終わりではなく,次の問いに関わる何らかの問いがあることが前提となっている。

【委員】 個人か共同かという点について,現在,研究者の世界でも共同研究が多くなっているが,個人的には,卒論や高校で取り組む研究は一人で行うことにメリットがあると考える。基本的には個人で行うと考えて良いか。

【有識者】 将来的に大学などで共同的な取組を行う機会はあっても,全体を見て一から全て自分で行うという経験はしておくべきであり,個人で行うことに価値があると考えている。例えば,研究は人生の縮図だと捉えることができ,自分で一から準備して,組立てや宣伝まで行わなければならず,全てを自分で行う中小企業のようなもの。こうした経験をしておくことで,将来その一部を担った際に,その意味が分かってくるという思いがある。なお,大きなテーマの観測など,共同で行わなければできないこともあるため,そのような場合は複数人で取り組ませている。逆に人と一緒に取り組むことが苦手な生徒もおり,その問題をどうするかについても,今後検討する必要がある。

【委員】 短い期間で取り組むため,科学者や研究者と同じような研究の手順を踏むのは難しく,どこかを割愛しなければならない。先行研究の調査やオリジナリティーの追求の部分は,大学院生でも半年は掛かり,ここを求めると本当の探究活動に入れない。このため,ある程度は割愛し,「実は答えはどこかにあるが,自分で調べてごらん」という流れにせざるを得ないと思う。その理解で良いか。

【委員】 高等学校段階において,論文作成をはじめとした学習活動を生徒に求めることや,その場を提供することについての意義付けを伺いたい。昨今は,高大連携などについて様々に議論されており,大学でも卒業論文を書かせない学部がある中で,論文作成をはじめとした学習活動を課すことについて,どのように考えているか。

【有識者】 短い期間の研究で割愛するのは,オリジナリティーやそれを保障するプロセスの部分。ただし,完全に省略してしまうと,研究もどきになってしまうため,実践的かつ便利な基準として,グーグルなどのインターネット検索で引っ掛かった場合は不可としている。これのみ不可とする理由は,大学の場合,大学の図書館で有料の論文をはじめとした情報が手に入ることが多いため。基本的には,「調べられる範囲は全て調べる」というのがルールとなっている。

【委員】 学習意欲について,学力を培うことの大切さを学ばせるために,どのような取組が行われているのか。

【有識者】 まず,学校全体に「探究することが当たり前」という雰囲気がある。例えば,部活の先輩から,「2年生はこの時期大変だな」と声がかかるような雰囲気は重要。「探究基礎活動録」には,本当に探究がしたくて堀川高校に入学した生徒以外の記録も載せているが,そうした生徒たちも結果的に,何らかのきっかけで楽しさや喜びを経験している。また,「後輩に対して発表する」という要素も重要。活動録は後に残るため,「後輩の前で恥をかきたくない」という意識も,モチベーションの一つの仕掛けになっている。

【委員】 小・中・高の三つの学校段階について,非常に内容の濃い実践発表を伺った。ここから何を学び取るかという点が課題になるが,今後この発表を糧として審議を詰めていきたい。

―― 了 ――

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