「大学院段階の教員養成の改革と充実等について」(報告)

平成25年10月15日
教員の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議

目次

はじめに

1 学校教育を取り巻く現状と教員養成における課題
 1.学校教育を取り巻く現状
   a.新しい学びへの対応
   b.学校現場での今日的課題への対応
   c.教員の大量退職・大量採用等を踏まえた対応
   d.スクールリーダー養成の必要性
 2.これまでの教員養成
 (1)これまでの教員養成の主な経緯
 (2)これまでの教員養成の主な課題

2 大学院段階の教員養成の改革と充実
 1.大学院段階の教員養成の高度化の必要性
 2.大学院段階の高度専門職業人養成の取組状況
 (1)専修免許状の認定課程を有する大学院
   a.専修免許状創設の経緯と課題
   b.国公私立大学の教員養成系以外の修士課程における教員養成の現状
 (2)教職大学院
   a.教職大学院制度の創設
   b.制度創設後5年間の取組
   c.教職大学院における教員養成の成果
 (3)国立の教員養成系修士課程
   a.これまでの位置付け
   b.国立の教員養成系修士課程の主な課題
 3.今後の大学院段階の教員養成機能の在り方の方向性
 (1)大学院段階の教員養成の高度化への対応
 (2)専修免許状の認定課程を有する大学院において保証する資質能力の在り方
 (3)大学院段階の教員養成機能の在り方
 (4)今後の教職大学院の拡充方策
 4.教職大学院の在り方
 (1)基本的な性格・在り方
 (2)教職大学院の教育課程
   a.教職大学院に共通に開設すべき授業科目(共通5領域)
   b.教職大学院の特化コース等の設置
   c.学校における実習
   d.教育実践研究のとりまとめ、教育成果の検証
   e.学部新卒学生と現職教員
 (3)教職大学院の教員組織
   a.教員組織の在り方
   b.教職大学院の教員
   c.実務家教員
 5.国立の教員養成系修士課程の改善
 (1)基本的な性格・在り方
 (2)教育課程
 (3)教員組織
 6.専修免許状の在り方
 (1)改善の方向性
 (2)実践的科目の内容等

3 教職課程に関する情報の公表
 1.教職課程における情報の公表の現状と課題
 (1)大学等における情報の公表の義務付けの経緯
 (2)教職課程に関する情報の公表の課題
 2.教職課程に関する情報の公表の義務付け
 (1)公表の義務付け
 (2)公表する手段

4 教職課程のグローバル化対応
 1.学生が海外に留学した際に取得した単位の取扱い
 (1)単位の取扱いの現行制度の課題
 (2)大学に入学する前に外国の大学で取得した単位の取扱いの明確化
 2.教育実習の履修のための要件等の柔軟化
 (1)教育実習や介護等体験を履修するための要件や実施時期の課題
 (2)履修のための要件等の柔軟化の促進
 3.教員採用選考の改善
 (1)教員採用選考におけるTOEFL等の評価の現状
 (2)教員採用選考における適切な評価の促進

別添 専修免許状の取得における実践的科目のイメージ

はじめに

○ グローバル化や情報化、少子高齢化など社会の急激な変化に伴い、学校教育において求められる人材像が変化しているとともに、学校現場の抱える課題も複雑化・多様化している。このため、これからの教員は、課題探究的な活動を自ら体験し、新たな学びを展開できる実践的指導力を修得するとともに、複雑かつ多様な新たな課題に、幅広い視野に立って柔軟に対応できる指導力、同僚と協働して、組織として困難な課題に対応できるマネジメント力、地域との連携等を円滑に行うためのコミュニケーション力等を身につける必要がある。

○ このような資質能力の向上のために、これからの教員は、社会の急速な進展の中で必要な知識・技能を絶え間なく刷新し、教職生活全体を通じて学び続けることが求められる。こうした「学び続ける教員」を支援するため、養成は大学、採用・研修は教育委員会・学校というこれまでの役割分担から脱却し、教育委員会・学校と大学との連携・協働により、教員の養成・採用・研修の一体的な改革を行っていくことが極めて重要である。

○ 教員は初任段階の者であっても学級担任を任されることが多いなど、初任者が負う責務が大きい職業であり、学部における養成段階にあっても、体系的な教育課程によって教員としての基礎・基本を確実に身に付けさせるとともに、学校現場と大学を結んだ能動的な学修を通じて基礎的な実践的指導力が育成されるべきである。
 その上で、学部卒業後教職に就く者について、学校現場において適切な初任者研修等により、教員としての基礎的な資質能力を磨くとともに、学校の新たな課題に応える力量を身に付けさせなければならない。
 これら一連のプロセスにおいて、大学が学校教育の課題に即した教員養成を進めるとともに、教育委員会・学校が大学の知見を生かし充実した研修等を行うなど、教育委員会・学校と大学との連携・協働を継続的に推進することが不可欠である。

○ 大学院レベルの教員養成は、学校課題に即した学校マネジメント、教科指導、生徒指導、学級経営などについて、専門的知見に基づく高度の実践的指導力を修得させることにより、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員及び管理職候補者をはじめとするスクールリーダー(※1)となるような現職教員として、他の教員集団を指導し得る中核的な教員を養成する意義を有する。

○ このような方向性に基づき、中央教育審議会は、平成24年8月に、教員を高度専門職業人として明確に位置付け「学び続ける教員像」を確立することを中心とする「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」を答申した(※2)。同答申では、当面の改善方策として、「教職大学院の教育課程の見直し」、「教職大学院の教員組織の見直し」、「国立の教員養成系修士課程の改善」、「専修免許状の在り方の見直し(一定の実践的科目の必修化推進)」、「認定課程を有するすべての大学における情報の公表」、「グローバル化への対応」などが示されている(※3)。

○ 本協力者会議は、これらの当面の改善方策として提言された事項の具体化に向けて専門的見地から検討するために平成24年9月に設置された。当協力者会議の下に「修士レベルの教員養成課程の改善に関するワーキンググループ」及び「教職課程の質の保証等に関するワーキンググループ」の2つのワーキンググループを置き、それぞれ教職大学院や国立教員養成系修士課程などの在り方及び専修免許状の改善などについて検討を行ってきた。
 その間、教育再生実行会議(※4)においては、平成25年5月に、今後の教員養成大学・学部の在り方について、学校現場での指導経験のある大学教員の採用増、教員養成課程の実践型のカリキュラムへの転換、組織編制の抜本的見直し・強化等を推進するとともに、初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育を充実するため、英語教員の養成の充実や採用における外部検定試験の活用などが提言されている。

○ 文部科学省では、これらの提言を踏まえて、国立の教員養成大学・学部の在り方については、今後の人口動態・教員採用需要等を踏まえて量的縮小を図りつつ、初等中等教育を担う教員の質の向上のため機能強化を図るとし、組織編制の抜本的見直し・強化の中で教職大学院へ重点化することを示している(※5)。今後、文部科学省では、国立大学の教員養成分野のミッションを再定義していくことにより、各大学の強み、特色、社会的役割、今後の方向性を整理し、各大学の改革を促していくこととしており、これらを教員養成改革促進の指針とすることが求められている。

○ 本報告書は、各ワーキンググループより受けた検討報告に基づき、上記動向を踏まえて大学院段階の教員養成における改革と充実等についてとりまとめたものである。
 なお、本報告書は、大学院段階の教員養成の改革と充実等に関する具体的な検討を中心に行ったものであるが、学部段階における教員養成について、教育委員会と連携・協働してより実践的な取組を進めていくなどの改革を引き続き進めていく必要があることは言うまでもない。

1 学校教育を取り巻く現状と教員養成における課題

1.学校教育を取り巻く現状

社会の急激な変化に伴う学校教育を取り巻く現状と課題については、以下のようなものがある。 

a.新しい学びへの対応
○ 子供たちに21世紀を生き抜くための力を身につけさせるには、子供たちの基礎的・基本的な知識・技能の習得に加えて、思考力・判断力・表現力等を育成するために、知識・技能を活用する学習活動、課題探究型の学習、協働的な学びなど、新しい学びをデザインできる実践的指導力を有する教員を養成する必要がある。

○ また、知識基盤社会が進展し、専門分化した膨大な知識の全体を俯瞰(ふかん)しながら、イノベーションにより新たな価値を創造できる高度な人材が求められている中で、我が国の将来を担う人材養成の重要な使命を持つ教員についても、高度専門職業人が求められている。

b.学校現場での今日的課題への対応
○ 今日の学校教育では、いじめ・不登校等生徒指導上への諸課題への対応、英語教育、道徳教育、特別支援教育の充実、外国人児童生徒への対応、新たな学びに対応するICTの活用の要請をはじめ、学校現場の複雑かつ多様な課題に対応することが求められている。また、体罰やいじめ問題における学校現場の対応については、課題が指摘されている。このような諸課題に対して、学校が、保護者や地域住民の力を生かして地域ぐるみで課題解決に取り組んだり、組織として機動的に対応したりするため、校長のリーダーシップの下、教職員全体がチームとして課題に対応できる力量の形成が必要である。

c.教員の大量退職・大量採用等を踏まえた対応
○ 現在、公立学校教員の年齢構成は、50才以上の教員が全体の約4割を占めていることから、全国的に、教員の大量退職や新人教員の大量採用が進行している。また、学校の小規模化や、教員の多忙化等により、教員間の学びの共同体としての学校の機能(同僚性)が昨今では十分に発揮されていないという指摘があり、教員間での知識や経験の伝承が困難な傾向が見られる。

d.スクールリーダー養成の必要性
○ このような学校現場の現状の中、困難な課題に学校が組織として適切に対応していくためには、学校の管理職をはじめ、学校現場でリーダーとしての役割を果たせる教員の養成が喫緊の課題となっている。スクールリーダーには、学校現場が直面する諸課題について、構造的・総合的な理解を共有し、自らの担当する教科・学年・学校種以外との関連を広く見据えながら、学校内や地域においてリーダーシップを発揮できることやメンターとして若手教員の指導や相談に当たることが求められる。

2.これまでの教員養成

(1)これまでの教員養成の主な経緯

○ 我が国の教員養成制度は、昭和24年の教育職員免許法制定及び新制大学発足以降、幅広い視野と高度の専門的知識・技能を兼ね備えた多様な人材を広く教育界に求めることを目的として、国公私立のいずれの大学でも制度上等しく教員養成に携わることができる開放制の原則の下、大学における教員養成が行われてきており、戦前の師範学校とは異なり、学位プログラムとしての体系と教職課程としての体系の両方を重視した教育課程が設定されてきた。

○ 昭和50年代には、大学院における現職教員の再教育を目的とした新構想の教育大学 (※6)が設置され、教員養成学部を基礎とした大学院修士課程が順次設置され、平成8年にはすべての都道府県に整備された。平成10年には、現職教員の資質能力の向上を図るため、修士課程を積極的に活用した教員養成を行うことが提言されている(※7)。

○ 昭和62年には、教員免許状の一種免許状を基礎として、修士課程等において特定の分野について深い学識を積み、当該分野において高度の資質能力を備えていることを示すものとして専修免許状を設けることが教育職員養成審議会で答申され(※8)、翌年の教育職員免許法の改正により、新たに専修免許状が創設された。

○ 平成17年の教員分野に係る大学等の設置又は収容定員増に関する抑制方針の撤廃以後、私立大学における教育関係の学部の新設が増加しつつある(※9)。

○ 平成18年の中央教育審議会の答申(※10)で示された教員養成・免許制度の改革方策を受け、教職課程における教職実践演習の必修化、教員免許更新制の導入、専門職大学院としての教職大学院制度の創設など、時代の趨勢(すうせい)に合わせた教員の資質能力の向上に資する改革が行われてきた。

(2)これまでの教員養成の主な課題

○ 大半の教員が学部を卒業後に教員となっている現状にかんがみれば、学部における教員養成の改善・充実が重要である。学校教育を取り巻く現状は変化しており、これらの変化に適切に対応できる即応性・柔軟性のある教員を確固たる理念の下で養成することが強く求められているが、実際の教員養成の現状は各大学によってまちまちであり、教職課程の質の保証が必要とされている。

○ 大学院段階については、国立の教員養成系修士課程において、現職教員の再教育と実践的指導力の養成を目的に掲げてきたにもかかわらず、これまでともすれば個別分野の学問的知識・能力が過度に重視される一方、学校現場での実践力・応用力など教職としての高度の専門性の育成がおろそかになっており、学校現場で活躍する中核的な教員を養成する体系的なプログラムを必ずしも提供してこなかった。

○ また、大学や大学院で行われてきたこれまでの教員の資質能力の向上に関する取組は、教員として採用後に行われる校内研修や教育委員会等の研修との連携・協働が十分ではなかったと指摘されている。また、教員として採用された後も、教科指導の方法や学級経営などについて大学や大学院の教員に相談できる体制を教育委員会と連携して構築することが必要であるとの指摘もある。今後は、例えば大学や教育委員会等の関係機関が、教員の養成や継続的な研修に対する支援、若手教員の相談体制の構築などを連携・協働して行っていくことの重要性が高まってきている。 

2 大学院段階の教員養成の改革と充実

1.大学院段階の教員養成の高度化の必要性

○ 学校教育を取り巻く現状と教員養成における課題で述べた社会状況の変化に対応するため、これからの教員に求められる資質能力は、子供の基礎的知識や技能の確実な習得に加えて、思考力・判断力・表現力等を育成する学びをデザインできる実践的指導力や、社会の変化に伴う新たな課題に柔軟に対応できる広い視野をもった高度専門職業人としての力である。
 また、スクールリーダーとしての資質能力は、学校課題に即してチームの中で他の教員を指導できる力やマネジメント能力であり、その育成のためには現職の教員が専門的知識を学び直し、自らの実践を理論に基づき振り返ることが必要となる。
 総じて、これからの教員には、高度の専門性に基づく実践力指導力が要求されるのであり、教員は教職生活全体を通じて学び続け、このような高度な資質能力を身に付けていく専門職であると位置付けられる。

○ 子供が自らの主体的な関心に基づいて課題を探究していく新たな学習の導入により、その学習をデザインする教員の側でも、課題を設定しその解決に向けた探究的活動を行う学びを体験することが必要不可欠となる。
 新たな学びをデザインする力を養成するため、学部段階における能動的な学修等の導入に加えて、大学院段階において、教育活動における実践を踏まえつつ、研究課題に沿った探究的活動を行うことが効果的である。

○ 学校現場の複雑かつ多様な課題に対応するためには、経験に基づく既存の方法だけではなく、新たな課題に対して柔軟な解決策を導き出せる力が求められる。したがって、初任段階も含めてすべての教員には、学校内や地域の教育活動を俯瞰(ふかん)する広い視野を身につけ、自らの知識を活用した実践的指導力を養成するため、学校教育に関する体系的な学修が必要である。

○ 平成20年以降設置されてきた教職大学院では、学校における実習を通じて学校現場の課題を解決する試みを教育課程に取り入れることで、理論と実践を往還させた省察力による新たな学びのデザインや複雑な学校課題に対応する探究的な実践的指導力の育成を可能とし、学部や教員養成系修士課程でなし得なかった学修成果を生み出している。

○ 学校における組織力の向上のためには、校長のリーダーシップの下、複数のスクールリーダーがチームをまとめて校長をサポートする必要がある。このような教員には、学校や地域の教育全体を総合的に理解し、幅広い分野で指導性を発揮できる力や、同僚と協働し、組織として的確に対応できる力、さらには地域との連携等を円滑に行えるコミュニケーション力が必要となる。初任段階の教員についても、他の教員と連携し組織の一員として課題に対応できる力を養い、将来のスクールリーダーとなる素地を育成していくことが重要である。

○ さらに、スクールリーダーには、学習指導や学級経営など教員個人の力量とは別に、他の教員を指導する力やマネジメント能力が必要となる。特に、校長や教頭等の管理職の養成においては、リーダーとしての意欲と適性を有する教員を選抜し、キャリアパスの中で、学校経営等の専門的知識を学ばせる必要がある。そこで、選抜された教員が、大学院等における理論と実践の往還による学び直しによって、学校経営や生徒指導等の高度の専門的知識を体系的に学びながら、リーダーとしての能力を伸ばすことを促進することは、極めて有益であると考えられる。

 ○ このように、社会状況の変化に併せて教員に求められる新たな指導力や俯瞰(ふかん)的な幅広い視点を養成するために、大学と教育委員会・学校との連携・協働により、教職生活全体を通じて学び続ける教員を支援する必要がある。このため、高度専門職業人養成のための体制が、学部、大学院及び学校現場を通して整備されていない現状を改め、従来の教員の養成・採用・研修の制度を一体的に改革し、教員に新たな学びを行う場を提供する必要がある。 

2.大学院段階の高度専門職業人養成の取組状況

(1)専修免許状の認定課程を有する大学院

a.専修免許状創設の経緯と課題
○ 昭和62年12月の「教員の資質能力の向上方策等について」(教育職員養成審議会答申)において「標準免許状を基礎として、修士課程等において特定の分野について深い学識を積み、当該分野において高度の資質能力を備えていることを示すもの」として専修免許状を設けることが提言された。この提言を受け、昭和63年に教育職員免許法が改正され、専修免許状が創設された。

○ 教育職員免許法においては、この答申の趣旨を踏まえ、一種免許状を取得している者が大学院に進学して専修免許状を取得するに際しては、「教科又は教職に関する科目」について24単位以上を修得することとなっている。そのため、多くの大学院においては、この24単位は、研究科の専門分野に係る科目で構成されており、専門的知識の深化は保証されているが、学校での教育実践と関連のある内容を学修することは少ない。

○ このように、現行の専修免許状の取得に当たっては、研究科で学んでいる特定の学問分野における専門的知識や理論を、実際に児童生徒に教授する場面においてどのように活用していくのかという教育実践につなぐ学修がなく、高度専門職業人としての教員を養成する上では、理論と実践の往還の視点が不足している。

○ さらに、専修免許状を取得するに当たって、学校との関わりや学校の現状を把握する機会がない状態になっているため、学生の教員への志望の意思をより高めることにつながっていないとの指摘もある。

b.国公私立大学の教員養成系以外の修士課程における教員養成の現状
○ 平成23年度の大学院の新規修了者の専修免許状の取得状況については、中学校の専修免許状では国立大学の教員養成系の研究科の修了者が40%である一方、それ以外の国公私立大学の研究科の修了者が60%を占めており、高等学校の専修免許状では国立大学の教員養成系の研究科の修了者が35%である一方、それ以外の国公私立大学の研究科の修了者が65%を占めている。

○ 今後、教員養成の高度化を進めるに当たっては、国立大学の教員養成系の研究科のみならず、それ以外の国公私立大学の研究科に負うところが大変大きいため、これらの研究科の関係者の理解を得つつ取り組んでいく必要がある。

(2)教職大学院

a.教職大学院制度の創設
○ 教員養成系の修士課程が高度専門職業人としての教員の養成機能を十分果たしていないとの課題が指摘されてきた中で、平成18年の中央教育審議会答申(※11)を受け翌年に、専門職大学院制度を活用して、高度専門職業人養成に特化した教職大学院制度が創設された。

○ 教職大学院は平成20年4月から設置され、平成25年度には、全国で25大学(※12)に設置され、入学定員815人となっている。

○ 教職大学院制度は、地域の教育委員会・学校との密接な連携の下で、力量ある教員の養成のためのモデルを制度的に提示することを目的としており、a.新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成(学部新卒学生等対象)、b.管理職候補者をはじめとする指導的役割を果たし得るスクールリーダーの養成(現職教員を対象)の2つを目的・機能としている。

b.制度創設後5年間の取組
○ 教職大学院は、「教職課程改善のモデル」として、高度専門職業人としての教員養成システムを確立し、次のような取組を行ってきた。
・ 大学院における「理論」の学修と学校における「実践」を組み合わせ、理論知と実践知を往還する探究的な省察力を育成する体系的な教育課程の確立
・ 学校現場に精通した実務経験と卓越した教育能力を併せて有する大学教員の登用
・ 養成された教員を受け入れる教育委員会・学校(デマンド・サイド)と教員を養成し供給する大学(サプライ・サイド)との連携・協働による高度専門職業人養成
・ 管理職候補者を教職大学院に派遣すること等による学校管理職養成における教育委員会と大学の連携
・ 教科の専門分野を重視した教育から転換し、カリキュラムマネジメント、教科横断的な指導法、総合的な学習の時間のデザイン、授業評価等の学習指導のプロセスを重視した教育

c.教職大学院における教員養成の成果
○ 教職大学院では、現在は学生全体の約4割は現職教員、約6割は学部新卒学生が学んでいるが、教職大学院を修了した現職教員の多くが、学校において副校長・教頭・主幹教諭等に登用されたり、教育委員会において教育行政の中核的な業務を担当したりするなど、スクールリーダーとして活躍している。例えば教育委員会からの調査結果として、教職大学院を修了した現職教員は、所属校の校長及び同僚からスクールリーダーとして活躍していると認められているという報告がある(※13)。

○ 教育委員会・学校との様々な連携の強化、学校における実習の充実、理論と実践の往還による学修、優秀な現職教員とともに学んでいることなどにより、教職大学院を修了した学部新卒学生の教員への就職率は、平成19年度の制度創設以来、毎年9割を超えており(※14)、国立教員養成系の学士課程、修士課程と比べて高い。

○ 理論と実践を往還させる教員養成カリキュラムの確立、実務家教員が参画した教員組織、学校現場の課題解決に資する教育実践研究の推進・深化、大学の学校支援機能の向上等の取組により、学部における教員養成に少なからず影響を与えた。

○ なお、教職大学院の今後の課題としては、教科の取扱いや実習の在り方などを含めた教育課程の更なる充実、教職大学院で必要となる学校経営分野などの研究者養成、教職大学院設置数増加のための方策、教職大学院進学のためのインセンティブの付与などが残されている。

(3)国立の教員養成系修士課程

a.これまでの位置付け
○ 国立の教員養成系修士課程については、昭和41年に東京学芸大学に設置されたのをはじめとして、教員養成学部を基礎とした修士課程が順次設置され、平成8年にはすべての都道府県に整備され、現在ほぼ各県に設置されている。また、昭和50年代には、大学院における現職教員の再教育を目的とした新構想の3教育大学が設置されている。

○ 国立の教員養成系修士課程は44大学に設置され、入学定員は約3,300人となっており、その設置目的は、研究機能と併せて現職教員の再教育の観点から高度専門職業人養成とされ、教育内容・方法の充実等の一定の改善が図られてきている。一方、設置時に連携協力校や教育委員会との協力が求められる教職大学院に比べ、修士課程では、教育課程や教員配置について、教育委員会・学校の意向を取り入れて整備したものにはなっていない。

b.国立の教員養成系修士課程の主な課題
○ 上記の位置付けを踏まえ、その後、学校現場の課題に即した実践的な内容を充実させる教育課程の改革を行った大学院もあるが、いまだ研究機能と高度専門職業人養成の機能区分が曖昧であり、高度専門職業人養成としての役割を十分果たしているとは言い難い。例えば、平成13年の「今後の国立の教員養成系大学・学部の在り方について」 (※15)で指摘されたように、修士論文の内容が明らかに理学や文学など他の研究科と変わらないような場合でも「修士(教育学)」を授与している例がいまだに少なからず見られる。

○ 高度専門職業人養成の目的からすると、教育学や教科専門に関する理論研究に偏ったり、個別分野の学問的知識・能力が過度に重視されたりする状況は、本来期待されている役割を果たしているとは言えず、学校現場での実践的指導力など教員としての高度の専門性を育成する教育と、児童生徒に関する喫緊の教育課題や指導法の改善等の学校教育実践に関する研究の推進が不可欠である。

○ 修士課程の教員組織については、大学院設置基準及びそれに基づく告示(※16)において、教科の専攻ごとに置くものとする教員の数が定められているが、組織の柔軟な見直しや、他大学・学部との柔軟な連携、機能分担の支障になっているとの指摘もある。

○ また、教育委員会は、現職教員の資質向上を期待して、地元を中心とした大学院に教員を派遣してきているが、平成20年の教職大学院の設置後は、修士課程ではなく教職大学院に現職教員を派遣する傾向が見られ、既存の修士課程では現職教員の再教育の機能を十分果たせなくなってきている。

○ さらに、多くの大学院で定員未充足の教科等の専攻があること、学部新卒学生の修士課程修了後の教員就職率が教職大学院に比べて極めて低い(※17)ことに加え、近年はすべての教科について十分な人員配置を維持することが困難な大学が出てきていることなどから、組織編制について改革が急務となっている。

3.今後の大学院段階の教員養成機能の在り方の方向性

(1)大学院段階の教員養成の高度化への対応

○ 新たな学びと複雑化する学校課題に対応した実践的指導力等の資質能力を身につけるためには、それぞれの教員が教職生活全体の中で、研修や大学院での学修等を通じて高度な専門的知識・指導力を身につける必要がある。
 また、教育委員会等の研修として、例えば、教職大学院と連携・融合した初任者研修を行うなど、教職大学院を中心とする大学院と連携し、その教育力を活用することは、教員の資質能力を向上させるために有益である。

○ 「学び続ける教員」を支援するため、教育委員会・学校と大学との連携・協働を確実に進めることとし、総合大学においては教員養成系以外の一般の研究科との機能分担などを行いながら、教員養成系修士課程の在り方を見直し、教職大学院を中心として高度専門職業人としての教員の養成を抜本的に充実・強化していくこととする。

○ 教育委員会・学校との密接な連携・協働のためには、大学は、教育委員会の幹部職員や連携協力校の校長等が構成員となる常設の会議を設置し、養成する人材像、教育課程の内容、現職教員の再教育の在り方について定期的に実質的な意見交換を行い、教育への社会の要請を受けとめ、その質の向上を図ることが求められる。

○ 大学院の充実のみではなく、その基礎となる学部教育の質の向上も不可欠であり、特に教員養成学部においては、学部教育と大学院教育の接続も踏まえ、学校現場における理論と実践の往還を核とした教職大学院の取組を生かしていくなど、教育課程の改善・充実を継続的に図る必要がある。

(2)専修免許状の認定課程を有する大学院において保証する資質能力の在り方

○ 教員養成系の研究科では、教職及び教科専門を中心とする理論を、教員養成系以外の研究科においては教科専門を中心とする理論を学んできている。

○ これからの教員は、確かな教科指導力や学級経営力を有しているとともに、いじめや不登校等の生徒指導上の問題や、特別な支援を要する児童生徒、外国人児童生徒への対応等、複雑かつ多様な課題に対応することが求められている。
 このような課題に適切に対応し解決する力を育成するためには、児童生徒の発達段階やカウンセリングなどに関する理論について深い理解を基盤とし、実際の児童生徒に対して、一人一人の特性や心身の状況、生育環境、学級集団の中での関係などを踏まえて、個々のケースに応じた指導を適切に実践できなくてはならない。

○ また、基礎的・基本的な知識・技能の修得に加えて、思考力・判断力・表現力等を育成するため、知識・技能を活用する学習活動や課題探究型の学習、協働的学びなどの新たな学びをデザインできる指導力が求められている。
 このような実践的指導力を育成するためには、教科に関する学問的な幅広い知識や深い理解を基盤とし、実際に児童生徒に対する授業場面において、こうした専門的知識を活用して指導内容を工夫することや、適切な授業を構成できる力を身につけさせることが不可欠である。
 すなわち、教科に関する深い学問的な知識・理解を身に付けた上で、学習内容の系統性や教科の本質を理解し、子供たちの思考を揺さぶり、新たなものの見方の発見を促すような課題探究型の授業を構想したり、教材を開発したりすることが必要になる。実際の授業の場面においては、単元の内容や子供一人一人の習熟の度合いなどに合わせて、個別学習やグループ学習などの適切な学習形態を選択したり、説明や発問の内容を工夫したりできる力が身についていなければ、構想した授業を具体的にデザインしたり、開発した教材を適切に用いて授業を展開することはできない。

○ そのため、今後の教員養成の高度化に向けて、専修免許状について、学問的な深い知識・理解に基づく教職や教科に関する専門性を保証するとともに、それを実際の授業の場面や学級経営、生徒指導、キャリア教育等で活用し、課題に適切に対応できる力や新たな学びを展開できる実践的な指導力も含めて保証する必要がある。

(3)大学院段階の教員養成機能の在り方

○ 専修免許状の認定課程を有する国公私立大学の教員養成系以外の修士課程は、実践的な科目を導入するなど実践的指導力を保証する取組を進めつつ、教科等の一定の分野について学問的な幅広い知識や深い理解を強みとする教員を養成する。

○ 教職大学院は、「学び続ける教員像」の確立と教員の高度専門職業人としての明確な位置付けの下、現職教員の再教育を含め、高度専門職業人たる教員養成の主たる担い手となるものとし、学校現場で幅広く指導性を発揮できる人材を養成する。その中には授業研究や特別支援教育等の特定の分野に強みを持つ教員の養成や、高度な学校マネジメント能力を有する管理職の養成等が含まれる。
 このことを前提としつつ、当面は引き続き高度専門職としての教員養成システムにおいてモデル的役割を担うものとし、
・学校現場における職務についての広い理解を持って自ら諸課題に積極的に取り組む資質能力を有し、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員
・学校現場が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って、教科・学年・学校種の枠を超えた幅広い指導性を発揮できるスクールリーダー
を養成する(※18)。

○ 国立の教員養成を主たる目的とする修士課程については、高度専門職業人としての教員養成機能は、今後教職大学院が中心となって担うことから、原則として教職大学院に段階的に移行する。
 段階的な移行期における修士課程については、児童生徒に関する喫緊の教育課題や指導法の改善等の教育実践研究を行い、当面、例えば教科を大括(くく)り化した専攻などにおいて、学校実習など実践的な科目を大幅に取り入れ、総合大学の場合は他研究科の専門科目も活用しつつ、組織編制の見直しを行い、教職大学院への移行の準備を行う。

○ また、養護教諭やスクールカウンセラーの養成など、資格取得の観点から教職大学院で担うことが困難な人材を養成することは、修士課程の人材養成機能と考えられる。

○ 教職大学院に加えて、教員養成系修士課程を置くことについては、社会的要請等を考慮しつつ、個別に検討する。

(4)今後の教職大学院の拡充方策

○ 今後の教職大学院の拡充方策については、教職大学院の教育成果、教育課程の体系性を維持した上で、学校現場や社会からの様々な要請を踏まえながら制度を発展・充実させる。また、教育委員会・学校と大学との連携・協働を前提として、すべての都道府県に教職大学院が設置されることが望ましいことから、教員養成系修士課程の在り方を見直していく必要がある。なお、教職大学院の拡充に当たっては、現職教員の派遣を支援するために教員定数の積極的な活用などが望まれる。

○ 教職大学院が設置されていない都道府県においては、当該都道府県に所在する大学が、地元の教育委員会等と学校や地域におけるスクールリーダー養成のための十分な協議を行い、教職大学院の新たな設置の具体的な方策について、早期に検討を進めることが望まれる。その際、国公私立大学の大学間連携など複数の大学による設置を検討することも考えられる(※19)。

○ 教職大学院をはじめとする教員養成や現職教員の再教育を行う大学院においては、教育の現状や成果等が、現職教員や教育委員会等に十分な理解が得られるよう努める。
 教育委員会においては、現職教員の教職大学院などへの研修派遣について、その意義についての積極的な理解の上で、教員の人事方針やキャリア形成の観点から戦略的に実施するよう努める。また、教職大学院等の学位取得者に対して、その学修の成果を適切に評価する観点から、既にいくつかの教育委員会で行われている教員採用選考における特別選考の実施等について検討する。これらについては、3.(1)で述べた大学と教育委員会等との常設の会議を活用することとする。
 文部科学省においては、教職大学院の新たな設置や拡充に向けた推進方策について検討を行うとともに、教育委員会・学校において、教職大学院の活用が推進されるよう、必要な情報提供を行う。また、教育委員会と教職大学院とが連携した管理職を養成する仕組みづくりを支援する。

4.教職大学院の在り方

(1)基本的な性格・在り方

○ 教職大学院の基本的な性格やその在り方については、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成及びスクールリーダーとなるような現職教員の養成を基本とし、学校現場が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って幅広く指導性を発揮できる教員の養成を目的とするものとする。

○ 具体的には、教職大学院は、新たな学びや学校の複雑かつ多様な課題に対応することができる中核的な教員の養成の主な担い手となり、学校全体への総合的な理解を有し、自分の専門や担当を超えた俯瞰(ふかん)的な視点からの指導力を持つ教員の養成を行う必要がある。
 例えば、新人教員については、学校現場における職務について広い理解に立ち、自ら学校課題に積極的に取り組む教員の養成が求められる。現職教員については、指導主事、主幹教諭、指導教諭、研修主任など、学校運営、授業研究、研修等において中心的役割を担う教員、管理職候補者となる高度な学校マネジメント能力を有する教員の養成などが考えられる。
○ したがって、教職大学院においては、引き続き高度専門職業人としての教員養成のモデルとして、教育委員会・学校、学生などのニーズと要請を踏まえながら、学校経営・教科指導・生徒指導・学級経営・特別支援教育などの高度な専門性と、学校内や地域において幅広い分野で教育活動全体を俯瞰(ふかん)できる力を養成する。

(2)教職大学院の教育課程

○ 教職大学院の教育課程については、今後、教職大学院を拡充していく過程において、養成する教員の資質能力が変質したり、教育レベルが低下したりすることのないよう、現行の教育課程の体系を維持する。

○ 教職大学院では、自らの教育実践を理論に基づき振り返ることができる実習を教育課程の中心に置くことにより、理論と実践の往還を持続的に発展させていくことを基本的な教育方法とする。

○ 学修内容上、特色を持つコースを設定する場合は、平成18年の中央教育審議会答申(※20)において、学校現場の今日的課題の解決の研究に必要な学問分野の枠を超えた科目群とすることが有効であるとされていることや、教職大学院が学校現場の諸課題を広く構造的・総合的に理解する人材の育成を基本としていることを踏まえ、各教科や学校種ごとに区分したコース等の設置は適切ではない。

○ また、教職大学院の履修形態は、幅広く現職教員が学修しやすい環境となるよう、教育委員会等との連携の上で、サテライト教室の活用や、ICTを活用した双方向型の授業等を充実させる。

○ 各教職大学院では、教育課程の更なる充実のため、ファカルティ・ディベロップメント(FD)を充実させるとともに、我が国の教員養成高度化のための国公私間を含めて大学間の協働を推進する。その際、大学院における学位取得者だけでなく、学部新卒の新規採用教員等の資質能力向上への教育委員会との協働や、国公私立大学の教員養成系以外の修士課程における専修免許状取得者の実践的科目履修への大学間協力を重視することとする。
 また、制度創設後の5年間の取組を踏まえ、教職大学院の教育課程の成果や課題を検証した上で、どのような教育課程が望ましいのか大学関係者等で検討し、できるだけ早期に、平成18年の中央教育審議会答申で示されたモデルカリキュラムを改訂する。

a.教職大学院に共通に開設すべき授業科目(共通5領域)
○ 教職大学院に共通に開設すべき授業科目(共通5領域)については、文部科学省告示(※21)により定められており、幅広い分野における指導性を育成するため、すべての教員が共通に履修すべき基本的要素として設けられており、その制度趣旨を踏まえた上で、これまでの各教職大学院の実施状況を検証し、今後の改善点について検討する必要がある。 

○ 学部新卒学生と現職教員の両方に向けて、引き続き、すべての領域について授業科目を開設することを求め、総単位数は現行どおり20単位程度を目安とし、学生はすべての領域を必修とする。ただし、各領域を均等に履修させる現行の考え方は改め、コース等の特色に応じて履修科目や単位数を設定することができるようにする。

○ なお、管理職を目指す現職教員を主な対象とする学校経営に特化したコースについては、共通5領域を管理職向けの内容としたり、一部の領域の履修を減らしたりなどして工夫することや、必要に応じて総単位数を12単位程度に減少させることも可能とする。

○ 新たな学びに対応する必要性や教育委員会等からの要請が高いことを踏まえ、現代的な教育課題として、特別支援教育やICT教育を取り扱う科目をそれぞれ共通科目の一部として必修とする。

○ また、平成25年の第2期教育振興基本計画(※22)にあるように、学校と地域が連携・協働する体制が構築されることを目指し、保護者や地域住民の力を学校運営に生かす「地域とともにある学校づくり」が、これからの学校づくりに欠かせない重要な内容であるため、共通5領域の「学級経営、学校経営に関する領域」及び管理職養成コース等において、必ず授業で取り扱うものとする。

b.教職大学院の特化コース等の設置
○ 教職大学院は、スクールリーダー養成機能として、管理職候補者となる教員が、管理職がリーダーシップを発揮して学校の組織的な対応を強化し、学校が地域と一体となって目標を達成していく学校マネジメントを重点的に学修するコースを設置する必要がある。コースの教育課程については、教育委員会との連携・協働により、地域の学校管理職に求められる資質能力を育成できる内容とすることとする。 

○ 学習指導に特化したコースを設定する場合については、共通科目、学校における実習と関連した内容とし、共通5領域のうち、「教育課程の編成・実施に関する領域」、「教科等の実践的な指導方法に関する領域」をより専門的に発展させたものとする。具体的には、総合的な学習の時間、言語活動など、学習指導要領が提起している知識を活用したり探究したりする能動的な学習に対応した教材や指導法を開発できる力量の育成を目標とするものとする。学校現場の課題に即した内容とするため、実習を通じた学修に当たっては、連携協力校に在籍する指導教諭・研究主任等の協力を得ることが望ましい。

○ 学習指導コースには、今後も、個別の教科内容を中心した履修モデルを設定することは適切ではない。個別の教科内容を中心にした学修では、個別分野の学問的知識への偏りが指摘されてきた既存の教員養成系修士課程の教科教育専攻ないし専修の教育課程と変わらなくなる恐れがあり、共通科目を基盤とし、学校現場の今日的課題の解決に資するこれまでの教職大学院の趣旨・目的を変えてしまう可能性があるためである。

○ したがって、教職大学院の学習指導コースにおいては、高度専門職として修得すべき実践的指導力の育成という観点から、個別の教科や学校種の違いを超えて教育を俯瞰(ふかん)し研究する教育実践研究を積極的に採り入れた体系的な教育課程を編成することを重視し、教科内容に関する授業科目を開設する場合は、学校における教育実践に直接的に結びつく内容とする。

○ 特別支援教育に特化したコースについては、教員養成系修士課程との関係を踏まえつつ、特別支援教育士スーパーバイザーの養成を目的とするものなど、教職大学院として特色を有するものとする。

c.学校における実習
○ 教職大学院の学校における実習については、当初から、10単位の学校における実習を必修にするなど学校現場での課題と実践を重視してきたところであり、理論と実践の往還が真に有効になるように、その内容を更に充実したものに改善する。
 既存の教職大学院においては、ごく一部を除いて多くの大学が、学部新卒学生については通年等長期にわたる継続的な実習を課すようになっているが、現職教員に関しては、実習の免除のための判定基準やその合理性の判断が一定でなく、理論と実践を往還させる教育課程として学校における実習をどう生かすかについて、更に検討と改善が必要である。

○ 実習の内容としては、教員としての高度の専門性と課題解決力を養うため、自ら企画・立案したテーマについて学校現場における体験を省察し、高い専門的職業人としての自覚に立って客観化し、理論と実践の往還・融合を果たし得るものでなければならない。したがって、単なる学校実習に終わるものではなく、大学教員の指導の下で行う「探究的実践演習」としての性格を重視する必要がある。このため、学校における実習について、大学教員が実質的に指導できるような環境を整えるための仕組みを整備することが不可欠である。

○ 教職大学院の実習は、教員免許状を有する者の実習であり、学校現場の課題を研究対象とすることにより、連携協力校の教育活動に寄与することが期待されることから、教育委員会や連携協力校などとの密接な連携の下、学校現場に実習成果を還元できるような仕組みとすることが重要である。

○ また、実習は、体系的な教育課程の中で共通科目や専門科目と連携・融合した形で具体的に位置付けられる必要があり、既に多くの教職大学院で行われてきている実習の省察的なワークショップを継続的に設けることが有益である。

d.教育実践研究のとりまとめ、教育成果の検証
○ 教職大学院において学修の成果や教育実践研究をとりまとめることについては、主体的な課題解決力を育成し、自らの学修を客観化する上で大学院での学修として重要である。それゆえ、大学院での授業と学校での実習を総括して振り返り、自らの実践研究を省察した報告書を教育実践研究として作成・発表することを教育課程の中で位置付ける。さらに、こうした観点から、教職大学院生に対して、各大学院は修了後も継続して支援を続けるなど、学び続ける教員を支援することに配慮することが望ましい。

○ また、報告書の作成・発表にとどまらず、その内容を種々の教育改善や学校改革に役立たせ、高度専門職業人の養成機関としての教職大学院の教育実践成果を広く普及・検証していくことが求められる。

e.学部新卒学生と現職教員
○ 教職大学院で学修する学部新卒学生と現職教員については、それまでの各々の経験の違いから必要とされる教育内容に違いがあるのではないかと指摘される一方、集団での活動を中心とする授業では、お互いの特性を生かした討議が可能となり、更に現職教員がスクールリーダーの資質として学部新卒学生のメンターとなることには意義があるとの意見もあり、学生や教員の評価は高い。各教職大学院では、学部新卒学生と現職教員がお互いの特性を生かし協働しながら学修していくことができる工夫が求められる。

○ 中核的教員となり得る人材の養成という目的の下で、共通の「専門職学位」を授与する教職大学院においては、共通の教育研究水準を設定する必要があるが、実際は、学部新卒学生と現職教員とでは異なる履修形態を採ることや、共通科目について達成水準を分けて設定せざるを得ない現状であり、今後、制度上の課題について整理し検討することが望まれる。

○ 管理職養成コースなど必要に応じて対象を現職教員に限定するコースを設定すること、学校経営など学部新卒学生と現職教員で必要な内容が大きく異なる科目について、それぞれに別の履修モデルを用意することは、これまでと同様に可能とする。

(3)教職大学院の教員組織

a.教員組織の在り方
○ 教職大学院の教員組織の在り方については、教職大学院における教育は共通科目を基軸とした教育課程が必要となることから、専任教員の基準についても、「大学院に専攻ごとに置くものとする教員の数について定める件」(平成11年文部省告示第175号)別表第1における「学校教育専攻」の研究指導教員等を基礎に据える現行の考え方(最低11人)を今後とも維持することが適当である。

○ また、今後、教員養成系の大学院における教員養成機能は、教職大学院が中心となって担うことから、教科に係る教育についても、従来の修士課程とは異なる内容で教職大学院において行われることとなる。このため、教科領域分野の教員を教職大学院の専任教員として配置するなど現行規定を改正する方向で検討する必要がある。また、担当教員については、教育実践での実績、研究分野について十分な審査が求められる。

○ 教職大学院における専任教員のダブルカウントについては、高度専門職業人養成に特化した独立性の確保という専門職大学院制度の趣旨から慎重な検討が求められる一方、国立の教員養成系修士課程が教職大学院に段階的に移行するなど、今後も教職大学院の発展・拡充が見込まれるため、優秀な教員を拡充期においても確保することが必要となる。
 そこで、中央教育審議会の検討状況を踏まえ、教職大学院の発展・拡充が見込まれる当面の間、教職大学院の専門職大学院設置基準上必ず置くこととされる専任教員が、他の学位課程の教員を兼ねることができるような措置を行う方向で検討する必要があるが、教育研究上支障を生じないよう留意する。

b.教職大学院の教員
○ 教職大学院の教員については、学校現場の現状や教育実践について深い理解を持ち、教員養成を目的とする課程としての意識を共有することが重要である。したがって、実務家教員、研究者教員という区分以前に、すべての教員が、学校現場の指導経験を有するなどその現状に精通しつつ、併せて研究能力を有し理論的な見地から授業を行うことができるようになることが必要である。

○ このため、各教職大学院においては、実務家教員以外の教員は、原則として、実務の現状を認識するため、附属学校等において継続的な教育活動を行うことが有益である。なお、博士号を有するなど優れた若手研究者を任期付きで採用し、一定期間の学校現場等での実務を課し、その評価結果で正式採用とする「テニュアトラック制(※23)」の導入を推進する。また、地域の学校課題に応じて、学校教育関係者に加えて、医療・福祉等の教育隣接分野の関係者や、民間企業関係者などを活用することも考えられる。

c.実務家教員
○ 教職大学院の実務家教員については、学校現場での最新・多彩な経験を有し、優れた教育実践を行ってきた者が求められており(※24)、教育委員会との人事交流や校長等経験者や教育行政の経験者を期限を定めて採用する等により一定期間で替わっていくことが望ましい。
 また、実務経験と研究能力をあわせ持ち、学校現場全体を客観的、理論的に見通すことができる力を有する実務家教員を、積極的に採用、育成していくことが必要である。

○ 当面は、教職大学院制度の創設以降、理論と実践の架橋を進めている段階であり、実務家教員を引き続き確保していく必要があることから、実務家教員比率は現行どおり4割以上を維持する(※25)。

5.国立の教員養成系修士課程の改善

(1)基本的な性格・在り方

○ 国立の教員養成系修士課程については、教職大学院へ段階的に移行する前提の下で、学校や教育委員会と連携・協働し、その基本的な性格や考え方について抜本的に改善していく必要がある。

○ その際、総合大学においては、例えば、理数科教育等における自然科学系分野との連携など、他研究科との連携も今後必要となってくることから、大学全体での教員養成機能の充実のため、大学の強み・特色、地域の要請に応じた柔軟な組織編制を推進していくこととする。

(2)教育課程

○ 国立の教員養成系修士課程の教育課程については、教職大学院への段階的な移行期を見据えて、学習科学等を踏まえた教科内容構成や教育実践の研究の推進及びその成果の活用、経験知・暗黙知の一般化による理論や方法の開発など、教職大学院の教育課程に準じた実践的な教育内容となるよう現行の教育課程を改革する。

(3)教員組織

○ 国立の教員養成系修士課程の教員組織については、これまで研究機能とともに、教員養成及び現職教員研修を主たる機能とすることを前提としてきたことから、すべての学校種や教科に対応できるよう、中学校免許科目の10教科すべてについて、その教科教育法と教科内容を広範に網羅するような研究指導教員の配置を必要とされてきた。

○ 今後、国立の大学院での教員養成・研修機能を教職大学院が中心となって担うことを踏まえると、国立の修士課程において、10教科の教科に係る専攻ないし専修をすべて置くことはおおむね想定されなくなる。
 また、教職大学院への段階的な移行期においても、地元を中心とした教育委員会・学校の要望を踏まえ、教科を幾つかに大括(くく)り化したり、各大学院が強みとする教科に集中したりすることにより、教育目的に応じた教員組織に再編制することが必要となる。

○ 上述の方針にしたがって、「大学院に専攻ごとに置くものとする教員の数について定める件」(平成11年文部省告示第175号)別表第1に示されている教科に係る専攻の規定については、例えば10教科のうち、幾つかの教科を括(くく)った専攻を置くことが考えられることから、研究指導教員や研究指導補助教員の配置について、設置する専攻の教育課程等に応じて適切な規模の教員組織を編制できるよう、現行規定を改正する方向で検討する必要がある。

○ また、教員養成系にふさわしい研究指導教員等の配置を行うため、大学院設置審査や課程認定審査に当たって、学校教育上の課題解決に資する教育実践研究業績等を重視することを明確化する。

6.専修免許状の在り方

(1)改善の方向性

○ すべての学校種の教諭、養護教諭及び栄養教諭に係る専修免許状について、実践的な指導力の育成を保証するため、各大学院において理論と実践の往還を重視した実践的科目を、専修免許状取得に必要な24単位の中に位置付けて必修としていくことを促進する。

○ その際、専修免許状によって保証される資質能力は、第一義的には深い学識に基づく高度な専門性であるため、実践的科目の内容としては、単に学校で実習を行い、実際の授業における指導技術を習得することを目的としたものではなく、研究科において学んでいる特定の分野についての専門的な知識を基にして、それを学校における教育活動にいかしていくことができるようなものにする必要がある。 

(2)実践的科目の内容等

○ 学校での実践的な活動を取り入れるものとし、その活動を通じた学びをより深めるため、周到な事前の指導や事後の省察などを組み合わせたものが考えられる。
 学校での実践的な活動としては、
a.教職として課題を解決していく力を身につけるため、学校や子供の実態と課題を把握した上で、主体的に学校教育活動に参画するインターンシップを行うものや、
b.カリキュラム開発を推進する授業研究力などを身につけるため、学校現場をフィールドとする実践的活動を行うもの
などが考えられる。

○ 単位数については、上記のような実践的指導力を育成できる内容とするためには一定程度の単位数が必要であり、専修免許状取得に必要な単位数である24単位のうちおおむね4単位から6単位程度とすることが適当である。具体的な単位数については、各大学院における教育課程や教職員体制なども踏まえ、また履修する学生にとって過度な負担とならないよう配慮しつつ、各大学院が適切に定めることとする。

○ 具体的なカリキュラム内容としては、別添で示した「専修免許状の取得における実践的科目のイメージ」などが考えられる。
 専修免許状の認定課程を有する研究科においては、既にそれぞれの教員養成の理念や教員像などに基づき様々な取組を行っているところである。このような状況を踏まえ、認定課程を有する各研究科・各専攻において、それぞれが目指す理念や養成する教員像を実現できるよう、教育課程や指導体制、履修を希望する学生数、実践的活動を行う学校の状況などを勘案して、様々な工夫が行われることが必要である。特に、教員養成系の研究科においては、より高度な専門性を有し実践的な指導力を有する教員を養成できるよう、特段の工夫や内容の充実が求められる。 

○ 学生が学校で実践的活動を行うに当たっては、学校での受入れが円滑に進められるよう、大学と教育委員会・学校が十分に連携を行い、大学における実施方針や受け入れる学校の選定や期間などについて十分に調整を行った上で実施する必要がある。
 また、教員への志望の意思が十分な学生が実践的活動に参画する仕組みとなるよう、学生が実践的活動に参画する前に、大学院において、学生の教員への志望の意思や自覚、資質能力、適性を十分に確認することが必要である。
 さらに、実践的活動を行う学校の状況について、事前に十分に把握した上で実践的活動を開始するなど、受け入れる学校の負担をできる限り軽減するとともに、学校の職務に主体的に参画することで、受け入れる学校側にもメリットを感じられるようにするなど、学校の運営に資するものとする。

3 教職課程に関する情報の公表

1.教職課程における情報の公表の現状と課題

(1)大学等における情報の公表の義務付けの経緯

○ 大学等が公的な教育機関として、社会に対する説明責任を果たすとともに、その教育の質を向上させる観点から、公表すべき情報を法令上明確にし、教育情報の一層の公表を促進するため、平成22年6月に学校教育法施行規則が改正され各大学等において教育情報の公表を行うべき項目が明確化され、平成23年4月から施行された。

○ この学校教育法施行規則第172条の2により、刊行物への掲載、インターネットの利用その他広く周知を図ることができる方法によって、大学の教育研究上の目的や、教育組織、入学者の数、卒業又は修了した者の数並びに進学者数及び就職者その他進学及び就職等の状況、授業科目、授業の方法及び内容並びに年間の授業の計画などについて公表することとされている。 

(2)教職課程に関する情報の公表の課題

○ 上記の規定に基づき各大学等においては、ホームページ等を通じて情報を公表しているところであるが、教員の養成に関する情報についてどのような情報を公表するかは、認定課程を有する各大学の判断に委ねられており、教員の養成に係る教育の質の向上や社会に対する説明責任を果たす観点からは十分とは言えない。

2.教職課程に関する情報の公表の義務付け

(1)公表の義務付け

○ 認定課程を有するすべての大学は、当該大学における教員養成に係る状況について、情報を公表する必要がある。そのため、認定課程を有するすべての大学に対して、法令により情報の公表を義務付けるとともに、具体的な内容を定めることが必要である。

○ 公表を義務付ける情報としては、以下の項目が考えられる。
・教員養成の理念や具体的な養成する教員像
・教職指導に係る学内組織等の体制
・教員養成に携わる専任教員の経歴、専門分野、研究実績等
・教員養成に係るカリキュラム、シラバス等
・学生の教員免許状取得状況
・教員への就職状況
・その他教員養成の質の向上に係る取り組み

○ また、既に認定課程を有する大学が、新たに別の教科等に係る課程の認定を受けようとする場合等には、既に認定を受けている学科等の教職課程に係る情報の公表の取組状況を確認することが必要である。

(2)公表する手段 

○ 大学が情報を公表する手段としては、大学の発行する大学案内などの刊行物での周知や、教員を志望している高校生や中学生などをはじめ、広く社会に周知すべきことから、各大学のホームページへの掲載することが考えられる。また、高校生等が読んでも分かるような平易な表現にするなどの配慮も必要である。

○ 各大学の状況をより分かりやすく把握できるようにするため、例えば公表の様式を統一することや、共通のデータベースとしてまとめることなどについて、今後検討していくこととする。その際、現在大学進学志望者の進路選択の推進のために準備が進められている「大学ポートレート」(仮称)の取組も、その活用の可能性も含め、参考にすることが考えられる。

4 教職課程のグローバル化対応

1.学生が海外に留学した際に取得した単位の取扱い

(1)単位の取扱いの現行制度の課題

○ 世界で活躍できる人材を育成することが求められる中、中学校や高等学校などの英語の教員のみならず、小学校や中学校などの他の教科の教員も含め、教員自身もグローバルなものの見方や考え方を身につける必要がある。このような中、各大学においては、外国の大学との交換留学や長期休業期間などを活用した短期留学、留学生との交流事業の実施などが進められている。 

○ 学生が海外に留学した際に取得した単位の取扱いについては、既に教育職員免許法施行規則第10条の7第2項において、認定課程を有する大学の入学後に教員を養成する外国の大学に留学して取得した単位については、教員免許状の授与を受けるための科目の単位に含めることができるとされている。一方、認定課程を有する大学の入学前に取得した単位の取り扱いについては、同規則第10条の7第1項で定められており、そこでは国内の認定課程を有する大学で取得した単位については教員免許状の授与を受けるための科目の単位に含めることができるとされているが、外国の大学で取得した単位については明文の規定がなく、国内の認定課程を有する大学で取得した単位に準じた解釈で認められている状況にある。

(2)大学に入学する前に外国の大学で取得した単位の取扱いの明確化

○ 認定課程を有する大学に入学する前に学生が外国の大学で取得した単位についても、教育職員免許法施行規則を改正し、教員免許状の授与を受けるための科目の単位に含めることができることを、法令上明らかにする必要がある。

2.教育実習の履修のための要件等の柔軟化

(1)教育実習や介護等体験を履修するための要件や実施時期の課題

○ 学生が教育実習や介護等体験を受けるに当たっては、事前にガイダンスを受講していることや、一定の科目の単位を取得していることなどを条件としている大学がある。このような取組は、真に教員になる意思があり適性のある学生が教育実習や介護等体験を受けるようにするためには適切な措置であるが、一方で外国の大学に留学する学生にとっては、留学の前後に教育実習などを受けることを難しくしている要因の一つとなっているという指摘がある。

○ また、学生が外国の大学に留学をする時期が教育実習や介護等体験が実施される時期と重なることが多く、そのため、教員免許状を取得するために留年せざるを得ない学生や、教員免許状を取得することを諦める学生も少なくないという指摘もある。

(2)履修のための要件等の柔軟化の促進

○ 学生が外国の大学に留学しても、教育実習や介護等体験を留年することなく受けることができるよう、各大学において、外国の大学に留学するなどの事情がある学生については、一定の科目の単位を取得していなくとも教育実習などを受けることを認めるなどの柔軟な取組を推進する必要がある。また、各大学と教育委員会・学校などが連携をして、教育実習等について特定の時期にのみ実施するのではなく、複数の時期に実施するなどの取組を促進することも有益である。

3.教員採用選考の改善

(1)教員採用選考におけるTOEFL等の評価の現状

○ 平成24年度において実施された教員採用選考において、中学校や高等学校、特別支援学校の英語の教員の採用選考の際に、TOEFLやTOEIC、英検などの成績により特別選考や一部試験の免除などを実施している都道府県や政令指定都市の教育委員会は、全67県市のうち39県市にとどまる。また、小学校の教員の採用選考においてTOEFLなどの成績により特別選考や一部試験の免除などを行っている教育委員会は8県市にとどまる。

(2)教員採用選考における適切な評価の促進

○ 各教育委員会において、教員の採用選考に当たって、受験者が外国の大学に留学をした成果を適切に評価できるよう、中学校などの英語の教諭に限らず、小学校の教諭も含めて、幅広くTOEFLなどの成績を評価することなどを促進する必要がある。

 

(※1)「スクールリーダー」とは、「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(平成18年7月11日中央教育審議会答申)において、中核的中堅教員として、将来管理職となる者も含め、学校単位や地域単位の教員組織・集団の中で、中核的・指導的な役割を果たすことが期待される教員とされている。
(※2)「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」(平成24年8月28日中央教育審議会答申)
(※3)その後、自民党教育再生実行本部第二次提言(平成25年5月23日)では、教職大学院については、教員養成・採用を改革する観点から、教職大学院の充実方策を検討し実行に移すこと、修了者の優先採用と採用試験免除を行うこと、教職大学院における研修の充実によるマネジメント力にたけた管理職を養成することなどを求める提言がなされている
(※4)「これからの大学教育等の在り方について」(平成25年5月28日教育再生実行会議第三次提言)
(※5)「今後の国立大学の機能強化に向けての考え方」(平成25年6月20日文部科学省)
(※6)上越教育大学、兵庫教育大学、鳴門教育大学の3大学。
(※7)「修士課程を積極的に活用した教員養成の在り方について:現職教員の再教育の推進」(平成10年10月29日教育職員養成審議会第2次答申)
(※8)「教員の資質能力の向上方策等について」(昭和62年12月18日教育職員養成審議会答申)
(※9)例えば、私立大学の教育学部は、平成18年度から25年度の間に20校で新設されている。(全国大学一覧)
(※10)「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(平成18年7月11日中央教育審議会答申)
(※11)「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(平成18年7月11日中央教育審議会答申)※再掲
(※12)平成25年現在、国立19校、私立6校の25校が、20都道府県で設置されている。
(※13)岐阜県教育委員会調べ 「修士レベルの教員養成課程の改善に関するワーキンググループ」第1回会議資料(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/093/093_2/shiryo/1329055.htm)
(※14)教職大学院を修了した学部新卒学生の教員(臨時的任用者を含む)への就職率は、平成24年で92.7%、23年で90.4%、22年で90.0%となっている(文部科学省調べ)。
(※15)「今後の国立の教員養成系大学・学部の在り方について」(平成13年11月22日国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会報告書)
(※16)「大学院に専攻ごとに置くものとする教員の数について定める件」(平成11年文部省告示第175号)
(※17)教員就職率(平成24年3月)は、国立の教員養成系修士課程54%、教職大学院93%となっている。
(※18)人材養成像については、教職大学院の創設を提言している「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(平成18年7月11日中央教育審議会答申)を引き継いでいる。
(※19)京都府では、京都教育大学が、京都産業大学・京都女子大学・同志社大学・同志社女子大学・佛教大学・立命館大学・龍谷大学との連合で、教職大学院を設置している。
(※20)「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(平成18年7月11日中央教育審議会答申)※再掲
(※21)「専門職大学院に関し必要な事項について定める件」(平成15年文部科学省告示第53号)第8条第1項において、次の各号に掲げる教育について授業科目を開設するものとされている。1 教育課程の編成及び実施に関する領域 2 教科等の実践的な指導方法に関する領域 3 生徒指導及び教育相談に関する領域 4 学級経営及び学校経営に関する領域 5 学校教育と教員の在り方に関する領域
(※22)「教育振興基本計画」(平成25年6月14日閣議決定)
(※23)公正で透明性の高い選抜により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に任期付の雇用形態で自立した研究者として経験を積むことができる仕組み(「第四期科学技術基本計画」平成23年8月19日閣議決定 (https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/main5_a4.htm)
(※24)実務家教員は、「専門職大学院に関し必要な事項について定める件」(平成15年文部科学省告示第53号)では、小学校等の教員としての実務の経験を有する者を中心として構成されるものと定められ、平成18年中央教育審議会答申では、教諭の場合、おおむね20年程度の経験が必要と示されている
(※25)「専門職大学院に関し必要な事項について定める件」(平成15年文部科学省告示第53号)では、専門職大学院の必要専任教員のうちおおむね3割以上は、実務家教員とすることとされているが、教職大学院においては、実務経験を有する者の役割がより重要であることから、おおむね4割以上とされている。

(別添) 専修免許状の取得における実践的科目のイメージ

1.実践的科目の概要

○ 研究科において学んでいる特定の分野についての専門的内容と、学校での実際の指導とをつなぐ4から6単位分の実践的科目は、
・主体的に学校教育活動に参画するインターンシップや学校現場をフィールドとする活動と
・その活動について、研究科において事前の指導や事後の省察などを行うこと
を組み合わせて構成することが考えられる。

○ 学校における実践的な活動の前に、学生の教員への志望の度合いや適性などについて面談などを通じて把握し、教員への志望の十分な意思や適性を持った学生を参画させる。あわせて、学校の児童生徒の実態や教育課程、学校課題等を理解させるとともに、学生が専攻分野において研究しているそれぞれの専門性を生かした実践的指導力を養成するための意図的計画的な事前準備を行う。
 実践的な活動の終了後には、プロセスを振り返り、その実践研究の成果を言語化する作業を行うため、「教職実践研究報告書」(仮称)を作成する。この報告書については、学部段階での教育実習記録のレベルではなく、実践を研究的に振り返るものである必要がある。そのため、実践的な活動に参加した学生や指導した教員等が集まる中で、学生が報告書の内容について発表し、教員や他の学生との間で実践を検討し合う機会を設けることも意義は大きい。

○ 学校における実践的な活動と、事前や事後の指導等については、それぞれ別の科目として開講することや、一つの科目の中にこれらの内容を盛り込んで開講することが考えられる。

2.実践的科目の内容

(1)インターンシップ

a.内容
○ 教員として課題を解決していく力などを身につけるため、学生が学校教育活動に主体的に参画しながら実践研究を行う。そこでは、教科指導や学級経営、その他の校務分掌などに全般的に参画して実践を行う形態や、教科指導に特化して特定の単元におけるカリキュラム改善について実践を行う形態など様々なものが考えられる。

○ 研究科の学生は、学部に在籍しているときに一種免許状を取得するために既に教育実習を行っているため、学校における実践的活動は、学部に在籍していた際に履修した教育実習よりも高いレベルのものにする必要があり、具体的には、学校の実態などを踏まえて、自らが主体的にテーマを設定するなどの工夫が必要である。

b.日程
○ 学校における年間の流れを理解することや、児童生徒と長期に関わることで成長過程を実感したり、学習指導や生徒指導の成果や課題を認識したりすることが可能となることから、半期や年間を通して週に1日又は半日程度実施し、合計で10日間から20日間程度行うことが考えられる。
 又は、それぞれの自己課題や専門性、学校現場の状況を踏まえて、数週間にわたり集中的に行うことも考えられる。

(2)学校現場をフィールドとする活動

a.内容
○ カリキュラム開発を推進する授業研究力などを身につけるため、特定の教科の授業改善について、先導的な取組を行っている学校への訪問や、学校における研究授業の指導案や教材の作成過程への参画、研究授業やその後の評価作業への参画、新たな授業づくりのプラン作成などへの参画と大学院における事例研究等を組み合わせて行う。

b.日程
○ 研究授業の指導案や教材などの作成に主体的に参画するため、数日間にわたり集中的に学校に訪問することや、大学院での授業などを挟みながら断続的に先導的な取組をしている学校を訪問することなどが考えられる。
また、複数のテーマを扱う場合には、それぞれのテーマに沿って異なる学校に訪問することもありえる。

3.指導体制

○ 学生が所属する研究科の教員とともに、教職専門の教員(例えば各大学の教職センターに所属する教員など)が協働して行う。その際、大学間で連携を図り、指導体制を構築することが有益である。例えば、教職大学院を設置している大学が中心となって、近隣の国公私立大学と連携して、学生に対する指導やインターンシップを行う学校との調整などを協働で実施することも考えられる。

4.評価

○ 学校における実践的活動の状況を踏まえて、学生が作成した「教職実践研究報告書」(仮称)によって行う。


(参考)

(1)年間を通じたインターンシップの場合の科目構成と単位数のモデル例

 教職実践に関する科目(仮称) 

 配当年次のイメージ

 単位数

 1年次前期

 1年次後期

 教職実践研究(仮称)
(大学院における授業科目)

・学生の教員志望の意思や適性を判断
・学校の実態把握・課題分析

・授業実施のための教科内容構成など理論と実践を架橋する内容

 ・インターンシップの振返り
・課題解決の方策の検討
・教職実践研究報告書(仮称)の作成

2

  インターンシップ
(学校における活動)

10日間~20日間
 (通年または半年の週1回程度に分散したインターンシップ
又は数週間程度の集中的なインターンシップ)

2~4

※インターンシップについては、1年次の後期から2年次の前期にかけて行うことも考えられる。


(2)年間を通じた学校現場をフィールドとする活動の場合の科目構成と単位数のモデル例

 教職実践に関する科目(仮称)

 配当年次のイメージ

 単位数

1年次前期

1年次後期 

 

・学生の教職への志望の意思や適性を判断
・授業実施のための教科内容構成など理論と実践を架橋する内容
・学校訪問、指導案作成への参画

・学校訪問等の振返り
・指導案の作成、学校での実践
・教職実践研究報告書(仮称)の作成

 4~6

お問合せ先

総合教育政策局教育人材政策課

改革推進係

総合教育政策局教育人材政策課教員養成企画室

電話番号:03-5253-4111

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