資料1 教職大学院の教育課程の見直しにかかる論点整理案

 教職大学院における教育課程の今後の在り方について、中央教育審議会や本ワーキンググループにおける議論を踏まえ、四つの主要な論点を整理すると以下のとおりである。

 論点1 教職大学院で養成する人材像について

○ 教職大学院を発展・拡充させ、新たな機能を追加するに当たっては、教職大学院でどのように人材を養成していくのか議論が必要。

(考え方)
○ 教員養成系の修士課程が高度専門職業人としての教員の養成機能を十分果たしてこなかったなかで、平成19年度に、高度専門職業人養成に特化した専門職大学院制度を活用して教職大学院制度が創設された。
 教職大学院制度は、地域の教育委員会等との密接な連携のもとで、力量ある教員の養成のためのモデルを制度的に提示することを意図しており、1.実践的な指導力・展開力を有する新人教員の養成(学部新卒者を対象)、2.指導的役割を果たし得るスクールリーダーの養成(現職教員を対象)の二つを目的・機能としている。

○ 教職大学院がこれまで果たしてきた高度専門職業人養成のモデル的役割を更に発展させるため、昨年8月の中教審答申においては、知識・技能を活用する学習活動や課題探究型の学習、協働的な学びなどをデザインできる指導力などの新たな学びを展開できる実践的指導力、情報化や特別支援教育などの新たな課題に適応できる指導力を持つ教員を養成することが提言された。

○ 教職大学院においては、教育委員会や学生などのデマンドサイドのニーズを踏まえながら、マネジメント・生徒指導・特別支援教育・授業指導などの高度の専門性を持ち、かつ教育活動全体を俯瞰(ふかん)しつつ幅広い分野で他の教員を指導できる中核的な教員を養成していくことが求められている。このような観点から考えると、具体的には、以下のような人材についても、教職大学院で養成していくと考えられるのではないか。
 ・ 現職教員については、これまで担ってきた学校経営の中核となる管理職(候補者)養成などの機能に加え、指導主事、学校における指導教諭・研修主任など、研修や授業研究等において中心的役割を担う教員の養成。
 ・ ストレートマスターについては、これまで担ってきた機能に加え、実践的な授業力の高い教員、特別支援教育など学校現場で新たに必要となる対応できる資質能力を有する教員の養成。

(留意点)
○ 上記の方向性で検討するに当たっては、学校教育が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って幅広く指導性を発揮できる教員の養成を目的とすることが不可欠であり、個別分野の学問的知識・能力を過度に重視するような教育課程が組まれることによって学校現場での実践力・応用力を重視した教職大学院制度の創設趣旨が損なわれることのないよう、十分に留意する必要がある。

○ 幅広い専門性を持つ人材養成を行うことにより、教職大学院が養成する教員の資質が変質したり、これまで一定の成果を上げてきている教職大学院の高い教育レベルが低下したりしないように注意する必要がある。

 論点2 教職大学院の教育課程の見直しについて

○ 教職大学院が高度専門職業人養成のモデルとして一定の成果を出してきたことを踏まえ、今回、新たな専門性の養成を含めた見直しをする狙いをどのように整理するのか。

○ 教職大学院で授業指導に関するコース等を設ける場合、これまでの教育課程の趣旨と体系性が損なわれないよう、どのような教育課程の設定にするのか。

○ 授業指導以外にも特別支援教育などの様々な専門的なコース等を設けることにより、学校教育が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って幅広く指導性を発揮できる教員の養成も目的に加える場合、実践的な教育を重視した教職大学院の趣旨や体系的な教育課程は担保できるのか。

(考え方)
○ これまでの教職大学院においては、特定の分野に細分化・固定化せず、教員として共通に修得されるべき資質能力を重視して、個人の専門を超え、俯瞰(ふかん)的なものの見方ができる力を養成する共通科目が全体の教育課程の中心として、修得単位の半数を占めるように設定されてきた。

○ 特に、現職教員については、課程修了後に、学校内又は教育委員会等における研修や指導助言等の面で中心的な役割を果たし得るようなコース設定とする必要がある。

(留意点)
○ 専門科目は、コースの教育目的に基づいて、専門職大学院の教育課程にふさわしい事例研究等を重視した講義・演習科目を適切に配置する必要がある。特に授業指導に関するコース等を設ける場合は、従来の教科教育専攻における教科ごとの教育をそのまま行うのではなく、新学習指導要領の目的である思考力・判断力・表現力等を育成する能動的学習(アクティブ・ラーニング)に対応した指導法や教材の開発に積極的に取り組み、学校現場の実践に直接生かすことのできる内容とすべきではないか。

○ 教職大学院は、個別の学問的知識・能力を過度に重視することなく、専門の枠を超えた幅広い指導が可能な教員養成を目的とするものであるため、従来の修士課程から教職大学院に移行する場合には、細分化された教科教育・教科専門の在り方の見直しが不可欠ではないか。

○ 授業指導に関するコース等を設ける場合には、小学校・中学校・高等学校等の学校種や教科ごとの違いをどう考えるか。

○ 教職大学院において特別支援教育に関するコース等を設ける場合には、既存の修士課程に設ける場合と教育課程上、どのような違いがあるのか明確にする必要がある。

○ 教職大学院において開講することが難しい科目については、教育学研究科はもとより、他の学部・研究科との連携、さらには必要に応じ大学を越えた連携も視野に入れつつ履修を可能にすることも考えられる。

 論点3 共通に開設すべき授業科目(いわゆる「共通5領域」)について

○ 必修とする授業科目や単位数は、コース等の目的に応じて適切に設定できるように配慮することが必要か。

○ 現行の共通5領域について、見直すべき領域、新たに追加すべき領域はあるのか議論が必要である。その際、各大学の判断により独自に追加すべきなのか、一律に設置基準に定めて授業科目の開講を義務づけるべきなのかについても議論が必要である。

○ 個々の学生の教職経験や能力が異なる現職教員については、ストレートマスターとは異なり、必要な領域を選択的に履修することを可能にして必ずしもすべての領域を履修することを義務づけないことや、必修とする単位数の合計を減らすことなどの取扱いをすることが必要か。

(考え方)
○ 平成18年の中教審答申では、学校の小規模化等の中で、所属する学校内のみならず広く地域単位で中核的な役割を担う教員が求められており、また「総合的な学習の時間」への対応など、教科の枠を超えて教科指導を総合的に理解する必要が生じていることから、幅広い分野において指導性を発揮するスクールリーダーたる教員を養成するため、どのようなコース・選択をとる場合においても、すべての学生が共通に履修すべき授業科目群を設定し、その基本的要素を共通的に定めておく必要があるとされた。

○ この際、共通に踏まえるべき教育課程の枠組みの軸として、教職大学院で育成すべき資質は単に教員個人に還元されるべき資質でなく、各領域で修得した知識・技能を更に学校現場の中核的・指導的な教員として、広く地域全体の教育力の組織的な改善・充実に活用できる資質の育成を含むことであることが示された。

○ また、昨年8月の中教審答申では、様々な学校現場のニーズにも対応できるよう、共通5領域の見直しを図り、学校現場での実践に資する教科教育を行うものや、グローバル化対応、特別支援教育、ICT活用、学校経営など特定分野の養成に特化するものも含め、教職大学院の制度に取り込むべきとされている。

(留意点)
○ 共通に開設すべき授業科目が、力量ある教員養成のための基盤となる包括的・体系的な視点を養うために設けられたという制度趣旨を踏まえ、俯瞰(ふかん)的な学修が担保されるよう、引き続き全領域を必ず履修することが望ましいのではないか。

○ 現職教員については、個々の学生の教職経験や能力が異なることから、より柔軟な履修を可能にすることも考えられるが、共通5領域が設けられた趣旨が損なわれないよう留意する必要があり、どの程度まで認めるべきなのかについて十分な議論が必要ではないか。また、仮に柔軟な履修を認める場合は、具体の判断基準を明確に設定することが求められる。

○ 特別支援教育については、教員として育成すべき重要な資質であり、教職大学院での積極的な対応が期待されることから、地域の教育事情を踏まえた各大学院の判断により、共通5領域に加えて必修科目として開設することや、特別支援教育コースを設けるなどして、専門科目として開設することが考えられる。

 論点4 現職教員とストレートマスターの履修形態について

○ 現職教員とストレートマスターでは、共通に養成する能力を明確に整理する必要があるが、各大学院の資源や特色にあわせて、履修形態を別々に設定することも考えられる。

(考え方)
○ 現職教員とストレートマスターが共に学ぶことについては、学習意欲の向上やグループ討議の活性化など、お互い良い意味での刺激を受けてきており、一定の効果が認められることを踏まえ、今後も有効に活用すべきである。

○ ただし、教職大学院が設置されてからの5年間の実績から考えると、現職教員とストレートマスターとでは、それまでの各々の教職経験の有無やバックグラウンドの違いから、必要とされる教育内容や水準が異なることも多く、同一の教育課程にすることによって授業運営や教育課程編成等の面で課題が生じていることが認識されつつある。

(留意点)
○ 教職大学院の趣旨や教育課程の一貫性が損なわれないよう、現職教員とストレートマスターで共通して養成する資質能力を明確に整理しておくことが必要なのではないか。

○ 個々の学生のこれまでの教職経験の有無・長さやニーズは様々であることから、共通科目・選択科目ともに柔軟なカリキュラム構成とし、入学当初からのきめ細かな履修指導を重視する必要があるのではないか。

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総合教育政策局教育人材政策課教員養成企画室

(総合教育政策局教育人材政策課教員養成企画室)