平成23年12月9日
特別支援学校等における医療的ケアの実施に関する検討会議
介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律による社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正に伴い、平成24年4月より一定の研修を受けた介護職員等は一定の条件の下にたんの吸引等の医療的ケアができるようになることを受け、これまで実質的違法性阻却の考え方に基づいて医療的ケアを実施してきた特別支援学校の教員についても、制度上実施することが可能となる。
本検討会議は、これまでの特別支援学校における医療的ケアの実施体制を、新制度の下に円滑に移行させ、安全かつ適切な医療的ケアを提供することを目的に、対象となる幼児児童生徒(以下「児童生徒等」という。)の実態や特別支援学校の実施経験等を踏まえ、新制度下において特別支援学校が医療的ケアを行うに当たっての基本的な考え方や体制整備を図る上で留意すべき点などについて整理を行った。また、今回の制度が幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校(以下「小中学校等」という。)においても適用されることを考慮し、特別支援学校での実施経験等を踏まえ、小中学校等において医療的ケアを実施する際に留意すべき点についても示した。
本検討会議としては、今後、特別支援学校及び小中学校等において、新制度を効果的に活用し、医療的ケアを必要とする児童生徒等の健康と安全を確保しつつ、障害のある児童生徒等の自立と社会参加に向けた教育が一層充実することを期待するものである。
たんの吸引や経管栄養は「医行為」と整理されており、医師又は看護師などの免許を持たない者が反復継続する意思をもって行うことは法律上禁止されてきた一方で、医療技術の進歩や在宅医療の普及を背景に、当時の盲・聾・養護学校の在籍者の中にも医療的ケアを必要とする児童生徒等が増加してきた。
このような状況に対し、文部科学省では、厚生労働省と各都道府県教育委員会の協力を得て、平成10年度から調査研究及びモデル事業を実施し、盲・聾・養護学校における医療ニーズの高い児童生徒等に対する教育・医療提供体制の在り方を探ってきた。モデル事業においては、教員がどこまでの行為を行い、看護師と教員がどのように連携すべきかといった点について検討が行われてきた。その結果、看護師が常駐し、看護師の具体的な指示の下に教員が一部行為を行う方式においては、医療安全が確保されるほか、授業の継続性の確保、登校日数の増加、児童生徒等と教員の信頼関係の向上等の意義が観察された。また、保護者が安心して児童生徒等を学校に通わせることができるようになるなど、保護者の負担の軽減効果も観察された。
こうしたモデル事業の成果を受け、平成16年には、厚生労働省の「在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律学的整理に関する研究(平成16年度厚生労働科学研究費補助事業)」において検討・整理を行い、その報告を受け、厚生労働省が「盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて」(平成16年10月20日医政発第1020008号厚生労働省医政局長通知)を発出した。当該通知においては、看護師が常駐すること、必要な研修を受けること等を条件とし、実質的違法性阻却の考え方に基づいて特別支援学校の教員がたんの吸引や経管栄養を行うことは「やむを得ない」とする考え方が示された。
これ以後、特別支援学校では看護師を中心としつつ、教員と看護師の連携による実施体制の整備が急速に進んできた。平成22年5月の調査によると、公立の特別支援学校には、医療的ケアを必要とする児童生徒等が7,306名(全在籍者の6.3%、文部科学省特別支援教育課調べ。)在籍しているが、これらの児童生徒等の医療的ケアに対応するため1,050名の看護師が配置されるとともに、3,772名の教員も看護師と連携しながら対応している状況である。
今般の改正により、一定の研修を受けた者が一定の条件の下にたんの吸引等を実施できる制度となる。制度改正の概要は以下のとおり。
なお、以下「特別支援学校における医療的ケア」及び「特別支援学校以外の学校における医療的ケア」とは、「特定行為」及び「特定行為」以外の学校で行われている医行為を指す。
特別支援学校におけるこれまでの医療的ケアは、看護師及び准看護師(以下「看護師等」という。)を中心としながら教員が看護師等と連携協力することによって行われてきた。医療的ケアを実施する場合には、看護師等が常駐し、教員は看護師等の具体的指導の下に行ってきた。また、特別支援学校を所管する教育委員会が域内の学校を総括的に管理する体制を構築するとともに、医師、看護師その他の医療関係者(以下「医師等」という。)とのバックアップ体制の整備も図ってきた。こうした対応により医療安全が確保されるとともに教育面の成果が確認され、保護者の心理的・身体的負担も軽減されてきている。
特別支援学校に在籍する児童生徒等の医療的ケアは、そもそも医師や看護師等でなければ対応できない行為が多い。特別支援学校で医療的ケアを必要とする児童生徒等は、障害が重度でかつ重複しており医療的ケアの実施や健康状態の管理に特別な配慮を要する者も多い。そのため教員がたんの吸引や経管栄養を実施するに当たっても、看護師等がいつでも対応できる環境を必要としてきた。また、最近の傾向として、児童生徒等に対する医療的ケアの内容が、より熟練を要し複雑化している状況にある。
こうしたことから、特別支援学校において医療的ケアを安全に実施するためには、児童生徒等の状態によって一定数の看護師等の配置が適切に行われることが重要である。
また、新制度においては、経管栄養を行う際のチューブ確認等は引き続き看護師等が行うものとされ、教員やそれ以外の者(以下「教員等」という。)が特定行為を行うに当たっては看護師等との定期的な連携も求められていることから、新制度において教員等が特定行為を行うに当たっても看護師等の関与が求められる。
以上のような特別支援学校における医療的ケア実施の経緯、対象とする児童生徒等の実態、新制度において必要とされる看護師等との連携協力を踏まえれば、特別支援学校において医療的ケアを実施する際には、次のような体制が必要であると考える。
(1)特別支援学校で医療的ケアを行う場合には、医療的ケアを必要とする児童生徒等の状態に応じ看護師等の適切な配置を行うとともに、看護師等を中心に教員等が連携協力して特定行為に当たること。なお、児童生徒等の状態に応じ、必ずしも看護師等が直接特定行為を行う必要がない場合であっても、看護師等による定期的な巡回や医師等といつでも相談できる体制を整備するなど医療安全を確保するための十分な措置を講じること。
(2)特別支援学校において認定特定行為業務従事者となる者は、医療安全を確実に確保するために、対象となる児童生徒等の障害の状態や行動の特性を把握し、信頼関係が築かれている必要があることから、特定の児童生徒等との関係性が十分ある教員が望ましいこと。また、教員以外の者について、例えば介助員等の介護職員についても、上記のような特定の児童生徒等との関係性が十分認められる場合には、これらの者が担当することも考えられること。
(3)教育委員会の総括的な管理体制の下に、特別支援学校において学校長を中心に組織的な体制を整備すること。また、医師等、保護者等との連携協力の下に体制整備を図ること。
特別支援学校において教員等が特定行為を行う場合には、以下のような体制の整備が必要である。
特別支援学校において特定行為を行う場合の実施体制の整備については、上記(1)から(5)に示したとおりであるが、特別支援学校の児童生徒等の特性と、特定行為が教育活動下において行われるものであることを考慮して、次の点に留意して実施することが必要である。
これまで小中学校等において医療的ケアを行う場合には、看護師等を配置することを中心として対応してきた。今回の制度改正により、特定行為については小中学校等においても一定の研修を受けた介護職員等が制度上実施することが可能となるが、介護職員等は職種を特定したものではないことから、小中学校等の教員等も一定の研修を受ければ特定行為の実施が可能となる。
他方で、小中学校等は特別支援学校に比べて、教員1人が担当する学級規模が大きいことや施設設備等の面でも差があるほか、小中学校等の教員は医療的ケアを必要とする児童生徒等以外の者についても日常の安全を確保することが求められている。また、学級に医療的ケアを必要とする児童生徒等が在籍しても、疾病や身体に係る特性に関する教員の知識等が十分とは言い難い面や、医療技術の進歩に伴い必要とされる医療的ケアが必ずしも軽微なものに限らない状態の場合がある。さらに、近年、社会の価値観の多様化や地域や家庭の教育力の低下、学習指導要領の改訂等への対応など、学校の業務が一層増加する中で、小中学校等の教員が児童生徒等と向き合う時間を確保し、本来の教育活動を十分行えるような環境整備を確保することが重要な課題として指摘されている。
以上のことから、小中学校等において医療的ケアを実施する場合には、次のような体制整備が必要である。
(1)小中学校等においては、3.2.(4)2.にあるような学校と保護者との連携協力を前提に、原則として看護師等を配置又は活用しながら、主として看護師等が医療的ケアに当たり、教員等がバックアップする体制が望ましいこと。
(2)児童生徒等が必要とする特定行為が軽微なものでかつ実施の頻度も少ない場合には、介助員等の介護職員について、主治医等の意見を踏まえつつ、特定の児童生徒等との関係性が十分認められた上で、その者が特定行為を実施し看護師等が巡回する体制が考えられること。
(3)教育委員会の総括的な管理体制の下に、各学校において学校長を中心に組織的な体制を整備すること。また、医師等、保護者等との連携協力の下に体制整備を図ること。
特定行為以外の医行為については、看護師等が行うものであるが、看護師等の管理下においては、教員等が例えば酸素吸入等を行っている児童生徒等の状態を見守ることや機械器具の準備や装着を手伝うことなどが考えられる。このような対応を行う場合には、見守り等の際に考えられる状態の変化に対してどのような対応をとるか、あらかじめ学校内で決定しておくことが必要である。
他方で、学校が教育活動を実践する場であることを考慮すれば、特定行為以外の医行為への対応には限界があることに留意する必要がある。また、医行為のリスクを考慮する際には個別性を十分踏まえることが重要であり、一概にどこまでの行為であれば安全であるのかを示すことは適当でない。
したがって、特定行為以外の医行為については、教育委員会の指導の下に、基本的に個々の学校において、個々の児童生徒等の状態に照らしてその安全性を考慮しながら、対応可能性を検討することが重要である。その際には主治医又は指導医、学校医や学校配置の看護師等を含む学校関係者において慎重に判断することが求められる。
(1)一般に、学校に配置される看護師等は少数であり、非常勤職員として配置される場合も少なくない。特別支援学校においては、看護師等が教員等と協働しながら児童生徒等の健康と安全の確保のために働くスタッフとして自覚と責任を持てるよう、学校教育に対する研修の場を設けるとともに、職場環境を整備するなどの配慮をすることが必要である。
(2)都道府県等の教育委員会においては、特別支援学校で働く看護師等の専門性の向上を図るために、医療や看護技術についての研修及び看護師等が互いに意見を交換できる場を定期的に設けることが必要である。また、看護系大学や関係団体等においては、特別支援学校で働く看護師等を支えるため、医療的ケアに関する専門的な情報を広く提供することが期待される。
(3)各都道府県等において、特別支援学校における医療的ケアを必要とする児童生徒等が急増していることや、小中学校等における医療的ケアの実施は主として看護師等が担うことが望ましいことを踏まえれば、今後必要かつ十分な看護師等を各学校において配置するため、国においては必要な経費の確保が一層求められる。
※指導的な立場にある看護師を配置している事例として、各特別支援学校に配置されている看護師に対する相談指導及び連絡調整を担当する看護師を県教育委員会に配置している例がある(神奈川県)。また、東京都では都で採用した常勤の看護師を都立肢体不自由特別支援学校に配置し、非常勤の看護師と連携協力して対応している(東京都)。
初等中等教育局特別支援教育課