「きめ細かい調査」の基本的な枠組み

    平成24年1月27日
    全国的な学力調査に関する専門家会議

 1.きめ細かい調査の目的・意義

○ 全国学力・学習状況調査については、平成23年3月に取りまとめられた「平成23年度以降の全国的な学力調査の在り方に関する検討のまとめ」(全国的な学力調査の在り方等の検討に関する専門家会議)において、当面、抽出調査及び希望利用方式で実施するとともに、少なくとも数年に一度は「きめ細かい調査」の実施が必要と提言されている。

(「検討のまとめ」の提言概要)

  • 3年間の悉皆調査の結果、児童生徒等の学力等の状況について信頼性の高いデータが蓄積され、教育に関する検証改善サイクルの構築も着実に進んでいることを踏まえ、当面、平成22年度調査と同様に、公立の都道府県別の結果までを統計上有意なレベルで把握できる抽出調査と希望利用方式の併用を継続する。
  • それとともに、数年に一度は、検証改善サイクルの構築に向け、最新のデータを得たり、国として教育格差等の状況を把握・分析し、関連施策の検証を行うため、市町村、学校等の状況も把握することが可能なきめ細かい調査を実施することについても検討する必要がある。

○ この提言も踏まえ、きめ細かい調査については、以下の観点から実施することが必要である。

  1. 市町村、学校等における検証改善サイクル構築のための信頼性の高いデータを蓄積する。
  2. 国として市町村、学校レベルの教育格差等の状況を把握し、施策の検証・策定に生かす。
  3. 抽出調査の精度の維持・向上のために最新のデータを得る。

(1.市町村、学校等における検証改善サイクル構築)

○ すべての市町村、学校等が、全国的な状況との関係における学力に関する状況、教育条件の整備状況、児童生徒の学習環境や家庭における生活状況等を知り、その特徴や課題などを把握することができる機会を提供することは重要である。

○ 抽出調査では、市町村別や全学校別の結果を統計上得ることは困難であることから、きめ細かい調査により、市町村、学校等が、広い視野に立って、主体的に教育施策や指導方法等の改善を行うことができるようになり、検証改善サイクルの構築が進むと考えられる。

(2.国として市町村、学校レベルの状況把握、施策の検証・策定)

○ 現行の抽出調査は、都道府県が教職員の給与費を負担するとともに、広域での人事を行うなどの役割と責任を有していることなどに鑑み、公立の都道府県別の結果までを統計上有意なレベルで把握できるように設計している。

○ しかし、小学校及び中学校の設置者のほとんどは市町村教育委員会であり、市町村によって教育施策が異なり、市町村や学校ごとに指導方法が異なることから、数年に一度は、国としても義務教育の機会均等とその水準の維持向上のため、市町村、学校レベルで教育格差等の状況や教育施策の効果等をきめ細かく把握・分析し、教育施策の検証・策定に生かすことが必要と考えられる。

○ そのためには、限られた時間に同一の内容で一斉に調査を実施するだけでなく、経年変化分析や経済的な面も含めた教育格差等のきめ細かい把握・分析が可能となるような調査を一部追加で実施したり、質問紙を複数化するなどの工夫が必要である。

(3.抽出調査の精度の維持・向上)

○ 現行の抽出調査は、悉皆調査での最新データである平成21年度調査の結果等を基に都道府県別の結果までを統計上有意なレベルで把握できるように設計しており、抽出調査の精度の維持・向上のためには、少なくとも数年に一度は、最新のデータを取得することが必要である。

○ 例えば、各都道府県ごとの抽出率は、平成21年度調査の各都道府県内の学校の結果のばらつきなどを基に算出しているが、ばらつきが平成21年度調査以降変化した場合には、設定している抽出率が実態に合わないものとなり、抽出数が足りずに統計的に有意な比較ができなくなったり、必要以上に抽出率が高いという状況になることがある。このため、少なくとも数年に一度は最新のデータを取得し、最適な抽出率を設定することが必要である。

2.きめ細かい調査の内容

(1)調査方式

○ すべての市町村や学校等の状況を把握することが可能なきめ細かい調査を実施するにあたっては、従来の調査と同様、各学校ごとに調査対象となる児童生徒を抽出して実施することは、各学校における取扱いや児童生徒へのフィードバック等の観点から困難であるため、対象学年の全児童生徒を対象とすることが適当である。

○ また、きめ細かい調査の目的を達成するためには、経年変化分析や経済的な面も含めた教育格差等のきめ細かい把握・分析が可能となるような調査を同時又は事後に一部追加で実施するなど従来の調査と異なる新たな調査として行うことが必要である。

○ これにより、追加分析の結果について、従前よりも、きめ細かく、かつ早期に、教育委員会、学校等にフィードバックすることが可能となる。

(2)調査内容

○ きめ細かい調査においては、その目的を達成するため、市町村、学校レベルの最新のデータを得るだけでなく、1.学力の把握・分析、2.学力に影響を与える要因の把握・分析、3.教育施策の検証・改善、4.効果的な指導方法の把握・分析をきめ細かく行い、国の教育施策の検証・策定や都道府県、市町村、学校における教育改善に資するようにすることが必要である。

○ 平成25年度に予定されている調査においては、具体的に以下のような取組を実施することが考えられる。

1.学力の把握・分析

  • 経年変化分析に資するような問題設定の更なる工夫や幅広い領域の調査の実施(非公開問題を用いた調査を追加することも考えられる。)
  • 無解答の理由や誤答に至った考え方等の把握・分析
  • 市町村間、大都市と農村・へき地間、学校間の格差の把握・分析
  • 東日本大震災による影響の把握

2.学力に影響を与える要因の把握・分析

  • 家庭の経済状況等による教育格差の状況の更なる把握・分析

3.教育施策の検証・改善

  • 少人数学級や教職員加配等の国の教育施策の検証・改善
  • 教育委員会等における効果のある施策等の把握・分析

4.効果的な指導方法の把握・分析

  • 明らかになった成果や課題のきめ細かい把握・分析
  • 知識・技能の活用能力を高めるための学校における効果的な指導方法の把握・分析

(3)実施頻度

○ 平成23年3月の専門家会議の検討のまとめにおいて、「少なくとも数年に一度」はきめ細かい調査を実施する必要があると提言されている。

○ きめ細かい調査の実施頻度については、検証改善サイクルの構築という観点から市町村や学校のニーズ、抽出調査の精度の維持、きめ細かい把握・分析及び教育現場へのフィードバックに必要な体制及び期間、発達段階に応じた学力等の状況の変化の分析、平成24年度から追加する理科の実施頻度などを考慮して検討することが必要である。

3.配慮事項

(1)調査の実施にあたってのきめ細かな配慮

○ 調査結果については、本調査の目的をより良く達成するため、国において多面的な分析を行い、教育施策の検証・策定に生かすとともに、教育委員会、学校等における教育施策や指導方法等の検証・改善のために一層の活用を図ることが重要である。

○ また、調査結果の公表については、従来から、教育活動の取組の状況や調査結果の分析を踏まえた今後の改善方策を併せて示すなど序列化や過度な競争につながらないようにすることや、各児童生徒の個人情報の保護との関係等について十分配慮しながら、保護者や地域住民に対して、各教育委員会や学校が説明責任を果たしていくこととしてきた。このような考え方は極めて重要であり、引き続き維持することが必要である。

○ すべての市町村、学校等の状況を把握するきめ細かい調査の実施にあたっては、これまで以上に調査結果の取扱いに関するきめ細かな配慮が求められ、調査目的に沿った適切な取扱いを徹底することが必要である。

○ このため、国においては、きめ細かい調査の目的や調査設計の考え方について、教育委員会や学校等の教育現場や保護者等に十分に説明を行い、理解が得られるよう努めることが重要である。

(2)平成25年度以降のきめ細かい調査

○ 平成25年度に予定されているきめ細かい調査の基本的枠組みについては上記のとおりであるが、引き続き都道府県や市町村等各方面からの意見や評価を十分に踏まえ、絶えず見直しを行いながら、より良い調査となるよう努めていくべきである。

○ その際、経年変化分析や幅広い領域の多角的な側面からの測定により資する調査となるよう、最新の調査理論や調査技術を駆使した新しい調査方式の研究開発を行うとともに、地方独自調査等との効果的な連携について検討を進め、それらの成果をきめ細かい調査に反映していくことが重要である。あわせて、教育課程実施状況調査等の国が実施している他の調査と適切な役割分担のもとに組み合わせて実施することにより、全体として目的の実現を図ることが必要である。また、きめ細かい調査の発展にあわせて、調査の実施・分析を担う人材の育成に取り組むことも期待される。

 

(参考1)「平成23年度以降の全国的な学力調査の在り方に関する検討のまとめ」(平成23年3月)抜粋

4.調査方式
  「なお、検証改善サイクルの構築に向けた信頼性の高いデータの蓄積の観点からは、少なくとも数年に一度は、市町村や学校においても、それまで蓄積されたデータに加え、最新のデータが得られるようにする必要があると考えられる。」
  「国として教育格差等の状況を把握・分析し、関連する施策の検証を行うとともに、教育委員会等や学校が行う教育改善に資するために、数年に一度は、市町村、学校等の状況も把握することが可能なきめ細かい調査を実施することについても検討する必要がある。」

 

(参考2)全国学力・学習状況調査の目的

○義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。
○そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。
○学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる。

(資料1)全国的な学力調査に関する専門家会議について

平成23年8月17日
初等中等教育局長決定

1.設置の趣旨
   全国的な学力調査の結果を活用して、教育及び教育施策の成果や課題等を検証し、その改善を図るため、調査の実施方法や結果の専門的な分析及び活用の推進方策等について、専門家による検討を行う。

2.専門家会議において取扱う事項
(1)全国的な学力調査の実施に係る検討について
(2)調査結果の専門的な分析に係る検討について
(3)調査結果の活用に関する取組の推進について
(4)その他

3.実施方法
(1)別紙の学識経験者等の協力を得て、上記の意見交換等を行う。
(2)本専門家会議のもとに、ワーキンググループを置くことができる。
(3)必要に応じて、別紙以外の関係者にも協力を求めることができる。

4.実施期間
  平成23年8月17日から平成25年3月31日とする。

5.その他
  この専門家会議に関する庶務は、初等中等教育局参事官付において行う。

 (別紙)全国的な学力調査に関する専門家会議委員

【50音順】

 

相川  敬

日本PTA全国協議会会長

座長代理

荒井 克弘

独立行政法人大学入試センター試験・研究副統括官、
入学者選抜研究機構長

 

大津 起夫

独立行政法人大学入試センター教授

 

小川 正賢

東京理科大学大学院科学教育研究科長

座長

梶田 叡一

環太平洋大学長

 

久保田靖明

東京都港区立高松中学校長

 

柴山  直 

東北大学大学院教育学研究科教授

 

清水 静海 

帝京大学文学部教育学科教授

 

清水 美憲 

筑波大学人間系教授

 

髙木まさき

横浜国立大学教育人間科学部教授

 

田中 博之

早稲田大学大学院教職研究科教授

 

田村 哲夫

学校法人渋谷教育学園理事長、渋谷幕張中学・高等学校長

 

土屋 隆裕  

統計数理研究所データ科学研究系准教授

 

野嶋栄一郎  

早稲田大学人間科学学術院教授

 

福田 幸男  

横浜国立大学教育人間科学部教授

 

堀竹  充  

東京都新宿区立津久戸小学校長

 

前島 富雄  

埼玉県教育委員会教育長

 

耳塚 寛明  

お茶の水女子大学理事・副学長

 

山崎 博敏  

広島大学大学院教育学研究科教授

(資料2) 分析・活用等ワーキンググループの設置について

 平成23年8月24日
全国的な学力調査に関する専門家会議決定

1.趣旨

   「全国的な学力調査に関する専門家会議」における,調査結果の更なる専門的な分析,調査結果の分析・活用の推進のための方策等の検討を行うため,専門家会議のもとに「分析・活用等ワーキンググループ」を設置する。

2.構成員

 

大津 起夫

独立行政法人大学入試センター教授

 

柴山  直  

東北大学大学院教育学研究科教授

 

田中 博之  

早稲田大学大学院教職研究科教授

 

土屋 隆裕  

統計数理研究所データ科学研究系准教授

 

野嶋栄一郎  

早稲田大学人間科学学術院教授

主査代理 

福田 幸男  

横浜国立大学教育人間科学部教授

主査 

耳塚 寛明  

お茶の水女子大学理事・副学長

 

山崎 博敏

広島大学大学院教育学研究科教授

 

吉村  宰  

長崎大学アドミッションセンター准教授

 3.その他

   座長及び座長代理は,ワーキンググループの会議に参加できる。

お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)