暴力行為のない学校づくり研究会(平成22年度)(第1回) 議事要旨

1.日時

平成22年6月25日(金曜日)13時30分から15時30分

2.場所

旧文部科学省庁舎4階第4会議室

3.議題

  1. 「暴力行為のない学校づくり」について
  2. 自由討議

4.出席者

委員

尾木座長、桶谷委員、木村委員、佐々木委員、筒井委員、中村委員、西山委員、萩原委員、三坂委員

文部科学省

磯谷児童生徒課長、岸田生徒指導室長、井上児童生徒課課長補佐 他

5.議事要旨

(1)座長に尾木委員(言語教育文化研究所代表理事)が選任された。

(2)議事の取扱いについて了承された。

(3)各委員から挨拶があった。

(4)事務局から資料について説明があり、その後討議が行われた。

【委員】この問題は、質の変化があることについて具体的に検討していかなければならない。学校で特に大きな問題行動がないように見えた子が何かのきっかけでいきなりの暴力に及んでいる。そのような暴力がどうして生まれてきているのかというところは、きちんと事例を見ながら分析していく必要があるのではないかと思っている。

【委員】暴力行為が小学校段階に降りてきている。その背景には、家庭の教育力の低下、親がきちんとしつけができていないことがある。就学前の段階で基本的な生活規律のある習慣がなおざりにされている。親も忙しさのあまり、幼児期にたっぷりと愛情をかけて育てられず、基本的な信頼関係、愛着関係が落ち着かない子どもが非常に広がりを見せている。小学校の低学年での子どもたちの暴力という問題を分析し、それに対応することが、その後の予防的な取り組みの重要なポイントになっていくのではないか。

【委員】昭和58年当時は全国的に中学校での暴力行為ということが全面に出ていて、小学校はそれほど深刻なことはなかったが現在につながるような萌芽はその当時既にあった。しかし、そうしたことが必ずしも十分に分析しきれなかった。今般の問題行動調査では、小・中学校での暴力行為がかなり大きく増加、高等学校は微減だった。これについても、その背後にあるものを深めていく必要がある。

【委員】普段大人しい子が突然暴力をふるうという質の変化がある。昭和57~58年のころの暴力は、徒党化、集団化、序列性があり、ヒエラルキーが構成されていた。最近の子どもたちは、いわゆる暴走族も、いわゆる集団化というものが見られない。もう一つの問題としては、体制とか、教師とか権力に対して何かもやもやしたものをぶつけてるものがかつてあったが、そういうふうなものは今は全くない。5歳児ぐらいの子がボールが当たったらパニックを起こす。かつては謝りに行ったり、周りの子になだめられたりしておさまっていったものが、なかなかおさまらないような状況というのは見る。子どもの怒りにはやはり虐待が大きな関連があると思う。

【委員】今の小学校での暴力行為は、3つの傾向があると思っている。1つは、いわゆる頭のいい子がストレス発散のために暴力行為を起こす。特に弱いものいじめとか、学校の構造上の死角での暴力行為とか、そういう子どもに該当していくと思われる。2つ目は、自己中心的で解決を暴力で片づけるというふうに短絡的に考えてしまう子どもが多い。特に、子どもは暴力が平気な状況で行われている家庭や低学年のコミュニケーション能力がどちらかというと不足している子どもたちには多い。3つ目は、これは多分新たな質で、発達障害系でいわゆるキレる子どもが非常に増え、暴力をしている最中のことは記憶になく、落ち着いてみると自分は大変なことをしたということになる。いざキレると、すべてに当たり散らしてしまい、多分、今の学校では大きな問題になっている。 その子のためには、通級指導学級だとか、固定の特別支援学級だとか、たくさんあるが、通級指導をしても週に1回、その学級に行くだけで、残りの週4回は通常学級で生活するので、1日中、キレない状況でいるというのが非常に難しい。

【委員】最近の子どもたちは葛藤場面とかにものすごく弱い。すぐに葛藤回避の方向に流れてしまうという子どもの傾向が、今、随分ある。先生に拳を挙げてという暴力行為ではなく、別の何か物を燃やしたりとか、いろいろな形で暴力的なことをするということがある。いわゆる直接的な相手に向かわずに、もっと弱いところに向かって出るという暴力になる。それとキレる系に関しては、ノウハウがやっぱり学校現場で共有できていないというところが少しある。

【委員】葛藤回避という視点に立つと、暴力とは違う形の問題行動に結びつくケースというのもそこから出てくる。この委員会は暴力のない学校づくりではあるが、暴力のない健全な学校づくりという視点に立ち、今のようなその背後にある要因から出てくる多様な問題行動も視野に入れながら、できれば研究を深めていきたい。

【委員】今の中学生の暴力行為というのはたまたま集まった中で、だれか1人が突発的にやってしまい、それを周りの生徒が見ている。そこで指導する側からは、昔であればボス的な子どもを指導すれば、ある程度おさまったが今はそういったことができない。今は例えば休み時間に遊んでいると、遊びそのものが何か暴力化しているとよく言われる。プロレスごっこというよりも、非常に暴力的な遊びという傾向が広がっているのではないか。さらに、教員の指導体制の問題だが、校内暴力で苦労した年代の教員が、今どんどんと退職をしている。そのため教員そのものがそういう経験がない。そういった中で対応が不適切という場面がある。今後、教員の対応の在り方についても考えていく必要がある。

【委員】それからもう一つは、かつて成果を上げた指導が、今の新しい型の暴力行為に対してはなかなか成果が上がらないということで悩むというような事象も感じる。

【委員】昔と明らかに変わったと思うのが、保護者である。かつて成果を上げた指導は、まだ家庭の教育力があったから。昭和58年頃の中学校が荒れていた時代の子どもが、今、中高の保護者になっている。そういった保護者には、学校に対して不信感を持っている者もいる。そういう家庭に学校が介入することによって荒れた子どもの改善に結びついている。家庭の教育力を回復させるためには、家庭のお母さん、お父さんに対してのアプローチが非常に有効であると思う。

【委員】言葉にして自分の気持ちをあらわそうとしても、そもそも自分がどう感じていたかを再現できない、自分の気持ちをそもそも見つめられないし、言葉にできない。そのあたりが非常にこの間の大きな変化としてはある。それから先生の指導の不適切性の問題で、先生の言葉がけとか、生徒への対応が、どう考えてもちょっと行き過ぎなのではないか、生徒の心を全然考えていないのではないかというようなケースが増えている印象を持っている。

【委員】今の暴力行為の背景にある親たちにかかわるということは重要な1つの視点だと思う。そういう親たちが二極分解しているのではないか。1つは、全く子どもに構ってやっていない、十分に生活規律のある習慣ということをちゃんと見定めて対応していないという親たち。もう一つは、いわゆる教育熱心過ぎて、子どもたちを追い詰めて不安定な状況をつくり出している親たち。そのことが、できる子、いい子の問題行動の背景につながっているのではないかという点で、今後の生徒指導は、今一生懸命頑張っているように見える子どもに一声かけるということは予防的な意味で重要な指導であると思う。国語の言葉力、国語力というものが暴力行為との関連で、非行予防上、重要な意味を持ってくると思う。特に小学校の段階では、今のような視点で自分を表現するとか、他者を理解するという視点で言葉力というものを教科の中でも検討するべきではないか。さらに、非行の子どもたちは食生活も乱れていることがある。規範意識の低下につながっている源を家庭が生み出しているというのを非行の傾向の強い子どもたちとつき合ってきて非常に実感した。

【委員】これはこの委員会でこれから研究を進めていく中で、1つ重要な視点である。例えば学校教育の中では食育という枠で食育を考えていく。それから、先ほどの言葉が貧しいという問題については、今度の新しい学習指導要領の中では全部の教科、領域等の中に言語活動の充実ということが言われている。どこの学校でも校内研究の中で言語、私の言葉で言うと、私は言語化の力がその中心だと思っているが、今日ここで協議している暴力行為のない学校づくりということが、例えば国語の授業だとか、あるいは社会科の授業とか何かでやる言語活動の充実ということと密接に結びついているという発想があると授業が変わる。枠がとれていってこれからの新しい教育課程の編成、展開ということに結びついて、ここでご指摘されたことが組み込まれていき、それがこの研究会に近づけて言えば、暴力行為のない学校づくりということに結びつく。

【委員】教員というのは、授業を教えるとともに子ども同士をどう結びつけるか、どうつながりをつくっていくのか、子どもたちを塊ということではなくて、子ども集団をどんなふうに育成していくのかが重要。最近子どもの集団づくりというふうなものが、あまり論議されていない。ポイントは、子ども同士をどうつなげていくのかということではないか。生徒指導の一番の原点であります自己指導力をつけていくということもここに大きな関連がある。

【委員】少子化で兄弟でのけんかが減り、子どもたちの問題解決スキルがものすごく下がっている。ライフスキルとかと絡んではくるのだが、大きな問題を抱えている家庭のいろいろな背景を聞いていると、結局、その保護者の方も同様の問題を抱えていたなど何代も再生産されている傾向がある。将来の親になる世代である子どもたちにどういう親になるかというところも、学校教育の中で教えていかなくてはいけないのかなと最近強く感じている。

【委員】本校の生徒の様子を見ていると、中学時代も含めてあまり先生と話をしたことがないというお子さんが大変多い状況である。高校で先生に声をかけられてうれしいという子が非常に多い。多くの中堅校の高校生は同様の状況と思われる。それから、国語力を含めて、自分の思いを暴力とか、体で何かということではなくて、言葉としてあらわす力を身につけさせていくということは必要なのだろう。そのあたりのところもまたご議論の中に入れてほしい。

【委員】指導するときは敬語を使わせるということで、子どもたちも気持ちがクールダウンして、指導が入りやすくなったということは聞いている。そんなことも国語力という範疇に入るのではないか。

【委員】今の子どもたちは、自分の心の中にある感情を言葉として当てて出すということができないのかなと思う。それは、幼児期の遊び、あるいは小学校低学年での自然体験活動というのが不足しており、これが暴力行為と深いところでつながりがあるのではないか。

【委員】子どもたちは、みんなストレスを感じている。そのことと暴力行為というのはすごく結びつきが深いのではないか。子どもたちがストレスを感じる雰囲気が今の社会の中にあって、それをどうやって学校とか教室の中で緩和してあげられるか工夫として求められている。

【委員】今後の生徒指導の1つの大きな柱が小学校段階にある。しかも予防的・開発的な取組を低学年において、効果的に取り組んでいるような学校があれば、話を聞いてみたい。

【委員】中学校では、暴力行為が発生したときに出席停止が話題になる。そういった状況に陥った子どもたちをどう救っていくかというときの1つの方法論として、中学校として今後どのように考えていって、できることはないのかといったことも触れていただきたい。

【事務局】基本的に、暴力行為で現状困っている学校が、わりと短期的というか、短中期的にどうやってそういった状況を克服するかということを中心に考えていただきたい。そういった趣旨の検討の参考になるようなものをただ今の指摘も踏まえて、差し当たり少し検討する。先ほど小学校のお話というのがあったが、用意している視察の事例の中にもやはり小学校における取り組みもある。

【委員】キレるということやコミュニケーション能力不足とか、あと発達障害とかを指摘したが、暴力行為という1つの言葉になってしまうと、多分いろいろなイメージを持つ。精神的な課題を持つ子どもと、いわゆるいい子というふうな、動機も形も違う。現場としては、個々の子どもたちに対してはそれぞれどのように対応していくかというような、そういうマニュアル的なものに近づいてくるのかなと思う。

【事務局】私どもが考えていたのも、結局、個別の暴力行為ということが基本にあって、それの集積として秩序が乱れていったときに学校が、いわゆる荒れている状態ということになっているということがあったときにこれをどうするかということである。基本的には暴力行為のメカニズムというものを1つは研究していただき、それがどうしてこういうことになるのかということと、それと、全体としての秩序を保つためにどのような取り組みが必要なのかという視点の両方を見ていただくということが結果的には今の研究テーマだと必要になると思われる。どちらかというと一過性のものではなくて、日常継続している現象面としての暴力行為が多い学校があったとすれば、その学校をいかにして秩序のあるものに回復させるか。それで、その状態をいかにして維持するかということを今回は中心にご検討いただきたい。

【委員】今日のご発言を1つの切り口とし、次回以降、今日触れられなかった課題もかなりありますので、論議をまた深めていき、輪郭を明確にしていきたい。

閉会

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初等中等教育局児童生徒課生徒指導室