学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議 学校評価の在り方に関するワーキンググループ(第3回) 議事要旨

1.日時

平成23年9月28日水曜日10時~12時

2.場所

中央合同庁舎第7号館西館(金融庁)9階903号会議室

3.議題

  1. 有識者へのヒアリング(石坂委員、實吉委員、株式会社野村総合研究所社会システムコンサルティング部 妹尾 昌俊氏)(五十音順)
  2. その他

4.出席者

委員

天笠主査、石坂委員、木岡委員、小林委員、實吉委員、松尾委員、松下委員、三塚委員、柳澤委員

文部科学省

下間参事官、田中主任視学官、松浦企画官、廣野参事官補佐 他

5.議事要旨

事務局から資料についての説明があった後、石坂委員・實吉委員・妹尾株式会社野村総合研究所社会システムコンサルティング部主任研究員より、学校評価の現状と課題について発表があった。その概要は以下の通り。

【石坂委員】テーマ「東京都立日比谷高等学校における学校評価について」

都立学校は学校運営連絡協議会という協議会を設けている。基本的には1年に3回開催することになっており、その中で学校における課題を明確にし学校の改善に資するため、学校評価結果を協議会の協議資料として活用するということが学校評価の目的の1点目である。

学校評価の目的の2点目は、校長が当該年度の学校経営計画を見直し、次年度の学校経営計画を策定するときの有用な資料とすることである。

評価内容については、学校運営連絡協議会と並行して評価委員会を開催し、その評価委員会の委員が協議を行い原案を作成して、学校運営連絡協議会で決定するということになる。

今年度の学校経営計画を参考に配布させていただいているが、計画の策定については、学校評価結果を参考にして、分掌主任・学年主任ヒアリングを実施し意見を聴取する。分掌主任あるいは学年主任は必ず学校運営連絡協議会に参加しているため、学校評価の結果も十分にとらえているので、それぞれの立場から、次年度にその評価結果をどのように生かしたらいいかということも踏まえながらヒアリングを行うことになる。

その学年主任あるいは分掌主任から聞き取った内容を尊重し、学校経営計画の見直しと修正・追加を行い、3月末には新年度の重点目標とその方策を策定する。
作成した学校経営計画を実現するために、行政系職員(日比谷高校の場合8名)も含めて、全教職員が自己申告書に新年度の組織目標及び項目ごとの自己目標と目標達成のための具体的手立てを明記する。特に東京都では、「いつまでに」「どのように」そして「どの程度」ということをできるだけ明記して、目標がうたい文句になってしまわないようにということを注意している。

私が日比谷高校に赴任して3年目になるが、今年度大きく変わった点は、「何々したい」「こうしたい」という表現が非常に多くなったことである。「こういうことを達成したい」「こういうふうにやってみたい」というような表現が今年度になって非常に多くなったのは、教職員の自主性から来るものだと判断しているが、一貫して目標設定の指導を行っていることも事実である。そして、当初申告に基づいて一人一人面接を行い、自己申告書を完成させている。

次に、当初申告の進捗状況を10月ごろに中間報告として追加あるいは訂正したものをもとに面接を行い、各教職員の活動の方向性を10月ごろに再確認する。

2月ごろには、1年間の成果と課題を自己申告書(最終)に記載して一人一人が自己評価を行う。その自己申告書に基づき最終面接を行うが、その際に、次年度に向けての抱負等も確認することもある。
3月には、学校運営連絡協議会の第3回目において、学校評価結果の報告及び質疑、協議の上、協議委員からの助言を受ける。

生徒・保護者・地域住民及び広く都民に対しては、ホームページを通じて当該年度の学校経営計画報告及び新年度の学校経営計画を公表し、その中に学校評価結果を反映させたものとして理解していただく形をとっている。

参考資料として、平成22年度 全国高等学校長協会 管理運営研究委員会で行ったアンケート結果の抜粋を掲載した。その中の、「2 学校評価及び学校経営診断の現状と課題」をご覧いただきたい。内部評価と外部評価という表現があるが、内部評価については、一部実施2県も含めれば、全国都道府県で実施している。1県のみ統一方式をとっているが、それ以外は都道府県教育委員会の関与はあるものの、学校独自で作成したもので実施しているということがわかる。

4ページ目の1段目をご覧いただきたい。学校関係者評価(外部評価)は、基本的には一部施行8県を含めて全国で実施している。そして、各校独自の基準で実施しているのが31県で、66%である。なお、学校経営診断というのもあり、これは外部の方たちが実際に私どもとヒアリングをし、そして授業を見て診断していただくというものだが、実際に行われているのは7県から、昨年度9県に増加している。しかし、9県なので、まだまだという状況である。

内部評価について、[結果とその考察]を見ていただきたい。内部評価について各校則独自の基準が、37県より27県と減少した。これは特徴的だと思う。これは、「C 県委のモデルを参考に各校で作成」…16と書いてあるが、そういう部分が少し多くなった分、独自の基準というのが下がったと推測する。しかしながら、外部評価については、逆に各学校独自の基準で実施している県が、36県から31県と、結構変動していることがわかる。アンケートに答えた方の見解もあるかもしれないが、まだまだ定着するには時間がかかるということを感じた。

5ページ目は評価者についてだが、地域住民が年々多くなっている。地域住民が24県から31県、そして33県と増加している。本校の場合は、地域住民が少ない場所にあり、非常に偏ってしまうため、統計が客観視しにくいという事情があり、地域住民へのアンケートは実施していないところである。

平成22年度 東京都立日比谷高等学校学校運営協議会実施報告書をご覧いただきたい。昨年度は、残念ながらアンケート調査の回収率が本校においては、教職員は100%、保護者が68%、生徒の回収率が97%で、保護者の回収率が少なかったのが反省点として挙げられる。

学校が昨年度と比べてよくなったのかどうなのかというのが2ページの一番下に書かれてある。学校がよくなったと考えてくださった協議委員は、「そう思う」が7名、「多少そう思う」が1名ということで、一定の成果は出ていると思っている。

(●:委員発言、なし:事務局発言)

  • 「企画調整会議資料、2010年11月12日 学校アンケートについて」という資料はどのように理解したらよいのか。

【石坂委員】
企画調整会議資料というのは、本校で職員会議を行う前に、各分掌・学年の主任から成る企画調整会議で協議するための資料である。そこで協議された方針が職員会議の資料として出されている。

【實吉委員】テーマ「私立学校における学校評価について」

私は現在、日本私立中学高等学校連合会の常任理事を仰せつかっていると同時に、東京私立中学高等学校協会の副会長を仰せつかっている立場である。そういう意味では、日本全国のことと東京のことは分けてお話をするべきかもしれないが、やはり地方の事情はそれぞれにあるので、東京に限ったお話をさせていただく。

平成19年7月13日付で日本私立中学高等学校連合会から文部科学省に「学校評価の在り方と今後の方策について」という書類を出させていただいた経緯がある。学校教育法が改正され、学校評価と情報提供に関する規定が整備されたことを受け、国公私立学校すべてが学校運営の改善を図り、教育水準の向上に努めることは、国民の教育の充実にとっては大変有意義なことと考えているというのが日本私立中学高等学校連合会が全国の私立学校に向かって表明している基本的立場である。

さらに、改正学校教育法の42条で、「文部科学大臣の定めるところにより」学校評価を行うこととされていることに関して、当時の初等中等教育局長が参議院の文教科学委員会で、「自己評価や外部評価の実施及び公表の在り方や、各学校が行った評価の結果を設置者である教育委員会に報告するといったようなことを促すこと等の内容を考えております」と答弁されている。これを受けると、公立学校の設置者は当然、教育委員会であるから、教育委員会が各学校に様々な支援を行うということになるが、私立学校の設置者は学校法人であるということをご理解をいただきたい。そういう意味では、私立学校の学校評価については、当該学校を設置する学校法人の理事会に報告すべきものというふうに理解をしている。

こういう前提を考えながら、私立学校は建学の精神あるいは教育の理念ということを常に言わせていただき、私学の独自性、自主性ということを世間に向かって発信させていただいている。このことを受けて私どもは、私立学校は理念共同体だというふうに理解をしている。なぜかといえば、その私立学校に集う生徒、教職員、それから卒業生、当然に生徒を預けてくださる保護者、この方たちは各学校の理念に共鳴したことによって、その学校がつくられている。そういう意味で、あえて理念共同体と言わせていただくが、そのことを受けると、各私立学校がどういう理念を持っているかということは当然に発信をしていかなければならないし、その理念に基づいてどれだけの方が賛同いただけるかであり、常に世間の批判、批評、世間の選択にさらされているというのが実情である。
そういう意味で、やはり私立学校に対する学校評価の在り方は、当然に公立の学校とは大いに異なるというのが私の理解である。

また、教育というのは国民全員が受けるものである。したがって、国民すべて、教育を受けた方々全員がそれぞれの教育観を持っている。ある意味で1億教育総評論家と言っていいと思う。そういう中で、私立学校の自主性、独自性をどう維持していくか、私立学校の理念をどう守っていくか、守るだけでなくどう攻めていくかということも考えれば、やはり私立学校は学校法人の存在、すなわち学校法人がいかなる理念を持ち、その理念のもとに学校をどう設置運営し、その学校に勤務している教職員がそれをどう理解しているかということが一番大事なことになる。私立学校法では、かつての私立学校のさまざまな不祥事を受けて、理事会機能が非常に強化されている。同時に、理事会だけでなくて評議員会の役割、あるいは監事の役割が従来に比べてかなり強い存在になっており、これらの重要性が私立学校法の中にうたわれるようになった。したがって、理事会あるいは評議員の構成の中に、現役の教職員、卒業生、保護者が入っている私立学校というのは非常に多いだろうと理解している。私どもの学校でも評議員には卒業生、教職員が入っている。その場合、報告される学校の1年間の活動状況というのは、理事会が、私の場合は理事長という立場にあるため、理事長として1年間の学校の経営の状況、学校の教育の活動の状況、すべて報告するということを義務として負っている。当然に、情報公開条例ができたことによって、条例を根拠に事業計画の公開を求められたときには、その事業計画も出すようになっている。

これらのことから、先ほど申し上げたように、公立学校と私立学校は明らかに違いがある。私立学校は当然に経営ということが主眼になってくるが、潤沢な財源があるわけではない。国あるいは各都道府県から私立学校の経常費に対する補助はいただいているが、そういうものを含め、経営を危機化しないためにどうするか、学校がどういうふうに見られているかが命である。そういう意味では、あえて学校評価ということを使わずとも、私立学校は今までこのことに腐心してきた。

1980年代には、東京の私立学校の評価は非常に高いものになってきたと思う。しかし、一方で否定される私立学校もあった。このときに産業界や企業の間で、CI(コーポレートアイデンティティー)ということが強く言われ、学校にもSI(スクールアイデンティティー)という概念が入ってきた。私どもの学校でも、教職員はもとより、生徒や保護者、あるいは塾の先生方、近隣の方たち、こういう方々にアンケートを行って、本校が今どのように社会から評価されているかということを調査したことがある。実質的にはこれを行うには、2,000万円とか3,000万円とか多額な費用がかかる。学校によっては1億円近くかけて調査を行った学校もある。私立学校はそういう自助努力によって自分の学校のありようを考えながら、外に向かって発信しているという状況を深くご理解いただきたい。

私立学校の会計を見ると、人件費が50%。それから、教育研究費が大体35%から40%の間で、それから管理費がかかることになる。そうすると、学校評価をどう私立学校の中に取り組んでいくかということは、費用の問題が非常に重くのしかかってくることになる。公立学校と違い、私立学校は自前で費用を捻出しなくてはならないという事情があることもご理解いただきたい。

当然、学校評価の目的は、教育内容の改善を図っていく指標としてつくられている。どう改善するかは必要だが、教育改革というのは、一挙にやるということはあり得ない。前回(2003年)の学習指導要領改訂は、学校段階を経るごとに学校の授業についていけない児童生徒が増えるという状況を踏まえて行われたものと思う。しかし、国として学校で子どもたちに身につけるべき学力とは何かを、今まで明示されてこなかったため、各学校では学力とは何かを非常に重くとらえながら、私立学校は各学校が自前で、子供たちに身につけるべき学力は何かを模索してきた。

しかし、今回(2008年)の学習指導要領で、初めて学力とは何かが明示された。一つは、知識、技能を習得すること。これを私たちは「学んだ力」と呼ぶ。2つ目が、その得た知識、技能をどう活用していくかということ。これは思考力、表現力、判断力と言われているが、私どもは「学ぶ力」と言わせていただく。もう一つ、学ぼうとする意欲も新たに規定された。私はこれを「学ぼうとする力」というふうに申し上げたいが、初めてこの学力の3つの要素が明示された。

学校評価の中に教職員の待遇改善、あるいは子どもたちの授業評価など、さまざまな評価項目があるかと思うが、この3つの学力を今後実際に小学校、中学校、高等学校の各段階でいかに身につくかということは、非常に大きな課題になってくると理解している。

中央教育審議会初等中等教育分科会のもとに、「学校段階の連携・接続等に関する作業部会」があるが、その中で学力を問う試験問題を課すべきだという議論があったように、学校として子どもたちに身につけるべき学力は何かということを、私立学校は真剣に考え、それぞれの学校の目的を理念に基づいてつくっていくことが、我々に課せられた課題だと思っている。

そういう意味で、学校評価ということでなく、学校の評価をどう受けるかというのが私どもの非常に差し迫った課題になっていると思う。

さらに、私立学校は一貫性を持っている。公立学校は、学校を運営される教職員が少しずつ代わっていくが、私立学校は連続性、継続性が命である。私立学校は卒業生という大きな集団を持っているため、この卒業生たちに支持されなければ、存在意義がなくなってしまう。そういう意味では、学校評価の評価項目の中に、不易流行という言葉の不易の部分がどう残り、流行の部分をどれだけ取り入れて学校が運営されているのかということを評価されることが、私立学校としては非常に重要なことになってきている。

私立学校が学校評価にどう取り組んでいるかという一つの事例として、成城学園が取り組んでいる姿が非常に分かりやすいので、本日、平成21年度学校評価報告書の冊子をお配りしている。成城学園は、幼稚園から大学まで一貫した大きな学校法人であり、さまざまなご苦労があることが報告書からうかがわれると思うので、お時間のあるときにお読み込みいただき、私立学校の取組をご理解いただきたい。

  • 成城学園のように、立派な報告書がまとめられている私立学校は、現状としては實吉委員からごらんになってみてどの程度あるのか。

【實吉委員】
ここまでまとまっている学校はなかなかないと思う。

  • 私立学校でもここまで進めているのは、現在の段階では数はまだ少ないということか。

【實吉委員】
少ないと思う。

  • 少ないが、こういう取組も存在しているということか。

【實吉委員】
補足させていただく。学校評価のことを今、杉並学院の校長でいらっしゃる吉野弘一さんが先般、私どもの理事長・校長会の研修会で、私立学校に来て驚いたという話をされた。文部科学省から、私立学校は学校評価にまだ十分取り組んでいないと聞いていたが、実際に学校に行ったら全く違って、杉並学院はしっかりと学校評価をしているということがわかったとおっしゃっていたことを付言したい。

【妹尾主任研究員】テーマ「学校評価を活用した組織力ある学校づくり―学校評価の取組実態と好事例に見るポイント」

弊社はリサーチ・コンサルティング等を行っている会社で、文部科学省の委託を受けて学校評価の好事例に関する調査研究行っており、現在4年目になる。この調査を通じ、各教育委員会、あるいは学校の方にご協力いただいて、50、60以上の地域・学校に足を運んできた。そこで、学校評価に取り組む上での悩みや、取り組んでよかったという生の声もたくさん聞いており、限られた経験ではあるが、そこで得られたポイントをお話ししたい。

今回は、3つのテーマに絞ってお話ししたい。1つ目は、学校評価の目的に合った取組ができているかという、実態面から素材を提供させていただきたい。2つ目は、うまく実効性を持って改善等につながっている学校と、そうでない学校との差はどこにあるのかということ。3つ目は、具体的な事例からどういうことを学ぶことができるかというところである。

まず1つ目の点について話させていただく。文部科学省の学校評価等実施状況調査によると、平成20年度間は81%の公立学校が学校関係者評価を実施しており、その99%が学校関係者評価を実施して「学校運営の改善に大いに役立った」あるいは「ある程度役に立った」ということがわかる。しかし、本ワーキング第1回、第2回でも、実効性のある学校評価の取組がまだうまくいっていないというご指摘もたくさんあり、学校には疲労感ややらされ感、マンネリ感が多くなっているのではないかという問題意識を委員の皆さんも持たれているのではないかと思う。

実際、私どもが足を運んだところでも、学校評価は手間や労力がかかるがなかなか活用できていないという声や、教職員に呼びかけてもなかなか理解が得られず自分たちにはもっと大事なことがあると言われてしまうという声、あるいは連携や協働は学校に限らずどの地域でも重要な課題であるが思うように進まないといったような声をよく聞く。今、自己評価の実施が義務づけられて3年以上経過しているが、学校評価をやってほんとうに得なのか、コストを上回るような成果実感を持てているかということが問われていると私どもとしては感じているところ。

実際、そういった実態をアンケート等を通じて把握しているので紹介する。5ページのアンケート結果は、2009年に実施した文部科学省主催の学校評価推進協議会に参加した学校・教育委員会の担当者にご協力いただいたものである。このため、アンケートの回答者の多くは、文部科学省の実践研究の指定を受けている地域であり、全国的な傾向とは少し違うかもしれないが、一つの数字として、学校評価がどのような成果につながっているかが分かる。例えば、学校評価が学校運営・活動の改善につながっているとの質問に、「大いに当てはまる」と回答しているのが9.8%、「やや当てはまる」と回答しているのが65.9%である。このように、少し聞き方を変えると、文部科学省の指定校でさえ、学校評価が成果につながっていると回答しているのは、大体6割から8割ぐらいであり、モデル校以外については別のアンケートでも調査したのだが、これよりも低い数字になるということがわかっている。

6ページは学校関係者評価についてのアンケートである。先ほどのアンケートは自己評価、学校関係者評価かかわらず学校評価ということで聞いたが、こちらは学校関係者評価の成果に関する実感について回答をいただいた結果を掲載しているが、ここでもやはり「そう思う」「とてもそう思う」という回答は大体6割の学校、地域という結果である。私が気になる点は「とてもそう思う」という回答が2%しかなく、モデル校でさえ非常に自信があると回答したところは大変少ないと考えていただいても間違いではないと思う。

先ほどの学校評価が学校運営・活動の改善につながっているかという質問に、「大いにそう思う」あるいは「そう思う」と回答した学校と、そうでない学校、つまり、成果実感のある学校とない学校で、取組にどのような差があるかを整理したものが7ページのグラフである。

例えば、一番上の「学校の現状を分析して、学校の課題を明確化している」という取組について、学校評価が学校運営等の改善につながっているという学校の25%が「大いに実践できている」と回答しているが、学校評価が学校運営の改善につながっていないという学校では3%しか「大いに実践できている」と回答していないことになる。

他にも、「学校の目標の重点化」については、学校評価の成果実感がある学校では「大いに実践」している学校が約4割であるが、学校評価の成果実感のない学校は約1割しかない。学校評価の成果実感のある学校とない学校では、実際取り組んでいる内容にかなり程度差があるのではないかというのがここでもわかってきている。

特に「評価結果について、教職員の間で議論し、学校運営・活動に改善策を立案している」という取組を実践しているところについては、学校評価の成果実感があるの学校は、「あまり実践できていない」という否定的な回答は大体2割ぐらいしかないが、成果実感のない学校は、約半数ができていないと言っている。このように、こういった評価結果を教職員間で議論しているのかどうかも、学校評価が役に立つものかどうかの一つの分岐点にもなっていると推測している。

8ページの表は、学校関係者評価の取組が学校の組織運営・教育活動の改善につながっているという成果実感があるの学校とない学校で、取組にどんな違いがあるかということを示したものである。特徴的なものだけ申し上げると、例えば、先ほどと同じように、「学校関係者評価の結果を受けて、改善策等を教職員間でディスカッションしている」ということについて、学校関係者評価の成果実感がある学校は大体7割ぐらいが実践しているが、成果実感のない学校は4割程度しか実践できておらず、やはり取組にかなりの差があるということが言える。いずれの設問も、7ページのスライドとあわせてご覧いただくと、成果実感がある学校のほうが、もろもろの取組にを実践しているということがわかる。

9ページはアンケート結果のまとめである。1つ目は、国のモデル校等においても、自己評価あるいは学校関係者評価を学校運営の改善等に活用できているのは6割から7割程度であるということ、さらに強く自信を持って改善に活用している学校は非常に少ないということが一つの実態として言える。

また、学校評価をうまく活用できている学校とそうでない学校との違いについては、教職員間で現状分析ができているかどうか、目標の共有がうまく図られているかどうかでかなりの差が見られる。また、具体的な行動としての目標があるかどうか、校務分掌を活用できているかどうか、教職員間で改善策等のディスカッションができているかどうかについても差があるということがわかる。学校関係者評価についても、学校関係者評価を実施する目的に応じた評価委員の人選、学校のよいところを見つけようという学校関係者評価をしているかどうか、評価結果を受けっぱなしではなくその結果を受けて教職員間でディスカッションしているかどうかなどにより、取組に差が見られる。

ただし、学校評価の成果実感があるとポジティブに答えた学校でさえあまりできていない取組もあり、データの活用や、他校と連携した研究などが挙げられる。また、他校との連携、学校種間の接続、あるいは学校関係者評価でのファシリテーターの配置、評価委員自身による評価書の執筆が学校任せになっているなどの取組不足があるということがわかる。では、学校評価が改善につながっている学校とそうではない学校の差はどこにあるのか、うまくいかない学校はなぜうまくいかないのかということを考えてみたい。

私が学校の先生方とお話しさせていただくとき、3つは覚えてくださいと申し上げているのが11ページの図である。これは、先ほどのアンケートや、ヒアリングを通じて、この3つが大きな柱と私どもが感じたことである。

1つは、学校評価を機能させる上では、目標をきちんと共有するということ。2つ目は、単に目標やゴールだけではなく、そのための道筋なりプロセスをきちんと設計するということ。あるいは少しずつでも仮説、検証を繰り返しながら、取組をステップアップさせるということ。最後に、そういった取組をきちんと教職員間のチームワークで取り組んでいくということ。この3つが非常に大きなポイントだと思っている。文部科学省の学校評価ガイドラインにも同じようなことが書かれており、学校の先生方や校長はガイドラインを読まれているが、こういったことは改めて大事だということをきっちり確認をしておくことが大事である。

12ページに学校評価がうまくいかない状況を三角形がぐちゃぐちゃとなっている図で示したが、例えば、目標の共有は簡単なようだが抽象的な目標が多かったり、プロセスの設計については取組があいまいなままだったり、チームワークについては、キーパーソンだけが頑張っていたり、教職員が相互不干渉になっている実態がかなりあるように聞いている。この図を見せると、学校の先生方は、確かにうちもそうだなと、共感を得られることが多い。

目標の共有不足の原因について、一つは、市町村の教育ビジョンがあいまいなので、学校の重点目標を立てにくいこと、教職員の中で現状維持に対する危機感がないこと、あるいは、課題の重点化ができていないといったことが挙げられる。目標の重点化が大事というのは皆さん知っているが、課題が重点化できていない中では目標の重点化は難しいため、うまくできていないといった原因がある。

逆に、好事例では、そういった原因をつぶすような取組がかなりされている。例えば、現状維持に対する危機感がないということについては、現状分析をしっかりやったり、過去の取組の振り返りを行うことで教職員間で問題意識を共有したり、課題はたくさんあっても特に重要な課題を決めるためのディスカッションを、プランニングの段階で行うなどといった取組が好事例では見られる。他にも、現状把握するためのデータをうまく活用できていることも、好事例の特色である。

プロセスの設計についても、なかなかできない原因は、目指すイメージがあまり具体的にできていないこと、学校評価と授業改善やカリキュラムマネジメントを別物扱いしていることが挙げられる。そうすると、教育活動のうち最も重要な授業の改善に結びつかないと、学校評価がうまく機能しない。逆に、好事例では組織的な授業改善を学校評価の取組目標に位置づけている例が見られる。

チームワークがうまくいくためのポイントは、個々の教職員に具体的な役割を与えているかどうか、学校評価の取組をドキュメント化して、きちんと引き継いでいるかどうか、あるいは、きちんとアンケート結果等を生かして、改善策等を議論する場を設けているかどうかであると思う。

具体的な事例を紹介させていただく。広島県福山市立久松台小学校では、スパイラルアップをキーワードとして、特に学校評価を授業改善ともかかわらせながら、教育活動や組織運営を徐々によくしていこうとしている。具体的には、18ページのようにPDCAサイクルのアクションのところが大事だとして、授業改善シートをつくり、全国学力・学習状況調査の結果も活用し、教職員間で議論しながら、授業改善の組織的に取り組んでいる。

また、次の愛知県高浜市は、非常に熱心に取り組んでいるが、最初からうまくいったわけではないところがポイントだと思う。高浜市立高浜中学校に聞いたところ、従来はアンケートの結果だけを見るのみで、チェックしかやっていないという学校評価だったが、だんだん具体的な取組を行うようになった。例えば、学校目標が具体的な取組になった例として、「落ち葉掃き隊」や、シラバスによる授業改善など、できることからだんだん取組を発展させていった。これを熱心な、一部の教職員だけではなく、学校全体で組織的に行うことが特徴であると思う。

次の佐賀県嬉野市のポイントは、学校評価なり学校関係者評価を、ネガティブな場ではなくて、ポジティブ、クリエイティブな場であるということを教育委員会からきちんと発信し、学校関係者評価を実施する目的を、うまく学校に伝えているということである。また、21ページにあるとおり、嬉野市立久間小学校も最初からうまくいっているわけではなく、忙しい、学校評価を行うことで業務が増えて疲れるといったような反応が最初は多かったが、だんだん上手く活用できるようになった。特に、小さな学校なので特殊かもしれないが、学校関係者評価の場に全教職員が参加して、評価委員からのコメントをダイレクトに聞くことができる。このことにより今、学校に求められていることを共有したり、逆に、褒めてもらって教職員に意欲が出ている。また、分掌組織を活用し、プロジェクトチームで具体的な取り組みを実施、改善をしている。

島根県岩美町立岩美中学校も、最初はなかなかうまくいかず、校長だけが学校評価に取り組み、他の教職員がなかなかついてこなかったという反省があり、このため、きちんとミドルリーダーを育成しながら分掌を活用するという学校評価に変わっていった。最近では、学校評価を単に学校改善に活用するだけではなく、中学校が町の地域活性化の拠点になるということも目標にしている。こういった、わくわくするような、実現するとすごくいい目標を立て、そのための具体的な取組もきちんと学校評価の中でプランニングをし、PDCAサイクルにしていくという事例になりつつある。

好事例からの示唆をまとめさせていただくと、好事例といっても、とっぴなことや、ほかの学校が再現不能なことをやっているようには思わない。学校の組織力を高める上での当たり前のことを実践しているに過ぎない。私どもが整理した3つの視点は、言われなくてもわかっているが、なかなかできないというものだと思う。そういったことをきちんと具体的に継続的に実践しているかどうかが好事例になるか、あるいは悩ましい事例になるかの違いと思う。

また、好事例の多くも、最初からうまくいったわけではなく、だんだんと取組を発展させてきたことがわかる。個々の教職員、一人一人が何かやるというのではなくて、身近なところから学校が組織的に展開できる取組を増やし、だんだん実行力を高めていくこと。それで学校が改善し、そのことが教職員に実感できるようになり、あるいは地域等にもそう思ってもらえるようになると、また教職員のモチベーションが高まり、好循環が生じていくというのが私ども見ていた好事例の特色だと思う。

次いで発表に関して、質疑が行われた。石坂委員の発表に関する質疑は以下の通り。

  • 学校経営計画はどのように作成しているのか。また、作成に際して参考にするものはあるか。また、学校経営計画の作成に向けて、全教職員が自己申告書に新年度の組織目標や項目ごとの自己目標を具体的に記入していくということだが、新年度の組織目標や項目ごとの自己目標としてはどのようなものがあるのか。

【石坂委員】
都立高校で学校経営計画を初めて導入した際、計画に最低限盛り込むべき内容として東京都教育委員会が示したのは、次のような項目。まず、どういう学校を目指すのか。5年ないし10年スパンの長期的・中期的な目標設定をどのようにするのか。そして、生活指導面、学習指導面、進路指導面等の項目ごとに、今年度、具体的に何を行うのか。そして、その中でも特に重点的に取り組むことは何か。

都立高校に学校経営計画が導入されたのと同じ頃、都立高島高校に東京都で初めての民間人校長として入られた内田睦夫先生が、非常に図式化した学校経営計画を示された。そのときは、私たちは内田先生から作り方の指導を受けた。各学校で創意工夫してつくるようにというような指示があったり、担当者がかわり、こういうふうにつくってくださいという指示がおりたときもあった。

この何年かは、学校経営計画の策定について教育委員会から特段の指示はない。その理由は、それぞれの学校で学校経営計画の策定が定着してきたと教育委員会が考えてくださっていることと、必ずしも画一的な様式で書けばいいというものではないということ。東京都教育委員会は当初、できるだけ数値目標を挙げるよう強く言っていたが、最近は、それも校長の判断に任せるような形になっている。私どもとしては、前校長が作成した計画を基盤に、毎年計画を再検討して策定している。

  • 学校経営計画は、スタッフと一緒に検討・作成するのか、校長が1人で作るのか。

【石坂委員】
校長が一人で作る。ただし作成の前に、学校評価結果を踏まえて、来年度にどのようなことに取り組みたいのか、やり取りをする。各主任と時間を取ってやり取りをして、その内容を学校経営計画に反映している。
組織目標と自己目標の関連については、自己申告書の中に学校全体としての目標のなかで自分はこういう点を共有してやりたいという自分自身の目標を設定するということ。学習指導、学校運営、進路指導、生活指導、特別活動、部活動、研修内容などの項目ごとに、記入様式ができているので、学校経営計画の中に書いてある内容をもとにしながら、そこに書き入れていく。

  • 自己申告書は東京都全体でシステム化されているのか、あるいは学校独自のものを使っているのか。また、学校目標、重点目標に対して教職員の方々の参画意識を高めるということが非常に大事だというお話があったが、その中でやはり校長先生との面談というのがキーワードかと思う。面談の時間をどのような形で確保しているのか。どういった時間帯を使って面談を行っているのか。また、教職員一人一人の参画意識を高めるうえで校長先生が特に配慮していることを教えていただきたい。

【石坂委員】
まず、自己申告書については、東京都で決まった形式があり、その形式に基づいたシートの中に書いていくことになる。シートの内容としては、組織目標や、昨年度の成果の課題などがある。また、今年度に関しては、主幹教諭や主任教諭と教諭では順番等が違ってくる。例えば、主幹教諭や主任教諭の場合にはまず学校運営についての欄が最初にある。しかし、教諭の場合には学習指導についての欄が最初に出てくる。

また、教職員との面談をどの程度、どんな形で確保しているかということについてのご質問だが、私の場合は、割としっかりと時間をとっている。しかし、時間にも限りがあるので、1単位時間の中で空いているところを見つけて、2人ずつぐらいと面接をしている。1人あたり20分から30分ということになる。本来は1時間ずつぐらいしたいが、本校の場合、教員、養護教諭、実習助手を含めて52名、行政系職員が8名、あわせて60名との面接を年3回やらなければならない。これは結構な労力を必要とするが、私どもの考え方を伝え、先生方の考え方をきちんと受けとめるうえで非常な大事な場である。

最後に、教職員のモチベーションを上げるのにどうしたらいいかというご質問だが、2期制の前期、後期の初日に、私は私なりの所信表明を必ずしている。学校経営計画の「(3)教職員自身の姿勢」に3点書いている。1としては、「生徒の学力向上を目指して教職員の団結力を強化する」。2として、「学校としての組織力を強化する」。3として、「教職員の意識向上と教職員の判断力を強化する」。所信表明では、これらの項目ごとに、教職員にどのようにしてほしいのか説明を加えている。

また、50名の教員の授業を大体1カ月半かけて必ず見るようにしている。始業前に教室に行き、終業のチャイムが鳴るまでずっと教室にいる。そして、授業を見た後は必ず教員と面接をする。そのときに、よい点を必ず伝えるので、先生方はよい点も悪い点もきちんと見てもらえたということによってモチベーションが上がっているのを感じる。具体的には、自己申告書の中に「こうしたい」という表現が多くなったことが挙げられる。

  • 2点ほど聞かせていただきたい。1点目として、日比谷高校において学校評価をすることで学校改善ができたという具体例を教えてほしい。2点目として、義務教育の学校と違って高等学校の場合、進学先の割合等によって、学校間の違いの幅がかなりあるかと思うが、全国の調査をされて、明確な傾向や特性があるのか教えていただきたい。
  • 学校運営連絡協議会の協議委員はどうやって選んでいて、任期等は定まっているのか。

【石坂委員】
学校評価によってどういう点が具体的に改善したかというご質問について、教職員の間で生徒・保護者の期待に応えようという気持ちが非常に高まっていることが挙げられる。学校評価を通じて課題をしっかりとらえるということができてきているので、その課題に取り組もうという機運が高まっていると思う。

また、2番目の、高等学校の特性についてのご質問についてだが、学校評価では東京都が成功しているという考え方が非常に強く、東京都の取り組みに対する関心が圧倒的に高いということが挙げられる。地方はどちらかというと、東京の様子を見てから動こうという傾向が強いという印象。逆に言えば、それだけ地方は学校評価に慎重だと言える。

3番目の、協議委員の選定についての質問だが、委員の選定は基本的には校長が行う。任期については、協議委員会ができた当初には3年と決まっていた。現在は具体的な年数がなくなって再任ができるようになっている。同窓会の方にお願いするときには、会長や理事長などの役職についている方にお願いするということもあるので、会長や理事長が変われば、協議委員もその都度交代していくという形も可能になっている。

實吉委員の発表に関する質疑は以下の通り。

  • 学校に通っている子どもたちの様子を子どもたちが見て、学校に入りたいと思うことが多い。その点において、私立の学校は子どもが一番の学校の看板。そういった点で何か苦労や工夫があれば教えていただきたい。

【實吉委員】
子どもたちの日常の様子を見られるというのはまさにその通りで、私立学校においては登下校の指導が非常に重要。入学を考えている保護者の方の中には下校時の姿を見にこられる方もおり、学校選択の一つの判断材料となっている。そういう意味で、私立学校では、文化祭や体育祭など、生徒の日常の学校内での活動状況は常に見られている。

  • 實吉委員の発表のなかで、私学の場合は理念の設定と目標の共有が大事だというお話があった。理念を設定していくときに何を一番重点にされているのか。私立学校においては、公立学校に比べ現役の教職員や保護者よりも、どうしてもOBの方々の意見が大きくなっていくと思う。また、そうした中、保護者の方たちは普段どういうふうに学校にかかわられているのか。

【實吉委員】
まず、教育の目標については、私立学校のなかには明治にできた学校もあれば大正にできた学校もあり、昭和にできた学校もあって、建学の精神というのが非常に多様になっている。したがって、各私立学校は、自校の建学の精神を現代の教育理念に置きかえたら何であるか見直しをしてきた。このような取組を建学の精神の「顕在化」「現代化」と呼んでるが、多くの学校がこうした取組みを行い理念づくりをした。その理念を共有する方法として、年度当初、理事長や学校長が教職員に向かって、今年の本校の年度目標について、生活のことも含めた学校運営全般について話をする。理事長が主に経営面での話をして、学校長は学校運営の話をする。私の学校の場合、その前に校務分掌の部長が、今年度の取組の状況と来年度の取組の方向性を挙げてくるので、それを受けて協議をしながら、私が今年度の目標を設定する。

全ての教職員が理念を共有することは難しいが、各教職員には学校の教員という立場をまず先行させ、個々の意見は一切封じてくれと言っている。このような姿勢で臨むのは、「私はこういう意見を申し上げましたよ。でも、それを取り入れてくれなかったから、私は知りませんよ」という教職員が時々いるため。子どもたちにとっては、この先生に教わったからよかった、この先生に教わったから失敗したというのはあり得てはいけないわけであり、どの先生に教わっても同じ目線で同じような内容を子どもたちに伝えていくということが大事。

また、OBについてのご質問に関しては、OBが入り過ぎるとよくないと思う。ある私立学校では、OB会の意見があまりにも強いことから、同窓会の組織をつぶしてしまった。保護者については、公立の場合にはPTAという組織があるが、私立学校にはない。そのため、保護者会であるとか、あるいは卒業生、卒業生のご父兄も含めた後援会のような組織でいろいろな学校の活動を支えていただくことになる。入学してきた方の中には、小学校ではこういうことをやってくれてよかったのに、なぜこの学校ではやってくれないのか、という要求が出ることがある。一人一人の考え方を言っても仕方ないので、学校の理念に共鳴する人が入学してくださいということを一番最初に言わないと、学校としては成り立たなくなる。

  • 2点ほど聞かせていただきたい。
    1点目は、最後に、ある学校を事例に、私立学校では学校評価に結構取り組んでいるという実感があるというお話があったが、それは具体的にどういう意味なのか。学校関係者評価を中心に学校評価がなされているということなのか。
    2点目が、私立学校は理念共同体だというお話があったが、私立学校にはいろいろな学校があると思う。個々の学校の学校評価のスタイルは多様であるのか、それとも私立学校としてある程度共通性を持っているといえるのか教えていただきたい。
  • 私自身、福井県の6校の私立学校で第三者評価の設計にかかわってきたが、その中で浮かび上がってきたのは、小規模法人が多いこと。なおかつ、そうした法人の大半はオーナー法人であり、理事長兼校長が一人、孤軍奮闘していることが多い。また、私立学校においては、教職員は研修に出てはいるが、基本的に生徒指導や教科指導の研修が中心で、マネジメント能力を高める研修が弱い印象だが、どのようにお考えか。

【實吉委員】
ご質問の趣旨から外れてしまうかもしれないが、例えば近年学習指導要領の中に総合的な学習というのが入ってきたが、総合的な学習について、おそらく私立学校は先行して取り組んできたと思う。ある学校では人間学、ある学校では女性学というふうに、総合的な学習は随分先行してきたと思う。また、私立学校における学校評価については、学校独自に行っており、統一様式は全くない。それぞれの学校は、スポーツを得意としている学校、様々なクラブ活動に力を入れている学校、大学進学に力を入れている学校、21世紀に生きる子供たちの力は何だということに視点を置いて活動している学校など様々。

私は、慶應義塾の塾長をされた石川先生からいただいた「未来からの留学生」という言葉が非常に印象に残っている。私どもが預かっている児童、生徒、学生は未来からの留学生なのだという意味。私どもが過去の難民だったら困るよと言われた言葉を非常に今、強く思っている。

地方の私立学校についてのお尋ねは、まさにその通りだろうと思う。地方の多くの私立学校では、オーナー理事長・校長が孤軍奮闘している。校長職の方をどう育て上げるかということがなかなかできていないように思う。地方によっては、公立学校出身の退職校長を校長にお迎えしている私立学校があるが、自前で管理職をどうつくっていくかというのが私立学校のこれからの大きな課題だと思っている。

マネジメント能力について言えば、東京の私学教育研究所が2,000人強の教員を対象に行ったアンケートにおいて、研修を年間どの程度受けているかという質問に対し、ゼロという回答をした教員が20%ぐらいいた。1から3回という教員が60%であり、あわせて80%近くの教員がほとんど研修に派遣されていないという実態がわかった。今後、私立学校の理事長、校長に対し、多くの研修に先生を出していかないと、学校の経営上大きな問題が生じるおそれがあるという発信をしようと思っているところ。ご指摘のとおり、マネジメントについては理事会や校長・教頭・副校長あたりだけに任されて、教員はマネジメントにはなかなか関心が持てないという傾向はあると思う。

妹尾主任研究員の発表に関する質疑は以下の通り。

  • ご紹介いただいた好事例からうかがえる特徴については、私もそのとおりだと思う。そのなかでも、私はとりわけプロセス設計が重要だととらえてきた。つまり、システムをつくっていくことが重要であり、そこに人々が参画していく中で理解が深まり、浸透していくと思うが、しかし、このようなプロセスは時間がかかる。そのためマネジメントスタッフの安定性が重要な要素だと思う。マネジメントスタッフの在任期間が基礎システムができるまでにかかる時間を左右する。
    もう1点は、発表の中で、高浜中学校におけるふせんを用いた授業研究の紹介があったが、あのようなシステムは苦肉の策でもある。本来、9教科集まっての研修会が望ましいわけだが、そんなことができるわけもない。しかし、一方で、教科の専門家を入れて展開している授業づくりもあると思うが、そういう好事例がほかになかったか。

【妹尾主任研究員】
マネジメントの体制については、これまで3年間研究をしてきた中ではきちんと深掘りできていないというのが実態。先ほど、三角形をお示ししたが、多くの学校の方とお話しすると、実はもう1つの軸があるのではないかという話になり、それは「継続」という軸である。校長先生なり教頭先生が代わると、また一からになってしまう。このことについては、今回好事例として紹介したような学校でも悩んでいるというのが実態であり、私も解決策がなかなか見つけられていないのが実態。ただ、全員が一斉に人事異動するわけではないので、やはり校長、教頭だけではなく、プロジェクトチームや分掌がしっかりしてきて、そこで授業改善などを行えている学校や、あるいは、小学校・中学校、場合によっては高校も含めて、学校間連携を図り、授業について助言し合うとか、あるいは不登校対策等についても、小学校のときの情報を中学校に伝えるなど、そういった場ができてくると、たとえ管理職が代わっても、そういった場や構成員は残る。そういったところが一つのヒントかと思っている。

  • それまでうまくいっていても校長が代わるとうまくいかなくなるケースが多い。教頭やミドルリーダーが代わっても大きな影響を受けない。しかし、校長は非常に重要だと思う。
  • 2点ほど伺いたい。1点目は、多くの事例を分析するなかで、小学校・中学校・高等学校それぞれの特性や傾向があればお知らせいただきたい。
    2点目は、3つのポイントの中で、どのあたりから取り組んでいくとよいか、取り組みやすいところや改善しやすいところはどこか等について教えていただきたい。

【妹尾主任研究員】
小学校・中学校・高等学校の特性についてのご質問だが、中学校・高等学校では教科ごとの独立性が高いため、教科でまとまって組織的な改善が進めやすいが、教科の枠を超えて全学校として学校評価にどう取り組んでいくかが課題となっている学校が多い。

全校で目標を共有しながら、この教科ではこういうところを重点目標にしましょうというようなコミュニケーションができてくると学校評価がうまくいくというのが好事例校の分析ではわかったこと。
小学校では、児童の年齢幅があるので、子供同士の縦のつながりをどのように強化をしていくかが課題としてあるが、分掌や学年会等を通じて複数の学年で取り組んでいくかということが重要であると思う。

もう一つの質問の、どこから取りかかりやすいかということに関して、学校の先生方とお話しすると、特にお勧めの事例を教えてくださいということをよく聞かれるが、その学校がどういうことを目指すのか、どういうことで悩んでいるかによって、当然、参考になる事例は異なってくる。また、プロセス設計をしていくなかで目標の共有やチームワークも進んでいくところがあるので、この3つの中でまずプロセス設計から取り組むというのも1つの考え方だと思うが、これらは便宜上分けているだけで、当然、三位一体となって取り組むべきもの。その学校の今までの取り組みを反省したうえで、今後どのように取り組んでいくかということを考えていくことが重要。

  • 今回お示しいただいた資料は学校現場で紹介させていただいてもよいか。

【妹尾主任研究員】
ぜひ積極的に紹介していただきたい。

  • スライドの13番に記載されている「学校の目標には、教職員にとって、わくわく感じられるストーリーが含まれている」ということは、どのようなことを指すのか。また、24番のスライドに「しかし、アンケートやヒアリングからわかるのは、当たり前のことをきちんとやることが難しいことである」という言葉があるが、具体的に説明していただきたい。

【妹尾主任研究員】
当たり前のことと申し上げたのは、今回紹介した3つの視点についても、学校評価ガイドラインの記述とも重なる部分があり、言われてみるとその通りだなと皆さんに思っていただけることだと思う。アンケートを見ると、例えば目標の共有だとかプロセス設計にかかわるような取組が案外できていないということは踏まえた上で今回考えたほうがいい。

  • そういったことが難しいのはなぜか。例えば3つの視点は当たり前のことだが、取り組まれていない。なぜそれが取り組まれないのかについてヒントがあれば教えていただきたい。

【妹尾主任研究員】
そこについてはまだ分析が浅いところもあるが、スライドの13ページ以降、3つの視点ごとに、取り組まれない原因について若干のアイデア出しをしている。しかし、もっと深掘りできるかもしれない。

また、「教職員にとって、わくわく感じられるストーリー」とは何かというご質問については、民間企業の戦略についても、単に利益目標を示すだけではなく、自分たちの事業はこのように社会の役に立つ、お客様の役に立つなどというわくわくするようなビジョンが語られているかどうかが最近よく言われていることからヒントを得てここに書いた。実際、ご紹介した岩美中学校では、地域の活性化に向けて、いかに学校が町の拠点となるかということをビジョンとして掲げているが、これはわくわく感がある目標だと私は感じている。今回ご紹介していないが、有名な事例として、宮崎県五ヶ瀬町が挙げられる。小さな町ではあるが、その小ささをいかして、町全体を大きな美術館として捉え、町じゅうを生徒たちの表現の場として展示をおこなうというようなことを一つのビジョンにして取り組まれている。そういったところが一つのヒントかと思っている。

最後に自由討議が行われた。概要は以下の通り。

  • 今日はとても良いご報告を聞かせていただいた。その中で考えたことを2点ほど挙げたい。
    1点目は、学校改善の中身の違いによる学校評価の仕方の違いについて。各学校によっていろいろな改善の課題があると思う。例えば単純化して言うと、マイナスをプラスにする改善の場合と、ゼロをプラスにする改善の場合とでは、それだけでも学校評価の手法に大きな違いがあるということを考えなければいけない。
    2点目が、段階的な取組モデルの必要性について。各学校が学校評価の実効性を高めていくために、これから考えていかなければいけないことの一つが、例えば入門編から基礎編、初級編、中級編、上級編とステップアップしていくルートをどのように作るのかということ。今、なかなか学校評価がうまく機能していないという学校が、まず何から取り組んだらよいのか、その入り口はどこにあるのか。また、その入り口を少し入ったら、どう次のステップに進んで行くかという、ステップアップの段階を考えていく必要がある。
  • 石坂委員のお話の中で、実は地域の方が評価委員会の中に入っていないというお話があった。仙台市では、今、地域とのかかわりというのを前面に打ち出していろいろな取組をしている背景があり、自治体によっては地域の協力が得られない場合があるのかと感じた。

【石坂委員】
協議委員会には地域の方も入っている。ただ、地域の方に対してアンケートはとっていないということ。

  • 實吉委員の発表にあったように、私立学校はやはり公立学校と違うということを強く感じた。評価そのものが学校経営そのものに直結してくるという点で、ある意味では非常に厳しい環境におかれていると感じた。
    妹尾委員の発表については、「重点化」とか「できることから」というキーワードが非常に印象的だった。学校は今まで、あれもこれもやってきて、結局何もできなかったという現状があった。むしろできるところから重点化して取り組んでいくということが非常に大事だと思った。
    最後に、校長の交代は大きな課題だと思った。連続性は私立学校の特徴にもなっているが、公立の場合は人事異動で校長が代わると、その都度学校評価システムが変わってしまう。
  • 今回、発表を伺って改めて、学校をよくしていくためには、子供に生きる力をつけさせていくためにはどうしたらいいのかということを、校長、教頭、管理職、教職員はもちろん、お互いに夢を語り、手段を考え、協力できる場と機会を設けてというように、コミュニケーションを重ねていく必要がある。そういったものに学校評価を使っていくということがやはり大事。
  • 今日の「検討課題の視点」の中にも挙がっているが、学校評価はあくまでも評価自体が目的なのではなくて、学校をいかにしてよくするかというためのツール。地域とのコミュニケーションツールとしての学校評価の使い方を検討していくのが本委員会の一つの課題だと思った。
    もう一つ、私学と公立との違いということで言うと、私学は常に存立の危機、世間の目にさらされているので、そういう意味では学校評価も一つのツールだが、公立学校に比べるとやはりウェイトは低いという気がした。
  • 今日ご発表いただいた方々は設置者も異なり、全く枠が違う中でそれぞれ学校評価をされていることをお伺いしたが、例えば私学の場合は、目標をどうつくり上げて、それをどう継続させていくかということが大前提としてあるので、そこにあまり検討を差し挟む余地がない。ある意味、目標の設定を喧々囂々やっている公立の学校からすればうらやましい部分もあるのかと思ったが、逆に、校長や理事長だけが頑張ってしまいがちでマネジメントが難しい、個々の環境に応じた学校評価なり学校の改善の課題というのがあるというのが、当たり前のことながら、今回、再認識することができた。
    また、妹尾研究員がおっしゃっていた、当たり前のことをやるのが難しいというのは、本当にその通りだと思う。当たり前のことは何なのかすらもきちんととらえられていないまま日常を走りまくっているのが学校現場の現実であり、学校評価という大きなところにいきなり飛びつこうとするのではなくて、まず自分たちの現状、何をすればいいかを検討することが必要。また、やはり学校評価は改善に結びつかなければ意味がない。目標があまりに高過ぎても、改善に至る前で倒れてしまうので、最初は「えっ、こんなもの」というぐらいのことから始めればよいということを今回改めて感じた。
    地域づくりと学校づくりをどのように一体化するかが課題。例えば鳥取県は大学進学やその後の就労で大都市圏に人工が流出するため、18歳以上の人数が極めて少なく四十五、六歳までの間がすぽっと抜けている。福井県や岐阜県でも申し上げているが、こうした事態が続けば、地域は衰退していく。
    地域が今後も存続し得るような活性化のための学校づくり、教育の実現が重要であるが、そのためには、より地域の人々が一緒になって教育を考える場や議論する場が必要であり、その中に学校評価がコミュニケーションツールとして位置づけばいいと考える。
  • 学校教育は何のためにあるのかというと、やはりどういう子供、どういう人間を育てるかとなり、そのツールとして学校改善が重要になるが、プロセスと、目標の立て方、どのような人間を育てるかということとをきちんとつないだ上での学校改善の在り方というのを考えることが大事だと改めて思った。
  • 東京都、その中でも特に日比谷高校は注目される存在にあるので、将来にわたり学習する基盤としての学力観や、基礎的な知識及び技能、これらを活用するための思考力、判断力、表現力、そして主体的に学習する態度、意欲を伸ばせているかという観点から教育課程の学校評価を考えていただき、それを日比谷高校から発信していただきたい。
  • 妹尾委員の発表資料の12ページにばらばらの三角形があるが、実はこういう学校が多かった。今日、日比谷高校を始めとする都立高校の取組が改善されたことは大きな成果だと感銘を受けた。
    さらに私学になると、財政、経済的な裏づけも必要となり、学校評価が機能する基盤には、経営機能が基盤として成立していなければならない。東京都が自己管理システムや校長の経営計画等をシステム的に入れたように、まずOSに当たる部分を整理して、その上で、ツールとしての学校評価を機能させていく。それが学校が求める、例えば地域の創造的な機能を果たすような学校教育といった、本当に目指していきたいところに向かい、実効性につながっていくと受けとめ直した。
  • 日比谷高校の学校評価は形が随分整っていると改めて実感が、ここから実効性をどうアピールしていくのかが改めて課題だと思った。
    私学は外部の評価についてかなり敏感だとわかった。その上で、改めて私学における自己評価が多様だと思うった。
    好事例からはだんだんと取り組みを発展させてきたという、その「だんだんと」という部分のプロセスの分析が必要。一定の時間的な経過の中で学校評価も実効化・実質化していくものである。時間的な経過の中には例えば校長の人事等々があるが、それをどのように押さえればよいか考えさせられた。

【石坂委員】
教育委員会が行ったことをいかに生きたものにしていくか、国が行おうとしていることをいかに自分の中できちんとしたものにしていくか、自分の学校らしさにしていくかというのが課題。
目新しいことを何かするというよりも、まず自分たちがしなければならない、当然のことをしっかり行う。教育の中身を以下に充実させるかが勝負だと思っている。そのためにも学校評価が充実したものとして、やらなければいけないからやるのではなく、それをどう活用したら生きてくるのかという視点でもう一度、改めてしっかりと取り組んでいきたい。

【實吉委員】
教員免許更新制度の講習をどうするかということで、1つご報告しておきたい。日本私学教育研究所が行っている教員免許更新講習の中では、先生方に経営の視点をどう持ってもらうかということを重要視しており、学校会計、あるいは私立学校の在り様等の講習が行われている。公立の先生方への教員免許更新講習のときの講座のつくり方の参考となると思う。

【妹尾主任研究員】
今回、私に課せられたことの一つは、現状把握に少しでも役に立つことであると思い、限られたアンケートのデータではあるが、意外とできていない取組も多い現状を踏まえて、今後の議論をお願いできればと思う。
また、なぜ、一見当たり前に見えるようなことがなかなかできていないのかということについても、今後の議論でも深まっていくといいと思う。
最後に、財政が厳しい中でも、例えば学校間連携での授業改善は大きな財政負担がなくできるし、全国学力・学習状況調査を初め、個々のデータをうまく使っていけば十分できていくと思う。そういった小さなことからでもやっていくことが今後の大きな課題であると思う。

事務局から次回の日程について連絡があり閉会となった。

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