○ 学校・家庭・地域の連携に関連する制度や事業としては、現在、以下のようなものがある。
1.
地域の意見等を学校運営に取り入れる制度
・学校運営協議会(コミュニティ・スクール)
保護者や地域住民から成る学校運営協議会が、合議体として、一定の法令上の権限を持って学校運営に関与する制度
・学校評議員
校長が必要に応じて、学校運営に関する保護者や地域住民等の意見を聞くための制度
・学校関係者評価
学校の自己評価の客観性・透明性を高めるとともに、学校の現状等について学校・家庭・地域が共通理解を持つことを通じ、学校運営の改善を図るための制度
2. 地域が子どものための教育活動等を支援する仕組み
・学校支援地域本部
学校・家庭・地域が一体となって地域ぐるみで子どもを育てる体制を整え、地域のボランティア等が学校の教育活動を支援する仕組み
・放課後子ども教室
小学校の余裕教室等を活用し、地域住民の参画を得て、放課後や週末等に子どもたちと共に学習活動や交流活動等を行う仕組み
1. 地域の意見等を学校運営に取り入れる制度に関する課題
〔学校と地域の意識の問題〕
・学校ボランティア等の学校への支援活動は比較的取り組みやすいが、コミュニティ・スクールのような、学校運営に対して責任ある意見を述べる制度については、学校側、地域住民側の双方に抵抗感がある。
・学校側が支援を受けることを意識しすぎるあまり、地域の側に下請け感が出てしまう。あるいは逆に、学校と地域の関係構築の役割を学校が一方的に負担してしまい、教職員の負担感が大きくなってしまう。
〔活動の形骸化〕
・学校と地域の信頼関係や協力関係が成熟していない地域にコミュニティ・スクールを設置しても、学校と地域の意識のずれが大きすぎて、活動が形骸化しやすい。
・学校運営協議会については、法令上の権限と責任を持って能動的に学校運営に関与することが期待されているが、関係者の遠慮や多忙等により、期待される役割を果たしていないことがある。
・学校・家庭・地域の連携を進める上では学校関係者評価を効果的に活用することが重要であるが、実際には「自己評価結果を学校評議員会に報告して意見をもらうだけ」といった取組も少なくない。
2. 地域が子どものための教育活動等を支援する仕組みの課題
〔行政部局間の連携不足〕
・学校教育部局、社会教育部局と福祉部局の連携不足により、効果的な取組が阻害されることがある。
〔組織的な取組〕
・NPO法人化などの支援者の組織化がなされないまま、特定の人物に活動の多くを依存してしまい、その人物がいなくなってしまうと活動が停滞してしまうことがある。
〔活動経費の確保〕
・基金の設置など、コーディネーターの謝金やボランティアの保険等の取組に伴う経費を継続的に確保する仕組みが整備されず、モデル事業等の終了後に取組が低迷することがある。
3. 共通する課題
〔校長の資質〕
・取組の広がりや深さが、校長の意思と能力に大きく依存する。地域との連携に理解のない校長が赴任してくると、それまで築き上げた地域との関係を壊してしまうことがある。
〔地域特性等の違い〕
・都市部と農山漁村の違いや学校規模の違いなど、地域の状況によって学校や地域の抱える課題等が大きく異なっていることから、個々の地域の状況によって取組の目的も手法も様々であり、単純なモデル化が難しい。
〔生涯学習の視点の欠如〕
・連携を通じて地域住民や教職員も成長するという生涯学習的な効果があり、この成長がさらなる連携・協力の動機付けとなるという好循環も実際の取組の中では見られるが、この点を明確に意識した取組は少ない。
○ このような現状を踏まえると、目指すべき学校・家庭・地域の連携の姿は、次のようなものと考えられる。
・多様な外部人材との触れ合い等を通じ、グローバルな社会の中で「生きる力」を子どもたちにしっかりと身につけさせるとともに、
・協力し合う地域住民と教職員という大人たちの成長をも促し、ネットワークを広げることや、学校や地域のために協働することが生きがいにつながるような取組を行い、
・地域の課題解決や地域住民の主体的な活動のために、学校施設等を積極的に提供する学校
○ このような学校を目指すためには、地域との連携を重視する明確な意識を持ち、かつ連携に必要なマネジメント能力(※)を身につけた校長がリードし、教育委員会(教育長)がそれを支援していくことが不可欠である。また、国においても有効な推進方策を検討することが望まれる。
※目指すべき学校の将来像を具体的に提示し、企業や他の組織のような人事権や予算権に依ることなく学校を組織として動かすとともに、関係者と連携していく能力
○ なお、連携の深さについては、まずは学校と地域の協力関係の構築から始め、関係が十分に成熟した後に、コミュニティ・スクールのように学校運営に対して意見をもらうようにするなど、一気に理想型を目指すのではなく、段階を踏んでいくことが重要となる。
地域(※)との協働により、すべての子どもに「生きる力」を確実に身につけさせるとともに、関係する大人たちの成長も促し、地域を活性化させる「場」となる学校
※ ここでの「地域」とは、近年のグローバル化、情報通信技術の発達、少子高齢化、家族の変容、価値観の多様化などといった社会環境の大きな変化を踏まえて、地縁等に基づく昔ながらの共同体のみならず、地域住民、学生、大学、社会教育施設、商工会、企業、町会、民生委員、NPO、文化施設、スポーツ施設、福祉関係部局、まちづくり関係部局など地域の実情に応じた幅広い関係者を想定。
1. 【多様な人々との触れ合いを通じて充実した教育を提供する視点】
多様な教育課題に対応しつつ、子どもたちに「生きる力」を身につけさせるため、学校だけではなく、保護者や地域住民、関係行政機関が積極的に連携・協力し、子どもたちが多様な人々と触れ合いながら学べる環境を提供する。その際、学校段階を跨いだ教育課題への対応や、地域全体の教育の在り方を考える視点から、一定の地域的な広がりを視野に入れた学校間連携の視点も重要である。
2. 【大人の生涯学習の場としての視点】
学校・家庭・地域が力を合わせて取り組むことで、教職員・保護者・地域住民が互いに学び合い、そこで形成されたネットワークや学びの成果が新たな活動へとつながるという、生涯学習の場としての役割を果たす。
3. 【学校を拠点とした地域づくりの視点】
様々な関係者の協働を通じて地域社会のネットワークの強化とコミュニティの活性化を図る「場」を提供する。その際には、地域住民が主体となる教育以外の活動も含めることが望ましい。学校や教育委員会には、教育活動や学校安全への影響を考慮しつつ、学校の施設等をそれらの活動のために提供する際のルールを明確にしていくことが望まれる。
1. 地域住民等との協働を進めるための戦略的なマネジメント
※外部からの人材登用を含め、地域連携を効果的に進めるためのマネジメント能力を有する校長・管理職を置くこと
2. 学校・家庭・地域が「熟議」し、その結果を学校運営に反映するとともに、「熟議」の当事者として責任を持って学校運営に参画する関係づくり
※法令上の制度の活用の有無にかかわらず、地域コーディネーターや学校ボランティア等の関係者と学校の教職員、保護者が「熟議」して課題解決等を図ること
3. 地域住民等をひきつけ、参加や学習活動を促進するための工夫
※大人と子どもが一緒に学ぶ公開授業の実施など、生涯学習的な意義を積極的に意識した活動
4. 幅広く継続的な地域の支援ネットワーク
※支援組織のNPO法人化や、基金の設置等による活動経費の継続的な確保、各種NPOや企業等を含めたネットワークの構築など、幅広く継続的な学校支援活動を支えるための仕組み作り
5. 地域全体の課題解決や活性化に資する取組
※長期的な子どもたちの成長の在り方を考慮しつつ、例えば中学校区程度の広がりを視野に入れた学校間連携や地域連携を図る
6. ICTの活用などによる交流の活発化、業務の効率化、授業改善などの取組
※メーリングリストやSNSの活用などによる保護者・地域住民等との交流や、地域人材のICT支援員としての活用
初等中等教育局参事官(学校運営支援担当)付