コミュニケーション教育推進会議(第3回) 議事要旨

1.日時

平成22年7月14日水曜日 13時~15時

2.場所

学術総合センター2F中会議場

3.議題

  1. ワーキンググループの設置について
  2. コミュニケーション教育の趣旨や意義について
  3. その他

4.議事要旨

【平田座長】  それでは定刻でございますので、ただいまから、第3回コミュニケーション教育推進会議を開会いたします。

 本日の会議は、教育ワーキンググループ、連携・普及ワーキンググループとの合同開催という形で、各ワーキンググループの委員の皆様にもご参加いただいております。

 皆さん、ご多忙のところご出席いただきまして、ほんとうにありがとうございました。よろしくお願いいたします。

 それでは初めに、鈴木副大臣よりごあいさつをちょうだいしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【鈴木副大臣】  お疲れさまでございます。今日もほんとうにお忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。

 今回、第3回ということでございますが、先般は富士見丘小学校にもお邪魔させていただきまして、平田さんの授業も見せていただきました。杉並区の関係者、そして富士見丘小学校、まだ浅川先生はお見えになっていませんが、感謝を申し上げたいと思います。

 一方で、292の学校で既にワークショップが手が挙がり、そしてそれについて、今着々と進んでいるところでもございますので、こうした動きをさらに加速させていくために、それと私どもはこの子供たち、あるいは学校や学級でコミュニケーションを創起したいということを言っておりまして、これはよくご案内のことだと思いますが、あらゆる授業にコミュニケーションの契機、チャンス、あるいは萌芽というものはあると思っていますので、そういった議論もさらに深めていただければと思います。よろしくお願いいたします。

【平田座長】  ありがとうございました。

 次に、配付資料の確認を事務局よりお願いいたします。

【倉見学校教育官】  それでは、配付資料の確認をさせていただきます。まず、封筒の中に入っているものでございますが、議事次第が一番上にあるかと思います。資料1はコミュニケーション教育推進会議及びワーキンググループ委員の名簿でございます。資料2でございますが、コミュニケーション教育推進会議の検討体制という資料でございます。資料3でございますが、推進会議におけるこれまでの主な意見。資料4-1、教育ワーキンググループ(第1回)における主な意見。資料4-2、連携・普及ワーキンググループ(第1回)における主な意見。資料4-3でございますが、各委員から昨日までにお出しいただきましたワーキンググループ検討事項(案)にかかわるご意見の束でございます。資料5は、本日ご発表いただきます、吉本委員のアート教育を推進する国内外の取り組みという資料でございます。資料6も同じく、今日米屋委員からご発表いただきます資料でございます。資料7は、子どもたちをめぐる現状についてというもので、事務局から用意させていただいたものでございます。資料8、コミュニケーション教育推進会議の検討の進め方(イメージ)というものでございます。

 それと、参考資料といたしまして、8月18日に企画しておりますコミュニケーション教育普及協議会実施要項の抜粋でございます。

 それと、芸団協さんからの表現教育指導者研修コースのパンフレットを同封させていただいております。

 それと、委員の先生方の机上に置かせていただいているものでございますが、芸団協さんがつくっております、こういったブックレットを5冊ほどお配りさせていただいております。

 それからこのグリーンのものは、世田谷パブリックシアターでつくっている冊子でございます。この中身につきましては、後ほど髙木委員から若干ご説明いただければと思っております。

 それから浅川委員から、杉並区立富士見丘小学校での取り組みに関する資料が置いてあります。

 それと砂田委員から、ティーチング・アーティストといったパンフレットでございますが、これを置かせていただいております。

 それと、このブルーのファイリングでございますが、これまで第1回、第2回の会議及びワーキンググループの第1回の会議で配付させていただきました資料をとじてありますので、適宜ごらんいただければと思います。

 それと、本日のご発言をなされる場合には、この机上のブルーのボタンを押していただくとランプがつきますので、ご発言いただける状況になりまして、もう一度押しますと切れるという状態になりますので、よろしくお願いしたいと思います。

 以上でございます。

【平田座長】  ありがとうございました。それでは早速、本日の議事に入りたいと思います。

 前回の会議で2つのワーキンググループの設置とそのメンバーについてご承認をいただきました。また、教育ワーキンググループの主査として髙木委員に、連携・普及ワーキンググループの主査として吉本委員にお願いしております。それぞれ早速、第1回の会議を開催していただいたところです。

 それでは各ワーキンググループにおける意見の概要について、推進会議のこれまでの主な意見とあわせて、事務局よりご報告をお願いいたします。

【伯井教育課程課長】  それでは資料に基づきましてご説明いたします。

 資料1、資料2がワーキンググループの委員の分属とその検討事項、検討体制を示したものでございます。前回のこの会議でワーキンググループの設置をお認めいただきました。

 資料2にございます教育ワーキンググループにつきましては、主として教育内容面ということで、各教科等におけるコミュニケーション教育の位置づけでありますとか、学習指導要領との関係、あるいは演劇・ダンス等の芸術表現を用いたコミュニケーション教育のプログラム開発とか、あるいはそうしたことに対する教員の研修等資質向上方策ということをご検討いただきます。

 連携・普及ワーキンググループでは、学校・教育委員会と劇場等との連携・協力の具体的な推進方策、その中で292校の芸術表現体験ワークショップが現にスタートしておりますので、そうした事業スキームのあり方も含めて検討していただくと。そうした中で、外部指導者の養成・研修方策であるとか、こういう取り組みの全国の学校、あるいは保護者等への理解の促進方策、普及の方策をご検討いただくということで、ワーキンググループを設置したわけでございますが、資料1にありますように、先ほどもございました教育ワーキンググループにつきましては、髙木先生が主査、米屋先生が副主査、連携・普及ワーキンググループにおきましては、吉本先生が主査、高萩先生が副主査ということで、検討をスタートしていただいております。

 資料3が、第1回推進会議、第2回推進会議のこれまでの主な意見でございます。これは後ほど議論の中で、また適宜ご参照いただければと存じます。

 資料4-1が7月6日に行われました、第1回の教育ワーキンググループでの主な意見でございます。そもそもコミュニケーションとはどう考えるべきかとか、あるいはコミュニケーション教育の趣旨や意義についてのご意見、さらには学校の教師として取り組みを始めるに当たっての負担感の解消等のご意見、それから、そのコミュニケーション教育実践のよさを未実施校に伝えていくにはどうすればよいのかとか、外部講師の養成についてのご意見などをいただいております。

 さらに、資料4-2が連携・普及ワーキンググループ(第1回)、7月7日に開催されましたが、その主な意見でございます。劇場等と学校・教育委員会の連携・協力の推進方策といたしまして、学校と芸術団体とをつなぐコーディネーターの役割をどう考え、検討していくかとか、あるいはその事業の申請に当たっての、より柔軟で使い勝手のいいシステムをどうすればいいのかということ、さらに、外部講師、指導者の養成・研修方策をどう考えればいいのか、学校への具体的な普及・展開のあり方について、具体の授業の実施のスキームの中でどのように考えていけばいいのか、あるいは学校、保護者への理解の促進方策をどう考えていけばいいのかなどのご意見をちょうだいしたところでございます。

 第1回のワーキンググループの状況等、以上でございます。

【平田座長】  ありがとうございました。

 それで、今後それぞれのワーキンググループで議論を進めていただくんですが、この具体的な進め方については、今日の会議の最後に時間をとって検討したいと思います。

 その前に議論の前提として、推進会議の委員、それから両ワーキンググループの委員全員が、コミュニケーション教育の趣旨や意義について、考え方を共有しておく必要があると思いますので、今日の会議の前段は、そのイメージづくりということで少し話を進めていきたいと思っております。

 まず、吉本委員から第1回に引き続き、諸外国の取り組みについて、米屋委員から芸術団体の取り組みについてご発表いただき、議論のたたき台にしたいと思っております。

 それでは吉本委員、よろしくお願いいたします。

【吉本委員】  はい。お手元の資料5というものをごらんいただきたいと思います。前回のこの会議でイギリスの制度、それからクリエイティブ・パートナーシップについてはDVDをごらんいただきましたので、今回はほかの欧米諸国ということで、フランスとドイツとアメリカの例をご紹介したいと思います。

 今日ご紹介するものは、前回のときも少しお話ししましたが、昨年度と一昨年度、地域創造で実施しました「文化・芸術による地域政策に関する調査研究」の成果に基づいております。この調査研究は、平田座長をはじめ、苅宿委員、楠瀬委員、堤委員にもご協力いただいて実施したものです。今ちょうど報告書が印刷に入っていまして、最終的には海外調査だけでこういう分厚いものになりますので、地域創造の了解を得られれば、皆さん、委員の先生方にご提供できると思います。その中で今日は、現在こちらで検討しております文科省の制度に参考になりそうなものをピックアップしました。

 イギリスは前回報告しましたので、4ページ目のフランスからご説明したいと思います。フランスではここに2つ事例を挙げているんですけれども、1つ目は国立のANRATという組織でございます。これは演劇教育を推進するために1983年にできた機関でして、、小中学校を対象に、アーティスト1人、教師1人をパートナーとして、演劇実技の授業を年間50時間行うもの、それと高校を対象に、演劇の理論などを行う週7時間の科目的なものがあります。

 基本的に学校から申請する仕組みになっていまして、申請が採択されると、文化省の地方事務所であります地方文化局、これはドラックというんですけれども、そこから2,500ユーロ――今のレートだと30万円弱になると思います――が学校に支給され、それから教育省の地域事務所であります大学区委員会から教師の残業代が支給されるというような、お金の流れができる仕組みになっております。昨年だか一昨年だか、実績調査を行っていまして、この制度はうまく機能しているというような結果も報告されています。

 それから2つ目は、パリのセンターというか機関なんですけれども、映像と身体表現、とりわけこれは演劇だったと思いますけれども、その教育を支援するための中間支援組織です。これも科目として存在しなかった演劇と映画を学校教育に取り入れるというのが目的でつくられた制度でして、アーティストは50人登録されていて、毎年150件の応募があり、80件から100件のプロジェクトが行われています。

 このMGIというのはちょうどポンピドー・センターのすぐそばに、事務所というか、オフィスというか、小さなホールとかギャラリーとか、映像の編集室を持っておりまして、学校で行うワークショップとそのMGIのセンターで行う授業が一体的に行われております。予算の9割はパリ市が出している機関です。

 駆け足で恐縮ですけれども、続いてドイツに行きたいと思います。

 1つ目の「子どもたちをオリンポスへ!」というのは、正確には全州文化財団、ご存じのようにドイツは大変州政府が強いので、州ごとにいろんな政策が行われているわけですけれども、その全部の州を対象にした文化財団というものがありまして、そこが立ち上げたプロジェクトです。実はドイツは学校が全日制ではなかったということがあって、それが今全日制になっているそうなんですけれども、その全日制に移行したときの授業の組み立てというものを再検討する中で、さまざまな芸術のプログラムが取り入れられていっております。

 この財団は、個々ばらばらに行われていた芸術系の授業を、とにかく総合的に推進しようということで、毎年こういう分厚い事例の本を出しております。ここには何百も事例が出ているんですけれども、さまざまな分野のものが出ておりまして、その中からすぐれた芸術教育のプログラムを表彰するコンクールをやっております。コンクールをすることで、芸術教育、コミュニケーション教育の全国的な推進を図ろうということで、昨年は3万人の生徒が全国で参加しているということです。

 2つ目の演劇と学校、TUSCHというんですけれども、これはTheater und Schulen、演劇と学校の略で、ベルリンにありまして、劇団と学校をパートナーにして演劇の授業を推進するというようなことをやっている組織です。基本的に非常に長い、3年という期間を設定して学校と劇団パートナーを組んで、演劇の授業を学校で行うわけですけれども、同時に子どもたちは劇場に来て、劇団の作品づくりを見たりとか、照明、衣装などのプロセスを見たりということを学んでおります。最終的には参加校による作品のフェスティバルというのが、このTUSCHの劇場で行われております。当初は4組だった学校と劇団のペアが今は40組に増えているということで、大変ニーズがあるということです。

 この組織はもともと民間主導のNPOで立ち上がったんですけれども、去年私が取材したときの話では、今年度からはベルリン州政府から20万ユーロの予算が出ることになったということで、ここのNPOに託してそういうものを推進しようという、大きな枠組みになりつつあります。

 それから、その次のケルンにあります「ダンスを学校で」というのは、ノルトライン=ヴェストファーレン州政府がダンスを振興するための事務局というのを先につくりまして、その一環で、学校でダンスの教育を推進しようということでやっております。現在200名のダンサーが登録されていまして、この「ダンスを学校で」という組織自体は個別の事業を行わずに、学校とダンサーをマッチングさせる仕組みが中心になっております。ここにあります「180度ターン」、これだけはこの組織が主体になってやっているものだそうです。

 2003年は28校の参加だったものが、2008年には483校で行われるようになって、学習面の進歩だけではなく、社会性の面でもダンスによって肯定的な効果があるということが言われております。ここも10周年でこういう記録集をつくっておりまして、コミュニケーション教育もある種、やりっ放しじゃなくて、ドキュメントをつくっていくというのが大変重要ではないかと思います。

 それから続いてアメリカなんですけれども、ちょっと旬を過ぎてしまいましたが、オバマ政権が誕生する前にオバマ・バイデンが出したマニフェストの中の文化政策の最重要課題として、芸術教育の推進を掲げております。そこには、芸術教育というのは芸術家を育てることが目的ではなくて、子どもたちの創造力を育てることが、これからのアメリカにとって重要なことですというようなことが書かれております。実は、アメリカでは、オバマ政権が誕生する前から、芸術教育というのが文化施設と共同で非常に活発に行われております。

 今回の調査で、ニューヨーク市の教育委員会にあります芸術特別事業部というところを取材したんですけれども、ここは2007年に、アート教育を推進するためのカリキュラムの枠組みであるブループリントというのを、ダンス、音楽、演劇、視覚芸術、そして映像という5分野でつくっております。このブループリントというのは指導要領のようなものだと思うんですけれども、例えばこれは映像のブループリントで、こんな分厚いものなんです。それから演劇のはもうちょっと薄いんですけれどもこういうものです。そこには、なぜ演劇というのが子どもたちの授業にとって重要だということが書かれているんですけれども、それと同時に、具体的な指導方法とかいったことが学年ごとに細かく記載されております。

 あわせてブループリントを土台にして、芸術教育がどういう効果があったのかということを証明するためのリサーチというのをやっておりまして、それがアーツ・カウントという仕組みで行われております。

 このブループリントができたおかげで、この後紹介しますが、さまざまな劇場やホール、美術館が協力して提供する教育プログラムの目標が非常に明確になったということで、これは大変大きな影響を与えているという話でした。

 7ページ以降に、演劇における教育・学習におけるブループリントの冒頭部分を抜粋して翻訳しております。これを全部紹介する時間がないので、ご関心のある方は後でお読みいただけたらと思うんですけれども、まずニューヨーク州政府にもアート教育の基準というのがあるそうでして、それをもとにこのブループリントというのはできております。それでアメリカの場合、資料の真ん中辺ごろですけれども、従来の芸術教育というのは科目をベースとしたモデル、もしくは結果をベースとしたモデルのいずれかだったそうなんですけれども、このブループリントではその両方のアプローチを採択していて、いわゆる美学教育的なものと実技、これを組み合わせてやるということが大変大きな特徴になっているということです。

 演劇の場合の目的は、7ページの下のほうにございますけれども、創造的表現、規律、コラボレーション、自己認識、自己改革といった能力を育てるというのが演劇の大きな力だと認識されているようです。

 8ページに、このブループリントにおける演劇の5本柱が書かれておりますけれども、演劇をつくるという授業、それから演劇におけるリテラシーを身につけるという授業、つながりを持たせるという仕組み、地域資源や文化的リソースを活用する、キャリア追求及び生涯学習に結びつけると、この5本柱で推進すべきということが、このブループリントではうたわれております。

 それで9ページ以降は、年齢別に具体的な評価基準というか、目標が定められておりまして、幼年期から小学校2年生までの評価基準はここに書かれているとおりなんですけれども、これを読むと、このそれぞれの年代の子どもたちが演劇にどういうかかわりを持つのかということが記載されていまして、中段にありますが、社会的/感情的側面での評価基準、それから認知的側面での評価基準、美学的側面での評価基準、メタ認知的側面での評価基準というのがそれぞれの年齢ごとに細かく書かれております。

 9ページ目の下段のほうは、小学校低学年から5年生までの評価基準、それから10ページに行きまして、中学生から中学2年生までの評価基準、その下が高校生から高校3年生までの評価基準というようなことで、かなり詳しく分析をされて、教育目標あるいはどう評価すべきかというのが書かれておりまして、大変参考になる内容が出ております。

 それからアメリカの芸術教育というのは、70年代ぐらいに財政危機で学校の予算が減って、学校から芸術系の先生が解雇される形でどんどんいなくなった時代があったそうです。その反省で、なくなりつつあった芸術教育が重要だということを芸術機関の側が立ち上げて、さまざまなユニークなプログラムが始まっています。

 その代表がカーネギーホールなんですけれども、カーネギーホールは2003年にサンフォード・I・ワイル夫妻から、これはたしかもとのシティバンクの会長だったと思いますけれども、莫大な寄附を受けて、音楽教育だけを行う専門のワイル音楽教育研究所というのをつくっております。そこで、それまでのカーネギーホールが推進してきましたさまざまな音楽教育のプログラムを拡充させて、ほんとうに多様なことをやっております。プログラムは非常に幅広いんですけれども、学校向け、家族・コミュニティ向け、専門家向けと3つのカテゴリーに分かれておりますが、学校向けは幼稚園から高校3年生までを5つのグループに分けて、それぞれの年齢に応じたプログラムというのを組み立てて実施しております。

 例えば、「リンカップ!」という、カーネギーホールで最も歴史の長いプログラムは、小学校3年生から5年生を対象にしたもので、そのために様々なツールを作成しています。これは教師向けのガイドブック、この中にはCDで音源も入っております。それから子供向けのガイドブック、こういうものを丁寧につくり込んで授業を行っております。「リンカップ!」の場合は、学校でのワークショップを何回か行った後、最後にカーネギーホールで本番の演奏会を鑑賞することになっており、同時に、子どもたちがつくった曲を、カーネギーホールでもちゃんと演奏してもらえるというような仕組みになっております。

 昨年度、学校向けのプログラムに参加したニューヨークの学校は153校。カーネギーホールは実は全米にプログラムを提供していまして、米国内で11万5,000人以上が参加したと。それですごいのは、とにかく毎年700ページのドキュメントをつくっている。こういう準備の資料、記録を含めて、それぐらい丁寧に1つのNPOのコンサートホールがやっております。

 12ページの一番上に、ワイル音楽教育研究所のディレクターでありますサラ・ジョンソンさんという方がおっしゃっていた、音楽による教育の目的とか効果のことが非常に印象的だったので、ここに引用しました。「21世紀において身につけるべき能力は創造力、想像力、協調性、チームワークであり、こうした能力を伸ばすためにはアートや音楽が非常に適している。一部の子どもたちにとっては、アートだけが彼らの興味を惹きつけ、インスピレーションや達成感を与えることができる場合がある。アート教育において達成感と自信を得ることができた子どもたちは、また他の教科にも積極的に取り組むようになり、全体的な学力を伸ばすことにもつながる」。つまり学びに対する意欲を高めることができるということをおっしゃっています。

 このワイル音楽研究所の予算は、年間約6億円ですから、こちら文科省の今年度の予算は2億だったと思いますので、カーネギーホール1つでその3倍もの教育事業をやっているというぐらい、積極的にやっております。ここには専門のスタッフが19名おりますので、すぐにはここまでいかなくても、日本の劇場、ホールでもこういう体制づくりというのが、将来のビジョンとしては必要かなと思いました。

 続いて演劇部門では、リンカーンセンターにありますリンカーンセンター・シアターというのを調査しました。ここは教育プログラムそのものはそんな大きな枠組みではないんですけれども、アメリカの劇場、劇団と組んだ演劇教育の特徴というのは、舞台で本物の作品を鑑賞するということを軸に、その前後にワークショップを行うというのが基本的な枠組みになっております。このリンカーンセンターのところの上から5つ目のポチ、ここには高校のプログラムを書いておりますけれども、2つの演目を鑑賞して、鑑賞前に3回、鑑賞後に1回のワークショップを行い、劇場で実際作品を鑑賞したときにはキャストや舞台スタッフとのディスカッションも行われる、ということです。

 そこにも書いてありますように、重要なのは、教師は並行して開催される4回の教師向けのワークショップに参加することが必須になっていることで、演劇というものがどう教育に役立つのか、具体的に演劇でどう授業を行うのかというアイディアも教えられることになっております。

 ここのディレクターも、演劇は国語力を高めるのに役立つ、同時に学力や学習意欲の低い子どもたちを、より積極的に学習に参加させるような効果があると言われていまして、このリンカーンセンター・シアターは教育的な成果を評価するため、こういう独自のスコアシートという、この中に参加した子どもたちの評価というものを、ティーチング・アーティストが書き込むというようなものまでつくっております。

 それから最後がメリーランド州芸術評議会です。アメリカの場合は州政府にそれぞれ芸術評議会というのがつくられておりまして、ほとんどすべての州で芸術教育――Arts in Educationと呼んでおります――が実施されております。メリーランド州の場合は、ティーチング・アーティストが長期間派遣、滞在するレジデンシー型のものと、それからダンスや演劇、音楽のパフォーマンスやワークショップを派遣する、Visiting Performersという2つのプログラムが行われています。レジデンス型のものはティーチング・アーティストの登録制度あって、アーティストは審査を受けて登録する仕組みになっています。分野は舞台芸術、劇作、詩、美術と、メリーランド州ではこの4分野が行われております。

 レジデンス事業の場合は、1週間以上2カ月以下の長期的な滞在型ワークショップということで、例えば舞台芸術の場合は12セッション以上、演劇作品をつくる場合は30セッション以上と、大変細かく規定が決められておりまして、仕組みは、登録アーティストの中から、学校側がこのアーティストと授業をやりたいということを選んで、直接交渉してスケジュール等が成立した時点で、このメリーランド州芸術評議会に申請をしますと、費用の半分が評議会から出るという仕組みになっております。

 メリーランド州だけで2009年度は6,593件のパフォーマンス、ワークショップが行われて、20万人以上の生徒が参加したそうです。これも一つの参考になる仕組みだと思いますが、登録アーティストという制度があって、学校側がやりたいアーティストと組んで、具体的なプログラムを立ち上げていくというようなことでございます。

 以下は、韓国等幾つか出ておりますけれども、韓国は前回平田座長からご報告がありましたので、私からの報告は以上3カ国にしたいと思います。

【平田座長】  ありがとうございました。

 それでは引き続き、米屋委員よりご発表をお願いいたします。

【米屋委員】  今日の私のプレゼンテーションは、授業を行う実演家の事前研修としてどんなことをしてきたかというのがメーンと思っているんですけれども、ただ、実演家による授業というのがどういうものか、先日、2回目のときに平田座長による授業見学という機会もございましたけれども、全員の方が見学なさっているわけではありませんので、授業の中でどういうことを重視して活動しているのか、その点も少しご説明しながら、実演家の研修と、実践の広がりの課題に触れるところまで、ちょっとご報告したいと思います。

 まず、芸団協では先ほどチラシもお配りしておりますけれども、表現教育という呼び方をしております。その土台になっていますのは、イギリスのドラマ教育ですとか、アメリカのクリエーティブドラマの手法、そういったものを活用しているわけなんですけれども、日本で演劇、ドラマというような言葉を使いますと、人によって想起するイメージが全然違っているということですとか、あるいは中には演劇という言葉にアレルギーを持っていて、何か好ましくないものと思っていらっしゃる方もいるということがありまして、また学校の中で演劇というと、学芸会の学校劇というようなことにイメージが固定化してしまうかなというのもあって、使っておりません。

 それと、芸団協は演劇だけではなく、音楽、舞踊、演芸そのほか、いろいろな実演芸術の団体の方が集まっている組織ですので、特定のジャンルだけの活動ととらえられたくないという理由もあります。実際これまで研修を受けた方の中には、演劇の分野だけではなくて、ダンサーですとか落語家の方もいらっしゃいます。

 それでこの表現教育の手法を使って、その先にダンスであったり、音楽であったり、あるいは美術であったりというように、いろいろな芸術に分化していく前の根本の活動という意味でとらえておりまして、ですので提起としては、実現芸術の技能の修得を第一義に考えるのではなくて、感性を磨き、コミュニケーション能力を高め、みずからが表現することの楽しみ、喜びを味わうことが芸術表現の大切な一歩である、そういう考えに基づく諸活動と言っております。

 それで、芸団協の実演家の研修なんですが、2000年からスタートしております。今日お配りした資料は後ほど見ていただければと思いますが、後半のモノクロのほうの表が、やってきたことのサマリーです。振り返ってみますと、3年ぐらいごとにちょっと活動の内容が変わっておりまして、まず2000年から最初の3年間というのは、研究試行期といいますか、このとき助成金をもらって、事前準備会ですとか、事例研究ですとか、そういった研究をもとに実際に学校に実演家を連れていって、授業をしてみるというところまでやっております。今日お配りしましたブックレットも、この間こういった活動を広めるにはどうしたらいいかということで、基本となるような情報を集めようと思ってつくったものです。

 2期目は、この最初の試行期の活動を踏まえまして、1年のうちに少人数で事前研修をして、学校に行って、それからその後の振り返りブラッシュアップセミナーをするというような活動を、3年間続けました。

 3期目は、このころから学校から頼まれて、何らかの活動をしたという人がだんだん増えてきましたので、その経験交流を中心にして研修をやっていて、少人数制のコースというのはやらなかった時期です。

 昨年度からちょっと気を取り直しまして、また実習を含むコースを再開しておりますが、昨年度も全くの初心者というわけではない方も含まれるようになりましたので、これまでは学校の実践といっても小学校だけでしたが、昨年度は中学校でもやってみるということに挑戦しました。

 一体どういう授業なのかというエッセンス、ちょっと画面が見にくくて申しわけないんですけれども、この左側の円というのが平面図でかいてあるんですけれども、この8つの要素というのは、集中、感覚、身体、感情、言葉、想像――イマジネーションのほうです、それから知性、クリエーションの創造ということがあるんですが、この集中するということからだんだんこの8つの要素をまぜながら、外側に広がっていくというようなイメージで考えられています。

 活動としましては、最初は自己の発見、自分の資質を子どもたちが見つける。それから表現して楽しさ、喜びに出会う。それからそのときに他者理解、自分の独自性と他者の表現に対する共感、共鳴を実感する。それから集団の中で表現を楽しむ。それから集団で創作する喜びを体感するというような活動の目標を立てていくというものです。

 次のスライド、ちょっと見にくいかと思うんですけれども、これはHoward Gardnerが提唱した多重知能の主要な領域を並べたものなんですが、この科学的根拠は何かとか、なぜこれなのかと言われますと、あまり反証できないんですけれども、なぜ今日お出ししているかというと、言語とか数理、論理という、知性の中心にあるようなこと以外にも、音楽であるとか、身体であるとか、空間に対する感覚、あるいは対人関係ということが同列に並べられていますので、子どもたちの中には、言葉を使った活動は弱いけれども音楽が得意であるとか、理屈は無理だけれども体がすごく発達しているとか、いろんな子どもがいますので、そういったものを取りまぜて活動していくというものの説明に都合がいいので、これを出しております。この中で、後ほどもご説明しますけれども、多分実演家がすぐれているのは対人関係というところなのかなと思っております。

 芸団協が学校で活動するとき、どういうことに留意しているかといいますと、先ほどの図ではないんですけれども、集中できる環境をつくるとか、五感を使う、身体を使うということです。感じることに間違いはないわけですので、自分の感じ方に自信を持てるようにという自己肯定感を養うことに気をつけます。それから、自分の感じ方はいいんであれば、相手の感じ方もちゃんと受け入れられるでしょうということで、相手の表現を受け入れる相互信頼ということを留意しまして、それで自分からやりたいという気分になるような環境に整えていきます。

 こういうことを子どもたちの発達段階に応じながらプログラミングしていきまして、その上で集団の創造活動に向けていくと。あまり実際には私たちでは経験していないんですけれども、最終的に表現をしていくということになると、ずっと追求していくと、その表現をどう伝わりやすくするかという選択であるとか、より美しいものにしていくという、洗練であるとかにつながっていくのかと思いますが、大概はその前段階ぐらいで、私たちのかかわりというのはこれまでは終わっております。

 それで事例を少し、小さな写真でわかりにくいかもしれませんけれども、これは2006年度に小学校3年生の授業にかかわらせていただいたときのものです。足立区立弘道小学校というところなんですけれども、小学校3年生というのは地域の学習というのを社会科でいたします。地元のいろいろなところを訪問するわけなんですが、その地域学習に何とか絡められないかということで、先生と一緒に近くの民家を訪問したりということを踏まえまして、最終的には近くに綾瀬川が流れていますので、その川にまつわる昔話を題材にしようということで、実演家が図書館でいろいろ調べまして、昔話を子ども用に書き直しまして、それを教材にしました。

 ただ、それが出てくるのは最後のほうだけでして、最初はウオーミングアップで集中力をつけるとか、相手を信頼して活動するという、よくシアターゲームとか、劇遊びというような呼び方もされておりますけれども、そういった活動を取り入れてやっています。

 2回目の授業では、学年の低い子どもたちの場合は、まず最初に本物を見せて、それから空想の上での活動に入るというようなことをするんですが、見えないもの回しというのをやりまして、最初にお手玉を回して、それから今度は鬼を教室の外に出して、残ったクラスメートで何を回すかを決めて、じゃ、それを回しているふりをしようということで、鬼に入ってきて見てもらって当てるということなんですけれども、例えば先生の臭い靴下というようなお題を出したりすると、子どもたちはキャーキャー喜びながら、その靴下を回しているふりをしながら、ゲームで当てさせるというようなことをしたりもします。

 3回目の授業で、ここで写真にありますのは、ストップモーション、静止画をつくるというような活動なんですが、子どもの生活の中の題材を選ぶということで、このときは運動会の1シーンを再現しようというので、グループでお題を与えて、それをつくってみて、ほかの人たちが当てるという活動です。

 これをもとに、『槐戸地蔵』というタイトルの昔話なんですが、実演家が読んで聞かせて、これのシーンをつくると。そのシーンをつくったところから、もともと川のはんらんがあったときに、村人が役人に殺されるのを覚悟で、せきを切って田んぼを助けたというお話なんですが、そのストーリーの状況を考えさせるというような活動をしておりました。

 こういうことなんですけれども、どういうところに留意しているかといいますと、人に最終的に見せるということを重視するのではなくて、プロセスを大事にしていると。クラス内の友達同士が見合うということは、見て解釈するということにつながりますので大事なんですけれども、最終的な発表、例えば学芸会というようなことを重視しているわけではないと。

 とはいっても私どもが学校に伺うときは、学芸会の準備段階としてだったらお願いしますということをよく言われますので、そういう形で行くことは多いんですけれども、そこで感じますのは、先生方がすごく保護者に見せるということを意識して、見ばえをよくしようということにとても心血を注いでいらっしゃるので、そういうところではなく、その前段階をお手伝いしますよということで入っております。

 じゃ、プロセスだけでいいかといいますと、子どもたちには、お父さん、お母さんたちに見せようねという発表に対するモチベーションということで、発表の機会があったほうがいいという場合もありますし、逆に活動の中に見知らぬ大人がいっぱい見学に来るというのが、子どもたちにとても不安を与える状況をつくってしまいますので、見学者はどうしているのかとか、どういう人たちなのか紹介するとか、そういった留意点としても必要かなと思っています。

 あとはお手元のほうに資料として配らせていただいておりますが、実際に事前研修の中身をどう組み立てているかということを簡単にご紹介したものです。最初に基礎講座というようなことをやりますけれども、ここは今年のチラシもお配りしておりますけれども、大変軽いものになっています。その理由は後ほどご説明します。

 STEP2と3というところで、実際に学校で授業をすることを想定して授業プランづくりを行います。言ってみれば、ここぐらいまでで仮免状態といいますか、運転免許で路上に出る前の準備をするというような感じです。実際に受け入れてくださる学校を探し出しまして、そこで先生と打ち合わせをして授業をしてみるということをします。実演家で研修を受けに来る人は、この授業の実践というのが最大のクライマックスだろうと思って、一生懸命準備をしてくるんですけれども、何年かやってみて、この実践の後、ほんとうの研修が始まるなと感じております。

 といいますのは、事前に抽象的に原理原則をレクチャーして、それから応用して実践に入ってくださいといっても、実演家はなかなか理論と現場というものを結びつけられないというようなことがありまして、どちらかというと先に現場に入ってしまっちゃったほうが、そこから何が大事かということをもう一度振り返るというところで、強く結びついていくのかなということがありまして、この実践後を結構大事にしております。

 また、この学校に入るという段階では、実演家1人に授業を任せるのではなくて、2人か3人ぐらいでグループを組んで、それでプランづくりをするということをさせています。それは、急に来られなくなったとかいったことに対する対応策というのもありますけれども、複数で行くことで、心理的にちょっと軽くなるということもありますし、それでグループで進めることを推奨しているんですが、最終的には1人でもできるようにというのを、実践後にコーチングしていくようなことをしております。

 このコースの進め方は、自分でもかなり荒っぽいものだなと思っていますし、受講してくる人に対しても、ほんとうは1年くらい、みっちりフルタイムで研修したいところなんですよということを説明いたしますが、この荒っぽさでも何とかなるというのは、これが対象が実演家に限られているからなんです。

 お配りしている資料の次のページを見ていただきますと、左側にオレンジの枠の中で、人前に立つことになれているとか、声が大きいとか、非言語コミュニケーションにたけているとか、実演家の特性をいろいろと出しておりますけれども、こういうことを何らかの形で芸術の専門教育を受けていて、実際に人前で専門性を発揮して演じるということをやっている人たちですので、そこの部分のトレーニングというのは割愛してもいいかなというのがあります。ですので、多分若い学生さんを1年みっちりトレーニングしても、なかなかできるかどうかというのは未知数のところがあるかと思いますけれども、実演家の場合はこういったところが結構クリアできているかなということです。

 ただし、弱点というのはありまして、教育の専門家ではありませんので、学校教育で求められていることと、その活動の関連づけを言語化して説明するというところはちょっと弱いかなという傾向があります。また、実演家の陥りやすい誤りというのもありますので、事前研修ではそういったことを補っていくということに留意しております。

 最後に、もう一枚お配りしている資料のほうで、こういった活動を通じて課題だと思っていることをちょっと列挙しました。これが全部というわけではありませんが、この研修はかなり荒っぽいものであるということ、ほんとうは長期的なみっちりとした研修が望ましいだろうと思いながら、やれていないということの一つの理由は、実演家はほとんどの方がフリーランスなんです。それで生活の糧を得る時間を削って研修を受けに来る、あるいは学校に実践に行ってもらうというようなことをしておりますので、拘束時間はできるだけ少なくしてということに配慮してきたのがこれまでの実情です。

 学校で、じゃ、やってくださいと言われても、これまでかなりボランティアでということに近かったものですから、こういったところは今まで問題だったんですけれども、それは多少改善されていくのかなとは思っております。

 ただ、実習受け入れ校を探すのに私たちもとても苦労しておりまして、今年もまだ全然めどは立っていないんですけれども、そういったところの学校との連携がとても弱いということ。それから今後の課題としましては、実践を既にやっている人たち同士の経験交流の拡充というのが重要だろうなということと、いろんな劇団の中にはかなり長年やっていらっしゃる方もいるんですけれども、そういった個々ばらばらでやっている人たちの実力を、どう表面化させていくのか、評価していくのかということ。あるいは今行っている学校でも、特別支援学級はあるんですが、一緒に普通学級のお子さんとまざってやるという活動はしているんですけれども、そういった特別支援学級、あるいはかなり精神的にストレスを抱え込んでいるような子どもたちへの対応といったときに、医療、心理療法といったところの専門家とのコラボレーションというのが、今後必要になってくるんではないかなと思っております。

 それで、普及についてなんですが、簡単にここにちょっと書き出しましたけれども、前回の連携・普及ワーキンググループでも、コーディネーターが大事であるというご指摘がありまして、そのことは全くそのとおりだなと思うんですけれども、コーディネーターの仕事に多分2段階あって、学校とその実施する人、あるいは団体を結びつける役割と、個別の授業のコーディネーションということと、2つあるのかなと思っています。

 あと、実演家のかかわり方も、ほかの芸術活動と両立していくという場合と、世田谷などにはありますけれども、ファシリテーターに特化したような人を育て、活用していくという方向性もあるのかなということがあるかと思います。

 それであとは、質と量の問題でありますとか、受け入れ体制を広げていくために、学校の理解をどうつくっていくかというようなことがあるかと思いますが、後ほどの議論で深めていただければと思っております。

 以上です。

【平田座長】  ありがとうございました。この後議論に入りますので、その際に吉本委員、米屋委員の発表に関するご質問もお受けしたいと思います。

 それに先立ちまして、事務局より「子どもたちをめぐる状況について」の資料の説明をお願いいたします。

【伯井教育課程課長】  資料7をご参照いただきたいと思います。第1回に提出した資料と重複いたしますので、簡単にご説明いたします。

 子どもたちをめぐる現状で、1ページ、高校を中途退学する理由で、人間関係がうまく保てないということを挙げている者が約2割存在する。また大学生におきましても、約8割の大学におきまして、対人関係に関する相談内容が増加しているということです。

 2ページは、経団連の新卒採用者の選考に当たって特に重視した点が、コミュニケーション能力が際立って多いということと、その推移で見ても、7年連続で1位になっているというデータでございます。

 3ページは、父母と子どもたちとの会話時間ということで、父との会話時間が少ないわけでございますが、母との会話時間にもばらつきがあると。

 下のほうは、インターネットの利用率・携帯電話の所有状況。いずれも若者の所有状況は9割を超えているということでございます。

 4ページは、平日にテレビゲームをする時間、あるいは地域の教育力に関するデータでございます。

 5ページの学習に関する意識というBenesseの調査でありますが、自分の考えをみんなの前で発表するということにつきましては、小中高校生を通じて得意とする割合が低いということでございますし、また同じく、論理的に筋道を立てて物を考えるということも不得手と考えてございます。

 そのほか、暴力行為、いじめ、不登校という学校教育における児童生徒のデータを掲載しているところでございます。

 以上です。

【平田座長】  ありがとうございます。それではこれから議論に入りたいと思いますが、時間が十分とは言えませんので、全員にご発言いただけるかどうか、ちょっと保証できないんですが、できるだけ皆さん、短くご発言いただければと思います。

 それでまず初めに、本日、門川委員と鷲田委員が本会議に初めてご出席いただいておりますので、まずはお二人から、コミュニケーション教育に関して5分程度ご発言をいただいて、その後意見交換に入りたいと思います。

 それでは門川委員、お願いいたします。

【門川委員】  門川です。欠席していて申しわけございません。傍聴に市の職員が来ておりまして、議論の流れ等はずっと聞かせていただいています。ありがとうございます。鈴木副大臣、また平田オリザ先生はじめ、皆さん、ありがとうございます。文部科学省がこのことに本腰を入れていただけるということは、非常に心強く思っております。いろんな教育改革の論議が盛んであります。しかし今、コミュニケーション能力が非常に欠けているということは、子どもの教育だけでなしに、日本社会全体の課題でありますので、そこに焦点を当てて、演劇などを一つの手法にして実践していく、非常にすばらしいことではないかなと思います。

 四、五年前になるんでしょうか、平田オリザ先生を松井孝治さんから紹介していただきまして、まず教員研修にということで話してもらいました。教員研修だけでなしに、地域の理解、親の理解が必要だということで、学校運営協議会、コミュニティスクールのリーダーの方々も一緒になって、1回目の研修をやったときに、私も参加して感動いたしました。そして学校で実践していこうということで始めたんでありますが、効果はあるんですけれども、なかなか予算とか体制の問題で思うように進んでいないところに、文部科学省のほうが力を入れていただいて、ほんとうに喜んでおります。

 もう中身は、皆さんおっしゃっている思いは一緒なんですけれども、京都市で非常に荒れていた学校がありました。中学校で荒れて、毎年生徒指導で困難な学校が、すばらしい先生がおられまして、いじめの問題とかいろんなことをテーマにして、1年かけて劇をつくっていく。シナリオも全部子どもたちにつくらせていく。それを通じて全国で有名な、荒れている、弥栄中学校というその学校が、劇的に変わっていくんです。

 感動的な劇を毎年、伝統になりまして、そして生きるということをテーマにしたら、生徒に筋ジストロフィーの子どもがいて、その子どもが自分できちっとせりふを言って、感動を与えるんです。そういうことがつながっていく。やはり感性を磨く。そしてそれをきちっと表現できる。そして心が通じる関係をつくる。そうしたところに学力も上がっていく。こういうことを感じています。

 堀川高校の改革というのが非常に話題になっておりましたけれども、あれも1期生にすばらしい生徒がいまして、8月、9月、2カ月かけて、3年生が劇をやるんです。それも全部自分でつくり上げていくと。あまり熱心にやっているのでさすがにPTA等も、非常に盛り上がっていますけど、これで受験勉強大丈夫ですかと荒瀬校長に言ったら、荒瀬校長が、受験は2回、3回できる、構わへんでしょうと。高校3年の演劇を、文化祭を徹底的に楽しむ、それは一生に1回じゃないですか、こういうことを言って、親が納得したかどうかわからないんですけれども。

 そのとき、学習というのは個人競技や、受験というのは集団競技や、これだけクラスが、学年がまとまっている、この力を生かしたら、受験もうまくいくんじゃないですかということを言って、そして10月になったらきちっと切りかえて、演劇で燃えていたエネルギーを受験にシフトしていって、そして大学に行ったら大学でまたいろいろ活躍している。人間の能力を存分に発揮できる、表現できる手段としての演劇のおもしろさ、可能性を感じた次第であります。

 そこで、外部の専門家が学校の中に入っていくことの重要性、その専門家をきちっと養成する、この重要性を今お聞きしましたけど、これをボランティアでやっていたら、その人たちが生活できませんから、きちっとそうした方々の生活も成り立つ、そしてその能力が高まるという仕組みが必要になる。そのために予算とか、教育委員会、学校の受け入れる体制が必要だなと。そして親や地域を巻き込んでいく、そういう取り組みが必要だなということを感じています。どうぞよろしくお願いします。

【平田座長】  ありがとうございました。堀川で演劇に熱中した子たちは全員阪大で受け入れますので。

 それでは続いて鷲田先生、お願いいたします。

【鷲田委員】  特に準備していなかったので思いつきの話になりますが、一番最後にご説明いただいた資料で、例えば企業が選考に当たって一番重視している点、あるいは大学等教育機関に教育内容で求めている点として、コミュニケーション能力というのがいつも突出して1位になっているんですが、私はコミュニケーション教育推進会議において、このコミュニケーション教育というのを考えるときに、やっぱりコミュニケーションという言葉で、私たちはどういうコミュニケーションを求めているのかということを、きっちり意見交換しておかなければならないと思うんです。

 今の例えば10代の人たち、若い人たちを見ていましても、例えば企業が求めるようなコミュニケーション、つまりきっちりあいさつできるとか、あるいは交渉力があるとか、ネゴシエーションの能力がある、そういうことは確かに心配になる面があるかもしれませんけれども、彼らのある閉じたコミュニケーション集団の中では、この世代よりもはるかに繊細な、ちょっとしたディスコミュニケーションの傾向も察知して、それが起こらないようにあらかじめ手を打つというような、ある意味でものすごく過敏なまでのコミュニケーション能力を持っていると思うんです。それが例えばKYという、空気が読めないというような形で言われてきたと思うんです。

 私はもう10年以上前になりますが、東京のある大学で特別講義というのをした後、その大学生の人たちと話していて驚いたのは、話の行きがかりで、信頼できる人、信用できる人ってどういう人なんだろうという話になったときに、その場その場でその場にふさわしい行動ができる人、あるいは振る舞いができる人というのを、ほとんどの二十ぐらいの学生さんが挙げたんです。これには仰天しまして、私なんかまでの世代の感覚では、どんな異なるサークルに行っても、あるいは場面にあっても、同じ態度をとり続けるというのが誠実で、だからあの人は信用できる、行くところでころころ言うことが変わらないというのが信用の根拠だったと思うんですけど、今の人たちというのは逆に、この場を崩さないように、空気を崩さないように、きっちり今自分はこの場で何を求められているかということを察知して、それにふさわしく行為できる人がほんとうに安定感のある、信用のできる人なんだという発想をしているんです。

 そういう意味では、ある面ではコミュニケーションには過敏なぐらいなんです。だから私は、今の私たちの社会の大きなコミュニケーション上の問題は、確かにコミュニケーション能力という個人の資質の問題もあるんですが、それ以上にこの社会にはコミュニケーション圏という、話が通じる世界というのが複数あって、その間のコミュニケーションがとれなくなっている、話が通じなくなっている。

 例えばおじんと言われている人たちの世界と、それから若い人、高校生の世界では、もう最初から完璧なディスコミュニケーションで、相手を理解するというんじゃなくて、最初からあの人たちは通じないんだという、世代間の問題もあるし、それからもう少しやっぱり深刻なのは、専門家と一般市民というか、非専門家の間のコミュニケーション、これも最初から断念している。

 例えば環境問題で、科学者あるいは技術者の言う言葉とか、あるいは病院で診療を受けたり看護を受けたりするときの医師の専門用語と、患者さんの普通の日常の言葉であるとか、お役所に行ったときのお役所の対応する漢字だらけの融通のきかない言葉と、相談に行った市民の言葉とか、法律の相談家と市民と、専門家同士の間ではちょっとした符号だけでぴぴっと話がわかる。それから市民の間では目配せだけでお互いの間は気は通じるんだけど、その専門家と市民の間のコミュニケーション回路というのがずたずたに切られているということで、そういう意味ではほんとうのコミュニケーションの問題がどこにあるかということを、やっぱり考えることが大事だと思います。

 だから、例えば今の若い人にコミュニケーション力がないというときの問題点というのは、つまり自分たちの中では繊細なコミュニケーションができるんだけど、他者あるいは話が通じる人の外とのコミュニケーションができないということが、むしろ問題なのであって、だからむしろ話の通じない人の存在をどのように発見し、またその人たちとどのように言葉を触れさせ、そして最終的にその人たちを、自分たちと同じではないけれども、新しい自分たちとして受け入れるというコミュニケーション圏、オゾン圏の圏と一緒ですが、その間のコミュニケーションが重要だろうというのが1つです。

 それからもう一つ、この会議は初めてなんですが、この間、杉並区の小学校での演劇の授業を見せていただいたわけですけど、ものすごく私は、たったあの数時間の短い時間で生徒さんが演劇を試みることで、ほんとうにアクティブになっていくし、それから要するにみんなで演劇をつくるときに、人任せにできないというのが演劇のいいところだなというのがわかりました。つまり研究発表とかで学習の成果の発表でしたら、お互いに、あなた代表で発表してと、任せるという構造が起こってしまうんですけど、演劇ではみんな役がありますから、1人の人がおりてしまったら劇が成り立たないので、このおりられなくしているという仕組みがすごく演劇の授業効果を上げていると思いました。

 ただ、これについても1つだけちょっと気になったのは、こういう授業は絶対必要だし、ものすごく大きく今の初等教育なんかを特に変えると思うんですが、心配があるのは、スクールカウンセラーと似たようなことにならないかということなんです。つまり私は、スクールカウンセリングって非常にもちろん大事だと思うんですが、事件が起こったり、子どもが非常に危ういような状況になったときに、今学校がとられる一番の手が、プロのカウンセラーに来てもらいましょうということなんです。

 これは本来、先生がそういうカウンセリング的機能も同時に持たなければならないんですけど、それをプロに任せる、委託することによって、逆にプロがきっちりやれるから、自分たちは中途半端にかかわってはいけないんだというふうにして、カウンセリングからむしろ身を引いてしまう、かかわらないという、その委託の構造の恐ろしさというのが、実は僕はスクールカウンセリングにあるように思うんです。

 つまり学校のアリバイですよね、ちゃんと打てる手は打ったという。この演劇家あるいはアーティストに授業に来ていただくときにも、むしろ私はスクールカウンセラーのように、プロにコミュニケーション教育をお任せしましょうと委託の構造をとったら、絶対意味がないと思うんです。むしろこのコミュニケーションワークショップ的な授業の中に、例えば先生を、あるいは家族、保護者をどういうふうにまた巻き込んでいくかということも同時に考えて、みんながそういう教育の現場、育ての現場で、ある意味でのコミュニケーション力を育てていくといううちに、はぐくんでいくということが大事なのかなと思っていまして、そこのところのやり方が委託構造にならないようにと強く思いました。

 以上、2点です。

【平田座長】  ありがとうございました。

 それではこの後30分ほどですが、コミュニケーション教育の趣旨や意義について、まず全体的な議論を進めたいと思います。それで資料4-3で、「コミュニケーション教育推進会議WG検討事項(案)にかかわる意見」ということで、8名の委員からご意見をいただいておりますので、その委員の方々にはそれに沿ったご発言をしていただいても結構でございます。

 ただ、あらかじめ少し私のほうから話をさせていただきますと、ワーキンググループのほうで具体的な話を進めていただきますので、今日は少し骨太のところを議論したいと思っております。その際に、まずちょっと留意していただきたいのは、コミュニケーション教育推進会議と銘打っておりますので、非常に議論の幅が広くなることは仕方がないと思うんです。もちろんご発言の中では、非常に理想を語っていただくんで構わないんですが、ただ一番究極のところに行きますと、中教審とかで話すべき事柄とおそらく重なってこざるを得ないと思うんです。このコミュニケーション教育推進会議は基本的には、アーティスト、実演家を学校に派遣し、現場の先生方とどのように新しい授業をつくっていくかということがまず根幹にあって、あとはその範囲をどうしていくか。

 例えば今、鷲田先生からご指摘があったように、現場の先生をどうやって巻き込んでいくかとかいうことなので、ただその範囲が例えば今、演劇、ダンスなどとなっていますけれど、それをどのぐらい広げていくのかとか、それから例えば対象は小中だけでいいのかとかいったことも、当然議論の中に入ってくると思いますが、その核の部分というのは一応頭の片隅に置いてご発言をいただければと思います。

 それではどなたからでもご自由に。お一人できたら2分ぐらいでよろしくお願いいたします。

【新井委員】  今、平田座長のお話を伺ったところによりますと、出口というのはもうある程度、ダンスであるとか演劇であるような、舞台芸術表現というのを用いたコミュニケーションというのに特化して考えると。それが出口であるということであればなんですけれども、このコミュニケーション教育推進会議というタイトル自体が、非常に実は誤解を招く。

 実は今週、先週と、国研の教科調査官であるとか、教育委員会であるとか、ほかの学会の方たちと、この辺について少しご相談をさせていただいたところ、皆さん、コミュニケーション教育というのが、なぜ演劇、ダンス等の舞台芸術になってしまうのかということが、教科の系統性からも、その意味合いからも理解ができないということを、全員の方がおっしゃいました。

 私自身は舞台が好きだし、米屋さんがお話しになったようなことというのは、実は企業が求めているコミュニケーションとかいうことではなくて、実はかつては子どもの遊びの中に、「ごっこ」であるとか、マイムであるとか、そういうものは存在していたにもかかわらず、今の子どもたちの遊びの中からはかなり失われてしまった。そのことの悪影響がいろんなところに出ている。

 それはもしかしたら、学校でせざるを得なくなっているのかもしれないということも思いましたし、そうでなくても、中高校生の演劇ということが非常にいい影響があるというのは認めているところですが、コミュニケーションに関しては先ほどお話にも出ましたけれども、論理的なコミュニケーションができるかどうかということに関して、日本人が非常に弱いということで課題となっていて、そのことが1つ理由として、現在の新しい指導要領に、各科目においての言語活動の充実ということがうたわれているわけです。

 ですので、コミュニケーションと言われると、各科目においてどういうコミュニケーションをとらなければいけないかということについて、今現場では必死に考えているところです。それの出口が演劇、ダンス等の舞台芸術だと言われると、現場は非常に混乱する。なので、いくら当委員会で、みなさんが「教育現場での演劇・ダンス等の導入」に反対されていても、また、そのことに予算がついても、「演劇・ダンス=コミュニケーション」という定義がハードルとなって、逆に、教科としても、現場としても受け入れることは難しいのではないかと思う。 私はコミュニケーション教育とは言わずに、例えばアート教育というくらいのタイトルにして、特に身体表現を用いたアート教育というのが、なぜ今子どもたちに必要なのかというところを正面から説得することによって、定着することを目指していけたらいいなと感じます。

 以上です。

【平田座長】  ありがとうございます。少しだけご説明させていただきますと、米屋委員からも話がありましたように、日本ではドラマ教育、あるいは演劇教育というと、大変な抵抗があるわけです。これをコミュニケーション教育と名づけた途端に、こんな会議までできてしまったというのが現状なんです。そこら辺のところをちょっとご理解いただきつつ、新井委員がおっしゃられたように、最終的な答申の中に、そういった文言を盛り込んでいければというのが率直なところなんです。この会議の名前がこうなったのは、そういう経緯だとご理解いただきたいということなんです。

【鈴木副大臣】  ちょっと補足いいですか。全体を通じて出てきていただいている方は、シェアしていただいていると思うんですが、資料2をごらんいただいて、今新井さんのおっしゃった話は丸の1番目とか2番目の話を含んでおりますので、別に出口は、要するに演劇・ダンス等の芸術表現を用いたコミュニケーション教育推進の学習プログラムの開発は、教育ワーキンググループの3つ目の出口であって、それは1つ。すべてだという前提ではございません。

【新井委員】  ですが、連携・普及ワーキンググループというか、つまり普及をするところになると、もう出口がある程度限られているので、そこで論理的なんです。教育というものの出口として例えば、仕分けられた理科支援員にもやってくれるのかとか、数学のワークショップは派遣してくれるのかというようなことになってくると、あまりにも発散してしまって、しかもこの委員で話し合えるのかというのは非常に難しかろうと私は想像いたします。

【鈴木副大臣】  それはおっしゃるとおりだと思います。今日は親会議とワーキンググループとの合同ということもあって。ただ、原点に返る意味で、きちっといろんな議論は都度深めておいていただくということは、今後重要だと思っていますが、来年の話はよくわかりませんが、おそらくこの会議はかなりロングスパンになっていくと思っていて、別に、ありとあらゆるところにコミュニケーションの契機があるというスタンスはシェアしていますし、学習指導要領でも言語表現の活性化ということはシェアしているので、それを否定しているわけでないということだけはご理解いただきたいと思います。

【平田座長】  海外の事例を見ましても、演劇、ダンスから始まって、徐々にいろんなものを入れていくというような進み方を多くの国はしていると思いますので、ぜひそこら辺も先ほど申し上げたように、どこまでの範囲にしていくのか、あるいはここの工程の中で、最終的にはどういうところを目標としていくのかということまで含めて、ご議論いただければと思います。

 それではほかの委員の方。はい、どうぞ。

【三森委員】  日本において演劇というと、途端に皆さんが引くというのはよくわかるんですけれども、もうちょっと外国のアート教育、コミュニケーション教育がなぜ注目されているのかというところからスタートすると、今の新井委員のおっしゃったことに対する、ある程度答えが出てくるんじゃないかと思うんです。例えば、先ほどの資料5の中の8ページに演劇リテラシーという言葉があったり、12ページに演劇は国語力――つまり言語力ですね――を高める、特に学力や学習意欲の低い子どもたちを、より積極的に楽しみながら学習に参加させる、理解力を高めるのに大きな効果が見られるというようなところがありますけれども、ちょっと私は音楽じゃなくて、演劇に絞らせていただくと、海外ではドラマ教育というのは非常に重視しています。

 要するに海外の教育というのは、論理的に思考する、クリティカルシンキングをさせるということ、あらゆることに対して自分で疑問を持ち、その疑問に対して自分で解決策を見つけていくということが最終的な目標なんです。ここにはもう、数学だろうと理科だろうと社会だろうと、全部含まれてくるんですけれども、その根幹に母語教育というものがあって、言葉ができないと感じることもできないし、考えることもできないということで、言葉の教育を非常に重視するんですが、その中にあって文学教育というのを非常に重視する。

 その文学の分野の一つにまた、演劇、戯曲というのが入ってくるんですけれども、戯曲や文学がなぜ重視されるかといえば、普通人間が生きていても、自分一人では限られた経験しかできないんです。ところが演劇、戯曲だとか文学作品の中で、さまざまな状況におけるさまざまな人間を深く考えることを通して、自分自身がそういう生きざまに会ったら、そういう状況になったらどうなるのかということを考えることができると。そういうことを通して人間を理解することにつなげていこうというのが、一つのドラマ教育の大きな目標ですので、そういうところからコミュニケーションとドラマ、あるいは演劇ということを考えていくと、今、日本の子どもたちがいろんな意味でコミュニケーションの不全に陥っているというのは、もう明らかですけれども、その子たちに経験が少ないからといっても、いろんな経験をさせない限り経験にはつながっていかないんです。

 そのときに、ただ単にいろんな経験を設定してやってやるんではなくて、一つのドラマの中できちんとその内容について、状況だとか、どうしてここで声を荒げなければいけないんだとか、どうしてこのときにはこういう態度をとらなければいけないのかという意味で、きちんとクリティカルリーディングさせていく、分析的に読むということを議論させながら教えていって、別にその演技自体が不十分だって全然問題ないんですけれども、最終的に自分たちが戯曲の内容を考えることを通して、コミュニケーションというものをつくっていくととらえると、今ほんとうに日本の子どもたちは、お互いに、先ほどおっしゃっていたように、内輪でのコミュニケーションはできるんですけれども、他人とのコミュニケーション、外の輪のコミュニケーションは全くできなくなっているんです。これは大学生でも変わらないし、社会人でも変わらないんです。

 そういう子たちに、自分とは違う状況を演劇、戯曲を通して経験させて、ただ経験させるといっても、ただ感動させて、ただ演じてみようねでは全然意味がないんです。やっぱりこの戯曲をどう理解するべきかという、その方法論をきちんと教えながら運んでいくということをやっていかないと、ただ外から人から来て、そのときだけ盛り上がっておしまいと。

 私も先ほど米屋さんがおっしゃった、学校に出前をするというのを見ていて、実は私の母校が入っていたんです、世田谷区立京西小学校というのが。何でこの京西小学校がそのあと二度と呼ばないんだろうと考えると、やっぱりそこにはその場限りで終わってしまっているという問題が出てくるんではないかと思うんです。ですからそうならないためには、やはりただ演じるだとか、ただ人を呼ぶとかじゃなくて、その方法論の陰に隠れた、お互いにスキルをきちんと読み合う、分析的に、批評的に物を考えて文章を読んでいくということを教えながら、同時に、じゃ、それを考えたあげくにどうやって演じてみようというところまでつなげる、そういうふうにきちんとデザインをしていかないと、結局大騒ぎして終わるんじゃないかなという気がしています。すいません、長くなりました。

【吉本委員】  今のご意見について幾つか発言したいんですけれども、まずコミュニケーション教育という言葉は、いろんな多様な解釈を生むだろうと思うんですけど、私は何かこれは、ある種象徴的な言葉として使われているんではないかと理解しているんです。ですので、さっき米屋さんは表現教育とおっしゃっていますし、ほかにも創造力とかクリエーション、イマジネーション、両方ですよね、そういったものを育成するための教育と私はとらえていて、この言葉自体はある意味、象徴的な意味合いで使われているのかなと私は理解しています。それがうまく伝わらないというご指摘だったと思うので、それはちゃんと説明をしていく以外にないんではないかと思います。

 それから分野について、演劇、ダンス等となっていまして、行政文書の場合、この「等」のほうが重要だというケースが往々にしてあるわけです。それで私もこの委員会が始まるときに、あれは演劇とダンスだけなんですよねと音楽関係者から言われて、いや、そんなことないです、「等」と書いてあるでしょうと言ったんです。つまりこのプログラムを広めるためには、あまりジャンルを限定しないほうがいいだろうというのが私の意見でして、なおかつ先ほど米屋さんから実演家の話がありましたが、例えば実演家だけではなくて、作曲家とか、あるいは美術作家とか、劇作家とか、文学を書く方もいいかもしれないですけど、そういう作品をつくる、創造過程にかかわるようなアーティストというものも、含めることができるんではないかと思います。

 ジャンル別の特徴をちょっとだけ紹介しますと、昨年度行った地域創造のリサーチでも、音楽のワークショップを受けた子どもたちは、音楽家が目の前で演じる音楽をすごいと思って、要するに物に素直に感動する力を養うということに音楽は効果があるようだということが分かりました。それに対してダンス、演劇というのは、自分たちが体を動かして表現したりすることをすごく楽しんだり、それを喜んだりというようなことがわかっていますので、ジャンルによってもやっぱりいろんな微妙な違いがあると思います。ですから、あまり厳密にジャンルを特定しないほうがいいんではないかというのが私の意見です。

【平田座長】  はい、どうぞ。

【苅宿委員】  今、僕もワークショップ教育というのは、やっぱり学校の中に一番必要なことの一つで、そこのアプローチはさまざまあるんじゃないのかなと思うんです。だからアートという方向のアプローチもあれば、言語力というアプローチもあるんじゃないのかなと。ぜひこの会議の中で、先ほど鷲田先生のほうからもご指摘がありましたけれども、学校の先生がこういう活動の受け皿になるときに、どんなことが受け皿として必要なのかということがわかるような仕組みを提示していければなと考えています。それはぜひ考えていただければなと思います。

 というのは、僕は今、先生方といろんな教育のことを考えるために回っているんですけれども、やっぱり学校の中でできることとわかることを中心に、学校というものはできているわけですけれども、今一番課題になっているのは、学校の先生たちの言葉で言えば、学級経営というように、グループとして、コミュニティとしてクラスをどう運営していったらいいのか、あるいは学校をどういうふうに、子どもたちが来ることがとても楽しくなるようなコミュニティにするのかということを、すごく皆さん考えていらっしゃる。

 それはもちろん、教科、領域を通してそういうことを味わうわけですけれども、でもやっぱり実際に生きているお子さんたちの中に、グループで活動するとか、あるいはいろいろな形のグループも、ただ好きな人同士ではなくて、いろんな形のコミュニティの形成を、仲間づくりの経験があったら、もっといいクラスづくりになるんではないのかなという意見が出るわけです。

 ですからこういうような活動も、その学校の先生たちが今求めていらっしゃるコミュニティ形成のため、仲間づくりのために使っていけるような、何かそういう方法があるんですよということも視野の中に入れたいと思いますし、そのときに、例えば先生がすごく大きな役割を果たせるんですよ、年に1回しか演劇は来ないかもしれないけど、それを一つのきっかけにして何かを広げることも、先生だったらできるんですよとか、やはり学校の現場にとって受け入れる意味の広がりというものを、ぜひ考えていければなと思いました。

 以上です。

【中村委員】  中村でございます。ここまでの議論を拝聴しておりまして、この会議の議論のスコープをどこまでにするのかということの整理と共有というのを、ある程度早い時期にやったほうがいいかなと感じました。演劇教育を学校に展開するというのは非常に趣旨大賛成で、推進すべきだと思いますけれども、ひょっとするとそれだけであれば、実は大人数であまり議論することはなくて、アクションの問題かもしれませんし、ほかに課題がないのかといったことを整理する必要があろうかと思います。

 私は3点申し上げたいんですけれども、1つは、例えば目標や評価というのはどう位置づけるのか。学力で言うと、OECDのPISAというのがありますけれども、コミュニケーション力とか表現力というのは、はっきりとした評価軸というものが定まっていません。だからこそ、目標設定とかゴールの設定が難しくなっているわけですが、ではこの会議を通じて、そうした指標とか日本のモデルのようなものをつくるところまで行こうとするのか、短期的にはやめておくのか。

 あるいは2点目に、プログラムの開発ですけれども、私自身も作曲とか映像、あるいは新聞づくり等、さまざまなワークショップの開発をしておりまして、課外学習として提供しているんですが、そうした学校現場以外のところでも、日本では全国にさまざまなそういう取り組みがあります。そういったものもこの会議はスコープに置くのか、短期的には査証するのかということを、ある程度決めて整理したほうがいいだろう。

 3つ目に、実は学校に絞るのかということもちょっと気になっておりまして、例えば7月27日に、私どもはデジタル教科書教材協議会の立ち上げということで、今準備を急いでいるんですけれども、既に60の会社が参加するといって表明をしておられます。そうした会社の多くは、教科書をデジタル化するだけではなくて、例えば新しい教材をこの際開発したいとか、子どもたちのコミュニケーション力を高めるようなワークショップを開発したいという意向を表明しておられまして、そのように企業も今いろいろ、こういう会議があるよということで動き出しているところなんです。

 そうした民間の資金とか民間のリソースの活用もここで考えるのか、あるいは短期的には査証するのかというのも、一つのテーマになるかなということを考えておりまして、要するにトータルな政策パッケージとして、どこまでここで含んでプランにするのかと。短期的な目標をどうして、あるいは長期的に考えるスコープをどうするのかというのを整理するのが大事かなと感じました。

 以上です。

【平田座長】  多分、私の説明が足りなくて申しわけないんですが、1つには副大臣からもご発言があったように、資料2の一番下にあります「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」というものが動き出しておりまして、これを内容をどうしていくのかということが1つ、まずとにかくあるわけです。これについてはもう、よりよいものにしていかなきゃいけないということと、今年試験的に行っていることをどう評価していくのかということを、各ワーキンググループでそれぞれ検討していただかなくてはいけません。

 それに加えて、3年後、この事業以外に例えばどういうスキームが考えられるのか、あるいは10年後、あるべき日本のコミュニケーション教育の姿はどうあるべきなのかという、この3つぐらいがそれぞれ議論されてしかるべきかと思っております。

 ですからその中で、後でちょっと日程のこともお話が出てくると思いますけれども、それぞれのワーキンググループの座長にお願いして、時間に制約もあることですから、まず予算等に関連するものをお話しいただいて、その中で当然議論の中では、これは今はできないけれども3年後はしなくてはいけませんねとか、ほんとうは10年後はこうならなきゃいけないんだよねというようなことを、最終的に答申に盛り込めればいいんじゃないかなと思っております。

 すいません、ほかに。

【渡部委員】  普及ワーキンググループと教育ワーキンググループの2つを置いてあるのは、そういう含みかなと。つまり教育ワーキンググループのテーマって、1年ぐらいで何かたちまち結論の出るようなものではないように思えます。2つをどうつなぐかというのが一つのポイントかなと思いながら伺ったんです。平田座長が芸術家を学校にという、その短期的なところにフォーカスした結論を考えながら話し合ってくださいとおっしゃっているのは、そのことだと思うんです。そこで教育の側から来ている人間としては、どこかでつなげなきゃいけない。米屋委員のご発表と、それからさっき鷲田委員から出た、プロ任せにならないかというあたりで考えてみたいと思います。米屋委員の発表の2ページ目に、実演家の特性というのが挙げてある。黄土色の資料にある7項目です。非言語コミュニケーションにたけているとか、関係性に注目できるとか、創造的なリアクションができるとか、創造者としての専門性であるとか。こういう資質というのは教員に必要ないんだろうかとか、そもそも教員こそ持っているべきものではないのかという気もするんです。

 逆に言うと、学校の授業や教科の学びというのは、どこかで創造的でないという前提が成り立ってしまっているのかなという気もするわけです。そこに専門家がやってきて、非常にすぐれた表現の経験を持ち来らすことができるというニュアンスでとってしまうと、受け入れ側の学校としては、受け入れの素地についてはハードの面とハードの面があるんですけど、ハードの議論は成り立つんですけど、ソフトの議論が成り立たなくなってしまうんです。専門家は専門家、教師は教師となってしまう可能性もあるので、そこで専門家の持っている資質というのは、学校の教師なり、あるいはひょっとしたら、その豊かな表現経験をする子どもたちに転移可能なものなのかどうかというのは、ちょっと考えてみる必要があるんじゃないかと思うわけです。つまり学校の教科その他の学びに、創造性のような契機は必要ないのかどうか、あるいは含まれるべきなのかどうかということです。

 そこに連続性がないとなると、従来の教科学習に表現活動をもって殴り込みをかけるという話になってしまうわけで、これは抵抗を呼びます。でもひょっとしたら、専門家の持っている資質は、教師がこれから身につけていきたいと思っているものと連続性があるということになると、これは長期的には一つの共有すべき課題を持って、協働というか、協力していける関係性を築くことができるかもしれない。となると、実は豊かな表現を通して学んでいく、それを教科学習にも応用していくということになると、これは従来の学びの質的変化につながることだろうと思うんです。

 さっき三委員がおっしゃったように、方法の問題を無視して秘儀的に、つまりスペシャリストが個別に長い時間をかけて身につけたものを開陳して、目の覚めるような実践をするというのは、あまり継続性にはつながらないような気がするんです。そこである種の方法化ですとかあるいは転移の問題とつながっていったときに、その能力が拡張されて――能力というのはちょっと問題ですけど、資質が拡張されて、教員にも共有できるものになっていくと思います。

 さらに言うと、子どもたちの美的な経験は、単なるエピソードとか一回性のものではなくて、ひょっとしたら専門家の資質と教員の資質と、それから生徒たち、あるいは子どもたちが将来身につけていくべきものというのが、同じような内容を持つものとしてとらえられて、そこに新しい市民的資質のようなものが形成されるんじゃないか。そこで、共通教養という言い方が適当かどうかわかりませんけれども、そういう内実をつくっていくという論理で教育の側から考えていけると、この会での自分の居場所があるかなというような感じを持つわけです。

 以上です。

【平田座長】  ありがとうございました。

 ちょっと時間がないので、もうお一方ぐらいになるかと思うんです。じゃ、お二人。平田先生から。

【平田委員】  筑波大附属駒場中・高の平田と申します。今年この会議と並行してやる芸術表現体験授業を実際に実施している学校の教員として、若干報告をしたいと思います。

 ついおととい、1回目のキックオフワークショップをしたんですが、今年は私の国語の授業の『平家物語』を受けて、それを全く知らない学校外の人に説明できるように、演劇を使うというプランを組み立てています。実際おとといやってみたんですけれども、何が起こったかというと、生徒の表現を爆発的に引き出す、引き出されるということが起きました。実際にその場にいない方に言葉で説明するのはとても難しいんですが、言ってみれば、ダイナマイトが次々と誘爆されて爆発するような、つまりほかの班の発表を食い入るように見て、じゃ、今度は自分たちはどうしてやろうかということを必死で考える。3回発表したんですけれども、そういうことが起きました。

 子どもたちの表現力を引き出すのが我々教員の仕事だと思っています。それは日常的に行うことなんですが、それが爆発的に引き出されるということは、そうそう起こることではないと感じました。なかなかこれが現場に普及しないということなんですが、もしあの場にいて、それを一緒に体験していたら、それをやってみたいと思う教員はたくさんいるのではないかと思うんです。ただあまりにもその実例が少ないし、またそれを見る機会も少ないということがあるのではないでしょうか。

 あともう一つは、それは決して単体のイベントではなくて、通常の授業とリンクしているということです。今回の体験授業は3回以上という縛りがあって、あくまでも教育計画の中に位置づけられる実演家の派遣ということで行われています。

 先ほどの話の中で、例えば読解のスキルですとか、それから分析的な読み方とか、論理的なということがありましたが、もちろんその授業の中でもそれは扱われるんですけれども、それはただ芸術家にだけ丸投げして任せることではなくて、私たちの通常の授業の中でやっていることと結びつけて行われることなのではないかと思いました。

 ですから、そういうような実際のカリキュラムの中でどこに位置づけていくかとかいうことを、これからきちんと議論をして進めていけばよいのではないかと思います。

【平田座長】  じゃ、砂田委員、どうぞ。

【砂田委員】  これまでのいろいろなご意見を伺ってきたんですけれども、今後起こり得ることとして、アーティストが圧倒的に足りないという状況が起こり得ると思うんです。しかも、学校教育の実情に合った活動の行えるアーティストというのをつくり上げていかなければいけないという課題があると思うんです。アーティストというのはやはり、自己目的化で活動しているわけであって、この場合のコミュニケーション教育を具現化するためには、やはり意図的な活動を意識しなければいけないという問題があると思うんです。

 お手元に今日、配付資料で黒い本で、ティーチング・アーティストというのを皆様に配付させていただいたんですけれども、これは私どものほうでアメリカのニューヨーク・フィルのティーチング・アーティストと、5年間東京を中心に、学校で行ったものなんですけれども、なぜそのような配付物をつくったかといいますと、それは音楽部門を重点に書いておりますが、実はなかなか音楽家が皆様の今ご検討されているようなことに対して、ニーズに合ったことができないということを感じ取っていただきたいと。

 その問題をどう改善するかというと、専門的なワークショップができる人材が必要だと。それは論理と手法を携えるアーティストが必要ということなんですけれども、つまり今後劇場法というのができていく可能性もありますけれども、アーティストの就業形態なり思考を変えていかないと、今のニーズに合った人たちが足りないんではないかと思います。

 先ほど吉本さんからのご紹介であった、ニューヨークのブループリントとかありますが、あれはやはり日本の今の指導要領にかなり似ておりまして、例えばニューヨーク・フィルも、2週に1回授業に行っているんですが、全く日本の授業に合致できるんです。それを東京の港区で、これはいけると思いまして会わせました。

 ということで、プログラムをつくれば、あとはその学校教育のニーズに合った志向でアーティスト活動をしていただくという必要性があると思いますので、そのアーティストの養成というところも重点課題にしていただいたらと思っております。

【平田座長】  ありがとうございました。時間が足りなくて大変申しわけないのですが、ここら辺にさせていただいて、各ワーキンググループにおける議論の具体的な進め方について、事務局より説明をお願いしたいと思います。

【伯井教育課程課長】  資料8でございます。座長から、あるいはこれまでの会議で各委員の方から、今後のこの会議の進め方のタイムスパンも含めたイメージを示してほしいというご意見がございまして、座長と相談の上、案として作成したものでありますが、両方のワーキンググループができましたので、随時開催いたしまして、課題と改善方策を整理していくと。

 そしてある程度まとまった段階で、この親会議に報告したり、両方またがるような話については合同会議という形で開催していくということでございます。後ほど述べますが、11月、秋ごろを目途に、中間的なまとめをする必要があることについてはまとめていこうという考え方であります。

 さらに引き続き突っ込んだ議論をしていただきまして、一つの目安としては、1年程度かけてというのが最初のあれでございましたので、来年の春ごろ、推進会議として提言事項をまとめ、公表していこうと。その際、先ほど座長からもありましたように、すぐ実施可能なこととか、3年を目途に実施すべきこと、あるいはスキームとして今後10年をスパンとして考えていくことなどを、盛り込んでいこうということでございます。

 具体的に次のページに、両ワーキンググループの検討事項に即した具体的な進め方と、タイムスパンの案を示させていただいております。

 教育ワーキンググループでは、本日もいろいろご議論がございましたが、そもそもコミュニケーション教育ということの位置づけ、教育内容面での位置づけとか指導要領との関係というのがございます。まず、そのコミュニケーション教育の趣旨・意義というのを、もう少し明確化して整理する作業が必要であろうと。これを踏まえて各教科の中での位置づけとか、学習指導要領との関係について整理をしていく必要があろうということで、これもなかなか難しい作業ですので、夏までに基本的考え方とありますが、とりあえずのものを整理する作業をしていただいて、引き続き他の検討事項とも連動しながら検討していくということであります。

 マル3の、一つの手法としての演劇・ダンス等の芸術表現を用いたコミュニケーション教育推進のための学習プログラムの開発ということであろうかと思いますが、現在行われております児童生徒のコミュニケーション能力育成に資する芸術表現体験の実施校、292校の具体的な進展状況を分析・検証しつつ、好事例を収集していくという作業が必要かと考えております。このためにワーキンググループとして、子どもたちの学力とか行動面での影響、あるいは成果などの検証案件というのを実施していただいて、あるいは好事例の収集等もあわせて整理していこうと。

 そして、その学習プログラムとして各学校における教育目標とか、年間の指導計画との位置づけとか、各教科の指導事項との関係を踏まえた具体的な指導案の緩やかなモデルといいましょうか、ここはあまり拘束性のないようなモデルが示せればということでございまして、それが来年度の事業募集に間に合うように、11月中にモデル案を提示できればなというのが1つでございます。そして引き続きそれも検討を進めていくと。

 そうしたことを踏まえた教員の研修のあり方等の方策を、教育委員会、大学、芸術団体等の役割を明示しながら検討を行っていく。それは引き続き検討していくということでございます。

 それから連携・普及ワーキンググループにつきましては、まず1点目の課題につきましては、芸術表現体験の現に行っている授業のスキームや局面、募集・申請、経費支出、実施分野、コーディネーターを活用した事業展開の方法などごとに、現状における課題を整理し、具体の改善方策を検討していくという作業がまさに必要であろうと。これも来年度の事業募集に間に合うように、11月中を目途に中間的な改善方策の検討が必要であると。その後も引き続き検討していく。

 そのほか、指導者の養成、外部指導者の養成・研修であるとか、実施校の成果をまとめて周知するための具体的な普及・展開のあり方などについて、引き続き年度内に具体的方策を検討していく。

 こういうタイムスパンとスケジュールの案を整理させていただいております。

 以上でございます。

【平田座長】  この進め方に関しまして、ご意見、ご提案などありましたらどうぞ。

【新井委員】  教育ワーキンググループに参加している新井ですけれども、夏までに、ここに具体的な進め方に、「各教科等における教育課程上の位置付けや学習指導要領との関係について整理する」。これはすごく大変な作業になりますが、この教育ワーキンググループの中に、各科目に関しての指導要領を熟知している委員、それぞれのコミュニケーション教育が必要だと思われる科目すべてに関して委員がいらっしゃらないと、なかなかその後の進め方というか、ご理解いただくあり方とかが困難になろうかと思いますので、できればそこにご配慮いただきたいと思います。

【平田座長】  髙木先生。

【髙木委員】  ここまでの議論を伺っておりまして、教育ワーキングのまとめをしなければいけない立場から少し話をいたします。今も新井委員からもございましたし、先ほど渡部委員からもございましたが、やはり教育ワーキングのほうでは、学校教育の現場、実態を踏まえていくということが非常に今大事かと思っております。

 座長の平田さんからも言われているように、アーティストを現場に派遣するということと、それから学校教育の融合がうまく図れればいい。そこをどうしていくのかが、これから考えていかなければいけないところだと思うんですが、現実の学校教育の中で言いますと、今話題になっております各教科等における言語活動の充実も、まだ十分には実現していない状況ですので、このあたりも、急がなければいけない部分は急ぎつつも、ある意味では先ほど座長も言われたように、10年後の日本のコミュニケーションということまでパースペクティブの中に入れながら、考えてまいりたいと思っております。

 具体的なものとしましては、次回の教育ワーキング等で、学校の中で、また各教科の中でどう言語活動が行われているかということも、私はDVD等も持っておりますので、そういったものをお見せしながら、少しご理解をいただきたいなと思いますし、さらにはできることでしたら、現状のこのコミュニケーションが教科の中で行われている学校も、私は随分知っておりますので、そういうところを見ていただきながら議論を進めていきたいなと考えております。

 以上です。

【平田座長】  ありがとうございました。

 それでは大変申しわけないんですが、まとめに入らせていただきたいと思います。繰り返しになりますが、私個人としてはこのコミュニケーション教育推進会議は、やはり日本はこれまで諸外国に比べてこういった取り組みが非常におくれてきた、マイナスから出発していると考えております。例えば私の専門である演劇を考えても、諸外国の場合には少なくとも中学以上の学年になりますと、これはもう専門性の高い教科として、専門の教員がいるわけですよね。音楽や美術と同じように演劇の教員がいて、その演劇の教員がほかの科目の先生方とも協力をして、学びのモチベーションを上げるようなプログラムづくりにも取り組んでいるというのが、多くの海外での事例だと思っております。しかしそれはない。そういった教員を養成する課程もない。その中でどうしていくのか。

 僕は例えば、小中学校にはコミュニケーションとか表現という成果があってしかるべきだと思いますし、高校にはグローバルコミュニケーションのスキルという科目があってしかるべきだと思いますが、そんなものは来年度にはできないですよね。でも、子どもの成長はそれを待ってくれませんし、今の子どもたちはいや応なく、この国際社会にほうり出されていくわけです。だとすれば、やはり私たちは今できる制度設計をまず急ぎ、その中から漏れるものに関しては、ぜひこれを至急やってもらいたいということを文科省に投げかけていくのが、私たちの仕事だと思っておりますので、ぜひ各委員にそのところをご理解いただいて、ご協力いただければと思っております。

 鈴木副大臣、最後に何か。

【鈴木副大臣】  今日は非常に中身の濃い、ほんとうにそれぞれの委員の皆さんのおっしゃるとおりだなということで、かなり深まったなと思っております。今日のご議論の流れでぜひやっていただければと思いますが、若干こちらのスケジュールだけ申し上げておきますと、8月の末に概算要求というのをやらなきゃいけないものですから、これを逃しますと1年たってしまいますので、今年292のワークショップの実践校というのをやりました。これを来年改善すべきところがあれば、それは早目に。

 文科省の中での概算要求の原案というのは、7月末ぐらいまでにあらあら固めないといけないものですから、もちろんこれは走りながらということですが、ここは改善したほうがいいとか、ここをちょっと足すとすごくよくなるとか、そういうご提言はちょっと。もちろんこれで締め切るというわけではありませんが、そこに間に合うと大変助かるというスケジュールだけ申し上げておきたいと思います。

 そこの山を越えましたならば、またしっかりと落ちついたといいますか、根本からのご議論をさらに深めていただいて、骨太のものを。先ほどのお話の中で、ほんとうにご指摘のとおりだと思いますので、じゃ、再来年の概算要求、あるいは再来年度のいろいろな実施の中からどうしていくのかというご提案を、またしっかりといただきたいと思いますし、もちろん最終的には10年後ということでございます。

 もう一つ、いろんなことが今同時並行で進んでおりまして、教員のお話が出ました。おっしゃるとおりだと思っています。それで、これから10年間で教員の全体の3分の1が入れかわります。ある意味で、我が国の教員養成のあり方を議論し直す絶好の機会だということで、6月3日に文部科学大臣から中教審に諮問をいたしまして、教育学部だけじゃありませんけれども、まさに18歳から60歳までのすべてのステージを通じた教員の候補者の養成、そして採用、教員になってからの研修の大議論を、実は6月から始めています。

 おそらくここでのご議論というのは、そこにシェアしていただく、あるいは提言していただく、情報提供を行っていただくということで、非常に有効な議論ができると思っておりまして、10年後にはそういうプロセスを経て養成された人たちが教員になり、そしてもう既になっている方々も、10年講習とか、あるいは専門免許とかいう中で、そういう専門性をさらに引っ張っていく。こういうこともあわせて今議論が並行して進んでおりますので、そちらにもぜひ貢献をいただける、非常に今日はすばらしいお話が始まったなということを楽しみにしながら聞かせていただきましたので、よろしくお願いしたいと思います。

 以上です。

【吉本委員】  すいません、終わりのときに申しわけないんですけど、先ほど11月のまとめだと、来年の概算要求に間に合わないと思っていたんですけど、今まさしく副大臣から来年の概算要求に向けてというのがありましたので、連携・普及ワーキングでも具体的な、こういう仕組みがいいんじゃないかと、複数いろいろ提案が出ているんです。ですので、今年度は教育委員会経由という仕組みになっていると思いますけど、来年度に向けてはNPOを窓口にするとか、劇場を窓口にするとか、いろんな入り口があるような複数のスキームを、連携・普及ワーキングのほうでは具体案として出していきたいと思いますので、なるべくそれが概算要求に間に合うように、スピードアップしたいと思います。

【鈴木副大臣】  ただ、今ので補足しますと、文科省内でできる話は11月で間に合いますので。実施要領をつくるとかいうことは文科省内でできますから、それは11月にいただいて全然大丈夫です。

 ただ、財務省とかかわりのある話は出しておかないと、削られることはあれど、出していないものをあれするということはできないので、そういう2段構えでご理解をいただきたいと思います。

【平田座長】  ですから、これは夏までにと書いてあるのが、ちょっとワーキンググループごとに書いてあるのでわかりにくいかもしれませんが、今副大臣からもお話があったように、夏までにというのはほんとうに予算にかかわることなんです。だから例えば新井委員からご指摘があった、各教科などのコミュニケーション教育の位置づけというのがここに入っているのは、要するにこれを入れておくと相当予算獲得が、これにも生かせます、これにも生かせますと、とにかく入れておけばいいというところは多少あるわけです。

 それに対して、それをどういう制度にするか、申し込みとか宣伝普及とかいったことは11月中でいいんですけど、ただこれも普及活動のほうは予算を多分取っておいたほうがいいので、だからそういった夏までのことも、実は連携・普及のほうにも多少あるということ、そうお考えいただければと思います。

 それでは今後の検討の進め方に沿って、各ワーキンググループでご議論いただきたいと思います。

 最後に事務局から事務連絡をお願いいたします。

【倉見学校教育官】  まず7月、8月はワーキンググループを精力的に開催していきたいと思っておりますが、次回の予定は委員の先生方の机上配付資料ということで、予定表、日程を配らせていただいております。場所は未定となっておりますが、また正式に追って、場所等の地図もつけましてご案内申し上げたいと思いますが、日程はこの日程でやりたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。

 それと、9月以降の会議の開催のスケジュール調整をさせていただきたいと思いますので、委員の先生方のお手元にこういったマル・バツをつけるような表がありますので、これを記入いただき、後日でも結構でございます、適宜事務局のほうにお送りいただければありがたく思います。

 また、参考資料で配らせていただいておりますが、来月、8月18日でございます、これは「子ども霞が関見学デー」でございまして、そこにリンクというか、ぶつけまして、コミュニケーション教育普及協議会、コミュニケーション教育フェスタと銘打っていますが、これを行いたいと考えております。これは会議の中でも出てきておりますが、292校、今年から実施しております実践校の先生とか、それから教育委員会の担当者、芸術団体の関係者等も集まりまして、ひとつイベントをやっていこうじゃないかという企画でございます。また改めてご案内を先生方にも申し上げたいと思っておりますが、平田先生の講演なんかも企画しておりますし、実践校の実践報告やポスターセッションなどもやりたいなと思っております。また改めてご案内させていただきます。よろしくお願いします。

 以上です。

【鈴木副大臣】  最後に一言。それと、さっき予算の話ばかり申し上げて恐縮だったんですけど、一番大事なことは、今年度の292校は、ある意味で既に今まで何らかの取り組みをやってこられたところを、少し国としても応援します、それから文部科学行政の中で位置づけます、こういう色彩だったと思います。何せまだ我々は去年の9月に政権をとったばかりですので。

 今年、この7月からのことは、去年はある意味で序章で、いよいよやっと本格的にこの事業をやると。つまり学校現場になるほどと、こういう考え方が今推進会議というものが立ち上がって起こっていて、そしてもちろん今までもやってきたけれども、新しいそういうことも改めて考えながら、こういうことに取り組んでみるということを、ゼロからというところはないにしても、かなりわりと一から考えていただいて、そしていろいろな学校現場で、こういうことだったらできるとかというようなことを、まさに7月ぐらいから少しずつ現場で議論していただいて、あるいは教育委員会でもそういう議論をしていただいて、きちっと温めながら、そして来年の4月に新しい年度が始まって募集が開始されたら、満を持してといいますか、いろんなしっかりとした議論が十分現場で行われて、そこが手が挙がる、こうしていきたいと思っています。

 それにはやっぱり半年前ぐらいから、それぞれの学校や、あるいは教育委員会の皆さんではそしゃくしながら、そしていろいろな連携団体との関係等とも地域地域で、これから関係構築をしていくみたいな、それには7月ぐらいから始めて、もう十分時間はそんなにあるということでもないし、というか、最低でも半年ぐらいそういった準備をしっかりしていただいて、この意義もご理解いただいたところが来年の4月に手が挙がってくることが望ましいと思っていますので、そういうこともやっと正規のプロセスに今年というか、この月から入っていけて、来年からしっかりとした本格的なスタートを切っていきたいということを大事にしたいと思っていることだけ、つけ加えたいと思います。

 以上です。

【平田座長】  ありがとうございました。

 それでは各ワーキンググループの委員の皆さんは、もう一つのワーキンググループへのご出席も構わないということになっております。親会議の委員の先生方も同様です。ぜひ積極的にご参加いただければと思います。

 なお、ワーキンググループは実質的な踏み込んだ議論を行っていただくために、非公開としておりますが、議論が一定程度まとまった段階で、本日のように合同開催などを行って、ご報告をいただくことにしたいと思っております。

 それでは今日はご多忙の中、また時間が短く、ご発言いただけなかった委員の先生方もいらっしゃいますが、ご了解ください。

 それでは、本日はこれで閉会とさせていただきます。ありがとうございました。

 

── 了 ──

 

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