資料2 全国的な学力調査の在り方等に関する各委員の意見等(案)

1.全国的な学力調査の目的について

・これまでの調査の目的を今後とも継続する方向か。

 (参考)平成22年度調査の調査目的
 義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。
 また、学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる。

○ 全国学力・学習状況調査は、4年にわたり実施してきたところであり、新たなステージに向け、ここで改めて調査の在り方を検討することは意義がある。検討に当たっては、この調査が単なる行政調査ではなく、子どもの学力を向上し保障する仕組みとして考えられ、そのことが多くの国民の支持を得て実施されてきた経緯を踏まえる必要がある。

○ 市町村教育委員会に対するアンケート調査の結果では、現在の調査の目的について「評価している・問題ない」という声が78%に達している。また、教育関係団体の意見においても「教育施策の成果と課題を検証しその改善を図る」、「教育に関する検証改善サイクルの確立」、「児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる」など、調査目的のうち改善の重要性を指摘している。

○ より重要なことは、国が国のために実施する調査として、何を目的とするのか、それにふさわしい調査の実施方法はどういうものかという観点である。

○ 全国的な学力調査の目的は、国の主要な任務である義務教育の機会均等の確保や全国的な実態把握を重視してはどうか。

○ 教育課程の大綱的基準としての学習指導要領の制定、検証及び改訂が国の本来の任務であること等を踏まえ、今後の全国的な学力調査は、学習指導要領の検証・改善に力点を置くこととしてはどうか。

○ 平成22年度調査の目的、特に後段の「学校における児童生徒への教育指導の充実や学習指導の改善等に役立てる」という視点は、極めて重要であり、今後もこれを踏襲すべきである。多くの市町村教育委員会や学校の期待を反映して、約75%の中学校が抽出対象校として、あるいは希望して調査を受けている。各教科における言語能力の育成の重視、新学習指導要領の告示、新しい教科書の採択に加え、全国学力・学習状況調査も加わったPDCAサイクルに従って、市町村教育委員会や各学校が指導改善を図り、生徒自身も学習に対する関心意欲が高まっていくのではないか。

○ この調査は、調査結果を現場が受け止めて授業の改善に生かすことが大きな柱である。これまでも授業アイデア例や事例集が教育委員会や学校に向けて発信されているが、これまで以上に各先生が学校現場で生かせる調査となるよう検討を進めていく必要がある。

 

2.全国的な学力調査の対象教科や学年、実施時期について

・国語及び算数・数学に加え、新たな教科(例えば社会、理科、外国語)を追加するかどうか

・対象学年及び実施時期をどうするか

(新たな教科の追加)

○ 市町村教育委員会に対するアンケート結果では、教科の追加に係る要望は、学校の負担増を考慮したと思われるが34%にとどまっている一方で、多くの教育関係団体が新たな教科の追加を要望している。国語及び算数・数学以外の内容教科を新たな対象教科とすることには意義がある。本調査は、子供の学力だけではなく、教師の教育力向上のためにも、どういう問題が適切なのかというモデルを示すという意味もある。

○ 教科の追加に関して、来年度の追加については時間的に困難としても、その後については、特定の教科(国語、算数・数学)の調査をしていくのではなくて、国の政策に還元できるということで言えば、できるだけ幅広い教科をみていかなければならない。国語、算数・数学のコア科目に関しては、継続するにしても、毎年、あるいは一年置きに新しい科目を入れていくことが必要である。

○ 理科、社会、英語についても全国的な学力調査に取り込み、そこからヒントを得て、新学習指導要領の趣旨をよい方向に後押しすべきである。

○ 時系列変化を追う調査とする場合に、最も妥当な教科は何かを考える必要がある。現行調査の設計の際に議論されており、国語、算数・数学が継続的に測るべき学力の中心を占める。時系列で調査計画を立てるときは限定的に考え、知能モデルの一般因子の部分を時系列的に把握していくことが重要である。他の教科も重要ではあるが、何年かに1回、指導上有用なデータをとるのがよいのではないか。

○ 社会、理科、英語でも実験などが重要だが、調査で測れるものは限られるので、方法自体を変えて、トピック的に現場にフィードバックする調査を計画すればよい。

○ 各教科を追加すると、学校の負担が増える。自治体独自の調査への影響などデメリットの指摘もある。教科の追加は調査の目的の議論を踏まえて判断すべきである。

○ イギリスでは、学力が争点となって20年以上が経っている。当初はスタンダードに重点が置かれていたが、現在では学力格差を縮めることに重点が置かれている。日本では、都市とへき地の格差が縮んでいる一方で、別の学力格差が生じている。学校間格差もある。その中で頑張っている学校もあり、それを捉えられる調査としたい。家庭格差や日本ではあまり分析されていないが男女格差もあるだろう。外国籍の子どもの学力の問題も考えたいと思っても基礎データがない。それに合うのはこの調査である。そのような観点からは教科間の相関は高いので、国語、算数・数学でみるのが妥当ではないか。

○ 教科を追加することの意義はあるに違いない。それは3教科以外の教科にもいえる。この場では、全体の枠の中で何をどうするかという議論をしたい。PISA、TIMSS、教育課程実施状況調査、特定の課題に関する調査などがある中で、さらに調査を追加すると負担が増える。全国的な学力調査は、全国的な水準の維持向上や文部科学省の施策の検証に重きを置くべきである。

 

(社会科の追加について)

○ 社会科の課題として、グローバル化や規制緩和の進展、司法の役割の増大など、社会経済システムのあり方が変化する中で、将来の社会を担う子どもたちには、新しいものを創り出し、よりよい社会の形成に向け、主体性をもって社会に積極的に参加し課題を解決していくことができる力を身に付けさせることの重要性が指摘されている。

○ これらの課題を克服するため、新学習指導要領では、[1]基礎的・基本的な知識・概念の習得、知識・技能の活用、[2]我が国の伝統や文化に関する内容の充実、[3]諸外国についての基礎的な理解を習得させるための世界の地理や歴史の内容、[4]社会形成に積極的に関わっていく社会参画の資質や能力の形成、に関する内容の充実が図られており、国として4つの力が子どもに身に付いているかどうかを検証していくことが必要である。

○ 全国的な学力調査に社会科が追加されることのメリットとして、[1]授業の変革に結びつき、現場の教師に社会科の学力モデルを示すことができること、[2]水準の高い調査問題を示すことで、社会科における様々なテスト問題の質的向上、ひいては授業の向上に資することができること、[3]調査結果を児童生徒一人一人にフィードバックすることにより、個に応じた指導の充実が期待できること、[4]国際的な学力調査への対応、が挙げられる。

○ 社会科は、社会事象について、原因結果の関係、とりわけ説明力が大きい原因結果の関係を理解する力を中核としている。説明力が大きい知識を理解するためには、事象を取り上げ価値判断することが必要であり、それが社会参画につながると考えている。それを把握できる学力モデルを考えることで、穴埋め中心の授業から質の高い授業への変革につながる。

○ PISA調査の「読解力」の内容は、「社会」の学力と対応している部分が多い。「読解力」は言語の学力のみでは対応できず、全体構造、部分と全体、社会と個人、価値対立などについて、総合的な知識・概念・技能が求められる。社会科の授業は、まさにこれらの資質形成を目指して行われている。
 このような取組を進めていけば「国際的な学習到達度調査において、日本が世界トップレベルの順位となることを目指す」とした政府の新成長戦略の期待にも応えることができる。

○ 社会科の授業は教える内容が多く、教師中心、説明中心の授業が一般的である。生徒が主体的に考える授業がもっと広まる必要がある。総合的な学習の時間やキャリア教育ではそのような授業が広まってきているので、さらに数学Bのような調査問題が開発され、子どもが主体の考える授業が広まることを期待する。

○ PISAの読解力や言語活動において、国語だけが注目され、社会科が取り上げられないことが問題と考えていた。ハンナ・アーレントが人間の条件で分類した基本的な活動力のうち、活動(アクション)の部分がひ弱になっている。ライトノベルズの普及の背景には社会性の欠落があるとの指摘もある。新聞を活用しない教師や生徒が増えており知識の詰込みが懸念される。社会科の学力モデルを示す意義は大きい。

○ 提言された学力モデルは、ペーパーテストでは測定が難しいコンプレックス・アチーブメントの評価・測定となる。これは、従前のB問題が抱えている問題でもあり採点結果にブレが生じる。社会科の導入を検討する際には、この点も検討することが必要である。

○ かつて、学力調査が原因となって、おけいこやワークシート学習の蔓延が危惧されたことがある。全国的な学力調査は、学校現場の指導や教育課程に影響を及ぼす。社会科、理科では、指導法の根幹に何をどう考えさせるかを明確にしておく必要があり、そうでないとPISA型学力を伸ばす授業とはならない。社会科で培う学力については、提言いただいたような学力を測る調査が望ましい。

 

(理科の追加について)

○ 「知識基盤社会」の時代においては、科学技術は競争力と生産性向上の源泉である。1990年代半ば以降、ライフサイエンス、ナノテクノロジー、情報科学等の分野で世界的な競争が激化し、この競争を担う人材の育成こそが国力の基盤であることが各国で認識され、国際的な人材争奪競争も現実のものとなっている。

○ 少子・高齢化といった我が国の人口構造の変化や環境問題、エネルギー問題等、地球規模の課題の中で、次世代への負の遺産を残さない、人類社会の持続可能な発展に科学技術の貢献が期待されている。

○ それゆえ、次代を担う科学技術系人材の育成がますます重要な課題となっており、新学習指導要領においては、科学技術の土台である理数教育の授業時数及び教育内容の充実を図ったところである。

○ このような経緯から、全国的な学力調査において「理科」を追加し、子どもたちが、より確実な資質・能力を習得できるよう、子どもたちの学力・学習状況について、把握・分析等を行っていくことが必要である。

○ また、「理科」学力(知識・理解・活用力)が、「現代の基礎学力」の一つであるという認識は、国際的に認知されている。また、我が国を含む先進国では児童生徒の理科離れ現象が顕著である。理科に関する学力・学習状況の経年変化を把握する国内データが必要である。さらに、児童生徒の特性・属性にあわせたきめ細かい理科指導のあり方を提案し学力の定着につなげるためにも全国的な学力調査に理科を追加する意義がある。

○ 全国的な学力調査に理科を追加する場合、[1]他の類似した調査との趣旨・目的等の整理・調整することが必要、[2]学習内容が限定されているので、「知識」を問う問題は限られた問題にならざるを得ないこと、[3]実験・観察を踏まえた作問について、出題・採点のコスト等も含めた検討が必要、[4]理科の「活用」と捉えた場合には、技術・家庭科など関連する教科等も視野に入れることが必要、[5]実施までにはある程度検討期間が必要、また、実施頻度については、3年に1回程度が妥当ではないかと考えられること、[6]教育実践の現場へのフィードバックを一層強化することが必要、などの課題について、今後、検討する必要がある。

○ 理科の検討課題として、理科に関しては、既にPISA、TIMSSという国際学力調査があり、国内では教育課程実施状況調査、特定の課題に関する調査がある。全国的な学力調査に理科を追加する場合は、他の調査をよく研究し、しっかりとデザインする必要がある。

○ 実験・観察など技能の評価は確かに難しい。また、科学的思考とともに表現が新たに加わったので、思考・表現の能力把握が考えられる。他教科等との関連については、理科は環境教育と関係が深く、情報教育、食育との関係もある。

○ 新学習指導要領で追加された内容を踏まえた調査問題を作問すれば、国民に対する大きなメッセージとなるが、新たな内容は小6、中3に多い。小6、中3の4月の実施とする場合、実質的には小5、中2までの出題内容となることを踏まえる必要がある。観察実験が理科の本体という認識を広め、授業改善の方向を導く新しい理科の全体像を描く必要がある。

○ 理科では、知識だけでなく実験、観察が必要である。NAEPでは、実験セットを配ってパフォーマンス・アセスメントを行っている。特定の課題に関する調査においても同様の調査を実施したとのことだが、そこまで踏み込むべきかは論点となる。

○ 社会科にも通じるが、活用となるとペーパーテストでなく、何かをさせないと上手く見ることができない。コスト的な制約から大規模調査は諦め、ランダムサンプリングによるピンポイント調査で、国民にフィードバックでき授業改善につながる仕組みを検討する必要がある。

○ 理科についても重要な観点があり、学力調査のみならず学習状況についても分析する必要がある。理科は、実験器具、実験指導員など最もお金を必要とする。国や教育委員会における条件整備の状況と学校での子どもの学力や学習意欲の相関が見やすい教科であるので、理科が全国的な学力調査の対象として追加されれば、目的の一つであった国の政策の検証改善、条件整備にクリアにつながっていくのではないか。

○ 理科についても学習指導要領の改訂で授業時数及び内容の充実が図られた。授業改善を行い生徒一人一人に返すことを重視したい。実験観察をどうするのかというのがポイントである。全国的な学力調査が授業改善の契機となることを望む。

 

(英語の追加について)

○ 英語に関しては多様な目的によって多くのテストが開発されているが、適切な情報が得られているとはいえない。例えば、TOEFLEは熟達度テストであり、本来は英語圏での学術研究を英語で行う能力があるかを検証するテストであり、ある国の特定の英語教育が効果をあげているかを検証するにはふさわしくない。にもかかわらず、国別の得点を参考に我が国の成績がいかに低いかを公然と問題にし、あたかも我が国の英語教育が最低水準であるかのような議論もなされてきた。最近では日本のPBTの成績は中国、韓国を上回っているが、そのような結果は注目されない。

○ 英語教育の成果や生徒個人の英語学力を測定するための調査がなく、カリキュラムや英語指導を評価する判断材料となるデータはなかった。これを機に時系列でも把握でき、世界基準との関係を知るための調査ができるとよい。我が国では、数年前にようやく体系的な評価基準が設定され、目標準拠評価を行う試みがはじまった。英語でも多くの教員が関わり様々な試みがなされている。その際の成果を発展させ、全国的な学力調査に含めるには相応しい時期にある。

○ EUでは「ヨーロッパ共通基準枠」などヨーロッパ言語に共通の絶対基準に基づいたレベル設定を行う試みがなされている。アジアではこのような取組は行われていないが、我が国がこのような基準の開発に貢献できる部分も大きい。世界基準に合致するテストの開発については、実用英語技能検定、TOEFLE、English for academic purposeなどから使えるものを利用しながら独自に開発するプロセスをとれば、夢のような話ではない。

○ 言語能力は多様であり一面的に捉えることはできない。語彙力、文法に関する知識、英語という言語に関する背景的知識、文化に関する知識、実際の場面における知識が必要なことはいうまでもない。しかしながら、社会や経済のグローバル化の急速な進展に伴い、異なる文化の共存や国際協力が求められている。また、人材育成面での国際競争も加速している。これら我が国をとりまく環境に鑑み、新学習指導要領においては、外国語(英語)の授業時数や聞く・話す・読む・書くなどの学習活動の充実を図っており、それに応じて学校単位で行われているテスト、考査においても、言語知識のみならず言語の運用能力を如何に測定するかが重要な課題となっている。

○ したがって、全国的な学力調査に英語を追加し、子どもたちがより確実に必要な資質・能力を習得できるよう、子どもたちの学力・学習状況について把握・分析等を行っていくことが必要である。

○ 現状では、学校現場において、教員は言語の運用能力をテストするための適切で実行可能な道具と方法を手中に収めているとは言えず、理論と実践が乖離している印象を受ける。全国的な学力調査によって、英語教育の成果の検証にとどまらず、学習者と指導教員に現在の学力等とそれを向上させるための診断的情報の提供をも目的とすることにより、教員に授業で使える評価方法のモデルを提供する契機となるなど、理論と実践の橋渡しが期待できる。

○ これまでに学術研究の分野で行われている言語運用能力のモデルを考察するのみならず、指導に直接関わっている教員の言語観、指導の観点なども考慮しつつ、信頼性、妥当性の検証が行われることを想定して調査細目(調査の青写真)を入念に作成することから始める必要がある。

○ 開発当初より考慮すべき事項として、[1]相対的優位性(既存のものよりよいものであると使用者が認めること)、[2]両立可能性(既存の価値観や過去の体験、ニーズに一致していること)、[3]複雑性(新たな考えが単純で新技術・知識が必要ないこと)、[4]試行可能性(イノベーションが小規模レベルで、手間のかかる準備をせずに分割試行できること)、[5]観察可能性(イノベーションの成果を容易に見ることができること)がある。

○ 言語テストの波及効果に関する実証研究が世界各国で報告されているが、テストを開発して実施し、データを分析し、結果を公表するだけでは現場に反映されるとは限らない。パフォーマンステストをやっても先生の意識が変わらないと普及しない。調査の趣旨を教員、生徒、保護者、教育委員会などを含めた我が国全国民の共通理解とする必要がある。全国的な学力調査においては、さらに結果の意味、解釈のしかたなどについても誰でもわかる語彙を使いながら普及させるようすべてを同時進行で行うなどの配慮が必要である。

○ 小学校英語について、文部科学省が作成したCDがよくできており、リスニングでも子ども達が楽しんでいる。調査対象として検討してはどうかと考えたが、小学校の英語はそもそも「教科」ではなく、英語に慣れ親しむための「外国語活動」であって知識の定着を目的としないので、現在の取扱いでは調査対象として想定できない。

○ 世界共通基準となるような調査には、国を挙げて取り組むべきである。診断テストとして現場にフィードバックする視点も必要である。ただ、全国的な学力調査に英語が馴染むのかと思った例として、帰国子女がわざと下手な発音をすることがあった。帰国子女など外国語に馴染みのある子どもにどう対処するか念頭に置いて検討する必要がある。

○ 英語を使う能力、技能以外に、国際理解教育に必要だという観点もある。

 

(対象学年)

○ 市町村教育委員会のアンケート調査の回答状況(速報値)では、対象学年については、小学校6年生が69%、中学校3年生が64%と、従前の対象学年を踏襲すべきだという回答が最も多く、他の学年とすべきだという回答は、複数回答によっても30%台にとどまっている。

 

2.全国的な学力調査の調査方式について

・調査方式をどう考えるか。

・22年度の調査方式を継続していくかどうか。

・希望利用方式を今後も継続するかどうか。

・調査の精度(抽出率)についてどう考えるか。

(調査方式の考え方)

○ 個々の学校、児童生徒の状況を把握してフィードバックするならば調査方式は悉皆になるが、そのようにすると問題を公開しなければならないので、時系列比較ができない。調査にはいろいろな目的が考えられるが、それらを一つの調査で達成しようとすると矛盾が生じる。
 すべてを一つの調査で把握するのではなく、異なる調査方式の調査で補うという考え方もある。

○ 全国学力・学習状況調査は、目的の一つである学校における教育指導の充実や調査結果を学習状況の改善等に役立てることについては、悉皆調査を行い、子どもたちに個票を返すことで実現してきたが、もう一つの目的である教育施策の検証改善と継続的な検証改善サイクルの確立の観点からは、悉皆調査であろと抽出調査であろうと経年比較を見るための調査とはなっていない。出題範囲も数十分の調査では、1学年の学習内容を全てカバーすることは不可能である。この目的の達成のためには、PISA、TIMSSを支えるような国際水準のテスト技術の導入が必要であり、そのための研究開発を進める必要がある。

○ 今の仕組みでは肝心の改善指標がなく、全体の中での順位が問題となるので、生産性のないラットレースを惹き起こす懸念もある。教育の改善に資する調査とするためには、改善指標を確立し導入できるとよい。

○ 平成19年度から3年間の悉皆調査は、国が学力に関する成果指標をきちんと手に入れるという第一段階としての重要性があり、当時はいろんな意見があり、とにかく調査を実施すること自体に意義があった。
 現時点は、既に第二ステージに入るべき時期であり、これまでと同じ形式を前提に教科の追加の当否を論ずるというより、再来年度以降の調査を見据えて検討すべきである。
 進むべき方向の一つは、学力の水準とばらつきを国がある一時点でモニターする。それができるだけでなくて、時系列的な変化をきちんと明らかにできるような調査の設計にしていく方向ではないか。

○ 国の政策に資する形の調査なのか、個々人の児童生徒の学習にフィードバックできる調査なのかという点からは、抽出調査という形になったときに問い直されなければならない。国の施策に資するという点においては、時系列な分析が可能な調査形態をもつ必要がある。

○ 第二ステージにおける新たな制度設計をどうするかという根本を議論する際、調査がスタートした時点で設定したいろいろな目的を一つの調査で達成することは不可能であることを十分に踏まえる必要がある。
 その上で、全国的な学力調査は、国の主要な任務である義務教育の機会均等の確保や全国的な実態把握に重点を置くべきである。

○ 学校の授業を役に立つ、面白い授業に改善していくために、本調査ははじまったと認識している。第二ステージとは言え、学校の教育の発想を変えるために調査を実施するという意義は現段階でもあると考える。

○ 全国的な学力調査が外発的なモチベーションとなることで、却ってデメリットが生じる場合もある。生徒への還元は非常に重要だが、その役割は全国学力調査を全国一律に実施しなければ担えないというものではない。検討に当たってはその点を十分踏まえる必要がある。

○ 学力の維持・向上に資するという調査の目的は動かない大きな目的である。しかし、その手段については、最新のテスティング技術では、全国調査と地方独自の調査の両者を対応付けることで、地方独自の調査の結果と全国調査の結果を比較することも可能である。国が悉皆調査を行わなければこの目的が達成できないということではないことに留意する必要がある。

○ テストを積極的に使って自分の能力を引き出すチャンスにするという考え方が必要である。PISA調査の枠組みも参考にしつつ、将来、コンピュータ化してアイテムバンクをつくり、いつでも実施可能な調査とすることなどにより、子ども自身が自分の分からない点や世界のスタンダードとの関係が分かる調査で、学校にフィードバック可能な調査など、全く新しい視点で測定することを検討してもよいのではないか。

 

(調査方式)

○ 調査の視点からは、抽出調査の方がよいが、指導の視点から見ると悉皆調査の方がきめ細かに見ることができる。教育については、各自治体にやり方は任せ、国は財政支援をするという方法もある。

○ 全国や都道府県の状況把握は抽出調査で足りるが、悉皆調査では、健康診断に例えると、個人レベルで子供の症状を把握することができる。医者であれば目前に症状をもった患者がいればなんとかする。この患者は高血圧であると…、同様にこの子は分数が理解できていないと、そういう時に、指導方法はもっと切実になる。悉皆調査では、このような使命感・義務感的な雰囲気が醸成されてくることが貴重である。

○ 各学校の検証改善サイクルの確立を国が悉皆調査として保障することが、学力向上のために効果的である。全国的な抽出データだけでは大きな施策は変えられるが、各学校や子ども、家庭の取組にまではなかなか影響を及ぼしにくいというのがこれまでの実態としてあった。

○ 子どもに負担をかけないことと、詳細に学力を把握することとは相容れない。調査は抽出方式がよいと思うが、様々な目的を達成するための調査として全米学力調査(NAEP)が参考となる。NAEPでは、そのときのトピックに合わせたメインNAEP、基本的な部分を経年的に追うロングタームNAEP、また、ステイトNAEPというかなり抽出率の高い調査を各州で実施し、これらを組み合わせることで問題を解決している。

○ 世界基準に合致するテストの開発について、ETSがwritingの採点システムを開発している。むしろ予算やマンパワーの問題ではないか。

 

(希望利用方式)

○ 先般、学校評価における第三者評価の在り方について検討結果がとりまとめられ、第三者評価については学校・設置者の判断に委ねることされた。そのような文脈における全国的な学力調査の捉え方は一つのテーマとなる。全国的な学力調査により、市町村教育委員会や学校が自ら日頃の姿を見直すという視点は重要である。
 希望利用方式により、悉皆調査にはなかった設置者の意思や学校の主体性の要素が登場したことの意義については丁寧に取り扱う必要がある。

 

(調査の精度)

○ 悉皆調査は負担が大きく抽出調査に切り替えられたことは改善と受け止めているが、全国的な児童生徒の水準の把握は必要としても都道府県別に一定の精度のデータが必要かどうかについては検討する必要があるのではないか。

○ 市町村教育委員会のアンケート調査の回答状況(速報値)では、調査の精度については、都道府県の状況が分かる程度までの精度が必要との回答が30%、市町村の状況が分かるまでの精度が必要との回答が45%であるのに対して、全国の状況が分かる程度との回答は19%であった。

 

(異なる調査方式の組合せ)

○ 今後の調査については、4~5年を一つのパッケージとして、何年かに1回は悉皆調査を実施し、その間は小規模の精密な調査により課題に解決に取り組むこととしてはどうか。

○ 4年に一回は悉皆調査を行いしかも教科を増やすこととしてはどうか。その間は、10%程度の抽出調査を毎年度実施するようにすれば、ちょうど小6で対象となった児童は、4年後には中3となって再び悉皆調査の対象とすることができる。悉皆調査による各学校のPDCAサイクルの支援を実施しないと、学校は当事者意識を失いかねない。抽出調査との組合せ方式で調査目的を達成するという考えもある。

○ 時系列データを見る調査を第一部に考え、学力の識別力を幅広く捉えるための、例えば学力格差を広くみるための調査、施策の検証ができる調査が考えられる。これとは別に、例えば5年ごとに実験観察などの重要性を現場に発していくサイクルが考えられる。
 学力調査を一枚岩と考えるのではなく、学力の複雑さを考えるなら、様々な調査を組み合わせる思い切った設計をすべきである。

○ 負担軽減のために、様々な調査を組み合わせることで幅広く調査することには賛同する。あまり調査のスパンが空くと、その間に担当者が変わったりしたノウハウが継承されない。実際にはこのような点も考慮する必要がある。

○ 「知識」を問うA問題については、県独自調査でも把握可能であるし、基礎学力の定着に関しては現場の先生方も大体把握できているので、国が行う悉皆調査は、「活用」を問うB問題中心で4教科、5教科まで拡げ、質問紙調査も簡素化することにより負担軽減を図ることもできる。分析ツールの改善が更に図られれば、希望利用の学校でもPDCAサイクルがまわせる。

 

4.全国的な学力調査の実施頻度について

・毎年実施するか、隔年又は数年に一度でよいか。

○ イギリスでは20年前にナショナルカリキュラムと悉皆調査であるナショナルテストが導入された。調査結果は学校別、地域別に公表され、予算にも反映され、競争状況となる。すべて組み合わされると怖い状況となる。それを避けるためには、5年に1回程度の抽出調査とすべきである。その上で、県や市は状況に応じて自前で必要なテストを行えばよい。

○ 市町村教育委員会のアンケート調査の回答状況(速報値)では、調査の実施頻度については、60%が毎年実施を求める意見であった。

 

5.その他

(教育課程実施状況調査との関係)

○ 教育課程実施状況調査は行政のための調査であり、全国学力調査と統合すると、マッチポンプみたいになり客観的なデータの把握・検証が阻害されることが懸念される。全国調査は、より純粋に、より公平な立場で、国の教育水準、到達度に関して測定データを積み重ねていくものだと思う。

○ グランドデザインの議論が重要である。学力調査が現場の指導を左右するという指摘があったが、注目度が高いテストほどスコアが上がることは世界的に確認されている。学力のある一面だけを捉えるルールを決めることとなりかねない。調査結果の活用が注目されているが、戦後の教育の流れが振り子のようになっていることから、学力を継続して追うときには、振れている振り子の大もとの部分をフォローする調査の側面と、時代によって変わる教育思潮に合わせた調査、粗っぽく言えば、A問題とB問題、メインNAEPとトレンドNAEPに対応する。

○ 学校の目的は生きる力を育てることで、そのために確かな学力などがあり、確かな学力のために学習指導要領があり授業が行われる。カリキュラムの底に、コアの力がありそのまた中心があるというように学力には何重にも底がある。
 学校現場は動きに敏感であり、全国学力・学習状況調査がはじまってから、研究授業のテーマが国語、算数に極端に偏った。バランスのとれた学力向上のためには、他の学力調査と重ならないような位置づけが必要がある。

 

(調査結果の情報開示・公表)

○ 調査結果の開示・公表に関し、各校長には本来、悉皆調査により自校の結果を把握し、教育指導の充実や児童の学習状況の改善に役立てたいという思いがある。しかし、ここ数年、市区町村レベル、各学校レベルの一方的な開示が避けられない事例が頻発する中で、地域や学校の序列化が先行し児童が愛着・誇りを失うのではないかというマイナス面が心配されるので、抽出調査もやむを得ないと考えている。

 

(その他)

○ 学力格差の問題が重要。どのような問題を作るかも大切だが、学校、児童生徒の質問紙にどのような項目を入れ、分析していくか議論する必要がある。

○ 問題を作るプロセスが大切。よい問題を作る先生は指導力がある。国が作問するとその力を吸い上げることとなり、各地方の作問能力が育たないのではないかと懸念している。

○ 国の施策の検証・改善という観点からは、高等学校教育を全国的な学力調査の対象に含めることについても検討する必要がある。初等中等教育局全体を見渡すと、高等学校教育は抜け落ちやすい。多様化が進んで以降、おそらく学校段階ではもっとも散らばりが大きいのが高等学校と考えられるので今後の検討課題とすべきである。

○ 高等学校を調査対象にすることで、個人の発達の積上げとして、小中高の学力の発達が、積み上がるのか、途中で抜けるのか、ライフサイクルの中で学力がどう変容するのかを見ておく必要がある。コア部分で時系列的設計をするのと、個人の発達を追う調査が全国的な学力調査としては重要で、あとはアドホックに指導上有用なデータを得るための調査を定期的に行うのが望ましい。

○ 高等学校を調査対象とすることについては、高等学校は学校間の差が大きく問題作成が非常に難しい。高等学校は、センター試験の影響も大きく、高等学校でB問題をやっても、センター試験の内容と異なれば、特に進学校からは相手にされない可能性がある。センター試験も含めて考えないとダブルスタンダードとなりかねない。

お問合せ先

初等中等教育局学力調査室

三宅、竹下、吉田
電話番号:03-5253-4111(内線3732)