全国的な学力調査の在り方等の検討に関する専門家会議(第3回) 議事要旨

1.日時

平成22年7月16日(金曜日) 15時~17時

2.場所

霞山会館 牡丹の間
(東京都千代田区霞が関 3-2-1)

3.出席者

委員

荒井座長代理、有馬委員、岩田委員、梶田座長、小宮委員、柴山委員、志水委員、高木委員、田中委員、土屋委員、耳塚委員、渡部委員

4.議事要旨

(1)事務局から資料1に基づきこれまでの委員からの意見について概要の説明が行われた。

 

(2)岩田委員から資料2に基づき、全国的な学力調査への「社会」の追加について説明が行われ、意見交換が行われた。主な意見は以下の通り。

○社会科の授業は教える内容が多く、説明中心、教師中心の授業が一般的である。生徒が主体的に考える授業がもっと広まる必要がある。総合的な学習の時間やキャリア教育ではそのような授業が広まってきているので、さらに数学Bのような調査問題が開発され、子どもが主体の考える授業が広まることを期待する。

○PISAの読解力や言語活動において、国語だけが注目され、社会科が取り上げられないことが問題と考えていた。ハンナ・アーレントの人間の条件のうち、活動(アクション)の部分がひ弱になっている。ライトノベルズの普及の背景には社会性の欠落があるとの指摘もある。新聞を活用しない教師や生徒が増えており知識の詰込みが懸念される。社会科の学力モデルを示す意義は大きい。

○提言された学力モデルは、ペーパーテストでは測定が難しいコンプレックス・アチーブメントの評価・測定となる。これは、従前のB問題が抱えている問題でもあり採点結果にブレが生じる。社会科の導入を検討する際には、この点も検討することが必要である。

○かつて、学力調査が原因となって、おけいこやワークシート学習が蔓延したことがあり危惧されたことがある。全国的な学力調査は、学校現場の指導や教育課程に影響を及ぼす。社会科、理科では、指導法の根幹に何をどう考えさせるかを明確にしておく必要があり、そうでないとPISA型学力を伸ばす授業とはならない。社会科で培う学力については、提言いただいた学力を測る調査が望ましい。

 

(3)小川委員から資料3に基づき、全国的な学力調査への「理科」の追加について説明が行われ、意見交換が行われた。主な意見は以下の通り。

○理科の検討課題として、理科に関しては、既にPISA、TIMSSという国際学力調査があり、国内では教育課程実施状況調査、特定の課題に関する調査がある。全国的な学力調査に理科を追加する場合は、他の調査をよく研究し、しっかりとデザインする必要がある。

○実験・観察など技能の評価は確かに難しい。また、科学的思考とともに表現が新たに加わったので、思考・表現の能力把握が考えられる。他教科等との関連については、理科は環境教育と関係が深く、情報教育、食育との関係もある。

○新学習指導要領で追加された内容を踏まえた調査問題を作問すれば、国民に対する大きなメッセージとなるが、新たな内容は小6、中3が多い。小6、中3の4月の実施とする場合、実質的には小5、中2までの出題内容となることを考える必要がある。観察実験が理科の本体という認識を広め、授業改善の方向を導く新しい理科の全体像を描く必要がある。

○理科では、知識だけでなく実験、観察が必要である。NAEPでは、実験セットを配ってパフォーマンス・アセスメントを行っている。特定の課題に関する調査においても同様の調査を実施したとのことだが、そこまで踏み込むべきかは論点となる。

○社会科にも通じるが、活用となるとペーパーテストでなく、何かをさせないと上手く見ることができない。コスト的に大規模調査は諦め、ランダムサンプリングによるピンポイント調査でよいので、国民にフィードバックでき授業改善につながる仕組みを検討する必要がある。

○まずは、様々な学力調査の整理が必要であり、国にとってどのような目的の調査が必要であり、そのための調査方式を考える必要がある。数年サイクルのパッケージにまとめるとうまく進められるのではないか。時系列変化のサンプリングが特に大切であるので、学力調査と一口に言うのではなく、どのような調査を組み合わせるのかが重要である。教科の追加については、全体の中で位置づける必要がある。

○理科についても重要な観点があり、学力調査のみならず学習状況についても分析をする必要がある。理科は、実験器具、実験指導員など最もお金を必要とする。国や教育委員会における条件整備の状況と学校での子どもの学力や学習意欲の相関が見やすい教科である。理科が全国的な学力調査の対象として追加されれば、目的の一つであった国の政策の検証改善、条件整備にクリアにつながっていくのではないか。

○理科についても学習指導要領の改訂で授業時数及び内容の充実が図られた。授業改善を行い生徒一人一人に返すことを重視したい。実験観察をどうするのかというのがポイントである。全国的な学力調査が授業改善の契機となることを望む。

 

(4)渡部委員から資料3に基づき、全国的な学力調査への「英語」の追加について説明が行われ、意見交換が行われた。また、続けて、全体に関して意見交換が行われた。主な意見は以下の通り。

○小学校英語について、文部科学省が作成したCDがよくできており、リスニングでも子ども達が楽しんでいる。調査対象として検討してはどうかと考えたが、小学校の英語はそもそも「教科」ではなく、英語に慣れ親しむための「外国語活動」であって知識の定着を目的としないので、現在の取扱いでは調査対象として想定できないことは理解した。

○社会科、理科、英語の専門家の話を聞いて、大学入試センター試験のリスニングテストを想起した。リスニングテストの意義はあるとしても、それをセンター試験でやらなければならないのかと感じた。コストパフォーマンスの面では特に疑問である。教科を追加することの意義はあるに違いない。それは3教科以外の教科にもいえる。この場では、全体の枠の中で何をどうするかという議論をしたい。PISA、TIMSS、教育課程実施状況調査、特定の課題に関する調査などがある中で、さらに追加すると負担が増える。全国的な学力調査は、全国的な水準の維持向上や文部科学省の施策の検証に重きを置くべきである。

○イギリスでは、学力が争点となって20年以上が経っている。当初はスタンダードに重点が置かれていたが、現在では学力格差を縮めることに重点が置かれている。その時に使えるデータとしては、本調査がベストである。都市とへき地の格差が縮んでいる一方で、別の学力格差が生じている。学校間格差もある。その中で頑張っている学校もあり、それを捉えられる調査としたい。家庭格差や日本ではあまり分析されていないが男女格差もあるだろう。外国籍の子どもの学力の問題も考えたいと思っても基礎データがない。それに合うのはこの調査である。そのような観点からは教科間の相関は高いので、国語、算数・数学でみるのが妥当ではないか。

○時系列変化を追う調査とする場合、最も妥当な教科は何かを考える必要がある。現行調査の設計の際に議論されたが、国語、算数・数学が継続的に測るべき学力の中心を占める。時系列で調査計画を立てるときは限定的に考えてよく、知能モデルの一般因子の部分を時系列的に把握していくことが重要である。他の教科も重要ではあるが、何年かに1回、指導上有用なデータをとるのがよいのではないか。

○社会、理科、英語でも実験などが重要だが、調査で測れるものは限られるので、方法自体を変えて、トピック的に現場にフィードバックする調査はそれはそれで計画すればよい。

○前回、高等学校を調査対象にすることについて検討する必要があるとの提言を行ったが、個人の発達の積上げとして、小中高と学力の発達として、積み上がるのか、途中で抜けるのか、ライフサイクルの中で学力がどう変容するのかを見ておく必要がある。コア部分で時系列的設計をするのと、個人の発達を追う調査が全国的な学力調査としては重要で、あとはアドホックに指導上有用なデータを得るための調査を定期的に行うのが望ましい。

○世界共通基準となるような調査には、国を挙げて取り組むべきである。診断テストとして現場にフィードバックする視点も必要である。ただ、全国的な学力調査に英語が馴染むのかと思った例として、帰国子女がわざと下手な発音をすることがあった。帰国子女など外国語に馴染みのある子どもにどう対処するか念頭に置いて検討する必要がある。

○グランドデザインの議論が重要である。有馬委員から、学力調査が現場の指導を左右するという発言があったが、注目度が高いテストほどスコアが上がることは世界的に確認されている。学力のある一面だけを捉えるルールを決めることとなりかねない。調査結果の活用が注目されているが、戦後の教育の流れが振り子のようになっていることから、学力を継続して追うときには、振れている振り子の大もとの部分をフォローする調査の側面と、時代によって変わる教育思潮に合わせた調査、粗っぽく言えば、A問題とB問題、メインNAEPとトレンドNAEPに対応する。

○基盤となるデータが全くないという指摘があったが、時系列データを見る調査を第一部に考え、学力の識別力を幅広く捉えるための、例えば学力格差を広くみるための調査、施策の検証ができる調査が考えられる。これとは別に、例えば5年ごとに実験観察などの重要性を現場に発していくサイクルが考えられる。

  このように学力調査を一枚岩と考えるのではなく、学力の複雑さを考えるなら、様々な調査を組み合わせる思い切った設計をすべきである。

○世界基準に合致するテストの開発について、ETSがwritingの採点システムを開発している。むしろ予算やマンパワーの問題ではないか。

○英語を使う能力、技能以外に、国際理解教育に必要だという観点もある。

○本日の議題に違和感を感じる。各教科ごと教科専門の先生にご意見を伺えば追加するという意見になるが、学校の負担が増える、自治体独自の調査への影響などデメリットの指摘もある。調査の目的の議論を踏まえた判断基準に拠るべきである。

○学校の目的は生きる力を育てることで、そのために確かな学力などがあり、確かな学力のために学習指導要領があり授業が行われる。カリキュラムの底に、コアの力がありそのまた中心があるというように学力には何重にも底がある。

  学校現場は動きに敏感であり、全国学力・学習状況調査がはじまってから、研究授業のテーマが国語、算数に極端に偏った。バランスのとれた学力向上のためには、他の学力調査と重ならないような位置づけが必要がある。

○負担軽減のために、様々な調査を組み合わせることで幅広く調査することには賛同する。教育課程実施状況調査の作問に携わった体験からは、あまりスパンが空くと、その間に担当者が変わったりしたノウハウが継承されない。実際にはこのような点も考慮する必要がある。高等学校を調査対象とすることについては、高等学校は学校間の差が大きく問題作成が非常に難しい。高等学校は、センター試験の影響も大きく、高等学校でB問題をやっても、センター試験の内容と異なれば、特に進学校からは相手にされない可能性がある。センター試験も含めて考えないとダブルスタンダードとなりかねない。

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初等中等教育局学力調査室