【資料4】神村委員発表資料

幼児期の教育と小学校教育の接続

    上越教育大学附属小学校 副校長 神村大輔

1 はじめに

「勉強いっぱいしたい」「友だちたくさんできたらいいな」「広い運動場で思いっきり遊びたい」と、それぞれに夢や希望をもって小学校に入学する児童が、その夢や希望をさらにふくらませられるようにしたい。休み時間を増やす工夫や学習時間を30分刻みにする取組、生活科に国語や図工の内容を加えた総合単元活動など児童の生き生きと学ぶ姿の実現を目指している。

2 小学校の取組

(1)柔軟な学習活動の展開

a 個別の学習から集団の学習への移行

学習は個において成立するが、集団を通して学ぶ中から友だちと心を通わせ、その道徳性を高めていく。これまで、入門期の学習規律の形成を優先的に考えてきた小学校では、その考え方を改めていく必要がある。

b 模倣場面を認めた学習活動

教師の問いに一斉に手を挙げる児童。指名すると児童には用意した答えがない。それでもみんなと一緒に手を挙げて、先生に指名されることを楽しみにしている。「友だちの答えを見てはいけません。」とテストをしても、しっかり見ながら回答する。模倣し、確かめて学習してきた経験の表れを認めていく。

c 具体物を用い、具体的な操作のある学習活動

抽象度の高い学習活動を可能にするために、言語や図式などを自ら操作できることを目指している。しかし、そのスタートや学習途中で迷子になったときには、具体的な場面を設定し、操作活動を工夫するなどして、児童が議論や協議をしていく必要がある。

d チャレンジ学習など発展的な学習活動の展開

自分が深めてみたい学習やもっと時間をかけて続けたい学習活動を可能にするための時間日程の工夫や担当者の複数化などの取組により探究的な学習活動の可能性がある。

(2)学校生活の自由度を高める工夫や手立て

a ノーチャイムによる活動や生活

教育計画が緻密で指導者に周知徹底が図られていること、児童が予定や日程をもとに自ら見通しをもって取り組んでいることがノーチャイムを可能にする。

b スタッフの充実

児童の不安を和らげ、安心してのびのびと活動させるためには、支援スタッフの充実が必要である。特別支援教育担当や養護教諭の複数配置など、恵まれた人的環境の整備が必要である。

c 安全対策の充実が生き生きとした活動の基盤

学校生活や学習活動の自由度を高めるには、基盤となる安全対策を充実させることが必要である。安全が確かめられると、指導者も児童もさらにスケールの大きな活動を展開することが可能になる。

(3)積極的な学校公開による理解の促進

a 未就学児の保護者も含めて地域の学校である小学校は、その説明責任のもと、学校の教育活動や学校生活を公開し、具体的な理解の促進を図る必要がある。特に、初めて小学校に就学する児童の保護者には、児童と共に現実的に準備を進めていただくために不可欠である。

b 学校の取組が児童や保護者、地域や学校関係者からの評価を得ることによって、改善が可能になる。有効な学校評価機能の基盤は学校公開である。

3 幼稚園の取組

(1)遊びの中の学習に見通しを

a 遊びの変化・変容・高度化

テレビゲームなどの遊びと異なり、幼児が繰り広げる遊びは一人遊びでも集団遊びにおいても、同じような遊びが長く続くのではなく、変化したり進化したりしていく。砂山にトンネルを掘っても、友だちと鬼遊びをしても、夢中になりながら新しいアイディアが生まれてくる。

b 集中する力と自力解決する力

遊びに集中することを通して、自らの課題が意識される。この課題解決に自らが立ち上がる。集団遊びの中では先生や友だちに相談することになる。大切な支援のチャンスに、訴える幼児の考えをしっかり聞くこと、共に考えることが教師の役目である。

c 遊びは筋書きのないドラマ、しかし学びの可能性を見通す教師

ゲーム性のある遊びにはトラブルが予想される。そこには新たなルールの必要が生じる。また、遊び方を工夫したり改善したりすることは、遊びを繰り返す中で自然発生的に生まれてくることが予想される。教師は経験を通して自ら学びながら、これらを見通す力を養う必要である。

(2)学習する力を養う支援

a 言葉や文字に関する興味と支援

ものの名前に文字を対応させようと、掲示物の表示や自分の名札などを指し示す幼児の姿が見られる。平仮名の1文字を拾うことから、何人かで複数の文字を順に拾うこともある。小学校では当たり前に見られる50音表が、幼児教育の場にも幼児の手の届くところにあってもよいのではないか。
言葉を真似たり復唱したり、意味内容を理解して使ったりなどの歌や遊び。数え歌や伝言ゲーム、しりとり言葉など幼児の言語環境をより豊かにし、日常的に家庭でも言語生活を豊かにしていく支援が必要である。

b 数や形、量などに関する興味と支援

おはじきを一つ二つと数えることや色紙を一枚二枚と数えることなどの経験は大切である。そのうちに、二、四、六…と数えることができ、5のまとまりや10のまとまり。10のまとまりが3つという風に、具体物を自分で操作しながら数に親しむ姿を支援していきたい。幼児の発達に応じて、教師が小分けして配る場面を減らし、グループにまとめておやつを置くなど学びを促す支援を工夫していくことが大切である。
スタンプや色板などによる形遊び、綱引きやドッチボールの遊びを通した長さや広さなどの認識経験を様々に積むことは、その後の学習に役立つ。小学校第1学年の学習内容を教科書などで具体的にイメージすると、これまでの幼児の遊びの中にある学習基盤に気付くことができる。

c 遊びは学び、学習要素を意図的に支援できる教師

草花や野菜を採集したり、落ち葉や木の実を集めたりすると、その後には色や形、特長などから種分けが始まる。昆虫や水の中の生き物も興味のある子には、貴重な分類の場になる。身近なものから幼児が学ぶ姿を切り取ることができる教師が必要である。また、集めたものや作ったものでお店屋さんごっこに発展させる子など、人々の暮らしや社会の営みを、遊びを通して意図的に学ぶ活動に支援できる教師を育てていきたい

4 終わりに

子どもの力が発揮されることを願っている。子どもと共に課題解決の喜びを味わいたいと思っている。子どもの夢や希望が新たに展開することを、保護者と共に期待を持って見守っていきたい。
そのためには、今以上にできることや、新たな可能性に自らがチャレンジしていく必要がある。幼児教育や学校教育の場に携わる者が、具体的な現場で語り合っていくことを続けていくべきである。それは、幼児や児童の発達や成長を学びの活動として見ていくことである。

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