【資料1】岩立委員発表資料

2010年5月11日

幼児期の教育と小学校教育への円滑な接続の在り方について
-乳幼児期から児童期への発達の視点から考える-

岩立京子(東京学芸大学)

 よい教育や指導法は多様である。しかし、いずれにしても子どもの発達に適したものでなければ、その効果は限定的であるか、逆に発達や学びを阻害するものになりかねない。
 ここでは、乳幼児期から児童期への発達に適した質の高い学びを生み出す今後の接続の在り方を考える。

1、発達の捉え方

  • 受胎から死に至るまでの年齢の増加にともなう心身の機能の変化を示す概念
  • 量的な発達は連続しているが、質的に異なる段階の間の飛躍的転換があるという意味では非連続として捉えられる。質的変化は、異なるいくつかの段階を経て非連続的に変化し、「発達段階」として捉えることができる。
  • 発達や学びは、ヒトとしての生来的に組み込まれた能力と、生後の環境から影響を受けて獲得される能力の相互作用で生じる
  • 標準的(normative)な発達と個人差、個人内差などからとらえられる。

2、乳幼児期から児童期にかけての標準的な発達の特徴

  • 一般的に考えられているよりもかなり早期に社会情動的、知的発達の側面が芽生えてる。
  • 能力が「芽生える」時期なので、いつでも、どこでも、誰に対してでも安定して発揮できるわけではない。(できる力をもっていることと、実際にできることとは違う。)
  • 愛着、安心を感じる対象や文脈において、具体的で慣れた文脈において、意味がわかる文脈において、楽しい文脈において、知的好奇心が喚起される文脈において、乳幼児期から児童期の子どもは力をより一層、発揮できる。

愛着の関係 

  • 生来的に人に特別な注意を向け、かかわり、生後6ヶ月頃から特定の対象との間に愛着関係を形成する。
  • 生後9ヶ月頃から、乳児は見知らぬ対象に出会ったときに、その判断基準として愛着の対象を見て判断し、自己の行動を調整する。例えば、愛着対象がにっこりと微笑んだりすれば、安心して手を伸ばし、顔をしかめて頭を振れば、手を引っ込めたりする。
  • 3歳頃から、愛着対象の目的や行動の計画、感情状態や動機をわかり、その人の意図にあわせて自分の行動を柔軟に変えていける相互調整期に入る。
  • その後、愛着対象が多様になってくるが、愛着対象についてのイメージが、(愛着対象以外の)他者との関係における期待・予測モデルとして、その後の対人行動を方向づけたり、情動を制御する。

認知の発達

古典的研究にみられる乳幼児期の知的な発達の特徴(例 ピアジェ、J.の認知発達の段階)
感覚-運動期(0-2歳) 
感覚と運動(活動)を通して、環境に働きかけたり、新しい場面に適応する時期
イメージのルーツがある
前操作期 *前概念的思考(表象的思考)(2-4歳頃まで)

  • 言葉やイメージによって考えることができるようになる。 
  • 自分の視点を離れることがむずかしい、
  • 他者の立場に立つことがむずかしい、
  • みかけに思考が左右される、思考が実際の見えに影響したりする
    *直感的思考(4-7、8歳頃まで)
  • 事物を分類したり、関連づけたりすることが進歩してくるが、まだ、法則がみられず、直感に依存する。前概念的思考と、次の具体的思考の中間の段階で、双方の特徴を併せもつような時期。

具体的操作期 (7、8歳-11、12歳頃まで)具体的な状況や日常的活動において論理的思考が可能となる。
近年の研究にみられる乳幼児期の知的な発達の特徴(ピアジェ以降の認知発達の研究者)
子どもの知的な発達は過小評価されている。それは、子どもの生活の文脈からかけ離れた質問や、抽象的な言葉で質問されたりするので、子どもは実力が発揮できなくなる。様々な実験を工夫して、かなり早い時期からの子どもの知的な能力を検証している。

領域固有性 

ピアジェはある段階の子どもは、どのような分野・領域であれ、その段階の特徴的な思考を示すと考えたが、領域ごとに固有な知能(言葉や、論理―数学的、身体―運動的知能など)が体系化されていく過程として認知発達を捉える考え方

心の理論

 一般的には4、5歳から他者の信念や感情、あるいは他の心的状態を推論することができるようになる。課題に慣れさせたり、言語を媒介として質問をしない実験方法を工夫すると、2歳代でも推論できる(シーガル、外山訳、2010)
出来事表象あるいはスクリプト(生活の「見通し」の基礎となる力)
出来事の時系列的な表象(イメージとほぼ同意)。4歳代から5歳代にかけてスクリプトが形成される。自己を調整する力などともに、人から指示されなくても、自ら行動するための基盤として機能する。

メタ認知 

各領域の能力をより自覚的に機能させる働きをする。この力は、「内省力」(reflection)と「動機づけ」とともに、自律した学習、概念の理解、知識の構造化という3つの今日的学習課題に影響を及ぼす要因である。(Paris & Cunningham, 1996)

例 意図的に記憶するためには、記憶することについてある程度、知識をもっていたり、記憶について自分が今、どのような状態にあるのかを振り返り、考えたり(monitoring)、うまく記憶できるように自己制御できる能力など。

この力が幼児期後期から児童期初期に芽生えるので、あまり自覚しない学びから、自覚的な学びへの変化と関わっている可能性がある。

言葉の発達

幼児期から児童期への発達の特徴

 

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