児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成30年度)(第3回) 議事要旨

1.日時

平成31年2月18日(月曜日)15時00分~17時00分

2.場所

文部科学省3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. SOSの出し方に関する教育等の取組事例について
  2. その他

4.出席者

委員

新井委員,荊尾委員,川井委員,窪田委員,阪中委員,坪井委員,高橋委員,村瀬委員
〔ヒアリング協力者〕馬場優子氏,川島大輔氏,荘島幸子氏,井門正美氏,川俣智路氏

文部科学省

大濱児童生徒課長,松木生徒指導室長,星専門官

5.議事要旨

※議事に先立ち,主査より挨拶があった。
※事務局より配布資料の確認があった。

【主査】  それでは,議事に入る。SOSの出し方に関する教育等の取組の事例について,お三方から発表していただく。1人につき発表15分,質疑応答10分,全体で25分ということだ。 最初に,足立区こころとからだの健康づくり課,馬場優子課長にお願いする。
【ヒアリング協力者の発表】  これからスライドで説明しますが,全部は盛り込めなかったので,また後半10分の質問のところで,そちらについては説明します。 まず,足立区の概要ですが,人口が68万人を超えました。そして,高齢化率が24.71と,私ども23区の中で2番目に高い状況になっています。生活保護率は3.68%で,台東区に続いて2番目ですが,世帯数で言うとうちが一番多い状況です。小学校が69校,中学校が35校,都立高校が9校あります。保健センターの保健師は全部で65人で,自殺対策については係長が1人います。こういった状況で現在,仕事をしています。 足立区の自殺対策モデル,都市型対策モデルの特徴ですが,まず私たちは現状を数値で捉えて,自殺対策戦略会議で方針を決定しています。続いて,窓口が連携して対応して,1人の方の悩みの解決を導いているという状況です。また,SOSの察知能力を高めるために,ゲートキーパー研修というものを,初級,中級,上級と段階を付けていっていますが,こちらについては民生児童委員や健康づくり推進委員,区の職員は必須になっていて,現在受講者が一万人を超えたところです。さらに,確実につないで命を守るために,紹介状,つなぐシートというものも活用して,つなぎながら命を守っているというところです。 また昨年,自殺対策計画,足立区の生きる支援計画を立てました。その中で,主要65の事業を掲げて,PDCAサイクルを回して,年度ごとに事業評価をしながら推進しています。ちなみにその65の中で子供に関する事業がどのぐらいあるかと数えてみましたら,18の事業が関係していました。 では,早速その「自分を大切にしよう」という授業の紹介に入りますが,まず足立区の自殺の実態では,29年度,男性は20代,30代が自殺の死亡者が多かったです。また,続いて女性では,10代はガンと並んでいますが,10代,20代が,自殺がトップという形になっています。 足立区は,実はこのSOSの出し方教育「自分を大切にしよう」というのを,21年の12月から始めています。取組のきっかけですが,都立高校で赤ちゃんだっこ体験というのを行った際,女子生徒が生後4か月の赤ちゃんのだっこを体験し,その時,そのお父さんお母さんから,夜泣きをして大変だけれども一生懸命大切に育てています,育児をがんばっていますという話がありました。そのときに女子高生は,その赤ちゃんがすごく祝福されている赤ちゃんだなと受け止めたわけです。一方自分はなかなか親に大切にされていないと感じ取って,涙ぐんでしまったという経緯がありました。 そのとき授業のコーディネートをお願いしていた養護教諭の先生と話し合って,もう一度赤ちゃんだっこ体験ではない授業をさせてとお願いして始めたのが,この「自分を大切にしよう」という授業です。赤ちゃんだっこ体験では,女子生徒は自分が大切にされていないと感じて,苦しくて,リストカットもするようなお子さんでしたので,そういった念慮を高めてしまったかもしれないのですが,この「自分を大切にしよう」という授業は,ここまで生き抜いたあなたはとても大切というメッセージと,本当に困って辛(つら)いときは私たちに相談してというメッセージを込めています。 また,28年4月には国の自殺対策基本法の中で,自殺予防教育が入りました。それに対して東京都で,平成29年にこのSOSの出し方教育の指導案を作るというプロジェクトがあり,私もそこに参加しました。そこで,足立区の指導案を横引きにして,東京都では指導案を作成し,私たち保健師がパワーポイントで説明するのですが,その部分を全部DVDにして,東京都と足立区の違いは間のところですが,セルフケアの部分を保健師が読み上げて列記していくのですが,東京都はそこをグループワークで友達同士で話し合うという方式に変えて,始めています。 これは,この4月にDVDなど教材が配布されて,担任を中心とした複数人による授業,この複数人には保健師とか養護教諭とか民生児童委員とか,いろいろな人を呼んで並んでやろうという取組ですが,そちらが始まっています。今日の資料の後半のところに,東京都の指導案も付けているので,そちらも後ほど御覧ください。 実際にSOSの出し方教育,区内の高校・中学校・小学校の児童・生徒を対象にして,自分を大切に,相手を大切に,一人一人を大切にと語っているわけですが,方法は年度当初に校長会を通じて区教育委員会から事業実施における意向調査を行い,区の自殺対策担当が日程調整をし,その間,学校ともやり取りをして,その上で,地区担当保健師が出張授業を実施しています。小・中・高校ごとにパワーポイントの指導案があり,授業時間は45分から50分です。 今年度から東京都方式も足立区の中でも始まっているので,まだ保健師が一度も行っていない学校に対して,保健師が学校を回っている。学校から要請があれば,できる限り保健師を派遣しています。学校のみで実施する場合でも,蛍光ペンですとかカードなど配布物があるので,そういったものを学校にお届けして,区の物を使っていただくという形で行っていて,平成30年12月末現在で,保健師が直接学校に出向いていった回数は20校,学校主体でやっているものが26校,全部で46校,区内で実施しています。 これらを行うために,教員向けゲートキーパー研修というものも26年5月から実施しています。これは教育委員会が主催して行うもので,全部で2時間半,先生方は拘束されます。教育委員会の挨拶や,こういった研修を行う意義などを伝えていただいた後,私のところでお話しするのは90分,「子供の命を守るために今できること」ということで,自殺の実態,自傷行為の作用,相談があったら心掛けること,実際に自殺が起きてしまった場合,あとは教員向けの相談窓口や区内の思春期専門相談の窓口などを紹介するとともに,最後の20~30分で授業のデモも行っています。これらは年2回,6月と11月に行っていて,全て1つの学校から1人は出ていただく形で,校長,副校長,保健主任,生活指導主任,養護教諭と,職層や担当者別に順番に授業を行っているところです。受講者が現在931名となりました。 授業について御紹介したいと思います。自分を大切にしよう。今自分には価値がないと思っているあなたへ,周りにそんな友人がいるあなたへ,そんな人が近くにいたら何か力になっていたいと,なってあげたいと思っているあなたへ,聞いていただきたい話があります。自分を大切に,相手を大切にしよう。なぜなら,今まで生き抜いてきたあなたはとても大切な存在だからです。生まれたての赤ちゃんの写真です。赤ちゃんの説明をここで一通りします。皆さんは赤ちゃんのころから今日まで,いろいろなことを経験してきました。もしかしたら,自分が大切にされてこなかったと思っている人,自分に自信が持てない人,これまでに大変なことがあった,苦しかった,つらかったという人がいるかもしれません。でも,これまで自分なりに我慢してがんばって毎日を生きてきた皆さんは,一人一人がとても大切な存在です。これから皆さんの心の状態について考えてみましょう。 皆さんは今,不安や悩みなどはありますか。厚生労働省が実施した全国家庭調査によると,81.2%の人が何らかの悩みを抱えています。ここら辺で悩みの紹介をして,悩んでいるのはあなた一人ではありませんとつなげ,もし心が苦しかったら,こんな気持ちになることがありますかという,苦しい気持ちの具体的な状態を説明します。そして,これらはあなたの心のSOSかもしれません。苦しい気持ち,つらい気持ちを抱えることは思春期の皆さんであれば当然,あってもよいのです。今,まさに心も体も大人になろうとしている皆さんは,体の中の様々なホルモンが変化しています。その影響もあって不安定になって,苦しい気持ちや不安な気持ちを抱えやすい時期ともいえます。 皆さんは自分がつらい気持ちになったとき,それを軽くするためにどのようなことをしていますか。ここで,解決方法を幾つか紹介していきます。深呼吸とか,筋トレとか,文章に書くとか,あとはここに具体的な方法があるのですが,氷を握りしめるというところも少し紹介をします。自分でできる方法を知っていることはとても大事,でも一番のおすすめは信頼できる大人に話すことです。あなたの信頼できる人って? 自分の悩みを話すのって結構きつい。こんなことを言ったら笑われちゃうかな。だめな子と思われるんじゃないかな。でも少しだけ勇気を出して話してみよう。あなたの話を真剣に受け止めてくれる人がいます。その人があなたの信頼できる人です。 勇気をふりしぼって話したのに,そんなこと言っていないでがんばりなさいと言われてしまうこともあります。そんなときは無理しないですぐに,参考になりました,ありがとうございましたと伝えて,下がってきましょう。実は,分かってくれる大人に出会うのは大変なことです。だから,少なくとも3人の大人に話してみましょう。その中で,大変だったね,つらかったね,よく話してくれたね,とあなたの気持ちを聞いてくれる人がいたら,その人があなたの信頼できる人,分かってくれる大人です。その人が見付かったら,その人にはどんどん話しましょう。そして一緒に考えてもらいましょう。 学校ならば担任の先生や養護教諭,部活動の顧問の先生,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカーとか校長先生かもしれません。学校外であれば家族,民生児童委員など地域の方,私たち保健師,塾の先生,スポーツ指導員などもいるかもしれません。もし,信頼できる大人に出会えなくても大丈夫です。心の苦しさを相談する場所,相談機関というところがあります。後でその資料については配ります。 友達がつらそうだったら,どうしたの,大丈夫,とこちらから声を掛け,まずは批判しないでよく話を聞きましょう。落ち着いたら,力になってくれそうな人,助けてくれそうな人を探しましょう。もし,誰にも言わないでと言われたら,自分たちだけでは解決できないから,一緒に誰かに相談してみようと伝え,信頼できる大人に一緒に相談に行きましょう。そして,ここからは入替えが可能なカセットですが,中学校ではいじめのところをやります。高校ではよく学校からデートDVをやってくださいというオーダーがあります。小学校では生活リズムなどを取り上げる場合があります。今日は,そこはパスします。 自分では抱えきれない心の痛みを相談する場所はあるんだよ。ここで私たち保健師にも相談できるということを伝えます。そして,その後,私たちは手紙の朗読をします。区で用意した手紙を学校で選んでもらう場合もありますし,学校の先生から是非この詩を読みたいとか,これを子供に聞かせたいというのを出してもらい,やる場合もあります。あとは,高校生ですと,学校を卒業した先輩や,あと健康づくり推進員からのメッセージになる場合もあります。 今日,みんなに一番伝えたいこと。心が苦しいときや体の調子がおかしいというときは,一人で悩みを抱えこまないでください。助けを求めるということは恥ずかしいことではありません。誰かに相談すること,助けを求めることは,自分を大切にする行動です。世の中には信頼できる大人が必ずいます。どうか,苦しいときは助けを求めてください。SOSを出してくださいね。 そして,最後に足立区から皆さんにエールを送ります。ワカバというPOPグループの『あかり』という曲です。泣きたくて,でも泣けなくて,今一人ぼっちのあなたへ,ちゃんと伝えたいんだ。そばにいたいよ。どうかどうか,という歌詞で始まります。映し出される映像にもメッセージがあります。そちらも御覧ください。これで私の授業は終わりますという形でクローズします。そして終わった後,こういったサインペンですとかカードですが,電話番号などが書いてある物を配ります。 最後に,少し効果のところをお話しします。小学校のアンケートの結果です。4,270人が母数ですが,悩んでいることは文科省の調査と同じように,勉強とか友達関係です。また,親御さんのところでは夫婦げんかというのがトップになります。そして,授業の後にアンケートを採っています。これは直後のアンケートで,これまで困ったときやつらいとき,誰かに相談していましたか。これから相談しようと思いますかというところでは,相談しようと思うが10ポイント近く上がります。また,誰に相談するかというところは,もちろん親や先生が多いのですが,増えた割合が多いところは養護教諭やスクールカウンセラーになります。これは一緒に並んで私たちに相談してと言っている効果かなと考えています。 中学校も同じように,アンケートの結果は今省きますが,これから相談しようと思うというところが,10ポイント近く増えます。そして,相談相手のところでは,スクールカウンセラーとか,中学生では電話とかネットでも相談してみたいという子が増えています。生徒の感想は後ほど御覧ください。また,これらについて,自殺総合対策推進センターに29年度,効果検証をしていただきました。今日の資料の最後のところに,机上配布資料としました。 授業をやる前とやった後の3か月後に子供たちに聞いた結果,気軽に相談できる大人がいるという回答が,授業の後10ポイント近く増えています。また,友達から悩みを相談されたとき,話をよく聞いたという回答が7~8ポイント増えています。こういった結果です。また,足立区は保健師ができるだけ学校に入って話をしているという効果もあり,実は数年に1度は足立区でも中学生の子供が亡くなるということがありましたが,そういったときにはすぐに呼んでもらい,一緒に緊急時の対応を取れています。また足立区では,ここ5年間では学校に通っている子が亡くなったというよりは,不登校のお子さんです。こういう授業を聞いてもらえなかった子が亡くなっているという状況があります。 あと,東京都方式はDVDになっていて,保健師が伝える部分が全部録音されていて,映像で見ることができます。新人の先生でもできる授業です。これを配りだして,時々講演会などで講師として呼んでもらいますが,学校の先生からは大変評判がよい。東京都から配られるものは時々どうかなと思うものもあるが,これは大変使いやすい。自分も授業をやってみて,子供たちにメッセージが伝えられてよかったという感想を頂きました。 では,発表は以上です。
【主査】  それでは,残りの時間で質問を。
【委員】  指導というか授業の形態はクラスごとなのか,全学年一緒なのか,学年単位なのかということと,もう一点は,この授業の前後で保護者とどういう連携をとっているのかということを教えてほしい。
【ヒアリング協力者】  授業の形態は,始めた頃は学年ごとが多かったが,東京都方式になり,クラス単位が多い。学校の要望によってやり方を変えている。 あとは,保護者とのところだが,学校から希望が出たら,まず私たちは学校に出向いて,指導案を一応見てもらう。校長,副校長,養護教諭や担当学年主任に見てもらい,こういう授業を私たちがすることで心配になるようなお子さんはいますかと聞いて,いればその対応をとる。保護者全体に対して,今度授業をしますからね,ということは原則ない。終わった後は,養護教諭や学年主任の先生が,うちの学校でこんな授業があった,子供たちはこんなことを学んだというのを,子供たちがアンケートに書いたことも含めて,返している。
【委員】  大変参考になった。資料の13ページに沿って質問したいが,平成30年から未実施校を中心に保健師が実施すると書いてあるが,毎年必ずこの授業をやるわけではなくて,1年単位でやっていないところに保健師が行くのか,それとも今まで1回もやったことがないところに行くのかを聞きたい。それと,先ほどの資料から,足立区については全部で小中高合わせて113校だ。ということは12月末実績で20校,学校主催26校で46校だから,これは,学校は手を挙げたところだけやるものなのか,それともこの後,3学期にたくさん実施するのかを知りたい。最後に,教育課程の位置付けは学習上,どこで勉強をしているのか,この辺を教えてほしい。
【ヒアリング協力者】  1つ目の質問,13ページの未実施校に関するところは,26年から全校制覇というつもりで学校を回ってきたが,保健師が回るには残念ながら限界があり,20~30校だったので,まだ未実施校がある。高校と中学はほとんど回り終えたが,小学校にある。今,東京都方式になり,小中高,その間に1回はやることになっている。だから,本来は今年,全ての113校で1回はやってもらいたいわけだが,12月末現在で私たちがつかんだ数字はまだこの状況だということだ。 あともう一つは,東京都は必ず1回は実施するように教育委員会を通じてお願いしている。私の手ごたえになるが,割と3月が多いというのは事実だ。特に高校などは,期末試験が終わってからどっと呼ばれるというところがある。
【委員】  あとは,教育課程,どこで授業をやるのかということと,今3月と出たので,3月にやることは意図的計画的に,効果があるということで3月にやるのかどうかも教えてほしい。
【ヒアリング協力者】  教育課程は,東京都の方式でいくと,小学校は道徳や総合学習だ。中学校,高校は保健体育の1コマを使ってやることになっている。3月が効果的かどうかというところだが,実際に足立区で起きている自殺は,実は1月が多いので,本当は12月にやってほしいという思いがあるが,多分,学校の運営計画の中で入れられるのが3月になっているのだろうと考える。
【主査】  一般的な心の健康教育と言うのであれば納得できるが,自殺予防教育とまで断言できるのかということを聞きたいのと,小学校・中学校までとは言わないが,特に高校で,うつ病や自殺の表現も出していない。その理由はなぜか。現場からの抵抗なのか。
【ヒアリング協力者】  まず,これがどうして自殺予防になるかというところだが,自己肯定感,自尊感情が低い子供たちはなかなか助けてということが言えなくて,実際に学校で赤ちゃんだっこ体験をして涙ぐんでいる子も,自分はだめな子だと思っている子だったから,そういった子に対して響くような授業をしたいと考えた。SOSが出せるように,出してもいいのだよ,出すということが自分を大切にするということなのだよと。そういった行動ができれば,悩みを口にして誰かに相談できるようになれば,それが将来の自殺予防になるという考え方が一つある。 もう一つ,うつ病のうの字だが,今回,東京方式の指導案を作るときも,中学や高校の教科書をたくさん見せてもらったし,学習指導要領にどのように載っているかということも確認したが,例えば高校だと,過労で自殺になるという書き込みはあるが,例えばうつ病とはどういう状態で,例えば統合失調症を取り上げてどのようになるというところまでは,まだそんなに書き込まれていない。正直言うと,現場の先生方からは,学習指導要領に詳しく出ていないことをここで急に話をされるのは困るという意見も頂いているので,まずは指導要領の範囲の中で,私たちが学校で授業ができる範囲でというところを目指した。
【主査】  長期的に見れば,確かにこれが自殺予防につながるのだろうということは理解できるが,今ここで非常に自殺の危機が高まっている子供を,このやり方でもって救えるかどうかというような議論は,したことはあるだろうか。
【ヒアリング協力者】  例えば,中学生が元気になってから私のところに来て,小学校の頃親から虐待を受けて自分はつらかったと。でもこの授業の後,養護教諭の先生に,自分がお母さんから叩かれている話をしたと。それで先生に支援をしてもらって,私は今までは「お母さん,叩かないで,いい子になります」と言い続けていたけれども,言い方を変えたと。「お母さん,私はちゃんとお母さんと話し合いたい。だから,叩かないで。私も落ち着いて話すから,お母さんも落ち着いて,私にちゃんと話をして」と言えたのだそうです。それが言えたら,自分がお母さんに対して強く言えて,そこから叩かれることはすごく少なくなった。この授業のおかげですと言ってもらった。
【主査】  続いては,北海道教育大学教職大学院から,井門先生と川俣先生です。
【ヒアリング協力者の発表】  私どもは,命の教育プロジェクトという総合的な活動をしています。その中で,SOSの出し方教育というのはその一部という扱いでしています。 始めのところは割愛しますが,本院では1から6まで柱があり,こうした柱に基づいて実践しています。それから,この柱を基に教職大学院の講義,あるいは教員免許状更新講習というのがありますが,現職の先生方,10年に1回受けるというもの,そういったものを教師教育という立場から,教員になる人,それから現職の教員,こういった方々に6本の柱で進めていくというのが進め方です。それで,SOSの出し方については,特に力を入れているので,今日はそのところを聞きたいということですので,その部分をお話ししたいと思います。 命の教育プロジェクトについては,こういったホームページを公開し,そして6本の柱,その他,いろいろなコンテンツを掲載しているので,後で御確認いただければと思います。なお,SOSの出し方,気付き方ということで,3月6日,もうじきですが,シンポジウムを札幌で開催します。これは,文部科学省と厚生労働省が連名で昨年8月末に全国に配信した教材集にも載っている北海道教育委員会と札幌市とも連携した行事です。こういった活動をして,特に今回はSOSの出し方ということですが,SOSの気付き方についても,既に私たちの教員が,北海道の保健福祉部が出している,「子どもたちのSOSに気づき耳を傾けるための実践研修」という冊子(DVD付)がありますので,大人,それから教員向けには気づき,そして子どもたちには出し方というような形で進めていく,そういう行事として今回開催します。 それでは,まずSOSの出し方を学ぼうという出前講義として実践しているものについて,話をしたいと思います。本日の流れというもの,これは生徒に向けて提示する資料ですので,このように全体像を紹介しながら進めます。特に冒頭,教職大学院には実務家教員という者がいるのですが,その方が経験した蘇生術の訓練で,実際に学校で起きた心臓発作のような事故に対応することによって防げたというような事例を話しします。命を助けるということもあるけれども,もう一方で自分が苦しいときにはどうしたらいいだろうというので,そちらを今日は勉強しますというような話で進めていきます。 次にDVD,『つみきの家』というのを使います。これは絵本でも出ているのですが,DVDで一部を視聴します。これは,どんどん海水面が上昇して,街が海の中に沈んでいってしまう。この町に一人のおじいさんが住んでいるのですが,海面が上昇するのに合わせてまた一階,また一階と増やしていくのです。今は海面の上にある最上階に住んでいるわけですが,あるとき床下の海水の中に,お気に入りのパイプを落としてしまい,おじいさんは潜水服を着けて潜っていくのです。そうすると次から次へと階下に潜っていくと様々な思い出がよみがえってきます。おじいさんは一人暮らしですが,おばあさんとの死別,病のおばあさんを看病していたシーン,我が子が結婚したシーンとか,その先にはその子が生まれたシーン,さらには自分たちが若い頃,幼い頃と,だんだん過去へとたどっていきます。仕舞には,おじいさんは一番下の階でおばあさんと使っていたワイングラスを拾います。それを拾い上げて思い出を噛みしめながらため息をつきます。その後,おじいさんは最上階に戻り,テーブルに2つのワイングラスを置いて,自分のワイングラスをもう一つのワイングラスに「チーン」と当てます。今は亡きおばあさんと乾杯したように思えます。この動画から,私たちは「共有体験」というキーワードから語ります。つまり,このおじいさんのように,それぞれ家族が共に経験した共有体験というのは,自尊感情や生きていく上で重要なことなので,そのところに着目します。思い出には,このおじいさんの思い出のようにおばあさんとの死別といった悲しい思い出もあるけれども,でも,おじいさんは最後には今は亡きおばあさんを思い出して乾杯している,その姿はおじいさんが再び生きる喜びを味わっているようにも見えます。このように話をした上で,皆さんだったら中学校で合唱コンクールとか体育祭とか,いろいろありますよねというような話をし,共有体験の必要性,大切さというのを話します。その後,このビデオの感想を聞いたりしながらやり取りをして,話を進めていくというようになっています。共有体験については,お手元の資料にも書いてありますので,これ以上は話しませんが,このように授業をやっていきます。 この部分が終わると,次に川俣先生が担当する部分ですが,心の調子とはということで,いろいろストレスを抱えたり,苦しいことがあったり,「嫌だなぁ」と思ったりすることありますよねというような話で進めます。例えば皆さん,テストを受けるとか,友達とけんかしたとか,大学入試とか,ここにあるようなことを聞いていきます。「そうするとこれって一体,何点だと思いますか」というような話し方で進めます。 そうすると子どもたちはここで何点だろう,何点だろうとか言いながら,いろいろと当てずっぽうに点数を言います。一通り聞いた後で,川俣先生が答えを示します。このようなやり取りをしながら,心が調子悪いときとか,苦しいときとか,そういうときってありますよねと事例を挙げます。そして,心の調子が悪くなったらどうしたらいいのだろうというので,深呼吸をする,運動する,好きなことをする,イライラを発散するとか。でも,一番いいのは,信頼できる人に話してみることということで,進めていきます。 相談することから始めましょうというので,そこから回復するということが可能になってくるというようなことの話をしますし,その後,信頼できる人に話そう,どんな人たちがいるのだろうというので,先生とか保健師さんとか,あるいは地元の信頼できる大人とか,両親,そういった様々な人が周りにいるよね,どうでしょうか,というような聞き方をします。メールとかLINEとかTwitterでというようなこともあるけれども,現在,座間の事件とか大きな問題もありますので,とにかくその中で信頼できるところに相談しなければいけないという話をして,ここにある公的な,特に現在はSNSでも対応しているので,そういったところを資料として提示します。この授業では子どもたちがこの資料,ファイル,PDF版を持ち帰れるようになっているので,そういう情報を記入したものを最後に紹介し,渡すというようになっています。 夕張中学校では保健師さんが授業を参観されていたので,保健師さんに話をしていただくといったそんな実践をしました。その保健師さんは地元の方ですから,子どもたちが小さいときからずっと見続けているのです。そういう話をしてくれたところ,なんだ,そうか,そんなに見てくれていたのかという子どもたちの反応がありました。このようなことをして,あとは私たちの「命の教育プロジェクト」でも対応していますという話もしながら,私どもの実践は終わります。 皆様からの事前に頂いた質問には,効果がどうなのだというような話がありましたので,ここからは川俣が代わってお話します。
【ヒアリング協力者の発表】  ここからは,実践の狙いの整理と効果について説明したいと思います。基本的に,今,説明しました実践というのは,先ほど発表された足立区の実践も先行研究として参考にさせていただきましたし,あるいはDVDの『つみきの家』も,既に中学校での授業として取り入れている教材があり,それを参考にしながら組み立てたものです。 基本的には1回の中で,自分の調子が悪いと思ったときにどのようにSOSを出すかという方法を伝えることに狙いを絞り,行った実践です。もちろん一回きりの実践ですので,その一回きりの実践で自尊感情が急に向上するということはありませんが,構成としては,他人との関わりや自分が過ごしてきたそういう歴史を振り返る時間を設けて,自分が一人ではなくつながりを持った人間なのだということを喚起した上で,SOSの出し方,つまり信頼できる大人に相談するという方法がありますよということを提示して,そのことについて記憶してもらうということを意図したものです。 質問紙としては,調査ベースですので,自尊感情に関するものとSOSの出し方に関する項目について,生徒に調査をしています。その結果,「心の調子が悪くなっても助けを求めることができれば回復すると思います」という質問項目,それから,「心の調子が悪くなったとき,学校にいる大人はもちろん,保健師さんなど地域の信頼できる大人に相談することも有効だと思います」という項目に関して,とてもそう思うという生徒が,今回行った実践では人数が増えている。割合が大きく増えているという結果になっているので,当初狙いにしていたものがこの実践によってある程度達成されていると認識することができるかと思います。 また,生徒の自由記述の感想などでも,「そういったことを始めて知った」,あるいは「SOSの出し方について相談するという方法があることが分かった」という感想も出ているので,この実践の狙いは達成されていて,ある程度の効果が見込めるということが言えるのではないかと思うので,ここに提示する次第です。 今後の課題としては,今回は我々大学教員が実施することでデータを取りましたが,基本的には学校の先生にしていただく。独自に学校の教員でしていただくということも考えていますし,他の実践と組み合わせて実施する,あるいはどこで実施するかということについても,今後検討できればと思っています。また,今回事前に出ていた質問を拝見したところ,教員研修などについて出ていましたが,今回は教員研修などをセットにして実践を行っていませんが,将来的にはそういったものも,もちろんできればということも視野に入れていますし,また,この授業実践をしているときに,かなり多くの校内の教員がそれを見て,考えるきっかけにしているという場面もありましたので,そういった意味で学校全体に派生する実践ではないかと考えています。 実践の内容と効果に関する説明は以上になります。御清聴,ありがとうございました。
【主査】  質問はいかがか。
【委員】   まず1点目だが,冒頭,子供にはSOSの出し方,大人はSOSの気付き方といってスタートしたが,調査の結果等を見ると,子供が子供に自殺念慮等を言っている場合があるわけだ。したがって,子供が子供に相談したときにどうするのかという,受け止めた子供の対応というようなこと,子供自身が自分自身の心の危機,それから周りの友達なり近くにいる人の危機に気付く,そしてどうするのかという辺りを,どのようにこの授業の中で組み込んでいるのかということを聞きたい。 2点目は,信頼できる人ということで,教員というのがなくて,例えば担任の先生とか学校の中の信頼できる人とはなっているが,私は一番身近な大人は親と教員だと思う。その辺が出てこないのは何か理由があるのかどうか。 それから3点目。事前・事後の数値が出ているが,事後はいつ取ったのか,事前に取ったのと事後の時期,それからフォローアップをしているのかいないのか,その3点を質問したい。
【ヒアリング協力者】  1点目は,資料7ページの下の段のスライドにあるが,まず自分がSOSを出した場合という点について話した後に,今度は自分が友達,あるいは知り合い,周りの子たちからSOSを出されたのを受け取った場合,どうしたらいいのかということについて,時間を取って説明をしている。基本的には先ほど足立区の先生が説明していたことと同じように,まずよく聞いてあげて,肯定してあげた上で,信頼できる大人につないでくださいということだが,同じような内容を7ページ下の段のスライドのところで説明をしているが,それを参加している生徒さんには伝えている。 2点目に関しては,7ページ上の段の左のスライドにあるように,まず信頼できる大人として保護者,それから養護の先生も含めた先生というのが挙げられますね,というのは実践では話しているので,先生を飛ばして他の大人を挙げているというわけではなく,保護者でもいいし,もちろん教員もそうだということは生徒に伝えている。 3点目に関してだが,事前は,授業を実施する前に学校に依頼して事前に配ってやってもらった学校と,会場に来て教室に集まってもらってから記入してもらった場合がある。事後は,授業が終わった直後に生徒に記入してもらい回収した。
【委員】  フォローアップは。
【ヒアリング協力者】  フォローアップはまだしていない。
【委員】  冒頭で,出前授業の形でしているといっていたと思うが,その辺りは,手が挙がったところに行くという形か。
【ヒアリング協力者】  そうだ。手が挙がったところで実施している。
【委員】  事前の学校との打合せだとか,学校の実態に応じてプログラムの展開も変わってくると思うが,その辺りはどのようにしているのか教えてほしい。
【ヒアリング協力者】  実態についても尋ねたり,あと,私どもが結構交流しているところから依頼があったりして,事前に話合いをしながら,こんな実態なのでとか,あるいは自殺された兄弟がいるとかそういうことも踏まえた上で実践している。
【委員】  状況に応じて少しプログラムの進行が違ってくるというような工夫をしているという理解でよいか。
【ヒアリング協力者】  そうだ。最初の何点というようなところも,実際には親しい人が亡くなったときとか,そういうことを入れていたのだが,これは止めて違う項目にしようということで,その都度変えている。
【委員】  もう1点だけ,実践のときに,学校の先生方とかスクールカウンセラーとか,フォローするために必要な方たちがどのように絡んでいて,この授業の後のことについて,先生方とのやり取りがあったとすれば,どういうことがあるのか教えてほしい。
【ヒアリング協力者】  夕張市で実践したときは,学校が地域の保健師さんとかいろいろな方に連絡したので,そういった支援する方々がかなり来て,一緒に私たちの授業を参観した。そこで,私どもも,保健師さんが来てくれているなら保健師さんに登場してもらって話そうということで,急遽内容を変えてやり,あと近隣の学校などでは感想なども述べてくれている。歓楽街のようなところもあり,なかなか学校の実態としては厳しいものがあるところもあるので,そういうところは事情をよく聞きながら,校長先生と話し合うなど,そういうことをしている。
【主査】  北海道は地域が広いので,出前授業ということだが,ハイリスクの子供が浮かび上がってきたときにどのようにフォローしていこうかということは,前もって話し合ったと思うが,どのような議論があったか。
【ヒアリング協力者】  実践をするに当たって,事前にもちろん,どういうお子さんがいるかとか,今リスクがある生徒さんがいるかということについて,学校に確認をしているが,手を挙げて呼ばれたところに行っているということもあって,ハイリスクで今フォローが必要だというようなクラスでの実践というものはまだ経験していない。
【主査】  「経験していない」ではなくて,前もってもしそういう子が出たらどうしようというような話合いはしなかったのか。
【ヒアリング協力者】  その場合はスクールカウンセラー,地域の保健師,そういった方々と連携をして考えていく,あるいはプログラム自体の内容についても検討していくことになると思う。
【主査】  もう一点,教えてほしいが,こういった教育をやる場合に,対象は,クラス全員を対象とするのか。それとも,ハイリスクと考えられる生徒,例えば自分自身が精神疾患にかかっているとか,親が自殺しているというような経験がある生徒だが,そのようなハイリスクと想定される子は別に扱うとか,そういう話合いはしたか。
【ヒアリング協力者】  はい。今回の場合はクラス全員を対象にした実践できるプログラムを考えようということで考案した。
【主査】  その理由は? 全員を対象としようとした背景はどういうことか。
【ヒアリング協力者】  この点については,確かスウェーデンでの研究がある。多くの一般の人たちにこういったSOSの出し方を研修することによって効果があるという研究(SEYLE)があるので,そういったものに基づいてやっている。あと,私ども教職大学院のメインのところは教師教育だから,出前講義をやることによってそこに居合わせてくれた先生方が我々の実践を見て,そしてそれを教材としてやってもらえるような方向に持っていく。これから北広島市の中学校でもやるときには,教員研修も兼ねてやるということだ。 あともう一つは,実際に私どもが新採の教員として送った人間が,今,非常に苦しい立場にいる事例がある。こういうハイリスクの事例の場合には臨床心理士の資格を持つ教員などが実際に行って面接をしたりするなど対応している。そういうことはしている。
【主査】  反論するわけではないが,参考までに指摘しておきたい。ともかく全員を対象にしようという考え方と,ハイリスクの子は別にした方がいいのではないかという考え方の議論があって,これはまだ結論が出ていないと思うので,今後も検討してほしい。
 続いては中京大学の川島先生と帝京平成大学の荘島先生です。
【ヒアリング協力者の発表】  特に映写のスライドはありませんので,配布資料を基に説明をさせていただきます。私から前半部分,特にこのGRIPという,私どものチームが開発したものの全体の構想であるとか背景みたいなところを説明させていただきまして,その後,荘島から具体的なプログラムの内容を紹介させていただきます。それでは,2ページ目からになりますが,まずGRIPというものはここに書いてあるとおり,段階的アプローチ,抵抗力,Resilienceというところで,抵抗力や回復力を身に付ける,学校環境の中で更に足場を作っていくという,その英語の頭文字を使ってGRIPという名前を作っています。ここで出てきているResilience,あるいは段階的なアプローチ,足場を作っていくということについて,具体的に3ページ以降,説明させていただきます。 GRIPは,2009年からパイロットスタディを始めていて,その中で試行錯誤しながら現在の形にたどり着いたという形です。実施当初,いろいろ試行錯誤していましたが,その中で,自殺予防教育を受けた中学生の感想の中にこのようなものがありました。友達が悩んでいることに気が付いたら,信用できる大人につなごうということですね。相談してみようというふうに,当然,そのプログラムの中で話をするわけですが,友達が話してくれたのを他の人に言うのかとか,あるいは大人にちくるのは嫌だというような抵抗感を非常に感じました。 当然,自傷,自殺を含む困難な問題においては特に,子供たちだけで関係を閉じずに大人に開いていく,つながっていくということも非常に重要ですが,これがなかなか実践を行っていくと,教育を実施していくというところでは難しい部分でもあるなということを感じています。そこで,単に大人につなごうというようにこちら側が教えるのではなくて,相談する生徒,相談に乗る生徒の両方が納得できるように実践していくということ,そうした足場を作っていくということが重要だと認識するに至り,プログラムを作るようになりました。 4ページですが,そのような形で最終的にGRIPはこのような大きく2つの観点を重視する形になっています。左側に衝動性の制御とあり,自傷,自殺を含めて,その自分の情動の制御や衝動性の制御ということがうまくいかないということを,当然アプローチする必要はあるわけですが,一方で先ほど出てきたちくるのは嫌だと。大人になかなかつなぐのが難しいというところを重視して,学級というところを一つの単位として,その中で援助を成立させる。その中での援助の成立ということを,GRIPの目標ということに掲げています。 これは当然,担任の先生と,ということでもありますし,クラスの友達同士でということも含めています。その中で具体的には,支援する,相談をする,あるいは相談に乗るというような,両方の経験を練習の中で培っていくということが必要でして,自分自身もできる,友達もできる,先生もできるというような学習体験を,GRIPを通じてやってもらうことが必要だと思っています。 具体的には,左下に書いてありますが,相談の相手,相談しようと言っても誰にするのだろうということが,なかなかイメージがわかないわけですが,相談の相手というのはどういう人なのか,どういうときに相談すればいいのか,相談に乗ってもらえるというような感覚を,学校の中,クラスの中で感じてもらう。相談の仕方が分かる。こういったところに着目してプログラムを,実際に作りました。これらを通じて,相談をすること,あるいは相談に乗ることのハードルは下がるということが,GRIPが重視している観点です。 5ページ目ですが,これを基に,具体的には5つの段階のプログラムというものを準備しています。初めは,自分自身の気持ちをまず言葉で理解するということで,自分自身の感情や思いに気付くということを重視しています。そこから,嫌なこと,そういったものを対処する方法を自分のものにしていくということを行っていって,3つ目には自分の気持ちを他者に相談するというように,ここから少しずつ他者に開いていくということを重視するわけです。 4つ目になると,相談するというだけではなくて相談に乗るという立場に立って,どういうときにどういうふうに,誰に相談すればいいのかということを,具体的に,体験的に学習してもらおう。最後の5つ目に,自傷,自殺の念慮というものがプログラムの中で扱われますが,そういったときには子供たち同士で当然,相談する,乗るということも大事ですが,大人に開いていく。関係性を二者から三者に開いていくということを重視する。それを具体的に,体験的に学習していくということを理解していく。そういったことを重視したプログラムになっています。 当然,こういったプログラムを実施していく上では,学級,学校の足場が整っている必要があります。ですので,教師向けのゲートキーパー研修ということで,「教師が知っておきたい子供の健康と自殺予防」という教材,これを少し分かりやすくまとめたパワーポイントのスライドを用意していて,ここを重点的に学習してもらうことによって,子供から相談を受けた側の準備態勢を整えていくということをまず,足場の一番大事な部分に据えています。当然ここを,実施する先生全員がとってもらい,何かあったときには教員同士の連携ということも図れるように準備をして,初めて子供向けのプログラムがスタートするという形になっています。 7ページ目は,教師向けと生徒向けのプログラムを模式図に表したものですが,GRIPの理論モデルと書いてあるものです。教員向けの研修では,自殺関連行動の理解ということを当然,詳しく自殺に関する知識も含めて学習してもらいますし,相談の要点ということも重視しています。一方で,生徒向けの自殺予防教育では,自傷の問題とか自殺念慮の問題というものがプログラムの中で出てきますが,具体的に自殺とは何かみたいなことを自主的に学習するということにはウエイトが置かれていません。むしろ情動の制御,衝動性の制御という部分と,相談する,相談に乗るということを重視したプログラムということで,生徒向けのプログラムと教師向けのプログラムでは若干,比重が異なっているということになっています。 8ページ目にあるJoinerの対人関係理論は,プログラムの作成当初から,ここのつながりを認識していたわけではないのですが,準備していた段階でこのJoinerの対人関係理論と多く整合する部分があると考えています。簡単に説明をしますと,自殺の潜在能力という部分で,例えば疼痛耐性や過去の自殺関連行動などがそこに含まれるかと思いますが,また衝動性がそれを媒介するというような話もありますが,そういったところに関わるプログラム。また,自殺念慮が高まるきっかけとして言われている負担感の知覚。重荷になっているという感覚であるとか,所属感の減弱は居場所がないというところですが,そういったところに働き掛けるプログラムにもなっているかと理解しています。 その対人関係理論との関連も含めて表したプログラムの内容が,9ページ目のスライドにあります。このように教員向けのゲートキーパー研修を土台として,1時間から5時間までのプログラムを通じて展開していくことによって,学級という単位の中で援助が成立するということを目指しているのが,GRIPというプログラムです。 では,荘島に代わり,プログラムの具体的な内容について紹介いたします。
【ヒアリング協力者の発表】  それでは続いて,それぞれのプログラムの内容について説明します。10枚目のスライドを御覧ください。それぞれのプログラムには,そこで学んでもらいたい,気付いてもらいたいポイントがあります。「みつける」「わたす」「たずさえる」,「ひらく」ですとか「むかいあう」というテーマがありますが,これを実際に具体的な授業を通じて実践する中で,生徒たちに学んでもらっていきます。 1つ目のマインドプロファイリングを説明します。プロファイリングですが,ここでは自分の気持ちを見付ける,分析するということがテーマです。プログラムの一番初めに位置付けられていて,個別でワークブックを使って,先生が一斉の授業で行っていきます。自分の気持ちに気付き,そして嫌な気持ちになったときにどうすればいいかということを学んでいきます。 スライドにもあるように,4コマ漫画のようなものを用いて,この登場人物の気持ちを推測したり,ある場面と感情を線で結び付けるような作業を行うことで,気持ちが場面によって変化するのだということを気付くような構成になっています。そもそも子供にとっては自分の気持ちを見付けて言葉にするということは難しい作業で,感情を表す言葉をワークブックに記載することで,それを手掛かりにして気持ちを見付ける作業を行っていくようにしています。そうすると,感情を表す言葉というのはこれだけたくさんあるのだということや,人によって感じる気持ちが違う,気持ちの強さ,弱さが異なるのだということを学ぶことができるようになっています。 スライド12,次の資料は先生が実際に説明をしているところです。続いて,2コマ目のマインドポケットの説明をします。こちらは,クラス一斉の授業で,1コマ目のプロファイリングに続いて,自分が嫌な気持ちになったときに,気持ちをいい方向へ向けていくような方法,対処スキルについて学んでいきます。教員からこの方法がいいよと教えるのではなくて,生徒たちに出してもらう中で,いろいろ考えてもらいます。 具体的に,部活の大会で失敗して落ち込むというような状況を共有して,この場面でどういう気持ちになるのか,それを考えさせた上で,その気持ちをどうやって変えていけるかということを,生徒たちに尋ねていきます。そうすると,いろいろなアイデアを生徒たち,出してくれるのですが,中には,八つ当たりをするだとか,叩いたり殴ったりするというような破壊的行動を提案する生徒もいるのですが,ここではその方法を出してもらった上で,その方法をとるとどんないいところ,悪いところがあるかということを考えてもらいます。 つまり対処法を機能の点から考えるということです。そうすると,乱暴をするというような方法をとると問題がさらにこじれてしまうとか,自分自身も傷付く可能性があるということが分かっていきます。そして,対処法というのはいくつか持っておいた方がいいこと,自分が実行しやすいお気に入りの方法を自分のポケットに携えておこうというのが,この授業のポイントです。そのアイデアを出していく中では,相談するとか,愚痴を友達に言うというようなアイデアも出てきて,そこで人に話すときにはどんなふうに伝えることができるかなということで,3コマ目のキノという授業に移っていきます。 こちらはスライドの15枚目です。こちらのキノという授業ですが,ここで他者に話をする。自分の気持ちを伝えるということを学んでいくわけですが,他者との関係の中で感情を伝えるために必要なスキルを学んでいきます。キノというのは感情表現をするゲームで,この中で子供たちは気持ちを伝えるポイントを学んでいきます。具体的には,こちらのスライドにもあるように,ここでは僕はポケモンが大好きという,そういう状況ですが,友達は皆モンハン好きなのだけれどもいつも話ができない。どうなるか不安だけれども,話してみようかなという,ここでは不安です。 その他にも落ち込みだとか嬉しいという気持ちを伝えるときに,自分だったらどんな表情をするかなというので,こういった5つの表情カードというものを使いながら,実際にクラスの友達とグループに分かれてゲームをしていきます。ゲームなので,非常にコミュニケーションを促しやすくて盛り上がるのですが,その中でどのように人に気持ちを伝えられるかなとか,いろいろな伝え方があるのだなとか,あるいはネガティブな感情を伝えるときには自分の中に不安とかためらいの気持ちも生まれるのだな,そのときに,聞く側の態度によっては話しやすいと感じることもあるのだなということを気付くことができる構成になっています。 そして,最後のプログラム,スライド17枚目です。こちらのシナリオ・コンテストでは,2コマを使って,実際に他者からの相談に応じる場合のスキルを習得していきます。DVDで,大学生同士の相談場面を見て,友達の悩みに気付いたときにはどうやって話を聞けばいいのか。つまり悩んでいる友達に声を掛けて,心配しているよということを伝えて,大人への相談を促すというか,一連の相談の手順をECOの原則として,子供たちにポイントを学んでもらいます。ちなみにECOというのは,engageで友達と向き合う,しっかりと話を聞くのE,そして自傷だとか命に係わる相談事については大人に相談した方がよいという判断をする,choiceのC,そして大人に相談を開いていく,関係性をさらに二者から三者へと開いていくopenの,このECOという原則を学んでもらいます。 そして,相談できる身近な大人を探して,友達に紹介するときの言葉掛けを考えます。そして,5コマ目では,更に問題が深刻化して,特に友達の自傷行為に気付いたときの対応方法というものを習得します。自分だったらどのように声を掛けるのか,自分で声掛けのシナリオを作ってもらいます。それがスライドにあるのですが,吹き出しの中です。ここに自分だったらどのように声を掛けるかということを書いてもらうようになっています。左側はDVDの中で大学生同士がやっている相談場面のやり取りを,もうすでに書いてあるものですが,右側の吹き出しに自分だったらどうするかということを書いてもらうことで,理解するだけではなくて練習,体験できる仕組みになっています。 最後,まとめのスライド19枚目です。学校における自殺予防教育としては,援助関係の成立を目指すために,1つ目,自分の感情を整理して気持ちを伝えること。そして,2つ目が気持ちを伝えること。3つ目,嫌なことがあったときに,それに対処する方法を持っていること。4つ目,その先に相談をすること,相談に乗ることを理解して,体験する。こういった4つの段階的目標に対して,クラスで相互活動を行う中で学んでいくことが有用な枠組みであると考えています。 そして,GRIPの開発過程において,幾つかの指標を用いて,生徒にどのような効果が生じるのかということを検討した結果がその次のスライド,20枚目です。段階的目標を達成した生徒においては,自分に対して肯定的感情を持つといった自尊感情の維持や向上が見られました。また,痛みを感じた際に暴れる,物を壊すといった攻撃的表出が弱まる傾向も見られています。また,相談に関するハードルを幾つか下げるということも明らかになっています。 最後ですが,本日話した自殺予防教育,GRIPについては,昨年9月に刊行されたこちらの本ですが,スライド最後,21枚目に詳しく書かれています。また,新曜社のホームページから全ての資料をダウンロードいただけますので,参考にしていただければと思います。 御清聴,ありがとうございました。
【主査】  前の2つの発表は1回でしたね。これは5回で5時間。5時間やって,いろいろ工夫しているというのはとてもよく分かるが,一般の学校で5時間のコースをやるということに関して,抵抗はないか。
【ヒアリング協力者】  5時間を確保するのはなかなか難しいという学校も多い。そこで私たちはショートバージョンという,今説明した5コマの授業のうちの3コマを使うというバージョンを開発していて,そこでも効果が確認できることが分かっている。今日は説明から省かせてもらった。
【主査】  それと,先生方はグループを扱うのに長(た)けているのだとは思うが,これだけのプログラムをやろうとすると,10人ぐらいでもきちんとやることは大変だと思うが,例えば40人ぐらいのクラスを対象にして,難しさを感じたことがないのか。もう一つ,効果が検証されていると言っているが,それは直後の結果についてと考えられる。例えば,5回のコースを終えて,2年とか3年しても効果が保たれているというエビデンスはあるか。
【ヒアリング協力者】  2つ目の質問に関しては,2~3年の効果はまだ測られていない。
【ヒアリング協力者】  効果に関しては,直後と2週間後ぐらいでは測定しているが,2年,3年というスパンではまだ測定できていないので,引き続き検証しながら見ていかないといけないと思っている。 一つ目の質問だが,先生によって取り組みやすいというプログラムがあり,あるいは難しいということがあるが,先生方でチームワークをとって,あの先生のところには自分がサポートに回るとか,そういう最初の事前の打合せ,研修の折にしっかりやってもらい展開していると思っている。なので,当然私どもは研究授業としてやっているので,全ての学校でそのまま適用できるかというと,そこはまだ検証が必要だろうと思う。
【主査】  衝動性のコントロールとか,自尊感情を高めるには,最低でもショートバージョンの3回ぐらいは必要だとお考えか。
【ヒアリング協力者】  そのように考えている。
【委員】  最後の効果検証のところで,グループスキルが5点以上増加した先生との得点の変化となっているが,ここが分かりにくい。増加しているからよい変化を示しているというのは当然ではないかなと思うが,この辺,どう理解したらよいか。
【ヒアリング協力者】  分かりにくいスライドで申し訳ない。効果自体は,202人測定しているが,全体の中で幾つかグループというか,もともと自尊感情が高くて非常に適応的な子供もいれば,しんどいという子供もいて,ここで示しているのは,実施前から実施後に変化が大きかったというグループを見ている。グループ全体で見ても効果というものは認められているが,当然効果というものが,非常に自尊感情が高い子たちにとってはそれを維持しているということを意味するし,逆にもともと低かった子にとっては自尊感情が向上したということを意味しているということだ。
【委員】  もう一点,段階的にというところ,非常によく理解できたが,学級とか学校の実態に応じては多分,ここまで行き着かないとか,それから逆にもうちょっとこの辺から始めていいとか,そういうこともあると思うが,実施前の学級とかのアセスメントはどのようにしているか。
【ヒアリング協力者】  学級のアセスメントに関しては,特に質問紙を行ったりはしておらず,先生方の感触だとかそういったところで,研究として行ったときには話合いをしたが,実際に現場では,うちの学校であれば例えば最後の自殺念慮の話まで,自傷行為の話までやっていけるという場合は5コマ目まで進んでいくことになるが,そこはまだ難しいという場合には,まず個人で嫌な気持ちに対処するというスキルの獲得というところを目指していくというショートバージョンになる。
【ヒアリング協力者】  補足する。3時間は,必要だと思っているが,まだこれは実際には検証中で,どの3コマであれば一番効果が出るか。自殺予防教育なので,最後まで行き着く後ろの3つが重要だろうと思うが,そうすると最初のプログラムは他の授業で既に習得済みということが前提になるので,それは全ての学校でできるかというと,なかなか難しいこともあると思う。 実際にはショートバージョンは複数クラスでやっていて,効果検証を重ねているところだが,後ろの5コマまで行かなくても,3,4,5の自傷,自殺まで扱うというところが,我々が狙っているところには行くのだが,一方で,手前の3コマでも一定程度の効果は認められるだろうと思っている。ここはまだ検証を行っている最中なので,引き続き行いながら,どのプログラムが最適かということを確認していきたいと思う。
【委員】  学校現場でのこのGRIPのプログラムの導入は,最初は何年からか。それとこれまでにどれぐらいの実践があるのか。それから例えば5時間フルバージョンでやったところはそのうちどれぐらいあるのかといった,実績関係を教えてほしい。
【ヒアリング協力者】  パイロットスタディとして始めたのは2009年からだ。フルバージョンで行ったのは1校だ。
【委員】  それは何年か。
【ヒアリング協力者】  2011年。
【委員】  11年,分かりました。これまでに導入した数,実践した数はどれぐらいか。これは学校の単位か,それともクラス単位か,単位の取り方はあると思うが,集計しているのであればその単位,方法で説明してほしい。
【ヒアリング協力者】  実践数については,全ての学校について私たちが入ってマークしきれていないので,実際には本が刊行されてからどの程度学校で行われているかを追うことができていない。私たちが分かっているのは,ショートバージョンも含めると3校。
【ヒアリング協力者】  パイロットスタディは千葉の学校でやってもらったが,そのときにはこの最終的なフルバージョンというのがまだ構想段階で,今日説明させてもらったようなバージョンが実施されているわけではない。今回説明させてもらった効果検証も含めて行っているのは,静岡県で行っているもので,それは2校だ。学級数は,今正確な数字を持ち合わせていないが,複数の学級で実際にやってもらっている。
 その他,小学校でも1校実践をしてもらっていて,正確にこちらで把握しているのはそれぐらいの数に留まっている。実際に本刊行後,複数自治体から問合せが来ていて,実施されるかどうかまだ分からないが,そのような形で蓄積を重ねていく必要があると考えている。
【主査】   実際のところ,まだそれほどの数を対象にはやっていないということか。
【ヒアリング協力者】  学校単位と言うとそうだろうと思う。
【主査】  生徒の数で見ても。
【ヒアリング協力者】  先ほど説明したデータだと202人なので,40人学級で割ると5になるかと思う。
【主査】  よく練られたプログラムと思うが,胸を張って自殺予防に効果があると示せるのだろうか。
【ヒアリング協力者】  今日説明したとおり,私どもはアウトカム指標というか,効果指標で,自殺のハイリスク行動が低下したみたいなところは追っていないわけだが,衝動性という部分に着目するということだとか,あるいは自尊感情というところに着目はしている。ただ,それが自殺予防の中のどの辺りまでをカバーできているのかというと,まだデータ上でも不足しているところがあるとは思う。
【主査】  先生方の試みは非常に興味深いと思うし,一般のこころの健康教育だというのであれば理解できるが,「自殺予防教育」だと前面に出せるのだろうか。確かに遠い将来を見れば自殺予防につながることは分かるが,自殺予防教育だと言い切ってしまうのはどの辺りにあるのか。
【ヒアリング協力者】  そこは議論があると思うが,私どもはプログラム開発当初は,それこそ自殺の知識までを含めて実施する必要があるのではないかという議論も行っていた。その中で,子供がむしろ友達同士に話すということとか,その関係に閉じるということのリスクを考えるべきだろうということと,もう一つ,プログラムを実施すると,クラスの中でそれほど多くはないのだが,自殺の相談に乗るというような話をすると,むしろリスクが高い,自傷しているとか念慮があるというような子が,うさん臭いというような感想を出すことがあった。 学級での援助の成立ということを企図しているので,そこに向けてプログラムを作るということなので,当然様々な自殺予防教育があると思うが,そのうちの,援助の成立を通じた自殺予防教育というように理解している。
【主査】  次は,「自殺予防教育とSOSの出し方に関する教育の整理表」について,事務局から説明をお願いする。
【事務局】  資料の5「自殺予防教育とSOSの出し方に関する教育の整理表」を御覧いただきたい。前回,比較対象のためにこの表を配布して,議論の基にしたわけだが,若干の訂正がある。 2か所だが,東京都足立区モデル,1回完結式外部講師活用型の縦の欄で,その1個下の対象のところだが,小学校・中学校だけではなくて高等学校も実施しているということなので,それを足したのが一点。そのさらに3つ下の枠の中で,東京都足立区モデルの使用教材のところ。パワーポイントと手紙,DVDの他に学習指導案,児童・生徒用アンケート,相談窓口一覧カード及び相談窓口入りラインマーカーも教材として使っているということなので,これを足している。 修正箇所については,以上2点だ。
【委員】  自殺予防教育の整理しているところは,『子供に伝えたい自殺予防』の冊子の内容を整理しているのではないかと理解するが,例えば対象で,小学校中学年以降も可能となっているが,必ずしも中学校,高等学校だけが前面に出ているということでもないのではないか。あの冊子内,例としては中学校向けと小学校向けの例がこういう展開も可能ですということで載せてあると思うが,自殺予防教育としてやっているもの全てが中学校と高校だけを対象にしているというわけではない。例えば,構成のところが原則2時限とか,この辺りも,あの中ではそういう例が挙がっているというところで,必ずしも全体を表していることにはならないのではないかという印象を持った。
【主査】  具体的にここを直すようにと指摘してもらった方がいいと思うが。
【委員】  東京都足立区モデルというのは特定のプログラムのことなので具体的に書けると思うが,例えば,自殺予防教育も兵庫県のものや北九州方式,いろいろなバリエーションがあるので,ここに何時間とかいうように拾うのは難しいのではないか。何時間であるということが肝ではないというか,だから何時間に直せというのは難しいのだが。
【主査】  消せということか。
【委員】  どう言えばいいか分からない。
【主査】  事務局がまとめたものだと思うので,具体的にこうしてくれと言わないと困ってしまうのではないだろうか。
【委員】  分かった。改めて相談する。
【主査】  整理表については,なければ次に移りたいと思う。
【事務局】  この後いろいろ議論いただきたいと思うが,関心があるのが,SOSの出し方に関する教育と文部科学省が従来進めてきた自殺予防教育との関係をどのように整理するかというところだ。そういったことからこの資料5のような表も整理をしたのだが,例えば,SOSの出し方に関する教育でハイリスクを区別しているとかいないとか,従来文部科学省が進めてきたものとの違いというものも,今日見えてきたような感じもする。そういったものも踏まえて,SOSの出し方に関する教育をやりつつ,もう少し死とかそういった言葉をストレートに使った従来の予防教育を組み合わせることが現実的かどうか,そのことが効果をより一層高めるかどうか,そういった観点から皆様の意見を聞きたい。差し支えなければそういった形で発言をいただければと思う。
【主査】  委員だけではなくても,今日発表した先生方からも。
【ヒアリング協力者】  小中学校の教員を10年近くした経験からしても,学校現場では自殺とか死とか,そういう言葉をストレートに出すと,確かにそういう危険性のある子どもたちもいるかと思うが,現場ではやりにくいということがある。昨年8月末に文科省と厚労省の連名で,SOSの出し方に関する教材集を出した。今日のヒアリングでは,自殺という言葉を提示して指導すべきか否かについて議論しているが,私どもは多くの子ども達を対象とした授業では,「自殺」を使わず「SOSの出し方」を教えるという立場をとっている。我々が「自殺」に触れず,ハイリスクを取り扱っていないというご批判もあろうかと思う。しかし,私どももこうした授業とは別にハイリスクの人への対応は別の方法で行っている。私たちの教職大学院でも教師になったものの,様々な人間関係で苦しんでいる教員もいる。このような教員には臨床心理士の資格をもつ先生が面談等を行い対応している。まずは自殺予防教育は,多くの児童生徒を対象とする場合にはSOSの出し方教育からやって普及させ,ハイリスクの児童生徒に対してはより専門的な方を含めて対応した方が良いのではないかと考えている。かつて教員をやっていた経験も含めてこのように考える。
【主査】  結構,議論されてきたところだ。今の意見に対してどうか。
【委員】  私は自殺未遂をしてしまった子や死の瀬戸際にいるような子供たちの相談を受ける現場にいるので,そういう子供たちと語り合うときに死とか自殺ということを避けて通るということは,まずあり得ない。自殺予防教育と言っているときに,ハイリスクの子とそうではない子ということもあるかもしれないが,子供たちの中に自殺や死という言葉は非常に深くある。性教育と同じだが,子供たちにそういうことを言ったら寝た子を起こすのではないかと大人たちは不安を持っているが,現実には本当に悩んでいる子供たちはそこで悩んでいるので,大人たちがそこを避けて通っているということは,子供たちを救うことにはならないというのが実感としてある。 それからもう一つは,いくら子供に向かって,はい,命を大切にしましょうとか,あなたは大事な人ですと言ってみても,あんたに関係ないでしょうと言われて終わりという,そういう体験をしてきている。本当に子供に命が大事,あなたの命が大事なのだということを分かってもらうためには,その子とともにいる時間,そこで信頼できる大人なのだということを,言葉だけではなくて伝える,理解し合うという基盤がないと,本当の意味で苦しんでいる子供と言葉が通じ合わない。そういう現場にいる人間にしてみると,命は大事ですよとか,あなたは大切な人ですよというのを教員から言われて,困ったら先生や大人に相談しましょうとか,相談したら解決しますよみたいなことを言ってしまうこと自体が,とてもむなしく聞こえてしまう。正直なところ,先ほどから発表を聞いている中で,私はこの違和感をどうしたらいいのだろうと思っていた。 野田市の問題があったが,あの子は一生懸命にSOSを出した。でもそれを受け止める大人たちがいなかったということで救われなかった。結局SOSをいくら出したって,その小さな声を受け止めるという大人側がいなければ,子供たちのSOSは受け止められない。私自身も自分たちの子供の人権110番を弁護士会でやっているが,子供たちに大丈夫,弁護士に相談すれば絶対救われると自信を持って言えないくらい怖い。どんな人がその受け答えをするかによって,その子供が本当に救われるかどうか分からない。逆に追い詰められてしまうかもしれないという心配を持っているところなので,そうした,誰にでも相談すればいいのですよということを,軽々に言えないというのがある。 そういう意味で,前向きな意見にならなくて申し訳ないが,どうしていいか分からない。非常に違和感を持っている状況だ。
【委員】  2点尋ねたい。 授業実施に際しては,教員研修がとても大事だと思う。というのは,今でも,寝た子を起こすのではないかという懸念を持つ先生が,減りはしたがまだゼロではない。それから今年度の教員研修でも質問があったが,死にたいと言う生徒は本心からそう言うのか,甘えなのか,親や教師を試しているのか,つかみづらいと考えて,危機を訴える子供と接することに悩んでいる先生もいる。 教員は,発信する,教えるということには長けているが,話を聴いて受けとめるということが苦手な方もいる。だからこそ,子どもの訴えを受けとめることができるようになるための研修が必要なのではないか。足立区でも,先生に相談しようという子が,人数的には小中でも10%以上増えている。だから,先生に相談しようという子供たちが発するSOSを受けとめることができるような研修をどう進めるのか,SOSを発する子どもと接するときに戸惑いを感じる先生たちへの働きかけをどう考えているのかということが質問の一つだ。 次に,北海道では,はじめに言われたように,私も一員となって,学校の現状や児童・生徒の現状に沿うように現場の先生方と話し合いながら授業を4年間ほど行ってきた。その取り組みとここで出されているSOSの出し方教育との違いや,また共通点を教えてもらいたい。
【主査】  これまでのこの検討会でよく言われていたが,子供を相手に自殺を語ることが,背中を押すことになるのではないかという不安が,地域とか教師の中で多いということはよく承知している。でも,私はこの検討会の委員のコンセンサスとして,子ども達は寝てなんかいない,もうばっちり目を開けて,自殺のことも知っている。ただし,非常に不正確な情報が入っているので,きちんとした情報を伝えるということが自殺予防につながるのではないかという話合いだった。 それが,大綱の中でSOSの出し方教育というのが出てきて,突然それが一人歩きした。本当にそれでいいのだろうかという議論も出ている。例えば,一回単発の授業をやって,もちろん問題に早く気付け,問題に気付いたら一人で抱え込むな,適切に誰かにSOSを出せというのは,これは子供に限らず,自殺予防に限らず,一生に渡るメンタルヘルスの基礎である。それはとてもよく分かるが,単発の授業をやって,それだけで自殺予防につながるのかという議論も長い間してきた。 GRIPもよく承知しているが,GRIPについて私が聞きたいのは,確かに心の健康教育という意味でとても興味深い。ただし,費用対効果を考えたときに,日本の学校はお金もないし人もいないし時間もない。あのフルバージョン,例えばショートバージョンであっても,実施可能なのかなということも同時に考えてしまう。どの辺りに自殺予防教育というのを落とし込む必要があるのか。皆さんがやっている試みは全て,とても価値があることだと思うが,これは例えば文科省主導でというと全国でやるわけだ。そうしたときに,どの辺りに皆さんの意見の一致をみてやるべきなのかというところが難しくて,今日の発表もしていただいた。 例えば,3つの発表とも,うつ病も自殺も出さないということだった。私たちの調査では,特に高校生ぐらいの段階では,精神疾患がきちんと把握されていないために自殺につながったのではないかというのはかなりある。それで,うつ病とか自殺を出さないで自殺予防教育ができるのかということは,大きな疑問だ。先ほど,学習指導要領でうつ病が出ていないということだったが,これはここ数年のうちに変わると聞いている。今まではむしろ,精神疾患に対する偏見を増すのではないかという不安が現場で強かったので,きちんと教えられていなかったが,心の病はきちんと診断されて治療法もあるのだということを教えると,特に年齢が高い子供の場合だと自殺にはつながらないというのは,これは心理学とか精神医学の常識だと思う。 事実を伝えると子供に動揺を来すという発想が,大人の中に強いのではないか。もちろん,学校や地域内で子供を対象としたときに,うつ病だとか自殺だとか,そういうものを出しにくいということが現実にあるということも分かっているが,それはどこかで乗り越えなくてはいけない壁だと思って,この検討会が進んできたように感じている。
【委員】  1点だけ,学校の中で誰がやるのかということだ。保健師さんが来てゲストティーチャーでやるのか,あるいは北海道教育大のように,教師が授業の進行を担当するのか。私は,授業は教員がしていくものだと思う。これが授業であるとしたら,授業作りという観点で,GRIPは非常に理論的な裏付けがあって,先生たちも動いていると思う。協働で授業を作っていくのは難しいけれども,協働して授業を作っていく過程で,子供たちのことを考えて,SOSが仮に出てきたときにどう受け止めるのかというようなことが,身に付いていくと思う。それを外部講師が来て1回やって,その前に教員研修をやって,よし,というのでいいのか。 先ほど出たように,対費用効果とかいろいろなことがある。でも,授業としてやっていくとしたら,私はもっと教員が授業の主体となって,そこを補助していくのが保健師であったりスクールカウンセラーであったりというのが筋ではないか。教員が持っている力というのを信じて,学校の中で授業作りとしてやれる範囲でやっていくという視点がもっとあっていいのではないかと思う。保健師さんとかスクールカウンセラーがやってはいけないという意味ではなくて,教員が担い手になるという視点が少ないという気がして,そこが気掛かりだが,その辺の考えを聞かせてもらえればと思う。
【ヒアリング協力者】  私どもは,教師教育を大学院でやるのがメインだが,こういうものを出前の形でやっているが,これは現場の先生方に相談して,先生方でもやってもらえますかと言っている。今回,3月20日に実施する北広島の中学校では,来てもらえませんかというので,これ,先生方にやってもらっても結構ですよと話したところ,いや,外部から来てもらうからいいのですというような話もあった。 だから,求められているときは行くが,基本的には,私も学校の教員をやっていたので授業作りというのは教師が協働で作り上げていくことが一番いいと思う。けれども,教職大学院としては,教師教育の中でどこから学校現場に入れるかというときに,出前授業は一つのきっかけ作りであって,現場の教師による実践を決して否定するわけではなくて,むしろ先生方が多忙の中でもがんばってやってくれれば,それが何よりだと思っている。
【委員】  やってくれればと提示するのと,一緒に作り上げていくという姿勢なのとは違う。全部の学校は無理かもしれないが,パイロット的にでも,教員と一緒に授業を作っていくという視点が感じられない。示しました,やってください,やってくれればいいですよって,何か違うのではないかなと,そんなことを感じた。
【ヒアリング協力者】  やってくれればと言ったが,協働でやるというのは構わないことで,ただ,現場の教師にその時間があるかどうかということが問題だ。あとは,私どもの内部には現職の教員が来ているから,命の教育プロジェクト全般では,本院にはその関係の蔵書が沢山あるので「心を育てる読書指導」とかも含めた授業作りもSOSの出し方教育と併せて実践している。
【委員】  文科省に聞きたいが,学校でやる授業は学習指導要領に基づいて年間の時数というのが決められている。今の意見に賛同するところがあるが,外部の免許証を持っていない人が授業をして,授業として果たしてカウントできるのかとか,いろいろ不安に思うことがあった。 それと,学校では何々教育というのがいっぱいあって,それもある程度整理していかないと,本当に内容の充実したものを学校でやっていくとなると,現場としては非常に厳しい状況があるだろうなと思う。 それから,今日発表の先生方の気持ちもよく分かって,全員対象の学級で学習をまず進めていくわけだから,踏み込んでやることへの勇気というか,決断というのはかなり厳しいところもあるのだろうというのもよく分かる。意見と質問とになってしまったが,そんなところを感じている。
【主査】  とりあえず文科省に確認しておきたいことがありましたら,どうぞ。
【委員】  教員が全く授業に関わらないで外部の方が来て授業をしたときに,それは教育課程上の授業時数として位置付けられるということでいいのかどうか。これは教科領域という問題があるから,評価という問題が出てくる。その辺をどう捉えるのかというのは非常に興味がある。
【事務局】  仮に外部講師を招いてずっと話してもらったとしても,授業の実施自体はあくまで教師だ。その場合,外部講師というのはチームティーチングという位置付けになる。学校の先生が知らないうちに勝手に外の人が来てしゃべっているわけではないから,その点学校は責任を持ってある特定の授業時数をその授業に充てるという判断をして,それで外部講師に話してもらったということになる。当然責任を持って担任が授業をやっているという形はとっていることになるし,そうであればきちんと授業時数にカウントされるということだ。
【委員】  分かりました。
【ヒアリング協力者】  先ほど誰がやるのかということだった。足立区は始めた経緯があったので,最初保健師から始めてはいるが,これは足立区の指導案は足立区の教育管理職,校長先生や副校長先生が私たちのパワーポイントを基に指導案を立て,校長会に話をし,教諭部会などにも諮り,学校の先生と一緒に作り上げてきたものだという自負はある。学校の先生,現場の先生が一緒に携わって作ってきた指導案になっている。一方,自殺とか死は学校の先生たちにとってはなかなか扱いづらいということもあった。なので,そういった言葉は使わずに今までやってきたというところが一つだ。 もう一つは,授業をするときに,本当に困ったときには自分から相談できるような健康なお子さんが,足立区だと8割ぐらいはいると思う。一方で,自分に自信がなくて,困ったことがあっても口ごもってしまうし,こんなことを言ったらだめと思われるかもしれないという子が,大体2割ぐらいいる。そうすると,私は保健師なので,何か働きかけるときに,全体へのポピュレーションなアプローチと,本当に大変な子供へのハイリスクのアプローチを考える。そうすると,授業はポピュレーションの場だと思うので,まずは全体に働き掛けて,本当に伝えるべきことは何かと考える。 しかも,授業は今,薬物の授業もあるし,税金の授業もあるし,丸々授業というものがいっぱいあってなかなかできないので,そうすると普及版として一回だけでやるとしたら,何を子供たちに本当に伝えるべきか。全体で伝えるべきは何かとそぎ落としていったときに,困ったときは相談してというのが一つあって,それを今,重心を置いて行っている。 あとは,区の職員なので,一つの授業を展開するときには予算とか人とか時間とか実現可能性とか,あとどのぐらいの協働ができるのかという視点で事業は評価して,それが成果を上げていればまた翌年度も予算が付いて,回転して,PDCAで回して授業ができるわけだ。文科省もどこかで学校に下して現実的にやってもらうというときには,理想はたっぷりあるし,全部教えてあげたいし,分かってもらいたいけれども,その中で本当に全国に広がるような,普及版となるような実現可能性のあるものはどうしていったらいいのか。ベストはきっと難しいと思うので,ベターはどこかというところも是非,探ってもらえたらと思う。
【主査】  そろそろ時間が迫ってきたが,他にいかがか。
【委員】  まだ,時間の問題とか,それから薬物の話も出たが,基本的に自尊感情であるとか援助希求というのは,自殺予防教育に限らず様々なリスク,薬物も,性に関する問題もそうだし,実際学校教育の中にはかなりそういうものは浸透している。そういう学校の中で入ってきている他の何とか教育というようなものとの体系化というか,整理が進むことで実現可能性というのは非常に高くなると思う。そういう意味で,学校であるとか自治体,教育委員会,教育行政とかが連携しながら整理をすることで,かなり実現可能なより整理されたものができると考えている。その辺りも視点として大事ではないかと思う。
【ヒアリング協力者】  少しだけ,GRIPの補足をしたいが,話を聞いて,まず私どものGRIPはリスクのある子たちを排除するのではなくて,むしろリスクのある子供たちにこそ届くようなプログラムをというのが大前提で作成してきた。そのときに,学級の中で援助が成立する,つまり子供がしんどいときに友達に話すとか,そういったところをどうやったら丁寧にすくっていけるかということでプログラムを練ってきた。 当然,学校の先生方が寝た子を起こすのではないかという反応は,今までもたくさんあった。当然そこに配慮するということは考えたが,そこよりもリスクのある子供たちでも相談を開いていくとなったときに,GRIPは一応中学生を対象にしているのだが,そこから丁寧にやっていくときには,自殺とは何かということを掘り下げていくのではなくて,自殺というのを,自傷も含めて,誤った対処行動かもしれないと伝える。でも本人にとっては,それは一つの生きるすべかもしれないということを大人がちゃんと認識した上で,でも子供たちには,それではだめだから開いていくというということを丁寧に取り組んでもらう何か,ということで考えてきた。
【主査】  それでは,予定の時間が過ぎた。今日,発表してくださった皆さん,ありがとう。時間が十分になくて申し訳ありませんでした。それでは事務局から,会議の進行とかこれからの予定について説明します。
【事務局】  本日は皆様から貴重な発表と意見交換を頂き,ありがとうございました。 次回の会議の進め方等については,本日の意見を踏まえて事務局で議論の内容を整理して,また示したいと思う。 なお,次回の会議は来年度を予定している。
【主査】  以上をもって,今回の会議は終了する。進行に協力いただき,ありがとう。

―― 了 ――

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