児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成30年度)(第2回) 議事要旨

1.日時

平成31年1月24日(木曜日)15時00分~17時00分

2.場所

文部科学省3階 3F2特別会議室

3.議題

  1. 自殺予防教育の取組事例について
  2. その他

4.出席者

委員

新井委員,荊尾委員,川井委員,窪田委員,高橋委員,阪中委員,坪井委員,村瀬委員, 
〔ヒアリング協力者〕シャルマ直美氏,小田切倫子氏

文部科学省

大濱児童生徒課長,松木生徒指導室長,星専門官

5.議事要旨

※議事に先立ち,主査より挨拶があった。
※事務局より配布資料の説明があった。

【主査】  それでは,今回の議事に入る。自殺予防教育の取組事例について,4人の委員から説明をします。1人の持ち時間が質疑応答込みで15分です。それでは,新井先生,お願いします。
【新井委員の発表】
  兵庫県の県立教育研修所では自殺予防に生かせる教育プログラムと銘打ち,自他の命を大切にする心を育むという大枠の中で,自殺予防教育プログラムを作り,試行し,徐々に広がっているという状況です。どんな内容か,どのように作ってきたのかということについて,説明をします。 文部科学省の子供に伝えたい自殺予防,この考え方をほぼ踏襲しています。したがいまして,一番の土台としては校内の環境づくり,下地づくりの教育をし,これを核となる自殺予防教育につなげていくという道筋の中で考え始めました。下地づくりとして命を尊重する,心身の健康を育む,温かい人間関係を築くという,従来取り組まれている教育をまとめる形で,下地づくりの中で位置付けました。 このようなものについては,ほとんどの県や都道府県,市で既に取り組まれているわけです。ストレスマネジメント教育が行われているところもある。ソーシャルスキルトレーニングが行われている。あるいは道徳等で命を大事にするというような教育も行われている。取り出していくと,関連するものは相当出てまいります。しかし,自殺予防に焦点化したものではない。この今行われている下地づくりの教育をどう自殺予防に焦点化していくのかということが課題として出てきました。既に行われているもの,あるいはこれから取り組むもの,何を選んでいけばいいのか,どれだけやればいいのか。あるいは自殺予防といったときに,果たしてストレスマネジメントだとか,あるいは命の大切さを実感させるだとかいうことがどれだけ自殺予防になるのかというところから議論が始まっていきました。まずは,この下地づくりの教育を自殺予防に焦点化させたプログラムとして作れないだろうかということでプログラムの作成に入ったわけです。 県立の教育研修所の心の教育総合センターというところが中心になり,私が委員長を務め,4年前からスタートしました。窪田先生,阪中先生,シャルマ先生,県立教育研究所の指導主事がそれぞれ話を伺いに行って,それらを参考にし,さらに中学校・高校の養護教諭,保健体育の教諭を必ず入れ,そしてスクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカーも加える形でプログラムの作成委員会を立ち上げました。 方針としては,文科省の核となる授業の柱になっている早期の問題認識,心の危機理解,これと援助希求,これらを柱としながら下地づくりの中で核になる授業につなげていくようなプログラムを作れないだろうか。核になる授業とどこが違うのかというところが不鮮明なところがありますが,学校の中に下ろしていくときに,「自殺予防教育」というのがまだ少し抵抗がありましたので,「自殺予防に生かせる」という言い方をし,下地づくりだけれども自殺予防教育の核となる部分の最低限のところは補っていく,そういうプログラムとして提示し,実際の授業は教員が主体になってつくりあげていく。教員にスクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカーあるいは精神科医等が加わって授業を構想し,実際の授業は教員が担当していく。それができるようなプログラムを作ろうということで進めてきました。したがって,授業プログラムとしては,下地づくりの中で自殺予防に焦点化したもの,そして自殺予防教育の核となる部分の基本的なところ,ここを押さえようということでプログラムを構想してきました。 授業構成としてはSTEP1,早期の問題認識。STEP2,援助希求的な態度を育む。そしてSTEP3でやや専門的な知識にも踏み込みが,高校は「心の病」,中学校は危機に陥ったときの「心理的視野狭窄(きょうさく)」,これらを一つテーマとし,危機からどう脱するのかということを考え,学んでいこうという方向で取り組んでまいりました。兵庫県では,高校生を対象とした自殺予防プログラムを,この取組を始める2年前に作りました。これを下敷きにして,中・高生の自殺者数が圧倒的に多いので,小学校での取組は行わず,中学校・高校で,この3ステップ,授業時間にすると3コマになりますが,これを展開していくように考えました。 プログラムの内容としては,中学校はSTEP1,ストレスコーピング,これを保健体育の授業の中で保健体育の先生と養護教諭が組んで行っています。STEP2は援助希求,「こころのSOSを発信しよう」ということで,学活の時間に担任とスクールソーシャルワーカーが組む形で進めています。STEP3,心が苦しくなった時の対応。心理的な視野狭窄というのがここの中心になりますが,ここに関しては担任とスクールカウンセラーで授業を作ってやっていこうということで進めました。高校は,青年期の心がSTEP1。これを保健体育の教員と養護教諭。そしてSTEP2が「上手な聴き方を身につけよう」。援助希求的態度の育成です。ここでは専門的な相談機関の紹介等もするということで,担任とスクールソーシャルワーカーが協働して授業を考え,実践しています。そしてSTEP3「こころの病と出会ったら」。ここでは精神疾患を取り上げていますので,保健体育の教員と臨床心理士,あるいは精神科医と連携が取れるところでは精神科医と連携をとって授業づくりを進め,実践につなげています。STEP1とSTEP3は保健体育の授業時間に行いました。STEP2は高校ですので,中学校の学活にあたるロングホームルームの時間にやるという授業構成で進めました。 プログラムの内容については,1つは,演習を必ず入れる。体験的に学ぶ部分を入れようという方向で進めてきました。例えば,リラクゼーションについて体験する。自分の体の感じに向き合うというようなこともやりました。そして,STEP2では相談動機の向上ということで,ロールプレイングで傾聴を中心に相談を受ける,相談をするというような学びをしています。そして,STEP3では,高校は心の病,中学校は心理的視野狭窄についてとりあげました。 高校は最初から自殺の問題をとりあげていくということを明確にし,「自殺予防」という言葉を出しました。中学校は,「心の危機」という言い方で,「自殺」という言葉は出さずに進めていきました。もちろん授業の中で危機にどんなのがあるか生徒に意見を聞いていく中で,自然な形で自殺という言葉が出てくることもありました。警察庁の調査ですけれども,高校に関しては,女子の自殺の原因・動機は鬱がトップに来ている,男子でも3番目。そのほか,精神疾患が上位に出て来る。高校生に関しては,心の病の問題を扱わなければ自殺予防にならないだろうと考えています。「自殺予防に生かせる」という言い方をしたのは,どこまでが自殺予防教育の本質,核となるものをどこに求めたらよいのかということをいま一つ捉え切れずに進めてきたことの表れであり,弱いところでもあると考えていますが,現段階では,自殺念慮とか自殺の危険とか,それにどう向き合うかというところを直接取り上げることはせずに,広く危機について取り上げ,危機の最たるものとして自殺について考える,それを生み出す背景に心の病があるから,それについて学ぼうという方向で高校は進めてきました。 生徒は,おおむね自分の体験と結び付けながら学びを進め,授業は好意的に受け入れられていると思います。授業後に,振り返りのチェックシートをやっていますが,中学校は授業が非常にうまく生徒に伝わったという数字が出ています。高校生は,中学校に比べるとやや浸透度合いが悪いという結果が出ました。これは,パイロット的にやった高校と中学校の状況の違いが反映されている側面があるかもしれませんし,授業者による違いもあるかもしれません。あるいは,発達段階に対してプログラムが適切であったかどうかという課題もあろうかと思います。 pre-postで早期の認識,援助希求,大人へつなげるとかいうのがどう変化したか。中学校に関してはt検定の結果,すべて有意に変化をしました。高校は,有意差が見られたのが援助希求だけで,あとは有意な変化がみられませんでした。したがって,高校生にどのようなプログラムをやっていくのかということが今後の課題かなと思っています。 授業を実際にやってみると,プログラムのSTEP3まで行かなくても,生徒のなかにはいろいろな思いが湧き起こってきて,阪中先生に一度授業を見ていただいて御意見を伺う機会を設けたのですが,そのときに生徒の中でしんどくなっている子が出てきて,阪中先生にフォローしていただくという状況がありました。そういう状況が生まれることや授業後に実際に相談をする生徒が出て来ることを考えると,生徒の変化に気付ける目を,授業をしている人間が持たなくてはならないだろうと考えます。したがって一人では難しいので,先ほど申しましたような組合せで,TTで授業を進めていく。そして保護者にも契約というところまではいきませんが,「こういう授業をやります。保護者の方も参加して結構です,もしも授業を受けさせたくない場合にはその旨御連絡ください,別の授業を用意いたします」というような通知を,学校から該当学年の保護者に発信することも不可欠だと考え,そのように進めています。これに対しても,ハードルが高いという声もありましたが,いろいろな議論をした結果,自殺予防の授業をやって,生徒たちが相談しようと思ったときにそれに応えられない学校の体制であったら,授業をやっても意味がないのではないかということになり,教員研修と保護者との連携を前提条件として取り組みを進めてきました。したがって,教員研修をして授業をやって終わりではなくて,授業はスタートだと思うのです。授業に触発されて動き出す生徒にきちんと向き合えるような,受け止めて相談ができるような教職員の体制を作っていくことが大前提であると考えています。その際,教員が全部を受けるということではなくて,カウンセラーや精神科医などにつなぐことが大事だという理解を深めるような教員研修をやる。それから,授業時に関しては,複数の教員が入って目をしっかり届かせる。 実施後は,きちんと様子を見てフォローしていく。そして保護者とも連携していくということで取組を進めてきました。ハードルが高くて,今兵庫県では中学校で毎年10校ぐらいがこのプログラムをもとに実践を進めています。高校は,心のサポートシステムという制度があって,自ら名乗り出て指定を受けた10校ぐらいが授業に取り組んでいます。そこで行われた実践について,今,効果検証を継続して進めているところです。兵庫県での取組についてご紹介いたしました。御理解をいただければと思います。どうも御清聴ありがとうございました。
【主査】  高校の段階では心の病ではっきり鬱病を取り扱ったということだが,統合失調症はどうか。
【委員】  そのときは,取り上げなかった。
【主査】  3コマ実施ということに対して,多いという抵抗はなかったか。
【委員】  3年間で3コマという提示の仕方をした。学校によっては,高2で3コマやってしまう。少なくとも保健体育に1コマ入るから,学活の中で残り2コマになる。保健体育のカリキュラムの中に位置付ければ,あと残り2コマは学活でする。心の病については保健体育ですることも可能なので,保健の時間を活用すれば3コマというのは,保健体育の先生の理解が得られれば余り難しくはないと思う。
【主査】  1学年で3コマするという話はないのか。1・2・3年で1つずつするところもある。
【委員】  学校の実情に合わせてくれればどちらでもいい。
【主査】  以前に学習した内容を忘れてしまわないか。
【委員】  子供がですか。
【主査】  そう。前の内容を。
【委員】  試行的にやったところは同じ学年で3コマやって,pre-postを取ったりしたが,これから進めていくところは学校の実情に応じて3学年にまたがってでもよい,というようには言っている。
【主査】  確認だが,実施する前に教員に対する研修をしたと言っていましたね。学校で実施を決めたところでその学校の教員に対して研修をしたということか。
【委員】  そうです。
【主査】  兵庫県全体にというわけではなくてか。
【委員】  はい。兵庫県全体の教員研修もしているが,実施する学校には我々か指導主事,あるいはスクールカウンセラー,臨床心理士が行って,事前の研修を必ずするというように制度化している。
【主査】  実施校数が今10校前後ということですね。
【委員】  はい。
【主査】  次は,北九州市スクールカウンセラー,北九州市教育委員のシャルマ直美先生です。お願いします。
【ヒアリング協力者の発表】
 北九州市では,後でお話しさせていただきますが,精神保健福祉センター,それから北九州市教育委員会指導部,そして北九州市スクールカウンセラーの3者の連携協力により,自殺予防教育を展開してきました。今年10年目を迎えて,それぞれ担当者が交代しているが,地道に取り組み続けてきました。 これまでの経過をお示ししています。平成20年度精神保健福祉センター主管で,北九州市自殺対策連絡協議会がスタートし,その協議会の参加機関として教育委員会担当課長,そしてスクールカウンセラー代表者が参加し,3者が自殺対策において協力する場ができました。その後,翌年の平成21年度にリーフレットを作成しました。精神保健福祉センターが予算をつけて臨床心理士会に作成を依頼したものです。臨床心理士会というのがスクールカウンセラーです。 次に,平成22年度からは,そのリーフレットを活用して管理職などを対象とした研修を始めました。このときは,学校全体にというよりは管理職や養護教諭や生徒指導の担当者を対象の研修としています。 次に,平成23年度ですけれども,自殺予防に直接つながる内容ということではないですが,結果的にやはり他者関係,温かい人間関係,支え合う関係,そういったことを内容とする対人スキルアップ教職員研修というものを,当該校に配置されたスクールカウンセラーを講師として,全市立学校211校・園で行われることになりました。平成23年度にこのことが始まったということがこの後の自殺予防教育の教職員研修にもつながりやすくなったと言えます。 平成26年度からは,対人スキルアップと同様に,当該校に配置されたスクールカウンセラーを講師として,自殺予防教育教職員研修というものが全市立学校211校・園で行われることになりました。北九州市は政令指定都市になっていますので,県立高校の方は教育委員会としては,別の県の方で管轄しておられて,市としては小学校・中学校がほとんどです。加えて,特別支援学校と幾つかの幼稚園と,高校生レベルの年齢の学校が2校だけあります。そういうことで始まりました。この年は,この協力者会議による「子供に伝えたい自殺予防」も発表されています。 その後,平成26年度から今年度平成30年度まで,毎年教職員研修を続けてきました。その中で,多くの先生方が授業も自分なりにスクールカウンセラーと協力したり,あるいはスクールカウンセラーの協力はなくて自分で研修を受けた後考えたりして,リーフレットを使ったらどんなふうに授業ができるだろうなど,工夫してこられた先生方も中にはいらっしゃいました。そして今年度は,本市の小学校6年生と中学校2年生の児童生徒約1万5,500名を対象にした授業を実施することになりました。主な授業者は担任の先生などで,スクールカウンセラーはT2となっています。このように,本市の自殺予防教育の特徴の一つでもありますが,教職員が主体となってスクールカウンセラーとともに取り組むということを大切にしています。そのためには,教職員研修が欠かせないということで,教職員に自殺予防教育の基本的な考え方が理解されれば,日常の教育活動の様々な場面で,子供たちに指導したりメッセージを届けたりしていただけるのではないか。つまり,自殺予防教育の考え方が学校文化の一部になることを私たちは目指しています。 今,お手元にリーフレットを配っていますが,そのリーフレットが平成21年度に作ったものです。この中の内容ですが,1ページ目がもやもや度チェックとなっています。タイトルは,「だれにでも,こころが苦しいときがあるから……」というタイトルですけれども……。自分の状態を知って,それは何%だからいいとか何%だから悪いということではないんだよということですとか,あと,心の状態は変わるんですよということも入れています。また,日常的にストレス対処としては,もやもや攻略法という言葉を使って,いろいろな攻略法があるんだよということも伝えています。そして,3ページ目は,私たちが伝えたい3つのメッセージです。誰にでも心が苦しいときがある,だけれども,どんなに苦しくても必ず終わりがある。相談する力を持とうというメッセージです。そして,4ページ目は,友達の話の聞き方です。友達に相談されたときはこういうふうに聞きましょうということを,実際授業でも扱いますが,そのようなページとなっています。そして,4ページの一番下のところには,深刻な話を聞いたときはということで,非常に絶望的な友達の話を聞いたときには,信頼できる大人に話しましょう,絶対言わないでと言われても,あなたの命が大事だからというメッセージとともに大人に伝えましょう。また,そういう気持ちを聞いて,自分がどうしたらいいか分からないという相談をしてもいいんですよというメッセージを載せています。そして,最後のページに相談先の紹介があり,このリーフレットが北九州市においては自殺予防の基本と考えています。 次に,今お話しした3つのメッセージをまとめたものですが,「誰にでも死にたいほど苦しいときがあるかもしれないが,苦しいときにも必ず終わりがあり,周囲の人に話をすること(支援を得ること)で苦しい気持ちはきっと軽くなる」ということで,私たちとしては援助を求める力を付けること,それが生涯にわたるメンタルヘルスの基礎を築くための教育となるという,これを基本的な考え方としてきました。 次に,配付資料にはありませんが,授業風景の写真を入れております。真ん中のところに担任の先生とスクールカウンセラーとで話の聞き方のデモンストレーションをやっていて,それから右下の写真ではシナリオを使って友達の話の聞き方の練習を体験しているところです。このように,先生方を主な授業者として,スクールカウンセラーと協力して授業するということをしているわけですが,自殺という言葉を使うことに抵抗がある先生もいらっしゃれば,ある先生の場合は,福岡県では何人ぐらいの人が自殺するか知っていますかというようにクイズ形式のような形で何人から何人,何人から何人ということで子供に手を挙げさせたりとか,そのように先生方の方で研修を基にして内容を工夫したりということも見られるようになってきました。 また,先生方にそのような意識があったとしても,実際子供たちの中に自殺という言葉を使って考えさせることが,今の学級の状態としてできるのかどうかという別の大切な視点もあると思いますので,そこは各先生方に任されているところもあります。また先生方が,消えたいぐらい苦しい,死にたいぐらい苦しいという言葉を使えない場合は,そこの部分はスクールカウンセラーがリーフレットを読むなどして,スクールカウンセラーと担任の先生とで協力するような授業の形をとっています。 次の図は,本市が級活動全体を通して取り組んでいる自殺予防教育の全体像です。これまでの取組の中で,自殺予防教育の基本としている心が苦しいときに援助を求める力や,相談する力を付けるに加えて,より日常的にメンタルヘルスの良好なときに自殺予防につながる様々な力を付けるという考え方の方が,学校の先生方の感覚には受け入れられやすいということも分かってきました。それで,ピンチをしのぎ立ち直る力を付ける,すなわちレジリエンスを高めるという視点も,先生方に併せて伝えています。これまでやってきたことややっていることを自殺予防につながる視点で見ていただくこと,それによって自殺予防教育は小学校1年生から積み重ねることができるものになりました。 そのような流れから特別な教科,道徳と自殺予防教育との関連ということで,北九州市教育委員会の道徳のスタンダードカリキュラムの中で下地づくりの教育としての道徳をこのような形で紹介していただいています。 お手元の小学校1年生の年間指導計画例の配付資料ですが,1年生の道徳の教科書の中でこの教材は自殺予防教育の視点で指導できるということで,表の一番右側の備考の欄にハートマークを付けて,ハートマークの付いている教材は自殺予防教育の視点で指導してくださいということです。また,次の資料は,「ぼくは小さくてしろい」という教材の指導案です。1年生の道徳の教科書の中にあるものですが,自分はどうして小さいのとか,自分はどうしてほかの人のように黒や白が混じってないのというペンギンの子供が,お母さんに自分のことについて尋ねる教材です。そのような教材を自殺予防教育の視点でこのように指導できますという例が示してあります。もう一枚も,各学年の教材を自殺予防教育の視点で教えられるものということでまとめています。 そのようにしてやってきたことを合意形成とプログラムとフォローアップという視点でまとめているのがこの表です。とにかく私たちは教職員研修というのを大切にしてきました。全ての先生方にも届くような教職員研修ということで内容もワーキンググループを作って,スクールカウンセラーと精神保健福祉センター職員と学校の先生が入ったワーキンググループで研修内容を考え,その内容をスクールカウンセラーたちがまず研修し,そして研修したスクールカウンセラーたちが自分が配置された学校の先生方に教職員研修を行うという形にしています。 保護者に対しては,まだ徹底して研修をするということはできていませんが,家庭教育学級という,一部の学びたい親御さんに対して教職員研修に似たような内容でお伝えしまして,内容に対しての関心は高いという実感を得ております。それから,プログラムについてですが,リーフレットやその一部を基にしたものや,道徳の授業やまたレジリエンスを高める教材集の中から教材を使っております。 そして,フォローアップですが,このたびは北九州市小学校5年生全員面接というものを当該校のスクールカウンセラーが担うことになりました。ですから,その小学校5年生もそうですし,小学校の中でのスクールカウンセラーの活動がフォローアップになっていくということもありますし,また,スクールカウンセラーはいつも学校にいるわけではないので,主にフォローアップしていく担任の先生や養護教諭,その他の先生方,その先生方をサポートする形でスクールカウンセラーが活動できるような体制ができたらいいなと思っています。
【主査】  このパンフレットは,小・中・高,誰を対象に使っているのか。
【ヒアリング協力者】  小・中が中心だ。今年は小学校5年生と中学2年生に全員分配付して,完全にこれを使った授業の場合もあるし,ホームルームで読んだりとかそういったこともあるかと思う。
【主査】  北九州市の学校のどのくらいの割合で実施されているのか。
【ヒアリング協力者】  授業は小学校5年生と中学校2年生のクラスは全クラスだ。
【主査】  北九州は全国的に見てかなり進んでいると思う。臨床心理士会の取組も,かなり前からやっているし,その他にも精神保健福祉センターや学校との連携も密だ。むしろ,全国を見るとそういうつながりがないところがほとんどだと思うが,他の地域に向けて北九州の経験を,どのような点が大切だというところを強調しますか。ここだけは忘れるなという点です。
【ヒアリング協力者】  教育委員会がスクールカウンセラーを活用する意思がどれぐらいあるかということがまず大切だという気がする。今日話ししただけでも対人スキルアップ,自殺予防教育,教職員研修,それから小5全員面接,それからアンガーマネジメント研修というのもあるが,とにかく全教職員に何かを伝えたいというときに,配置されている学校にスクールカウンセラーがいるんだから,スクールカウンセラーを活用しようという基本的な姿勢があると思う。それに対して私たちも応えていく中では,各自スクールカウンセラーが頑張ってくださいねというのではなく,スクールカウンセラーがそれを研修するような仕組みも作っていくということで,まずは教育委員会が活用するという気持ちが大切だと思う。
【主査】  臨床心理士会が学校側に積極的に働きかけていった歴史的な背景もあるということか。
【ヒアリング協力者】  それはいろいろ悲しい出来事があったりもしたし,そういう意味でスクールカウンセラーと教育委員会のつながりは,そのような出来事への対応を通してつながりも深くなったというのもある。
【主査】  先生によっては自殺ということをはっきりと出すという人もいるということだが,病気に関しては取り上げているか。鬱病と統合失調症などは解説しているか。
【ヒアリング協力者】  中学生では病気のことまではこの中では話されてないと思う。もしかしたら保健体育とかそういったところで他学年で取り扱われている可能性はあるかと思うが,私たちの方ではそこは届いていない。
【主査】  次は阪中先生,お願いします。
【阪中委員の発表】
自殺予防の方向性としては援助希求と心の危機理解と思って私は取り組んできました。この2つを学び,身につけていくためには,下地づくりと位置づけていますが,安心・安全な学校環境,居心地のよい環境が不可欠ではないかと思っています。 それでは,海外の自殺予防教育を少し紹介したいと思います。文科省から高橋先生,窪田先生と一緒に米国に行かせていただいたときに,体験したSOSプログラムです。中学校版の指導書にもこのように最初の頁に導入の参考例の言葉として書いてあり,心の危機理解,援助希求が示されています。オーストラリアの自殺予防教育では,レジリエンスが根底に置かれています。これはネットから取ったものですが,誰でも見られるようなスポットライトと称する動画が配信されています。すごいなと思うのは,先生方の幸せがまず大事なんだということがきっちりと位置付けられていることです。 次は,ヨーロッパのYAMというプログラムです。これもネットから取ったものですが,考え,話合い,ロールプレイを通して青少年の心の健康を高める取り組みが,小冊子に紹介されています。平均15歳の子供が1万人以上受けているそうです。紹介した3つのプログラムは,それぞれエビデンスがあると言われているものです。内容を見ますと鬱や自殺願望について聞いたり話したりすることを避けずに実施されていることがわかります。 それでは,実際に私がこれまで取り組んできたプログラムを,御紹介したいと思います。大事にしてきたことは,体験型の授業を通して生徒同士の絆(きずな)を深めたり広げることと,ハイリスクな子供たちへの配慮として,「自殺をしてはだめです」「命を大事にしなさい」「リストカットをしたりして自分の体を傷付けてはだめです」というような価値の押しつけになるようなことを言ってきませんでした。ハイリスクな子供たちの自尊感情,自己肯定感を低めて,より援助希求しにくくなるのではないかという懸念からです。20年くらいやってきましたが,子供と一緒にいのちの危機について考えるということが自殺予防教育であり,大人自身がいのちに向き合う時間ではないかという思いを強くしています。 それでは,まず下地づくりの部分を紹介したいと思います。これはC中学校の先生方と一緒に考えたスライドです。心の危機,いのちの危機について考えるというシリーズを,『自分探しの旅学習』と名付けて取り組んできました。エゴグラムやリフレーミングをすることによって今の自分を見つめたり,自分と周りの人との関係を培ったりすることを目指していきました。 次は核となる授業です。友達に「『死にたい』と言われたことのある子供は中・高では5人に1人いて,中学生でその3分の1は「死ぬんやったら死んだらいいやん」とか,笑ってスルーしたとか,何もできなかったとかいうふうに非援助的な対応をしているという現状があります。ニュースや新聞でも,死にたいと聞かされても気付いてあげられなかったというような記事を見ることが少なくありません。私自身も事後対応に入ったときに,友達の希死念慮を聞いていて誰にも言えなかったと自責の念で苦しんでいる子供と出遭うことが少なくありません。ですから,友達のSOSに気づく力,気づいた時にどうするのかという学びが,本当に必要だと思っています。第1章で下地づくり,第2章で核となる授業に取り組んできました。少し動画を見てください。
(動画再生)
これは校長先生がB中学校のホームページにアップしたものです。授業のときには養護教諭の先生など何人もの先生方が一緒にクラスに入り実施しています。実施し始めて今年度で6年目になりますが,こういう学びをずっと続けています。この場面は,プチハッピーといって,友達とみんなで小さな幸せを探そうというワークです。授業の中で15歳の手紙の曲を聴いたりするので,校長先生は動画の背景に,このオルゴール曲を入れています。生徒たちの前で先生がロールプレイのデモンストレーションをやっています。生徒が前でモデルをするクラスもあります。事前の打合せで,どうやって授業を一緒に進めていくかということを話し合っています。これは振り返りを書いている場面です。この校長先生の転勤先のC中学校でも同じように自殺予防教育が実施されています。このようなスライドで,子供たちが抱えるストレスとその影響を考えたり,iPS細胞で有名な山中教授でも仕事に行けなくなったり,朝起きられなくなったときがあるというエピソード等を紹介して,抑うつ症状は誰にでも起こるかもしれないということを伝えています。思春期の心理や難しさについても現状を示しながら子供たちと一緒に考えます。いのちの危機,心の危機は誰にでも起こるかもしれないということや,絶望的な気持ちでもう消えたいということしか思い浮かばなくなったりする脳の不調,心理的視野狭窄という状況をスライドで説明します。そのような状況に陥っても家族や先生,地域の人,みんなの応援団がたくさんいるということを,知ってもほしい。そのような人との繋がりを子供たちが元気なときに学び合えたらなと思っています。応援団は必ずいるし,解決策は形は変えるかもしれませんが,必ずあると子供たちに伝えたいと思っています。 そして,心の危機はどういうものかということについて子供たちとブレインストーミングで考えることもします。こんなふうな「自殺」や「死」に関する言葉が出てくることもありますが,その時には避けないで扱います。また,子供たちは反抗的なことが心の危機だということもちゃんと考えています。対処法のグループワークですが,信頼できる人に話す,自分から相談する勇気を持つなど,このクラスでは7グループ中5グループに「相談」というワードが出ています。ほかの学校よりも多いように感じています。この学校の先生に,どうして「相談」というキーワードが多いのですかと伺うと,数年来自殺予防教育が続いている中で,事前・事後に学級通信等でこのことを発している担任の先生が多いことや,先生方がいろいろな授業の場面で,困ったときには信頼できる大人とつながろうということを伝える場面が多いからではないかという答えがかえってきました。全体を通じて,ロールプレイ等の体験的な学習を大事にしています。その中で,よい聞き手になることこそ大事ではないか,また,揺れる思春期の子供が対象なので,必ず身近な大人につなげることの大切さを強調しています。どのような人が信頼できる大人ということに関してのグループワークを実施すると,「弱みを見せられる人」というような意見が生徒から出たこともあります。スウェーデンでも弱みや絶望を開示する力を培う学びを目指しているそうです。 効果検証の結果を示したスライドです。感想もまた時間があったら読んでおいてください。このグラフは,自殺予防プログラムを実施した生徒としなかった生徒との希死念慮の変化を学年を追って見たグラフです。ハイリスクな生徒にとっては,プログラムを実施したかどうかの差はありませんが,グレーゾーンの生徒は希死念慮が軽減するという効果が,特に女子に顕著にでています。ハイリスク生徒には,個別対応が求められていると考えられます。こちらは1年生への実施したときの事前・事後の変化と,3年生での実施したときの事前・事後の変化について効果測定した結果です。継続する必要性を強く感じています。 課題ですが,この三つの前提条件があるから広がらないと言われている方がおられるようですが,私自身,自殺予防教育を進める上で,この三つの前提を目指すことは不可欠だと思っています。このスライドのように数は多くはないですが,実施に不安をお持ちの先生方がいます。生徒が救いを求めてきても,それは本心なのか,甘えなのか,気を引きたいだけなのか,大変つかみづらいというような御質問も受けます。そのようなことに対して,やはり研修を重ねるということが大事だと思っています。研修の事前・事後の効果検証のグラフです。自殺に対する自信度が増すような研修をこれからも考えていく必要があると思っています。 これは,B中学校の先生が独自に考えられたスライドですが,このように自殺予防教育の大事さを先生方に知っていただければ,忙しい中でも,創意工夫して授業づくりをされるという紹介です。どの時間実施するか,誰が担当になるか,様々な課題について,これからも考えていく必要があると思っています。
【主査】  標準形として,先生が実施されているのは何コマぐらい使っているか。
【委員】  ゲストティーチャーで2コマのところが多いが,下地づくりまでと言われたら,10時間ぐらいの下地づくりと3時間の命の危機について考えるという3コマをした。今は下地づくりを6時間ぐらいと,心の危機について考えるというのを3コマぐらい実施している中学校などいろいろだ。高校も核となる部分としては2時間のところが多い。
【主査】  次は,さいたま市立善前小学校長,小田切倫子先生です。
【ヒアリング協力者の発表】
 本日はさいたま市の取組について御説明を申し上げます。さいたま市には,教育相談体制を,予防,アセスメント,支援,ケアといった4つの段階と捉えて展開をしています。 それぞれの主な取組について,説明をします。赤くなっているところはSOSの出し方に関する教育に特に関係がある部分になります。予防についてですが,人間関係プログラムというものを実施しています。このプログラムは,構成的グループエンカウンターやソーシャルスキルトレーニングといったコミュニケーションの基礎的なスキルを学ぶ授業になっています。学期初めに6時間,1年間で18時間,中学1年生については12時間の実施になっております。それをベースとした「いのちの支え合い」を学ぶ授業,そしてSOSの出し方に関する教育のモデル校指定,こちらについては後ほど説明をいたします。 次にアセスメントです。児童生徒の心の状況等を知るための「心と生活のアンケート」というのを実施しています。また,長期休業前のアンケートであるとか教育相談日,あるいは教育相談週間というものを各学校で実施をしています。 続いて,支援です。支援としては,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー,さわやか相談員を全校に配置・派遣しています。さわやか相談室,これは市立中学校全ての中学校にあるのですが,校内の独立した相談室,電話番号も独立したものを持っています。学校カウンセリング基礎研修,こちらは2年次研修に位置付けて悉皆(しっかい)研修となっています。1日をかけて行うゲートキーパー研修も悉皆の研修となっています。また,市内には6か所の市立の相談室・適応指導教室があります。こちらには,指導主事と常勤の心理職,そして精神保健福祉士が勤務しております。それから,24時間子供SOS窓口はフリーダイヤルで電話を受けています。 ケアの実践としては,スクールカウンセラースーパーバイザー,こちらは経験豊かな者を教育相談室に配置して,緊急事案等に対応できる体制を整えています。また,小児科医や精神科医による専門医による教育相談,それから児童相談所やこころの健康センターといった他機関との連携を構築した子供サポートネットワーク,こういったところと連携をしてケアに努めています。これらについては,一番下のところに「心のサポート推進事業」全体構想図として資料を入れましたので,後ほどごらんいただきたいと思います。手引き等を活用しながらさいたま市としては推進をしているところです。 「SOSの出し方に関する教育」の考え方ですが,児童生徒がSOSを出す。このことを適切に受け取る。そして,適切な支援やケアにつなげる。これがとても大切です。受け取るのは児童生徒の場合もありますし,教職員の場合もあります。これをしっかりとつなぐ,ここがとても重要になると考えます。そのためには,児童生徒のスキル,これは出し方についても受け止め方についてもです。そして,教職員の資質の向上,相談体制の充実。これが求められます。これらのことを通して,児童生徒が相談の成功体験を積む,相談して良かったなと思いを持つことがとても大切であると考えています。 その児童生徒のスキルの育成の中心となる取組として,さいたま市では「いのちの支え合い」を学ぶ授業というものを特別活動として実施しています。授業の内容構成ですが,誰にだってストレスや悩みがある。そしてそのことを相談することは恥ずかしいことではない。友達から相談されたら親身になって相談に乗ろう。深い悩みについては,信頼できる大人につなごう。そして,学校以外にも相談機関があるんだよということを必ず取り入れています。 題材名ですが,小学校5年生から中学校3年生まで,このような題材名で展開をしています。学習内容ですが,5年生は自分が悩んだときの相談の仕方,6年生は友達から相談されたときの相談の乗り方,中学校1年生はストレスの発散の仕方,中学校2年生は一番自殺予防教育の色が濃い内容になっています。自殺という言葉は使いませんが,「生きていても仕方がない」,これは誰も思うときがあるんだよ,そういう気持ちはどうしたらいいんだろうか。そういったところから展開をします。また,鬱という言葉は出しませんが,脳の中のイメージ図を使い,自分の努力や根性では乗り越えられないときもあるんだといったことを内容として扱っています。そして,中学校3年生が進路の不安への向き合い方となっています。 活動の例ですが,グループによる話合い。どこに相談したらいいだろうか。あるいは相談のロールプレイを実際にやる。また,ストレスの発散方法,呼吸法を実演したり,そんなことをしています。 また,全学年共通の指導事項としては,学校以外の相談機関の電話番号や住所が載ったものを必ず配布しています。また,友達の深い悩みやいじめに気が付いたときには,必ず信頼できる大人に相談するんだよということを強調しています。 「いのちの支え合い」を学ぶ授業の指導体制です。担任が基本で,そこに養護教諭やさわやか相談員,スクールカウンセラーがT2として参加をしています。それぞれの職種の研修会でも取り上げています。 「いのちの支え合い」を学ぶ授業を始めるに当たっての留意点。これは少し行政的な視点が入るのですが,全校で同じ質で負担感を少なくするにはどうしたらいいだろうということを考えました。工夫の1点目。教育課程への位置付けを行いました。特別活動の学級活動という時間の中で実施しています。35時間が標準時間ですので,その中での実施,あるいはプラス1時間としての実施。これは学校が選べるようにしました。工夫の2番目です。全校統一の指導案を作成しました。授業の具体的な流れ,あるいはゲストティーチャーの役割であるとか指導内容の詳細を明記しました。工夫の3点目。校務用パソコン。これは教員が1台1台持っているのですが,ここに指導案,板書ができる,拡大コピーをすればそのまま使える板書の掲示,あるいはワークシートを載せました。また,コンピュータ室で視聴できるような授業映像も整えました。工夫の4点目です。モデル校・研究指定校の設定です。平成22年度にモデル校として小学校1校,中学校1校を指定しました。教育委員会から示した指導案に,教員であるとかスクールカウンセラー,さわやか相談員が肉付けをした指導もここで作成をしました。その次の年,23年度には,研究指定校として,小学校3校,中学校3校を指定しました。ここでは授業公開を行い,各学校より悉皆研修として先生方に見ていただきました。そして,平成24年度からさいたま市の市立の小・中学校で全校実施をしています。 現在,さいたま市における「SOSの出し方に関する教育」の推進としては,「さいたま市の学校教育推進の指針・指導の努力点」という教員一人一人に配付される冊子があるのですが,そこにSOSの出し方に関する教育というものを明記しました。また,「いのちの支え合い」を学ぶ授業の拡大を考えています。 推進の指針。先ほど言いました冊子の中に載せている文言そのままです。「SOSの出し方に関する教育」あえてふにゃふにゃという文字(「~」)で「自殺予防教育」というものを入れました。なぜならば,先生方はSOSの出し方教育と聞いても,なかなかその裏に自殺予防教育があるということまではイメージが持ちにくいというところで,あえてこの言葉を入れています。教育の内容としては緑で書いてあるもの,2つ,困難やストレスへの対処法を身に付ける教育,また,心の健康保持に関する教育。そして,自殺予防の視点から,命が大事だということに偏らないようにすること,あとは小さな変化を見逃すことがないように見守り,適切な支援につなげることを配慮事項として明記しました。 また,「いのちの支え合い」を学ぶ授業の拡大としては,1年生からのプログラムを現在研究しています。題材名はごらんのように1年生から4年生までの内容となっています。 繰り返しになりますが,「SOSの出し方に関する教育」を推進するに当たっては,児童生徒のスキルの育成,そして相談体制の充実,教職員の資質の向上が必須です。これらを総合的に展開することで,児童生徒の相談の成功体験を積む,また相談したい,困ったら相談すればいいんだ,そういった思いを積むことが大切だと思います。また,年間を通して意図的・計画的に行うこともとても重要だと捉えています。
【主査】  さいたま市で小・中の全校で行われているということは大変印象深く感じた。それに当たって,資料などを配ると発表の中にあったが,教職員研修が大変だと思うが,どうですか。
【ヒアリング協力者】  地道にというのが正直なところだが,先ほど言ったようにモデル校を設定して先生方やスクールカウンセラーが作ったというところがまず源にある。あとは,指定校のを見てもらう。また先ほど言ったように,それぞれの立場の研修,生徒指導主任や教育相談主任,あるいは養護教諭の研修等で取り上げたり,スクールカウンセラー,さわやか相談員,職種の研修等で研修として位置付けてもらった。
【主査】  うまく行っているところはきっと肯定的に捉えていると思うが,先生方からの拒否的な反応というのはなかったか。
【ヒアリング協力者】  拒否的,そうですね,抵抗感というか,こういったことを本当に子供たちに取り上げる必要はあるのだろうか,あるいは取り上げていいのだろうか,いわゆる寝た子を起こすのではないかという気持ちはもちろんあった。ただ,これもやはり繰り返しだ。そういったことをテーブルに上げることは,決してそのことが危機に追い込むものではないということをいろいろな場で繰り返しメッセージを出した。
【主査】  それならば,どうして鬱病とか自殺とかを出さないと決めたのか。
【ヒアリング協力者】  対象が小学校・中学校ということで,中学校2年生の段階で果たして全員が鬱や自殺というところがしっかり理解できるか,その不安等もあった。ただ,気持ち,心の部分については,全ての子供たちが理解できるのではないか,共感できるのではないかと思うが,出さないということで展開をしている。
【委員】  「いのちの支え合い」を学ぶ授業ということでやってきたわけだが,今は「SOSの出し方教育」という言い方をしている。何か関係性というか,教育の中でどう位置付けているのか。さっきもSOSの出し方,副題に自殺予防教育となっているが,その名前を入れてきた背景を教えてもらえればと思うが。
【ヒアリング協力者】 こういった自殺予防教育ということもさいたま市の中では一切出していなかった。ただ,昨年度,大綱が出たことがいい機会だと捉えて,「いのちの支え合い」を学ぶ授業というのは,SOSの出し方に関する児童生徒のスキルを高める授業の一部という捉えで位置付けをした。これまでは,SOSの出し方ということが出ていなかったので,「いのちの支え合い」を学ぶ授業は自殺予防として大事だというように出していたが,今は「SOSの出し方に関する教育」という大きな中の「いのちの支え合い」を学ぶ授業というのがその一体であるという位置付けに文言として示したということだ。
【主査】  かなり駆け足で4名の方の発表を聞いた。ここで4名の発表全体を通じて少し議論あるいは質問を進めていきたいと思う。 新井先生の発表で,教師を対象とした研修会でははっきりと鬱病も自殺も出すという話が出てきたが,それはどのような議論から出てきたのか。また,かなり抵抗があったのを十分に説得した上で始めたのか,その辺りを教えてもらえるか。
【委員】  中学・高校というところが一番大きかったと思う。高校生の自殺の原因・動機というのを見ていると,心の病の占める比重が非常に高い。では,自殺予防ということを考えたときに,そこに触れないで自殺予防になるのか。そういう観点で鬱病を中心に取り上げることにした。学活でやるか保健の授業でやるか,これは学校に任せているが,保健体育の教員が保健の授業をどう捉えるかというのも大きいところで,先ほどいろいろな研修の中でと言ったが,生徒指導主事研修とか養護教諭の研修とか,そういう中で自殺の問題を取り上げ,高校生の段階で鬱というものが本当に大きいということで理解を頂くように進めていった。そこにスクールカウンセラーや精神科医などの専門家が入って授業づくりに協働で当たっていくということがないと,学校の中で取り上げるということに抵抗があるように思った。教育委員会,教育研修所の方から,取り組む学校に専門家を付けるような支援をしていくというやり方だ。だから,まだ兵庫県全体にまでは広がってないというところに限界はあるかもしれない。
【委員】   鬱だとか精神的な病のことについて触れるのは,子供たちの発達段階,これが大きく影響していると思う。だから,高校生でとおっしゃったと思う。義務教育から高等学校に移るに当たって入試があり,途切れるというか。つまり,埼玉県でいえば県立高校は全県1区だから,いろいろな市町村から入ってくる。そうすると,入ってきたお子さんが高校に来たときには,小・中学校で下地となる学習をしているお子さんと全くしていないお子さんが混在している可能性があると思う。その辺はどう捉えてやっていこうと考えているのか,教えてもらいたい。
【委員】  中学生も女子は鬱というのが原因として4番目か5番目に出てくる。だから,心理的視野狭窄というものをテーマに置きながら,心の危機に陥ってどんな心理状態になってどんなことが出てくるのかというところで,鬱という言葉は出していないが,鬱的な状態になったときの感情とか思考とか行動とか,そういうことには中学校のときにも触れている。そこで鬱という言葉を出すかどうかということも議論したが,先生たちが行うときに,中学生に鬱という言葉を出すのは難しい。だから,心の危機に陥ったときにどんな心理になるのかということで,鬱的なものについての理解を中学生レベルでもできるようにしていこうということで,中学校の3ステップ目に入れている。
【主査】  逆に,さいたまで高校生を扱わないというのが発表を聞いていて疑問だったが,それはどのような根拠ですか。
【委員】  先ほど申し上げたが,さいたま市立の高等学校が4校。学校を管理しているのは,さいたま市立についてはさいたま市の教育委員会になると思うが,そうするとさいたま市の市立高等学校の約半分はさいたま市出身のお子さんで,小学校・中学校と「いのちの支え合い」を学ぶ授業とか,人間関係プログラムをやってきている。ところが,半分のお子さんは全く他の市町村だから,そういう教育を何もやっていないで高校に入ってくる。そこで同じようなプログラムで果たしてできるのかどうかという不安があった。あとは,高等学校という特殊性で取り組むのはなかなか厳しいところもあった。
【主査】  その点は理解できるが,むしろハイリスクの人の数からいったら圧倒的に小学校よりも高校のほうが多い。小・中で止めているというのは,管轄が違うというだけの理由か。
【委員】  先ほど下地が大切というのが皆さん全ての発表であったと思うが,高等学校には下地となる教育を受けてない可能性のお子さんもたくさんいる。つまり,高校に入ってきたときに全く違う教育課程で来ているから,その辺をどう捉えて,それが果たしてリスク的に大丈夫なのかどうかというのを心配した。それで先ほど,一度途切れて下地の教育を全くやっていない市町村のお子さんと,しっかりとそういった学習をしているお子さんが混在している学校において,どのように考えているのかと質問させてもらった。
【委員】  だから,連続性はあるけれども,もう一回STEP1,STEP3と,高校版でやっていくわけだ。だから,全部違う状況で来ているが,3ステップの中のSTEP1で,ある程度下地的なものを作って最後に心の病まで持っていく。そのように考えている。
【主査】  下地と言ったら,5年目にならないと全部授業を受けた子が高校3年生にならないことになる。
【委員】  その辺がこれからの課題で,どうしていこうかなというところの一つだ。ということは,高校の1年生からもう一度振出しというか,最初から積み上げてやっていくということか。
【委員】  そうだ。
【委員】  それを参考にしてみる。
【主査】  次の議題に移ります。自殺予防教育とSOSの出し方に関する教育の整理について。 事務局から説明してください。

※事務局より自殺予防教育とSOSの出し方教育の整理について説明があった。
【主査】   事務局から自殺予防教育とSOSの出し方に関する教育の整理をしてもらった。この点について,意見はありませんか。 背景として,自殺対策基本法の大綱が改定になった。そこで青少年に対してSOSの出し方教育をするようにと書かれている。実際にSOSの出し方教育とは何か,それは効果があるのか,そういうことが分からないまま突然上から降ってきたというので,文科省も少し戸惑っているというのが現実だと思う。私もこの整理を見て,確かにSOSの教育というのは重要だろうと思う。問題に早く気付いて,気付いたら一人で抱え込まないで誰かにきちんと助けを求めなさいというのは,心の健康の基盤にはなるだろう。ただ,それを1時間生徒に対して話して,それがどの程度自殺予防につながるのかというのは非常に疑問だ。その先のものがなくて,本当に危ない子を見付けて予防につなげられるのかなと感じるが,その辺りはどうか。
【委員】  何点か気になるところがある。援助希求的態度とSOSの出し方というのは重なると思うが,心の危機理解という観点については,自他の心の危機理解として文科省が取り組んできた取組に比べると弱いと思う。それから,学校ということを考えたときに,外部講師の活用はとても大事だと思うが,全て外部講師がやる,あるいは教員は授業の進行をやるとあって,教員が授業をやるとは書いてない点が気になる。教員の仕事は授業をすることで,どんな授業をするのか,もちろん学習指導要領やモデルがあってやっていくにしても,そこでいろいろな考えが出てきて,子供たちとの関わり等が生まれてくる。保健師さんは授業をしてもそれで帰った後,来ないかもしれない。でも,日常的に教員が子供の前にいて,子供が危機に陥ったときにSOSを出す。それに気付く,受け止める,どう対応するかということを考えたときに,やはり私は教員が,TTであれ,チームで作るにせよ,授業者の一翼を担うというのが学校のあるべき姿ではないかと思う。そうすることによって,子供の危機に向き合えるようになるのではないか。だから,時間が掛かるが,教員研修をやって,生徒の心の叫びを受け止めていくという姿勢が教員のなかで根づかないと,SOSを出しなさい,出したら終わりというようなことになりかねないのではないかという懸念はある。
【委員】  全く同じことを思う。授業自体はこういう形で1回で取り組めるということがあると思うが,基本的に大事なのは,そこで子供たちの危機をどれだけ見極める目を周りの大人が持てるかという点だ。そこに関しては,このプログラムでは非常に危険な気がする。 先ほどの4つの紹介で強調されていたのは,教員研修のところにどれだけ力をかけて合意形成をはかるかの部分だと思うが,その部分が十分でなくて,1回のプログラムが全ての子供に届いたとしても,本来伝えたいメッセージが十分届くとも考えられないし,教員が受け止められないという点で危険だと思った。 もう一つ言うと,自尊感情を涵養するということが目的に上がっているが,自尊感情は1回の授業で涵養(かんよう)できるものではない。そういう意味で下地づくりの教育の強調というのが文科省の取組の中にあって,それぞれ取組はいろいろな形があるが,その上にこれが成り立っている。自尊感情の涵養が重要なのはそのとおりだが,それが1回の授業の中で,しかも外部からやってきた人のメッセージとして子供たちに定着するのかというと,やはり日常生活する子供の環境が整わないと難しいという点で,プログラムそのものの中身はほとんど変わらないと思うが,前後の部分の重要性の認識というところが決定的に違うと感じた。
【委員】  自殺予防教育の広がりがない,という声を聞くこともあるが, SOSを発した子供を救うためには,関係者間の合意形成,教職員研修や保護者への啓発が必要だ。ある市では,教員が講師として,自殺予防の正しい理解と知識を保護者や地域の人に伝えるような試みを進めようとしている。そのような取り組みによって,保護者と先生方のきずなもでき,自殺予防の理解も深まる。完璧は難しいが,3つの前提条件に留意せずに,自殺予防教育を実施することには懸念がある。
【委員】  子供の側からのことだが,深刻な悩みを抱えている子供たちに,今までもカードを配ったり,パンフレットがあってこういう相談窓口がありますから相談しましょうというような一時的な働き掛けというのは幾らでもあるが,それを見たからといって,そういうところがあると知ったからといって,子供が相談しているかというと相談はしていない。子供にしてみると,この苦しみを語っていいのかどうかということが,そこに信頼関係がないところでは幾らSOSの出し方というのを技術的に聞いても出していいと思えないと思う。そういう意味で,下地を作るという,子供が大人を信頼してもいいんだというところが物すごく大事で,そしてその後,子供が出した後に受け止められるかどうか,そこがすごく大事だ。出し方のノウハウの問題よりも,前と後の部分が本当に大事だ。そうでないと子供は救われないだろうと思った。 なので,その下地を作るために教員研修をし,合意形成し,かつフォローをするために先生たちが自分で授業をして見つめる努力をしていく。ここの部分抜きにSOSの出し方というところだけの技術のノウハウを教えるというのは,ちっとも子供たちを救うことにならないだろうと思った。
【主査】   一番心配しているのは,SOSの出し方教育をしろと大綱から下りてきた。文科省が資料を作った。全国で十分な職員研修もしないうちに一律にやり始めるというと,これはむしろ混乱をきたすのではないかという気はする。
【委員】  資料の中に,中学生が授業後,振り返りのアンケートの中で「助けを求めていいんだと思いました」と記入していたが,すごく素直な気持ちを表していると思う。授業後,一人でも多くこのような気持ちになるよう,丁寧に下地教育をしていくことが大事だということを感じることができた。そのためにも職員研修の充実がとても大事であると思っている。学校では児童生徒が登校するときから帰るまでの間,健康観察ということをしている。その中にただ腹が痛い頭が痛いという身体症状だけではなくて,特に中・高校生では精神疾患の症状というか,メンタルヘルスに関する項目も加えた観察をするということを研修で指導することが啓発にもつながると思う。SOSの出し方教育も大切であるが,気づきの感度を高めるための教職員研修や今までにも文部科学省から示されている下地教育の充実が大切であるように思う。
【主査】  次回だが,実際にSOSの出し方教育をしている足立区の関係者や北海道教育大学の先生を呼んで,きっと我々と同じような疑問を持ちながら一応SOSの出し方教育で大体60分以下,40分とか45分でしているというような経験を話してもらい,今日出た質問,我々の疑問を率直にぶつけてみたらどうかと思う。
【委員】  足立区モデルはかなり特殊だと思う。私の認識が正しければ,足立区はやはりいろいろ課題を抱えている区なので,保健師さんが学校も含めてかなりこういうメンタルヘルスとかに食い込んでいるという特殊な事情が背景にあるのではないかと思う。保健師さんが外部講師として学校でやるというというのは,それが定着しているところというのは全国を見て極めてまれだと思う。教育委員会と部局が違うということもある。なので,多分これは足立区の独特の,学校で何かあると保健師さんが飛んでいけるぐらいの関係があるとかそういうことからすると,これはモデルになるのか。このように外部講師として保健師さんが来てやるということができるところは非常に限られているのではないかという気もするので,その辺りの背景も気になる。
【主査】  モデルとしては東京都で作ったモデルだろう。窪田委員の指摘のとおり,例えば,生活保護受給者の率が都内で一番高いとかいろいろな問題があるところなので,むしろ苦労があるところだからこそ進んだという点もあると思われる。話は聞いてもいいような気がするが。もっと平均的なところがよいだろうか。
【委員】  いや,そういう意味ではなく,その辺りの共通認識は要るなと思ったので,意味がないと言っているわけではないが,これがモデルとして保健師がやりますという形が下りると,もしかするとなかなかそうはいかないところが多いのではないかと思った。むしろ御苦労とかを聞きたい。
【委員】  今見ている整理表という資料の作り方の基のところを知りたいが,参考資料ということを最後に明記している。「SOSの出し方に関する教育:全国展開に向けての3つの実践モデル」という表記があるが,ここで取り上げている3つのモデルというのは,この文章『自殺総合政策研究第1巻第1号』に収められている資料にモデルが3つ書いてあって,その3つのモデルが足立区,東京都,北海道教育大学モデルという意味か。その理解でよいか。
【事務局】  そのとおりだ。文科省でネーミングしたものではなく,そのままを書いた。
【委員】  そうすると,ここで「モデル」という命名が付いている。「モデル」という名前を付けているのは,この論文が名称を付けているという理解でよいか。
【事務局】  そういう理解でよい。
【委員】  では,こういうものをまとめた方々が名前を付けた一つのモデルということですね。
【主査】  一応今日の議論はここで終わりにして,今後の会議の進め方について,事務局から説明します。
【事務局】  次回の会議の進め方等については,本日委員の皆様の意見を踏まえて,議論の内容を整理して示したい。また,SOSの出し方に関する教育について,有識者にヒアリングという形を次回第3回では考えたい。話が出た足立区の関係者と,北海道教育大学とかそういったところに声を掛けてみて,ヒアリングに来てもらう方向で進めたいと考えている。なお,第3回会議は,既に案内をしているとおり,2月18日月曜日15時から17時に開催したい。
【主査】  今日発表してくださった4名の皆さん,時間が足りなくてせかして申し訳ありませんでした。では,以上をもって,今年度の第2回の会議を閉会とする。会議の進行に御協力いただき,どうもありがとう。

―― 了 ――

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