児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成25年度)(第4回) 議事要旨

1.日時

平成25年11月14日(木曜日) 14時30分~16時30分

2.場所

文部科学省東館5階 5F4会議室

3.議題

  1. 児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

 新井委員、市川委員、荊尾委員、川井委員、窪田委員、阪中委員、高橋委員、坪井委員

文部科学省

 白間児童生徒課長、池田生徒指導室長、鈴木生徒指導調査官 他

5.議事要旨

(1)議事に先立ち、事務局より配布資料及び検討課題についての説明が行われた。

(2)議事に従い、委員による討議が行われた。

(1)配付資料及び検討課題についての説明

【事務局】
 今日の検討課題は、前回に引き続き、背景調査の指針の見直しである。いじめ防止対策推進法を踏まえた見直しということで、いじめ防止対策推進法といじめ防止基本方針をまとめたものを資料1として配布している。資料2は、指針に関する委員の御指摘事項をまとめたもの、資料3は、前回の議事要旨である。

【委員】
 今日の審議では、前回の審議に引き続き、平成23年3月に本会議で取りまとめた、「子どもの自殺が起きたときの調査の指針」について協議していく。今年9月のいじめ防止対策推進法の施行を受けて10月に取りまとめられたいじめ防止基本方針において、重大事態の詳細な指針の作成が提言されており、背景調査の指針はこれに該当する。まず、事務局から、いじめ防止基本方針の概要を説明していただきたい。

【事務局】
 いじめ防止基本方針のうち、背景調査の指針と関係するところについて説明させていただく。
 いじめ防止対策推進法では、いじめを背景とする重大事態が発生した際には、学校若しくは学校の設置者が調査をしなければならないと定められている。重大事態の一つは、いじめにより児童等の生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるときとされており、このことから、いじめを背景として自殺若しくは自殺未遂が発生したときには調査をすることになる。また、基本方針では、児童等や保護者から重大事態に至ったという申し立てがあったときも調査するということになっている。
 重大事態が発生したときの手順についても基本方針の中である程度議論されており、学校は、重大事態が発生したときには、学校の設置者に対し発生報告をしなければならないとされている。報告を受けた学校の設置者は、学校若しくは学校の設置者のどちらが調査をするかを判断する。その後、外部の専門家を活用した調査組織を設置し調査をすることになるが、この調査は事実関係を明確にするための調査であり、因果関係等についてはその後としている。さらに、調査の内容については、途中経過や結果について、いじめを受けた児童等とその保護者に対し適切に報告をするということになっている。
 調査結果については、背景調査の指針では、遺族若しくは学校の児童等やその保護者へ報告するということで終わっていたが、いじめ防止対策推進法では、調査結果を地方公共団体の長に報告することとされた。その際、希望があればいじめを受けた児童等や保護者の所見も報告書に添付することができる。
 報告を受けた地方公共団体の長は、報告書を精査し、再調査すべきか否かを判断し、再調査が必要な場合は、学校や学校の設置者とは別の、地方公共団体の長の下の組織が行うことになる。
 この調査の趣旨は、学校と学校の設置者が事実に向き合うことで、当該事態への対処や同種の事態の発生防止を図ることである。これは背景調査の指針にも即しているが、この調査は責任追及、例えば訴訟等の対応を直接目的とするものではない。また、因果関係の特定を急ぐべきではなく、まずは事実関係を客観的に速やかに調査すべきということを、基本方針では明確に打ち出している。
 背景調査の指針の見直しでも議論になった調査の主体については、法律ではっきりと学校又はその学校の設置者が行うことが義務付けられた。また、基本方針でも、例えば従前の経緯や事案の特性等を踏まえ、学校主体の調査では、重大事態への対処及び同種の事態の発生の防止に必ずしも十分な結果を得られないと学校の設置者が判断する場合や、学校の教育活動に支障が生じるおそれがあるような場合には、学校の設置者において調査を実施するとしている。
 この法律では、いじめのための調査機関の設置が義務付けられたり推奨されていたりするが、学校の場合は、いじめの防止等のための組織を日常から設置することが義務化されており、いじめ防止基本方針では、この組織が重大事態の調査のための組織にもなり得る、若しくはそういった形で事前に準備しておくことが望ましいとしている。教育委員会については、教育委員会の附属機関を作ることが可能とされているので、この機関が調査組織として対応することが望ましいとしている。
 この組織の構成に関しては、職能団体や大学、学会の推薦によって、弁護士や精神科医、学識経験者、心理や福祉の専門家等の専門的知識及び経験を有する者であって、当該いじめ事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者の参加を図ることにより、公平性・中立性を確保するとしている。ここは、従来の指針とは少し表現ぶりが異なっている。
 情報の提供についても課題になっていたが、基本方針では、学校又は学校の設置者は、情報提供について一定の責任があるとし、前もって情報提供を前提とした調査の措置が必要であるとしている。
 その他、学校や教育委員会が調査することを是としない遺族等の意向を踏まえ、法の立て付けとは別に、地方公共団体自身が自殺の背景調査をすることについて禁じているわけではないが、法律では必ず学校や学校の設置者が調査をすることになっているので、並行して調査を行うことも想定される。その場合は調査が重複するので、特に周りの子供のケアを考えながら調査を行うということが重要だとしている。

【委員】
 続いて、いじめ防止基本方針策定協議会の委員でもあった委員から補足をいただき、議論に入りたい。

【委員】
 概略については今説明があったとおりなので、私自身の考えをお話する。
 いじめ防止基本方針で求められる重大事態への対応は、背景にいじめがあるものという限定がかかっているが、自殺あるいは自殺未遂が起きたときに、背景に何があるかというのはその時点では分からない。したがって、まずは起きた事案の背景調査を進め、事実関係の認定の中でいじめがあったということになれば、いじめの調査機関でそのまま継続して事実を明らかにしていくという動きになると思う。
 その一方で、いじめがどうも背景にないという状況になったときはどうするか。例えば、遺族がそれでも調査を継続してほしいと言えば、それは重大事態に当たるのでそのまま調査は継続されると思うが、いじめではないようだが、自殺の背景について学校あるいは教育委員会として真相を究明したいとした考えたときに、遺族の意向も踏まえてどう動くのか、ということがはっきりしていない。
 重大事態への対処の仕方は、我々が作った指針とおおむねは同じだが、かなり違うところもいくつか出てきている。一つは、調査の後必ず地方公共団体の首長に報告をし、報告を受けた首長が再調査の必要性を判断するということ。その結果再調査となった場合には、再調査は改めて別立ての組織で行われていくので、周辺の子供の負担は相当大きくなると思う。ただ、調査の精度を高めるという意味では、再調査は一つの担保の条件になるのかもしれない。
 一つ懸念するのは、遺族が納得をするというのは非常に難しいということ。首長に対して報告をするとき、希望があれば遺族の意見書をつけても良いとしているので、遺族がこの報告では納得できないというような意見書をつけた場合には、再調査をやる可能性が非常に高くなるだろう。遺族の意向を尊重しているのだが、希望によって意見書がつけられるということになったので、再調査の可能性が少なからずあることを想定して調査をやる必要があるだろうと思っている。
 それから、報告をまとめていく中で適切に情報提供する責任があるということが明記さたので、これを進めなくてはいけない。現在の指針では、アンケ-トの信憑性について、伝聞情報など色々な可能性があるので慎重に扱わなければいけない、生のデ-タをそのまま渡すということは想定しない、といった方向で考えてきた。しかし今回は、アンケ-トについても、保護者に提供する場合が比率として非常に高いという想定のもとに実施していくとされたので、もう一度、アンケ-トの取り方や留意点等を考えなければいけないと思っている。
 最後に、組織の構成がなかなか難しい。背景調査の主体としては、学校あるいは設置者とされているが、遺族の希望があれば、並行して地方公共団体の別立ての組織を走らせることも可能とされている。我々が指針を作ってから色々なところで背景調査が行われてきたが、委員の選任・構成をどうするかがスム-ズに行かないところもあった。それも踏まえて、基本方針では、職能団体、大学、学会等の推薦によってメンバ-を構成していくこととし、公平性・中立性の担保ということを明記している。我々はこれをより具体的にしていかなければならないと考えている。

(2)委員による討議

1.いじめ防止対策推進法及びいじめ防止基本方針に関する討議

【委員】
 それでは、事務局と委員の説明について、質問などあれば発言いただきたい。

【委員】
 説明の内容についてはよく分かったが、今後この会議で検討すべき事項と、いじめ防止対策推進法の関係でこれから更に進めることがあるのかを教えていただきたい。特に、これからガイドラインの設定などしていくのであれば、この会議の指針とどういう関係になるのか、時期的にもどうなるのか教えてほしい。

【事務局】
 基本方針はいったんこれで完成している。基本方針の中で、調査の仕方や調査の主体、情報提供の仕方など、重大事態の調査に関する様々な課題に対する細かな指針を打ち出していくよう提言されているが、そのうちの自殺の背景調査の部分については、まさに今御議論頂いている指針の見直しが合致する。事務局としては、平成23年3月の指針について、いじめ防止基本方針を踏まえて必要な修正を加えたたたき台のようなものを作り、それについて御議論いただいてはどうかと考えている。今日はその前段階として、先生方から御議論を頂きたい。

【委員】
 ここで議論されるのは、いじめ防止対策推進法の重大事態の中の、自殺の部分についての指針であって、不登校の場合の指針はまた別に作られるということか。

【事務局】
 そうである。

【委員】
 すると、我々はどこの組織を考えたら良いのか。

【事務局】
 学校若しくは学校の設置者が調査組織を立てるので、この調査組織について考えて頂きたい。自殺の背景調査の指針と基本的には考え方は同じだが、いじめの部分だけは法律で調査が義務付けられているので、その部分をどう考えるか。
 それから、先ほど委員がおっしゃったように、いじめが原因ではない自殺もあり、その場合の兼ね合いをどうするかという観点がある。例えば、最初からいじめ防止対策推進法に沿って調査をするのか、若しくは自殺のガイドラインを基本に調査をし、途中でいじめがわかればいじめ防止対策推進法における重大事案として調査をしていくのか、そういったことを考えていただきたい。

【委員】
 常設の附属機関の構成メンバ-はではなく、重大事態のうち、自殺が起きたときの調査委員会の構成メンバ-をこの会議で考える、ということか。つまり、法律で定められている14条3項の附属機関の構成メンバ-がどうであるかということは、この会議と直接は連動しないということで良いのか。

【事務局】
 そこは少し難しい。基本方針では、教育委員会や学校で常設するいじめの防止等のための組織はこの重大事態の調査組織と連動するのが望ましいとしている。つまり、重大事態が発生してから委員を選ぶのは大変なので、現在の背景調査の指針でも述べているように、従前からそういった調査委員会を設置しておいた方が良いという方向で考えている。
 ただ、重大事態を調査するときは、公平性・中立性を担保する必要があるので、そこを考慮しながら調査組織の構成を考えなければならないと考える。

【委員】
 我々が作った指針では、基本的に学校や教育委員会が背景調査をする必要があるというふうに認識した場合や、遺族から要望があったときには調査をするという方針だった。そしてその際は、メンバ-の専門性や中立性が必要だとしている。いじめ防止基本方針も、基本的にはそれを否定しているわけではないが、今までの現実の対応を見ると、事案が起きてからメンバ-を集めるのでは、なかなか遺族の了解を得ることが難しいという側面がある。だから、教育委員会に置かれる附属機関が調査の主体になることが望ましいという書き方になっている。ということは、この附属機関というのは、いじめの問題にも対応するし、もしも自殺が起きた場合にはそれにも対応できることが望ましい。
 となると、自殺の背景調査のことを想定した場合には、この附属機関にこういうメンバ-がいる方が望ましいといったことを、前よりもある程度明確にして指針として示す。それを受けて附属機関にそういうメンバ-を入れていく、という流れになるのではないかと思っているが、そういったことでよろしいのか。

【委員】
 基本的な疑問として、自殺というのはいじめだけで説明のつくものではなく、いろいろな要因からなる複雑な問題だということを、この会議ではずっと言ってきた。いじめ防止基本方針策定協議会では、そのことについてどう言われていたのか。

【事務局】
 重大事態の調査、中でも特に自殺の部分に関しては、この協力者会議と連動するよう基本方針でも書かれているが、複合要因ということについては、明確には書かれていない。

【委員】
 例えば、組織の構成について、「当該調査の公平性・中立性を確保するよう努める」と書いてあるが、公平性・中立性の判断を最終的に行う主体はどこになるのか。

【事務局】
 重大事態が発生した場合には、学校の設置者又は学校の下に組織を設けることとされているので、一義的には学校若しくは学校の設置者になると思う。
 しかし、それについてはまさに議論があり、これまでの事例でも、遺族の名指しに近い形で委員が選ばれたり、逆に、教育委員会に近しい方が委員に選ばれるといったこともあったので、職能団体からの推薦という発想はそういうところから出てきたものである。

【委員】
 この委員会で作った指針でも問題になったが、この法律では徹底的にその背景を調査するという部分が保証されているのか。というのは、今までの背景調査を見ると、どちらかというと調停的で、存在した可能性のある精神障害や家庭の要因といったものにはあえて触れられないものが多かったが、今回の基本方針では、そういうことも全て明らかにしようとしているのか。

【事務局】
 いじめがどのように行われたかについて事実関係を明確にすることされているので、どちらかというと、学校で何が起きたかということが重要なポイントとされている。

【委員】
 この委員会が作ってきた指針は、あくまでも自殺予防に資するために、自殺が起きた背景に何があるのかということを明確に捉えていくためのものだ。したがって、学校要因が出てくる場合もあるが、それ以外にも色々なものが絡み、複合的な背景の中で自殺が起きるということを基盤にしながら、背景調査の結果、どのような因果関係があるかというところまで踏み込んでまとめていくという作りになっている。しかし、このいじめの基本方針の中では、因果関係まではあまり踏み込まない、つまり、いじめがあったかなかったかというところを明らかにしていくということで、その後の自殺予防に資するという意味での我々の調査とは少し趣が違うところがある。だから、それをどこで終わりにするのかといったときに、いじめがあった、自殺もあったというところで終わりという場合もあり得る。しかし、この会議が目指しているのは、そこにどういう因果関係があったのか、あるいはそれ以外のものがどう絡んでいたのか、その子供の成育歴とか、心のひだまで見て、わかるところを明らかにしていこうということで来ているので、そこをうまく接合しないと、我々の委員会が目指している背景調査と少し違うものになってしまうかもしれない。我々の背景調査が目指しているものと、いじめの基本方針で言われている部分がここまでだということを明確にしておかないと、子どもの自殺をなくすために背景調査をやっていこうという目的が薄れてしまうのではないかという懸念はある。

【事務局】
 そもそもこの法律が、いじめによる自殺を強く想定しているので、どうしてもそこに引きずられて解釈しなければならない部分があると思う。それから、重大事態の調査については不登校の問題も想定されている。不登校は、数としては自殺以上に多くなると思うので、自殺と不登校を全く同じように調査するのかという問題もあったことを補足したい。そういった点を勘案された上で、自殺の部分について御議論頂ければと思う。

【委員】
 警察庁の調査では、自殺の原因にいじめがあるのは1.9%である。もちろんその1.9%や、いじめの撲滅に向けては本当に取り組む必要があると思っているが、それだけをやっていて本当に子どもの自殺を減らすことができるのかは大変疑問であるし、この調査結果だけが上がって、自殺が複合的な要因で起こるということがより後ろにいき、いじめと自殺がより結び付くようになるのはどうかと思う。
 警察庁の調査では、心の病の部分は2割ぐらいあるが、そうした部分には触れにくい現実があると思うし、いじめがあると遺族が言うので調査した結果、家庭要因や個人要因が浮かび上がってきて、もう調査をやめてほしいと言われた場合、どうなるのかという懸念も少し感じた。

【委員】
 いじめが重大事態に結び付いているというところから考えていく流れと、起こった自殺の背景に何があるかという流れの違いだと思うが、ここで言ういじめに関する事実関係を明らかにするということは、子どもの自殺に関することのごく一部のところの事実関係を明らかにしようとしているだけだという位置付けを明確にして、その包含関係が明確になるような形が示されないと、今まで以上に子どもの自殺イコ-ルいじめというところだけに目が当たってしまう危険が強いのではないかと思う。

【委員】
 この委員会でしなければいけないことというのは、数年前に出た背景調査の指針を現実に使ってみて、いろいろな点で問題が出てきたと、それを淡々と直していくということでいいのではないか。あえていじめとの関係を強調するのはなぜなのか。

【事務局】
 端的に申し上げれば、重大事態については、学校と教育委員会に調査の義務が法定化されたので、背景調査を進めて頂く中で、いじめが原因のものについては、法律の要件を一つ一つ満たしていかなければ、せっかく調査をしても法令違反になってしまう。そこで、いじめ防止対策推進法にも対応できる見直しをお願いしたいというのが趣旨である。
 例えば、組織を作って調査しなければならないとか、発生時に首長に報告しなければならないといった要件が入ってくるので、その点を加味していただきたい。その中身、つまり、調査を具体的にどのようにどういう観点から進めるかというのは、法律には何も書いていないので、その点を加味して検討していただきたいということである。

【委員】
 おっしゃることはわかるが、現実にどういう組織を考えているのか。教育委員会の附属機関としての常設の機関は、法律に基づいて作ることが望ましいとされ、重大事件が起きたときには、調査委員会を作らなければならないとされているので、この法律の仕組みとしては常設の附属機関をそのまま使うことを想定している。そこで、その調査機関がここで作る背景調査の指針を利用できるようにして、それが法定要件を満たすようにしてほしいということか。

【事務局】
 そうである。

【委員】
 では、いじめが背景でない自殺の背景調査をするのは、常設の附属機関として存在する重大事案の調査チ-ムなのか、それとも自殺の背景調査のチ-ムを別にまた作るということになるのか。しかし現実問題として、わざわざ別ということは考えられない。そうすると、いじめの調査のために作られるチ-ムというのが、いじめとは全然関係のない自殺についても調査ができるチ-ムでなければならなくなってしまう。

【委員】
 それは前回も議論していた点で、まだはっきりしていないと思う。例えば、いちいちメンバ-を募るというわけにはいかないし、市の単位では無理だろう。だから、県単位くらいで、もし何かあったときにそこからチ-ムに加わってくれる人のリストを作っておこうとか、県の単位でも可能なところと可能ではないところがあるというような話も出ていた。
 ところで、いじめの調査について、弁護士、精神科医、学識経験者、心理や福祉の専門家をメンバ-に加えるとのことだったが、常設で作っておいても、いざ動こうとするときに都合が悪くて行けないなどとなって、結局プ-ルしていた常設の委員会以外のところから選ばなくてはいけないということも現実にはあり得るのではないかと思っている。
 また、本当にこれで中立性が担保されるのか。学会や大学からは推薦された人をある程度メンバ-にしておくというので、全くないところから選ぶよりはいいかもしれないが、私は少し疑問を感じる。

【委員】
 もちろんそれはあるが、メンバ-を想定するのは、この法律に基づいて教育委員会や学校がやらなければいけない義務になっているので、この委員会がもっとこうした方がいいと意見を言うことはできるにしても、恐らく制度を作る際には、この委員会の意見ではなく、法律に基づいて作られることになる。だから、こちらは、法律に基づいて作られたチ-ムが背景調査を行う可能性も現実にあるということを前提に考えなければいけないのではないか。では、調査の対象がいじめの場合はいじめの事実確認まで、それ以外の自殺の場合は因果関係まで、のように、同じチ-ムが事案によって違う調査をするというような仕分をするのか。事案によってメンバ-を変えるという話にはならないと思うので、調査の対象が違うということなのではないか。

【事務局】
 対象を明確に切り分けられればそうかもしれないが、現実に起こっていることは、一人の子供の自殺なので、実際に切り分けることは非常に難しいのではないか。

【委員】
 基本方針を見る限り、学校での人間関係の問題の事実関係だけを見れば良いように読める。そういう意味では、成育歴とか家庭の問題に関しては、少なくともこの法律に基づく調査では見なくていいというふうに読めてしまうのではないか。

【委員】
 読めるけれども、それでいいのかという議論が基本方針を作る時にあった。だから、そこについてはこの委員会で考えることになっていると私は理解している。つまり、基本方針で調査の仕方から何から全部決めていくというやり方も当然あるわけだが、こことの整合性も必要だし、あるいは、いじめの事実だけで終わってしまっていいのかという議論もあったので、ここへ持ち込まれた。ここで包含するような形で考えて、いじめの法案にも対応できるように指針の見直しをしてほしいという意向だと私は思っている。
 そのことは、我々が、いじめ防止対策推進法とは別に指針の見直しを始めたのと大きくは変わっていないと思う。ただ、法律ができたことによって制約を受ける可能性がある。今委員がおっしゃったように、もう一個別に組織を作るなどというのは現実問題としてはとても無理だ。では、いじめのための組織が自殺の背景調査をし、いじめがないから終わりだとして良いのか。それでは自殺予防というところにつながらないので、そこをどうやってもう少し進めていくかを考えていくとかということを考えていくのではないか。

【委員】
 明らかにいじめではない、でも、自殺があったというときの背景調査も同じチ-ムが行うということを前提として考えていくということか。しかしそちらの方が本来事案としてはきっと多いので、そこに集う人は、いじめによる自殺の調査よりは、正直言って、自殺の背景調査の方が件数としては多くなってしまうと思うが、そういったことは想定しているのか。

【事務局】
 それもあると思う。14条3項の教育委員会の附属機関が何をするかについては、法律に何も書いていない。各教育委員会の話などを聞くと、様々な相談窓口になるとか、基本的には自殺だけを調査するような組織にしようと言っているところもあるので、法律に基づくものは「いじめにより」と書いてあるが、自殺全般について、その組織を使ってやっていこうという想定をしている県も実際にはある。その附属機関の作り方や任務の持たせ方によって変わってくるというのが実際のところ。

【委員】
 基本方針28ペ-ジの5の、事実関係を明確にするための調査の実施という項目の中で、「因果関係の特定を急ぐべきではなく、客観的な事実関係を速やかに調査すべきである」と書かれているのは、調査では因果関係の特定をしないということなのか、急がないけれどもゆっくり特定してくださいということなのか。この基本方針が調査の目的をどのように考えているのかというのをもう少し正確に理解しておきたいので、御教示いただきたい。

【委員】
 因果関係の特定を急ぐべきではないというのは、恐らく今までのいろいろな事案の流れの中で出てきたものであると思う。
 例えばいじめがあるかないかということまず淡々と調べて事実を上げる。その前に、この自殺はこういうものであるというのを即断して出すことは良くないという意味だと私は思っている。だから、因果関係を探ることをしてはいけないとか、するべきではないということではないが、ともかくいじめに関しての事実を明らかにした上で、因果関係を見ていくとしたらじっくり時間をかけてやるしかないですよ、ということだと思っている。

【事務局】
 基本方針の30ペ-ジに、客観的な事実関係の調査を迅速に進めることが必要であり、それらの事実の影響についての分析評価については、専門的知識及び経験を有する者の援助を求めることが必要であることに留意する、ということが書いてある。
 議論の中で、結局、いじめの部分に関しては、教育委員会や学校、メディアも含めて、拙速に因果関係を求めがちな傾向があり、どうしても学校や教育委員会が、因果関係の方だけに重きを置いて早めに調査したり、調査もできていないのに発言をしたりといった事実があると指摘されたので、因果関係は次の段階という提言が出てきたという経緯がある。

【委員】
 今までに、いわゆる指針に基づいた背景調査として報告が上がっているもので、我々がずっと議論してきたように、複合的に幅広い要因の中で起こってきているという結論が上がってきているものはどのくらいあるのか。それともほとんどがいじめの問題になってしまっているのか、そのあたりの感触を伺いたい。

【事務局】
 正直言って、こちらで把握している自殺事案の中で背景調査が実際に行われている数はそんなに多くない。わずか十数件の単位なので、中にはいじめと思われるものも確かにあり、母数があまりにも少ないので、自殺全体の割合よりはいじめが多いというのは実態である。しかし、いじめではないという報告も当然出ているし、いじめがあったとしても、因果関係があるかどうかというのはまた別の話である。それから、背景調査をしても原因がわからないという報告もかなりの数あった。

【委員】
 実際に第三者委員会の報告書を読んだり、教育委員会からヒアリングをしたりしたところでは、いじめはあった、しかし自殺との因果関係はわからないというものが結構多かったような気がする。しかし、例えば10人の子どもがいて、9人まではその程度のいじめは耐えられるのに、その亡くなった子どもが耐えられなかったとすると、個体側の要因というのはあるはずなのに、それに触れられていない。明らかに精神障害を発症していたとか、そういうことについてはまず触れられていない。本来、予防について考えるならば、そういったファクタ-を早い段階で見つけ出して、適切な手を打つことで予防につながるはずなのだが、えてしていじめがあったかなかったというところで止まっているのが現実だったように記憶している。

【委員】
 最初からいじめに特化したわけではない背景調査の報告書ですら、いろいろな社会的な状況も含めてそのような形になっているのに、こういう形でいじめに関する事実確認というのが法律で明確になってしまうと、ますます背景調査の在り方が、本来目的としていたものとは違う方向に行くだろうなという認識を改めて強くしている。

2.今後の会議の進め方について

【委員】
 次のステップとして何をすべきか。今日の議論に基づいて背景調査の指針をもう一度見直すということだろうが、全体の会議でやるのか、ワ-キンググル-プでやるのか。

【事務局】
 もちろん最終的には全体会議で議論しなければならない重大な話だが、これまでの議論の中で、いろいろ課題があるというのは認識頂いていると思うので、修正素案を作ってみて、そこから議論を始めていただくのが良いかと思う。そこを短期集中型で、メンバ-を凝縮するのか、それとも全体でするのかというところかと思う。

【委員】
 いかがだろうか。全体会議で続けていくか、あるいはワ-キンググル-プを作ってまとめてから全体会議に出してもらう方が良いのか。
 このほかに、子どもを直接対象とした自殺予防教育についての資料について少し進めなければいけない。

【委員】
 これからの進め方としては、今、事務局から提案があった形が良いと思う。学校現場の立場で考えると、いじめ防止対策推進法が効力を発揮した段階にあって、自殺という事案が起こった場合には、いじめ防止基本方針に加え、この背景調査の指針も参考にしなさいとなっているのでわかりづらさがある。そこで、我々が考えてきた自殺予防に資するという目的をきちんと踏まえた上で、いじめ防止対策推進法でやるように言われているものも包み込んだ形で指針の見直しをしていくことが必要だと思っている。
 いろいろな具体的な事案が出てきた中で、我々の中からも内発的にこの指針を見直すべきだという意見が出てきた。と同時に、いじめ防止対策推進法の影響力も出てきた。それらを加味しながら、学校現場が動きやすいように、また、子どもの自殺が今後少なくなるように、どのように指針の見直しをしていけばいいのかということをやらざるを得ない。だとしたら、まずは何人かで両方を加味したたたき台を作ってから全体会議で議論していくというのが合理的かと思う。

【委員】
 では、具体的に誰に委員になってもらうか。

【委員】
 このもともとの背景調査を作っていったときのメンバ-が全員ではないが残っている。法律との絡みもあるので、弁護士である委員には入っていただき、あとは、前回のメンバ-で良いのではないか。

【委員】
 その場合、いじめと自殺の調査チ-ムが恐らく別々にならないとすると、まず、いじめを調査する場合は、とにかくそのいじめの事実について、いつ、どこで、誰が、何を、どうしたという調査を行うということ。そして、その子が自殺をしてしまった場合には、いじめ以外にも、例えば個人の資質として何かあったとか家族関係に問題があったとか、そういうことについて今度は調査をしなければならない段階になると。さらに、自殺との因果関係があったかなかったか、どこの時点で何があれば自殺が予防できた可能性があるのか、というところへ導いていかなければならない。いじめ防止対策推進法では、いじめの事実まではっきりすれば、そこで首長に報告を出せばいい。そこから後は、個人の資質などの調査をしていく部分を作るという、二段階構えの指針になるのだろうか。

【事務局】
 法律だけ読むと、28条の調査は、重大事態に係る事実関係を明確にするための調査と書いてあるだけなので、そこをどこまで広く読むか。この基本方針を作るときにも法律で書いてある最低限のことをやれば事足りるという考え方で整理しているわけではなく、幅を持たせてあるので、幅を持って解釈していただいて良いと思う。

【委員】
 例えば、首長へ報告を必ず上げるという義務付けは法律で出ている。今までの背景調査の指針では、首長への報告というのは考えていなかったので、自殺事案が発生したときに、この辺まで調査して、報告書をまとめるに当たってはこういう条件が必要ではないかというようなことを新たに加味してここで考えていくという捉えで良いか。
 現実的に考えれば、附属機関がいじめの対応も背景調査もやる可能性が高いと思うが、ここで議論していく中で、例えばいじめは附属機関でやるが、自殺の背景調査は別立てでやった方が良いという話が出てくることもあり得る。もちろん、マンパワ-が保証できるか、負担がどうなるかということを加味しなくてはならないが、そうした可能性を視野に入れても良いはずである。

【委員】
 その点についても、少しワ-キンググル-プで詰めていただきたい。

3.児童生徒の自殺予防教育

【委員】
 少し話題が変わるが、児童生徒を直接対象とした自殺予防教育について、この会議から資料を提示しようという話があり、それについて何人かの委員で少しまとめ始めているので、そのことについてお話いただきたい。

【委員】
 まだ骨組みを検討しているところだが、学校における自殺予防教育導入の手引きという形で、実際にどういう内容をどのように導入していけば危険性が少ないのかを示すような手引きができればと考え、内容の検討をしている。
 まだこのとおりになるかはわからないが、最初に導入として、ねらいや目的、この手引きをどう使ってほしいのか、そもそも学校における自殺予防教育の理論的な基礎といった全体像を出す。次に、関係者の合意形成の問題や、内容の中立性、事前事後の子どもの状況に応じたスクリ-ニングとフォロ-アップの問題等の提起をする。これは、子供を対象とした自殺予防教育を学校に導入していく上での前提条件のようなもので、これまでもずっと議論の中で出てきたものである。それから、学校における自殺予防教育の構成要素として、将来にわたるメンタルヘルスの基礎作りとして心の健康についての基礎的な知識やスキルを身に付けてもらうことや、危機に陥ったときの援助希求の問題を核としながら、命というものの捉え方であるとか、人間関係の問題、自尊感情も含めたコミュニケ-ションの問題、そういったことを下地として、それを小学校から高校ぐらいまでの発達段階に応じた形でどう具体的に実施していくかという全体像と、代表的なプログラムに関しては指導案も含めた提供を行うことを考えている。
 さらに、実際に実施していくためには、まず学校で教師を中心に展開していくということになるので、教員研修、それから保護者向けの研修が重要となってくることから、そのポイントを提示する章。それから、実際に学校に導入していくときのプログラム実施前後の留意点として、スクリ-ニングとフォロ-アップの具体的な部分、つまり、このクラスなり子供たちなりの状況をどのように捉え、ハイリスクの子が抽出されてきた場合にどのようにフォロ-アップしていくかという実際の部分を記述する章。そして最後に、学習指導要領の中でどう位置付けていくかとか、既存の保健教育との関連の中でどのように発展させていくかという章を一つ入れたいと思っている。
 こういう内容で関係者のところで少しずつ進めているところなので、年内くらいにたたき台を作り、来年の頭で御検討いただき、年度内に作ることができればと考えている。

【委員】
 見よう見まねで自殺予防教育をやっているという話は聞くが、よく聞いてみると、かなり危ない形でやってしまっていることも現実にある。子どもの自殺は率自体が少ないので、何かしたからすぐに副作用みたいなものが出てくるわけではないと思うが、ある程度、子供の自殺予防教育に当たってのきちんとした前提条件だとか、どういったテ-マをどのように扱うのかというお手本を示せればいいのかなと考えている。決して全国的に一遍にやるようなことを目指しているわけではなく、ある程度の例を示せるような資料作りをしたいと考えている。
 最後に、何か意見があればどうぞ。

【委員】
 一点、色々な関係者会議を設置するという話があったが、子供たちは一人一人なので、自殺予防のこの会議、あるいはいじめ防止対策の会議、それぞれの働きを尊重しながら、事務局でそこをつないでいって、子供たち一人一人を中心としてどうしていくのかという視点を常に持ち続けてほしいと思う。

【委員】
 我々が整理しなければいけないのは、法律に基づくいじめの調査と、法律事項にはなっていない調査、それらを一緒にすることが望ましいのかどうかという話。いじめの場合は法律事項を満たさなければいけない、いじめではないときには法律事項を満たさなくても良いが、ではどうするのかと。すごく単純化した分類をすると、法律上は二つの自殺が存在してしまっているということをどう考えるかということだと思う。

【委員】
 それにプラスして、いじめが原因ではあるが、自殺ではなく不登校の場合にも、恐らくこのチ-ムで選ばれた調査委員会が調査をすると。

【事務局】
 この法律では、重大事態は大まかに分ければ自殺と不登校となっているが、重大事態の調査の主体は、必ずしも設置者だけではなく、学校も調査の主体になることは考えている。不登校の数や子どもとの距離の近さから考えると、不登校の場合は学校が調査するのが多くなるのではないかという見込みをしている。
 また、不登校については別の会議があり、10年ぶりに不登校の追跡調査を実施し、その結果を踏まえた新たな提言を出そうとしているので、不登校については基本的にはそちらの方で考えていただくことになるかと思っている。

【委員】
 もちろんここの会議ではないというのは分かっているが、調査チ-ムの構成メンバ-を考えるときに、不登校に詳しい人と、自殺に詳しい人と、事実調査に詳しい人と、というのを考えなければならないのだろう。弁護士などは、事実調査は得意だと思うが、不登校や自殺との因果関係という話になると、そうした専門家がそれぞれ必要になる。

【事務局】
 理想はそのとおりだと思う。

【委員】
 ただ、確かにいじめが背景にある不登校というのも重大で看過できないが、不登校に関しては、自殺と違って、ある日突然不登校になりましたという事態は考えにくいので、基本的には、スク-ルカウンセラ-も含めて、学校の力で日常の取組の流れの中で考えていただく方が現実的かなと思う。

【事務局】
 学校にも組織が置かれるので、そこにそういった方を追加して調査していただくことを考えている。

--了--

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