児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成25年度)(第1回) 議事要旨

1.日時

平成25年4月18日(木曜日) 14時~16時

2.場所

文部科学省東館6階 第3会議室

3.議題

  1. 我が国において実施する場合の自殺予防教育の在り方について
  2. 児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について
  3. その他

4.出席者

委員

 新井委員、市川委員、荊尾委員、川井委員、窪田委員、阪中委員、高橋委員、中馬委員、坪井委員、村瀬委員

文部科学省

 布村初等中等教育局長、関大臣官房審議官、白間児童生徒課長、池田生徒指導室長、鈴木生徒指導調査官 他

5.議事要旨

(1)議事に先立ち、事務局より配布資料の説明と、委員からの挨拶が行われた。

(2)児童生徒の自殺予防に資する教育に関する取組状況調査結果について討議が行われた。

(3)今年度の会議の課題と進め方が確認された。

(1)事務局より配付資料の説明及び委員からの挨拶

 議事に先立ち、事務局より配布資料についての説明と、布村初等中等教育局長より挨拶がなされた。その後、委員から、一人一言ずつ挨拶がなされ、最後に主査からこれまでの会議の振り返りと今年度の会議の方向性について話があった。

(2)児童生徒の自殺予防に資する教育に関する取組状況調査結果について

【委員】
 最初に、自殺予防にかかる学校現場での取組がどうなっているのかについて、事務局からお話しいただきたい。

【事務局】
 資料4をご確認いただきたい。ホチキスでまとめられている資料が5つ、上から、小学校、中学校、高等学校の調査状況で、四つ目が昨年12月の会議の時点で取りまとめたもの、五つ目は調査票である。12月に調べたものは、教育委員会が、例えば生命尊重教育やストレスマネジメントに関する特色ある取組をやっているか否かだけをまとめたものになっていたので、今回は、学校種や学年ごとの取組状況を具体的に書き出している。
 まず、全校種共通で4項目調べている。一つ目は、生命を尊重する教育に関する特色ある取組について、それから、心身・精神の健康教育に関する特色ある取組について、三つ目は人間関係づくりに関する特色ある取組について、四つ目が、今回の会議の主題でもある、自殺予防を目的とした教育に関する特色ある取組についてである。最後は、実際、自殺予防を目的とした教育の取組の可能性を聞いたものとなっている。
 この調査では、都道府県・指定都市計67カ所から、小・中・高校を各4校程度抽出してもらったので、全体では270件近くを抽出している。また、「特色ある取組」とは、各教科で既に実施している取組は取り除き、学校独自で行っている取組を抽出していただいた。つまり、この中に入っているのは、教科学習は除いた特色ある取組ということになる。
 小学校については、「生命を尊重する教育に関する特色ある取組」は大体8割は行っており、学年については全校実施が一番多く、次いで5年生、6年生の順である。高学年のほうが生命尊重教育は多いという結果が出ている。そして、生命尊重教育の担当者として一番多いのは学級担任で、2番目、3番目は、教科担当と養護教諭の先生が多い。スク-ルカウンセラ-、ソ-シャルワ-カ-は3%。
 下の枠は取組の実例だが、例えば2分の1成人式として、10歳、つまり小学校4、5年生になったときに自分の成長を振り返って、命の大切さを教えるという取組や、命のお話出前講座ということで、保護者も一緒になって生命誕生の仕組みとか赤ちゃんの成長とかを学習するといった取組があった。
 次に、中学校では、生命尊重教育を行っているのは86%。小学校の場合は8割だったが、中学校では9割近くやっている。実施学年は全校実施で行っているところが多く、実施担当者については、学級担任が少し減り教科担当の先生が一番多くなっている。
 実例としては、例えば平和学習として、沖縄の文化・歴史・終戦に至るまでの、命の尊さや平和の大切さを学ぶということを書いてあったり、命の大切さについて考えようというテ-マのもと、生徒会で生徒自身が実態調査や資料収集を行い、生徒中心で命の大切さについて学んだりといった取組があった。
 高校になると、生命尊重教育は一気に7割近くに落ち込む。実施学年についても、1、2年生は1割近く行っているが、3年生になると3%程度で、ほとんどの学校はあまりやっていない。全校実施は5割近くある。高校の実施担当者は教科担当がほとんどで、養護教諭と学級担任は2割近くしかない。
 実例としては、総合的な学習の時間の「人間としての在り方、生き方に関する教育」の中で、東日本大震災の題材を独自教材として、人のきずなや人の命の尊さを再認識する取組を実施したり、県内でいじめを苦に自殺した中学生の事例を取り上げたりしている高校があるようだ。以上が、「生命を尊重する教育に関する特色ある取組」についての調査結果である。
 次に、「心身・精神の健康教育に関する特色ある取組」について。小学校では7割近くが実施していて、全校実施しているものが多い。実施担当者は学級担当が多いが、ほぼ同程度で養護教諭や教科担当の先生も担当している。スク-ルカウンセラ-による講義や、アンケ-ト調査を独自で実施したという実例もある。中には、市の教育委員会がNPOと組んで、メンタルヘルスの資料を作成・配布し、調査をしているということもあるようだ。
 中学校では、小学校と大体同程度、73%の学校がやっている。中学校の心身・精神の健康教育は、各学年約3~5%近く、全校実施が6割近くということだが、例えばチャンスカウンセリングといって、学級担任の日ごろの声かけによって、さらに相談を進めるということが実例としてある。
 高校では、大体7割弱が実施していて、学年別では1年生が一番多い。全体としては全校実施が一番多いが、教科担当、養護教諭に次いで、高校になると、スク-ルカウンセラ-が3割弱実施をしているということがわかった。高校生はもう大人なので、ストレスの解消とか多様な物の見方とかを生き方の参考にさせるということで、相談室だよりを発行するといった学校があった。
 次に3番目、「人間関係づくりに関する特色ある取組」は、小学校では84%の学校が実施している。教科担当と学級担任が、約5割で、同程度やっていた。具体例では、「SSタイム=すてきな社会人タイム」として、年間を通して、計画的に、ソ-シャルスキルやコニュニケ-ション能力の育成を目指して指導しているというものがあった。困っているときや我慢しなければならないときなどの具体的な場面を示し、相手を不快にさせずに自分の気持ちを伝える方法など、コミュニケ-ション能力、ソ-シャルスキルを身につけさせるといったもので、小学校段階から既にこうした取組がなされている学校がある。
 中学校では、小学校と同程度の83%が実施している。教科担当と学級担任が同程度、約5~6割やっているということだが、中にはライフスキル学習の実施として、人とのつき合い方や自分の意見を相手に伝える方法、日常生活に対するいら立ちやストレスに対処できるスキルを身につける、といったことを実際にやっている学校もあるようだ。
 高校は、小・中が8割だったのと比べ、少し下がって73%、7割になっている。教科担当が基本的に教えるが、スク-ルカウンセラ-も14%程度の実施担当者になっている。実際、高校になると、学年・学校のイベントごとにそれぞれの役割を設け、コミュニケ-ションづくりに役立てているという事例を提出しているところもあった。
 最後に、「自殺予防を目的とした教育に関する特色ある取組」を実施しているところについて。小学校では33%、3割程度になっている。実施学年は、高学年、5、6年生になってから、もしくは全校実施でやっているというところが多い。実例を見ると、全校朝会で校長先生が自殺防止をテ-マにして講話を行っているとか、朝の時間を利用して中学生の自殺について担任が講話したりしているところもある。また、中には自殺予防教育指導マニュアルを市教育委員会が作成し、命の大切さを考える取組を教育委員会が実施しているところもあった。
 中学校になると、小学校段階では3割近くだったのが少し増え、4割近くの学校がやっている。実施形態としては、ほとんど全校で実施しているようだ。中にはQ-Uテストという、いじめ対策にも使われるようなテストを使って、生徒の心理状態を把握するという学校があったり、先ほど説明した自殺予防教育指導マニュアルを中学校段階でも活用したりしているところもある。
 高校段階では、29.8%、3割近くが実施している。全校実施が多いが、実際の取組としては、文化祭で生徒が中心となって命のフォ-ラムを行い、パネルディスカッションや生徒同士のディスカッションを行っているところなどがあった。
 さらに、「自殺予防を目的とした教育」のモデルプログラムの取組の可能性について、積極的に取り組んでみたいかどうかを聞いている。
 小学校段階では、「内容によっては取り組んでいきたい」と回答した学校は、自殺予防と直接銘打つのではなく、生命尊重とか、実際、身近にあるいじめとかいった形で、自殺を予防するような内容のプログラムにしてはどうか、ソ-シャルスキル学習に係るものであれば取り組みたい、と言っているところがあった。もう一つ、「積極的に取り組んでいきたい」「内容によっては取り組んでいきたい」のどちらにも「いいえ」と回答したところは、自尊感情を育成することがひいては自殺予防にもつながるので、実際にモデルプログラムがあってもやらなくてよいという意見や、道徳教育における生命尊重の教育で十分自殺予防につながるのではないかという意見があった。また、親を自殺で亡くした児童もいるため、こういったものはなかなか触れにくいと言っている学校や、モデルプログラムをやったときに、保護者からの理解が得られなかったり教員が指導に困難を来すおそれがあるのではないか、教育課程への明確な位置づけが課題ではないかという考えから、今の段階では否定しているという学校などがあった。
 最後に、自殺予防を目的とした教育についてどのように考えているかの自由記述がある。現代のネット社会では、学校教育において自殺というキ-ワ-ドを取り扱うことで子どもたちが興味本位で不適切なサイトを見るといった誤った方向に進むなど、学校教育で教えることで、新たな負の関心を引いてしまうのではないかという意見や、現在の子どもたちは祖父母の死などを家庭で経験することがほとんどなく、バ-チャル体験の影響で、痛みや悲しみを伴わない死ばかり見ているので、それが補完できるような教材開発やプログラムができたらいいという意見、辛いことを乗り越える力を持って生まれてきたことを子どもたちに伝えたいというポジティブな意見もある。
 中学校段階での自殺予防のモデルプログラムについての意見は、少し小学校と似通っているところもあるが、直接的に自殺予防を扱うのではなく自己管理能力や感情のコントロ-ル能力をつけていくプログラムとか、落ち込んだときの対処法について発達段階の具体的教材や資料集が必要だとか、要は、そのものずばりの自殺予防プログラムというものではなく、もう少し周りの部分の教材が必要ではないかという意見があった。また、身近な大人が気づいたときにどのように対処したらいいのかとか、自殺の発生状況に関する正確な情報とか、自殺に関する相談を受けたときの適切な対応とか、学校の校区に所在する悩みの相談先となり得る諸機関等とか、そういったものを少しまとめたら良いのではないかという意見もあった。これらは「内容によっては取り組んでいきたい」「積極的な取組をしたい」答えた中学校の意見である。モデルプログラムに否定的な意見としては、自殺に特化した教育は生徒の実態にそぐわないという意見や、生命の尊重や自尊感情を育む教育のほうが大切だと言っている意見などがあった。また、子どもたちにとっても、大人にとっても、自殺という言葉は重いという意見もあった。
 最後の自由記述では、家庭教育の影響を踏まえて、個人差や発達段階に応じた具体的な指導や援助が必要なのではないかとか、ほとんどの生徒にとっては自殺というのが身近ではないのでどこまで深く取り扱えばいいのか判断が難しいものがある、といった意見があった。
 高校段階で、「内容によっては取り組んでいきたい」という答えた学校からは、自殺という表現が出るものではなく、生きることの意味や、一生懸命生きることの大切さを表現する内容の取組を行っていきたいとか、自殺そのものを意識していない生徒に自殺という行為を改めて意識させることにならないような内容であって、生徒に生きることのすばらしさを意識させる内容であれば取り組んでいきたいといった意見が出されている。具体的な方法を書いているものもあり、生徒参加型の内容であれば取り組んでいきたいとか、具体的な事例が例示されているとか相談を受けた教員がカウンセリングを行う際の留意点などが明記されているとか、活用しやすい内容であれば取り組んでいきたいといった意見があった。逆に、否定的な意見には、そもそも生命尊重や心身の健康を扱うことで自殺予防にも触れられているのではないかとか、自殺予防という言葉からマイナスの自殺のイメ-ジが強く伝わり、予防のイメ-ジが伝わらないといった意見もあった。
 高校段階の自由記述では、生徒一人一人の自己肯定感をさまざまな教育場面で高めていくことが一番の自殺予防ではないかという意見、自殺予防教育の中で自殺の具体的な内容をあまりにも取り上げ過ぎると連鎖的な自殺を助長するのではないかという不安の声があった。高校なので、中学時代からの未遂事件やその傾向がある生徒の把握を、入学時に制度としてできないかという具体的なことを言っている学校もあった。

【委員】
 思った以上に色々な基礎的な取組がされているという印象を持った。自殺予防教育に関しては、やはり自殺予防教育という言葉がかなり強く伝わっていて、小・中・高校すべての教育現場で、非常に驚異的に受けとめられているところも随分あるということがわかった。既に取り組まれている生命尊重や心身の健康、人間関係づくりと一体となった体系がきちんと提示されると、もう少し抵抗感が低くなるのではないか。ベ-スの部分に関する問題意識や取組は広がっているという印象を持った。

【委員】
 資料内の「全校実施、1時間」、というのは、校長先生が全児童生徒を対象に、命を大事にするなどの講話などを1時間やっているという数字だということか。

【事務局】
 そういうこと。要は全学年を体育館かどこかに集めて、年間で1時間近くやっている、こういったものを全校実施という形で数字としてあげている。

【委員】
 全学年ともやっているという意味も含まれているのか。例えば、「全学年、毎日」いった取組は、一斉にというより、全学年が、学年単位・クラス単位でやるのものだと思うが。細かいことを言うようだが、全校実施と全学年実施とは、前者は一斉にやっている印象が強く、後者は学年やクラスごとに各学年全部やっているという意味だと思う。体育館で一斉にというのは全校実施という印象だと思うが、全学年で実施しているという書き方をしていた場合は、各学年のカウントにそれぞれが入っているのか、それとも全校実施にカウントされているのか。

【事務局】
 それぞれの学年が全部やっているものについては、学年ごと全部に入れている。

【委員】
 すると、全校実施というものの割合があまりにも多過ぎるのでは。こういう授業を、体育館でいつもやっているとは考えにくいので。

【事務局】
 確認してみる。今回は、自由記述に書かれていた学年と時間数を全部分析し、それを全学年、各学年に分けるやり方をしている。

【委員】
 この結果を見ると、確かに色々なことはやっているが、私の印象だと、下手にやると寝ている子を起こすぞという、学校側の不安もまだまだ強いというのがよく出ているような気がする。そして、命を大切にという教育をもとにするべきという意見もあるが、それが本当に自殺予防教育につながるのか。確かに命を大切にしろと言ったら誰も反対しない。ただ、自殺に追い込まれているぎりぎりの子どものどういうところに気をつけて、SOSのサインを見落とさないためにどうすべきかを教えなければ、自殺予防教育にもならないし、自殺予防にもつながらないと思うが。

【委員】
 それは私も実際に学校で研修などをするときは強調して言っているところで、やはり、前向きになれずにいるときにどう援助を求めるのかとか、辛くなったり自分一人ではどうしようもなくなったりすること自体が、おかしいことではなく誰もが経験することだからそのときにきちんと援助を求めること大切であると。だから、心身の健康と人間関係づくりのあたりの自己肯定感を高めるとか、周囲の人とのコミュニケ-ションを高めて援助を求めるとかはそのまま自殺予防教育につながると思うが、「命を大切に」が受け入れられるときには問題はなくても、そうできなくなっているしんどい子がそのメッセ-ジで追い込まれることもあるので、注意をしてほしい。

【委員】
 小学生でも中学生でも、事前に聞くと、「命を大切に」と皆が言う。だから、命は大切とわかっていても、自分も相手も大切にできないときにどうするかということを、頭ではなく実感することがすごく大事だと思う。そうできない、そうなれないときにどうするかというスキルを実感するとともに身につける、体験する。そういう授業を考えていくことが大事だと思っている。
 これを読んでいると、自殺予防教育ではなくて、自殺教育と少し勘違いされているように感じる。アメリカに視察に行った時は、死にたいと口にしたりリストカットしたりする子に出会ったら、自分はどう行動するのかということを学んでいた。だから、自殺のやり方など絶対に出てこないのに、深刻で重い問題だけに、自殺を学ぶと誤解されてしまう。

【委員】
 身内を自殺で亡くしている子どもがいるのでこの教育に対して非常に抵抗があるという意見がいくつかあったが、むしろ命を大切にということを声高に言うことが、自殺で家族を亡くした子どもにとっては、自分の身内が命を大切にしなかったというメッセ-ジとして、追い込む危険性のほうが高いと感じている。そういう意味でも、過度にそれを強調して、だから自殺はいけないのだというメッセ-ジになることは、むしろ逆効果ではないか。

【委員】
 数字的なことに関して言うと、自殺予防を目的とした教育が本当にこれだけやられているのかという疑問がある。たまたま抽出した学校がそうなのかもしれないが、実態を見たときに、例えば取組内容でQ-Uテストをやって状態を把握し相談体制に向けて情報の共有化を図る、これが自殺予防ということになると、我々がイメ-ジしている自殺予防教育とは少し違うのではないか。
 高校が3割ということで数字が落ちているわけだが、高校の場合は精神面の教育は保健体育の保健の中に1項目が完全に挙げられている。これは単元としては小学校でも中学校でもある。だから、その中でどんなふうに触れているのか、特別なプログラムを組まない状況の中でどのくらい行われているのか、ということも知りたい。

【事務局】
 今回は教科外の調査ということで調査をしたが、前回、前々回の会議でも、では実際教科でどれぐらいやっているのかとか、学習指導要領でどれぐらいやっているとか、学習指導要領から来る授業時間数とか、教科書にどういう書き方をしているのか、といったことが話題になったので、これは我々の宿題だと思っている。次々回ぐらいまでに、教科でどういうふうに取り扱われているかというところを、少しつまびらかにしたい。

【委員】
 先ほどが言われた、実態より数字が多いのではという話について。逆に私は、自殺予防教育をやっていると認識している学校そのものがこれだけある、すなわち、自殺予防教育そのものがどんなものかということがオ-ソライズされていないというか、例で引かれたようなものが自殺予防教育の一端だという認識しているということが、逆に、自殺予防教育がまさに必要だということを裏づけているような数字だと受けとめている。
 300人もの子どもたちが毎年自殺をしている。あるいは、1件自殺が報道されると群発自殺が起きてくる。要するに、死ぬということ以外に選択肢を持っていない子どもたちがまさにいるわけで、そういう子どもたちに、ACTとかレジリエンスを本当に届けてあげるという、そこに大きな意味があると思うので、今回の調査は逆に、これから私たちがやろうとしていることが、本当に大事なことなのだということを改めて認識させる資料だと受け取っている。

【委員】
 ある市の教育委員会の自殺予防のための資料は、文科省の出したいじめ・自殺についてのさまざまな資料をもとに、独自に開発されている。内容は今ざっと見ているところだが、最終的に自殺にきちんと焦点を当てて、死にたいと言ったときにどうするかというところまで触れて作っている。こういうプログラムがいいのかどうかはもっと専門的に検証していただくにしても、こうしたもののもとになるものを、ここで作っていくことがすごく大事なのではないか。

(3)今年度の会議の課題と進め方について

【委員】
 次に事務局から、これまでの検討会のいきさつや、今年度取り上げなければいけない点などをまとめて説明してもらいたい。

【事務局】
 まず、自殺予防教育の在り方について。こちらに関しては、資料3の中間まとめを御覧いただきたい。自殺予防教育の在り方について、どういった自殺予防教育があるかということを先生方に御議論いただいているところであるが、この中間まとめは、基本的なスタンスとして、自殺予防教育をやっていく際の留意点を示すものである。専門家や保護者といった関係者に対し説明や準備が必要であるということ、どういった自殺予防教育が適切であるかということなどをまとめていただいた。自殺予防教育をやるときに、実際に身近な方が自殺したとか、生徒自身が少し精神的に不安定であるとか、そういったハイリスクの児童生徒の存在を把握したときに、どのように対応していくかというところもまとめている。
 このように中間まとめをとりまとめていただいたが、児童生徒に対する自殺予防の教育の在り方について、具体的な検討課題が四つ残っている。先生方の御議論の中から抽出したものだが、一つ目は、学校教育における自殺予防教育の実施時期の検討。二つ目が、自殺予防教育を実際にやった後の適切なフォロ-アップやスクリ-ニングの方法について。三つ目は、自殺予防教育を実施する際の指導方法について。誰がどのようにやるかという指導方法を少し議論していただかなければならないと思っている。四つ目が、生命尊重や心や精神の健康についての教育を含めた、総合的な自殺予防教育のプログラム案の作成。以上四つが課題として残っていると考えている。
 次に、背景調査の指針の見直しについて。平成23年3月に、「平成22年度児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議審議のまとめ」ということで、児童生徒の自殺があった際の背景調査の指針をまとめていただいた。その後、各地域で実際に自殺があった際に、この審議のまとめと背景調査の指針をもとに背景調査を行ったり第三者委員会を開いたりということがあるが、少し課題も見つかってきている。具体的な検討課題としては、初期調査が終わって詳しい調査をするときの在り方、特にアンケ-ト調査の在り方などについて。それから、アンケ-ト調査で得た資料の取り扱いについて。3番目に、実際、背景調査をして詳しい調査をするときに、第三者委員会を設置するということもあるが、この設置運営の主体について。
 もちろん、この審議のまとめはガイドラインなので、学校現場でフレキシブルに対応するというのが前提ではあるが、学校現場で少し固執して取り扱っているところも見受けられるので、そういった状態も踏まえ、実情を分析しながら再度見直ししていくことが必要だろうと考えている。

【委員】
 事務局からの説明をまとめると、子どもを直接対象として自殺予防教育をするならば、標準的な教材を用意するというのは、かなり前から課題になっていた。今年度はきちんと進めなければいけないと思う。提案だが、私も含め3人の委員が以前米国視察に行く機会を与えていただいたので、中心になって少し進め、たたき台をつくるというのはいかがだろうか。もちろん、ほかにも、たたき台をつくる上で参加したい方がいらっしゃったら、入っていただきたい。

【委員】
 ある委員は自尊感情を高めるという基礎的なところに結構取り組んでこられたので、ぜひ入っていただきたい。

【委員】
 では4人で少し進め、ある程度形が整ったところでこの会議に出し、皆さんのご意見を聞くこととする。
 そしてもう一点、背景調査の指針の見直しについて検討していかなければいけない。ワ-キンググル-プを作ってそこで少し進めていくのがいいか、あるいは、こういった全体の会議で進めていくのがいいかについて、ご意見をいただきたい。

【委員】
 ワ-キングは、ある意味、効率性もあるし、議論の時間もとれる。ただ懸念するところは、先ほどのプログラムも関係してくるわけだが、ガイドラインが作られる過程に全ての委員が入っていないというところ。ワ-キンググル-プででき上がったもので議論をするわけだが、限られた時間の中での議論なので、途中で捨てられてきたものや、それがなぜ捨てられたかがわからないので、視点が弱くなるのではないか。

【委員】
 背景調査の指針に関しては、見直しといっても一からやり直すわけではなく、現時点のものをある意味たたき台に、色々な論点を整理したり、新たなものを加えたりということだと思いうので、そういう点では、全体での議論のほうがより豊かな方向性に行くのでは。

【委員】
 今、色々なところで、第三者委員会の問題などが出ている。それらを踏まえて、まず全員で論点を整理し、整理された論点について、例えばガイドラインの文言の修正や見直しという作業的なところに入ったら、そこはワ-キング的にやってもいいと思うが、まずはここに集まっている委員で、この辺をこういう方向で検討したほうがいいのではないかという意見を忌憚なく出してもらい、その上で考えていく方が実りあるような気がしている。

【委員】
 課題になり得るものをみんなの知恵を使って出して、そのことについてどう考えるかという議論をして、ではどういう文言にするというところについては、プロ的に話していくという作業イメ-ジということであれば、全体的な流れはイメ-ジできる。

【委員】
 私は、ガイドラインが大筋で誤っているとか不備であるとは思っていない。ただし、運用面で問題はあったのかもしれない。自殺予防についての基盤となる知識を持った上で事後対応についての在り方についても知る、その上で、もし不幸にして自殺が起きてしまったときに背景調査をどうするかという、積上げの中で本当は捉えるべきだった。そういう積上げがない中で、自殺が起こってしまった、そこで初めてガイドラインを見る。ガイドラインは、学校の実情に応じてやってくださいということだが、切り取りをして使ってしまったという状況があるかもしれない。
 だから、見直しというのは、文言や手続上の見直しもあるかもしれないが、学校現場なり、保護者も含めて、背景調査をどう捉えたらよいのか、背景調査を自殺予防という中にどのように位置づけるのかというところを、我々が十分に伝え切れなかったのではないか、その辺をどうするのかというところも含めて、見直しと考えている。そういう意味でも、まずは全体でということがいいのではないかと思っている。

【委員】
 「背景調査にはこう書いてありますよね、だから、こういうふうにしたのです」とか、「こうしなければいけないのですか」というのではなく、やはり、背景調査がなぜ行われるのかが重要。それは、失われてしまった人間と人間の信頼関係、教育現場の信頼関係を回復することが目的なのだというところを押さえれば、おのずから答えが出てくることがたくさんある。現場に即して、ガイドラインに書いてあるとおりではなかったとしても、ここで、失われてしまった教員と子どもとの関係とか、子ども同士の間の人間関係をどうやったら回復できるかを考える。おっしゃるとおり、本当に何のために、というのがなければ、字面だけ追って、「ここに書いてあったからこうしました」のような弁解に使われてしまう危険があると感じている。やはり「何のために」というところを、もっともっと打ち出すということは必要だと思っている。

【委員】
 要するに、何のために背景調査をするか。死からしか学べないことは何か。次の予防にどうつなげるのかという観点が必要だと思うのだが、今までの背景調査などを見ると、結構、調停的な意味でやっていて、真実は何だったのかということを見きわめようとしていないものが多いという感じがする。だから、例えば、いじめがあったかなかったかというところにばかり焦点が当たり、ほかのファクタ-はどうなのかということが、例えば高校生ぐらいだと精神障害が当然深くかかわってくるのにそれが一切触れられてないとか、あるいは、そもそも第三者委員会の委員の選定が中立的な立場で選ばれておらず、最初から結論が予想できるような委員の選定をしているところがあったりする。調査の目的を考えた上でどういう人を選ぶべきかというのが出てくるのだろうが、人で選ばれていることも現実にはあるように思うので、そういったところもこの場で議論する対象になるのではないか。

【委員】
 ただ、その議論をする対象として、何をベ-スに議論をしたらいいのか。様々に報告書が出されたものについて全員が読み、そして議論するのが本来の在り方だと思う。感想だけでの議論にはしたくない。

【委員】
 この背景調査の議論を始めたときには、年間300人を超えて自殺する子どもたち全体を、一般化した形での背景調査という議論を始めて作ったと思う。ところが実際には、非常にレアなケ-スで使われている。その中で課題は当然出てくると思うが、我々は非常にレアなケ-スのためのガイドラインとするべきなのか、それとも、やはり様々な自殺のケ-スに対する背景調査の指針とするのか、そのあたりがはっきりしないといけない。その意味で、まずは全体で議論していくところが必要だと思う。

【委員】
 捉え違えているかもしれないが、第三者委員会が設置されるのは、学校に何かすごく落ち度があり、真実を追求するためという感じを私は受けている。学校が事実に向き合うということは必要だと思うし、学校や教員が学ぶべきことはたくさんあると思うが、自殺を考えると色々なファクタ-があるということが言えない。いじめ以外の要因をちゃんとできるのかと、私はすごく不安になっている。子どもの自殺を少なくするため、家庭も学校も病的なことも含め、本当にみんなが真実に向き合う。そういうのはどうしたらできるんだろうと、今すごく思っている。

【委員】
 私も同感で、良い背景調査、良い報告書とは一体何なんだろうと思う。私は、事実と向き合って、真実に近づいて、近づき切れなくてもそれが自殺予防に資するというのが良い背景調査であり必要な調査報告だと思うが、何をもって「良い」とするのかがもう一つはっきりしてない気がする。
 前のワ-キングのときに、色々考えて、最後のほうで、なぜ死に至ったのか、個人の生活史を追い、その心の動きのひだに迫るようなものが書ければいいということを書き込んだのを私は覚えている。そういう観点で見ていったときに、なかなかそういう調査報告書を目にできない。それを阻むものは一体何なのかということを、委員構成とか、あるいはマスメディアも含めてどういう流れがあるのかとかいったことを含めて検討し、こういう背景調査をして、こういう真実に近づくような調査報告をするんだということを、我々として検討しておくことがとても大事なことだと思う。

【委員】
 この背景調査は、責任を追及するのではなく、真実を知って同じことが起きないようにすることが重要。だから、どんな委員会であれ本当のことがちゃんと出てくるようにしない限り、そこから出た結論をいくら使ってもまた同じことが起きてしまう。
 医療事故が完全にそうで、結局、本当のことを出さない限りまた同じ事故が起きてしまう。だから、どういう名前を使うかわからないが、本当のことができる限りわかるようにし、次に同じことが起きないようにすることを目的にやるという視点に立たなければ。責任論ばかりではだんだんやりにくくなっていってしまうのではないかと思う。
 責任があるかどうかというのは後からついてくるもので、間違っていたら責任をとらなければいけないし、正しかったら責任はとらなくていい。ただ、正しいか間違っているかをはっきりさせるのが背景調査だと思う。背景調査で本当の理由を知ることに付随して、ここがいけなかったとか、ここはそんなことはなかったというのが出てくるかもしれないが、それはやむを得ないことだと思う。間違っていたらそれは直さなければいけないし、責任をとらなければいけないようになるかもしれない。責任とりたくないということを前提にしてやるのはおかしい。

【委員】
 今先生がおっしゃったことは前の手引書にも書いてある。それを今回もきちんと強調する形をとるといいと思うが、現実には、調査報告書を見ると、色々な思惑で知りたいことが書いていない部分は結構ある。それでは第三者委員会を立てている意味はないと思う。

【委員】
 だから、その第三者委員会というのは一体どういうものかということをきちん詰めていけばいい。初めから結論ありきの第三者委員会を作っても意味がない。

【委員】
 おっしゃるとおりで、そのために、それぞれが辛くても現実に向き合うということをここでずっと議論してきたと思うが、子どもの自殺という圧倒的な事態の中で現実に向き合うことはやはりそう簡単なことではない。そこを支える仕組みがもう1つないといけない。この調査委員会自体が辛いことに対する向き合えなさを、ある意味解消するようなものとして機能してしまうとか、ある結論を出すことで何らかの道筋をつけようとするようになると、学校側はそれに耐えかねてやはり責任をとらないようになる。
 例えば犯罪被害者や犯罪で家族を亡くした方の支援のための組織や枠組みは随分機能するようになってきているが、自殺の場合は犯罪被害ではないからそのサポ-トは使えない。そこで、御遺族が事実に向き合い続けることをサポ-トするような別の枠組みとか、それを後押しするような何らかの仕組みとか、調査委員会が機能するために少し外側でそれぞれの人が先に進むのをサポ-トするような枠組みを社会として準備していかないと、同じことが繰り返されるのではないかと感じる。

【委員】
 第三者委員会の設置主体をどうするかという問題がある。非常に特殊な例を1つだけ挙げてもう学校や教育委員会ではだめだ、自治体でないとだめだというような政治的な議論がされていることに私は非常に懸念を持っている。学校の中で起きたことは、学校の先生たちが本当に子どもの死を悼み、必死にそこへ向き合い、遺族と関係回復をしていく努力の中で解決してもらいたいと思っている。それができないなら、せめて教育委員会が本気になってそこに取り組むのが本来のあるべき姿だと思っていて、外部の第三者に頼まなければ学校の中の回復ができないというのはものすごく危機的な状況である。もちろん応援を頼むのはいいと思う。何も学校が自分だけで責任を負う必要はないので、色々な人に「子どもたちのケアのために」とか、「事実確認のために」とか来てもらうのはいいが、やはり教育現場を回復させていこうという力は学校現場や教育委員会にあってほしいと思っているので、教育委員会が機能しなかったから第三者委員会が絶対必要だとか、こういう方向になっていくことには非常に懸念を持っていることは最後に言っておきたい。

【委員】
 極めて問題だと思うのは、第三者委員会を作りましょうとなったときに、遺族側の意見を聞かないと一切学校側の提案する委員を排除してしまう動きもあることだ。その時に、中立的な立場の委員として誰が委員会に加わるべきかという判定をするものがない。アメリカで裁判が起きると、陪審を選ぶときに原告側と被告側で「この人を陪審に入れろ」「この人はだめだ」と言い合って、最終的に裁判長が「この陪審でいきましょう」と決める。そこでいう裁判長の役割をする人がいないので、御遺族の勢いに押し切られて、現実には、外から見るとかなり偏った委員が第三者委員を構成していることもあり、そのあたりも少し考えていかなければいけないと思う。

【委員】
 今様々に議論をされていることを、実は議論して背景調査を作ったわけで、基本的にああいう考え方で最初からやっていけていれば、はなから結論ありきのような第三者委員会にはならなかったはずである。だから、背景調査の考え方そのものは絶対間違っていないと思っている。ただ、何箇所か強調すべきところ、強調してきたけれどさらにもう少し加えていくべきところを少し整理して、もう一つブラッシュアップしたものにしていくという、あくまでもその原理原則にのっとったものとして作るべきだと思う。

【委員】
 私の理解では、ガイドラインというのはあくまでも、大多数、8割ぐらいに当てはまり、その辺縁にあるものに関しては、ガイドラインの精神をよく理解した上で、臨機応変に当てはめていくもの。だから、全てのレアケ-スにも当てはまるガイドラインを作るというのは、できないと思っているが、それで良いだろうか。

【委員】
 ガイドラインの中にもそう書いてある。300件のケ-スを一般化して作っているので、ある特定のレアケ-スだけに有効な背景調査、指針をつくってきた覚えはない。そういう意味で、あくまでも原理原則と申し上げたのは、一般的なものとして考え方をきちんと示すということ。もちろん該当する教育委員会や自治体で、ケ-スに合わせて見直されることは当然だと思うが、我々はやはり基本的な考え方をきちんと述べていきたい。

(4)閉会

--了--

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