児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成24年度)(第1回) 議事要旨

1.日時

平成24年10月24日(金曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省 旧庁舎2階第2会議室

3.議題

  1. 我が国において実施する場合の自殺予防教育の在り方について
  2. その他

4.議事要旨

(1)事務局から、配付資料について、及び今年度の議題について説明がなされた。
(2)議事に入る前に、各委員からの挨拶と、昨年度までの会議の流れが確認された。
(3)議事に従い、委員による討議が行われた。討議は、発表者として参加した教諭からのプレゼンテーションと、それを受けての質疑応答、ディスカッションという形で行われた。

(1)事務局からの説明

【事務局】

 まずは配布資料について説明をさせていただく。1枚目の議事次第の通り、本日は、我が国において実施する場合の自殺予防教育の在り方についてご議論いただきたい。資料1、資料2は、今年度の会議の設置要項と委員名簿、資料3は滋賀県大津市の中学校2年生の男子生徒が自殺した事案についての資料である。背景調査については、この会議でも審議のまとめ等を出しているが、今回の大津市の事案を踏まえ、たとえば初期調査と具体的な調査の在り方、調査委員会や調査委員会の設置主体、調査をしたアンケートの情報の取り扱い等において、少し課題が出てきたと思うので、こちらについてもご議論いただきたいと思っている。資料4は、この会議でこれまでずっと議論されてきた、児童生徒に対して自殺予防教育をする場合にはどうしたら良いのかについて、23年度中の議論を中間まとめにさせていただいたもの。そもそも自殺予防をどうすべきかという基本的なスタンス、実際に自殺予防教育を実施する場合の留意点や必要とされる準備、そして、自殺予防教育をやる内容等についてまとめている。先ほどの背景調査の課題ともども、今年度議論していただければと思っている。

(2)各委員からの挨拶と、昨年度までの会議の流れ

【委員】

 今回は第一回の会議なので、各委員から一言ずつ御挨拶いただきたい。

【委員】

 今年度もこの会議の委員ということで、責任の重さを感じている。特に背景調査については、ワーキンググループで考えてまとめてきたところ。背景調査は、遺族の意向に応えるということはもちろんだが、自殺予防にどう生かしていくのかという視点で考えてきた次第である。その中で、かなり細かい運用上のこともガイドラインには示していたがなかなかそれがうまく機能しなかったのかもしれない。あるいはアンケート調査の公表など難しい問題を含んでいたため、様々な状況を勘案してガイドラインを作ったがそれがうまく伝わらなかったのではないか。2年間にわたり、全国を4ブロックにわけて、事後対応や背景調査について生徒指導担当の指導主事を中心に説明してきたが、なかなか現場に十分浸透させることができなかったことも反省している。
 自殺予防教育は副作用もないとは言い切れないが、現状を見ると、この会議を中心に慎重に検討して、自殺予防教育を進めることが喫緊の課題ではないかと思っている。

【委員】

 私は本職が子どもの精神科医なので、30年ほど治療に携わっているが、子どもが弱くなってしまったという気が非常にしている。これは、人間関係がうまく持てないということが根底にあると思う。それから、子どもを囲む環境の問題、つまり、家庭と学校の連携がうまくいっていないことも重要な問題ではないかと思っている。この会議は基本的には子どもの自殺の問題を扱うが、その背後にある問題に着目しつつ、この会議に出させていただいている。

【委員】

 私は養護教諭として、健康教育ということをしてきた。今の学校では、とにかく子どもたちが楽しく学校に来ること、そして教職員は小さな変化に気付く感性を磨こうということで、健康観察の充実について4月から話をしている。また、私の県は、児童精神に関する専門医が大変少ないので、その中でどういう連携を図って体制づくりをしていくのかということも課題になっていると思う。いずれにしても、子どもたちが生まれてきて本当に幸せだという思いで過ごせるように、生涯にわたる基礎作りという部分もあるので、現実を見ながら、長い目で子どもたちを育てていくという視点で関わりたい。

【委員】

 大学教員の傍ら十数年スクールカウンセラーとして現場に関わってきたプロセスの中で、子どもの自殺が起きた後の心のケアという面からこの問題への深い関わりが始まった。この会議でも、22年の3月には「子どもの自殺が起きたときの緊急対応の手引き」を出して、事後の心のケアや背景調査について盛り込んだ。いずれにしても、原因を明確にし、構成員が回復をして、第二の犠牲者を絶対に出さないということを最大のミッションとして取り組んできたと思うのだが、昨今の動きを見ていると、身近で自殺が起きた方々の抱えている思いがどれだけ大切にされているのかという点を危惧している。
 いかに子どもの心の健康、レジリエンスを育てるかということにつきるというのは以前から強く感じており、そのあたりを一体として取り組んでいく母体がこの会議だと思う。

【委員】

 現場の教員として、それからカウンセラーとしてこの会議に関わっている。自殺予防教育は未来を生き抜く教育だと思っている。自殺という言葉を出すか否かは色々と議論のあるところと思うが、命を考えることで、短い命を絶つ子が一人でもいなくなるよう、現場の教員が連携して自殺予防教育に取り組めるよう色々知恵を出し合っていけたらと思っている。

【委員】

 我々がこの背景調査の指針を作るときに最も大事にしてきたことは、学校あるいは教育委員会がその事実としっかり向き合っていくことが何よりも大切であり、そのことが今後の子どもたちの自殺予防という点でも非常に重要だということだった。今後背景調査の見直しをするとしても、この点を一番大事にしながら改訂に取り組んでいきたい。
 それからもう一点、今回のような事案が起こって、自殺予防イコールいじめ防止対策のような論調があるような気がする。今回、文科省が整理した調査では、平成23年度の小中高生の自殺者200名のうち、いじめを背景とした自殺者は4件、率にして2%。だから、いじめ防止は非常に重要ではあるが、残りの98%の子どもたちの自殺を考えると、やはり私たちがこれまで議論してきたことにしっかりと思いを据えた上で、これから自殺予防教育というところを考えていかなければならないと改めて認識した。
 最後にもう一点。自殺予防、いじめ防止ということを含め、今回様々なケースを見ると、教員がこういった問題に非常に無力で、過去の例に倣っても、むしろいじめを助長するかのようなこともあるという指摘がなされているが、やはり子どもたちの変化に一番最初に気が付くのは教員である。そして、教室相談や子どもたちとの関わりの中で、自殺する子どもたちの倍くらいの子どもの命が救われている実態があると思っている。日々学校にいて、子どもたちと正面から向き合っている教員の姿を見ると、やはり一番の自殺予防になっているのは、こうした教師の日々の努力の中にあるのだということを一方で忘れてはならないと思う。

【委員】

 この会議の目的が自殺予防であるということを自分でも認識し直さなければとつくづく感じている。今委員も仰ったが、自殺といじめがあまりにも直結して語られすぎている。自殺をする子は必ずいじめの被害者であるというように、単純に直結できる問題ではないということを、もう少し広く理解していただかないと、いじめを根絶すれば自殺もなくなるといった誤った認識が広まるのではないか。
 自殺未遂をした多くの子どもたちと現場で出会ってきた思いからすると、子どもたちの苦しみは単純ではない。学校問題、親子の問題、自分自身の病気や能力や資質の問題…様々なことで苦しんでいる。そして一番大きな苦しみが、孤立しているということ。もう誰にも助けを求められないという中で死を選んでいく。この過程を私たちはもっと知るべきだと思う。そして、子どもたちを孤立させない、ひとりぼっちにさせない、子どもたちの苦しみを誰が分け持てるのか。そういった視点を持って、自殺から子どもたちを救い出すのでは、と思っている。
 それから、今回いくつか起きた事案への事後対応を見ていて残念だと思ったのは、この会議で出された緊急対応のマニュアルや背景調査の指針をきちんと理解して対応がなされたとは思えないことが多くあったこと。たとえば、自殺後の調査の目的は一体どこにあるのか。指針では、子どもさんがなくなったということに対して、死を悼み、苦しみを保護者も子どもも教員も分かち合って、その中で再びこのようなことを起こしてはならないという思いを一致させ、何事も隠さず、みんなで信頼関係を回復していこうということである。果たしてそれがきちんと目的として書かれているのだろうか。
 また、先ほども話が出たが、ここで出された成果がきちんと現場に浸透していなかったことはすごく残念。それが全て正しいと言うわけではないが、多くの現場で共有されるための努力をもっとしていきたい。

【委員】

 これまでの流れを少し振り返ってみたい。まず、平成18年の6月に自殺対策基本法が制定され、その直後に文科省が児童生徒の自殺予防に向けた検討会を招集した。子どもの自殺予防については、総論ではみな賛成だが、具体的な方法についてはかなり難しかった。しかし、自殺予防については、一般には寝た子を起こすという風潮があるが、寝ているどころか子どもはしっかりと目覚めて、インターネット等から不確かな情報を取り入れてしまっている。だから、むしろきちんとした対応の仕方を教えていくことが、子どもの自殺予防のみならず、一生にわたるメンタルヘルスの基礎になるのではないかということについて、委員の間では合意が出来ていたと思う。
 平成19年の3月に第一次報告書を出し、今後の自殺予防に関する方向性と、今できることは何かという現実的な観点からまとめていった。第一段階は、学校の先生に自殺予防の正しい知識を持っていただくこと。児童生徒の自殺が起きると、今はいじめ自殺にばかり光があたって、担任や学校が総攻撃される。しかし、様々な問題を抱えて親自身も子どもの発しているSOSが見えなくなってしまっているときに、学校の先生がそれを捉え子どもの自殺予防に資するとともに、家族の問題も解決してくれたという事例は本当に多い。だからこそ、まずは学校の先生に自殺予防の正しい知識を持ってもらいたい。また、もう一点は、残された人へのケアの指針をまとめようということ。それにこたえて「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」「子どもの自殺が起きたときの緊急対応の手引き」を出した。
 平成22年には、自殺の実態を把握するための統一フォーマットの作成、自殺の背景調査のガイドライン、そして、児童生徒を直接対象とする自殺予防教育の可能性についても検討した。さらにその年の11月には、3人の委員で米国のマサチューセッツ州とメーン州を視察してきた。ここで、米国では自殺予防教育は一生にわたるメンタルヘルスの基礎として行われていることを見てきた。ただし、自殺予防教育を行う前提条件として、関係者の合意形成、標準的・中立的な教育内容、そしてハイリスクの子が見つかったときのフォローアップ体制、の3つが非常に重要だということがわかった。
 平成23年度には、児童生徒を直接対象とした自殺予防教育の是非というものについて検討してきて、自殺予防教育だけを取り上げるのではなく、きちんとした健康教育の一環として予防教育をすべきであるという議論もあった。
 そして今年は、背景調査の指針について、実際現場で背景調査を行って出てきた、使いにくい部分や検討し直す必要がある部分を議題として取り上げたい。そしてもう一点は、自殺予防教育をするにあたって標準的な内容はどういうものにすべきかということを検討していきたいと思っている。
 では、早速今日の議題に入る。今日はまず中学校の先生から、自殺予防教育についての先生方の意識調査について話題提供をしていただき、自由討論に入ろうと思う。

(3)プレゼンテーション

【教諭】

 私からは、平成22年に、2名の委員とともに実施した自殺予防教育に関する意識調査について報告する。

<調査の概要>

  • 調査対象:A大学大学院の現職教員の院生及びB県、C県の公立学校教員の方々。
  • 調査時期:2010年7月~8月
  • 調査方法:無記名式質問紙法で、手渡しで配り、直接、その場か、あるいは後日回収。質問項目は、教員の「死」や「自殺」に対しての受け止め方、教員の視点からの自殺予防教育の認識について。

<調査の結果>

  • 教員が、自殺予防教育の必要性というのを認識していると感じた。
  • 「教員から見て、子どもたちの「いのち」の捉え方がどう変化しているか」という質問に対しては、子どもたちが「いのち」の大切さを理解していないと思われる言動が目立つと認識している教員が7割近かった。
  • 「直接自殺に関連する学校危機をどのくらい経験しているか」という質問に対しては、一定数の教員が自殺関連の危機に関わっており、自殺関連行動と言われる自傷行為に関わっている教員は、中学、高校では半数にのぼった。
  • こうしたことをうけてか、自殺予防教育に「非常に」「やや」関心がある、とこたえた教員は7割近くにのぼる。必要性については若干ポイントが下がるが、6割後半くらいの教員が「大いに」「やや」必要、と回答した。
  • 「保護者に対して自殺予防教育をする必要があるか」という質問には、6割近くが「大いに」「やや」必要、と回答した。
  • 関心や必要性は高い一方で、自殺予防教育を実際に行うことができるかという実施困難性については、8割後半の教員が困難を感じていると回答した。
  • 「どのような点について困難を感じているか」という点について複数回答で答えてもらったところ、上位三項目は、「知識や経験を持つ教員が少ないこと」「死別体験のある子どもへの配慮が難しいこと」「カリキュラムや指導案がないこと」で、高校の教員からは、「指導に関しての教員の共通認識を持つことが難しいこと」を上げている人が相当数見られた。自殺予防教育の中でよく言われる「寝た子を起こすことにつながる」を上げたのは18%だった。
  • 「自殺予防教育についてどのように考えるか」という自由記述欄では、必要性が低い、そもそも「死」とはどういうものか問う必要がある、実際に現状の中でどのくらいできるのか、などの声があった。
  • このアンケートと同時期に、養護教諭と指導主事に対して自殺予防教育についてインタビュー調査を行った。そこでは、自殺予防教育の必要性は感じるが、教員としては、「死」や「自殺」などの影の部分に目を向けることよりも、「力強く生きる」といった光の部分で働きかけることが大事ではないかという意見があった。恐らく現場の中学校の一定数の先生はこのような考え方に納得するのではないかと感じている。
  • アンケート調査でも、「いのち」や「死」「自殺」に対してどのくらいの割合で授業で関わっているかを聞いたところ、「いのち」については、「よく」「ときどき」触れるという教員が9割以上いたが、「死」については6割程度である。「自殺」については、ほとんど触れないという教員が半分以上であった。「いのち」や「死」に比べると、「自殺」について触れる機会というのは非常に限られていることが伺える。

<考察>

  1. 学校現場は非常に多忙であり、カリキュラム上の余裕はないのではないか。また、指導にあたる際にカリキュラムや指導案がないということが困難にさせているのではないかと思う。そうしたことから、新しい取組を行うのではなく、既存の活動を生かすことや、一定の指導の指針を策定することが必要ではないかと考える。
  2. 教員には、死別体験を持つ生徒への配慮を第一に考える傾向があるため、自殺予防教育を行うことに躊躇してしまうのではないか。
  3. 死や自殺を扱う指導については、非常に現場の戸惑いや抵抗感が強いことが伺える。こうしたことから、意識の変革や理解を促すための職員研修の充実が必要ではないか。
     最後に、この調査と並行して、実際現場でどのような自殺予防教育ができるのかについて、委員の先生の指導の下、私の在籍校で、社会科、保健体育科、家庭科の中で学習指導要録の指導項目に含まれている内容と関わらせた指導等の取組を行った。報告は以上。

(4)自由討議

【委員】

 それでは自由討議に移りたい。この調査の結果は非常に妥当な結果に思えるが、一緒に調べた委員はどう思われるか。

【委員】

 まず、「寝た子を起こす」が低いのは、先ほどの話にもあったように、現場の教員は子どもたちがもう起きていることを感じているからではないか。そしてもう一つ、命の大切さを理解していない子どもが多いという回答が多かったことについて、私は、命が大切ということはみなわかっているが、大事にできない環境なり、自分との折り合いのつかなさなりがあるのだと思っている。そこを理解して、「命の大切さはわかっているのに命を大切にできない」、という子どもの問題に教員がどう関わるかを考える必要があると思う。

【委員】

 児童生徒を対象にした自殺予防教育の必要性については多くの教員が感じているが、いざ実施といったときには、恐らく自分が実施主体になると考えるため、実施困難性の数値が高く出てくるのではないだろうか。指導案がなく、カリキュラム上の位置づけがわからないという点で、果たして本当に自分が教えられるのかという懸念があるように思う。
 そしてもう一つ、児童生徒への自殺予防教育を考えた時には、大人である教員自身の自殺観や死生観、自殺や死に自分がどう向き合えば良いのかという不安が投影されるのではないだろうか。教員自身を対象に自殺予防教育をというと抵抗が予想される。でも、子どものために、ということで展開していくと、それが結局教員自身の自殺予防にも重なってくるものの抵抗は少なく取り組んでくれる。そうしたことを考慮しながら、教員自身の自殺や死に対する意識の変容を考えていくことが必要ではないかと思っている。

【委員】

 教員を対象とした自殺予防教育には抵抗があるのか。

【委員】

 恐らく、教員自身が自殺や死に向き合う上で不安や抵抗があるのだと思う。それを取り除くために、教員自身の意識を変える必要があると思っているが、それを変えるという目的を全面に出すとなかなか難しい。しかし、教員は子どものために、という目的ではとてもよく動く。従って、子どものための自殺予防というのを教員向けに実施することで、教員自身の意識の変容を多少なりとも引き出していく。これが前提ではないか。

【委員】

 先ほどの発表では、既存のカリキュラムの中で自殺予防を取り上げるという話だったが、これをやった直後に、自殺予防にかなり焦点をあてた教育を行うことはできないか。やはり「自殺予防」ということにするとかなり抵抗はあるだろうか。

【教諭】

 この取組をしたのが2010年で、連鎖自殺があった年だった。その中で、予防とはいえ自殺に関わる指導をすることに対しては、何かあっては責任がとれないということで、現場の抵抗感は非常に強かった。そこで、あえて授業の中では自殺という言葉は出さないが、自殺予防につながる授業や取組ができないかと考えてこのような取組をさせてもらった。

【委員】

 重ねてお聞きしたいが、委員が行った自殺予防教育は、最初、命の大切さのような話から入っていって、7~8回目でかなり自殺予防に特化した話を入れていくというものだったが、そのあたりはどうお考えか。

【委員】

 色々是非はあると思うが、自殺や死を考えることは生きることを考えることなのだという共通理解ができていれば、自殺という言葉を出しても危険度は少ないと思う。それでもハイリスクの子どもは揺れる可能性があるが、そのフォローアップを養護教諭やスクールカウンセラー、また、担任や学年団、医療の専門家と連携ができるのであれば、自殺予防教育は可能だと思う。
 自殺予防教育を実際に実施したところ、子どもたちからは「良かった」の声が6割、「ほぼ良かった」も含めると9割が良かったと言っていたし、同僚の教員からも、自殺予防教育でも全然暗くなく、またやりたいとか、死ねという言葉が聞かれなくなったという声があった。自殺だけ取り出してやすのは色々抵抗もあるかもしれないが、それまでの取組があればできるのではないだろうか。

【委員】

 報告の中で、教師の自殺予防教育の捉え方は様々であるという話があったが具体的にどういう自殺予防教育を行うかについて、回答をした教師はそれぞれがそれぞれにイメージしている自殺予防教育について回答を行ったのだろうか。

【委員】

 当時は現在ほど自殺予防教育が広まっていなかったので、先生方はそれぞれの主観で自殺予防教育をとらえ、回答したのではないかと思う。今も、「自殺予防教育」というものについて、共通のイメージを持つのは難しいのではないか。

【委員】

 最初に、自殺予防教育を推進する3つの条件として関係者の合意形成というのが上げられていたが、合意形成をしてからプログラムを検討していくという考え方をしている限り、合意形成はできないのではないかと今の話を聞いて改めて思った。具体的なイメージと、合意形成を同時並行的に行っていくことが重要なのではないだろうか。

【委員】

 教師と話をすると、まず、大人の自殺者が毎年3万人を超える中で、親も含めて親戚が自殺した経験を持つ子どもたちはかなりいる。その傷ついた子どもたちに、「自殺をしてはならない」と言えるだろうか、と現場の教師は危惧している。
 もう一つは、教師の切実感の問題。学力向上、生徒指導、特別支援教育、10万人以上いる不登校への対応など、様々なことを抱えている教師は、自殺の問題は学校生活の中での切実感とは少し遠いところにあるという認識を持ってしまうことがある。また一方で、いざ自殺予防教育を実施しようとしても、カリキュラム上の余裕が全くない。やはり、先ほどの発表にもあったように、既存の活動の中に自殺予防をどう生かせるのかが大事だと思う。

【委員】

 今学校には、「○○教育」というのがたくさんある。その中でまた新たに自殺予防教育を行うのは苦しいと思うので、既存のカリキュラムを整理して生かすのが大事だと思う。また、自殺予防教育の考え方や進め方といった基本的なことについて、学習指導要領に準じるような形で出していただくと学校は取組みやすいのではないかと思う。
 また、ハイリスクの子どものフォローアップということについては、子どもたちの表情や態度の変化を、一人ではなく複数の教員でキャッチするなど、体制づくりについても指示する必要があると思う。

【委員】

 学校でいくら自殺予防教育をしても、子どもは単独で存在しているわけではないので、家庭の問題が必ず出てくると思う。家庭と一緒に何かできたらと感じている。

【委員】

 アメリカの自殺予防教育では、生徒主体のもの、教師主体のもの、保護者対象のもの、の3本を柱にしている。

【委員】

 ハイリスクの子どもの後ろには、自殺の危険性の高い親がおり、逆もまた然りなので、連携しなければ子どもの命は救えないのではないかと思っている。

【委員】

 保護者に対して自殺予防教育のようなことを行った経験のある委員がいれば教えてほしい。

【委員】

 心の危機にどう向き合うかなど、自殺という言葉は出してない中でも実態は伝えたことはあるが、模索中である。

【委員】

 地域の青少年健全育成の集いで保護者対象に自殺予防教育の話をしたことはあり、熱心に聞いていただいた。ただ、学校の中でやるのと地域の集いでは保護者の受け止め方は違うかもしれない。

【委員】

 リーフレットを作って広げていく流れの中で、少しずつ学校で先生方が授業をし始めてくれたりしていることで、地域から声があがり、市民センターの研修会を行うなど、少しずつ広がってきているという実感はある。
 少し別の話だが、いかに既存の取組をうまく生かしていくかという視点は何をやるにも定着をしていく上で重要だと思っている。たとえば、先ほど「○○教育」がたくさんあるという話があったが、そこに含まれる性教育や薬物乱用防止教育はほとんど自殺と近い話。ベースになるのは、自分自身を大切に思える自尊感情、自分の衝動をコントロールするストレスマネジメント、その上で危機に陥った時に援助を求める力。そのベースの上に、薬物乱用防止教育なら薬物乱用防止に関する知識、自殺予防なら自殺予防に関する知識をつけていく。そうしたトータルな子どもの健康教育という体系化が必要ではないか。現場では、薬物のことでいっぱいいっぱいなのに、今度は自殺予防教育が来た、という捉え方をされがちだが、本当はベースの同じところをきちんとやっていれば良い話。子どものことを考えて一体化できると、余分な負担感も減り、意味のあるものになるのではないか。

【委員】

 それをしていく前提として、私はやはり教員の意識が大事だと思う。直接自殺予防と言わなくても、ここが自殺予防につながっているのかどうかを意識していくことが非常に大切なのではないか。

【委員】

 先ほどの発表の中で、中高の教員の半分以上が自傷行為という危機的な対応経験を持ち、自殺未遂や自殺への対応経験も1、2割近くあるという話があった。自傷行為を見た教師や、子どもが死にたいとつぶやくのを聞いた教師は、それに対してどのように対応することとしているのか。

【教諭】

 生徒指導に関わることについては、たいていの学校では生徒指導部や生徒指導担当の先生がいて、対応については共通理解ができているのではないか。特に自傷行為については、養護教諭が中心となって教育相談コーディネーターと関わって外部とつなげたり、家庭と向き合ったりという形で対処しているのではないかと思う。

【委員】

 先生方は、自傷行為というのは死や自殺とつながるという認識なのか。

【教諭】

 自傷行為イコール自殺関連行動と全ての教師が思えているわけではない。一種のアピール行動だとか、今回は死につながることはないと判断することも場合によってはあるのではないか。
 子どもが死にたいとつぶやいた時…という質問についてだが、残念ながら、教師に対して悩みを打ち明ける割合は全体の中ではまだ少ない。中学生の場合は多くは同級生や親しい友達に打ち明けることが多い。教師に死にたいという気持ちが伝わればたいていの教員は色々な機関に働きかけたり本人と向き合ったりするが、実際にはその死にたいという気持ちが教師に伝わらないことは多い。

【委員】

 親や教師に悩みを言わず、同世代の仲間に相談するから、言われた方もどうして良いかわからなくなり、どんどん泥沼にはまってしまう。だからこそ、子どもを直接対象とした自殺予防教育を欧米では大事に考えている。

【委員】

 養護教諭の会合でも自傷行為の話はよく出てくるが、養護教諭の先生たちも、多くはそれを自殺行為として取り上げるのではなく、アピール行動の一環として受け止めてあげるという対応が中心になっていると思う。ある意味では、傷がファッション化していて、多くの養護教諭は大げさに包帯を巻いてあげるといった対応でアピールに答えてあげるのが一般的ではないか。

【委員】

 発表の中で、教師は自殺予防教育の必要性は認識しているが、自殺そのものについて扱うよりは光の部分に働きかけたいと思っているという話があったが、これは一種の否認ではないか。光の部分に働きかけるのは、長期的に見ればレジリエンスを高めるという点で大切だと思うが、まさに今危ない状況にある子どもにどう手をさしのべるかということには応えていないのではないかと思うのだが、その点についてはどうだろうか。

【教諭】

 ここで応えているのは、生き方の指導という部分なのかもしれない。今そこにある健康教育、精神保険的なアプローチの部分の働きかけの意識というのはまだ教員間では低いのかもしれない。それを意識する機会もなかなかないように思う。

【委員】

 私の学校では、「死にたい」と教師に訴える子どもが結構いる。「みんなに言わないで」と相談してくることもあるが、そのときは、「あなたが生きるか死ぬかという問題は、自分一人で抱えるべき問題ではない。校長先生、生徒指導の先生、担任の先生に私は話さなければならない」と了解を取った上で、すぐに情報を上げるようにと指導している。本気で死にたいと思っているケースは希だが、どこで何を見極めるかは非常に難しいので、死にたいと行ってくる子にはそのように対応するようにと教師には言っている。

【委員】

 やはり教員の中に抵抗感があると思う。

【委員】

 先ほどから、すでに現場の教員が担当しなければならないカリキュラムがたくさんあるという話が出てきているが、それを言い始めるときりがない。子どもの命を守るということを最優先課題とするならば、忙しさはあるにせよ、何とか工夫して自殺予防教育をしていかなければならない。
 すでに様々な形で自殺予防教育と称して現場に入ってきてしまっている人がいて、かなり偏ったことを子どもに教えていたりもする。だから、実際に自殺予防教育をするのであれば、ここは押さえてほしいというものはこの会議としてきちんとまとめていくということで、我々の意見はまとまっていると考えて良いだろうか。

【委員】

 先ほども言ったとおり、何か形にしてからでないと合意形成はできないと思う。先生方の意識が変わるのを待つとか、忙しくてもやりたくなるのを待つとか、それはそれで整える必要はあるにせよ、それを待ってから形にするのではなく、現時点でできる現実的なことを進めながら合意形成をしていくべきだと思う。

【委員】

 今話をしている自殺予防教育は、どちらかというと学級全体に向かって行う指導体系を想定していると思う。しかし、そうすると色々な子どもたちがいることから躊躇するところがあるかもしれないので、たとえばもう少し小さなグループで専門の方に来ていただいて話をして教育するというグループワークという方法もあると思う。授業形態や指導形態も様々に考えていけたらより効果的ではないだろうか。

【委員】

 これだけ関心が高まっている今はある意味チャンスではないか。ここで何らかの形を出すべきだろうと思っているし、それが教員の意識を変えることにもつながっていくと思う。ただ懸念がこれだけあるので、スクールカウンセラーや養護教諭が連携して、担任の負担感を取り除くような形で展開していくということを考えながら、試行的であれ教材化を進めていく必要があると思う。

【委員】

 「死にたい」という言葉や自傷行為、そうしたものを否定したり闇の部分としてしまう教育現場は怖い。それは闇の部分ではなく、子どもたちは現実に死にたいと思っていて、それを口で表現できなくて自傷行為をしてしまう。そうしたことを繰り返すうちに本当に自殺してしまう子どももいるので、死にたいと思う気持ちを、当然なんだと肯定する、闇ではないと肯定する、そこから出発する学校になってほしいというのが私の願い。自殺予防教育を通して、子どもたちは光も闇も持っていて当たり前、その両方をちゃんと抱えてあげるという学校になってほしいと思う。

【委員】

 自殺予防教育というから難しくなるのかもしれない。問題を抱えることは誰にでもある、あなたの年代だけではなく、一生ある。問題を抱えても良い、ただし一人で抱え込まずに、誰かにつなぐことが大事だというメッセージが大切だ。

(5)今後のスケジュールについて

 最後に事務局から、今後のスケジュールについて説明があった。

―了―

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課生徒指導室