児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成22年度)(第3回) 議事要旨

1.日時

平成23年1月5日(水曜日) 14時~16時

2.場所

文部科学省 旧庁舎第2会議室

3.議題

  1. 背景調査の検討課題に関する検討状況について
  2. 自殺予防教育に関する米国視察報告について
  3. その他

4.出席者

委員

高橋主査、新井委員、川井委員、河野委員、菊地委員、窪田委員、阪中委員、坪井委員

文部科学省

磯谷児童生徒課長、郷治生徒指導室長、清重児童生徒課課長補佐 他

オブザーバー

厚生労働省、内閣府

5.議事要旨

開会

議事

(1)児童生徒の自殺の背景調査に関する検討状況について(検討経過の骨子)(案)等について、背景調査ワーキンググループより報告があった。
(2)米国における自殺予防教育について、米国調査ワーキンググループより視察報告があった。

 

1.背景調査ワーキンググループからの報告

(1)報告

【委員】初期手順のモデル(案)は、前回の会議における議論を図式化し、詳しい調査に至るまでの流れを標準化したもので、あくまでも一つのモデルである。基本的には、「子どもの自殺が起きたときの緊急対応の手引き」に示した事後対応を丁寧に行いながら、教職員や子どもからの聞き取り等、学校でできる初期調査を早急に進めていき、その後、初期調査の経緯について遺族への説明・協議、詳しい調査の実施、調査計画の策定、遺族への提示と協議、保護者への説明、といった手順を経て、必要と判断されれば、詳しい調査の実施に至るという方向性である。また、各段階ごとに、事後対応や背景調査に精通した専門家からの助言が得られる体制を平常時に整備しておくことも必要と考えられる。

 次に、児童生徒自殺(疑い)事案報告については、前回の会議から内容はほとんど変えていない。様式の案については、現在、アンケートを実施するなど学校現場の声を収集しているところである。

 背景調査の指針については、意義・目的を再確認し、自殺の要因は複数の場合が多いことから、学校要因、個人要因、家庭要因のそれぞれの要因に留意して調査を進める必要性を確認した。更に、自殺に至る過程をできるだけ明らかにし、自殺防止につなげていくことに大きな意味があるということを確認した。

 調査委員会の設置・運営主体は、基本的に学校を設置する教育委員会であり、学校において設置を決定する場合もあり得ること、調査委員会が御遺族の要望・意見を聴取し最大限の配慮と説明をするように努めることを確認した。

 調査委員会の委員構成は、外部の専門家の協力を得て分析・評価の専門性や中立性を高めることが考えられる。また、専門家の人材確保については、例えば都道府県教育委員会、又は政令市教育委員会において、平常時に人材確保のための方策を講じておくことが望ましいということを確認した。

 調査する事項と方法については、調査方法および調査結果の分析の際に配慮すべき点を確認した。

 調査で得た資料の取り扱いについては、プライバシーの問題等から安易な公表は避けるべきであり、外部への公表、又は遺族への提供に当たっては、調査の実施に先立って対象となる子どもやその保護者に説明し、了解を得る必要があると考えられるとした。

 調査結果の分析については、信ぴょう性をしっかり確認する必要がある。同様に総合的に評価分析をしていくという点で、全体としての吟味が必要になる。その際に量的に十分であるのか、質的に十分であるのか、あるいは情報が偏っていないのかというようなことをしっかり配慮していくことが重要であるということが確認された。

 警察の捜査の進展状況と背景調査の開始の関係については、この調査は警察の捜査とは目的が異なることや、警察の捜査に全て任せればいいということではないことを確認した。

 家庭に関連する部分の調査は、信頼関係の構築の重要性と、御遺族に適時説明することの重要性を確認した。

 報告書の作成ついては、事実と分析評価をしっかり区別することや、学校要因、家庭要因、個人要因に分けて自殺への影響を分析評価することが望ましい、というところまで検討を進めた。

 報告書の公表についても、公表する対象や、報告書の公表に当たっての御遺族への事前説明の必要性、中間報告等の必要性について、引き続き検討中である。

 

(2)質疑

【委員】自殺が起きた際に遺族が一番知りたいのは、学校で何が起きていたのかという事実である。学校は事実を明らかにするという視点に立ってほしい。ただし、本格的な調査に当たって、相手が子どもであるゆえの難しさを理解して進めなければいけない

【委員】いろいろなことを進めていくときに、御遺族、ほかの保護者へしっかりと説明し、了解を取りつけながらやっていくということが大事。

【委員】現場の視点で考えると、家庭に関連する部分の調査が難しい。保護者の方、遺族の方と信頼関係を構築することが重要。

【委員】なぜ、学校要因だけではなく、個人要因と家庭要因の調査が必要なのか。

【委員】学校による要因だけで自殺に至ることもあるが、個人の考え方の特性や見落とされがちな精神疾患の影響、家庭の様々な事情など、いろいろな要因が絡んでいると考えられる。現在は、どうしても学校でいじめがあったかどうかに焦点が当てられてしまい、その結果、子どもの自殺予防はいじめを防止することであるという発想になってしまうが、実際は、特に10代後半の子どもの自殺の背景に精神疾患や家庭における養育の問題等も絡んでいる可能性がある。そういった点に着目されなければ、本当の意味で自殺予防にはつながらないのではないか、という観点である。ただし、自殺に至るプロセスの原因が全て分かるものではないことに留意する必要がある。

【委員】背景調査は、学校の責任追及の視点ではなく、自殺の予防の視点であることを明らかにしておかなければいけない。

【委員】調査の当事者に学校が入っていると中立性を保てないという意見もあったが、現実問題として、第三者だけで学校の中の情報を収集するのは極めて難しく、学校の関係者がある程度入ることはやむを得ない。

【委員】学校がまず初期調査で自分たちができることはすみやかに実施することとし、そして、何らかの学校にかかわる要因が考えられる場合には、学校の側から早い段階──ここでは一応1週間以内が望ましいとあるが、遺族に説明して、もしかしたら学校にかかわる要因があるので、少し詳しい調査をしたいということを学校から遺族に提案することとされている。その際、調査委員会を立ち上げるかどうか、その点も含めていろいろな協議をし、御遺族が納得されておれば学校、関係者が入った委員会としたり、あるいは、委員の構成で納得されないということであれば、第三者性の強い委員会とするなど、御理解、御協力いただくための働きかけが必要ではないか、とされている。

 本格調査を実施するかについては、学校又は教育委員会が判断することになるが、御遺族からの申し出を待つのではなくて、問題点を直視して早い段階から提案をするということについて、前回の会議と同様に、重要な視点である。

【委員】事実と向き合うことが、御遺族のケアにもつながる。学校、あるいは教育委員会が事実と向き合うとが自殺防止につながっていく、という覚悟を持って事に当たれるかどうかが重要である。実際に調査を進めていく中では、家庭要因等の複雑な要因を扱うため、遺族との信頼関係を構築できるキーパーソンがいるかどうかも重要ではないか。

 

2.米国調査ワーキンググループからの報告

(1)報告

【委員】11月14日から11月21日にかけて、マサチューセッツ州(ボストン)と、メイン州(ポートランド)を視察した。

 まず、マサチューセッツ州では、学校における自殺予防のカリキュラムが、生涯のメンタルヘルスの基礎として重要であると認識されていた。教育も含め、研修・訓練のシステムがしっかり整備されており、教員以外にも、いろいろな人を対象としたセルフケアのプログラムも実施されている。SOS(signs of suicideの略)の訓練を実際に受けることができた。

 続いて、ダンヴァースの高校とバーンステイブルの高校では、それぞれの高校における自殺予防教育を視察した。ダンヴァースの高校では、10年生の学年全員に自殺予防教育が行われていた。バーンステイブルの高校では、スクールカウンセラー2名と担任が一緒になって活動しており、日ごろから生徒を見ている担任の教師と、メンタルヘルスの専門家と、地域とが一緒になって取り組んでいた。各地域において地域の必要性に応じた臨機応変にプログラムが実施されていた。

 次に、メイン州では、アメリカで最も自殺予防教育を実践している州であり、独自に冊子を作成し、教員をはじめとした専門家のトレーニングを実施している様子を視察した。メーン州における自殺予防教育では、1.自殺予防教育を実施するにあたり、十分に議論して、全教員の合意形成を図る。2.カリキュラムを担当する教師に適切な訓練を実施する。3.ハイリスクと思われる生徒を発見した場合に連携できる地域の専門家とのネットワークを作る。4.保護者に教育について説明し、同意を取る(不同意の場合は、生徒は自殺予防教育を受けることはできない)。5.自殺予防教育を実施する。とくにACTが強調されている。ACTとは、Acknowledge (他の生徒の問題に「気づく」)、Care (誠実な態度で「関わる」)、Tell a trusted adult (生徒同士の秘密にしないで、かならず信頼できる大人に「つなげる」)の頭文字を取っている。「気づく」「関わる」「つなげる」が強調される。6.最後に、アンケートを実施し、危険度の高い生徒に関しては、その後、適切なケアを継続させる。このような流れで、自殺予防教育が実施されているが、生徒、保護者、教師から概ね好意的に評価されている。

 ここでは、リスクの高い生徒と普通の生徒とを一緒に教育すると、危険度が増すのではないかという話があったが、先にスクリーニングして、一般の生徒とハイリスクの生徒を分けてカリキュラムを実施するのは費用面から現実的ではなく、健康教育の一環として全生徒を対象し、フォローアップを丁寧に行っているとのことであった。

  まとめとしては、自殺率は先進国中でも比較的低いにもかかわらず、アメリカでは積極的な自殺予防対策が実施されており、NPOなどの様々な主体が多様なプログラムを提供している。州によって、教育の内容も指導者も違っており、地域の実態・特性に合わせて実施されているが、それぞれの地域ではおおむね好意的に受け止められていた。そこには、青少年の命を守るという考え方が大事にされているのを肌で感じることができた。

 また、こうした教育が健康教育の一環として、生涯にわたるメンタルヘルスの基礎となるように長期的な取組として授業に位置づけられていた。リスクの高い生徒たちに対する徹底的なフォローアップ体制も用意されていた。実際のプログラムの進め方は、自殺の深刻さについて教師間で合意形成し、指導にあたる教師には適切なトレーニングが用意され、地域の専門家ともしっかり連携した取組がなされていた。更に、学校にはスクールナースやスクールカウンセラーなどの心や体の専門家が常勤しており、常に相談に行くことができている。

 

(2)質疑

【事務局】高校の授業におけるカリキュラムの具体的内容や、生徒に対してどのように先生が授業を展開しているかについて、紹介して欲しい。

【委員】メイン州の例だが、大きな枠組みとして四つのセッションに分かれている。一つ目は、自殺の基本的な事実や原因について知る時間を設けている。二つ目は、自殺の危険を知らせるサインについて知り、自殺について尋ねるときに使う言葉、実際の関わり方など、友達をどのように助けるのかを具体的に学ぶ。三つ目は、自殺の危険の高い友達への対応の仕方として、精神科医、臨床心理士などの学校の中の資源について知り、どのような助けを得ることができるのかを学ぶ。四つ目は、困っている友達を助ける力を実際に身につけるために、ロールプレーを通じて、学んだことをどのように生かすのかについて実践を行っている。

【委員】自殺予防教育のプログラムは各学区の自主性にゆだねられている。共通する核の部分は、自殺の実態と深刻さをデータで伝えることであり、そこに価値観・道徳観といった内容を含めていない点である。もう一つは、子どもが実際に問題を抱えたときには、同世代の子どもに相談することが圧倒的に多いため、ACTの考え方に沿って、現実的な対応の仕方をきちんと伝えるべきであるという考え方に立っている点である。

【事務局】これらのカリキュラムは、誰が教えているのか。

【委員】視察した2つの高校でも、それぞれ担い手が全く違う。教員の場合もあれば、カウンセラーの場合もあるなど、学校によって多様であり、それ故に、いろいろな人へのトレーニングがしっかりシステム化されていると考えられる。

【事務局】キットはどこが開発しているのか、また、どの程度普及しているのか。

【委員】州が実施するものではなく、地域の取組を州政府が支援するという形であるため、はっきりした統計はないが、担当者の感覚では、SOSプログラムを使って自殺予防教育をしている学校がマサチューセッツ州で約10%、その他の何らかの形で自殺予防教育をしている学校が約90%程度のようだ。

【事務局】ハイリスク者のスクリーニングとフォローアップは、考え方として必須なのか。スクリーニングは精神医学的なものを使っているのか。また、フォローアップにおける家庭との連携や、家庭自体が難しさを抱えている場合の教師の負担など、何か情報収集した内容があれば教えて欲しい。

【委員】スクリーニングについては、二つの高校を比較しても、リスクがあるとして拾っている人数が相当異なるため、学校によってとらえ方が違うと推測される。

 フォローアップの考え方はとても重視されており、メイン州では必須とされている印象を受けた。マサチューセッツ州のバーンステイブルの高校では、1か月間の自殺予防教育月間にスクールカウンセラー2名が常に各クラスを訪問し、直後のスクリーニングでリスクが高いと判断された子どもには、その日のうちに保護者と連絡を取りスクールカウンセラーが面談し、その中で専門的な治療が必要と判断された生徒は地域の専門家に紹介するという一連の流れができていた。

 保護者に関しては、事前に必ず同意をとって自殺予防教育を始めるが、受けさせたくない場合に非同意を明確にし、それ以外は同意と見なす形式であった。やりとりが可能な保護者に関しては、フォローアップの段階で連絡がとれていると思われるが、そこから漏れる保護者に関しては難しい問題もあることが推測される。

【委員】スクリーニングについては、まずアンケートの点数でリスクの高さを判別し、点数の高い子どもを学校にいる専門家、たとえば、スクールカウンセラーが見て、専門の治療が必要な生徒は更に地域の精神科医や臨床心理士に紹介するという方針であった。例えば、精神科治療が必要であると診断された場合、受診させるのは学校ではなく保護者の責任であり、保護者が学校のアドバイスに従わない場合は一種の養育放棄と捉え、学校から児童保護局への通報が義務づけられている。

【委員】州ごとに統一的な教材やプログラムがあるのか、それとも、州の中でも様々な団体があり、各学校でそれぞれに取り入れているのか。

 また、教員やカウンセラーなど子どもに直接的に関わる学校の人員配置について教えて欲しい。

【委員】一般的には学級担任一人が25人程度の生徒を見ていると思うが、バーンステイプルの場合は三人(二名のスクールカウンセラーと一名の学級担任)で担当していた。また、メイン州では、養護教諭が800名に一人の割合で配置されている。スクールカウンセラーは学校によって異なるが、バーンステイブル高校では約2,000名の生徒に対し常勤で8名配置されていた。

【委員】健康教育の全体像と、健康教育から自殺予防にどのようにつなげているのか教えて欲しい。二点目は、教員の合意形成がどのように行われているのか教えて欲しい。三点目は、自殺予防教育が全体的に普及しているというアメリカの推進力が何なのか教えて欲しい。

【委員】健康教育には、育児、栄養、暴力防止、いじめ防止、薬物防止、ストレスなど非常に幅広いとらえ方をしている。しかし、州レベル、学校レベルで異なっており、必ずしも統一されていない。

 教員の合意形成については、バーンステイブル高校の例で言うと、教師が日ごろ生徒と接する中で、ハイリスクの生徒に気づいた場合どう対応すればよいか不安に思っている点を専門家との接点を持つことで連携が深まり、教師から感謝されているという話であった。

推進力は、青少年の命を守るという理念を大事に持っていることに加えて、知識を持ったり、スキルを身につけることで防げる要素があればやる、というアメリカ的な現実主義の思想を感じた。1980年代にアメリカで学校における自殺予防教育が始まった背景には、生徒の自殺が起きて、学校が適切な対処をしなかったという点について裁判が起こされたと言った点も現実にはあると思われた。

【委員】アメリカの健康教育という発想は、日本における、いわゆる命の教育とは異なるのか。

【委員】価値観という部分を外して、健康に生きることにかかわるさまざまな問題を現実的に取り扱っていくという姿勢に大きな違いを感じる。

閉会

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課生徒指導室