児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成22年度)(第1回) 議事要旨

1.日時

平成22年6月18日(金曜日) 15時~17時

2.場所

文部科学省 旧庁舎第2会議室

3.議題

  1. 検討事項について
  2. 自由討議  他

4.出席者

委員

高橋主査、新井委員、市川委員、川井委員、菊地委員、 阪中委員、坪井委員

文部科学省

磯谷児童生徒課長、岸田生徒指導室長、清重生徒指導調査官 他

オブザーバー

内閣府

5.議事要旨

開会

議事

(1)本年度の検討事項について事務局から説明があった。

(2)自由討議が行われた。

 

○自由討議

【事務局】平成22年版の自殺対策白書によると、我が国の年間の自殺者数が平成10年度以来12年連続して3万人を超えるという状況で推移している。子どもたちの自殺についても、毎年300人前後で推移しているという状況にある。自殺の問題は社会全体の話であり、子どもたちだけでなく大人社会の問題も含めて対応しなければいけないし、社会全体として自殺を予防するという流れをつくっていかなければいけない。

 昨年度の協力者会議の成果としては、「子どもの自殺が起きたときの緊急対応手引き」の作成と、自殺の背景調査に関する検討状況ということで論点整理を行った。今年度は子どもの自殺の背景調査の指針について、引き続き御検討いただきたい。また、アメリカをはじめとした自殺予防教育の先進事例についての調査研究も併せてお願いしたい。

 また、昨年度から要望のあった、自殺予防に関しての教員の研修については、引き続き、この会議の成果として出しているマニュアルや手引きの普及・活用を図っていきたい。

【委員】背景調査についてヒアリング等を通じて強く感じたのは、遺族にとって、事実が明らかになるということがケアにつながっていくということである。また、この子がなぜ死んでいったのかということについて、いろいろな誤解があるかもしれない。その死んでいった子どもの人権を守るという意味でも、事実を明らかにすることが必要と感じている。

 背景調査は、実態を伴わない形式的・表面的な内容になったり、あるいは逆に、いろいろなものが白日の下にさらされて難しいものが表に出てくるという懸念があって、なかなか踏み切れないところがある。しかし、背景調査をすることによって、学校の様々な問題点を明らかにし、次の自殺を起こさないように自殺予防につなげていく必要がある。

【委員】この調査研究で第1次報告が出てから、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」や「子どもの自殺が起きたときの緊急対応の手引き」が作成され、一つずつ取組が進んでいることを嬉しく思う。子ども自身が、又は子どもの保護者が自殺のリスクを抱えているということは特別なことではなく、普通の学校にも見られる状況である。文科省でいろいろな研修を重ねていくことは、教員、子ども、保護者それぞれにとって重要なことである。

【委員】東京都では、第三者機関である学校問題解決サポートチームがあり、弁護士や臨床心理士が、さまざまな親子と教師の間で起きる問題について、双方の話を聞いて、双方の合意を取ってから調査をして、子どもが健やかに学校で生きていくためにどうしたらいいかという解決案を出すという活動をしている。特に子どもが亡くなってしまった後の学校に対する保護者の不信感があるような事件の場合、突然に第三者委員会が立ち上がって、そこで調査をするというよりも、日ごろから学校問題に外部の人たちが入って解決するということに対しての保護者の信頼感があると、調査もやりやすくなるのではないか。

 先日、子どもの自殺防止には、精神疾患に対する正しい知識の周知が必要であると新聞記事にあった。記事を書いた医師によれば、いくら命が大切、と子どもに教育をしても自殺予防にはならず、危機にある子どもたちに対して、病気、精神疾患が自殺を呼ぶ危険があるが、それには治療法や対処法があるのだという知識も含めて子どもたちにきちんと教えてあげておくことが必要だという意見であり、関心を持った。

【委員】この会議の中で、非常にプロフェッショナルな議論をやっているという意識がある一方で、ここで議論していることが、将来どのように活かされるのか実感として得られにくいところがある。ただ、10年前と比べれば大きく変化している実感もまたある。ここでの議論や打ち出したものが5年、10年後に生かされることを希望したい。

【委員】大学生、高校生、中学生を対象に、自殺予防の冊子の一部を使って話をする機会を得るようになったが、しかし、学校現場はいろいろと課題があって忙しく、そうした時間を設けてもらうことも難しい状況にある。そうした中で、子どもに対しての自殺予防教育を実践していくことについて、考えていきたい。

【委員】日本の自殺者が年間3万人を超えており、働き盛りの人の自殺予防については、かなり社会の関心が深まってきたと思うが、いまだに子どもの自殺予防に関してはそれほど大きな関心を引いていない。時々、子どもの自殺が起きると、いじめ自殺の関連で大きく取り上げられることはあっても、すぐに忘れ去られてしまって、適切な対応をとられずに現在まで至っているというのが現状である。その中で、この会議の持つ意味は大変大きく、これまで何年かかけて、少しずつ積み上げてきたものが、今後、必ず子どもの自殺予防の非常に重要な方向性を示すものになると思う。わが国では従来、子どもを直接対象とした自殺予防教育はほとんど実施されてこなかった。「寝ている子を起こすな」という態度がいまだに根深い。欧米では、自殺の危機にある子どもが相談する相手は、同年代の子どもであることを認識して、子どもを直接対象とした自殺予防プログラムを始めている国もある。我が国もそろそろこのような取組について真剣に議論すべきではないだろうか。

 

○本年度の検討事項について

【事務局】検討事項としては二点あり、一点目は背景調査についての指針について、二点目は自殺予防教育、特に米国における子どもに対する自殺予防教育の現況調査についてである。

 平成21年度の本会議の「審議のまとめ」では、背景調査に関して、1.文部科学省への報告統一フォーマットの検討と、2.背景調査の指針の提示に向けての論点整理について、確認された方向性と今後の検討課題についてまとめている。

 報告統一のフォーマットは、事実関係の正確な把握に基づくデータを収集し、的確な自殺予防対策を充実させるため、児童生徒の自殺が発生した場合に全て報告されるよう協力を求めるものである。

 背景調査の指針の提示に向けての論点整理については、調査の意義は、学校に不都合なことも事実を明らかにしていくこと、「事実を知りたい」という遺族の希望に応えること、学校としての再発防止に努めること、といった点にある。報告書の作成及び公表に当たっては、自殺に至ったさまざまな要因を中立的に分析して、これらを再発防止に資するものとするということ、遺族に対しては、必要に応じて説明が必要であること、適切な報告がなされることが、遺族のケアにもつながるということ、といった点が重要である。これらを踏まえ、今年度は、背景調査の意義、調査委員会の設置・運営の主体、あるいは調査委員会の委員構成、調査の事項と方法、報告書の作成及び公表といった課題について、検討を行っていく。

 米国における子どもに対する自殺予防教育については、平成19年の第1次報告においても、自殺予防教育の実施についての提言があり、この報告書の中でも、米国のカリフォルニア州の高校の実践例についても紹介している。最近の状況では、マサチューセッツ州、フロリダ州、ワシントン州といったところでも先進的な事例があると聞いている。また、特に教師を対象にした子どもの自殺予防に関する教育を必修としている州として、ニュージャージー州、テネシー州、ミシシッピー州、ルイジアナ州などもある。どの辺を中心に現況を調査するかも含め、御検討いただきたい。

○自由討議

【委員】論点は整理されてきたと思うが、ここから具体的にどう進めていくかについては、難しい面がある。統一フォーマットについては、学校の中で、自殺は起こりうるものであるという認識を持つように働きかけていくこと、また、今の問題行動調査よりももう少し広がりと深みを持った調査をすることで、自殺について、学校として目の前にある取組とあわせて背景を理解していこうという構えが学校の中に生まれていくことが大事である。今、突然、背景調査や第三者委員会について言及しても、学校の中にどうしても抵抗のようなものが生まれてくるのではないか。学校の意識として、自殺について考えることがネガティブなものとして捉えられやすい。

 また、クラスの中にいろいろな状況を抱えた子どもいる中で、一律に自殺予防教育的なものをやってよいのか。危険因子を多く抱えているハイリスクの子どもに、一律に予防教育というのをやっていいのかどうか。先ほど、命を大事にしようという生命尊重的な教育だけでは、自殺予防につながらないのではないかという医師の意見について言及があったが、そうしたことが背景にあって、なかなか自殺予防教育には触れられない。

 学校現場に対して、背景調査に対する意識づけと自殺予防教育ということに対する研修と、両方を並行してやる必要がある。

【委員】学校では、学校内で物事を完結しようとする動きが強く、特に初期の段階では外からの働きかけにかなり抵抗するということを聞くが、現実にそういうところはあるか。

【委員】スクールカウンセラーが導入されて、変わった面はある。学校の中に外部から専門的な知識を持った人が来て、何らかの形で学校の課題解決につながったという経験を持ったところは開かれてきたと思う。しかし、いまだ内向きな面はあり、学校間連携すら進んでいないところもある。こうした状況を変えるには、担当者が定期的に顔を合わせてつながりを作るしかない。

 同様に、外部専門家が学校に入っていくことについても、日常的に精神科医や警察といった専門家にゲストティーチャーとして学校の中で話をしてもらう機会を作っている学校については、外に対して開きつつある。大学や、子どもの精神医療の専門家が近くにないような都市部以外についても、外部の人材が日常的に無理なく入れるように、生徒指導主事研修等でつなぎ役の教員を養成したり、外とつながる意識を管理職研修の中でもやっていくことが重要だと考える。

【委員】学校が専門機関と連携をとることに対して抵抗感が少なくなっていたとしても、児童精神科医は数としては少なく、診療を受けるまでに何か月も待たなくてはならないケースもある。学校現場でも連携について抵抗のないようにしていく必要があるし、医療機関の側でも、子どもたちを丁寧に診ていく体制を整えてほしい。

【委員】スクールカウンセラーが学校に入るようになって、少しずつ変化してきた。教育の中だけでやるのだといって内向きになると、深みにはまってしまう。教育に限らず、単一機関だけで全てを解決しようとする時代は終わったということを認識していかなければ、解決できなくなっている。

【委員】弁護士や医者を構成員とした第三者機関については、常設のものがあればそれに越したことはないと思う。

 子どもに対して、心の病気について教えることについては、そうした取組があってもいいのではないか。子どもは悩みがあっても、保護者にすぐに打ち明けなかったり、友達同士でも余り話し合わなかったり、逆にうんと話し合ってしまって、収拾がつかなくなってしまうなど様々ある。

【委員】自殺に対する一般の人の意識の差を日米間で比べたことがあるが、相対的に、アメリカ人のほうが、自殺というのは病的な問題が背景にあって、その結果として起きている悲劇だと考える率が高い。だから、その問題を早く見つけて解決しようと考える。対照的に、日本人は、自殺は起きても仕方がない状況があるとか、場合によっては責任をとる一つの手段だと考える傾向が強い。

 そのような文化差のようなものが背景にあるので、自殺の背景に心の問題が多くの場合関わっているということは、きちんと一般の人に理解してもらうようにしていく必要があるのではないか。

 ただし、全て病気というような形でくくってしまうと、それによる偏見がまた別の形であらわれてしまう可能性もある。

 アメリカの自殺予防教育を見ると、子どもに伝えるときに、人生の中で本当に困ってしまうことというのは必ず起きるのであり、そのときに、一人で抱え込まないようにしなさい、ということである。悩みを持ったときは抱え込まずに、必ずだれかに助けを求め、信頼できる大人にきちんとつなげるということを強調しているように思う。

【委員】学校のカリキュラムを見たときに、保健体育の授業で精神疾患について扱ったり、社会科の授業で債務の問題を扱ったり、自殺予防に関連しているものはたくさんある。自殺予防教育について改めてプログラムを組む必要もあるが、今やっていることの中で、自殺予防という観点を持ちながら工夫していくことで、変化していくのではないか。

【委員】米国における自殺予防教育の現況調査を今年度行うということだが、アメリカ以外の宗教的背景を持っている国の報告については何かないのか。

【委員】国のレベルとしてきちんとした自殺予防対策をしているところとしては、フィンランド、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランド等が考えられる。特にアメリカにモデルを求めるということではないと思う。

【委員】自殺に限らず、性虐待、売買春の問題等の関係で、性について子どもにきちんと教えてほしいというときに、寝た子を起こすなという論争は必ず起きる。

 現実に、死や性の問題で苦しんでいる子どもを目の前にしたとき、この子たちは寝てなどいないということをいつも感じる。本当は子どもは真剣に、薬や病気、性のことを知りたいと思っている。子どもたちに何でも大人の社会のものを全部さらけ出してしまえばいいという考えには賛成しないが、今苦しんでいる子どもたちに、真正面から向き合う必要があるのではないか。そのためには、先生だけでなく、精神科医や臨床心理士や、いろいろな方たちのチームの中でやっていく必要が出てくる。開かれなければ教育現場はやっていけなくなるという時期に来ているのではないか。

【委員】アメリカでも、大人が自殺の問題等をきちんと取り上げることが、子どものことを真剣に心配しているというメッセージを大人が示す方法になっているということはかなり強調されている。

 文科省の担当者に、20年ほど前に子どもの自殺予防についてレクチャーしたときに、当時の結論は、扱わなければならない問題だが、時期尚早であるということだった。文科省で、子どもの自殺予防について取り上げられるようになったのは、ここ四、五年のことである。問題がある以上、その問題をきちんと表に出して、みんなで取り上げていくことが、最初に私たちがとらなければいけない方針なのではないか。

【委員】日本社会の風潮として、明るいものはよしとされるが、ネガティブなものはなるべく見ないように、というところがある。しかし、自殺という言葉を用いなくても、テレビ番組等を通じて子どもたちは情報にさらされている。それをさらされていないという前提でやっているところに、過ちがあるのではないか。

【委員】昭和54年に、総理府の青少年の自殺問題に関する懇話会からいろいろな提言がされているが、当時も今と同様に、子どもを対象にした自殺予防教育の重要性が言われていたが、定着しなかった。今回、この5年間やってきたことについては、徹底させていきたい。

【委員】生涯の教職経験の中で、自殺や、自殺未遂などに教員が遭遇する確率は高いと考える。こういった問題を自分の問題として考えて、知っておく必要がある。

閉会

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初等中等教育局児童生徒課生徒指導室