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第9章 特別支援教育における教育の情報化

第1節特別な教育的支援を必要とする児童生徒達への情報化と支援

1.一人一人のニーズに応じた教育のあり方について

(1)一人一人のニーズと支援

 コンピュータ等の情報機器は,特別な支援を必要とする幼児児童生徒等(以下児童生徒という)に対してその障害の状態や発達の段階等,児童生徒の実態に応じて活用することにより,学習上の困難を克服させ,指導の効果を高めることができる有用な機器である。このような情報化に対応した特別支援教育を考えるに当たっては,個々の児童生徒が,学習を進める上でどこに困難性があり,どういった支援を行えばその困難性を軽減できるかという視点から考えることが大切である。

(2)支援を必要とする児童生徒にとっての情報教育の意義と課題

 情報化の推進は,支援を必要としている児童生徒の移動上の困難や,社会生活の範囲が限定されがちなことを補い,居ながらにしてさまざまな情報を収集・共有していくことによる,大きな社会的意義をもっている。また,インターネットをはじめとした広域ネットワークの世界は,参加する者の,国籍,性別,障害のあるかないかを問わない新たなバーチャル社会であり,そこに参加していくことは,障害のある人にとっての新たな積極的な社会参加の形態ということもできる。
 社会の情報化が進展していく中で,児童生徒が情報を主体的に活用できるようにしたり,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作,情報モラルを身につけたりする事はいっそう重要になっている。このような情報活用能力を育成するため,特別支援学校学習指導要領においては,「各教科等の指導に当たっては,児童又は生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,その基本的な操作や情報モラルを身につけ,適切かつ主体的,積極的に活用できるようにするための学習活動を充実する」と示されている。
 これらの課題は,小・中学校における指導と同様の課題であり,たとえ障害があるからといって変わる事はなく,他の章で示されているような活用を参考に指導を行うべきである。
 しかし,支援を必要としている人々は,その状態により情報の収集,処理,表現,発信などに困難を伴うことが多く,前述の情報社会の恩恵を十分に享受するためには,個々の状況に合わせた情報活用能力の獲得が特に求められる。こうした意味では,個々の困難の種類や程度に対応した情報機器は,支援を必要としている児童生徒の大きな助けになる。しかしながら,コンピュータをはじめとする現在の情報機器が必ずしもすべての人々に使いやすい仕様になっているわけではない。そこで,個々の身体機能や認知理解度に応じて,きめ細かな技術的支援方策(アシスティブ・テクノロジー)を講じなければならず,そのための研究開発や,さまざまな事例をもとにしたカリキュラムの研究を行わなければならない。

2.教育におけるアシスティブ・テクノロジーの意味

 障害による物理的な操作上の不利や,障壁(バリア)を,機器を工夫することによって支援しようという考え方が,アクセシビリティあるいはアシスティブ・テクノロジーである。これは障害のために実現できなかったこと(Disability)をできるように支援する(Ability)ということであり,そのための支援技術を指している。
 そして,これらの技術的支援方策を豊かにすることによって,結果的にバリアフリーの状態を実現しようということでもある。
 少しでも利用上の利便性を高めることを目指すリハビリテーション分野と比較して,学校教育では,個々の児童生徒の成長や発達をも視野に入れて,少し上の目標を学習課題とすることもあり得る。従って,学校教育におけるアシスティブ・テクノロジーは,個々に応じた個別の指導計画に沿って行われることになろう。そしてその目的は,単なる機能の代替にとどまらず,教科指導なども含めたさまざまな学習課題を行う上での支援方策ということになる。よって,より個別性が高く,また児童生徒の成長や発達に応じて絶えずきめ細かな調整(フィッティング)が必要になる。
 具体的な例を挙げれば,聴覚障害教育における補聴器のフィッティングなどがある。すなわち,補聴器は単に聴力の障害を補うためにとどまらず,学習における聴覚からの情報入力の確保に用いられ,また聞き取りや発声発語の訓練指導の手だてとしても用いられる。
 このように,支援機器と技術は,障害のある児童生徒の教育において欠かすことのできないものとなる。最近は情報機器の発達によって,多様なニーズに応じた機器が開発され,また利用されつつある。しかしながら,こうした機器の開発はまだ試作段階にとどまっているものが多く,特に障害のある児童生徒向けの機器は市場において多数が消費される性格のものでもないため,メーカーの開発姿勢も勢い消極的にならざるを得ない。一方学校においても,こうした機器の情報が十分に行き渡っていないこともあって,まだまだ学校教育におけるアシスティブ・テクノロジーの位置づけについての共通理解が図られているとはいい難く,本当に必要な機器が必要な児童生徒に提供されていない例もまだ見受けられる。
 今後はますますこうした機器による支援方策に期待が集まり,利用も進むと考えられるが,そのためにはさらなる開発の研究と,サポート体制の整備が望まれる。
 メーカーとリハビリテーション工学分野,特別支援教育センター等の教育機関と学校,そして保護者とのさらなる連携と協力が必要である。

第2節  小・中・高等学校における特別支援教育の情報化

1.発達障害のある児童生徒への情報教育の意義と支援のあり方について

(1)発達障害のある児童生徒への情報教育の意義

 発達障害のある児童生徒は,コンピュータなどの情報機器に強く興味・関心を示す場合が多いため,学習意欲を引き出したり,注意集中を高めたりする活用が想定できる。また,発達障害のある児童生徒は認知処理に偏りを持つことが往々にして見られ,情報機器によってその偏りや苦手さを補ったり,得意な処理をより伸ばしたりする活用も想定できる。
 ただし,通常の学級での一斉指導の場合,発達障害のある児童生徒の学びを支援する情報機器は,クラス全体の学習の目標や指導の流れに対して,自然かつ柔軟に使える道具であることが求められる.例えば,教材をコンピュータとプロジェクターで投影しクラス全員の興味を引きつけながら,視覚的に思考を促したり理解を深めたりするような提示は,機器の効果的な活用と言える。しかし,同じ一斉指導の時間であっても,例えば,支援の必要な児童生徒一人だけの机上にコンピュータを置き,その時間のクラスの学習の流れとはつながらない学習環境を設定していたとすれば,適切で効果的な活用とは言えないであろう。
 つまり,一斉指導の中で,発達障害のある児童生徒に情報機器を活用する際には,同時にクラスの多くの子にも効果のある活用方法が求められるし,発達障害のある児童生徒への指導の多くは他の子どもにも教育的な指導である場合が多いことに留意する必要がある。
 一方,通級指導教室における指導の場合は,学習環境を個別のニーズに合わせて設定することができる。その場合は,必要な情報機器を該当の児童生徒のために準備し,活用することが効果的と考えられる。
 次に,発達障害またはその傾向のある児童生徒の具体的な支援方策について,課題場面別に整理し情報機器の活用例を示す。

(2)具体的な支援方策

1.読み書きに関する場面

 読字や書字に困難さがある児童生徒の場合,読み書きは全ての学習の基本であるため,多くの教科の学力低下につながっている可能性がある。また,あわせて学習意欲や自己評価も下がっている状態が予想できる。その場合,読み書きについての意欲を引き出す活用と,読字や書字の作業自体の過程を支援することが大切である。

ア.読字や意味把握に困難さがある場合
 学習への意欲を引き出すためには,本人の語彙や理解のペースにあわせることができ,かつ視覚的にわかりやすく理解しやすい情報機器の活用が考えられる。例えば,デジタル教科書は,教科書と同じ内容について,任意箇所の拡大機能,任意の文章の朗読機能,絵や写真についての追加説明,動画やアニメーション機能などデジタル処理ならではの機能を持たせ,マルチメディア性とインタラクティブ性などの特性を併せ持つコンピュータの特徴を活かした教材として再制作されている.したがって国語の単元での文章理解,新出漢字の学習など,一斉指導の場面で活用できることが大きな特徴である。また,読字の支援としては,コンピュータでの使用を想定して製作された教科書の録音教材がある。機能としては,文章を音声朗読しているところが自動的に反転表示されるため,読み手は視覚的にわかりやすく,反転表示は,一文ごとや文節ごとなどの設定ができる。また,朗読箇所に対応して挿絵や写真を表示することができるため,言葉のイメージをつかみやすいという特徴がある。さらに,情報機器とはいえないが,支援のための教材として視覚に困難さのある児童生徒のために製作されている拡大教科書がある。通常の教科書と同等の内容について,文字を大きくし,文章や資料を精選して拡大提示しているところが特徴であり,読みの困難さの大きい児童生徒にも活用できる。

イ.書字の困難さがある場合
 学習への意欲を引き出すためには,文章を書くことへの抵抗感を減らし楽しんで記録したり大切なことをメモしたりできる情報機器の活用が考えられる。
 例えば,小型で携帯でき,スイッチオンと同時に起動するキーボード型の文章入力装置がある。OSの概念を意識することなく使用でき,スイッチを切っても文章は保存されている。さらに軽くてバッテリーの持ち時間が相当に長いため,文章を手軽に入力できるキーボードとしてどこでも手軽に使える.また本格的な文章作成機器としては,ワードプロセッサが代表的である。これは,コンピュータ等で利用するソフトウェアである。ただ,ノート型コンピュータなどが必要であり,起動に時間もかかり,電源確保等の課題があるため,どこにでも持ち運んで,スイッチオンと同時に文章を入力したりすることは現在のところは難しい。しかし,機能が高いため使用法を習得すれば,優れた文章作成機器として使用できる。また,書字のトレーニングに使用できる機器としては,タブレット型コンピュータ及び携帯型のペン入力型ゲーム機等がある。これらは,通級指導の時間の書字トレーニング用の機器として活用が想定できる。書字のトレーニングソフトなどを活用することで,興味や注意を持続させながら,通常の書字とは違うインタラクティブな反応を得たり,書字のスピードや形状,書き順の記録をとったりすることでトレーニング効果を自己評価することもでき,さらに指先の微細なコントロールのトレーニングとしても使える。また,漢字や英単語等の記憶のトレーニングとしても意欲的に活用できる。
 書字の困難さがある児童生徒は,教師の板書にノート筆記のスピードがついて行けないため書くことが苦痛であったりやめてしまう場合もある。そのような場合,例えば,デジタルカメラに撮影して板書記録を残しておくことで,ノートテイクの補完をすることも考えられる.また別の方法としては,ノートテイク用に,児童生徒の書字しやすい升目の大きさのワークシートを教科別に複数種類用意しておき,児童生徒が自分で選んでプリントアウトし,そこに鉛筆で書字するということも想定できる。さらに,校外学習でのインタビューなど,大切な話を聞いてノートに書く場合には,小型軽量のデジタル録音機を活用すれば何度も再生できるため,メモ代わりにすることも可能である。

2.一斉学習での教材提示に関する場面

 一斉学習の中では,注意集中が続きにくい児童生徒や,聞き取りの苦手さがある児童生徒の場合,長い話し言葉での指示よりも,短い言葉による指示とあわせて,視覚的な指示と教材提示が有効とされている。そこで,児童生徒の興味を引きつける視覚支援の情報機器の活用が考えられる。例えば,デジタル黒板は,旧来の黒板とチョークによる提示に比べて,板書を記録したり,その場でプリントアウトしたり,動きを提示したり,大切なところを強調したりなど,より効果的な活用ができる。前述のデジタル教科書はプロジェクターとあわせて使うことで,教科書教材やコンテンツに含まれるデジタル資料を拡大して一斉提示することが可能である。拡大投影装置として必須のプロジェクターの機能も向上しており,明るい教室であっても見やすく提示することが可能となっている.
 さらに,デジタルカメラがあれば,体験したことや観察したものを映像として記録し,プロジェクターとあわせて使うことで,一斉に提示することができる。

3.クラスのルール,決められた手順,役割分担,見通し,行動修正に関する場面

 高機能自閉症などの傾向のある児童生徒の場合,自分なりの手順や方法にこだわったり,興味のあることに引きずられてしまったり,逆にルールを守ることにこだわりすぎて対人関係でのトラブルを起こしたりする場合がある。そのような場合には行動の見通しが持てるよう情報機器を活用することが考えられる。例えば,朝の会の場面で,その日に必要なクラスでのルール,準備物,手順,役割分担について教室に視覚的にディスプレイし確認できるようにすることが効果的である。ディスプレイは紙に手書きという情報機器を使わない方法や,事前に入力したスケジュールにもとづき自動的に表示するという情報機器を活用した方法もありうる。また,時間の見通しを持たせることで,集中を持続させること,気持ちの切り替えをすることをねらう場合の支援機器としては,残り時間を拡大して量的に直感で把握しやすく表示するタイマーも市販されている。さらに,本人が目標に向けて努力したり達成したりしたときに,ほめられた記録やポイントが残るシステムにより,望ましい行動の獲得をめざしたり,その結果を取り組みの以前の状態と比べて評価したりすることにも情報機器の活用が考えられる。

4.気持ちや出来事の整理と自己コントロールや表現に関する場面

 客観的な状況把握や場面認識が苦手なため,トラブルの原因が理解できなかったり,原因と結果が客観的につながっていなかったりする場合のフィードバックとして,コンピュータによるアウトラインプロセッサの活用やフロチャートの作成により,自分や他人の発言や行動を振り返ったり,予測したりする活動に活用できる場合がある。また通級指導の担当教員と連携することで,通級の時間を使って,トラブルとなった出来事や日常の自己の行動や生活を振り返り,望ましい行動を促したり意識付けたりすることやソーシャルスキルトレーニングに活用できる場合がある.

5.大切な話を聴く場面

 大事な用件を聞く場合,話し手に伝えた上でICレコーダーで録音し,後で聞き漏らしがあっても確認できるようにしておくという活用が考えられる。

2.特別支援学級における情報教育の意義と支援の在り方

 特別支援学級に在籍する児童生徒の障害の種類には,視覚障害,聴覚障害,知的障害,肢体不自由,病弱・身体虚弱,言語障害,情緒障害などがある。
 これらの児童生徒に対しては,特別支援学校において活用されているコンピュータ等の情報機器を一人一人の障害の状態に応じて活用することが大切である。その際には指導方法や教材,支援機器の活用について支援を受けるべく,地域の特別支援学校と連携を図ることが大切である。<加筆の予定>

3.小中高等学校と関係機関との連携

 学習指導要領において,発達障害の傾向のある児童生徒の指導については,通常学級と通級指導教室などが十分に連絡を取り合い,目的や支援方策を共通理解し,取り組みを分担することや,特別支援学校のセンター的機能を活用することなど,学校と支援機間との密接な連携が求められている。また,個別の教育支援計画の作成と実施については,教育・保健・福祉・医療・労働の関係機関との連携と協働体制が必要となる。この連携体制に情報機器や情報ネットワークの活用が想定できる。
 例えば,近年,多くの自治体において,地域の公立の幼稚園,学校,通級指導教室,その他の関係機関などが専用回線でネットワークに接続される状況になりつつある。その場合,セキュリティの確保,プライバシーの保護,保護者への説明等に十分留意した上で,関係部局間や関係者間で支援に役立つ情報を蓄積したり活用したりすることで,必要な支援の継続に役立てることが想定できる。

4.発達障害のある児童生徒の指導に有効な情報ソース

 発達障害のある児童生徒への指導を行うにあたっては国立特別支援教育総合研究所(http://www.nise.go.jp/)内にある発達障害教育情報センター(http://icedd.nise.go.jp/)に様々な支援機器や教材教具の情報が載せられている。また,この他にも全国LD親の会が出した「発達障害児のためのサポートツール・データベース(教材・教具DB)」(http://www.jpald.net/research/)など,支援機器に関する情報がWeb上で蓄積されつつある。

第3節特別支援学校における情報化

1.視覚障害者である児童生徒への情報教育の意義と支援のあり方

(1)視覚障害者である児童生徒の情報教育の意義

 現在のコンピュータ操作は,グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が主流となっている。視認性,操作性に優れ,直感的な操作が可能なため幅広く普及してきた。しかしながら,視認性重視の設計のため,視覚に障害のある児童・生徒にとっては,逆に扱いづらいインターフェースであり,そこに情報格差(デジタルデバイド)も生じている。
 そのため,視覚障害者である児童生徒の情報活用能力を育成するためには,読み取りにくい画面の情報を,画面の拡大や色調の調節などで補い,視覚から得られない情報は,聴覚(音声読み上げ)や触覚(ピンディスプレイ等)などの代替手段を使って補うなど,個々の障害に応じた工夫の仕方を身につけさせることが必要である。
 これらは,学習指導要領において「触覚教材,拡大教材,音声教材等の活用をはかるとともに,児童生徒が視覚補助具やコンピュータ等の情報機器などを活用して,容易に情報の収集や処理ができるようにするなど,児童生徒の視覚障害の状態等を考慮した指導方法を工夫すること。」とされている。
 具体的な支援方策としては,視覚的な画面情報が全く入手できない(全盲)場合には,オペーレーティングシステム(OS)やアプリケーションの情報を,音声リーダーで読み上げさせ聴覚情報として入手したり,ピンディスプレイなどに出力し触覚情報として入手する方法がある。また,文字データをデジタル化することで,点字と普通文字等との相互変換を行うことができ,点字利用者でも漢字仮名混じりの文章を書き,印刷することができる。一方,画面が読みとりにくい(弱視)場合には,その視覚特性に合わせて,画面の拡大・白黒反転・色の調節・音声化などを行なう。どちらにおいても,マウスが使えない,キーボードがうまく操作できないなどの現象に対応するために,マウス操作をキーボードで操作するためのキーの割り当て(ショートカット)を覚えることで操作が容易になる。
 また,情報化の進展が視覚障害者の生活に新しい可能性を切り開いてくれる反面,情報化社会が自己の生活環境にどのような影響を与えているかを,適切に把握・理解させることも丁寧に行わなければならない。近年携帯電話の所持率も高くなり,携帯電話やコンピュータにまつわる様々な犯罪を知り,情報弱者として情報犯罪から自分の身を守る工夫を,主体的に行う姿勢を身につけさせることも大切である。
 それらの結果,教室で学ぶことだけでは得られない多くの情報に,より能動的にリアルタイムに接することができるようになる。このように,適切な支援機器の工夫と情報教育により,視覚障害教育においては情報活用能力を伸ばすことが,情報格差の幅を狭め,情報化社会へ参画する態度を育てるとともにバリアフリーにつながる必須領域となっている。

(2)具体的な支援方策

 視覚障害者である児童生徒に教育を行う特別支援学校においては,視覚からの情報の不利を補う手段として,音声読み上げの技術を利用し,画面情報を読み上げる音声リーダーやデバイスソフトウェアを付加することによって,コンピュータ画面やマウス操作に頼らなくともコンピュータの操作ができるような工夫を積み重ねてきた。また,画面情報をピンディスプレイに表示することで,触覚により情報を得ることができ,それらの機器の発達により得られる情報量も増えてきた。
 一方,画面が見づらい弱視の場合には,音声読み上げの技術に加えて,OS側で用意された画面情報のカスタマイズ機能(拡大表示,白黒反転機能など)を補助的に利用したり,弱視者用の多機能な専用ソフトウェアを活用することにより操作性が向上し,情報機器の活用の幅を広げてきた。
 文字処理においては,コンピュータ点訳の技術が進歩し,文字をデジタル化することで飛躍的に点訳の労力を省くことができるようになった。また,音声リーダーの辞書機能の向上により,点字利用者が普通文字の文章を同音異句を使い分けながら,手軽に書くことができるようになった。さらに,紙に印刷された普通文字をスキャナーで取り込みOCRソフト(文字認識ソフト)にかけてデジタル化することで,音声化したり点字化したりと出力形態を簡単に変化させることができるなど,文字のデジタル化により取り扱える情報量が格段に増加した。
 このように,個々の障害の実態に応じた適切なアシスティブ・テクノロジーを講じることで,視覚に障害のある児童・生徒が一般社会と情報を共有することが,幅広くできるようになってきた。それ故に,情報機器の活用は,コミュニケーション手段を飛躍的に広げ,デジタルデバイドを減少させるために必須であり,情報活用能力を高めることが大いに求められる。

(3)実践例

特別支援学校(視覚障害)における,音声リーダーの活用と音声対応ソフトによるネット検索

  • 高等部 情報A

  • ねらい

  1. 校内ネットワークと階層構造の理解

  2. 視覚特性に合わせた画面設定と音声リーダーを用いたワープロソフトの操作

  3. 長文の要約と音声リーダーを用いた漢字仮名混じり文の表記

  4. 音声対応ソフトによる,インターネット上の辞書・ニュース・路線等の検索

  • 学習の展開
 音声リーダーとキーボードのショートカットを利用し,ネットワークハードディスクのフォルダー内にある問題文にアクセスし開く。その際,自身の障害特性に合わせた音声設定と文字サイズ設定・ハイコントラスト(白黒反転)設定を適宜行う。長文の社会ニュース(問題文)を音声リーダー読み上げさせ,内容を要約してワープロソフトでまとめる。また,点字利用者にはピンディスプレイを併用させる。ショートカットの利用により,ソフトウェアの切り替えやアプリケーションの操作等が素早く的確に行え,操作性が向上する感覚を体験させる。
 問題文に関するニュースや解らない語句,地域等を音声対応ソフトを用いてネット検索し,それぞれまとめる。
  要約をもとにそれぞれの感想を報告しあい,ネット検索で調べた関連記事及び関連事項等を報告する。

  • 機器の工夫
  1. マウスレスを基本としたショートカットの利用。

  2. 音声リーダー及び音声対応ネット検索ソフト(辞書・ニュース・路線等)の利用。

  3. 弱視者用画面設定ソフトの利用。

  4. ピンディスプレイ等の触察機器の利用。
  • ポイント
 マウスレスを基本にし,音声とショートカットを利用することで視覚的負担を軽減し,さらに操作性も向上することを体験する。音声リーダーを用いることで,印刷物では枚数も多くなり生徒にとっては読む気力が下がってしまうような文章量でも,比較的楽に読み進むことができる。また,点字利用者にはピンディスプレイを併用させることで,画面情報を触覚情報に変換させフィードバックしながらの繰り返しの操作が可能になり,情報処理能力が向上する。音声対応ネット検索ソフトを用いて,リアルタイムにニュース検索ができること,また,ネット上の辞書を利用することにより,書籍としての辞書より素早く語句検索ができることを体験する。
 上記一連の操作を統合的に行うことで,情報の入手に関しては受け身であった視覚に障害のある児童生徒たちに,能動的に情報を集め取り扱う姿勢を身につけさせることが大切である。

2.聴覚障害者である児童生徒への情報教育と支援のあり方

(1)  聴覚障害者である児童生徒への情報教育の意義

 聴覚障害者である児童生徒に対する情報機器の活用においては,音声や環境音等の聴覚情報が入らない,あるいは入りにくいため,その障害の状態や発達に応じて,適切な聴覚活用を図るか,あるいは視覚等の他の感覚器官の情報に置き換えて(感覚代行)情報を伝達する工夫が必要である。また,音声が入らないことによる日本語獲得の不利が生じやすいことから,学習の進め方,認知理解のさせ方にも多様な創意工夫が必要となる。
 そのため,学習指導要領各教科の配慮事項において,特に「視覚的に情報を獲得しやすい教材・教具や,その活用方法等を工夫するとともに,コンピュータ等の情報機器などを有効に活用し,指導の効果を高めるようにすること。」と示されている。
 また,情報機器は視覚からの情報が豊富である特性から,聴覚障害者である児童生徒が自らの生活を豊かにしていく上で有用な機器と言え,障害による不利を補完して情報を得たり,コミュニケーションのためのツールとしての活用は大いに意義のあることと言える。
 一方,社会自立に向けて,聾学校においては職業課程を持つところも多いが,最近の職場環境から見ても情報機器の扱いや基本的なスキルは必須のものとなっており,学習指導要領でも印刷,工業,流通・サービス,福祉などの各種目において情報機器に関する技術や実習が必須のものと示されている。

1  有用な教具としての情報機器の意義

 聴覚障害者である児童生徒の学習においては,適切に音声情報を活用する指導や配慮と平行して,視覚的な情報を豊かにした指導方法の工夫が必要である。従来の指導においても,プリント教材の活用,板書の工夫,掲示物の配慮など,様々なノウハウが生かされているが,情報機器を活用することで視覚情報を豊かにした新しい指導法の開発が可能になる。これまでは授業場面で教科書,ノート,板書,教員の手元や口元を忙しく視線移動しなければならなかったものが,教科書会社でもいわゆる検定教科書の電子化にも着手しており,これらとプロジェクターや電子黒板などを活用することで児童生徒の視線をあまり動かさずとも授業を進めることが可能になる。これらのことは,聴覚障害者である児童生徒の学習環境,教室環境を一変させるだけの大きな変革になる可能性もある。

2  生活を支援するための情報機器の意義

 音声や環境音が入らない,あるいは入りにくい聴覚障害者である児童生徒については,日常生活で必要な各種情報を選択的に受信するトレーニングもまた必要である。そのために,たとえば情報機器やディスプレイを校内に多数設置し,機会あるごとに情報を主体的・能動的に受け取るようにすることで,日常的な情報受信の訓練にもなる。これらは一部の特別支援学校(聴覚障害)で「見える校内放送」として取り入れられつつある。またこれらの機器は,非常時の避難誘導など児童生徒の安全のための視覚的情報の伝達手段としても有用である。
 また,携帯電話のメール機能などを活用した情報発信/受信は,これまで口話法にしろ手話法にしろ,お互いに目の前での1対1のコミュニケーションが基本だったものが,一斉に多数の対象とコミュニケーションが可能になり,遠隔でコミュケーションができるようになるなど,聴覚に障害のある人にとって格段に世界を広げることができるようになった。しかしながら,これまで1対1のコミュニケーションしか経験していなかった児童生徒がいきなり不特定多数とのコミュニケーションを行うと,書き言葉による文書表現が未熟であったり,社会性が十分育っていない場合も見られ,あらぬ誤解を生じたり,いじめの温床になったりネット詐欺や犯罪に巻き込まれやすいなどのマイナス面が生じる場合もある。従って,適切な言語表現力,情報処理能力,情報倫理などを伸ばす指導が大切である。

3  職業教育を豊かにする情報機器の意義

 特別支援学校(聴覚障害)の高等部,専攻科などでは職業課程を設置しているところも多く,伝統的に職業能力を身につけることを重視してきた経緯がある。そうした技術を身につけるにあたり,情報化社会の現状を踏まえ,情報機器を活用した職業能力を身につける必要がある。
 最近の各企業等では,工業系の職場ではコンピュータ制御の製作機械,CADなどの経験は最低限必要になっている。また商業系,サービス系の職場においても,伝票管理やPOSシステムなど,情報機器は日常活用されているため,そうした機器に親しんでおき,わずかなトレーニングで使用できるような基礎知識と実習を積んでおく必要がある。

(2)  具体的な支援方策

 まず大切なことは,校内における情報環境を豊かにすることである。日常の授業で活用するためには,各教室にも情報端末やプロジェクタ,電子黒板などの設備がほしい。さらに先に述べた「見える校内放送」などのように,日常視覚的な情報を豊かに与え,選択的に受信する習慣やスキルを実地に学ばせる工夫も必要と言える。
 それらを利用した授業には,電子化された教科書の利用,授業場面で適切に視覚的な情報を与える工夫など,教師の情報活用能力の向上があわせて重要である。
  一方,コミュニケーション手段として情報機器をとらえた場合,先に述べたように聴覚障害児・者の社会生活を大きく拡大する可能性を秘めている。しかしながらこれらを自らの生活を豊かにするために活用して行くには,操作技術だけではなく,倫理,セキュリティ,人権思想などの意識付けと,あわせて思いを適切に表現したり,受信内容を的確に読み取り意味理解するような適切な言語能力を身につけさせる必要がある。

(3)  実践事例

1 「電子黒板でことわざを説明」
(中学部 理科)
(ねらい)

  1. 天気に関する言い習わしを調べ,プレゼンテーションする
  2. 電子黒板を用いて書き込みしながら説明をする
(学習の展開)
 天気に関する言い習わし(例:太陽が笠をかぶると雨になる)を選択し,意味を調べ,科学的に説明したイラストをつけて説明カードを作成。
電子黒板にデジタルカメラで撮影したカードを投影し,操作ペンで必要な書き込みをしながら説明を行う。

(機器の工夫)
インターネット等の活用
電子黒板の機能を活用してわかりやすいプレゼンテーションを行う。

(ポイント)
 これまでの特別支援学校(聴覚障害)の授業は,教師と少数の児童生徒とのポイント−ポイントのコミュニケーションで成り立っていたが,これでは情報の共有ができにくい。また,児童生徒はいつも受け身の関わりになりやすく,自ら表現する能力が伸ばせない。そこで,様々な情報機器を活用しての「調べ学習」,電子情報ボードを活用してのプレゼンテーションの学習を行った。
 特に電子黒板は,インタラクティブ性に優れ,デジタル化した情報を表示するとともに書き込みを加えたり,そのデータを記録することもでき,振り返りの学習にも使用できる。
 こうして視線を一カ所にまとめることによって,集中して学習を進められるとともに画像情報,文字情報の活用を図ることができる。
2 「携帯電話詐欺にあわないために」
(高等部情報A)
(ねらい)

携帯電話(メール)によって詐欺等の犯罪に巻き込まれないよう,模擬的な学習を行う。

(学習の展開)
 3. 携帯電話用疑似サイトを用いてワンクリック詐欺の実際を携帯電話で疑似体験する。
 4. 個人情報を収集する可能性のあるサイトを携帯電話で疑似体験することや,サイトを利用している場面のDVDを見て確認することで個人情報入力の危険性を知る。
 5. フィッシング詐欺にあいそうな場面のDVDを見る。
 6. 危険なサイトについて話し合い,自分ならどう行動するか考える。

(機器の工夫)
 一般論としての理解が難しい場合もあることから,自分の携帯を用いて疑似体験することで理解の定着を図る。

(ポイント)
 こうした知識は聴覚障害児には説明やプリントだけでは定着が難しく,擬似的にでも自ら体験する機会が必要である。特にコミュニケーションに不利な面が多く,社会性を学ぶ機会が少なくなりがちな聴覚障害児は,十分に実感の伴った学習をしないと詐欺等の犯罪に巻き込まれる場合がある。携帯メールは聴覚障害児にとって有用なコミュニケーションツールであり,一気に普及したが,それらを使いこなすだけの言語力や理解力,倫理観が伴っていないと非常に危険である。今後こうした倫理観(情報モラル)や情報活用能力をどう教えていったらよいのかの教育内容の検討が必要である。

3.知的障害者である児童生徒への情報教育の意義と支援のあり方

(1)  知的障害者である児童生徒への情報教育の意義

 知的障害のある児童生徒に対する情報機器の活用においては,その発達や経験の状態に応じて,適切な補助的な入力装置,適切なソフトウェアの選択が必要である。
 また,高等部生徒の社会自立にあたっては,職業自立の可能性を追求する趣旨からも,情報機器の扱いに慣れておくことは必要な学習課題と考えられ,職業教育,作業学習の中に積極的に情報機器の扱いを取り入れることも必要である。
 学習指導要領でも各教科において,「児童(生徒)の知的障害の状況や経験等に応じて,教材・教具や補助用具などを工夫するとともに,コンピュータ等の情報機器などを有効に活用し,指導の効果を高めるようにするものとする。」と規定されている。

1  有用な教材・教具としての情報機器の意義

  知的障害者である児童生徒の学習においては,教材・教具の果たす役割は大きく,認知発達を促す指導から,各教科の学習においても適切な教材・教具の選択は重要なポイントである。情報機器は双方向的な関わり(インタラクティブ性)がしやすく,視覚的,音響的にも多様な表現ができるため,児童生徒も関心を持ちやすく活用次第では有効な教材・教具となる。課題としては,知的障害者である児童生徒の学習を目的とした学習ソフトウェアがきわめて少なく,また個人差が大きいことから,市販の教材ソフトではうまく適合しないこともあり得る。従って教師の創意工夫による自作教材もまた数多く利用されている。
 インターネット等の活用についても,コミュニケーションや交流の手段としての活用が進みつつあり,今後さらなる工夫によって他地域の特別支援学校や地域の小・中・高等学校などとのネットワークを介した交流が盛んに行われることを期待したい。

2  生活を豊かにするための情報機器の意義

 特別支援学校に通う児童生徒はどうしても居住地域の他の児童生徒との関わりが薄くなりがちであり,何らかの交流の手段を講じる必要がある。むろん直接ふれあえる交流を欠かすことはできないが,ネットワーク等を活用することで多様な形態での交流の可能性が広がると考えられる。
 また,知的障害者である児童生徒の余暇の一方法や心理的な安定などのために,インターネット等の利用やゲームの利用などの可能性も考えられる。ただし,その際には中途半端な接続技術だけを覚えてしまうと,いたずらや不正な書き込みを行ったり,ネット犯罪に巻き込まれるなどの危険性もあり,その発達や年齢,経験の度合いに応じた適切な情報教育が必要である。

3  職業教育を豊かにするための情報機器の意義

 障害のある生徒の社会参加・自立の形態も多様化してきており,職業的自立も大きな目標となっている。特別支援学校(知的障害)高等部では,作業学習や職場実習等を創意工夫し,就労率の向上に努めているが,職業に関する意識の育成,体力,持久力,人間関係の構成力などのスキルを高めるとともに,昨今の職場環境を意識して,簡単な情報機器の扱いなども学習課題に取り入れておきたい。
 また,知的障害者の業務遂行を支援してくれるシステムやソフトウェアなども試みられているところから,職業教育と情報機器の結びつきも今後増えていくものと思われる。

(2)  具体的な支援方策

 教材・教具として,幅広い児童生徒が情報機器を操作することを考えると,まず支援が必要と思われる部分は,入力装置に関する部分である。経験を積めば,キーボード,マウスと言った一般的な入力装置も十分使いこなすことは可能だが,往々にして使いこなしに慣れが必要なため,入力が思うようにできなくてストレスを感じたり,理解することが困難になったりする。そうした場合,後述の肢体不自由児への入力機器をうまく応用することで,シンプルな入力環境を準備することができる。
 中でも,ディスプレイ上に置くタッチパネルは,画面の表示部分に指先で触るだけで入力できることから,視線移動がなく,直感的な操作が可能になるため,有用な入力装置と言える。この他にも,ペンタブレットを使ったノート型コンピュータや携帯型ゲーム端末などの活用も考えられる
 また,強度行動障害の児童生徒や,こだわりの強い児童生徒の中には,操作にもこだわりを見せたり,機器に強い力を与えたりする場合もある。そうした場合,どんな操作をしても,次に起動した場合に設定等をすべて初期状態に戻せるようなソフト等もある。これを入れておけば,不都合な操作をしても安全に元に戻せるので安心である。また,機器を破壊したり落としたりしないような機器設置の方法や,児童生徒および教員の不測のけが等を防止する安全策も講じる必要がある。具体的には固定ベルトの設置や,画面と入力スイッチだけを児童生徒の前に出し,目につかないように隠すことも有効である。こうすることで,電源スイッチ等をむやみに押したがる児童生徒にも画面上の課題に集中して利用させることができる可能性がある。

(3)  実践事例

「これなあに?」
(中学部国語)
(ねらい)

  1. イントラネット(チャレンジキッズ)上で掲示板を利用したクイズ大会を行う。
  2. 仲間と協力してクイズを作ったり,他校の友達に発信する文章を作る。
  3. ネットワーク上でのやりとりを楽しみ,交流の輪を広げる。
(学習の展開)
 前回出したクイズの解答がきているか,チャレンジキッズの画面を開いてみんなで確認する。2つのグループに分かれ,正解とコメントの文章を作成し,正解の画像や自分たちの画像を取り込んで送信文書を作る。正解とコメントを送信し,次の課題に移る。2つのグループの回答の比較をし,学習内容を振り返る。

(機器の工夫)
 チャレンジキッズは,複数の特別支援学校や学級が任意に参加する広域ネットワークである。このネットワークを通じて離れた学校同士の交流の輪が広がり,多様な学習機会を提供している。

(ポイント)
 情報機器と広域ネットワークを利用して離れた学校同士で積極的な交流を行うことで,生徒の社会一般への意識付けにつながり,あわせて情報モラルや相手への思いやりなどが育成された。ネットワークの向こうには友達がいると言うことを実感させるには,適切な学習環境であったと言える。

4.肢体不自由者である児童生徒への情報教育の意義と支援のあり方

(1)肢体不自由者である児童生徒への情報教育の意義

 肢体不自由者である児童生徒に対する情報機器の活用においては,その機能の障害に応じて,適切な支援機器の適用と,きめ細かなフィッティングの努力が必要となる。これは,同一部位の障害であっても,実際の支援ニーズは微妙に異なり,対象児の発達や逆に機能的な落ち込み,体調の変化などに応じて,絶えず細かい適用と調整をする必要があるからである。
 そうした支援方策を選ぶ上では,専門的な知識や技能を有する教師間の協力の下に指導を行ったり,必要に応じて専門の医師及びその他の専門家の指導助言を求めたりする必要もあり,また本人の意思や保護者等の意見も重要視しなければならない。
 さらに,複数の種類の障害を併せ有する児童生徒については,それぞれの障害,例えば前述の知的障害における配慮点なども併せて考慮する必要がある。
 いずれにせよ,支援方策を講じた情報端末を操作できるようにすることで,これまでできなかった活動,特に表現活動などの主体的な学習を可能にし,多くの人々と接点をもてることで社会参加に向けてのスキルを大きく伸ばしていく指導が重要である。
 知的障害のない,あるいは軽度な肢体不自由児にはワードプロセッサやグラフィックツール,音楽ツールなどで創作活動や意思伝達,さらにはインターネットなどを用いての積極的な社会参加にも意義は大きい。知的障害を併せ有する場合は,前記の知的障害教育における意義を踏まえながら,肢体不自由に応じた支援方策を取り入れることで,さらに学習のバリエーションを広げることができる。
 学習指導要領の各教科においては「児童生徒の身体の動きや意思の表出の状態に応じて,適切な補助用具や補助的手段を工夫するとともに,コンピュータ等の情報機器などを有効に活用し,指導の効果を高めること。」と規定されている。
 また「児童生徒の学習時の姿勢や認知の特性等に応じて,指導を工夫すること。」と述べられており,情報機器や支援機器を扱うに当たっての身体の状態や動き方に配慮を施すべきである。

(2)具体的な支援方策

 情報機器としてコンピュータを活用する際に大きな課題になることは入力の問題である。OSに含まれるユーザ設定でカバーできるものもあるが,キーボードやマウス等の入力機器をそのまま活用できない場合には代替の入力機器を選択することになる。
 OSに含まれるユーザ設定としては,複数のキーを同時に押すことなく順番に押せる機能などキーボードの入力を容易にする機能などやマウスの操作をキーボードだけで入力できる機能や逆に,キーボードの入力をマウスで入力できる機能などがある。
 代替の入力装置としては,大型の50音キーボードやタブレット型のキーボード,画面上に表示されるスクリーンキーボードなど文字入力を支援する機器,ジョイスティックやトラックボール,ボタン型のマウスなどマウス操作を支援する機器,コンピュータを操作するための様々なスイッチやそれらを接続するためのインターフェースなどがある。
 スイッチやセンサー類は単純に押すと反応するスイッチから音で反応する音センサー,光を遮ると動作する光センサー,曲げると動作する屈曲センサー,息を吹き込むことで操作する呼気センサーなどさまざまなものがある。また,それらを利用しやすいように固定する支持機器など周辺の機器も本人の身体状況に合わせて適用することが大切である。
 また,入力装置だけではなく,これらを有効に活用するためには1スイッチでコンピュータのすべての操作を可能にするためソフトウェアなども適宜併用し,効果的に活用する必要がある。
 また,情報機器としてはコンピュータのみならず,携帯型の情報端末や携帯型会話補助装置(VOCA(Voice Output Communication Aid))にも様々なものがあり,学習やコミュニケーションを豊かにするためには,児童及び生徒に必要な場面で活用することが大切である。

(3)実践事例

 特別支援学校(肢体不自由)高等部での支援機器を活用した指導

 支援機器を活用した指導は,その生徒の「障害の状態」「認知発達の状態」「年齢」などさまざまな状況に応じて変わるため,適用されるものは多様であるが,今回の事例では高等部の生徒を例に,どのような活用の仕方があるかを紹介する。
 Aくんはウエルドニッヒホフマン症の男子で幼い頃から筋力が弱く,自力でからだを支えることが出来ないため,リクライニングさせた車椅子またはベッドの上に乗り,横向きの姿勢で学習をしている。かろうじて鉛筆を持って筆記をすることは出来るが,筆圧が弱く上肢が動く範囲も狭いため,常時介助を必要としている。
 そこで,学習指導に積極的にノート型のコンピュータを活用することにした。家庭でもコンピュータを使っているため,操作の習得には抵抗が少なかったが,「小型のマウスを使うこと」「右腕の届く範囲にキーボードの位置を調整すること」「テキストなどを書見台に貼り付けて見える位置に配置すること」などの配慮を行った。
 どの学習場面でも「鉛筆,ノート代わりに授業を記録するための筆記用具」として使われるほか,本をめくることが難しいため「国語の漢字や英語の単語などを調べるための辞書」として活用したり,「教科書の内容をイメージスキャナーで取り込んだり,教科書会社から提供してもらったファイルを使って教科書代わりにする」などの事などを行った。その他にも,理科の学習の観察では姿勢を起こして顕微鏡を覗くことが難しいため「コンピュータにつなげられる電子顕微鏡を活用し,画面上に映る植物の観察を行う」など積極的に情報機器を活用した。
 また,体力が弱く,週の半分ほどしか通学が出来ないために,学校の様子を伝えたり,学習内容を連絡するためにインターネットを使ってテキストをメールで送ったり,実験の様子を動画にして学校のwebページに載せて教材を提示したり,メールでのレポートの提出なども行った。
 この実践では次の2つの観点を大切にした。1つ目は「主体的に活動に参加できること」である。障害のある児童生徒は,ともすると関わり側の過剰な援助によって,出来ることでも周りが代わりにやってしまう時がある。しかし,自ら働きかけてさまざまな経験する中で多くのことを学べるはずで,本人にあった入力装置や環境を整えることで,主体的に学習に参加することをねらった。
 2つ目は,「コミュニケーション環境を豊かにすること」である。支援機器を活用することで,家庭で孤立する児童生徒に外界との接点を作り,学習に意欲を持たせることが出来た。この生徒の他にも,同様に通学が困難な生徒に対して,テレビ電話やネットミーティング,電子掲示板などを活用して在宅での学習活動を支援している。訪問する教員との1対1での学習では意欲を失いかけていた生徒が,通学生との共通の学習の場を作ることで,積極的になってきた。機器の活用は,その先にある友だちと「つながりたい」という思いを実現する事によってこそ意味がある,と考える。

5.病気療養中の児童生徒への情報教育の意義と支援のあり方

(1)病気療養中の児童生徒への情報教育の意義

 病気療養中の児童生徒は,様々な慢性的な心身の病気で入院あるいは通院治療中であるために,適切なコミュニケーションの発達が育ちにくかったり,体力を使った活動が困難な者が多い。しかし,今日の医療の進歩によって小・中学校と特別支援学校(病弱)との間での移籍頻度が上がっている。そのため,情報活用能力の育成においては,通常の小・中・高等学校等以上にその具体策を指導して活用させていく必要がある。しかも,病気の種類や程度,療養環境の違いなどによって実際の支援ニーズは個々に異なり,対象児の病状による機能的な落ち込みや体調の変化などに応じて,絶えず細かい適用と調整をする必要がある。
 学習指導要領においては「児童生徒の身体活動の制限の状態等に応じて,教材・教具や補助用具などを工夫するとともに,コンピュータ等の情報機器などを有効に活用し,指導の効果を高めるようにすること。」とされている。
 そこで,同年代の児童生徒や親元から離れて入院生活を送る児童生徒にとっては,家庭や前籍校などとの交流や情報収集が欠かせないだけに,情報ネットワークによるコミュニケーションの維持・拡大や,テレビ会議システムなどによる前籍校等との連携・交流は,学習面のみならずその心理面においても特に有効である。
 こうした支援に関しては,専門的な知識や技能を有する教師間の協力はもとより,医療機関との日常的な連携と協力が不可欠である。特に,高度な専門的医療を受けている児童生徒や心身症等の精神的要因を持つ疾患の児童生徒については,教育の専門的立場から,主治医や看護師,心理職などの専門家と充分な意見交換をする必要がある。

(2)具体的な支援方策

 この支援方策としては,基本的に個々の病気による現在の症状や健康状態への配慮を中心としながら,実際に行うことが難しい実験や観察の補助として,コンピュータ教材によるシミュレーション学習や,インターネットやメール等の活用を通じたコミュニケーションの機会の提供などを行えるようにすることも大切である。
 また,進行性疾患等の症状によってキーボードやマウス等の入力機器をそのまま活用できない場合には,代替の入力機器を選択することになるが,この場合には,肢体不自由のある児童生徒に対する支援方法を応用するなど,個別的で具体的な支援をする必要がある。

(3)実践事例

病気療養中の児童生徒へのインターネットを活用した指導

 生後まもなく心臓に病気のあることがわかったAさんは,生後一ヶ月頃から数回の手術を受けたが,体調の変化が大きく運動制限等を受けて継続的な治療を続けている。自宅から離れた病院に入退院を繰り返しているために,小学校に通ったり病院隣接の特別支援学校(病弱)に通ったりしてきた。
 Aさんは,特別支援学校では少人数でゆっくりと学習ができることには満足しているものの,自宅に近い小学校に通う幼なじみの同級生たちとの、日常的な交友関係や学習の遅れなどが気になっていた。そこで,特別支援学校の担任やコーディネーターが小学校の担任等と話し合って、主治医の許可を得た上でコンピュータを活用した交流を進めた。
 たとえば,Aさんが自立活動の時間に作ったCG作品をメールで送付し,小学校の教室に掲示してもらったり,学級会活動で音声及び画像付きのチャットを行うなどして交友関係の維持につとめた。この結果、Aさんの学習意欲を向上させるだけでなく、小学校での同級生の間に存在感を持たせることができ、スムーズな移籍を支援することができた。
 また,コンピュータ教材の活用による学習の継続をはかりながら,Aさんの達成感や成就感を高めるようにつとめ,病識の理解や病状に対する自己管理にもつなげていった。

6.その他、重複障害等の子どもたちなどへの情報教育の意義と支援のあり方

(1)その他、重複障害等の子どもたちなどへの情報教育の意義

 特別支援学校においては,当該学校に就学することになった障害以外に他の障害を併せ有する児童生徒がおり,特別支援学校学習指導要領においては,その目標及び内容を一部取り扱わなかったり,自立活動を主として指導を行うことができるとしている。しかし,障害の重い児童生徒であればあるほど身の回りにある,さまざまな情報を積極的に活用し,他者とのコミュニケーションを豊にするためにさまざまな支援方策を施す必要があるといえる。例えば,視覚障害を併せ有する聴覚障害者がコミュニケーション方法として活用している指点字なども,1つの有効な方法である。
  また,特別支援学校(肢体不自由)においては,知的障害を併せ有する児童生徒が多く在籍する。その指導に当たっては情報の基礎となるべきコミュニケーションを豊にする方法AAC(拡大代替コミュニケーション)を活用した指導が多く取り入れられるようになってきた。さまざまな支援技術を活用して他者とのやり取りをすることで,わずかな表現を大きくしたり,別の表現方法に置き換えることで,表現する力を高めることができる。

(2)具体的な支援方策

 視覚障害を併せ有する聴覚障害者である児童生徒への情報機器の活用は,音声情報や視覚情報では情報を得ることが難しいため,ピンディスプレイなどの触覚での情報を入手できる機器が有効な場合がある。しかし,さまざまな感覚器官に障害のある場合にはこの方法でよいという固定的なとらえ方ではなく,個々の児童生徒の実態把握を丁寧に行う必要がある。
 また,知的障害を併せ有する児童生徒の場合,他者との関わりが明確にならずにコミュニケーションをとれないことがあるので,前述したコミュニケーションを支援するVOCAの活用や,簡単な操作で画面が切り替わったり音が出るようなソフトを活用したコンピュータの教材などを利用することで自己有用感を高め表現する力をつけることになる。

(3)実践事例

(教科・領域名)日常生活の指導:「朝の会」
(対象児童)小学部6年重度の脳性まひ
(ねらい)

  1. 呼名に対して意思表示をすることができる。
  2. 自己選択をすることができる。
  3. 一日の流れを把握することができる。
(学習の展開)
  1. 呼名の場面では、パワーポイントのスライドにより返事をする。
  2. 天気の確認の場面では、パワーポイントのスライドのアイコンから選択をし、自分の思ったところでスイッチを入れる。
  3. その日の予定の確認の場面では、パワーポイントのスライドの写真と音声をスイッチを入れることで確認していく。
(機器・ソフトの工夫)
○パソコンのクリック操作は、マウスの左クリックの機能を取り出したインターフェースに自作の棒スイッチをつなぎ、棒スイッチを自分の意志で動かすことで活動する。
  1. 呼名の場面では、パワーポイントに対象児童の顔写真と教師の「はーい!」の声を貼付けたものが、クリックと同時に現れるように設定しておく。
  2. 天気の確認の場面では、パワーポイントに「はれ」「くもり」「あめ」のアイコンから「はれ」の日は、「はれ」を選ぶと「○」、その他を選ぶと「×」のスライドに移るように関連付けをしておく。アイコンを動かすのは、教師が行い、決定を児童が行うようにする。パワーポイントのソフトは、「はれバージョン」「くもりバージョン」「あめバージョン」を準備しておき、その日の天気によって、教師があらかじめそのバージョンを起動させておく。
  3. 予定の確認の場面では、その日に行う予定の活動を順番に写真と音声でスライドを作っておき、スイッチ操作するごとに次の予定に移るように設定しておく。
(ポイント)
○写真と音声を用いることで、視覚的にも聴覚的にも刺激を与えることができる。
○比較的身近なパワーポイントを使用することで、簡単に教材を作成することができる。
○マウスの左クリックの機能を取り出したインターフェースを使用することで、児童の実態に合ったスイッチを使って活動することができる。また、実態に合ったスイッチを使うことで、本人の意思で選択や操作をすることができる。

第4節 情報活用能力を育てる上での工夫と配慮点

1.教育課程編成における配慮点

(1)各障害種別を超えて必要となる配慮事項について

 各教科等の指導に当たっては, 児童生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ることである。
 たとえば,国語科における言語の学習,社会科における資料の収集・活用・整理,算数や数学科における数量や図形の学習,理科の観察・実験などがあげられるが,児童生徒の個々の困難性に応じた入出力の補助等に配慮しなければならない。
 また,自立活動の指導に当たっては,児童生徒の実態把握に基づき,それぞれに長期的及び短期的な観点から目標(ねらい)を設定した上で,個別的で具体的な指導内容を検討して計画が作成されなければならない。したがって,障害の状態や発達に関しての実態把握とともに,併せてコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切に活用するために必要な配慮点についても把握する必要がある。

(2)視覚障害者,聴覚障害者,肢体不自由者又は病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校の情報教育の内容と配慮点

 小学校,中学校,高等学校に準ずる教育課程を編制している視覚障害者,聴覚障害者,肢体不自由者又は病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校では,教科「情報」および各教科において情報教育を展開していくことになるが,前述した障害ゆえの操作上の不利を補い,本来の学習内容に集中できる環境を整えるための支援方策を綿密に講じ,個々の児童生徒に応じた対応を考える必要がある。また,学習を進めるに当たって,個々の障害の特性や社会経験等を考慮して,適切な用具の選択,展開の工夫が必要である。

(3)特別支援学校(知的障害)高等部における教科「情報」について

 知的障害者である生徒にとっても,社会生活を有意義におくるためには情報化に適切に対応することが求められる。今回の改訂された学習指導要領において特別支援学校(知的障害)高等部における教科「情報」は,実際の生活における情報の活用や,情報機器の実践的な取扱い等に加え,1段階についても「情報の取り扱いに関する決まりやマナーがあることを知る。」と書かれているように,情報モラルについても学習させようとするものである。
 指導上,生徒がわかりやすい手法をとりつつ,そのねらいは,情報社会に生きる社会人として実際の生活において大切とされている知識,技能,態度の育成をねらったものである。比較的軽度な知的障害のある生徒については,機器操作や学習の題材を精選することにより,実践的なスキルを学習させることは十分可能であり,重要である。

(4)自立活動

 特別支援学校独自の学習領域として,「自立活動」がある。これは,個々の児童生徒が自立を目指して,障害に基づく種々の困難を主体的に改善・克服するための知識,技能,態度および習慣を養うことで,心身の調和的発達の基礎を培おうとするものである。さらにその内容は,1健康の保持,2心理的な安定,3人間関係の形成,4環境の把握,5身体の動き,6コミュニケーションと6つの分野にわけられている。これらのうち,多くは身体機能,感覚的機能の障害への直接的なアプローチを想定したものだが,障害のある児童生徒の心理的安定や自立的な活動は、より広範なコミュニケーションを通して行われる場合が多い。どうしても移動の範囲や関わりの範囲が狭くなりがちな障害のある児童生徒にとって,インターネット等の広域ネットワークを介したコミュニケーションや,テレビ会議システムなどを介した遠隔交流は大きな意味を持っている。そうした経験の拡大が将来の自立や社会参加に役立つものであり,情報機器や情報教育の自立活動における活用を積極的に進めることが大切である。
 また,情報機器活用においては身体の状況に配慮し,安定した姿勢で操作するなど,2次障害が起きないような配慮も必要である。

2.支援の必要な児童生徒への指導体制

(1)指導計画における情報活用能力の育成の具体的な目標の設定のしかた

 情報活用能力の育成のねらいと方法は,その発達の段階,社会経験の範囲,個々の障害の状態や学習課題などによって大きく異なる。そこで,情報活用能力の確実な定着を図るためには,学年段階における教育課程や,単元等における目標設定に加えて,個々の児童生徒に応じた情報教育の計画といったものを立てることが重要である。
 この計画は,まず個々の児童生徒の情報活用能力の実態把握と,児童生徒自身の意思と選択,学習環境や支援機器の適用範囲,支援する教員の指導力,情報教育だけでなく,その児童生徒の全体的な指導計画などを考慮して立てることになる。その際には,必要に応じ,医師やリハビリテーション工学関係者,本人の意思および保護者などの意見を聴取して反映させることも大切である。さらに具体的には,個々の児童生徒が情報を活用して,どのようなスキルを身に付け,それがどのような他の学習領域に反映できるかといった相互作用を絶えず配慮しながら立てる必要がある。

(2)支援機器等に関する研修の内容や支援体制

 支援機器についての知識,情報は,リハビリテーション工学分野では流通していても,なかなか教育分野では流通していない。そこで,こうした事例や技術について研修するためには,教育関係ばかりではなく,企業や他分野も含めて広い観点から情報を集める必要がある。そして,そうした情報を統括するためにも,特別支援学校におけるセンター的機能を発揮した,地域の連携や各都道府県等の教育センター等が窓口となるなどの支援体制整備が必要となろう。
 また,支援機器の活用については,個別的かつ具体的で情報も少ないことから,地域単位だけでなく,学校や教育センターが全国的に情報交換するシステムが求められる。

(3)支援機器データベースおよびライブラリーの活用や機器の選び方

 各種支援機器は,実際に試用してみないと適用できるかどうか分からない場合が多い。ところが,流通量があまりに少ないため,試してみたくても方法が無く,情報を集めることさえ難しい場合がある。インターネット等によってボランタリーに情報を流している例も見られるが,できれば各地域ごとにこうした支援機器の活用をサポートする機関があることが望ましい。教育センター等が行う方がよいか,リハビリテーションセンター等がその役割を担うのか,これまでの行政区分等を超えた連携も必要となる。また,特別支援学校等の相談機能として地域における機器活用について支援することが期待される。

(4)障害のある児童生徒の情報発信と個人情報の取り扱いについて

 各学校において,インターネット上でホームページなどを通じて情報発信したり,メールやメーリングリスト,あるいは共同学習等で他校などと情報交流することは,移動や交流範囲が限られる傾向がある障害のある児童生徒にとっては,極めて効果的な学習展開が期待できる。ところが,そうした場合に配慮しなければならないのは,児童生徒の情報発信のあり方と個人情報の保護である。情報社会において,もっとも必要とされるのは適切な判断と正しい自己決定であるが,そうしたスキルを実地に学習させるためには,積極的に情報発信する機会を与えることが大切である。その場合,自らの障害の状態も含めて情報発信していくかどうかは,自らの障害受容も含めた自己決定に属する問題でもある。むろん個人の氏名や障害の状況などは個人情報に属するものであるため,それらを不特定多数が見る可能性のあるホームページ上に載せることについては十分な配慮が必要である。しかし,障害のある児童生徒にとって,自ら積極的に社会と関わっていく上で,どういう自己決定をし,どう表現していくかといった過程そのものが重要な情報教育ということができる。安易な情報流出は当然慎まなければならないが,教育的な意図や効果とのバランスを考えながらの対応が求められる。

(5)教員のスキルの向上と適切な支援機器の活用について

 支援機器の活用については,専門的な知識が必要な物もあり,効果的に活用するためには個々の教員がその活用を担うのはむずかしい場合が多い。そのためにも,研修も大切なことであるが,支援会議のように組織的に支援機器についての会議を開くような支援機器の適用のための会議(アシスティブ・テクノロジー・コンシダレーション)を開くなど組織的に行われることが望まれる。
 また,そうした教員の活用スキルを向上させ,授業等において積極的に情報機器を活用することを促すためにも,専任の情報担当教員の配置や,情報インストラクター等によるOJT(On the Job Training,仕事の遂行を通して訓練をすること)の研修等ができる体制も整えたい。

3.特別支援教育における校務の情報化

 特別支援学校や特別支援学級などにおいても小・中学校等と同様に校務の情報化を行うことが大切である。特に,個別の児童生徒に合わせての教材を作成したり,学習の様子を記録する必要があるので,それらを教員間で有効に共有させるようなシステムを構築し,効率的で効果的に指導が出来る体制を作ることが肝要である。
 また,個別の指導計画や個別の教育支援計画作成のためには,校内でデータベースサーバを用いた情報共有やファイル管理も大切であるが,関係機関との連携を図るためのネットワークも求められる。しかし,個人情報の保護やセキュリティーの問題もあるので,滋賀県甲賀地域などが行っているような教育福祉医療等が安全に連携できるローカルネットワークシステムの構築など,各機関で連携をとって構築した事例もある。

(事例)追加予定

4.特別支援学校におけるICT環境の整備

 特別支援学校においても小・中学校等と同様のICT環境整備が望まれるが,加えて支援機器の整備を行っていく必要がある。情報教育の担当者だけでなく,自立活動担当者など全校の教員が関わりながら,整備出来ることが有効な活用につながる。そのためには,外部の専門家等のアドバイスがもらえるような体制も必要であろう。

5.情報モラルについて

 障害のある児童生徒にとって,インターネットや携帯電話の活用は様々な情報保障の点や自立した生活を行うために有効な支援機器となり得る。視覚障害者がカメラ付きの携帯電話を使って身の回りの様子を遠隔の人に見てもらうことで必要な支援をしてもらうなどその利用の可能性は広がっている。
 しかし,それと同時にどのように情報を扱えばよいかという情報モラルの問題も多く出てきている。知的障害であるために文面の意味を読み間違えて被害者になることや,逆に犯罪に巻き込まれて気が付かぬうちに加害者になるなどの問題も出てきている。また,発達障害のある児童生徒の中には,その障害特性のために,社会規範に基づく判断や倫理的判断に偏りや困難性のある者がいる場合もある。
 情報機器の基礎的な扱いは容易になっているが,その特性に合わせた具体的な指導が必要であり,使い方を体験的に学ぶ機会が必要となってくる点に留意する必要がある。その際にも,たとえば、音声での情報しか与えられなくて聴覚障害があるために理解出来ないということがないように,情報の保証やユニバーサルなデザインを意識しつつ,個々の児童生徒の実態に合わせた指導が望まれる。

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