資料3-2:特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)抜粋

特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)
平成17年12月18日 中央教育審議会
~特別支援教室構想関係抜粋~

第4章 小・中学校における制度的見直しについて
3.特殊学級等の見直し

(1)特殊学級及び通級による指導の現状と課題

  全国の小・中学校の特殊学級の平均在籍者数は約2.8人(平成16年5月1日現在)となっているが、障害種別あるいは都道府県別の平均在籍者数には幅があり、その実態は様々となっている。

 特殊学級には、すべての時間を当該特殊学級で過ごし、教育を受ける必要のある児童生徒がいる一方で、相当の時間を通常の学級との交流教育という形で障害のない児童生徒と共に過ごすことが可能な児童生徒もみられ、その実態は、児童生徒の障害の種類や程度、学校の実情等に応じて様々である。

 また、特殊学級を担当する教員については、当該学級に在籍する児童生徒への指導に加え、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する通級による指導と類似した支援やいわゆる「巡回による指導」を行ったり、通常の学級を担当する教員に対する相談支援を行ったりしている例もみられる一方で、十分な専門性を有しない教員が配置されるなど、必ずしも効果的に活用されていない例もみられる。

 さらに、通級による指導については、指導時間数及び対象となる障害が限定されており、特別支援教育を推進する観点から、より弾力的な対応ができるようにする必要がある。

(2)「特別支援教室(仮称)」の構想について

  協力者会議最終報告においては、「特殊学級や通級指導教室について、その学級編制や指導の実態を踏まえ必要な見直しを行いつつ、障害の多様化を踏まえ柔軟かつ弾力的な対応が可能となるような制度の在り方について具体的に検討していく必要がある」とともに、「制度として全授業時間固定式の学級を維持するのではなく、通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で行う形態(例えば「特別支援教室(仮称)」)とすることについて具体的な検討が必要」との提言が行われた。

 「特別支援教室(仮称)」の構想が目指すものは、各学校に、障害のある児童生徒の実態に応じて特別支援教育を担当する教員が柔軟に配置されるとともに、LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒も含め、障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍しながら、特別の場で適切な指導及び必要な支援を受けることができるような弾力的なシステムを構築することであると考えられる。

 この考え方は、小・中学校における特別支援教育を推進する上で、極めて重要であり、また、すでに特殊学級と通常の学級との交流教育という形で弾力的な運用が行われている例があることも踏まえれば、「特別支援教室(仮称)」の構想が目指しているシステムを実現する方向で、制度的見直しを行うことが適当である。

 具体的な「特別支援教室(仮称)」のイメージについては、LD・ADHD・高機能自閉症等を含め、障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍し、教員の適切な配慮、ティーム・ティーチング、個別指導や学習内容の習熟に応じた指導などの工夫により通常の学級において教育を受けつつ、必要な時間に特別の指導を受ける教室として、例えば以下のような形態が想定される。いかなる形態の特別支援教室をどのように配置していくかについては、地域の実情、個々の児童生徒の障害の状態、適切な指導及び必要な支援の内容・程度に応じ、柔軟かつ適切に対応することが重要である。

○特別支援教室1
 ほとんどの時間を特別支援教室で特別の指導を受ける形態。

○特別支援教室2
 比較的多くの時間を通常の学級で指導を受けつつ、障害の状態に応じ、相当程度の時間を特別支援教室で特別の指導を受ける形態。

○特別支援教室3
 一部の時間のみ特別支援教室で特別の指導を受ける形態。

 これらの形態は、あくまでも例示としてのイメージであって、当然のことながらこれらの形態の中間的なものやこれらの形態を組み合わせたものなども考えられる。

 なお、設置者である市町村教育委員会においては、各小・中学校の「特別支援教室(仮称)」が有するそれぞれの専門性を前提にしながら、特別支援教育のセンター的機能を有する特別支援学校(仮称)及び関係機関との連携協力を進めるなど、各地域におけるニーズに応じた地域全体における総合的な支援体制を構築することが重要である。

(3)「特別支援教室(仮称)」の制度化に係る検討課題

 「特別支援教室(仮称)」の構想が目指しているシステムの実現に向けては、現行の特殊学級等を直ちに廃止することに関して、障害の種類によっては固定式の学級の方が教育上の効果が高いとの意見があることや、重度の障害のある児童生徒が在籍している場合もあること、さらには特殊学級に在籍する児童生徒の保護者の中には固定式の学級が有する機能の維持を望む意見があることなどに配慮し、弾力的な運用が可能となる制度とする必要がある。

 また、特殊学級等の各都道府県等における運用や在籍する児童生徒の実態に幅がある中で、場や空間を指して用いられることが多い「教室」の制度化については、現行の「学級」編制を基本とする公立学校の教職員配置システムとの関連を検討することが必要である。

 さらに、特殊学級や通級による指導を担当する教員には障害のある児童生徒の教育に係る専門性が求められているところであるが、今後、LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒への指導及び支援を含め、「特別支援教室(仮称)」の構想が目指しているシステムを実現するためには、担当教員のより高い専門性が確保されることが必要である。

(4)「特別支援教室(仮称)」に向けた当面の方策

 以上を踏まえ、「特別支援教室(仮称)」の実現に向けた第一段階として、まず、小・中学校における総合的な体制整備(後述)を着実に進めつつ、以下のような現行制度等の見直しを行うことが適当である。これにより、小・中学校の通常の学級に在籍するLD等の児童生徒に対する特別の場での指導及び支援が可能となる。また、引き続き研究開発学校やモデル校などを活用し、制度化に向けた事例・課題等の情報の収集に努めることとともに、その優れた実践を全国に発信することも重要である。

 「特別支援教室(仮称)」の構想が目指しているシステムの法令上の位置付けの明確化等のさらなる制度改正については、これらの取組の実施状況も踏まえ、検討することが適当である。

ア.特殊学級における交流及び共同学習の促進と担当教員の活用

 小・中学校の学習指導要領では、「特殊学級又は通級による指導については、教師間の連携に努め、効果的な指導を行うこと」や、障害のない児童生徒と障害のある児童生徒との「交流の機会を設けること」が定められているが、その趣旨が徹底されていない場合もみられる。

 障害者基本法において、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習を積極的に進める旨が規定されたことも踏まえ、特殊学級を担当する教員と通常の学級を担当する教員の連携の下で、特殊学級に在籍する児童生徒が通常の学級で学ぶ機会が適切に設けられることを一層促進するとともに、その際の教育内容の充実に努めるべきである。

 また、交流及び共同学習の機会が充実されるとともに、特別支援学校(仮称)のセンター的機能が発揮されることを前提とすれば、特殊学級を担当する教員が、通常の学級に在籍するLD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒への指導及び支援も含め、これまで以上に特別支援教育に関する多様な役割を担うことも可能となると考えられる。

 以上を踏まえ、小・中学校において障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な指導及び必要な支援が効果的に行われるようにするため、特殊学級を担当する教員の一層の活用を進めることが必要である。

 また、特殊学級や通級による指導を担当する教員について、高い専門性を有する者が適切に養成・配置されることが必要であり、任命権者である各都道府県教育委員会等において、人事上の配慮が望まれる。

イ.通級による指導の見直し

  通級による指導については、現在でも、必要に応じ、高機能自閉症等を対象とすることが可能であるが、これに加え、LD・ADHDもその対象とすべきである。これに併せて、指導時間数の制限を緩和することや担当教員の専門性を踏まえた指導の対象となる児童生徒の障害種別についても特別支援教育の観点から弾力的な運用が可能となる方向で見直しを行う必要がある。

 通級による指導の形態には、学校内での実施だけでなく、児童生徒が他の小・中学校や盲・聾・養護学校に出向く形態や、教員が他の学校を巡回訪問する形態もみられる。今後、特別支援学校(仮称)のセンター的機能が発揮されるとともに、特殊学級担当教員の活用が促進されることによって、各地域の実情に応じて、こうした多様な形態による運用が広がることが期待される。

ウ.いわゆる「巡回による指導」について

 障害のある児童生徒に対する指導及び支援の一つとして、小・中学校や盲・聾・養護学校の教員が複数の学校を巡回訪問して指導を行う形態がみられる。このいわゆる「巡回による指導」については、LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒に対する教育課程外の個別指導として、週に1回未満程度の頻度で行われている例がある。

 いわゆる「巡回による指導」のうち、定期的に実施されており、かつ、教育課程の一部として位置付けることができる内容であるものについては、その制度的な位置付けを明確化する必要がある。その際、いわゆる「巡回による指導」を受け入れる学校における授業時間の調整、指導に当たる教員の身分、円滑な実施を確保するための仕組みについても併せて検討を行う必要がある。

 また、実施形態については、通級による指導と同様に、特別支援学校(仮称)のセンター的機能や特殊学級担当教員の活用も含め、多様な形態による弾力的運用を可能とすることが適当である。

エ.その他

 いわゆる院内学級については、現行制度の維持を前提としつつ、短期間の在籍であっても学籍移動の手続が必要となることや、児童生徒数の変動を適切に反映した学級編制を行うことが困難であるなどの課題が指摘されていることから、制度の運用実態を見きわめつつ、その在り方について調査研究を行う必要がある。

 

< 参 考 >

○今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)
平成15年3月28日
特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議
~特別支援教室構想関係抜粋~

第4章  特別支援教育を推進する上での小・中学校の在り方について
3  学校内における特別支援教育体制の確立の必要性

(3) 特殊学級は、盲・聾・養護学校の対象でない比較的障害の軽い児童生徒に対して適切な教育を行う場として設けられたが、この特殊学級については、特定の児童生徒に対する専門的な指導が可能であるという点を評価する意見がある一方で、その在り方については検討すべき点があるとする指摘もある。例えば、障害のない児童生徒との交流の重要性に鑑み多くの時間を交流学習にあて通常の学級に在籍する児童生徒と共に学習する機会を設けている実態を踏まえれば、必ずしも、固定式の教育の場を設ける必要はないのではないか、障害のある児童生徒の発達や障害等について専門的な知識や技能を有する特殊学級の担当教員は、小・中学校において重要な役割を担うべき者であり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の教育のためにはもちろん、関係機関との連絡・調整役となるコーディネーター役として活用されるべきではないか、特殊学級に蓄積された指導上の知識及び経験並びに設備及び機器は、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の指導にも広く活かされるべきであり、特定の児童生徒のみの特別の場として位置付けることは適当ではない、というものである。このような指摘を踏まえ、特殊教育の中で培われた資源を有効に活用してより質の高い教育的支援を行うということを念頭に特別支援教育の在り方を考えていく中で、特殊学級の在り方を検討することが必要である。

(4) 通級による指導は、通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童生徒に対する特別の指導を行うための制度として設けられ、近年、対象児童生徒数が増えていることからもそのニーズは高いといえる。しかしながら、障害の状態の改善・克服を主たる目的としており、LDのように特定の能力の困難に起因する教科学習の遅れを補う指導が中心となる場合を想定していない、指導時間数が1~3時間と短時間であり、LD、ADHD等については適切な対応が困難な場合がある、ということを踏まえ通級による指導の制度の目的や指導時間について、より弾力的な対応ができないか検討する必要がある。

(5) このため、特殊学級や通級指導教室について、その学級編制や指導の実態を踏まえ必要な見直しを行いつつ、障害の多様化を踏まえ柔軟かつ弾力的な対応が可能となるような制度の在り方について具体的に検討していく必要がある。

   この際、単に、特殊学級や通級指導教室の教員のみで対応するのではなく、学校内の教員全体の理解の促進と支援体制の構築、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等の活用、「特別支援学校(仮称)」や福祉、医療等関係機関、都道府県等の設置する特殊教育センターに相談し、指導や助言が受けられるような体制を構築して総合的に対応するための仕組みづくりに取り組むことが重要である。

(6) 特殊学級の機能として、その制度の本来の趣旨を尊重し、盲・聾・養護学校の対象とはいえない程度の教育的ニーズを有する障害のある子どもを教育する機能を今後も持たせることが適当であり、この場合には、これまでの交流学習等の実践でも明らかなように、他の子どもと共に学習すること、又は、生活する時間を共有することが有効であると考えられる。

   このため、小・中学校に在籍しながら通常学級とは別に、制度として全授業時間固定式の学級を維持するのではなく、通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で教育や指導を行う形態(例えば「特別支援教室(仮称)」)とすることについて具体的な検討が必要と考える。

(7) この場合、例えば、小・中学校の障害のある児童生徒は、障害の状態等に応じてできるだけ自らが在籍する学級において他の児童生徒と共に学習し、生活上の指導を受け、障害に配慮した特別の教科指導や障害に起因する困難の改善・克服に向けた自立活動といった特別の指導が必要な時間を、この特別支援教室において担当の教員等から指導を受けることになる。

   特別支援教室の運営形態としては、障害の状態によって、従来の通級指導の対象となる児童生徒のように週に数時間のみこの教室で指導を受ける場合、従来の特殊学級における教育の対象となる児童生徒のように週の相当の時間をこの教室で指導を受ける場合、また、小学校の低学年で集中的に特別の指導をこの教室で受け、高学年ではほとんどの時間を他の児童生徒と共に学習するという場合等様々なものが考えられ、従来の特殊教育の機能を包含しつつ弾力的な対応を可能とするものである。

(8) 今後、小・中学校における障害の児童生徒への対応を考えるに当たっては、多様な障害種に応じた教育的対応が求められることに留意する必要がある。例えば、学校における教員等の配置についても、各学校に配置された教員がその学校の児童生徒の教育を担当する形態に加えて、特定の学校に一定数の教員を配置し同学校を拠点に他の学校の特別支援教室に出向いて教育や指導を行う巡回指導の形態等、柔軟な対応について具体的に検討することが必要である。

 

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