参考資料2 各発達段階における子どもの成育をめぐる課題等について(参考メモ)[改訂]

1.背景・趣旨

○ 社会構造の変化を背景として、子どもの成長をめぐる環境にも、かつてなかったような大きな変容が生じてきている。
 現代の子どもの成長には、以前の子どもたちとは異なる形での特徴が見られるようになったり、従来あまり注目されなかった領域で、多くのつまずきが起こるようになったりもしている。

※ こうした課題・問題点が生じる要因については、様々な要因が絡み合っているものと考えられるが、とりわけ、以下のような社会変化に対しては、十分留意する必要がある。
《特に留意すべき社会変化》
 ・社会規範の流動化・弱体化、価値観の多様化
 ・日本的な共同社会の変質、地域における人間関係の希薄化
 ・親の孤立、家庭の養育力・教育力の低下
 ・子どもの生活体験、自然体験等の機会の減少
 ・テレビ、携帯電話・インターネット等の情報メディアの普及

○ 子どもの成長過程においては、多くの子どもに共通に見られる各発達段階ごとの特性(一定の法則性)があること、また、それぞれの段階で達成しておくと、その後の発達が順調に進むが、その達成につまずくとその後の発達に支障を来す可能性のある課題(発達課題)が存在することが指摘されている。

○ 子どもの健やかな成長と人格の形成を考える上でも、こうした視点を踏まえた、適切な支援・指導(子育て・教育)を行っていくことが重要である。

○ これらを踏まえ、様々な社会変化の影響下にある現代の子どもの成育について、発達心理学等の関連分野の知見も踏まえつつ、改めて課題等を整理し、その上で、これからの徳育の在り方等について、今後さらに検討を深めていく必要がある。

2.各段階における発達上の特性と成育をめぐる課題等

(1)乳幼児期

  ○乳児期・幼児前期(0~2歳頃)

【 発達上の特性 】
・ 乳幼児は、まず、自分を守り、自分に対し応答的にかかわる特定の大人(多くの場合、母親)との間に、情緒的な絆(愛着)を形成する。そこで育まれる安心感や信頼感を基にして、身近な人や環境に対する興味や関心が芽生え、人間関係を広げると同時に外部への探索行動を行う。
・ 表象機能の発達により、自分が行おうとすることをあらかじめイメージできるようになり、自分なりの「つもり」を持ちながら行動するようになる。自分の思いどおりにしようとして、親等に止められるなど、「してよいこと」・「してはならないこと」をめぐって親等との間に綱引きが始まる。
・ 大人の言うことがわかるようになり、自分の意志を大人に伝えたいという欲求が高まる。さらに、発生が明瞭になり、語彙も増加していき、自分の意志や欲求を言葉で表出できるようになる。
・ 身体的技能の発達とともに、食事、衣服の着脱など身の回りのことを自分でしようとするようになる。

【 課 題 】
 ・親等への愛着の形成、人に対する基本的信頼感の醸成
 ・欲求に基づく適度の自己主張と自己抑制の学習
 ・身辺自立への訓練・学習

※ 現代的特徴として指摘される現象又は問題点
・ 都市化、核家族化、地域における地縁的なつながりの希薄化などの社会状況の変化の中で、子育てへの不安やしつけに対する自信喪失を抱えたまま、孤立しがちな親が多く見られるようになっている。
・ 乳幼児期における身体の成長(身長、体重等)や知的な発達(言葉の習得など)の面で、自分の子どもを他の子どもと比較し、それに一喜一憂している親の姿が多く見られる。
・ 親子の関係をめぐっては、子どもを放任する親、子育てに無関心な親がいると同時に、過保護・甘やかせすぎの親、子どもに過干渉したり、子どもとの関係に依存したりする親、子どもを虐待する親もいるなど、多様な問題が指摘されている。

○幼児後期(3~6歳頃)

【 発達上の特性 】

・ 食事、排泄、衣服の着脱など、自立できるようになるとともに、食事、睡眠等の生活リズムが定着する。
・ 生活の繰り返しの中で、身体感覚を伴う直接的な体験や、具体的な事物に関連させながら、世界に対する認知を広げていく。
・ 幼児期の特徴として、他人が自分とは異なる見方・感じ方・考え方をすることを理解できない「自己中心性」があるが、一方で、他者の存在・視点にも次第に気付き始める。
 遊びを中心とした友達とのかかわりあいを通じて、道徳性や社会性の原型といえるものを獲得していく。

【 課 題 】
 ・遊びの発達、子どもどうしの相互交渉の深まり
 ・基本的な生活習慣の定着・確立
 ・善悪の区別についての学習と良心の芽生え

※ 現代的特徴として指摘される現象又は問題点
・ 少子化の影響等もあり、地域の中での子ども同士のかかわりが減少している。
・ 家庭におけるしつけが十分になされず、成長期に不可欠な基本的な生活習慣・生活リズムが大きく乱れている。
・ 幼児期においても、子どもに知的な教育を早期に始めようとする傾向が、都市部等を中心に強くなっている。

(2)学童期

○小学校低学年

【 発達上の特性 】
・ 身体的・運動的な機能の発達に伴い活動の範囲が広がるが。言葉と認識の力も高まり、ある程度時間と空間を超えた見通しが持てるようになる(自然等への関心も増す)。
・ 幼児期の自己中心性も残っているが、他人の立場を認めたり、理解したりする能力も徐々に発達してくる。学校等での生活経験を通じ、集団の一員との意識をもつようになり、子どもたち同士でも役割を分担して行動したりするようになる。
・ 「大人が『いけない』ということは、してはならないない」といったように、善悪の判断は、大人の権威に依存してなされ、教師や保護者の影響を受けやすい。また、行為の動機よりも結果を基準とした道徳的価値判断を行う傾向が強いが、してよいことと・悪いことについての理解はできるようになる。

【 課 題 】
 ・学校における集団生活への適応
 ・善悪判断に関する基本的な尺度・枠組みの確立
 ・自然や生命に対する感性等の涵養

※ 現代的特徴として指摘される現象又は問題点
・ 子どもが基本的なしつけを受けないままに入学し、集団生活のスタート時点で問題が顕在化するケースが多くなっている(いわゆる「小1プロブレム」)。
・ 社会規範が流動化し、良いこと・悪いことについて、親や教師、地域の大人が自信を持って指導できなくなっている(叱れない大人、迎合的な親)。

○小学校高学年

【 発達上の特性 】
・ 物事をある程度抽象化して認識することが可能となり、その能力が増す。対象との間に距離をとって分析できるようになり、自分のことも客観的に捉えられるようになる。
・身体的にも知的・社会的にも成長し、有能感(又は、これに失敗し劣等感)を持つ。
・ 集団とのかかわりにおいては、徐々に集団の規則や遊びのきまりの意義を理解して、集団目標の達成に主体的に関わったり、共同作業を行ったり、自分たちできまりを作り守ろうとしたりすることもできるようになる。
・ 排他的な遊び仲間同士で活動するギャングエイジを迎え、学校(学級) においては、幾つかの閉鎖的な仲間集団ができる。集団間の争いや、所属する集団への付和雷同的な行動も見られるようになる。
・ 道徳的判断については、行為の結果とともに行為の動機をも十分に考慮できるようになる。理想主義的な傾向が強く、自分の価値判断に固執しがちになる。

【 課 題 】
 ・抽象的な思考様式への適応、他者の視点への理解力の発達(←→「9歳の壁」)
 ・活動能力の広がりに応じた現実世界への好奇心(興味・関心、意欲)の涵養
 ・対人関係能力、社会的知識・技能の向上(敵対する者も含めた同年代の者とのつきあいを学ぶ)
 ・良心・道徳性・価値判断の尺度の高次化・強化

 ※ 現代的特徴として指摘される現象又は問題点
・ メディアを通じた疑似体験・間接体験が多くを占め、人・モノ・実社会に直に触れる直接体験の機会が減少している。
・ ギャングエイジを経ないまま成長する子どもが増えている。
・ 自尊感情を持てないでいる子どもが数多くいる。

(3)青年前期(思春期)

【 発達上の特性 】
・ 内省的傾向が顕著になって自意識も一層強まる。自意識と実態との差に悩む時期でもある。程度の差はあるものの周囲の期待に添って「良い子」として振る舞ってきた者も、様々な葛藤や経験の中で、自分の生き方を模索するようになる。
・ 他者との関係では、親や教師の存在は相対的に小さくなり、特定の仲間集団の中に安息を見出すようになる。親への反抗期を迎える。仲間特有の言語環境で充足を覚え、排他的であることをよしとし、仲間どうしの評価は強く意識するが、広く他者と意思疎通を図ることには意識が向かわない傾向もある。性意識が高まり、異性への興味・関心が大きくなる。
・ 具体的な事柄に関して首尾一貫した思考が可能であるだけでなく、目に見えない抽象的な事柄についてもかなり深い思索ができるようになり、多くの人々からなる社会の存在を認識し、個人と社会との関係等についても理解できるようになる。

【 課 題 】
 ・自己同一性の確立に向けた模索
 ・特定の友人との深い人間関係の形成
 ・異性との望ましい関係の学習

※ 現代的特徴として指摘される現象又は問題点
・ 反抗期を経ないまま成長する子どもが多くなっている(「友達親子」の増加)。
・ 孤立を恐れる「群れ指向」と友人関係の深まりを忌避する「ふれ合い恐怖」を併せ持つ子どもが多くなっている。

(4)青年中期

【 発達上の特性(従前から指摘されてきたもの) 】
・ 生活空間が飛躍的に広がり、それに伴って情報も生活体験も格段に拡充する。
・ 思春期の混乱から脱しつつ、大人の社会を展望するようになる。自分は大人の社会でどのように生きるのかという課題に出会い、真剣に模索し始める時期であるが、真剣に考えることを放棄して、目の前の楽しさだけを追い求める者もいる。
・ 知的にも情緒的にも人間や社会に対する認識が深化する可能性のある時期である。法やきまりに対してもそれ自体の正しさを問うたり、社会規範の相対性の面に関心が向かうなど、メタレベルでの認識が進んでいく。

【 課 題 】
 ・自己同一性の確立、親や他の大人からの情緒的自立(心理的離乳)
 ・自らの進路を選択・決定できる能力の獲得
 ・市民としての必要な知識の習得・態度の形成
 ・社会的に責任のある行動の遂行

※ 現代的特徴として指摘される現象又は問題点
・ 子離れできない親・親離れできない子どもが増えている。
・ 将来に展望を持たない刹那主義的な傾向の若者が増えている。
・ 小さな仲間集団の中では濃密な人間関係を持つが、その外側には無関心となる傾向が強くなっている(社会や公共に対する意識・関心の低下)。

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初等中等教育局児童生徒課