平成21年6月
子どもの徳育に関する懇談会
はじめに
1.徳育の意義普遍性
(1) 徳育の意義
(2) どの時代、どの社会においても行われてきた徳育の普遍性
(3) 諸外国及び我が国の徳育をめぐる近年の動向
2.現代の子どもの成長と徳育をめぐる今日的課題
(1) 社会環境の変化と徳育に関する今日的課題
(2) 社会全体で、いま直ちに子どもの徳育に取り組む必要性
3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題
(1) 乳幼児期
(2) 学童期
(3) 青年前期(中学校)
(4) 青年中期(高等学校)
4.子どもの徳育の充実に向けて
(1) 今日的課題を踏まえた子どもの徳育の在り方
(2) 家庭地域学校の役割と社会総がかりによる子どもの徳育の推進
【10の提言】
提言1 家庭でルールをつくり、子どもに愛情を持って接し基本的なしつけを行うこと
提言2 家庭教育の支援とワークライフバランスの推進を図ること
提言3 子育て関係団体と連携協力し、地域の子育ての取組を充実すること
提言4 全校的な体制づくりを通じ、各学校において道徳教育を充実すること
提言5 道徳教育に関する教材の活用への支援と教師の資質向上を図ること
提言6 発達段階に応じた子どもの体験活動の充実を図ること
提言7 絵本の読み聞かせや古典に親しむ等の読書活動の充実を幼児期から図ること
提言8 有害情報から子どもを守る取組や情報モラル教育を推進すること
提言9 子ども向けの良質な番組提供や出版等への取組を充実すること
提言10 子どもの徳育の充実に向けた啓発活動を推進すること
おわりに
○ 人の生涯、乳幼児期から青少年期は、人格形成に非常に重要な時期である。人格の完成を目的とする教育の営みはいずれの社会においても、家庭・地域・学校等を通じて、知・徳・体の調和ある発達を目指して行われるが、人が人としての尊厳を持ち、人間性の涵養を図る上では、とりわけ、子どもの時期における「徳育」の果たす役割が重要である。人と人が協力し合い「社会」を築きあげるという人の普遍的な営みにおいて、「徳育」は不可欠である。このことは人類の歴史上、今日に至るまで国際的にも共有されてきた考え方である。
○ 諸外国と同様に、我が国においても、これまで、家庭を中心に地域や学校において役割分担をしながら、社会全体として次世代を担う子どもの徳育を進めてきた。しかしながら、近年、経済の発展や社会の進歩につれて、子どもたちの間に、また、社会の形成者である大人たちの間にも「徳」が見失われてきているような状況が見られ、そして、こうした状況が当然のように社会で受け止められてきている。
○ 我が国は、優れた伝統や文化を持ち、人々の生活の中で、誠実さや勤勉さ、互いを思いやり協調する「和の精神」、人間を超えたものへの畏敬の念、自然を愛し調和しようとする自然観や宗教的情操等を大切にし、長い歴史を通じ、世代を超えて継承してきた。しかしながら、ここ数十年の間に、こうした伝統や文化を継承すべき大人のモラルの低下が進み、良き伝統や文化が急速に失われ、社会全般での「徳」が見失われてきている。さらには、インターネットの急速な進展といった大きな社会構造の変化の中、子どもがはぐくまれる環境にもひずみが大きく生じているという指摘もある。このように、知・徳・体の調和ある発達に不可欠な「徳」が、社会の中で見失われ、あるいは、埋没しているという危機的な状態にある今こそ、子どもの徳育について、その在り方を見つめ直さなければいけないのではないか。
○ このような危機意識のもとで、平成20年8月に「子どもの徳育に関する懇談会(以下「本懇談会」という)」が文部科学省に設置され、子どもが心身ともに健やかに成長し、豊かな徳性を身につけた社会の形成者として自立することを社会総がかりで支援するため、家庭・地域・学校における子どもの徳育の充実に向けた方策の在り方について、検討を行ってきた。
○ 徳育に関連するテーマについては、本懇談会の設置以前においても、様々な議論が行われ、提言されている。例えば、中央教育審議会においては、平成10年6月30日に、「新しい時代を拓く心を育てるために‐次世代を育てる心を失う危機‐(答申)」をとりまとめ、子どもたちのよりよい成長を目指して、社会全体、家庭、地域、学校それぞれが取り組むべき方策を具体的に提言するとともに、心の教育の充実に向けた国民一人一人の理解を呼びかけている。
また、平成20年1月17日に初等中等教育における教育課程の改善についてとりまとめた中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」においては、道徳教育の充実に関して、子どもたちが学校だけではなく、家庭や地域における教育によってはぐくまれるほか、社会の大きな変化を踏まえ、家庭や地域と学校との連携・協力が不可欠であり、社会全体で、子どもたちの生活習慣の確立、規範意識の醸成、道徳的価値観の形成などを推進していくための具体的諸方策が必要であると提言している。
この他、教育再生会議最終報告(平成20年1月31日)においては、心身ともに健やかな徳のある人間を育てることを目指し、徳育を教科として充実させ、自分を見つめ、他を思いやり、感性豊かな心を育てるとともに、人間として必要な規範意識をしっかり身に付けさせることや、家庭、地域、学校が協力して「社会総がかり」で、心身ともに健やかな徳のある人間を育てることが提言されている。
○ 本懇談会は、これまでに、 回の会議を開催し、検討を行ってきた。検討にあたっては、子どもの発達に関する専門家や、諸外国の徳育に関する専門家からのヒアリングも行い、子どもの発達段階に応じた徳育の課題や社会環境の変化による子どもの発達への影響といった観点から、審議を進めてきた。このたび、子どもの徳育についての基本的な認識、現代の子どもの発達と徳育をめぐる今日的課題、子どもの発達段階ごとの特徴、徳育の今後の在り方等について、現時点における本懇談会としての基本的な考え方を整理し、「審議の概要」としてとりまとめるものである。
○ 子どもの徳育に関し、我々は、安易な解を求めるかのごとき態度は自ら戒めつつも、未来の我が国を支える子どもたちの健やかな成長を願い、大人社会の責務として、今何をなし得るのか、何をなさねばならないかを真摯に検討してきた。とりわけ、脳科学や発達心理学の進展、あるいは、社会構造の変化という背景の中、改めて、子どもの豊かな心身の育成に取り組むにあたって、各発達段階において重視すべき事柄は何かという観点から審議を重ねてきた。
○ 子どもの教育・徳育について検討することは、子どもの成長と発達にかかわる様々な環境や社会の在り方そのものを検討することである。このため、本懇談会は、発達段階に応じた子どもの徳育の取組について、家庭・地域・学校をはじめとする社会全般に向けた提言を行うことを目指した。 本懇談会の「審議の概要」をすべての国民に伝え、理解していただき、そして、行動につなげていただきたいと願うものである。
○ 教育基本法では、第一条において、教育の目的(※1)を、「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」と定めている。そして、第二条においては、教育の目標(※2)を、知・徳・体の調和のとれた発達を基本に、自主自律の精神や、自他の敬愛と協力を重んずる態度、自然や環境を大切にする態度、日本の伝統・文化を尊重し、国際社会に生きる日本人としての態度の養成と、定めている。
○ こうした教育基本法の規定も踏まえると、徳育は、「社会(その国、その時代)が理想とする人間像を目指して行われる人格形成」の営みであり、幅広い知識と教養、豊かな情操と道徳心、健やかな身体をはぐくむという、知・徳・体の調和ある人格の完成を目指すことが重要であると言える。
※1 教育基本法
(教育の目的)
第一条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育 成を期して行われなければならない。
※2 教育基本法
(教育の目標)
第二条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
○ 小中学校の学習指導要領では、道徳の時間を要(かなめ)として、学校の教育活動全体を通じて道徳教育を行うことを定めているが、道徳教育の指導内容については、
の四つの視点に分けて示している。
○ 徳育を通じて、身につけることが求められる資質・能力としては、
これらすべては、子どもが、知ること・判断すること(知的側面)、信じること・感じること(情意的側面)を通じて、行うこと(行動実践的側面)につながるものでなければならない。
すなわち、人が、他者への思いやりの心をはぐくむことを通じて徳を積み、道徳的諸価値を内面において統合し、生涯にわたり自己の人生を主体的に切り開くことができることが、徳育を通じて身につけることが期待される資質・能力である。
○ こうした徳育がもたらす資質や能力は、基本的には、個人の内面のものであるが、人が社会の中で生きていくという社会的存在であるからこそ必要なものでもある。生まれたばかりの子どもは、環境に適応し、自らの感覚を発達させながら、心身の機能を高めていく。また、安全で安心できる環境のもとで大人から十分に愛され、信頼されることで情緒を安定させながら、自己の抑制等を学習し、他者との調和ある行動が可能になっていく。同時に、子どもは発達段階に応じて、自己の周辺の社会を広げ、主体的に他者とかかわり、正義感や勇気、忍耐心や惻隠の情(※3)、礼儀正しさ、誠意、克己心等を持つようになり、自らの道徳的価値観を形成していく。
○ このように、人の主体的な自己実現は、自然環境や社会の価値・規範とそれに対する個人の道徳的価値観との相互作用の中で、両者が調和することではじめて成し遂げられるものである。したがって、社会、自然や崇高なものとのかかわりの中で、人が人として生きることを目指し、徳育は実践されていかなければならない。
○ なお、徳育によって身につける「徳性」の涵養が、人格の完成に欠くべからざるものであることにかんがみれば、徳育と知育、体育、食育には、具体の実践において、重なり合う部分が存在する。例えば、規範意識の醸成や公徳心の育成、社会性・人間関係形成に関する能力の育成には、法規範についての教育や、社会問題について論理的に分析・思考することは意義あるものである。また、スポーツ活動を通じて、ルールやチームワークを学ぶことも効果的である。さらには、食に関する指導を通じて、適切な食習慣を身につけることは、徳育と食育が重なり合っている領域である。
○ しかしながら、人の発達や行動についての合理的な理解や分析がどれほど進もうとも、論理通りにすべての行動が行われるとは限らないのが、現実の人の姿である。人間は多くの矛盾や葛藤(かつとう)を抱える存在であり、人がその生涯において直面する問題は、知的理解や合理的な説明だけでは必ずしも解決できない。
○ それでもなお、自己と向き合い、「志」を持ち続け、主体的に人生を切り開くために不可欠な力を身につけることが、徳育に期待されるものである。そして、徳育の十分な取組は、知育・体育・食育などの、基盤となる教育が着実に実践された上で、はじめて期待できるものと考えられる。
※3 いたわしく思うこと。あわれみ。(広辞苑)
○ 人が、人として、社会で生きていくためには、共通のマナー、エチケット、ルールをはじめとする道徳性を有していなければならない。言い換えれば、人間が社会的存在として、円滑に社会生活を営み、人間らしく生きるために不可欠のものが、道徳性である。
○ こうした道徳性に基づく社会規範などは、集団の成員から他の成員へと伝えられ、時を超えて継承されていくものである。そして、世代を超えたルールの継承を担っている徳育は、どの時代、どの社会、どの国においても、訓戒や習俗、法などを通じて行われてきた。 我が国においても同様に、古くから、家庭や社会におけるしつけや様々な習慣や儀礼を通じ、近代においては、国民一般を対象とする学校教育を通じて、徳育が行われてきた。以下に示す、今も残る様々な家訓などの教訓、戒律などの中には、人としての在り方に関する共通の要素が示されている。このように、徳育は、どの時代、どの社会においても行われてきた普遍的な営みである。
ちちははをうやまい、これをしたしみ、そのこころにしたがうべし
ひとをころすべからず
けものをむごくとりあつかいむしけらをむえきにころすべからず
ぬすみすべからず
いつわるべからず
うそをついてひとのじゃまをすべからず
(福沢諭吉が自分の子どもたちに示した教訓)
年長者の言うことに背いてはなりませぬ
虚言をいふ事はなりませぬ
卑怯な振舞をしてはなりませぬ
弱い者をいぢめてはなりませぬ
「ならぬことはならぬものです。」
(会津藩士としての心構えを定めたもので毎日子どもたちが最後に、「ならぬものはならぬものです」で締めくくり誓っていた。)
仁(人に対する思いやり)
義(人としての理(ことわり)、人として正しいことをすること)
礼(礼節を重んじること)
智(善悪を正しく判断する知識・知恵)
信(約束を守り、自他に誠実であること)
(儒教における五つの徳)
父母を敬うこと
殺人をしてはいけないこと
盗んではいけないこと
偽証してはいけないこと
隣人の家をむさぼってはいけないこと
(旧約聖書にある、モーゼが与えられた十の戒律)
公徳とは、社会生活の中で私たちが守るべき道。
この世の中で生きていくうえで、他者への配慮や思いやりを大切にして、社会の中の自分の在り方、生き方を考えることは当然のことです。
でもいまの世の中、自分だけがよければいいという人が多すぎると思いませんか。
電車やバスの車内での悪いマナー、空き缶やたばこを無頓着にポイ捨てする人、平気で割り込みしてくる人・・・
こういう人たちが「公徳心のない人」と呼ばれるのです。
(心のノート 中学校版)
○ 徳育の営みは、社会の在り方そのものに密接に関与するものであり、それゆえ、社会全体の大きな関心事であり続けてきた。近年、諸外国においても、子どもたちの未来、そして国の未来を左右する重要な課題として教育改革に熱心に取り組んでいる。
○ とりわけ、快適で便利な現代的生活を楽しむ一方で、欲望を抑えることなく行動するといったモラルの低下に現れるような「心の荒廃」、社会環境に影響を受けた「子どもの荒れ」といった社会問題は、多くの先進国の共通した課題となっている。こうした深刻な状況の解決を目指し、多くの国においては、現在の子どもの心の健全な成長を目指した徳育の充実に取り組んでいる。
・ アメリカ合衆国では、市民教育、キャラクターエデュケーション、サービス・ラーニングの3領域の徳育を推進しており、連邦政府においては、各州政府に財政支援を行っている。学校教育においては、こうした財政支援を受け、各学校において、信頼、責任、尊敬、公正、思いやり、市民性などの人格的価値に重点を置いた多様な取組が行われている。また、サービス・ラーニングの領域においては、連邦政府は、教育だけでなく、労働、保健福祉など様々な分野に予算を割り当てており、全国のボランティア団体が、各地域で、学校とも連携しながら子どもたちの奉仕活動を推進しており、まさに国家を挙げての事業となっている。
・ イギリス(イングランド)では、宗教教育と、参加と行動性ある市民となるためのシティズンシップ教育やPSHE(Personal,socialandhealtheducation、人格及び社会性の発達のための教育・健康教育・経済教育)等を通じて、学校における道徳教育を推進している。こうした内容は、特設時間や教科等の様々な場面で実施されており、特に2002年には、中等学校において、「市民」の育成をさらに推進するため、全国共通カリキュラムにシティズンシップを必修教科として位置づけた。また、このような徳育の推進の取組は、学校教育のみならず、自治体、教会、有志団体などによる若者の自立支援を目指した、ユースワークないしユースサービスと称せられる社会教育活動においても伝統的に幅広く行われている。
・ フランスでは、学校教育において、「公民教育」という教科で、小学校1年から高校まで、人権宣言に由来する、民主主義社会の構成員たるフランス市民としての必要な行動原理や他者との共生、権利義務、個人の尊厳等を学んでいる。また、社会教育主事に相当するアニマトゥールという有資格者が、子どもの野外活動やスポーツ支援活動を推進している。このほか、自治体レベルでの親の地域教育活動参加も促進しており、自然的・文化的な環境での徳育が行われている。さらには、近年、移民家庭の多い地域における青少年非行が多発している中、子どもの社会化にとって、まずは家庭が重要な場所であるという認識から、親と教師の連携も含め、家庭教育の充実が提唱されてきている。
・ 韓国では、学校教育において、初等学校1、2学年(6、7歳)までは「正しい生活」、初等学校3学年から高等学校1学年(8~15歳)までは「道徳」という教科を設置するほか、高等学校2、3学年(16、17歳)では「市民倫理」、「倫理と思想」「伝統倫理」という選択科目を教科書を使用しながら実施している。また、市民生活においても、例えば年長者に対する敬語使用の徹底やバス・電車内において高齢者へ座席を譲ること、食事の際には「年長者が箸をつけるまで待つ」といった儒教文化の伝統と風習が社会や一般家庭に強く残っており、韓国の子どもの規範意識形成に大きな影響を与えているとみられる。
○ 我が国においても、「はじめに」に示した提言なども踏まえ、子どもの健やかな発達と徳育の充実に向けた取組が進められている。文部科学省においては、平成11年度から、一人一人の親が家庭を見つめ直し、それぞれが自信を持って子育てに取り組んでいくため、日常生活における家庭教育のヒント集となる家庭教育手帳を配布してきた。また、児童生徒が身につける道徳の内容を分かりやすく表し、道徳的価値について自ら考えるきっかけとなることをねらいとして作成した、道徳教育の教材である「心のノート」を平成14年度より、全国の小・中学生に配布している。
○ また、平成18年には、我が国の教育の根本的な理念や原則を定める教育基本法が、戦後初めて改正された。改正された教育基本法では、これまでの教育基本法が掲げてきた普遍的な理念は継承しつつ、公共の精神など規範意識を大切にすることや、それらを醸成してきた伝統と文化を尊重することなどを明確化している。このように、立法化の動きからも、徳育の推進の動向が見てとれる。
○ 現代の日本の若者は、柔軟で豊かな感性や国際性を備えていたり、ボランティア活動への積極的な参加や社会貢献への高い意欲を持つ者も多く現れたりするなど、昔の若者にはなかったような積極性(※4)が見受けられる。
○ その一方で、現代の若者・子どもたちには、他者への思いやりの心や迷惑をかけないという気持ち、生命尊重・人権尊重の心、正義感や遵法精神の低下や、基本的な生活習慣の乱れ(※5)、自制心や規範意識の低下、人間関係を形成する力の低下などの傾向も指摘されている。社会を震撼させるような、少年が関与する事件の報道に触れ、子どもたちの規範意識について不安を感じる人も多い。
○ また、日本の子どもたちが、諸外国と比べて「自尊感情」が低く、将来への夢を描けないという指摘もある。
○ 「今どきの若い者は」「子どものモラルが低下している」などの指摘は、いつの時代でも聞かれる言葉と言われる。大人が眉をひそめるような子どもたちの言動も、当の大人が若いころに行動してきた場合もあるし、価値観の相違から摩擦を生じる原因となる言動が、やがて時代の流れとともに社会に受け入れられることも少なくない。さらに、新しい価値を希求する若者の文化が社会発展の原動力となる場合もある。したがって、今の子どもや若者の行動が、昔の子どもたちと異なる行動だからといって直ちに否定されるべきではない。また、このような指摘については、世代間の意識の差によるものであれば、対話によって理解を図り、解決していくことも可能である。
○ むしろ、今、子どもたちの行動に対して指摘される問題点の多くは、大人たちの問題でもあるのではないか。子どもたちが、将来大人となる際の手本となるべき今の大人が、手本となり得ていないという大人社会の問題が、子どもに投影されているのではないだろうか。例えば、他人のことを思いやらず、自分さえ良ければといった言動や、責任感の欠如した言動、真摯に努力することを軽視するといった言動は、今の大人が行っているものであり、そうした大人に起因する問題が、子どもの問題と受けとめられているからこそ、問題の解決に至らないのではないか。
○ また、1.(1)で述べているように、多くの矛盾や葛藤を抱える存在こそが人間であることからも、子どもが、様々な体験の中で、ねたみや悲しみ等を感じ、葛藤しながら、自ら克服するに至るまで、試行錯誤することについて、大人社会が寛容であることが、今こそ求められているのではないか。
○ 子どもたちが豊かな人間性をはぐくむためには、まずもって、身近な大人たちが、子どもたちの目にはどのように映るかもよく考えて、自らの言動を振り返り、子どもの視点に立って、必要に応じて改善し、大人全般のモラルの向上に、大人自らが率先垂範して、早急に取り組まなければならない。
○ 同時に、こうした子どもの言動に関する問題は、大人のモラルの改善だけですべてが解決されるというわけでもなく、その背景には大きな社会構造の変化の影響に起因する問題があることにも留意しなければならない。
○ こうした社会構造の変化による問題については、様々な要因が複雑に絡み合っているものであり、一概には論じられない面もある。とはいえ、近年の急速な社会構造の変化が、子どもたちの徳育に与える影響は大きく、大人が当たり前のように受け止めていた子どもの社会環境と現在の子どもの社会環境が大きく異なっていることについて留意しなければならない。とりわけ、以下に掲げる現象については、子どもの徳育への影響が大きいものとして重視しなければならない。
1.新しいメディア技術の発達の影響等
携帯電話の普及とともに、インターネット社会が加速的に進展している現在、インターネットでの情報収集等により、趣味が広がったり、活動の範囲が拡大するといった子どもたちへの好影響が見られている。その一方で、インターネット等を通じて提供される有害情報により子どもたちが犯罪に巻き込まれたり、場合によっては加害者になるなどの弊害や、インターネット上の「掲示板」への匿名の書き込みによる誹謗中傷やいじめといった情報化の影の部分の問題という、従来の子どもの身近にはなかった問題が新たに生じている。
また、テレビの普及により、我が国の食卓の風景は変化し、家族の会話が少なくなったが、テレビを長時間視聴する子どもが依然多い状況に加えて、パソコンや携帯電話の普及により、インターネットを長時間利用することで、家族間で、お互いへの関心が一層失われ、さらには、自己中心的な人間関係の在り方が助長されているという指摘もある。
特に、現代の子どもたちは、大人と異なり、生まれたころからインターネット社会に育っており、こうした違いを踏まえた上で、現代のメディアの子どもへの影響を、考えることが必要である(※6)。
2.家族・地域社会等の変化を背景とした体験活動の減少
核家族化や少子化の進展や、いわゆる一人っ子の割合の増加が生じている中、子どもが兄弟姉妹や親戚同士、友人同士で遊び、切磋琢磨したり、祖父母等と触れあうといった機会が減少している。さらには、地域社会においても、地縁的なつながりの弱まりや、人間関係の希薄化が進む中、子どもの心の成長の糧となる生活体験や自然体験の機会が減少している。また、子どもの生活スタイルも、自然環境から遊離してきており、人間が当然に有するべき逞しさや自他の生命の尊重の精神を身につける機会が奪われていることも指摘されている。また、子どもたちの人間関係を構築する力や、社会性の減少といった問題も指摘されている。
3.利己的な風潮等、社会の風潮の変化
現在、価値観が多様化し、経済的な価値の過大評価が起こり、あるいは、今が楽しければよいといった刹那的な行動や、「公」の意識が希薄になり自己の利益のみに関心が収れんする「私事化」傾向が顕著になっているという意見がある。また、個人主義を誤って認識した、「自分さえ良ければ」といった利己的な風潮や、「内(仲間内)」なる領域では道徳的な言動をとる一方、「外(他人・世間)」には非道徳的な言動をとること、さらには、「内」なる領域そのものが狭まっている傾向がある。
4.厳しい家庭環境の中で育つ子どもの存在
さらには、近年、子育て世帯において、経済的に困難な世帯の割合が増加している。また、保護者の育児に関する不安感が増大しているという指摘や、児童虐待の相談件数の増加傾向(※7)など、子どもの成長の基盤である家庭環境の問題も大きくなっている。このように、従来より厳しい家庭環境の中ではぐくまれ、成長していかなかればならない子どもが増加していることも考慮しなければならない。
※4 平成17年5月の内閣府「生涯学習に関する世論調査」では、ボランティアに参加したことがあるとの回答の割合は、15~19歳の年齢層で55.3%と、20歳以上の44.2%を上回っている。また、ボランティア活動に参加してみたいと回答した割合も、それぞれ72.7%と59.6%となっている。
※5 生活習慣については、平成20年11月の文部科学省「平成20年度全国学力・学習状況調査」では、
・平日23時以降に就寝する小学6年生の割合は19%、平日24時以降に就寝する中学3年生の割合は31%、
・朝食を食べないことのある小・中学生の割合は、小学6年生で13%、中学3年生で19%、
・平日にテレビやビデオ・DVDを3時間以上視聴する子どもは小学6年生で46%、中学3年生で39%、となっている。
日本青少年研究所が行った「高校生の学習意識と日常生活調査報告書 日本・アメリカ・中国の3ヶ国の比較」(2005年3 月)では、自分の生活についての自己評価として、「物事に積極的に取り組むほうだ」、「私はリーダーシップをとるのが好きだ」、 「自分の欲望をコントロールするほうだ」、「よく勉強をするほうだ」など肯定的な回答をした割合が、我が国の高校生は3か国の中 で最も低い。
内閣府の「低年齢少年の生活と意識に関する調査報告書」(平成19年2月)では、勉強や進学について悩みや心配事があると答 えた中学生が、平成7年11月の同じ調査の46.7%から61.2%に増加している。
内閣府の「低年齢少年の生活と意識に関する調査報告書」(平成19年2月)では、小・中学生の保護者に子育てや教育の問題点 を複数回答で選択を求めたところ、「家庭でのしつけや教育が不十分であること」(59.9%)、「地域社会で子どもが安全に生活で きなくなっていること」(58.3%)、「テレビやインターネットなどのメディアなどから子どもたちが悪い影響を受けること」(5 0.0%)が上位を占めた。
※6 平成20年度子どもとメディアに関する意識調査 調査結果報告書(社団法人 日本PTA全国協議会)によると、子どもの社会 環境で、親たちが今いちばん困っていることでは、「情報教育に関するもの」(ゲームの悪影響、携帯、インターネットなどの不安) が37.9%と約4割を占めている。
また、小学5年生の24.5%が、中学2年生の25.9%が、「メールの返信がないと不安になる」と回答しており、携帯電話 への依存の傾向が見られる。
※7 平成19年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待に関する相談対応件数は、40,639件であり、児童虐待防止法施行前の 平成11年度に比べ、約3.5倍に増加。(厚生労働省「平成19年度児童相談所における児童虐待相談対応件数(確定値)」)
○ 現在の子どもたちは、昔の子どもたちに比べて一層、心の成長を支える基盤となる環境が悪化していると言わざるをえない。言い換えれば、「子どもを大切に」という言葉が声高に叫ばれる反面、利己主義的な大人社会の風潮が進展してきている状況が、今まさに、我が国が直面している現状である。 こうした現状を考えれば、既に指摘したように、大人自らがそのモラルの向上に取り組むとともに、子どもたちの発達の環境が、今まで経験したことがないような厳しさの中にあるという現実を十分に見据え、今の子どもへの徳育の充実をしっかりと進めることが、極めて重要である。
○ 今我々に必要なことは、数十年後、今の子どもたちが大人になる時代を考え、社会の構成員たる大人としての、子どもの徳性をはぐくむことの責任の根本に立ち返り、何ができるかを考えて実践することである。真に「子どもを大切」にするために、今大人ひとりひとりがその役割を最大限に果たし、社会全体で子どもの徳育を推進する必要があるのである。
○ 子どもの成長過程においては、個人差はあるものの、多くの子どもに共通して見られる発達段階ごとの特徴がある。子どもは発達段階ごとに、視野を広げ、自己探求を深め、志を高めていくが、各発達段階における特徴を踏まえた成長をそれぞれの段階で達成することで、子どもの継続性ある望ましい発達が期待される。一方、こうした段階における望ましい発達がなされなかった場合には、その後の発達にも支障が生じる可能性がありうることが指摘されている。
○ こうした指摘に加え、2.(1)で述べたような、現代の子どもたちをめぐる社会環境も考慮すると、子どもの豊かな心身の育成にあたっては、子どもの発達段階における成長の特徴を、従来より一層踏まえて、適切な対応と支援を行っていくことが重要である。
○ このような考えから、本懇談会では、発達段階ごとの子どもの成長の主な特徴について、発達心理学等の知見も踏まえながら検討してきた。以下は、現代の子どもの成長に関して、特に重視すべき課題について示すものである。
○ 乳幼児期は、母親や父親など特定の大人との間に、愛着関係を形成する時期である。乳幼児は、愛情に基づく情緒的な絆による安心感や信頼感の中ではぐくまれながら、さらに複数の人とのかかわりを深め、興味・関心の対象を広げ、認知や情緒を発達させていく。また、身体の発達とともに、食事や排泄、衣服の着脱などの自立が可能になるとともに、食事や睡眠などの生活リズムが形成される時期でもある。
さらに、幼児期には、周囲の人や物、自然などの環境とかかわり、全身で感じることにつながる体験を繰り返し有することで、徐々に、自らと違う他者の存在やその視点に気づきはじめていく。いわば、遊びなどによる体験活動を中心に、道徳性や社会性の原点を持つことになる時期である。
○ 現在の我が国における乳幼児期の子育ての課題としては、親子関係では、親の子育てへの無関心や放任などの問題から、過保護や甘やかせすぎ、さらには虐待といった、多様な問題が指摘されている。さらには、少子化の影響で、子ども同士の地域での触れ合いが減少している問題も見られる。
○ これらを踏まえて、乳幼児期における子どもの発達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。
○ 小学校低学年の時期の子どもは、幼児期の特徴を残しながらも、「大人が『いけない』と言うことは、してはならない」といったように、大人の言うことを守る中で、善悪についての理解と判断ができるようになる。また、言語能力や認識力も高まり、自然等への関心が増える時期である。
○ また、この時期に限らず、家庭における子どもの徳育にかかわる課題として、都市化や地域における地縁的つながりの希薄化、価値基準の流動化等により、保護者が自信を持って子育てに取り組めなくなっている状況がある。さらに小学校低学年の時期においては、こうした家庭における子育て不安の問題や、子ども同士の交流活動や自然体験の減少などから、子どもが社会性を十分身につけることができないまま小学校に入学することにより、精神的にも不安定さをもち、周りの児童との人間関係をうまく構築できず集団生活になじめない、いわゆる「小1プロブレム」という形で、問題が顕在化することが多くなっている。
○ これらを踏まえて、小学校低学年の時期における子どもの発達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。
○ 9歳以降の小学校高学年の時期には、幼児期を離れ、物事をある程度対象化して認識することができるようになる。対象との間に距離をおいた分析ができるようになり、知的な活動においてもより分化した追求が可能となる。自分のことも客観的にとらえられるようになるが、一方、発達の個人差も顕著になる(いわゆる「9歳の壁」)。身体も大きく成長し、自己肯定感を持ちはじめる時期であるが、反面、発達の個人差も大きく見られることから、自己に対する肯定的な意識を持てず、劣等感を持ちやすくなる時期でもある。
また、集団の規則を理解して、集団活動に主体的に関与したり、遊びなどでは自分たちで決まりを作り、ルールを守るようになる一方、ギャングエイジとも言われるこの時期は、閉鎖的な子どもの仲間集団が発生し、付和雷同的な行動が見られる。
○ 現在の我が国における小学校高学年の時期における子育ての課題としては、インターネット等を通じた擬似的・間接的な体験が増加する反面、人やもの、自然に直接触れるという体験活動の機会の減少があげられる。
○ これらを踏まえて、小学校高学年の時期における子どもの発達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。
○ 中学生になるこの時期は、思春期に入り、親や友達と異なる自分独自の内面の世界があることに気づきはじめるとともに、自意識と客観的事実との違いに悩み、様々な葛藤(かつとう)の中で、自らの生き方を模索しはじめる時期である。また、大人との関係よりも、友人関係に自らへの強い意味を見いだす。さらに、親に対する反抗期を迎えたり、親子のコミュニケーションが不足しがちな時期でもあり、思春期特有の課題が現れる。また、仲間同士の評価を強く意識する反面、他者との交流に消極的な傾向も見られる。性意識が高まり、異性への興味関心も高まる時期でもある。
○ 現在の我が国においては、生徒指導に関する問題行動などが表出しやすいのが、思春期を迎えるこの時期の特徴であり、また、不登校の子どもの割合が増加するなどの傾向や、さらには、青年期すべてに共通する引きこもりの増加といった傾向が見られる。
○ これらを踏まえて、青年前期の子どもの発達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。
○ 親の保護のもとから、社会へ参画し貢献する、自立した大人となるための最終的な移行時期である。思春期の混乱から脱しつつ、大人の社会を展望するようになり、大人の社会でどのように生きるのかという課題に対して、真剣に模索する時期である。
○ 現在、我が国では、こうした大人社会の直前の準備時期であるにもかかわらず、自らの将来を真剣に考えることを放棄したり、目の前の楽しさだけを追い求める刹那主義的な傾向の若者が増加している。さらには、特定の仲間の集団の中では濃密な人間関係を持つが、集団の外の人に対しては無関心となり、さらには、社会や公共に対する意識・関心の低下といった指摘がある。
○ これらを踏まえて、青年中期の子どもの発達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。
○ 2で述べられている子どもの徳育に関する今日的な課題を踏まえ、現在の我が国の子どもが徳育を通じて、身につけていくことが期待される内容としては、特に、以下が考えられる。こうした内容については、大人自らが率先して身につける姿勢を子どもに示すことも求められているものである。
○ こうした徳育を通じて身につけるべき内容に関して、3で述べられている観点を踏まえながら、各発達段階に応じて取り組むことが重要である。そうした中、特に、発達段階ごとに重点的に取り組むべき内容としては、以下の観点が考えられる。すべての大人がこうした発達段階ごとの観点を踏まえて子どもの徳育の充実に取り組むことが望まれる。
○ これらの内容は、保護者をはじめとするすべての大人が理解し、実践すべきことであるが、特に、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教師や保育士といった子どもの教育、保育等に関する専門家においては、こうした発達段階に応じた観点を十分に踏まえた子どもの徳育の推進が期待されるものである。
○ 子どもの徳育に関する方法は、実践の場が家庭や地域、学校等などと多岐にわたることから、一律に整理されるものではない。しかしながら、乳幼児期から、発達段階に応じた徳育の推進を図っていく意義は、家庭・地域・学校のいずれにおいても共通である。とりわけ、ことばの教育や体験活動を、子どもの発達段階の特徴を踏まえて推進することが、今日的な課題への対応としても大変重要である。
○ 公徳心の喪失といった、人が人として存在するための基盤が失われつつあるという危機に直面しているこの時代だからこそ、子どもの徳育の充実にあたっては、社会総がかりとなって取り組む必要がある。そうした中、家庭・地域・学校が各々の特性を踏まえた適切な役割を分担していくことが大切である。
○ 子どもの徳育においては、家庭の役割が何よりも大きい。家庭は、子育ての基盤であり、人生の基盤 である。親をはじめとする特定の大人との愛着形成や、家族との触れ合いを通じて、子どもの豊かな情操や基本的な生活習慣、家族を大切にする気持ちや他人に対する思いやり、命を大切にする気持ち、善悪の判断などの基本的倫理観、社会的なマナー、自制心や自立心を養う上で、重要な役割を担うものである。それゆえ、子どものもっとも身近な模範役としての大人の役割を親が果たすことが、子どもの豊かな心の育成に向けて、何よりも求められる。
○ 地域においては、親や教師以外の様々な大人や、異年齢の子どもたちとの交流の機会を提供できること、自然体験や社会体験等の様々な体験活動の機会が提供でき、思いやりの心や規範意識がはぐくまれることに寄与するという特性を踏まえた役割が期待される。
○ 学校は、体系的なカリキュラムによる教育活動が行われる場であり、さらには同年齢あるいは異なる年齢の子ども同士が触れ合い集団生活を営む場であるという特性を踏まえた役割が期待される。さらに、学校には、担任をはじめとする教師が存在するが、社会の一員としての自立した大人の身近なモデルとして、子どもの心の発達においてその意義は大きい。
○ こうした家庭・地域・学校の役割分担を踏まえ、今すぐに取り組むべき、社会総がかりの徳育の推進の基本的な対応の方向性としては、以下の方策が考えられる。なお、言うまでもないが、こうした対応については、大人ひとりひとりが当事者として取り組まなければならないという意識を持たなければならないものである。
1.子どもの健やかな心身の成長のための家庭教育の充実と家庭支援
提言1 家庭でルールをつくり、子どもに愛情を持って接し基本的なしつけを行うこと
提言2 家庭教育の支援とワーク・ライフ・バランスの推進を図ること
親子でつくろう我が家のルール運動推進協議会(文部科学省、社団法人日本PTA全国協議会、独立行政法人国立青少年教育振興機構、独立行政法人国立女性教育会館)においては、社会総がかりで「心をはぐくむ」取組を推進するため、すべての教育の出発点である家庭に対して、「早寝早起き朝ごはん」といった生活習慣づくりや親子の約束など、基本的なルールづくりの大切さについて呼びかけていく「親子でつくろう我が家のルール」運動を推進しており、標語を募集し、7月に表彰を行った。
【優秀作品】
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2.地域の教育力の充実
提言3 子育て関関係団体と連携協力し、地域の子育ての取組を充実すること
【助産師による子どもの自己肯定感を育む「いのちの大切さを伝える出前講座」(群馬県助産師会)】
【地域全体で子どもを育てるシステム作り‐自発的な生活習慣の確立を目指して‐(東京都文京区立駒本小PTA)】
【心を耕し、心をつなぐPTA活動‐読書活動を通じて‐(静岡県伊豆市立湯ヶ島小学校)】
【一人一人が輝く、心豊かなたくましい永原っ子を育成するPTA活動‐子どもの基本的な生活習慣の確立を目指したPTAの取組‐(鹿児島県姶良郡加治木町立永原小学校PTA)】
【家族や仲間の大切さを心身で学ぶ野外研修(NPO法人森と海の学校)】
3.学校における道徳教育の充実
提言4 全校的な体制づくりを通じ、各学校において道徳教育を充実すること
提言5 道徳教育に関する教材の活用への支援と教師の資質向上を図ること
4.子どもの体験活動の充実
提言6 発達段階に応じた子どもの体験活動の充実を図ること
5.読書活動を通じた子どものことばの教育の充実
提言7 絵本の読み聞かせや古典に親しむ等の読書活動の充実を幼児期から図ること
6.インターネット社会における課題への対応
提言8 有害情報から子どもを守る取組や情報モラル教育を推進すること
提言9 子ども向けの良質な番組提供や出版等への取組を充実すること
7.社会全体で子どもの徳育を推進する体制づくり
提言10 子どもの徳育の充実に向けた啓発活動を推進すること
プログラム
※8 教育基本法
(家庭教育)
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせる とともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援す るために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
※9 食育基本法
(子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割)
第五条 食育は、父母その他の保護者にあっては、家庭が食育において重要な役割を有していることを認識するとともに、子どもの教育、保育等を行う者にあっては、教育、保育等における食育の重要性を十分自覚し、積極的に子どもの食育の推進に関する活動に取り組むこととなるよう、行われなければならない。
※10 内閣府「低年齢少年の生活と意識に関する調査報告書」(平成19年2月)
※11 小・中学校学習指導要領解説(道徳編)における道徳教育推進教師の役割の例示
1 道徳教育の指導計画の作成に関すること
2 全教育活動における道徳教育の推進,充実に関すること
3 道徳の時間の充実と指導体制に関すること
4 道徳用教材の整備・充実・活用に関すること
5 道徳教育の情報提供や情報交換に関すること
6 授業の公開など家庭や地域社会との連携に関すること
7 道徳教育の研修の充実に関すること
8 道徳教育における評価に関すること など
※12 厚生労働省「第6回21世紀出生児縦断調査」(平成18・19年度)、文部科学省「平成20年度 全国学力・学習状況調査」
※13 平成20年度子どもとメディアに関する意識調査 調査結果報告書(社団法人 日本PTA全国協議会)によると、保護者が子ど もに見せたくないテレビ番組について、小学5年生の保護者の30.1%、中学2年生の保護者の23.2%が「ある」と回答。
また、子どもに見せたくない理由として、「内容がばかばかしい」が、小学5年生の保護者で53.1%、中学2年生の保護者で 52.8%と最も多かった。次いで、「言葉が乱暴である」(小学5年生の保護者で41.1%、中学2年生の保護者で38.0%)。
○ 本懇談会では、「審議の概要」として、これまでの審議内容を整理するとともに、特に4の内容について、国民の一人一人が早急に取り組むことを提言するものである。子どもの徳育に関する議論はこれにつきるものではない。例えば、宗教と子どもの徳育の在り方については、宗教と徳育は、本質的には切り離すことができない面を有しているという意見があった。一方で、徳育について論じる際には、個々の信教の自由に配慮することが必要であり、必ずしも宗教と徳育を結びつける必要はないといった意見もあった。このように宗教と徳育の関係については、様々な意見があり、広く国民的な議論が求められる内容でもあることから、一定の結論を得ることが難しい面がある。
○ また、今の大人社会が、ともすると、「危ない、汚い、うるさい」と見える、子どもの、いわば子どもたるゆえんとも言える、試行錯誤のある言動に対して、非常に嫌がる傾向があり、そのことが、子どもの心の豊かさを奪うことにつながっているのではないかという意見もあった。子どもの徳育の推進にあたっては、我々大人が、子どもの視点に立ち、細心の注意を払うことは必要不可欠である。
○ そのような前提のもとで、子どもの健やかな心身の発達に責任を負うのはひとりひとりの大人であり、すべての大人が子どもの徳育の当事者であるという意識を有して、今こそ行動しなければならない。
○ 今、大人ひとりひとりが自らを見つめ直し、子どもを大切にする意識をもって行動することで、我が国は、将来においても、子どもの健やかな心の成長をはぐくむ社会であることが可能になると考えられる。未来において、子どもたちが自他を尊重する心を有し、生き生きと暮らし、そして、日本に生まれて良かったと感じることができる、そのような、明るい未来に向けた、我々大人ひとりひとりの底力の発揮を切に願うものである。
初等中等教育局児童生徒課