今後の幼児教育の振興方策に関する研究会(第2回) 議事録

1.日時

平成20年6月12日(木曜日) 17時~19時

2.場所

文部科学省6階 6F2会議室

3.出席者

委員

 無藤座長、秋田副座長、稲毛委員、岩立委員、大竹委員、柏女委員、佐藤委員、(欠席:岩淵委員、森上委員)

文部科学省

 金森局長、田河幼児教育課長、大谷幼児教育企画官

オブザーバー

 厚生労働省杉原保育課長補佐

4.議事録

  1. 諸外国における幼児教育の状況等について、資料に沿って事務局から説明が行われた後、以下のやりとりがあった。

【委員】
 私はもともと専門は、教育心理学や発達心理学で保育の実践の方に関わってきた。今の問題は政策やその政策に伴う経済的な経費というものがどういうふうに文化的な保育の実践に影響を与えたり、どういう関係にあるのかというような議論が必要になってくるところかと思う。そんなところで専門ではないが、一緒に研究させていただければと思う。

【委員】
 私の専門は経済学。特に労働経済学が専門。幼児教育との関わりにつきましては、教育の経済効果という側面で経済学と関係があるということで委員として参加させていただいている。

【座長】
 資料1では、OECD各国の就学前の教育制度と就学前教育への公財政教育支出についてのデータが示されていた。このグラフ、特に最後のところのグラフなどを見ると、我が国の公財政支出はG5の中でも非常に少ないように思われる。この意味、またそれを巡っての御意見、幼児教育そのものの意味、また、それを無償化する意味など、御意見を頂戴したい。

【委員】
 まずはこの研究会で幼児教育を無償化にする意義などをきちんと話をしておいたほうがいいと思う。まず、幼児教育を無償にする意義は大きく二点あるのではないかと私は考えている。
 一点目は教育というのは国家や社会を維持していく為の将来の日本を担っていく人材育成を行うためのもので、幼児教育は公的に負担を行うべきではないかと考えている。高齢者に対する社会的給付に対して、子供への社会的給付は非常に少ないのではないかと常々感じている。
 二点目は、先ほど事務局から、幼児の親の年齢は一般的に所得が低い状況にあるという御説明もあったが、私は、以前に比べて保護者が経済的に非常に苦しくなっているという状況が生まれてきていると感じている。そういう意味で少子化の流れを変えるためにも保護者の経済負担削減を少子化の一環として実施するべきではないかと考えている。例えば少子化に歯止めをかけることに成功したフランスでは、かつては家族手当などの経済的支援、家族政策が中心であったけれども、1990年代以降、政策を保育サービスの充実へとシフトし、近年、出産子育て、就労に関して幅広い選択ができるよう環境整備を行うことで少子化対策が成功したと聞いている。具体的には、少ない長時間労働や多様な働き方、柔軟なサービスの提供などがあいまって初めて、少子化対策が成功している。従って、経済的負担の軽減だけでは、少子化の歯止めにはならないだろうというのが、私の考えるところ。
 一点目に関連して、同じ日本の子どもなのに、どうして保育所、幼稚園、認可外保育施設など施設によって公費負担が異なるのか、平等性に欠けると常々感じている。また、幼児教育への無償化というのは将来に対する先行投資だと考えるが、無償化を実現するためには、幼児教育の重要性を国民に理解していただくことが不可欠だし、国民の理解を得るためには保育の質がすごく大事になってくるだろうと感じている。

【委員】
 今のお話にもあったが、OECDのStarting Strongの会議に昨年11月並びに今年の4月に出席して、そこでやはり話があった。一つは、幼児教育の重要性というものを世界的に皆が重視しているという話である。定例的に決められた教育の委員会以外に特別委員会が立ち上がっており、教育部門では二つの委員会がある。一つ目がいじめ対策で、もう一つが乳幼児の教育である。つまり、これからの教育を見たときにやはり乳幼児の部分、幼児教育というものがそれだけ重要とされているということである。また、それを支えるように、教育の経済的な効果ということを考えても、ヘックマンをはじめ、乳幼児において教育的な投資をしておくことは長期的に健やかな心身の育ちを保障することを明らかにしている。各国の委員などに無償化の情報収集もあって伺うと、基本的な発想は、やはり幼児教育を公的な、例えばその担っている機関が私立であったとしても、公的な教育の一部分を担っていると考えて予算をつけている。そういう発想がフランスなどやベルギーなどでは明確だと思うが、子供が学習する、学んでいく権利というものを乳幼児が持っているのだ、その権利を保障していくという意味でも、そういうものの財政を支援していくことが重要である、ということだと思う。またもう一点としては、この無償化等々とセットになっているのが、先ほど委員も言われたが、保育の質ということの意味である。一番明確な考え方はイギリスなどに現れていると思うが、やはりすべての機関で、一定の保育の質、公教育であるから一定の質というものを保障するという意味で、なんらかの形の評価等を加えることで、質を一定にしながら、そこにおいて形態は幼稚園だろうが保育所であろうがさまざまな形態であろうが、保障していくというような、そういう発想ではないかと思う。やはり無償にしていくということによって将来これからを担っていく子供たちを国が姿勢としてサポートしていくことを示すことが極めて重要な時代に入っているのではないか。韓国、イギリス等はこの10年の間に見事に予算が、数倍増えている国であるが、日本はまだ幼児教育への投資が重視されていない。昔はこのOECDの表では一番少ないのは韓国だったが、近年変わってきているというようなところでも、国の教育において子供をどう見ていくかとういっことの顕著な表れかと思う。

【委員】
 幼児教育の重要性というのは、今お二人の委員がおっしゃられたように、経済学でも最近注目されており、アメリカのヘックマンというノーベル賞学者の研究が有名だが、彼の研究はどの段階での教育投資が一番効率が高いか、所得がどれだけ伸びるかというもの。大学でも高校でも小学校でもなくて就学前の教育の効果だということがかなり長期の追跡調査で分かったということで、彼自身は大学の教授で、その大学での教授にあまり効果がなかったことを戸惑っていると冗談を言っているが、そのくらい効果が高いということ、最近脳科学、発達科学の研究成果とも一致しているということが分かってきた。その意味で学力面、将来の人的資本という面で、幼児教育の普及、充実というのは、経済効果が高いということが経済学ではかなり常識になってきていると思う。確かに幼児教育の費用負担を減らすということのメリットは、おっしゃったとおりかなり出生率にもプラスの影響があると思うし、女性の労働力率を上げるという効果もある。その面であまり否定する人はいないと思う。私が思ういくつかの問題点というか、日本がなぜ公的負担率が低いのかということについて思うのは、日本の場合、保育所と幼稚園というものが両方あって、保育所の方は、福祉政策的な面がかなり強くて教育という感覚があまりないのではないか。そして、幼稚園の方にもある程度そういう意識があるのではないかと思う。このOECDにおける保育の状況の表に、各国にどの役所が、その保育園や幼稚園を管轄しているのかということの整理をもう一つ追加していただきたい。かなり多くの国では、文部科学省にあたる役所がやっているのではないかと思う。そういう国では、就学前の教育、幼児の教育っていうのは教育であって、社会福祉政策ではないという意識が強いように思う。ここは資料として付け加えていただけたらと思う。
 もう一点は、子育ての負担感が資料3にあるが、子育てに教育の負担感が大きいという問題点は、少子化と関わっている。ただもう一つ問題になるのは、負担感が無くて子供をたくさん産んでしまう低所得の人がいたらもっと深刻な問題になる。だからそこをどうするかというということが本当は重要な問題なのではないかと思う。それが一点。
 資料2のところで、イギリスでは大規模な追跡調査の結果を使って、政策を変えてきたということがあった。日本でも過去どの教育を受けたかという統計をすれば、こういった研究は比較的できるものだと思うので、是非ともそういった調査を行っていただきたい。それからもう一点は、イギリスなどで義務教育の就学年齢をどんどん引き下げていったひとつの理由は、少子化のメリットを生かしたということを担当者から聞いたことがある。教員が余ってきたということで、教育費を引き下げていくのではなくて、その教育費のパイを使って、こうゆう作業ができたということである。

【委員】
 前回も申し上げたが、幼児教育の無償化といったときに、どこまでを教育としてみていくのかという議論をしておかないとならないと思っている。就学前の子どもたちがいる場所は、やはり障害児の通園施設とかいわゆる療育の場にいる子供たちもいる。それから保育所や幼稚園は学校教育法上も含めて、保育の場である。児童養護施設などにいる子たちはいわゆる養護の場にいる。その中の教育、療育、保育、養護この中のどこの分野で限定するのか。子どもの生活する場、教育であろうが、療育だろうが、こどもに対して何かが行われることついての無償化を考えるのか。そこは大事なところではないかと思っている。それからもうひとつは年齢についてであるが、3~5歳、あるいは就学前保育といったときにどこを考えるのか、ということも念頭にいれておく必要があるのではないかと思っている。特に今は、在宅の0、1、2歳の子育て家庭の子どもたちが、他の子どもたちと触れ合える機会がないということを考えると、その乳幼児の部分に何らかの手を当てていくことも考える必要があるのではないか。優先順位はもちろんいろいろあるとは思うが、そんなことを思った。以上の2点、年齢と場の問題をやはりしっかりと考えていかなければいけないのではないかと思う。

【委員】
 私も、今の場としての幼稚園と保育園という大きくは二面の制度であるから、その中でもってどこを無償の対象とするのか、共通ベースはどこに持つのかというのは、どうも議論としてないと、話していてもなんだかふわふわしているなと思うところがある。それと今の保育料の体系は、保育園の保育料というのは、所得等の応能でもって決めていっている。ある特別区でも2割くらいの人が0である。ただ幼稚園についてはある種、教育のサービスに対する対価としての保育料というような感覚で捉えているのだろうと。ある意味を持って公費を投入するのであれば、納税者が、幼稚園に対しても保育園に対してもそういうことをやったときにわかるコンセンサスが得られないと、難しい話になってくるだろう。そういった意味で、この辺の整合性の問題をどうやって捉えておくのかが、入り口の議論として大事かと思う。

【座長】
 お二人の意見は、論点を取り出したほうがいいということであるが、多分一つは、どのくらいの年齢で考えるかということ、それから今御指摘のところは、世帯の所得階層等の問題も絡むということだと思われるので、その辺りを少し分けながらさらに御意見を頂戴したいと思う。まず、先ほどの資料でも国によって無償化の対象となる年齢の範囲等が狭まっており、ある部分は義務教育化している。また、行政側に対する義務という形をとっているのかどうかというところも重要な問題があるように思われる。まず対象となる子どもの年齢について、例えば小学校入学前の一年間というものもあり、そうではなくて3~5歳、3~4歳とか、国によって色々な組み合わせがあるが、幼児教育あるいは保育の立場で、どういう風にお考えでしょうか。

【委員】
 これは文部科学省の研究会であるが、乳幼児の無償化をやりましょうということを議論するというのは、所掌の中に入るのか。そこまでやっていいのか。

【事務局】
 あくまで幼児教育の無償化という形であるが、その幼児の範囲をどう捉えるのかということは、本研究会での議論の対象になると思われる。ただし、諸外国の例をみるところ、ある程度子どもの自我が確立して、他者との関係ができてくる三歳以降の集団的な教育を中心に、幼児教育の無償化とかに取り組んでいる傾向がみられるところであり、それは一つの目安になるかと思われる。

【委員】
 現場の感覚としてお聞きいただければと思うが、0、1、2歳といったところは家庭的な保育を大事にしていこうという感じが非常に強いと思う。次世代育成支援の行動計画を作る際に、住民アンケートをとると、何歳くらいまでのお子さんについて自分で育てたいかといった問いの回答では、三歳くらいまでは自分の手の内で育てたいというのが一番高いタイプだった。もちろん一歳までとか二歳までとか小学校上がるまでとか色々あるが、大抵そのような感じであった。
 それともうひとつは、やはり三歳になると85パーセントくらいが、幼稚園ないしは保育園に入る。4歳5歳では98パーセントか99パーセントが現実的な姿になっている。親御さんも、3、4、5歳くらいのある一定の年齢になっていくと、集団の中での生活を体験させることによって、それ以降の小学校生活などの基本的な生活習慣だとかいろいろなものの基礎を身に付けていって欲しい、そういう思いが出てきているのではないか。

【座長】
 学校教育法上、幼稚園としては、3歳からの3年間で、3歳児については就園率は上がってきているがもちろん100パーセントまでにはかなり遠い。さまざまな制約の中で、5歳、あるいは就学前から順次実施していくんだとか、就学前に限定するんだとか、そのあたりは財源の問題もあると思われるが、同時に、本来の幼児教育はどのようにあるべきものなのかという観点からも考えられると思うが、この点についての御意見を頂きたい。

【委員】
 幼児教育の無償化といった場合の幼児教育というものについて、自分自身でまだ整理が付きにくい。この資料1のデータを見ても、幼児教育、保育を受ける権利と費用負担の状況というところでは、3年とか1年という場合が非常に多い。カナダは6年というものもあるが、だいたい3年くらい無償という形になっているから、学校教育の枠組みで、教育ということで考えるのかなと考えている。アメリカの場合のキンダークラスというのは無償になっているが、学校の中に入っている。なので、学校ということで狭めてしまうのだったら、3歳くらいから3年間くらいで考えるわけであるが、今我が国の状況を考えれば、幼保を総合化していくという流れもあるわけで、その辺が非常に難しいところではないかと思う。

【委員】
 何歳からかというところは文化に大きくよるということはOECDの国々でも出ている。北欧圏は0、1、2歳の乳児の保育所の通園率が4割とかきわめて高くて、最初から社会が集団で子どもを育てていくといった発想であるのに対して、他の国はできれば家庭で、最初は家族と共にという文化があって、そうするとやはり3歳くらいからが、幼児教育としての方向なのではないか。先ほど大規模追跡調査の結果が出ているが、それなどを見ると、保育時間に関わらず、集団の保育に子どもが参加していくことが、その後に影響を与えるということが出ている。もちろん、全体としての費用の問題があるので、どこからということはあり得ると思うが、そういう意味で、集団での教育が可能になってからと考えると、また、全ての施設において、やはり全ての子どもに平等に措置するべきではないか。イギリスは、昨年11月に幼児教育の担当者に聞いたところ、今後、特別な支援を要すると認知されるような子どもに関しては、無償化を少し早めて2歳半から手厚くやっていくような案もあるというような話があって、やはりそういったケアが必要な子どもというか、経済的に必要なのではなくて、個人として必要な子どもには手厚くという発想というものもあり得るのではないかと思う。

【委員】
 今の話とは違ってしまうが、無償化の根拠として長期的な縦断研究をされていると、その場合の測度についてであるが、例えばフランスの場合だと、小学校三年生への進級で何人落第したかとか、教育的な効果測定ができる測度になっているのか。そこが私は疑問に思う。効果を実証するのに、あの学校に何パーセント行けて、行けなかったのかとか。効果測定が、教育の効果としての測度で行われているのかどうかと感じた。

【委員】
 少なくてもイギリスの場合は、全国学力一斉テストが小2の終わりにあるから、そことの関係は当然問われてくる。ただもう一方で、無償化とともに保育の質というものの評価をイギリスは同時に強めていることがある。例えばキャシーシルバーという教授がトップで行っている研究の中で、面白いと思うのは、保育の質が高いと評価されるような園においては、友達と考えを共有するのを教師がサポートする(sustained shared thinking)という、要するに子ども同士が考えを主体的に交わし合う頻度が高いとか、これから将来子どもが新たな発想を作っていくとか、今回の幼稚園教育要領の中にあるような、そういうスタイルというものが現れてきている。幼稚園教育のその後を予測するというだけではなくて、やはり質を高めていくという、どういうものを質の高いというのかという議論はあるが、そういうことが一方で大事なのだという研究があり、私はこれは重要なのではないかと思う。

【委員】
 各国では無償化の根拠となる法律が作られているが、やはり何らかの形で、効果を検証している。その点で諸外国は、このように縦断的な研究があって、検証している。日本でも無償化が大事だと言う場合には、やはり幼児教育の文化や質が違うというところでは、情動面とか関係性面を、どのように検証しつつ根拠資料としていくかが、非常に重要になる。諸外国の方でデータが出ても、そのものを日本でどのようなな形で適用可能なのかは、難しい問題を孕むのではないか。そういう測度をどうもってくるかで、教育面でやるのか、もう少しケア面も含めてやっていくのかでもって先ほどの議論とも関わってくるのかと思う。

【座長】
 年齢に関して御意見をどうぞ。

【委員】
 日本だと幼稚園と保育所を合わせると3歳児で75パーセント、4歳児以上になると95パーセント以上と、そういう状況も考えれば、4,5歳児をまずは優先して、ということになるのではないか。特別支援学校の幼稚部や通園施設や児童養護施設などを入れれば、4,5歳児はだいたいどこかに通っていると考えると、4,5歳児で考えるのが現実的かと思う。

【座長】
 次の論題として、所得階層の問題について。韓国の場合にははっきりと所得制限を入れて無償化ということであるが、日本の場合でも、保育所の保育料の補助のあり方、幼稚園の場合は就園奨励費、それぞれ所得制限ないし所得の割合で変えているが、そのあたりについて御意見を頂戴したい。

【委員】
 所得制限は、例えば生活保障だとか手当を支給するとか、福祉的な色彩のあるものについていえば、所得によって区分を付けていくというのがあると思うが、例えばある特別区では、私立幼稚園の負担軽減は所得制限なしで、どなたに対してもやっている。それは政策的な必要性とか妥当性でもって行っているものについて、所得でもって差をつけるというような考え方にたつということになると、矛盾するような気がする。このへんは大事な視点かと思う。

【委員】
 いわゆる多子世帯の軽減について、現在日本でおこなわれていることを少し整理をしてみたい。幼稚園の場合は、幼稚園就園奨励費補助金があり、同一世帯で2人以上同時に幼稚園に就園している場合は、第1子の保育料を一とした場合に、第2子は7割が保護者負担、そして第3子は2割負担となっている。ただし、小学校1年、2年、3年生に兄とか姉がいる場合は、第2子は9割負担、第3子は8割負担となっている。それに対して、保育所運営費国庫負担金は、同一世帯から二人以上同時に保育所を利用している場合に限って、第1子の保育料を一とした場合に、第2子は5割、第3子は1割負担となっているなど幼稚園と保育所で不均衡が生じている。高知県は現在34市町村あるが、幼稚園を設置している20市町村のうち19市町村が幼稚園就園奨励費の制度を設けている。そのうち4市町は所得の制限の関係で対象者がいないため補助金を活用しているのは15市町村となっている。また、9市町で市町村独自の幼稚園への補助制度を設けているが、補助内容は子ども一人あたりいくらと決めて補助しているところもあれば、一律に一園いくらと決めて補助しているところもある。それに対して保育所の保育料の軽減は7市町で実施しているが、補助内容は所得階層に関係なく第2子を半額、第3子は無料としている。この他、20年度内に一箇所導入を予定しているが、そこでは同一世帯に18歳未満の子どもまで拡大して、第2子は半額、第3子を無料にしようとしている。このように、自治体によっても取り組み方が異なっている。前回気になったのが、この資料の27ページにある、19年予算ベースの幼稚園と保育所の費用負担の比較で園児一人あたりの単価が出ていなかったので、一体一人いくらだろうと気になり計算をした。

【座長】
 前回の資料か。

【委員】
 前回の資料である。計算が間違っていなければ、公立幼稚園の保護者負担が一人当たりで9万1千円、私立幼稚園が24万4千円、公立保育所が30万4千円、私立保育所が31万8千円であった。高知県の18年度の保育料は、国公立幼稚園で6万円、私立幼稚園は26万4千円。保育所は年齢で金額が違ってくるが、3歳以上児は27万6千円、3歳未満児は31万2千円であった。御説明いただいた予算ベースと実際とは乖離があるということがわかればわかるほど、今の制度は一律に語れず非常に悩ましい。

【委員】
 所得階層別にするかしないかは、やはりその幼児教育を何だと考えるかによると思う。所得の再分配システムの一環として考えるのか、そうでなくて義務教育年齢が下がったものと考えるか。義務教育は非常に外部性が強い教育であり、教育をやることによってその人だけでなく日本人全体が得をすることが非常に大きいから、義務教育は無料化されているわけである。その年齢を引き下げていくというふうに考えるのかどうかで全然違った話になってくる。教育の一環として考えると、所得制限というのは論点ではないように思う。所得制限をかけることのデメリットというのもあり、特に日本の場合、女性の労働力率に悪影響を与える。所得を稼ぐと今度は補助がもらえないというシステムであり、それなら専業主婦を選ぼうということが出てくる。そうするとキャリアを維持して子育てをしようという人がどんどん減って行き、日本の労働市場に悪影響を与える。それから、そもそも幼児教育を所得再分配政策で考えるのかどうかという問題。再分配政策については、経済学的には、お金で全部やるほうが効率的で、実物でやる以上は何か別のメリットというのを出してこないと難しいのではないか。

【委員】
 個人的にはやはり所得で差があるというような政策ではなくて、難しいところではあるが、法律上は全ての子どもたちに同じような形の教育の権利を与える方向ではないか。実際の実施においては、各国の場合は、全部に出していくという方向性は打ち出しているけれども、現実にパイが限られているので、段階的実施ということが行われているわけで、どういう方向からやるかという理念と、政策としてどういう方向を目指すかというときに、福祉的な政策ではなく、教育的な意味での機会均等のあるもの、平等ということが大事ではないかと思う。

【座長】
 義務教育化するべきであるという議論もある。例えばアメリカの場合には、就学前一年間が無償、一部の州で義務教育化ということであるが、また義務教育ではないけれども行政側に幼児教育の提供義務があるという場合、これは一般的に、保育については行政側にサービスの提供義務があるのかと思うが、幼稚園については必ずしもそういうわけではないと私は理解している。義務的であるということにもいろいろなバリエーションがあり得るし、義務的な措置に至らないという考え方もあると思う。そのあたりでまたもう少し御意見をいただきたい。

【委員】
 無償化と義務教育というのは、少し違うということであるが、無償化とは、教育を受けさせなくても大丈夫だ、受けたい人はただで受けられるといった権利である。義務になると、親は受けさせないといけないという違いがあるということ。これはやはり効果がどのくらいあるかということによるような気がする。義務教育にすることのメリットがどれだけ大きいのか。一番問題なのは、無償化した時に教育を受けさせない親が出てきたときのデメリットがこの年齢層で非常に大きいということで、そうであれば、義務教育化して無償とするのがよいのではないかと思う。ここでの議論ではそれが問題になっているのかどうか。非常に教育不熱心な親の子どもが、生涯不利な状況に置かれてしまうということが大問題だということが多分多くの国では認識されて、義務教育の年齢が引き下げられるという形になってきたのだと思う。子どもの権利として考えるのであればそれが大事になってくると思う。一方さっきの話に戻るが、親の所得再分配みたいな話だと、無償化だけという結論になるような気がするが、それはこの点に依存するのではないかということである。

【委員】
 例えばアメリカの場合は、義務化しないと子どもの権利は確保しにくい状況がある。だから小学校の中に入っているキンダークラスも含めて朝ご飯まで無料で出すということも行われているわけで、そのようにやっていかざる得ないような社会状況があるのではないか。日本の場合を考えると、私学の問題もあり、私学の自主性とか、保育所の存在とか、また違う社会文化状況があるわけで、その辺もしっかり違いを検討していったほうがよいのではないか。

【委員】
 幼児期は、発達の個人差というものが極めて大きい時期であると考えられる。その時に義務教育という形が、それにふさわしいのか。義務教育というのはもちろん保護者が受けさせる義務があるということであるが、国民が教養として身に着けなければならない知識というものが、ある意味で明確に想定され、教科書というものが作られ、そこに通うという種類の教育である。それに対して幼児教育は、教科書を持たない形のものであり、学習指導要領ではなく、これまでも教育要領という形で実施されてきた。これが日本の子どもの実態に合っているということを考えるならば、義務というかたちで行うということは、子どものこの時期の年齢の発達ということを考えたときに必要なのかどうか。実際90パーセント以上の子どもが参加しているというこの実態を見たときに、ふさわしいのかどうかということには疑問を持つ。

【委員】
 私も同じ考えで、この時期の子どもの発達を考えると、学校のような教科書を使うものが義務化であるとすれば、それは子どもにとって適切ではないと思う。義務教育化するのであれば、学校教育、小学校教育の在り方から考えないと子どもの発達にそぐわないのではないかと感じる。

【委員】
 義務教育の義務という意味は、親が教育をさせないといけないという意味であって、今の小学校のカリキュラムを延長させることを前提するということではないと思う。問題は親の義務とするかどうかだけである。カリキュラムの話はまた別の話で、それはその時期の発達段階に応じた教育をすれば良い訳であるし、それから一クラスの人数とかも全然違う概念になってくると思うが、それはそれで別の問題で議論すればいいと思う。ここでは親の義務にするかどうかということである。

【座長】
 今のことと絡んで先ほど申し上げた行政側にとっての義務というものがあると思う。つまり義務教育でないにしても、サービス提供義務が保育所にはある。

【委員】
 それを考える前に、幼稚園と市町村との関係をもう少し強化していく必要があるのではないか。保育所というのは、市町村を中心に保育に欠ける子供があった場合にその保育を提供するものであり、幼稚園についても、財政補助等々について幼稚園と市町村との関係が強化されれば、就学前の子どもたちに育つ場という集団の場を保障していく努力義務といったものを規定していけるだろうと思うが、まずやはり幼稚園と市町村との結びつきを強化しないと整合性が取れなくなってくると思う。

【座長】
 国、都道府県、市町村の関係の整理は非常に大切。
 次の論点に進みたい。すでに今議論が出ているが、幼稚園と保育所という二元体制となっている。それに対して、国によって様々であるが、例えばイギリスの場合には、様々な施設があるけれども経費の措置については一元的であるという仕組みである。またあの韓国の場合には基本的に二元なのか。そのあたりの御意見や情報などあればいただきたい。

【委員】
 幼稚園・保育所・認可外を所管している県の立場からすれば、当然のこととして一つの施設だけではなく、すべての施設を対象にしていただきたい。保育所、幼稚園を同じように当然やっていただきたい。さらに言及すれば、本県の認定こども園の地方裁量型は質を担保したいということで、認定基準を高くしており認可保育所並の基準を満たさないと、認定こども園として認可できなくなっている。現在、認定こども園には一学期に一回は指導主事が出向き保育改善に向けた支援をさせていただいているし研修も積極的に受けていただいている。そういうことを考えると、認定こども園の地方裁量型も考慮していただくと非常にありがたい。

【委員】
 区の例ばかりで申し訳ないが、だいたい一万2千人強くらいが幼稚園に通っている。保育所の方にだいたい1万人くらい通っているが、保育所の方は、原則論としては、保育に欠けるという要件を満たさなければ入れられない。そうなると実は、幼稚園に来ている中でもって、幼児教育を受けさせたいからということで来ているグループが当然一番多いのだろうとは思うが、実は保育に欠ける条件がクリアできないものだから幼稚園に入れているとか、あるいはパートだとかの労働状況からいけば、4時間とか5時間くらいの労働時間でもってかなり就労ができるという状況もでてきたので、それならば長時間の保育所でなくても幼稚園でもいいかという選択で入っている人とかが出てきているのだと思う。だからその保育に欠けるという条件の取り方、親の就労状況の評価などいろいろと考え合わせなければならない。保育所では養育と幼児教育についても従来よりもはるかにやれということになるので、来年四月からそうなるのか。この部分を共通項にするのかというような議論も出てくるのかという感じがすが、そういう親御さんの状況もあるということを認識したい。

【座長】
 今の最後の保育所における幼児教育のあり方になると、無償化の時間ということを考えたとき、時間の長さももちろんあるが、仮に何時間か幼児教育と定義づけた無償化とすると、これを保育所にもっていったらそれはなにを意味するかということについてはいかがか。

【委員】
 教育という言葉が今非常にデリケートな言葉になっているので、先ほど来、そのことを就学前保育という言い方をしてきているわけだが、つまりもしも幼児教育という言葉を使って幼児教育の無償化という形になったとして、その時間を例えば英国だと2.5時間、日本がもし4時間という形になったとすれば、保育所では、8時間で養護と教育が一体となった支援を行っているわけで、時間で切り分けるということは、全く可能ではないと思う。幼稚園は教育課程に基づく4時間の教育と、あとは預かり保育、学校教育法上はその他の保育か、そういう風に切り分けられているわけだが、そこは保育所は切り分けられていない。その点は非常にデリケートだと思うが。おそらく現場の先生の御意見というのは、そのように時間を切り取られてしまうということについての御懸念が強いのではないかと思う。

【座長】
 多分、保育所は幼児教育を時間割的な意味の時間ではなくて機能として考えているということか。
 もう一つ、もう既に意見が出ているが、幼児教育の質の問題について。無償化をするということと質を一定水準以上に保つということを両立させるということ。両方とも追求すべきだと何人かの委員から御意見をいただいた。しかしそれの難しさといった指摘もあった。その辺りをどうしていったらよいのかについて、日本現実の中で何が可能か。

【委員】
 本県では就学前の行政窓口を全国で初めて一本化し、教育委員会に幼保支援課を創設した。どこにいても質の高い保育教育を受けさせたいと考え、子供たちが生きる力の基礎となる豊かな感性や自尊感情、人とかかわる力などを就学前に身に着けて学校教育へ接続できるように取り組んでいる。具体的には保育士・幼稚園教員の資質・専門性の向上が不可欠だと考え、教育センターにおいて幼保の基本研修を実施しているが、現在新規採用、5年、10年、15年、主任・教頭、所長・園長研修という6講座を設けている。また、理論を保育実践に生かすために、当課の指導主事が園内研修に出向いて支援を行っている。なかなか門戸が開きにくい実態や、保育所数が多いことから考え付いたのがブロック別研修会で、県下を15ブロックに分けブロック単位で一つの園が保育を公開し、そこに集まってもらって保育を見た後で研究協議を行うことを、18年度から実施している。当課の指導主事は、保育所と幼稚園の経験者が2名と小学校籍の者が2名、計4名いるが、それでも足りないので、18年度から幼保支援アドバイザー制度を創設して、退職した方に手伝ってもらっている。また、幼稚園教員や保育士に自分たちで保育の質を高めてもらうことが必要なため、16年度から日曜日に事例研修会を開催している。また今回、保育所保育指針と幼稚園教育要領が変わるが、幼稚園教育要領の説明会を2回行う他、保育所保育指針の説明会も日曜日に県内6箇所で開催しようと計画している。幼稚園教育要領や保育所保育指針の内容をしっかり理解して、保育実践に結び付けていただくことを願って、現在、試行錯誤しながら取り組んでいるところである。

【座長】
 質というときに、質を直接評価し保証するという道もあるし、研修体制等で措置することもある。

【委員】
 保育サービスを必要としている子供たちの約1割が認可外保育施設に通っていて、全国に20万人くらいいるが、それは0~1、2歳が多いと思うが、一定割合の3~5歳もいる。質の担保といったときに、ある程度行政が基準を定め、そこに公的に関与があるということで質の担保がある。評価も含めてだが、担保がされていると考えると、認可外保育施設に通っている子供たちの就学前教育の無償化はどう考えたらいいのか。質が担保されないからといって、外してしまったとすれば、より厳しい状況におかれている親が子どもをそこに通わせている状況があることをどうするか。つまり、長時間仕事をしなければいけないとか、保育に欠けるという条件が保育所にあるために保育に欠けるということを公言できない人もいる。その人たちが認可外保育所を利用している。厳しい状況に置かれている人たちが高額の保育料を負担している。それに対して、認可外保育施設に通っている子どもたちの無償化が見送られてしまうと、さらに厳しい状況になる。どう考えていったらいいのか。認証保育所の研修会に参加したが、非常に熱心にやっているが、そこをどう考えていったらいいのかと思った。

【委員】
 本県の研修は、臨時職員や認可外保育施設も対象としている。ただ、日数の関係で全日数参加出来ない人もいるため、県外から大学の先生などを講師として招く講座は、オープンにして、年次に関係なく誰でも参加できるようにしている。認可外保育施設の人にもできる限り研修する機会を設け、参加してほしいと願って実施している。先ほど紹介した事例研修会には、認可外保育施設や遠方からもたくさん参加している。ただ、全国の都道府県でこのような研修ができているかどうかはわからない。

【委員】
 国際的にみると保育の質を保証するためには3つの仕掛けがあって、1つはカリキュラム。ナショナルカリキュラムをある一定の水準のもので保証し、それを地方に落としたときのカリキュラム、あとは幼稚園の場合は施設の構造的な保障もある。第2は、保育士の資格や研修という保育者の資質、最近では保育指針でも書かれているように、職員全体の研修というように、ヒューマンリソースの部分をどうするか、というのが2つ目の質の評価。3つ目が全体を振り返って評価をするというような、実施後に誰が評価をするのか、第3者か自己か、トランスリペアンシーとOECDなどでは呼んでいるが、どれだけ地域や保護者の人たちが評価をしながら一緒になってニーズに応じていくのか、園の中の自己だけではなくて、地域を含んだような柔軟な応答的な評価システムがある。国によってこの3つのどこに規制をかけるのか、大綱化かといった重み付けが国によって違っているという構造になっている。日本はそういう意味ではガイドラインのところは今新たにきめの細かいものができたので、言われるような保育者の資格の問題ではなく、私は研修の問題だと思うが、そこをどういうふうに、個人で打っていくのか、園内の研修そのもののエンパワーメント的なものを考えるのかという、評価のあり方の問題が無償化に伴って説明ができるようこういう政策をうっていくための説明が必要になってくると思う。

【委員】
 ヒューマンリソースのところで養成と研修については、例えば、今の研修はライフステージによって細かくそれに応ずるような形で組まれることが多いが、私立を考えると必ずしも研修は義務ではないし、年代も若手に偏っているので、多様であるということが、難しさを生んでくると思う。ナショナルカリキュラムについては、改定されたが、実施状況の調査を誰がどのようにやっていくのか非常に難しい。教育課程の実施状況調査が行われているが、幼稚園教育の場合、量的指標ではなく、質的な指標を得るために観察調査による行動記録を詳細にとっている。しかし、それにも記録者の力量など難しい面がある。しかし、何らかの方法で質の向上策を考えていかざる得ない。

【委員】
 市町村と幼稚園の関係強化の話があったが、本来的には、都道府県行政のところが多くて、私学も助成をしていることで親密な関係で話をしている。今は、私学の研修を大事にしてくださいということで補助をしている。集合的な研修をやるときの講師謝礼等の補助、各園の先生の数に応じた補助。私学だから、そこに介入するということではなく、ある意味おおらかといえるかもしれないが、その園の工夫の中でいろんな研修をしてもらっている。先ほど、私学の研修の話もでたが、ある意味そういうことをすることで動機付けをしながら、私学自らレベルアップもしているのかという気がしている。

【委員】
 質の確保はイギリスの例が一番自然と思う。無認可保育園の問題でも、一定時間については無償化するということであれば、そこについては最低限のカリキュラムを想定することは必要。監査を受けてもらうことも。事業者を選別して参入段階で規制するよりは、参入した後中身で規制するほうが、質の向上にもなるし、競争の原理も働くので、効率性も高まっていく。

  1. 事務局より、次回は7月18日(金曜日)14時からを予定している旨説明があった後、閉会となった。

以上

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