高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方ワーキンググループ(第5回) 議事要旨

1.日時

平成20年11月11日(火曜日)14時~16時

2.場所

金融庁13階 共用会議室

3.議題

  1. 拡大教科書の普及推進について
  2. その他

4.出席者

委員

香川主査、大賀委員、太田委員、齋木委員、土屋委員、永田委員、橋本委員、松浦委員、村上委員、守屋委員、安元委員、宇野委員、大旗委員、齋藤委員、千田委員、田中委員、渡辺(能)委員 

文部科学省

伯井教科書課長、永山特別支援教育課長、水野特別支援教育課専門官、池尻特別支援教育調査官、三輪教科書課課長補佐

5.議事要旨

(1)事務局から資料についての説明の後、議題についての自由討議が行われた。主な概要は以下のとおり。
【委員】
 小中学校には教科書の無償給与制度があるが、高校にはこの制度がないことから、費用負担の問題もある。

【委員】
 高校に在籍する弱視生徒の数や必要なニーズなどを把握する必要がある。
 具体的な対応として、特別支援学校(視覚障害)においては、標準規格に基づく拡大教科書を提供すること。また、高校においては、文字情報による学習の割合が高いことから、PDFデータよりも、まずは、教科書の文字の部分のテキストデータを提供することが考えられる。

【委員】
 今後は、デジタルデータや標準規格のワーキンググループでの議論を踏まえ、小中学校における状況も見ながら、高校ではどのようなことを行っていく必要があるのか中長期的な視点から検討する必要がある。
 また、デジタルデータの活用については、将来的にはワンソース・マルチユースという形で電子教科書につながっていく可能性はあるが、現時点では学習効果や使い勝手など幅広い観点から慎重に検討する必要がある。

【委員】
 デジタルデータについては検討すべき課題はあるが、学校で使用する教科書に近い形で提供することができるので、小中学校については、ボランティア団体にPDFデータを提供するという方向で議論がまとまりつつあると認識している。PDFデータを作ることについては、小中学校と高校で実質的な違いはないので、高校についても提供するということになれば、発行者として対応せざるを得ない。ただ、デジタルデータの提供は、法律で義務付けられているので、慎重にならざるを得ないところがある。
 また、高校では、すでに普通教科の7割以上の教師用指導書にデジタルデータが添付されているが、これらは本来、教師の指導用に活用するものである。しかし、このデジタルデータが教科用特定図書等を発行する者に提供するデータとして指定されれば、拡大教科書の作成のために提供することができる。
 現状ですべての教科についてテキストデータの提供を義務付けると、発行者の中には対応できないところが出てくると思われるが、現状のデジタルデータの整備状況も踏まえ、提供する教科・科目を検討いただければ、発行者としては対応できるのではないか。

【委員】
 PDF以外のデータについても、例えば、本文だけのテキストデータや数学の問題だけのテキストデータなどについては、現状でも対応することができる。

【委員】
 教科書のPDFデータの中には、写真や図などが削除されているものが見られるが、生徒の使い勝手を考慮すれば、写真や図などもPDFデータに含まれていることが望ましい。

【委員】
 今後、発行者が新たに写真や図なども含まれたPDFデータを作成する必要があるが、それほど困難なことではないと思う。

【委員】
 PDFデータは使い勝手がよいとは言えず、テキストファイルの方が検索が容易で、子どもたちにとっても使いやすい。当面は、教科書の文字部分だけはテキストデータにして、学校や弱視の生徒に提供することが考えられる。

【委員】
 教科書の文字や図などをPDFデータにすることは簡単であるが、デジタル化されていない教科書データをPDF化した場合、PDFデータに入っているテキストを抽出することが技術的に困難である。このため、出版社によっては対応できないところもある。

【委員】
 多くの場合、弱視の生徒にとって、教科書の絵や写真と本文を個々に見ることはできても、それぞれを対応させて見ることが最も困難である。例えば、年表は文字だけを見てもあまり意味がなく、年代的な流れを把握する必要がある。

【委員】
 高校では、授業の展開に応じて、教科書を中心としながら重要な箇所は他の教材を提示したり、教科書のページや章をまたいだりすることがある。このような場合、教師がデジタルデータをどのように活用していくかが重要になる。学校にデジタルデータを提供し、特別支援学校(視覚障害)のセンター的機能を活用しつつ、必要な教材を提供していくことが第一ステップとしてあってよい。一人一人のニーズに対応し得る環境を整えることは理想であるが、まずは、教える側が供給体制に対応できるようなシステムづくりが必要である。
 また、デジタルデータを提供する際の著作権の保護を含むセキュリティーの問題については、教師の指導体制の中で、しっかりと担保できるように検討していくことが現実的ではないか。

【委員】
 数が多くてもすべての教科・科目について一人一人の生徒のニーズに応じて紙媒体で拡大教科書を保障することが理想である。しかし、出版社の人手が足りず、すべての教科書に対応しきれないという状況を踏まえると、高校についてはどこから開始すればよいかが課題となる。文字だけであれば、学校の教師でもワードや一太郎を使って文字を拡大することは比較的容易にできる。
 また、電子教科書については、例えば、文字の色や大きさ、フォントの変更がパソコンの画面上でできるという利点はあるが、すべての生徒がパソコンを操作できるか、パソコンの準備を誰が行うのかなどの問題もある。将来的に、画像、音声、リンクなどを含めて教科書の使い方が変わってくるような電子教科書になっていけば、弱視の生徒にも大きなメリットになると思うので、これらについての研究を行うべきである。

【委員】
 パソコンを使ったデジタルデータの活用についても教育する必要がある。そのため、中長期的には、まずは、高校入試の段階で視覚補助具等を必要とするなど何らかの配慮を要する生徒、本人や教師が教科書の部分拡大をするなどして対応している生徒など、弱視の生徒の実態をしっかりと把握する必要がある。また、特別支援学校(視覚障害)においても、状況を把握しどのような対応が可能かどうか検討する必要がある。

【委員】
 特別支援学校や高校において、実務的にどう対応できるのか考えた場合、教師用指導書に添付されているデジタルデータを生徒自身が加工できる状況のデータとして、教師から生徒に渡すことが法的に可能であれば、デジタルデータを活用することが展開できるのではないか。

【委員】
 拡大教科書の問題を考えた場合、まずは、作成が比較的容易な教科書の単純拡大をどのように行うかという問題がある。発行者に努力していただければ何とか対応できると認識しているが、すべての教科書に対応することは困難である。そのため、生徒が必要とする教科書をどのように把握するかが課題となる。次に、レイアウト変更をした拡大教科書の提供については、数冊しか需用のないものも見込まれる中で、時間、労力、経費などの面からどう対応するか検討する必要がある。

【委員】
 レイアウト変更を伴う拡大教科書を作成する場合、原本教科書をDTPで作成しているのであれば、DTPデータを利用して、文字や画像のデータを生かしながらレイアウト変更するのが最も効率的な方法である。それにかかる費用は時間に比例する。費用の9割は、原本教科書を拡大して、それを再レイアウトすることにかけられる。印刷にかかる費用は、オンデマンド印刷であれば、カラーコピーにページ数の単価を掛けた額である。
 単純拡大の場合は、既にできているデータを単純拡大して、オンデマンド印刷をするので、比較的低価格に抑えられるが、レイアウトを変更する場合には、高価になることから、何らかの費用負担がないと現実的に対応することは困難ではないか。

【委員】
 多くの生徒が履修する科目と、あまり履修しない科目では1冊当たりの教科書の費用が異なるが、需要数の少ない科目の例をもって、拡大教科書を作成できないというのは適切ではない。

【委員】
 特別支援学校(視覚障害)において、初めからすべての教科書について拡大教科書を作成するのは困難である。そのため、まずは、国語、数学、英語などの教科から対応していくことがより現実的ではないか。

【委員】
 現実対応として、国語、数学、英語などの教科から拡大教科書の作成を開始することは理解できるが、その他の教科について対応しなくてよいということではない。

【委員】
 教科書の単純拡大については、どこまで効果的であるか疑問である。特別支援学校(視覚障害)では、標準規格に基づいてレイアウト変更した方が生徒のニーズに合致すると考える。また、高校においても、作成する労力に見合ったニーズがあるのか。例えば、学校のカラーコピー機を使って、生徒一人一人の実態に応じて必要な大きさに教科書を拡大コピーすることで十分対応が可能ではないか。

【委員】
 学校が拡大コピーで対応することについては、学校内の誰がそれを行うのか、カラーコピーにかかる費用をどう負担するのかなどが問題になる。このような状況も考慮すると、単純拡大した教科書は必要である。

【委員】
 弱視の生徒は多種多様であるが、比較的軽度の弱視の生徒であれば、1.2倍の拡大でも非常に学習効率が上がるという生徒や、1.4倍の拡大だと非常に読みやすいという生徒もおり、一概に単純拡大を否定することはできない。また、文字の大きさと学習の効率性との関連については、文字を単純に大きくしていけばよいのかといえばそうではなく、ある一定の文字の大きさになると、逆に読書効率や文字視認効率が下がっていく。この点からも、単純拡大で学習効率が上がる児童生徒がいることが分かり、否定すべきではない。

【委員】
 小中学校の弱視特別支援学級における児童生徒の教科書や視覚補助具の使用状況については、調査によれば、3割は視覚補助具等を使用し、もう3割は拡大教科書、拡大写本を使用している。残りの3割は何も使用していない。また、拡大教科書だけを使用しているかというとそうではなく、視覚補助具も併用している児童生徒が小学校で4割、中学校で5割程度いる。
 この調査結果から、単純拡大だけですべてのニーズに対応できるとは限らないが、現状からは大きな進歩だといえる。費用対効果の面からも、まずは、実際に単純拡大した教科書を試してみて、使い勝手などについて調査研究をしていくべきだと思う。

【委員】
 視覚補助具と拡大教科書は車の両輪であり、どちらが大事ということではない。確かに軽度の弱視の児童生徒にとっては、単純拡大した教科書が有効な場合もある。問題は、中度や重度の児童生徒に適切な対応がなされるかどうかである。また、児童生徒の実態によって、ある教科は1.4倍の拡大教科書を希望し、別の教科は1.7倍の拡大教科書を希望することが考えられる。そのため、子どものニーズを把握してそれに対応したものを提供できるのであれば、効果はある。

【委員】
 オンデマンド印刷で単純拡大をすることは、発行者にとって費用面での負担はそれほど大きくない。
 しかし、教科書発行者が自社の教科書を拡大印刷して提供する場合、著作権補償金を支払わなくてはいけないことになるのか。さらに、ニーズに応じて多様な拡大比率のものを作れば、それぞれが別のものとしてとらえられるのか。

【事務局】
 単純拡大に係る補償金については、所管課で整理する必要があるが、その整理も暫定的なものにならざるを得ない。最終的には司法の判断に委ねることになる。

【委員】
 単純拡大であれば、出版社でなくともボランティア団体で作成することができるのではないか。
 むしろ、高校の教科書のレイアウトは、どの程度まで原本の教科書に忠実であるべきかどうかが重要である。小学校の教科書の場合、本文と図や絵が間近に配置されていないと児童が理解できないことがあるため、原本の教科書に沿ってレイアウト変更するが、高校の教科書は、間近に配置しなくてもどの図を参照するかの説明があれば、生徒が対応できるのではないか。

【委員】
 弱視の生徒にとって最も困難なことは視線を変えることである。あるものを見ていて、別のものを見るということで多くの労力を費やすことになる。

【委員】
 当面の対応としては、テキストデータを提供することが考えられる。また、発行者が生徒のニーズに応じてレイアウト変更したデジタルデータを提供し、教師や生徒がデータから紙に印刷するという仕組みはどうか。

【委員】
 拡大教科書は、印刷よりもレイアウト変更に多くの時間や費用がかかる。生徒のニーズに応じたデジタルデータの提供が可能になれば、大変よいことであるが、提供できるのか疑問がある。

【委員】
 「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」の適用は、来年4月に使う教科書からであり、その対象には、小中学校だけでなく、高校も規定されている。早急に来年4月からできることを明確にする必要がある。

【委員】
 高校は教師用指導書の7割にデジタルデータが添付されているので、これをどう活用していくかが重要である。既存のデータを有効に活用できるのであれば、積極的に活用していただきたい。今後は、教師用指導書に添付されているデジタルデータを使用するのか、新しい法律に基づくデジタルデータを使用するのかを整理すれば、幅広く活用できると思う。

【委員】
 レイアウト変更したデジタルデータの提供については、それほど困難もなくできるのであれば、発行者でデータの作成までやってもらい、その後は印刷会社がオンデマンド印刷をするだけになり、非常にありがたい提案である。
 また、単純拡大した教科書の作成に当たって、レイアウト変更を伴わずに、字体だけを変えて作成することができるのかどうか次回までに教えてほしい。

【委員】
 御発言のあったレイアウト変更を伴う拡大教科書のデジタルデータ提供については、誰がそのレイアウトを考えていくのかが大事になる。これまで拡大教科書を作成したことがあり十分なノウハウを蓄積しているところはよいが、そうでなければ、視覚障害教育に携わる人たちのアドバイスを得られるようにするなど各教科書会社を支援する体制作りが必要になる。

【委員】
 特別支援学校であれば、使用されている教科書はB5判のものが多いので、B5判を基にした拡大教科書についても検討していく必要がある。

【委員】
 多くの教育委員会では、高校については特別支援教育を担当している部署とは別の部署が所管しているため、実態が把握しにくいところがある。本会議における議論が、高校担当部署の特別支援教育に対する理解を促進するよい機会になればよい。

(2)事務局より今後の日程について説明があり、閉会となった。

(以上)

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)