拡大教科書標準規格ワーキンググループ(第1回) 議事要旨

1.日時

平成20年5月27日(火曜日)16時~17時30分

2.場所

文部科学省東館3階2特別会議室

3.議題

  1. 拡大教科書の普及推進について
  2. その他

4.出席者

委員

千田主査、石津委員、市川委員、宇野委員、金子委員、小宮委員、齋藤(肇)委員、齊藤(美)委員、澤田委員、鈴木委員、高柳委員、武内委員、手塚委員、細谷委員、山田委員、渡辺(能)委員

香川座長、大旗委員

文部科学省

伯井教科書課長、永山特別支援教育課長、水野特別支援教育課専門官、矢崎教科書課課長補佐、松木教科書課課長補佐

5.議事要旨

 主な意見は次のとおり。

  • (1)主査の選出
     拡大教科書普及推進会議座長の指名により、本ワーキンググループの主査に千田委員が選出されたことを報告。
  • (2)拡大教科書の現状等について
     「拡大教科書普及推進会議(第1回)議事要旨(案)」について、事務局による説明。これまでの取組みについて、宇野委員、高柳委員及び柴崎委員、千田主査による発表。「拡大教科書標準規格ワーキンググループにおける検討事項(案)」について、事務局による説明の後、意見交換が行われた。
    • ア 宇野委員の発表

      【委員】

       来年4月に向け、今年度の概算要求において拡大教科書の普及推進について文部科学省にはしっかり対応をお願いしたい。来年4月から100点というのは事実上あり得ないので、まずは70点の合格点に達するところからスタートし、80点、90点を目指していく考え方でスタートさせていくべき。

      【委員】

       通常の学級で他の子どもと違う表紙の拡大教科書を使用していた子どもが、他の子どもから指摘をされたという例があったので、表紙、裏表紙については、原本のものを生かしていただきたい。分冊の場合も子どもが混乱しないように分冊数を明記しておく必要がある。

      【委員】

       従来、字体については基本的にゴシック体が基本的な考え方であったが、平仮名の「き」「さ」「ふ」「り」等が、本来の教科書体の字形と異なることや新出漢字については、「はね」や「はらい」がわかりにくいということで、教科書体を使うという配慮がある場合がある。国語についてはどうあるべきかということについては議論の余地がある。

      【委員】

       版と文字の大きさについては、B5判でまず22ポイントを作り、それをオンデマンド印刷すれば、A4にすれば26ポイント、またA5に小さくすれば18ポイントが簡単に作ることができる。当面は1つの版を作り、18、22、26ポイントでスタートさせるのが現実的に可能なのではないか。一方、ボランティアがこれまで作ってきたものの中では、28ポイントが非常に多いという声を聞く。全国的に実現可能なのはその2つではないか。理想を言えば、もう1つ30ポイントのB5判を作り、それをA4にすれば36ポイントになる。そうすれば、18、22、26、30、36ポイントの文字を作ることができ、99.9パーセントの弱視のニーズはカバーできるのではないか。ただ、当面はまず第1種類スタートが現実的なのではないかと思う。

      【委員】

       文字間をあまり開けてしまうと判読の速度に影響するため、ある程度文字を詰めることが大切。行間については、あまり詰めすぎてしまうと、同じ字を読んでしまったり、縦書きの文章なのか横書きの文章なのかがわからないため、ほどよく開けるということが基本的な考え方ではないか。具体的には、行間は33、35ポイントぐらいに拡げたほうがよい。

      【委員】

       図版については、小さいものはある程度大きくできる。それほど重要ではない線や情報は取り除き、シンプルでわかりやすく、しかも線を太くして、強調すべきところは強調するという描き換えをしなければ、弱視児に理解しやすい図版は作ることができない。一方で、多くの児童生徒が通常の学級に在籍しており、隣の人と絵が違うのは困るというような声も聞かれる。図版の描き換えのノウハウは非常に専門性が高く、そう簡単なものではない。まずは原図をある程度大きく、認識しやすい大きさにする必要がある。

      【委員】

       写真を加工することは、技術的に非常に難しい。わかりにくい写真については、脚注の文章で補足することが、現実的な対応として可能ではないか。

      【委員】

       色については、教科書の一部がフルカラーになっていないものは、あまり評判がよくなく、原稿どおりのフルカラーにする必要がある。その際、色覚特性の問題もあり、微妙な色分けが妥当かどうかという問題もあるため、コントラストをはっきりさせる、境界線を入れる、もしくは、デザインパターンを組み込む等々の工夫が必要ではないか。

      【委員】

       ページレイアウトについては、弱視者はページを開いて1ページの情報量、全体をすぐに理解することが難しい。例えば、右上に本文があり、右下に写真があり、左の方に図があり、その上に何かキャラクターのイラストが描かれているというような複雑な情報というのは、理解をしがたい。情報を極力シンプルにパターン化して、面の情報をできる限り、左上から読んでいく時に線上に読んでいけるような情報の流れとなるような整理が必要。レイアウトのノウハウは非常に大事なところであるため、指針を出す際、わかりやすく丁寧な提言をまとめる必要がある。

      【委員】

       ページ表記については、文字のポイントによって1ページが何ページにまたがるのかは変わってくるが、1/25、2/25、3/25と、原本ページとの対比がわかるようにする必要がある。

      【委員】

       ページ数と分冊については、現在出されている出版ベースの拡大教科書はページ数が多すぎて重いため、5冊も6冊もランドセルに入れることは無理がある。極力ページ数を限って分冊にしていくという基本的な考え方が必要。

    • イ 高柳委員及び柴崎委員の発表

      【委員】

       5月12日に第4回拡大教科書に関わる情報提供の会を開催し、柴崎准教授が自社出版法について詳細な提示をしたが、自社出版可能な拡大教科書試作について、多くの出版社が柴崎提案に賛同された。不可能な部分はボランティアが用意するしかないと考えている。自社で拡大教科書を製作した場合、著作権料は無料。

      【委員】

       出版社のDTPデータを使って拡大教科書を効率よく作る方法を模索し、サンプルの提示もしている。

      【委員】

       試しに文字の打ち込みはすべてパソコンで行ったが、文字データの打ち込みで時間がかかった。効率があまりよくないのではないかということで、DTPデータから打っていく方法を考えた。

      【委員】

       拡大教科書Aタイプは、B5判の教科書の配置をあまり変えず、文字の大きさを変えるもの。拡大というよりも、少しポイントを上げる形で、現行の教科書が12ポイントに対して、16ポイントまで拡大している。インデザインなどのDTPデータを使うところであれば、素材を変えるなどして比較的スムースに作ることができ、線の太さやコントラストを加工できるもので便利だと思う。
       B1タイプについては、元の教科書のイメージぐらいにとらえている。B5の場合は24ポイント、A4の場合は27.5ポイント、27ポイントと表示しているが、そのような感じのバリエーションとして作ることができた。
       B2タイプについては、3ページ分ぐらいに拡大している。30ポイント近くになる。AタイプとBタイプで、16ポイントぐらいから30ポイントぐらいのところをカバーできれば、拡大教科書のユーザーのほぼ半分以上は使えるのではないかと考えている。

      【委員】

       フォントについては、書体を太い書体とか若干細い書体などのバリエーションも作ること。今までは、ポイント数はいいが、ゴシック体の書体が太すぎて使えなかったというユーザーには細い書体で提供する。できるだけたくさんのユーザーが使えることが条件になるため、普及率を上げていくというか、選択してもらえる率を上げていくということに取り組んだ。

      【委員】

       弱視の児童生徒が16ポイントから30ポイントぐらいの間で選べる教科書を作ることやヒューマンエラーを避けるために、編集責任をとることができる教科書発行者がチェックをすることが必要。

      【委員】

       作成のモデルについては、教科書発行者から大学や研究所、外部の委託業者に対してデータを提供し、DTPでそのまま教科書発行者に返し、それをオンデマンド印刷する。オンデマンド印刷は必要な分だけを刷ってコストを下げることができる。

      【委員】

       書体については、MSゴシックとMS明朝がある。ゴシック体、明朝体はデザイン書体だが、学参ゴシックという教科書用に変形されたゴシック体がある。学参ゴシックは若干デザイン化されているが、非常に教科書体に近い書体をゴシック体で実現している書体。明朝体はまだまだ弱視の教科書等にも使われているが、明朝体は、画像がかすれていくため、あえて使う意味はないのではないか。

    • ウ 千田主査の発表

      【委員】

       視認できる最小視力(分離閾)がわかれば、その線分で構成されている最も多い線分が視認できる。16線分割の漢字が視認できる場合は、30センチメートルの近見視標の0.1の線幅が0.89ミリメートル、0.9ミリメートルであり、それを16倍すると14.4ミリメートルの大きさが必要になり、40ポイントの大きさに相当するということが計算上わかっている。

      【委員】

       弱視の児童生徒が文字を読む際、どれくらいの距離(視距離)で読んでいるのかということが課題となっていたが、弱視学級在籍の児童生徒を対象に、遠見視力、近見視力、最小可読視標、視認距離、最小分離閾(視力の基になっているのは最小分離閾11.7分)の調査が行われた。

      【委員】

       文字を読む読書距離については、弱視の児童生徒の多くは、自分たちが見る距離の中では比較的視距離が短く、視距離が狭いということがわかっている。

      【委員】

       視力0.1程度の児童生徒は、分離閾が10分。読書距離を15センチメートルの距離で視認できる文字の大きさについて7倍から17倍ということで計算した場合、17倍の最大に大きくした値が約7.65ミリメートル角、22ポイントいう結果になった。視力0.1程度の弱視の児童生徒を対象にして拡大教科書で用いる場合、この最大値22ポイントをベースに、文字の大きさを選定してきたという経緯がある。

      【委員】

       弱視の見え方は十人十色であり、標準的にどう考えていくのかということを、まずは、このワーキンググループでいろいろ話をしていただきたい。

    • エ 自由討議

      【委員】

       標準規格を作る前提として、誰を対象にした標準規格かということが問題。教科書発行者が自社版拡大教科書を作ることが期待されており、これがまず第一の対象になると思う。教科書発行者がつくる場合は、DTPのデータを活用しながらDTPソフトを使ってということになると思うが、一方で、ボランティアのことを考えると、DTPソフトを前提にした規格では使えない。

      【委員】

       学参ゴシックは、DTP用のフォントとして最近できたものであり、DTP用のフォントは、他にもユニバーサルデザインとして出されているフォントもたくさんある。推奨フォントのリストを作るところまで可能なのか。

      【委員】

       文字規格ができても、実際に拡大教科書を作る際には弱視のことをよく知っているアドバイザーが必要になると思うが、このワーキンググループでそこまで考えていくことができるか。

      【委員】

       教科書発行者が拡大教科書を作る場合、研究機関や編集プロダクション等の業者に委託するなど、いろいろな方法があると思うが、いずれにしても企業活動として成り立つことは必要。

      【委員】

       特別支援教育総合研究所において、千田先生や香川先生が研究された拡大教科書作成マニュアルが、フルカラーで無償でダウンロードできる形で掲載されている。また、宇野先生、高柳先生、柴崎先生の発表で重複している部分や、色やフォントに関して個別に研究されている方などの英知が集約できればと思う。

      【委員】

       このワーキンググループの日程的な見通しについて教えいただきたい。

      【事務局】

       我々はお願いをしている立場であり、あまり時間を限定できないが、これは急ぐべき話であり新教育課程の教科書の編集も始まってくる。現行教育課程の教科書についてもさらにこの取組みを普及していくためには、今年の秋ぐらいを一つの目標にしてこの作業を進めていただくようお願いしたい。

      【委員】

       拡大教科書を必要とする児童生徒をどのように選ぶかということについては、学校の視力検査でD判定(0.3未満)の場合も、適正な眼鏡をかければ、ほぼA(1.0前後)になるということがある。また、そうではない場合も近視の子であれば、近づければ見えるということがあり、学校での視力検査だけでは拡大教科書が必要かどうかということはなかなかわからない。何種類かの拡大教科書のサンプルを地域の教育委員会に置いておき、授業中に教科書が見にくそうな児童生徒がいる場合、教育委員会から借りて、見え方を見極めた上で眼科を受診させるという形がよいのではないか。

      【委員】

       平成18年度の実績の内訳では、ボランティア団体は81パーセント、民間企業は14パーセントを作っている。1冊の値段は、ボランティアが3,000円、民間発行者は3万1,700円とあり、10倍の値段。ボランティアが高齢化してなかなか作れない中、文部科学省は民間業者に3万1,700円という金額を出しているが、予算のことも一緒に考えていただきたい。

      【委員】

       このワーキングでそこまで検討することは難しいのではないか。文部科学省とともに今後の検討という形で進めていければと思う。

      【委員】

       ボランティアが作った拡大教科書が1冊3,000円ということについては、富士ゼロックスのカラーコピーを無料で使っており、1年間に5,000万円くらい使用している。19年度の使用枚数は75万枚余りであり、今年はもっと増えている。ボランティアが3,000円で作っているのではないということを知っていただきたい。

      【委員】

       ボランティアの方々の作業代、製作代の中には、企業の方々の大きな社会貢献事業の援助があることを我々の共通理解にしていかなければならない。

      【委員】

       実際に学校で拡大教科書を使っている様子を見た時に一番気になることは、指導している先生は弱視についての専門性がない場合が圧倒的に多いということ。通級指導教室に通っている児童生徒も通常の学級に在籍している場合がほとんどであり、その対応は先生の指導力にもよる。弱視特別支援学級に在籍しているといっても、指導者には専門性があるとは言いがたい状況にあることから、教科拡大教科書の使い方の手引き的なものが必要ではないかと思う。

      【委員】

       大きい字の方が勉強しやすいという、弱視ではない児童生徒が非常に多いという状況がある。当面は弱視の児童生徒が対象であるが、将来的には、例えばLDの児童生徒に対しても給付できる可能性があるのかどうかということも検討する必要もあるのではないかと思う。

      【委員】

       採択地区によって使用している教科書発行者がバラバラであり、弱視の児童生徒がせっかく作られている拡大教科書を利用できないという現状もあるので、採択との関係についてもいずれかの機会に検討いただければと思う。

      【委員】

       拡大教科書の対象については、もう少し意見を聞きながらと思っている。点字と普通文字の境界線については、以前は0.02から0.04ぐらいであったが、0.01ぐらいにまでなってきているという現状もある。

      【委員】

       「はらい」や「はね」がわからないため、学校のテストで間違いになる事例もあると聞いている。拡大教科書の文字については、国語だけはぜひ教科書体で作ってもらいたい。

      【委員】

       保護者の中には拡大教科書の金額を子どもの目に触れさせたくないと考えている方もいる。教科書の奥付のところに金額が書いてあるが、隣の子どもの検定本と余りにも格差があり、子どもがとても違和感を覚え、肩身の狭い思いをしていると聞いている。

      【委員】

       拡大教科書の製作については、無償給与がスタートした平成16年からボランティア団体が悲鳴を上げてパンクしている。平成16年で依頼の6割、7割、平成17年で4割しか応えられていないというデータもあり、その後も次から次にくる依頼に大変ご苦労されている。3年も4年も放置していい問題ではない。したがって、次回までに各教科書発行社でぜひご検討いただき、来年4月であればどこまでできるのかという具体的な見当を示していただきたい。

      【委員】

       教員、教育委員会ともに、拡大教科書を知らないところがまだ多く、1,200名の取り残されている児童生徒の中には、拡大教科書の存在すら知らない場合が多いという現状がある。例えば、特別支援教育コーディネーター研修等での行政側からの説明等もぜひ充実させていただきたい。

      【委員】

       点字教科書は、主要教科は文部科学省が作っているが、同時に編集資料を発行している。拡大教科書を実際に作った時に、工夫や意図を編集資料としてまとめ、関係者に見てもらうことも必要なことなのではないか。

      【委員】

       ボランティア団体の中には国が拡大教科書を作るべきという声が多くあるが、実際にたくさんある教科書を作ることは国では難しいので、教科書発行者が作ると考えることが妥当ではないかと思う。

      【委員】

       教科書発行者が編集を行う際に、盲学校の教員や視覚障害教育の専門家がアドバイザー的な立場で監修し、作成したものを盲学校等においてヒアリングをすることや、弱視当事者で客観的な意見が言える人を監修者に入れるなどということが考えられるのではないか。

      【委員】

       普及啓発については、秋ぐらいに意見がまとまれば、セミナー等を開き、編集に携わる出版社の方に来ていただき、指針や配慮事項を伝えることや、アドバイザー的なフォローもするというような体制が望ましいのではないか。

      【委員】

       現場の先生は教科書センターに行って教科書選定をするため、教科書センター等に拡大教科書を置くことも必要な政策になるのではないか。

  • (3)事務局より今後の日程について説明があり、閉会となった。

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初等中等教育局教科書課