全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議(第13回) 議事要旨

1.日時

平成21年8月4日(火曜日)10時~12時

2.場所

霞山会館牡丹の間

3.出席者

委員

梶田座長、荒井座長代理、上月委員、坂本委員、柴山委員、土屋委員、野嶋委員、福田委員、耳塚委員、宮田委員、八島委員、山崎委員

文部科学省

德久審議官(初等中等教育担当)、岩本参事官、小松学力調査室長、三宅専門職、宮崎視学官、作花教育課程研究センター長、梅澤研究開発部長、森下学力調査課長 他

4.議事要旨

(1)岩本初等中等教育局参事官、作花国立教育政策研究所教育課程研究センター長より異動のあいさつが行われた。その後、作花教育課程研究センター長より、国立教育政策研究所「全国学力・学習状況調査において特徴ある結果を示した学校における取組事例集」について、耳塚委員よりお茶の水女子大学の文部科学省委託研究について、福田委員より横浜国立大学への委託研究について説明があり、その後、それぞれ以下のような質疑応答が行われた。

(ア)国立政策研究所「全国学力・学習状況調査において特徴ある結果を示した学校における取組事例集」について(○:委員、●:国立教育政策研究所)

○ 後ほど、お茶の水女子大学の調査分析の結果をご紹介いただくが、家庭の収入、家庭生活や子どもへの接し方などの影響と同時に、子どもの学力向上に効果を持つ学校の取組が明らかになっている。この事例集では、その具体の中身について特徴がある部分を浮き彫りにしていただいた。学校の取組が大きな影響を持つことから、それをねらって全国学力・学習状況調査をやってきている。各学校、各教育委員会ではこの事例集を十分に活用して、学力の向上に生かしていただきたい。率直な感想だが非常にわかりやすく、具体的に取り組むことができると思う。
○ すごいものができたと感じる。過去3年間の積上げで、現場で実際に取り組むことができる事例がたくさん載っている。この調査では全国の校長全員が当事者である。その視点から見て極めて使いやすくいいものだと思う。いつごろ現場に届くのか。可能な限り早期に一部でも多く届けていただきたい。
● 9月半ばを目途に、全国のすべての学校に1冊以上配付する。ホームページにも掲載するので、ダウンロードしてご活用いただくことも可能である。
○ 3年にわたる調査により学校現場の理解も進んできている。学校現場では活動だけに留まらず具体的な指導改善を図ることができるよう、懸命に取り組んでいる。この事例集には、各学校や地域の特徴に合ったところが必ずどこかにある。例えば、困難校で生徒の「高校へ行きたい」という夢を聞き,意気に感じた教師たちが,高校へ行けるだけの能力をつけたいと思い,学校全体で対応できる教員が,数学に特化し相当の時間を割いて補習や個別指導を行ったそうだ。その結果,全国学力・学習状況調査においても正答率に変化が現れたという話も聞いている。また、本市では、ベテランの教員だけでなく若い教員も一緒になり学校全体で年間指導計画を立てカリキュラムを編成していくような取組を行っているところもある。この事例集には,焦点をしぼった具体的な取組が掲載されている。とても努力を感じる。事例集の中の1つを参考にしながら、自分の学校、地域に合ったものを取り入れて進めていくことができるので、各学校に1冊、各教員に1冊あればありがたい。

(イ)お茶の水女子大学の委託研究について(○:委員、●:お茶の水女子大学)

● 報告に加えて最後に一言コメントしたい。今回の委託研究により、新たな分析手法や活用方法が開発されたことだけでなく、文部科学省が家庭的な背景と学力との関係に関するデータを得ることは比類なく重要な意義がある。分析結果からは、教育機会の均等や格差是正策として、所得の再分配など教育施策以外の施策の必要性も示唆される。家庭の文化は政策的な介入が困難で、これを変えることは容易でないことを踏まえる必要があるが、保護者の行動や子どもへの接し方などの家庭の文化は、経済と並んで学力に大きな影響を与えることも示されている。また、就学援助や奨学金などの施策の再検討や「効果のある学校」を特定しその特性を明らかにすることの意義など、教育施策や学校教育において可能な取組が今回確認されたことは重要である。
○ 復習しておくと、これまでの全国調査の分析結果から、就学援助率が高くなると学力は低くなるというように、収入と学力との間の一定の傾向が見られることは明らかとなっているが、問題はそこからである。保護者の所得が高い層は、あまり散らばりは大きくならないのに対し、就学援助率の高い学校の学力の平均値は、標準偏差が大きく、非常に散らばりが大きいことである。そこには、就学援助率が高いにもかかわらず、効果を上げている学校が既にある。これが、教育の働きかけで学力を上げられる「エフェクティブスクール(効果のある学校)」である。今回は、その解明のために、追加的なデータを新たにとって分析していただいたわけである。そこをより一層明確にすると、一つは家庭のあり方との関係で、家庭の収入の影響を超えるあり方の差が重回帰分析の結果、若干ではあるが見えてきたということ。もう一つは学校の教育的働きかけであり、この点も例えば「書く」指導を行っている学校は、ある意味では保護者の収入の影響を超えて学力の効果が出ていることが明らかとなったということである。ラフではあるがこのように受け止めている。
○ 保護者の年収と子どもの学力の表を見ると、保護者の年収と正答率、学力との明瞭な関係があるといえる。また、重回帰分析の結果では、R2乗値(寄与率)約0.1は、高くもなく低くもない数値という説明だったが、これは、あくまでも統計的な関係で、統計的には関連がみられても、同じ世帯年収が低い中でも正答率が高い子どもはいる。家庭環境があまり望ましくないようなところでも、学力の高い子どももいる。「効果のある家庭」のように、家庭環境を乗り越えて正答率が高い子どもの特徴も今後研究の対象として必要だと思う。
○ これまでの追加分析より、突っ込みのある調査で、目からうろこが落ちるようだ。とりわけ学校、教育の成果を見る場合には、学校の力も十分必要だが、今回のように家庭の財政的な背景まで入っていると、こういう研究は、一つ一つの要因と効果の関係を明らかにするよりも、システマティックな見方が必要になる。私の関心は、教員の会議のあり方等であるが、例えば、指導にかかわる会議は全校的な職員会議で行われているか、学年単位の教師集団で行われているか、現場ではかなり多いと思うが、モジュール単位での会議で解決しているのかなど、会議を組織的に行う工夫が学校の教育力を上げるシステムとしてどう動いているかにかかわる変数を明らかにすることを期待しているところである。
○ 保護者に対するアンケート調査により、学力に及ぼすいろいろな家庭的な背景についても統制された分析をされたことは、非常にすばらしいと思う。この調査では、家庭的背景だけでなく学校における指導法等もかなり影響を与えており、例えば、国語において「書く習慣を身に付ける指導」をしている場合には底上げ効果があることなど、非常に興味深い分析である。この調査では、家族構成等についても調査項目としているのか。
● 今回は、主として保護者の年収と子どもへの接し方等についての分析結果を報告したが、ご指摘の点も含め保護者調査には他の事項もある。おって報告することも考えたい。
○ 全国連合小学校長会は、調査結果について、「教師の力量」、「組織マネジメント」、「家庭の教育力」、「地域の教育力」の4つの視点での分析について意見を出している。これらの内、家庭の教育力、地域の教育力に係る貴重なデータが得られた。保護者の年収まで踏み込んだデータはこれまで見る機会がなかった。非常に具体的なデータであり、特にA層とD層の差や、親の子どもへの接し方と学力の関係の分析は非常に参考になった。学校と家庭との連携等を考える上でも参考になる。今後、教育委員会等も対応できるよう分析を一層進めていただきたい。
○ 学校の取組の効果を過小評価し、家庭の経済状況や家庭背景等が大きなファクターとなって子どもの学力が決定するかのように受けとめられないよう、報道関係者には、分かりやすく説明願いたい。また、平均正答率のことを学力とすると定義されているが、子どもたちの総合的な学力と保護者の経済状況が直接に関連しているとまで捉えられないようご配慮願いたい。
○ 興味深く聞かせていただいた。特に、家計の収入が少ないなどの家庭環境にある子どもが多い中で「効果のある学校」と認められる学校の特性についての分析は重要である。まだ地域社会がしっかりしている地区の学校であれば、地域の教育力が子どもたちの学力を支えてくれるという示唆を与えている。
○ 丁寧に補完的データを集めて、学力の分析に使う手法を開発されたことは重要なことだ。今後、様々なデータが加わっていく中で、集積されてきたデータをどう読み込んでいくかが大きな課題となる。将来、多くの人が分析に参加でき、開発された手法を共有できるような方向性で進めていただきたい。
○ 生々しいデータで、個々の学校ではできない分析である。学校がいろいろな分析データをもらい、いろいろな背景があることを知りながら子どもたちに対応していくことはとても重要である。
○ 保護者の教育力が高いと子どもに対して過干渉になり、小さいころから保護者の価値観を伝えていく可能性が高くなる。そうした中で実感するのは、子どもたちがほかの子どもたちと気持ちの交流がとれないということがある。学力を人間関係構築、人間関係能力という面からも考えていくと、必ずしも収入が低いと学力が低いということでなく、別の見方もできるのではないか。教師は学校の置かれている状況や子どもの力の不足しているところを身近に感じて知っている。そこでどれだけ意識を一つにして取り組んでいくかが大切である。共通して言えることだが、環境を整えることは学力向上に効果がある。これはどんな学校であっても取り組んでいかなければならないことである。学校の個性に応じ教員が意識を共有して、1つになって取り組んでいくことが一番現場に求められる。教育委員会や学校設置者は、施策として支えるべきところは支え、読書活動や放課後子どもプランの充実や、ICT環境整備事業などを有効に活用して学校現場が取り組んでいくと、ますます力がつくと感じる。
○ これまでの分析は、靴の裏から足をかいているような感があったが、ようやく足の裏に届いたかなという、大変興味深い分析を聞かせてもらった。この研究で、特に重要だと思うのは「効果のある学校」である。既にある概念の一つかもしれないが、単に学力が高い、低いという議論ではなく、「効果のある学校」という概念をつかみ出し、そのコンセプトを中核に置いたということに意義がある。効果のある学校がどのように形成できるのか。これは学力だけではなく、コミュニケーション力とかを含めて効果のある学校というコンセプトをより強く充実したものに変えていかなければいけないが、その数がおそらく非常に少ない。少ないものをどういうふうに広げていくかというところがグループの報告の肝要なところではないか。もう一点、今回の調査が小学6年の児童のデータを扱っているということ。小学校6年生のデータについては、より保護者の影響、家庭的な規定力が大きいと思う。中学3年生のデータを使ったときに、児童のときに見られるのとは違った形で、保護者、指導力の関与に新しい展開が見られるのではないか。4回目の調査では6年生で調査を受けた児童が中学3年として受ける。小学校における学校環境、教育環境、それから3年間の子どもたちの発達があって、子どもたちが何を獲得して、中3のときの学力環境がどういうふうに加わってくるのか。その部分が非常に立体的な構造となって、分析によって見えてくるという可能性が期待される。

(ウ)横浜国立大学の委託研究について(○:委員、●:横浜国立大学、▲事務局)

○ 学校周辺情報に関するデータと学力の関係の分析について興味深く拝見した。各都道府県の学校、地域別の平均所得と正答率のデータをプロットして、その関係性を見るということで、プラスの関係が明確に見られる県があるが、その一方で、ほとんど関係のでない県もある。なぜ47都道府県で大きな差があるのかが非常に興味深い。本当は所得との関係はあるのだが、サラリーマンが多く県で課税が把握されているところと、農業のように把握が難しいところとの関係によるのかとも思うが。表を見ると一概には言えず、非常に複雑と感じるので、解釈をお願いしたい。
● 県によってかなり違いがあるが、その差異については最終的には踏み込んでいない。データがどこまで実態を反映しているか、かなり違いがあるんじゃないかということは想定しているが、関連性がなかなか見えないところもある。経済的な問題だけでは説明できないようなファクターが地域で働いて、学力を規定しているという可能性を想定せざるを得ない。
○ 学校周辺の地域特性の分析対象としたのは公立学校だけなのか。
● 公立学校だけである。
○ 地域的な状況は関係すると思うが、都道府県別の教育施策がどう異なっているかという観点から見る必要がある。学校レベルで「効果のある学校」に注目する必要があるとすれば、都道府県レベル、市町村レベルでも「効果のある自治体」もあるのではないか。自県の教育施策は当たり前だと思っているから、どこに特徴があるかがわかりづらいが、教員の配置の仕方等を比べてみる必要があるだろう。A県とB、C県での学区の経済的な水準と学校の学力水準の関係を図にしてみれば、違っているのは一目瞭然である。都道府県、市町村レベルでの教育施策に注目するきっかけになると思う。
○ 県によって、私立の学校の小中が多いところもあれば、少ないところもある。A県、B県、C県で、A県は上のほうの収入の段階まであるけれども、B県は、A県の所得スコアレベル6から上が欠けているとか、C県は上のほうのレベル9.10が欠けている。サラリーマンが多いところは全て把握できる。市民1人当たりの課税対象所得がそれぞれの自治体ごとに公表されており、サラリーマンが多いと高く出るとか、そうでないと低く出るとか、いろいろある。例えば鳥取県は所得水準の低い山村が幾つもあるが、前知事のときは山村にも県の費用負担でプラスアルファの教員をつけて、教育条件が上がって非常によくなった。県の教育の施策のあり方についても考えていくとよいと思う。
▲ サラリーマンが多い県とそうでない県を視野に入れた分析や、各都道府県ごとの教育施策の特徴を視野に入れた分析については、今回の調査では十分解釈しきるだけの内容がそろっていない。今後、分析をどのような形でやっていくかということも含めて、議論が必要と思う。今回の調査については、むしろ新しい地理的な特性も踏まえたデータベースを作成し、新たにデータを組み合わせていろいろな分析ができるという手法が開発されことに意味があると考えている。その手法を使のようなことをさらに分析していくかについては、もう少し調査分析の積み重ねがあれば、非常に有益になるかなと受けとめているところである。

(2)事務局より平成20年度の都道府県・指定都市における独自の学力調査の状況について報告があった。

(3)座長より、今回の調査分析をさらに展開し積み重ねていくと、興味深い成果が期待できる旨の発言があり閉会となった。

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(初等中等教育局参事官付学力調査室)