全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議(第12回) 議事要旨

1.日時

平成21年6月5日(金曜日) 10時30分~12時

2.場所

金融庁共用第2特別会議室

3.出席者

委員

梶田委員、上月委員、坂本委員、志水委員、清水(静)委員、清水(美)委員、曽我委員、田中委員、田村委員、土屋委員、野原委員、福田委員、宮田委員、八島委員、山崎委員、吉賀委員

文部科学省

金森初等中等教育局長、藤野参事官、小松学力調査室長、三宅専門職、田中主任視学官、宮崎視学官、中岡国立教育政策研究所教育課程研究センター長、梅澤研究開発部長、森下学力調査課長 

4.議事要旨

(1)金森文部科学省初等中等教育局長からのあいさつの後、座長に梶田委員が選出された。梶田座長の指名により荒井委員が座長代理に指名された。その後、分析ワーキングを設置すること等が了承された。梶田座長より概要以下のとおりあいさつがあった。

【梶田座長】

 今年度、改めて専門家検討会議が設置され座長に選任された。今回、新たにお加わりいただいた委員もおられるので、改めて全国学力・学習状況調査の意義についてお話したい。ご承知のように今年度から、新しい学習指導要領が幼稚園、小学校、中学校について一部先行実施されている。新しい学習指導要領には、子ども達の力をつけなければならないという思いが込められている。PISAやIAEAの国際学力調査の結果から、日本の子どもたちの学力や学習意欲の低下を心配する声があがった。勉強時間も減少しており、この調子でいくと15年、20年、30年後の日本はどうなるのだろうという不安の声が90年代の終わりから2000年代に高まりをみせ、教育改革国民会議や中央教育審議会等でも議論されてきた。そこで、国を挙げて、教育委員会、学校、あるいはご家庭も含めて全社会的に、日本の子どもにしっかりと学力をつける教育を再考しようということになり、教育課程の基準である学習指導要領を改訂し、教職大学院や免許更新制など教師の力量や使命感を高める施策を導入するとともに、これらの土台を基盤的に支える装置として全国学力・学習状況調査を実施してきている。これらの施策はトライアングルの関係である。このため、調査結果を分析して教育委員会や学校、家庭、子どもたちにフィードバックすることが非常に大事な役割だと思っている。全国学力・学習状況調査の意義をお互い再確認しあって、現場が頑張ってくれる、子どもたち一人一人が意欲を出してくれるために議論をしていきたい。

(2)事務局から平成21年度調査の実施状況及び追加分析等について説明があり、その後、各委員から専門家検討会議発足に際して以下のような発言があった。

○採点・集計業務は順調に進んでいるようだが、調査結果の提供・公表の時期は可能な限り早くする必要がある。
○ 本市の場合、国語及び算数・数学の教科の得点は高いが、国語、算数・数学が好きだと答えた子どもの割合や読書量は、全国平均よりもやや低く課題がみられる。全国調査の結果をいかして、数値だけにとらわれずに、子ども達が友達と協力しながら主体的に問題解決に取り組み,達成感をもつよう授業改善を進めていくよう取り組んでいる。提供された多くの資料やデータを行政としても研究にいかしたい。課題別に指定校を指定し研究を進めているところである。
○ 平成13年から独自に域内の児童生徒の学力等の実態を把握するために調査を実施している。その調査では学習に遅れがちな子どもは、初期の段階でつまづきを乗り切れないためにずっと尾を引いているという分析結果がでた。調査結果を踏まえ、昨年度は小学校の早い段階からつまずきが生じないような指導を促す趣旨で、指導例などをまとめた資料を作成・配布したところである。また、成績上位層の子どもたちが公立校で満足した授業を受けられるようにするにはどうすればよいかということも課題なので全国調査の分析から示唆を得たいと考えている。
○ 教育社会学を専門にしている。欧米の研究の流れに「効果のある学校」の研究がある。教育的に不利な環境にあると思われる子どもの集団の学力の水準を下支えし、底上げしている学校を見出して、その実質的な特徴を問うというような研究の流れである。このような研究の流れを参考に、この5.6年間研究活動に従事してきた。全国学力・学習状況調査の結果の分析活用についても、私は格差の問題の観点から進めたいと考えている。点数の学力に結びつく要因には、学校の力と家庭・地域の力があるが、学校の力については梶田座長も強調されたように、やはりあるし、効果のある学校というのは、まさにその点に踏み込んでいこうとするスタイルの研究である。もう一つは追加分析において探求をはじめているが、家庭や地域の力を何らかの指標で捉えることで、これと学校の力を組み合わせてみていかないと全体的なバランスのとれた像は結ばないと思っている。
○ 小学校調査と中学校調査のB問題の調査結果を比較すると、中学校の方が小学校より、無回答率が顕著に高くなる。このことは調査前から推測されていたがあまり改善がみられない。この点について、特色ある学校に係る事例収集を行なうなどの調査分析が進んでいるが、今後、踏み込んで検討する必要があると考える。A問題については、概ね良好だが、中には正答率が50%にも満たない問題があり、それらは一定の共通の傾向があるものもある。今後の分析の観点として重要である。また、来年度調査は、最初の調査を6年生として受けた受検者が、中3として受けることとなるので、効果的な検証分析の枠組みについて検討を行う必要がある。
○ OECD/PISAの国際専門委員の経験から、全国学力・学習状況調査が新しい学力の姿を具体的に示し、受け入れられつつある成果が上がり、かつ、エビデンストベーストな教育に関するPDCAサイクルが確立しつつあるという意味で大変結構な状況にきているなと思っている。その一方で、長期的なスパンでみたときどういう方向に向かうのか気にもなっている。PISAは3年サイクルで2009年はリーディング、2012年は数学というように焦点のあて方を変え出題数や分析の仕方が異なる。全国学力・学習状況調査も教育課程の評価としての教育課程実施状況調査や特定課題の調査を含む複眼的な捉え方や分析を考える時期にきている。長いスパンでみたときの仕組みを検討する時期がきていると思う。3年間の実績を踏まえ、先生方の手元に届いて活用される資料や指導改善のメッセージについては、従前よりもパワーアップしたものとする必要がある。
○ 保護者にとって、最も話題となるのが調査結果の開示・非開示の問題である。学力調査が我が子にどのくらいよい影響を与えているのかが直接に見えないことから、情報開示への要望になっている。そこに、マスメディアのランク付けにより、あおられることによって本質じゃないところに移っていく。PTAでも議論があったが、非開示を前提に実施された学力調査がそれぞれの基準で開示されるようでは、それは保護者として参加できるものではない。ルールはきちんと守りながら、開示しても大丈夫な社会環境であればルールに基づいて開示されるべきである。実施要領に反してまで情報を積極的に開示したい地域は、全国調査ではなく、その地域独自の調査をして調査結果を開示すれば他に影響は及ばない。そのようにすれば地方分権といえる。全国学力・学習状況調査は全国調査の役割をきちんと担いつつ、地方分権の中でいかされて発展していくことを願っている。我々保護者も隣家の中までのぞきたい。常に隣ばかり気になるという思いを変えるべきである。よその子と比べるのではなく、我が子を最高の輝きの道筋に家庭教育の中で進めていくような社会環境であってほしいと思う。学力だけではなく一人一人の子どもが評価され輝くという意味で、基礎学力の定着・向上に全国学力・学習状況調査の結果が役立てばと思う。先生方と保護者との信頼関係の強化についても一定の役割を果たしたい。
○ 各学校に提供されている結果チャートを一層育て、全国学力・学習状況調査の結果を各学校が授業改善のためにしっかり活用できるようにしていきたい。全国を回っていると、残念なことに、各学校における授業改善という調査の意義が理解されていない向きもある。そこで、うまく活用している学校を訪問調査し、学校の智恵・知見をまとめて情報発信したいと考えている。
○ 教員養成を行う大学に伺うと学生や教員から全国学力・学習状況調査の話題がでる。地域が独自に行う調査についてはそのようなことが無かったので、やはり全国的調査は教員養成にも影響を及ぼしているのだなと実感している。調査結果の提供については、完璧なデータを各学校に提供しようとせず、大体の傾向がつかめればよいので、調査結果の早期提供については引き続き努力する必要がある。また、この事業を始めるときに、5年くらいしたら一度総括してみようという話があった。そろそろそういう議論をしてもよいのではないか。
○ この調査は、日本の子どもの学力水準を把握するという意味で最も基本的で重要な調査だが、統計調査と異なり対象が毎年変わることと、学力調査については毎年問題が変わっていくという状況において、どう水準を把握したらよいのかという難しい課題がある。3年間国語及び算数・数学についてA問題及びB問題それから子どもと学校の質問紙調査という枠組みで一定の成果が見られたところ。当初から明らかだったと思うが、一番足りないところが家庭・保護者の調査が十分にできないこと、この当たりの点について3年間の枠組みを見直すと、例えば教科についても国語、算数・数学でよいのか、質問紙についても対象を広げていく必要はあるのか、実施の時期や体制についても白紙に戻して再検討することは必要だと思う。3年間の調査で膨大なデータが蓄積されている。これを分析ワーキング以外の研究機関も分析のために使える枠組みを検討する必要もあると思う。
○ 30年代の学力調査の頃、記者として取材をしていた。その頃は毎年大騒ぎだったが、今回の調査は落ち着いた雰囲気の中で行われているという意味で大変よかったと思っている。それだけに調査結果の分析、さらなる活用方法を十分検討していかなければいけないと思っている。様々な機会に日本の子どもたちは試験の点数はとれるけれども、自ら考えることや学習意欲に課題があることを指摘してきたが、それがPISAにより明確に証明された。例えば、数学的リテラシーの問題も点数は世界一だと言われながら、50%以上の子どもが答えられない問題が散見される。やはり日本の子ども達がもっと考える力をつけなければならない。意欲の問題が相まって初めて学力というものが伸びていくので調査をどういかすかが重要だと考える。座長の話された教員養成、学習指導要領と本調査のトライアングルについては同感であり、その方向で力を入れていく必要がある。
○ これまで、ICTの整備状況と学力の問題、全国調査と各都道府県等が独自に行う調査や、市販データを使いながら学力調査の結果を組み合わせて分析を進化させるという課題に取り組んできている。その中で地域の特性、各市町村レベルや学区のレベルの特性を踏まえた分析の重要性を認識している。県の教育委員をしているが、県の視点でこの調査結果を眺めるとやはり全国の平均的な姿とは異なる。県内でも各市町村による違いを感じている。今後いろいろな教育施策の展開をしていく中で本調査の位置づけ、活用方策については課題としていただきたい。また、本調査のデータについては、いずれは特定の研究者ではなく様々な研究機関が利用できるような方策を検討する必要があると考える。
○ 本調査により学校の意識も変わってきている。小学校長だが、本校も学力向上については大きな課題として取り組んでいる。6年生だけではなく低学年から高学年までの流れを考えなくてはならない。同時に、国語、算数だけではなく、他教科との関連した全校体制で取り組むという流れになっている。学力向上の取組と同時に、学習習慣、生活習慣は非常に大きな問題である。学力と学級経営は切っても切り離せず、安定した学級経営の中で日々の授業が充実し、学力向上につながる学習習慣という点からは学級経営に関することもベースとして考えている。あわせて、生活習慣が非常に重要であり地域・保護者にデータを提供しながら生活習慣の改善に努めている。本校では、今月は早寝・早起き・朝ごはんの重点月間として取り組んでいる。
○ 中学校長だが、悉皆調査により約1万人の会員がみんな当事者として学力調査に向き合うことができることを実感している。データがしっかりとしているので教育課程の編成にきちんと反映させることができる。また、学校評価についてもチャートを活用すると容易に活用できる。また、学習状況の調査も有意義であり中には厳しい状況にも関わらず頑張っている学校がある。国研において取組が進められているが好事例を調査し、全国に提供していただければありがたいと思っている。本調査における無回答率をなくして考えさせる子どもたちを育てたいと思っている。3年、4年経つと現場の中には傾向と対策のように「これさえやっていればよい」というようなところもあると思う。刺激のある問題を出題願いたい。
○ 教育社会学を専門にしており、学校間、児童・生徒間の違いと学力とか学習状況の違い、その原因は何かについて関心をもっている。大きな要因には家庭の要因と学校の要因があるが、全体を明らかにすることは容易ではない。特に、私は学校の要因、家庭教育など指導面の要因に関心があり、本調査の結果を分析して教育行政や学校の指導の改善に資する研究をしたいと考えている。学校の影響力は薄く広く全員に影響を与える。学校・学級規模から学校経営、指導方法などについて一つ一つ分析していきたい。私自身様々な調査を行ってきたが、個人の研究だと学校の数が少なくなり、学校の影響力を取り出すことが困難である。本調査は悉皆調査なのでデータをきちんと分析すれば、学校の指導の効果や、学校経営の在り方の影響も析出できると思っている。
○ 本県では平成14年度から「基礎・基本定着状況調査」という独自調査を実施してきており、これに本調査の結果から得られたデータを組み合わせて、「学びのサイクル」を提案し、その中で実際の授業のDVDを作成し、各学校に配布したりパンフレットを作成し全ての先生方に配布したりする取組を進めてきた。実際に学校現場で活用されてはじめて成果がでることを実感しているので、全国調査に係る様々な分析、活用事例、報告書等も先生方が活用しやすいものとしたり、インパクトのあるものとしていただきたい。本県では中学校について今年度から学校を指定して取り組むこととしているが、中学校は教科担任制のところもあり、全国調査の対象教科だけに取組が留まらせずに学校全体の授業改善につなげていく道筋が課題となっている。また、本県には各教科1人のみの小規模校も多いので、今年度は4校程度でグループをつくって指定し、4人グループで授業改善に取り組むこともはじめている。

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