全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議(第11回) 議事要旨

1.日時

平成21年3月30日(月曜日)13時~15時

2.場所

中央合同庁舎7号館(金融庁)12階 共同第2会議室

3.出席者

委員

梶田座長、荒井座長代理、市川(伸)委員、清水(静)委員、田中委員、土屋委員、福田委員、耳塚委員、八島委員、山崎委員

文部科学省

德久審議官(初等中等教育担当)、藤野教育水準向上PTリーダー、小松学力調査室長、原学力調査室室長補佐、宮崎視学官、吉川視学官、中岡教育課程研究センター長、梅澤研究開発部長、森下学力調査課長 他

4.議事要旨

(議事の審議に先立ち、3月26日に逝去された市川(真)委員に対し、一同で黙祷を捧げた。)

(1)平成21年度調査の参加状況等について事務局より説明があり、その後、平成20年度全国学力・学習状況調査追加分析について(ア)資料1~3について事務局より、(イ)資料4について国立教育政策研究所より、(ウ)資料5について福田委員より、それぞれ以下のような説明があり、その後、これら関する質疑応答が行われた。主な意見は以下のとおり。(○:委員、●事務局)
(ア)資料1~3について
 事務局より、資料1に基づき、ある県が実施する調査結果を補完データとして用い、全国調査と接合した分析として、全国調査の国語A・B、算数・数学A・Bと県の独自調査の国語、算数・数学及び社会、理科、英語との相関等や、県独自調査の理・社・英の各教科の学力層と、全国調査の学校質問紙項目との比較分析の結果、見られた特徴等について報告があった。また、資料2に基づき、学力・学習習慣と学校における学習指導との関わりについて分析した結果の報告があった。さらに、資料3に基づき、習熟度別少人数指導について、昨年12月の分析をさらに掘り下げ、児童生徒単位で学力層別にみた関心・意欲・態度に関する分析を行った結果や、低学力層に着目した問題別の正答率・無解答率の分析の結果等について報告があった。
(イ)②資料4について
 事務局より、資料4に基づき、全国学力・学習状況調査の結果を踏まえた学校の取組事例に係る調査研究について、平成19年度、20年度の2回の調査で特徴のある結果を示した学校を抽出して、そこでの取り組みについて取りまとめることにより、各学校が今後の教育指導、あるいは児童生徒の学習状況の改善に実際に活用できることを目指すなど、調査研究のねらいや調査対象の選定方法、現状と今後の進め方について説明・報告があった。
(ウ)③資料5について
 福田委員より、資料5に基づき、横浜国立大学が文部科学省の委託研究として行った、都道府県・政令指定都市が実施する独自調査の活用に関する調査及びヒアリングの結果を基に、全国調査との相互補完的な分析への活用に対する取組状況、課題等について説明・報告があった。
○ 本日の報告はいずれもワーキンググループで検討・報告いただいたものである。他にお茶の水女子大学の委託研究があるが、これは取りまとめ中でいずれ報告される。分析方法については多様なものが考えられるが、限られた資源しか利用できない状況では、こうやって一歩一歩分析を進める以外にないと感じている。
○ 既に委託研究で取り組んでいるものもあれば、これからの課題もある。データを「丸ごとしゃぶる」という発想に立てば違うやり方もあるが、網羅的というよりは、いろいろなことが役に立つのではないかという観点から、切り込み方、進め方を工夫しているなと感じた。
○ 一筋縄ではいかない結果が出るからこそ、分析の意義がある。論理的には効果が出るはずのものが実はなかなか出てこないということで、現場に向かって発信するには、さらにきめ細かな分析が必要だという印象を持った。習熟度別指導の取組は進んでいるが、その効果が多くの県でみられる一方で、下がっている県もある。こういうデータが大事である。
○ 学習状況、生活状況、学力等の変数の関係を分析し、特に大きな影響を与えていものを取り出すことが重要であり、多変量解析等の手法を使って、さらに分析を進める必要がある。これまで明らかとなったことは、学力には、家庭生活や児童生徒自身の学習の状況などが大きく関係しているが、そのほかに学校の経営、指導法や地域の特性も関係していることである。今後は特に、学校経営や指導法がどう関係しているのかを研究することが政策的に意味があるのではないか。
○ 成果を上げている学校での取組の特色として一体感が強調されていたが、これがうまくいかないという現状がある。他教科との関係、他学年との関係などでの一体感が必要である。特に中学校は教科別であり、課題の共有は重要な問題だと思う。
 ある中学校では理科も社会も含め授業を公開していた。その中では読解や思考判断にかかわる課題を共通に受けとめて、幾つかの教科を挙げて取り組んでいた。そのような事例を積極的に紹介していただきたい。
○ 全国を回りながら感じたが、児童生徒質問紙調査を行ったことの成果は大きい。どの学校においても、6年生児童生徒の生活習慣、学習状況のデータを用いながら、全学年のほぼすべての先生が、改善に取り組まなければならないと考えており、大変うれしく思っている。ただし、教科に関する調査の問題について、6年生以外の先生で見ている人はほとんどいない。まだ6年生以外の先生方の意識が調査の活用に向かっていないという状況もあると思う。学校質問紙のほうも、校長先生の分析はしっかりしていても、各クラスの先生方の指導方法の改善にまだ十分に結びついていないように思う。
 今後、6年生以外の先生方が今回の調査問題を使って、先ほど事例研究でご発表いただいたような具体的なアイデアで、校内のデータ等に検証を受けながら、授業改善ができるような仕組みづくりを行っていきたい。そして、それが普及していくと、調査の活用ができ、全国の学校の授業が変わっていき、子どもの学力や生活習慣、学習習慣などの状況が変わっていくだろう。そのようなことに貢献できるような研究が今後とも必要であり、貢献ができればと考えている。
○ この調査をもとにして、しっかりと物事を考えられる子どもたちを育てる我々にいろいろなデータをいただきたい。チャートは非常に役に立った。ぱっと見て年によって随分違うと思った。学校は同じことをやっても随分違うんだということが、2年だが、よくわかった。さらに深めていただき、私たちが見てすぐ対応できるものをぜひお願いしたい。
○ このような記述式の問題を出題することは、多分、ここ何十年で初めてのことと思う。しかしその問題と、無解答率というのはいつも表と裏の関係である。無解答率が低いところはなぜかということを見ていただきたい。そのためには、幾つかのサンプルでいいので、無解答率がやや高めの学校の授業というのが客観的にどういう授業なのかということも含めて、いま一歩踏み込んだ要因の抽出、分析をしていただけると、今回の挑戦に対しての検証が一層確かにできるのではないか。
○ 学校レベル、あるいは地教委レベルでの分析・活用が、グッドプラクティス事例集として世の中にもっと出ていかないといけないと思っている。
○ 学校の先生方も世の中の皆さんも関心があるのは平成22年度調査の結果とのすり合わせだと思う。そのための問題作成の作業も間もなく始まると思うので、そのための仕組みを提案していただきたい。
○ 問題項目の間の話では、例えば階層分析をやるとおもしろい。これがわかって、そして初めてこれがわかって、そしてこれがわかってという、統計的には非常に単純な論理だが、日本ではあまりやっていない。もう1つは、イチゼロで枝分かれした階層性を明確にするという分析。例えば、論述式もできたできないで振り分けて、ほかのものとやれば、これでテスト項目の基本構造が出てくるかと思う。
○ ノーム・リファレンス的なテスト項目の分析は我が国でも非常に多いが、クライテリオン・リファレンス的なものというのは今まであまりない。そういうことをやれる人もごくわずかである。これだけのデータがあるので、わかる人を中心としてこれからも明らかにしていったらおもしろい。しかも、それが現場にも役に立つものもあると思う。今後の期待も含めて申し上げておきたい。
○ 分析体制の整備の問題は今後の課題として残されていると思う。国が投入できる資源には限界があると思うが、徐々にではあれ、国の研究機関が恒常的に分析を行えるように整備を目指していただきたい。
○ 同時に、文科省の内部に存在している地域や学校についてのデータがなかなか一体的な利用ができないような状況で保存されているというのも問題かと思う。統一的にデータをためて、利用可能なデータベースを構築していただきたい。いろいろな分析をしていく中で必要なデータが利用できないということが現実に起こり得る。国としてデータベースをきちんとした形で管理し、提供できるような体制づくりをぜひ考えていただきたい。

(2)事務局より、資料6に基づき、全国学力・学習状況調査結果を用いた今後の分析項目例について説明があり、その後、梶田主査より、「既に委託研究で取り組んでいるものもあれば、これからの課題もある。資料6はそれを一覧にしたものだが、資料に限らず、今後の調査の在り方等も含め、各委員に全部まとめて一人一人ご発言いただきたい」旨の発言があり、これを踏まえた意見交換等が行われた。主な意見は以下のとおり。 (○:委員、●事務局)
○ 全国学力・学習状況調査の大きな特徴は悉皆調査である。この会議の名称は「分析」と「活用」の推進であるが、これまで様々な分析が行われたけれども、分析に重点があるのならば、全数調査の必要はない。むしろ全数調査をやった意義は、調査結果を生かしていくという活用にあるのではないか。
  活用といっても、例えば国の施策の改善方策という意味での活用であれば、それは分析が中心になるから全数調査である必要はなく、学校とか児童生徒というミクロなレベルでの活用が問題となるが、この2年弱の間では、その意味の活用は不十分だった。全数調査の意味を生かしていくための今後の活用の方向を見ていくべきである。
  平成22年度調査は平成19年度調査とをつなげる視点についての話があったが、これについても個人レベルでどう活用していくのかを見ていく必要がある。全数調査の意味は、活用のためにデータを使えることにある。それから、全数という意味は、調べたいことは非常にたくさんあるが、調査を多くやるわけにはいかないので、例えば、全国調査では、基本的な部分だけを調べることとし、教育委員会がそれにプラスアルファをして、例えば読書が中心ということであれば、幾つかの都道府県は読書についてさらに独自の調査を行うとか、他の教育委員会が他の調査を行うという形。全国調査はその真ん中の一本、基本的な部分を押さえて、それに対してそれぞれの教育委員会がさらに独自のものを追加していけるという、その一番中心になるという部分の役割をこの調査が今後担っていくべきではないか。そのためにはサンプリング調査では不十分であって、全数調査でなければならないし、質問紙調査も不十分な点は変えますけれども基本は毎年変えずに、経年的な変化をずっと追えるような、基本的な部分を押さえる調査としてはどうか。
○ 会議の成果と課題を述べさせていただく。この調査結果の活用がどれぐらいこの会議の成果をもとにして、促進されたかということについてお話ししたい。全国の学校や教育委員会を回って多くの地域でいろいろ聞いたり感じた経験的な気づきだが、児童生徒質問紙調査を今回しっかりと位置づけ、学力調査に加えたことの意義は非常に大きく、どの学校も、ほぼすべての先生が児童生徒の生活・学習習慣、学習状況のデータを用いながら、改善を進めるなど、きちんと目的を持って自校の診断結果をもとに子どもの生活・学習習慣、読書習慣等の改善に向けた取組を進めている。大変うれしいところと思っている。
  もっとも、国語、算数・数学のA・Bともに、1問でも解いたことがありますかと聞くと、残念ながら6年生の先生以外で見ているのは校長、教頭とあと一人ぐらいの先生である。学年が異なるし、B問題については、どんな教科書で出てくるか、平成23年度、平成24度年の新指導要領実施時のイメージもつかみにくいという中で、6年生以外の先生方の意識が活用に向けて動いていないという印象をもった。
  また、学校質問紙についても校長の分析や診断はしっかりしているが、各クラスの先生方の指導方法の改善には、十分に結びついていないところもあると思う。そこで、今後は、今回、この資料6に挙げられている、「結果チャートの活用」についての話となるが、特に大切なのは、やはり6年生以外の先生方が学力調査の問題を活用して、実際に授業の改善をすることです。先ほど中岡センター長からご発表いただいたような具体的なアイデアで半年ぐらいやってみて、単元テストでもいいし、中間、期末テストでもいいし、そういったものでどれぐらいお子さんが上がってきたか、あるいは絶対評価でCを受けたお子さんがBに頑張って上がっていっているかどうか、そういったようなきちんとした校内のデータの検証を受けながら、中間評価をして、さらにアクションプランを書いて、授業改善のアイデアを書いて、いわゆるPDCAを、この全国学力・学習状況調査の結果を使って各教科担任、学級担任の先生が、自分の手の中にそのデータを入れて、自分の授業を改善するということがまだまだ取り組めていない。全国に六、七十万人いらっしゃる先生方がこのデータを使って授業改善ができるような仕組みづくりをやっていって、それがまた普及していくとほんとうの意味での活用と、ほんとうの意味での全国の学校の授業が変わって、そして、お子さんの学力や生活習慣、学力習慣などの学習状況が変わっていくだろう、そのようなことに貢献できるような研究が今後とも必要だし、それなりの貢献ができればと考えているところである。
○ 今後のことを含めて3点お話しさせていただきたい。
  1つは子どもの学習へ取り組む姿勢にかかわることだが、既に話題になっているように、今回の調査では記述式の問題に取り組んでいただいている。これは、ここ何十年で初めてのことと言えるだろう。しかし問題と、無解答率はいつも表と裏の関係で、特に中学校ではその率が大変高まる。先ほどの発表にもあったが、無解答率が低いところはどうしているかという分析は、ケーススタディで進めていただいているが、さらにそれがなぜかということを見ていくためには、幾つかのサンプルでいいが、無解答率がやや高めの学校の授業というのが客観的にどういう授業なのかということも含めて、いま一歩踏み込んだ要因の抽出、分析をしていただけると、今回の挑戦に対しての検証が一層確かにできるのではないかという点である。
  第2点は、成果を上げている学校での取組みとして「一体感」が強調されていた。これがなかなかうまくいかないのが現状ではないか。読み書きを中心にやっているので他教科との問題。それから、小6と中3を対象にしているので、他学年との関係などいろいろなところでの一体感が求められるが、中学校は教科別になっているので、そこでの課題の共有については、かなり大きな重要な課題と考える。
  先日、ある中学校を訪問したが、そこでは理科も社会も含めて公開授業を行っていた。しかも、その中では読解とか思考判断にかかわる課題を共通に受けとめており、幾つかの教科を挙げて取り組んでいた。大変結構な取組なので、そういう事例を紹介しながら、一体感を持って対応していただく。これが2つ目である。
  それから、最後は資料6の一番最後に掲載されていたが、学校の先生方も世の中の皆さんも一番関心があるのは平成22年度調査結果とのすり合せだと思う。そのための問題作成の作業も間もなく始まる。そのための仕組みをできるだけ早めに構築し、皆さんの期待にこたえていける仕組みを提案していただきたい。以上、3点である。
○ 当初は、全数調査でやることに賛否両論あったが、分析が進み実践事例も紹介されており、全てが受けることによって何らかの改善をしなくてはいけないと。そのためにはほかの学校の取組もいろいろ積極的に取り入れていこうという雰囲気ができたことが一番の成果でないか。もし抽出調査だったら、他人ごとのように受けとめたかもしれない。
  その上で、改善を図るための2つの視点が必要と考えていた。1つは、児童生徒の日常的な学習行動に着目すること。一昔前は、とても家庭学習まで学校は面倒見切れないとか、宿題を出すと子どもがかわいそうだということで、家庭学習がほとんど視野に入っていなかった。今でも、私は予習は学年が上がるにつれて結構大事だと思っているが、予習のことなど全く視野に入っていないところがほとんどだった。そういうことも含めて、塾に行っている子どもだけがそういう恩恵に預かるというのではなくて、公立学校の中でも家庭学習を視野に含めた指導が入ってきたのはいいことではないかと思っている。これはかなり多くのところでやられるようになった。
  もう1つは、授業改善である。私は全国学力・学習状況調査が四十何位と非常に悪かった県に行くことが多い。押しなべて、何でこんなに悪かったんだろうと最初はおっしゃる。この20年間一生懸命取り組んできており、決して手を抜いてきたわけではないのに、何でこんな結果になってしまったんだろうと。そこで一体どういう授業を一生懸命やっていらっしゃったのですかということを聞く。そこで、ここからは少し私の個人的な考えが大分入ってくるかもしれないが、最近の教育改革の20年ぐらいの流れに関することに触れる。
  これは中教審でも指摘されているが、90年代以降、子どもたちに、自ら学び考えるということを強調するあまり、どうも教師が教えることを手控えるようになった。単元の最初からとにかく子どもたち自身が考え、あとは意見を出し合って共同的に練り上げることがいい授業だと言われて、そういう授業モデルをもとに進めてきた。それを一生懸命やってきたんだけれども、結果的には子どもたちに基礎、基本の力もしっかりついていなかったと。今度の中教審答申の中でも教えて考えさせる指導ということが入ったが、それを改めて考えてみると、少なくとも習得や活用の部分では、教えて考えさせる指導というのは、考えてみれば当たり前のことだったが、それをきちんとやってこなかったと。改めてそういうところに着目して改善を図ろうとしているところがかなり増えている。
  全国学力・学習状況調査と対応させてわかりやすく単純な表現をすると、A問題に当たるような問題はしっかりと教師が教えるべきだろう。これがなかなかわからないと言う子には自力発見させようというのではなくて丁寧な指導をする。その上で授業の中でBのような問題を積極的に扱っていくべきだろうと。これで習得、活用に当たることをふだんの授業の中ではしっかり行う。その上でさらに探求にいってほしいわけだが、そのような視点に基づいた授業改善を行っているところが今後どういうふうな成果を出していくか私も期待しているし、そういうところに協力している。
  既に市区町村でのテストなどで、こうした実践の効果が非常にあらわれているところが増えている。そういうところは次の全国調査を楽しみにしている。早くやりたい、この成果を全国調査で示したいということで非常に積極的に動いている。だから2番目の効果的な指導方法に関する分析というところに、こちらのほうも、ある程度どういう視点で教師、学校、教育委員会が動いているのかを一方で視野に入れながら、どういう方針で動いているところは、どんな結果をもたらしているかというのをある程度、仮説的なものも持ちながら抽出校を選んだり分析していくといいのではないかと思う。
○ 分析と活用の推進に関して、私は特に分析にかかわった。国民が注目している調査の100万人ものデータの分析の機会を得たことを大変光栄に思っている。大量のデータを分析することに非常に興奮した。これだけのデータになると、ほとんどの変数が何らかの影響を与えている。学習の状況とか生活の状況、学力等にほとんどの変数が影響を与えているが、その中でそれらがどういう関係になっているのか、特に大きな影響を与えているものを取り出すのがなかなか大変である。多変量解析等の統計、分析手法を使って、どんどん深く分析していく必要があるが、私自身まだ足りないと思っている。
  分かってきたこととしては、学習の状況とか学力に関する状況について、家庭的な背景とか生徒個人の学習の状況が大きな影響を与えているが、そのほかに学校の経営とか指導法も大きな影響を与えていること、地域の違いも大きい。これについてはさらに詳細な分析が必要と思っている。特に、学校経営と指導法がどう関係しているかを研究することは政策的に意味があるので、そのあたりをどのように分析して、教育の効果に反映していくかを工夫するのが大きな課題と思う。指導法の中でも教科の指導法、授業の改善が大事だと思うのが生徒指導の側面である。家庭の学習とか指導について学校がどうかかわるか、地域がどうかかわるか、そういうことにいても分析のメスが当てられる必要があると思っている。そうすることによって、この活用のほうにもヒントが与えられるだろうと思うので、まだ大きな仕事が残っていると思うが、今後、一層分析が深まるように期待をしている。
○ この会議に出させていただいて、いろいろな分析の仕方があることに感心した。校長会と連絡をとりながら、「次はどんなことになるんだろうね」という期待を持ちながら参加した。全国の中学校長の中には、悉皆調査の必要性については両極化しており2つのタイプがある。
  お金のことで言えばサンプルでいいが、実際に学校や自分たちの子どものことを考えると、しっかりやる方がいいという話なる。全国調査の結果から、都道府県や学校ごとの差はあるものの、全体では、そんなに差はないことが分かった。全国のどの中学校へ行ってもしっかりした義務教育が受けられる、これが理想だと思っているから、そういう面ではこの調査結果には満足している。
  1問、2問間違ったとか、その率も10%ぐらいの差で動揺する向きもあったが、現場では、あまりそういうことを考えずに、「ここはよかったね」とか「こうしよう」ということが話題になることがとても大事だと思う。
  現場では、これをどう活用すれば、しっかり考え自分に責任を持てる国民に育つのかという視点で取り組んでいる。この調査をもとにしてしっかりと物事を考えられる子どもたちを育てるために、我々に有用なデータをいただきたい。チャートは非常に役に立った。ぱっと見てこんなに違うのというふうに思った。学校の取組は同じでも随分違うんだということがよくわかった。チャートの発展にはぜひ期待したい。
  公立の中学校では暴力行為が過去最高というセンセーショナルな情報もあるが、学ぶ力、学力をしっかりとつけながらそういうものに対抗していきたいなと思っている。さらによい問題をつくっていただき、現場ではそれを活用し賢い子に育てていきたい。
  私の学校も中学校2年、3年になると塾通がどういう影響かよくわからないし、見える学力、見えない学力ということもあるが、このごろは「買える学力」と「買えない学力」と実感するところがある。自らしっかり勉強していくんだというスタンスをぜひつけていきたい。そのためにこの全国学力・学習状況調査はとってもぴりっとするものになっているので、今後ともさらによいものにしていただきたい。
○ 実証的なデータをもとにして行政を進める上で、子どもたちの学力についての調査データを国が持つということは不可欠なことであるし、また重要なことである。今後、文部科学省は学力調査をどこかでほうり投げてしまうんではなくて、継続的に実施していくということが一番大事なことだと思う。
  ただし、現在の学力調査の事業は決して全体として見ると完成形、これで一番いい体制であるというふうには思わない。現在行われている学力調査関係のものをリストアップしてみるとおよそ4つほどある。1つはこの全国学力・学習状況調査。2つ目が教育課程実施状況調査。3つ目が特定課題についての学力調査です。4つ目が国際比較。このほか5つ目に挙げてもいいと思うのが、きょうのお話にも出ましたような都道府県だとか区市町村教育委員会によって行われている調査がある。これらを機能の観点から整理して再編することができるのではないかと思う。
  ぜひあったほうがいいのは、1つは国際比較で、これは国全体を他の国との比較において明らかにするという意味で、主要なものが2つですけれども、継続したほうがいいだろうと思う。
  2つ目が国の水準と分散を常に監視して、もちろん時系列的に比較は可能でなくてはいけないが、監視する調査。これは国がやるべきことであろうと思う。これについては悉皆調査である必要はなくて、むしろ非サンプリング誤差なんかの点を考慮すれば、サンプリング調査でいいのではないか。ただし、1つの教科についてもう少し幅広く問題を準備しなければいけなくなるだろうと思う。細かなやり方まではまだ考えているわけではありませんが、例えば、何年かに一度、1つの教科が回ってくるぐらいの調査でいいのではないか。この水準と分散の監視のための調査というのは、現在の全国学力・学習状況調査と教育課程実施調査を含めたような性格でサンプリングで実施すればいいのではないかと思う。
  それから、特定課題についての調査はトピック的なものですので、恒常的なものとして位置づけるのではなくて、必要なときにやればいいと思う。
  もう1つ、水準と分散の監視の目的のための調査と申し上げましたが、実は家庭的な背景による学力の散らばりの問題というのは、全国調査の枠組みには載りにくい性質のものであります。ですから、これは別途何年かに一度実施しておいたほうがよかろうと思います。
  今回の実施形態であります悉皆調査というのはシンボリックな意味があったのと同時に、特に学校を特定した行政施策に結びつけることができるとすれば、非常に有意義であろうと思います。ただし、これは国がやる必要があるかどうか。設置者である市町村、あるいはその上にある都道府県、現場との距離もそのほうが近い、そうしたところにゆだねるのがいいのではないかと私は思う。もっともお話を伺っておりますと、全国的な状況の中に位置づけたいというニーズも現場には一定部分、存在するのかもしれない。ですので、何年かに一度ぐらいはやってもいいのかもしれませんが、しかし、これを毎年続けるということは必要ないのではなかろうかと思う。
  最後に分析体制の整備の問題は今後の課題として残されている。国が投入できる資源には限界があるが、徐々にではあれ、国の研究機関が恒常的に分析を行えるように整備を目指していただきたい。同時に文科省の内部に存在している地域や学校についてのデータが一体的な利用ができないような状況で保存されているというのも問題と思う。統一的にデータをためていく、データベースをつくっていくという発想も必要なのではないかと感じた。
○ 途中から参画したけれども、ほぼ2年間分析に携った。先ほどの発言のとおり、やはり100万余のデータを扱うその重さをほんとうに感じましたし、分析をして明解なある解が出てくるわけでもないことにほんとうに悩んだ。実際に今年度は国、都道府県、市というレベルで順次調査をしたりヒアリングをしていく機会も分析の一方であって、その中でマクロの視点とミクロの視点、あるいは国、都道府県、市町村という形でそれぞれかなり違う問題を抱えているんじゃないかということを実感した。
  したがって、国がやるべきこと、都道府県、あるいは市町村がやるべきこと、あるいは抱えている問題の違いというのをやはり明確に認識する必要があるし、分析にあっても全国的な分析も必要だけれども、一方で少しレベルを下げた、あるいはブロック化したような形での丁寧な分析が最終的には各学校、あるいは児童生徒に役立つ情報を提供できるのではないだろうかということで、そこら辺をこれから大きな課題にしなければいけないし、その際に国だけではなくて各都道府県、市町村、あるいは学校現場で協力いただけるような体制とか組織化というのを図っていく必要があると思います。
  それから、2つ目はデータベースの話で、耳塚先生がおっしゃるようにやはりある程度一元化して、利用可能なデータベースを構築していただきたいと。やはりいろいろな分析をしていく中で必要なデータが、ある意味では縦割りの中で利用できないとかということが現実に起こり得るということで、分析を進める中でそういう国としてデータベースをきちんとした形で管理し、提供できるような体制づくりをぜひ考えていただければと思っている。
○ 最初に大変多くの難題を抱えた作業、仕事をまだこれから何年か続いていくことかと思うが、その一番端緒となる時期に、梶田座長にリーダーシップを発揮していただいて、揺るぎなく貫いてきたということ、それを支えられた委員の先生方、あるいは事務局に大きく敬意の念を表したい。
  私が座長代理とか副座長としてできたことは僅かなことで、座長が横綱相撲をとられているので、私は勝手なことを言う、若干異論をそれに唱えるということに終始してきたが、その間に多くのことを学ばせていただいた。まずもってそれにお礼を申し上げたい。
  学力調査に関して、先ほどもお話が出たけれども、一気に完成形に持っていくことは極めて難しい。まだまだいろいろな課題が残っている。単に学力データを採取するということではなく、日本の教育を診断するという姿勢、教育を診断していく、その結果に基づいて新たな改善施策を講じていくという1つのルーティンのシステムが稼働し始めたということを何より喜びたい。
  特に戦後の日本の教育のことを考えると、戦後復興から経済成長、受験が非常に過酷な状況になった選抜社会から、現在は誰もが大学に行ける、少なくとも入るということに関しては全入化が言われるけれども、このいわばあえて第3期と言わせていただければ、どこの場所の教育であっても何となく大学入試というものがある種の牽引力をもって、それが教育を引っ張ってきたという時代から、ちょうど様変わりするフェーズに入ってきたんだろうと思う。
  そこで、いわば初めて日本は自らの教育モデルをここで構築しなければならないという時期に直面してきたときに、実際には手立てがない。そこでいわば教育診断をして、その次のプロセスに向かうというメカニズムをつくり出したということ、あるいはこれからそれをまた本格的に稼働させていくというところにこの全国学力・学習状況調査の一番大きな意義があると思っている。
  国立教育政策所研究のほうで進めている特色ある教育実践の報告があったが、学校段階レベルでのPDCAだけではなく、この全国学力調査そのもののPDCAを考えなければいけないということを痛感する。
  本来であれば、3年先の全国学力・学習状況調査のことを今考える必要がある。次年度はちょっと間際過ぎて、それでなくても非常にお忙しい方々が日に迫られて作業を進めなければいけないというよりは、3年後、5年後というデザイン、これは予算のことがかかるので、難しい面もあると思うが、これは国家施策として定着をさせていかなければいけない基本事業と思うので、この調査自体も長期的なスタンスを持たなければいけないし、事業そのものもそうでなければいけないだろう。ぜひそういうデザインにもう少し多くの時間とエネルギーを投入できるようなタイムスパンの中で作業ができるようにご工夫いただきたい。これが文科省へのお願いである。
  それから、もう1点は、この検討会議にご出席の先生方は、日本でも例外的にテストの問題と学力の問題と教育政策の問題にいろいろな見識をお持ちの方々である。でも、決して多くはない。今、出ておられる方にかわる方々は決して多くおられるわけではない。それから、その個別のデータ分析にかかわってみれば、果敢に取り組んでくれる若手の方たちが十分に育っているのかというと、そのマンパワーは非常に限定されている。
  現在は国立大学でも専任教員を増やすということは大変難しいが、実は教育というものは実は単に議論するのではなく、診断をして、その結果に基づいて何かをしていくんだという科学なわけですから、これをきちんと担える人たちをどういうふうに育てていくのか。少なくとも教員養成学部のすべてに教育測定と教育評価の専門家を置けるだけの体制は最低限保障していくというマンパワーの体制をつくっていかなければいけない。
  先ほど学力調査をやっていても試験問題を見ている先生はそんなに多くはないという話があったが、教員としてその仕事に従事するときに子どもたちの成長度合い、その結果、あるいはそれをどういうふうに図るかということに関して、常に大きな関心を払えるだけの技術的な基礎・能力を持っていなければいけない。それが、現在の教員養成学部の中で果たしてそれだけの体制を持っている学部がどれほどあるのかというと、実はこれは昔、数えたことがあるがほんとうに少ない。非常に限定された先生方があちこちで非常勤講師をやりながら、それを何とかカバーしている。科目としては確かに設置審の中で教育測定とか教育評価という専門科目があるんですけれども、それは必ず何かで代替できるような仕組みになっている。そうではなくて、それは代替科目でごまかすんではなくて、ほんとうに試験問題をつくることができて、試験を分析できて、その結果を活用して授業改善に持っていけるというサイクルを教員自身が持てるところまで人を育てなければ、この事業自体のほんとうの意味が生きてこないんではないかという感じがする。
  繰り返しになるが、ぜひともせっかくこれだけ大きな事業として発展してきたものを継続するということと、それを支えるマンパワーの体制を整備していくということを心から願って、私のお礼と意見ということにさせていただきたい。
○ これからのことについて、いろいろな形で学校レベル、あるいは地教委レベルでの分析、活用がまさにグッドプラクティスな事例集として世の中にもっともっと出ていかないといけないなと思っております。
○ テスト項目について、国研の学力調査課か委託してやっていただかなければいけないけれども、私は若いころに国研でやっていた。例えば階層分析をやると、これがわかって、そして初めてこれがわかって、そしてこれがわかってという統計的には非常に単純な論理だが、日本ではあまりやっていない。私は幾つかやって、例えば神戸市の全部の小学校で算数の課題について昔やったのでやってみるとよいと思う。もう1つが、これは基本的にはイチゼロに直して、昔、統数研で林先生がPOSA、Partial Order Scalogram Analysisと言うが、イチゼロで枝分かれした階層性を明確にするという。Scalogram Analysisというのはイチゼロから一次元の階層性をつくる。そのソフトを昔、開発してもらったことがあるが、例えば、論述式なんかもあるから、論述式もできたできないで振り分けて、ほかのものとPOSA的にやれば、これでテスト項目の基本構造がそういうことでもとれていったりする。
 これは、ノーム・リファレンス的なテスト項目の分析は我が国でも非常にあるんですけれども、クライテリオン・リファレンス的なものというのは今まであまりない。そういうことをやれる人もなかなか育っていない。これだけのデータがあるから、わかる人を中心として明らかにしていったらおもしろい。現場にも役に立つものがいっぱいあると思う。

(3)閉会に際し、徳久審議官と梶田座長からそれぞれ挨拶があった。

お問合せ先

初等中等教育局学力調査室