全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議(第9回) 議事要旨

1.日時

平成20年12月15日(月曜日)15時~17時

2.場所

中央合同庁舎第7号館(金融庁)12階 共用第2特別会議室(1215、1216号室) (千代田区霞が関3-2-1)

3.出席者

委員

梶田座長、荒井座長代理、市川(真)委員、神山委員、清水(静)委員、清水(美)委員、田中委員、野嶋委員、福田委員、耳塚委員、八島委員

文部科学省

金森初等中等局長、藤野教育水準向上PTリーダー、小松学力調査室長、原学力調査室室長補佐、田中主任視学官、吉川視学官、中岡教育課程研究センター長、梅澤研究開発部長、森下学力調査課長 他

4.議事要旨

(1)平成21年度全国学力・学習状況調査の実施方法等について、前回までのヒアリング結果及び議論の経過をまとめた専門家検討会議の意見書(案)を提示。事務局が説明後、質疑応答が行われた。主な意見は以下のとおり。

    ○学校名、市町村名が明らかになることに対する危惧は、学校現場では大変根深くある。本来の学力・学習状況調査のねらいを実現するために、各学校は実施要領をしっかりと受けとめ実践している。今回改めて序列化や過度の競争にならないよう配慮することは、適切な判断であると思っている。
    ○各学校が結果を公表して子どもたちがその結果を見て、頑張るモチベーションが高くなるならば良いが、そうではない状況が現場ではどんどん生まれていくと考えられる。
    ○「調査結果の活用について位置づけること」、それにかかわる「必要な支援等を行うこと」、この2つが示されたことが非常に大切である。的確に進めてもらいたい。
    ○専門的な分析等による有用な情報の発信として、国立教育政策研究所との連携、具体的には学力調査官等の派遣が盛り込まれている。国立教育政策研究所の中で、学力調査官を中心に継続的な分析を行っていくことが、教科教育の立場からの分析を確かなものにしていくと考える。
    ○特に公表について最終的な判断を行うのは、学校や市町村教育委員会である。その立場にいる人たちが児童生徒の学力を向上させるために、みんなで協力して取り組む気持ちになるよう、様々な立場の人たちがサポートできるメッセージを発信できると良い。
    ○アンケート結果で、学校数の少ない教育委員会がたくさんあった。、小規模自治体に対する配慮が一層必要と考える。
    ○この調査は、いろいろやりながら見直してよりよいものとしていく途上にある。そういう観点から、教科固有の問題まで踏み込んだ情報提供ができればいいと考える。特にすぐれた実践、あるいは効果を上げている授業の様子等も含めて映像化する等、すぐれた事例を集めて、最終的に現場へフィードバックしていくことができたら、さらに守備範囲が広がると思う。
    ○21年度に追加提供することとした分布図を中心とした資料は、バランス感覚のとれた1つのアイデアとして評価できると思う。
    ○各学校には、チャートを活用した学力向上プラン、アクションプランを作成してほしい。それに従って授業を改善するとともに、その取組状況の報告書を作成することが、各学校のPDCAサイクルの確立につながる。
    ○経年変化で捉えた場合に頑張って伸びている学校、やや停滞している学校、あるいは学校の取組は頑張って伸びているけれども、それがなかなか子どもの力に反映しない、逆に反映して成果を上げている等、様々な学校タイプについて、学校訪問調査等をしながら、頑張って伸びている学校を応援できるような結果チャートの工夫が大切。
    ○3年目に入って、データをどう活用するかが大きな課題になる。分析にかかわる検討委員会をはじめとして、国の取組が強く求められる。
    ○各教育委員会、学校等における調査結果の一層の活用推進を求めているが、教育委員会や学校等の分析を支援できるツールや考え方も開発していくことが必要ではないか。
    ○ 全体として見ると、国の役割についてのメッセージが弱い。この調査の目的は、調査を使って教育委員会と学校に改善努力をしてもらうことのみではなく、国として自らの施策を点検し施策に生かすことにも重要性がある。そのために必要な分析体制を整える等、国としてなすべきことについても明確にする必要がある。
    ○公表について、市町村教育委員会に対するアンケート調査結果等を見ると、現在の実施要領のままがよいという意見が多いが、私自身は、市町村教委や学校が自分の結果を出すことは意義があることと理解している。、
    ○公表のあり方に関して、具体的な活用を促進するというイメージがはっきりしたことは、大変よくなったと考える。
    ○調査結果を生かして教育政策や学校の具体的な施策に反映させていくためには、データを使いこなせる・読める人を、どうやって育てていくのかという人材養成の問題を考えていく必要がある。

 ※(1)の議題については、意見を踏まえて意見書の案文を修正することとし、その作業については座長に一任された。

 

(2)平成20年度全国学力・学習状況調査追加分析について、事務局が説明後、質疑応答が行われた。主な意見は以下のとおり。(○:委員、●事務局)

     ○共分散構造分析に関し、基本的生活習慣から学習習慣を経由して学力に影響を及ぼしているとの説明があったが、むしろ経由しない効果のほうが係数の大きさとしては大きい。なぜ学習習慣よりも基本的生活習慣のほうが関係が大きいのかということ自体が非常に興味深いことではあるが、解釈としては、要するに経由効果ではなくてダイレクト効果のほうが大きいというのがこの図、係数が物語っているところかと思う。中学校も同等の係数の大きさなので、このままで判断する限りは、ダイレクト効果とインダイレクト効果とが同等だという形になってくるかと思う。
     ●今回の分析では、細かい数値の大小を基に効果の違いを明らかするというよりは、大まかな傾向としてはこのような形ではないかということである。最初の図で、基本的生活習慣から学力のほうが太い矢印になっている。経由しているほうが弱いということで、ダイレクトの影響のほうが強いと考えていく必要もあると思う。
    ○表面的には全部とても高い相関係数が出ていても、ほかの要因で説明できるものを差し引いていくと、直接の効果が一番出ているということである。学習習慣が一番学力にストレートにかかっているように思うが、ここで基本的生活習慣と言われている項目に実は隠れている、家庭の秩序正しさや、雰囲気がもっと学力に強く影響しているところが出ている。ストレートな学習習慣よりも、その背景にあるもののほうが強いという意味で、非常におもしろいと思う。単純な相関関係として表面にあらわれたものだけではない。朝ご飯を食べさせるだけでは学力は上がらない。多分、そのもっと背後にある家庭の秩序感覚や規律正しさといったことが効いているのだろうと思う。
    ○習熟度別少人数指導について、昨年度より質問紙の項目をシャープにして、環境的に少人数というところを排除したことで、政策的な意味でも指導の効果が如実にとらえられているという印象を受けた。その中で興味深かったのは5ページ、6ページのグラフで、少人数指導の実施の割合に応じて平均以上の学校がだんだん減ってくるが、「行っていない」のところでリバウンドする。これは問題にもよるだろうが、もしかしたら少人数指導をしなくても一定の効果をお持ちの先生方のグループがいて、そういうところで何か影響が出ているのかと思った。少人数、習熟度別が行われていないところの先生方で何か効果を持っている特徴的な指導が顕在化すると非常に興味深い。感想のようになるが、脈々と日本で受け継がれてきた力量のある先生の特徴のようなものが何か浮き彫りになるとおもしろいなと思う。
    ○少人数にして、いわば他とのコミュニケーションを少なくして、そしてそのグループの子どもたちの学力の状況に一番合ったものをやらせるという方法が1つあるが、日本のすぐれたやり方は、集団で違った発想のものを大勢の中で出させて、それを1足す1足す1が5にも10にもなるように先生が上手に持っていって、例えば算数・数学でも多様な考え方をそこで指導していくことである。高校では、さらに多様な受けとめ方をそこで出し合うということによって、少人数指導ではできないような多様な発想のぶつかり合いの中から学習が深まっていくというやり方が1つある。これは非常にすぐれた力量のある先生しかやれない。最近、これが上手な先生がなかなか少なくなってきたなと思うが、今ご指摘の点はそういう面では非常に大事だと思う。少人数指導が万能ではなく、全く違う発想の指導展開の仕方も日本で伝統的にあって、それもすぐれた何かを持っているんじゃないかということを示唆するようなデータの並びかという気もする
    。●19年のデータでも同じような傾向は見られたが、その理由についてはまだわかっていない。もともと習熟度別少人数指導が必要のない学校ということも考えられる。
    ○国語の少人数指導が小学校、中学校とも「していない」というのが8割ある。これは今のことでいえば、する必要がないのか、それとも必要はあるけれどもしていないのかということを教科教育の立場から見る必要がある。1つ、学級人数の違いによって国語の学力がどうであるかということを調査していただけるとありがたい。国語科の学習内容は言語活動なので、例えば人数が少なくなってしまうと言語活動の多様性が失われる可能性がある。そうすると学力が伸びない。現行と次期の学習指導要領が盛り込んでいる国語科の学習内容というものをきちんと定着させていくときに、場合によれば、ある程度の規模のクラス編成でないとうまくいかないということがあるのかもしれない。これは小さな規模のある市のデータを私が分析したときに気がついたことだが、クラス規模によって国語のスコアに差が出てきている。できたら一度、学級規模において有意な差があるのかないのかということを示していただけると非常にありがたい。
    ●課題として受けとめさせていただく。
    ○学級規模と学力の分布の間の関連をストレートに出すと、これが推測されるように出てこない。つまり学級規模が小さいところはほかの特性を背後に持っているし、学級規模が総体的に大きいところは同じように何かの特性を持っており、学級規模の影響が出るのと反対の影響等も入ってくるので、なかなか出てこない。ところが、ある県だけに限定をして分析をしてみると、非常にクリアな関係が出たりする。昨年度のデータについて、初期の段階では、この学級規模の問題、相当に分析されたが、もう少し工夫をして、全国データとしてどういう出し方がいいのかということも含めて検討をしていかなければならない。
    ○結果チャートの形状の経年変化と、A層やD層の割合の経年変化に影響を及ぼしている質問紙調査の項目の知見について、関連して公表されることがあれば、学校にとっては便利かと思う。結果チャートの形が変わるだけでは、どこがどう変われば望ましくなっていくのかということの裏打ちがない。統計分析と結果チャートを統合することをしっかりとやることで、学校サイドがこの統計的な知見を使いやすい結果チャートに組み込んでいく、その分析の相互関係をしっかり今後つけていくといい。
    ○質問紙調査の項目の改善にも関係することなのかもしれないが、少人数のところで結果がクリアに出て、一定の効果が証明されたということは、それ自身、大変すばらしいことだが、今後の新しい学習指導要領の考え方で提案されているいわゆる活用型の学力や活用型の学びといったことを考えていくと、質問紙項目の中で習熟の速い子に対しては発展的な指導、習熟の遅い子に対しては習得のための基礎的な指導と分け過ぎている。
     ある小学校で今取り組んでいるが、習熟に課題のある子たちに、意図的に活用型の問題をやらせて思考力を育てたり、たくさん答えを書かせたり、思考過程を書かせたりというのを10人ぐらいの少人数でやると、活用型の、これまで難しいと言われていた問題にも学力に課題のある子たちも非常に真剣に取り組み、ある一定程度の成果を上げた。今後は質問紙調査の中にも、習熟に課題のある遅いグループの子たちに活用型の課題を与えて、書いたり話したり、表現したりする指導に取り組んだということを入れていければ、そういった取り組みにより、もっとD層の子どもたちが問題Bに対して成果を上げていくことが見えるのではないかと思う。
     特に国語は文章を書かせたり、討論させたりするときに、もちろん先ほどの多様性が必要だというご意見も十分わかるが、逆に10人ぐらいの少人数で徹底的に作文指導すると、書く力が非常に高まっていく。今ワンパターンにA層には発展、D層には基礎習得となっているので、逆にするような項目も入れながら、より幅の広い習熟度別の分析をしていっていただくことを期待したい。
    ○小学校で「普段の授業で自分の考えを発表する機会が与えられていると思う」という項目が学力との関連が非常に強いという結果が出ている。ややもすると保護者も、教員の一部も暗記や、繰り返しで学力が定着する考え方が抜け切らない部分がある。そんな中でこのような形で、やはり授業で、このような自分の考え、表現力であるとか対話型の学習であるとか、学習活動の現場での工夫、改善の中で子どもたちが確実に力をつけているというのは、教員が実際に学習活動を組み立てるときに自分たちがやっている1つの方向を出していただき大変力強く思う。これからの子どもたちにつくらなければいけない1つの授業の形態、スタイルがこのようなところからも読み取れるという思いを受けた。

 ※(2)の議題について、課題を踏まえ、他の分析も含めて引き続き追加分析を行うよう座長より依頼がされた。

 

(3)平成20年度全国学力・学習状況調査の報告書について、事務局から報告がされた。

     8月末の公表資料の情報に、調査問題、解答用紙等の資料を添付した報告書を12月中に本年度の全国学力・学習状況調査に参加したすべての教育委員会・学校等に対して配付することが報告された。また、「平成20年度全国学力・学習状況調査 【中学校】の結果」について、平成20年8月公表の数値から一部変更があったことが報告され、了承された。

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初等中等教育局学力調査室