全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議(第4回) 議事要旨

1.日時

平成20年8月7日(木曜日) 15時~17時

2.場所

学術総合センター 中会議室

3.出席者

委員

梶田座長、荒井座長代理、市川(伸)委員、市川(真)委員、田中委員、土屋委員、福田委員、牧原委員、耳塚委員、八島委員、

文部科学省

金森初等中等教育局長、徳久審議官(初等中等教育担当)、藤野教育水準向上PTリーダー、小松学力調査室長、原学力調査室室長補佐、田中主任視学官、中岡教育課程研究センター長、梅澤研究開発部長、篠田学力調査課長 他

4.議事要旨

(1)分析ワーキンググループが中心となってまとめた、「平成19年度全国学力・学習状況調査追加分析結果(案)」について、事務局から説明後、質疑応答が行われた。主な意見は以下のとおり。(○:委員、●:事務局)

    ○ 今回の報告のような数量的な分析だけではなく、事例を加えた検討や時間の経過に伴って変化を観察する分析も必要であるが、これまでの学力に関する調査結果に比してより分析課題が明確であり、総合的な分析が加えられていると思う。
    ○ 今回は、生活習慣、少人数指導などの学習指導にかかわる方法と学力の関係を分析しているが、その中の幾つかについては、いわゆる第三変数に十分配慮した分析となっていないことを留意する必要がある。
     例えば、朝食の習慣と学力は、比較的大きな関連が見えているが、朝食の習慣と学力の双方に影響を与える別の要因が存在する可能性がある。少人数指導については、他の要因の影響を考慮した分析が既になされているが、読書活動やその他の指導については、まだそのような分析にまでは至っていない。
    ○ 学校に関わる変数の影響は、家庭の影響に比べると、総体的には小さいと推測される。このことは、家庭生活や家庭的な環境にまで踏み込んだ調査研究の必要性と重要性を示唆しているのではないか。同時に、学校や教育委員会においては、家庭との連携、家庭の支援が重要な課題になっていることがわかる。
    ○ 全国学力・学習状況調査には、二つのねらいがある。一つは、学校の指導改善に資するということ、もう一つが、学校教育の基盤整備や資源配分にかかわる行財政施策に結果を生かしていくということであるが、分析できているのは、ほとんどが学校の指導改善にかかわる分析にとどまっていて、まだ教育委員会や国の教育施策にかかわる検討が十分ではないと思う。その理由の一つは、分析に使えるような形でデータが整備されていないことである。
    ○ このような大規模な調査研究の分析というのは、片手間にできるようなことではない。現在の文部科学省のデータ分析体制で十分か。常設の分析センターのようなものが存在するのが望ましい状態ではないか。
    ○ 小・中学校それぞれで100万人を超える大規模なデータを分析することは初めてであった。学力に与えている要因はさまざまなものがあるが、分析した結果、家庭での生活状況がかなり児童生徒の学力に関係していて、ほぼ予想どおりの結果と受け止めている。アメリカのコールマンレポートなどと同様の結果ではあるが、学校の指導方法についても無視できない変数も多く、今後一層詳しい分析が必要である。、学校での指導がどのような影響を与えているかについて、データをもう少し読み取って、日常の教育指導に役立てていただければありがたい。
    ○ 一般に、平均正答率は非常にわかりやすい指標だが、平均を出すためには、学力の高い子も低い子も全部一緒にまとめて平均を出すことになり、それだけではやはり不十分だろう。学力の高い子はどうなのか、あるいは学力の低い子はどうなのかといったような、きめの細かさが必要ではないか。今回の習熟度別指導はまさにその学力層別の指導なので、学力層別の分析が当然必要になる。
     ただし、小学校の国語Aの得点の分布で、学力層Aだけを取り出して平均を出すとすると、学力層Aというのは正答数17と18だから、その中で平均を出しても意味がない。そこで、学力層Aに着目したときに平均を使わずに、今回少しわかりにくい分析の手法になったが、学校の中で、学力層Aの子がどれぐらいいるのかというパーセントを使って学力層Aを見ていく分析をした。
     大まかには、学力層Aについては、習熟度別指導との関係がかなり見えやすい結果だった。一方、学力層Dについては、少し関係が見えにくいというのが分析した結果の印象である。このような統計的な分析だけでは当然不十分で、あとは事例的な研究などもあわせて行っていく必要がある
    ○ 「学力層に着目した指導方法等に関する分析」は、それぞれの学力層に対して実際に行われた指導方法や学校での活動、あるいは条件がその割合とどう関連しているのかを見たものである。
     実際には、全般的に学力の向上につながるものもあれば、学力層Aに特に関わるもの、あるいはDに関わるものというような形での関連が見られたということで、それぞれの取組が学力層別にどうかかわってくるかを伺い知る一例になった。
     ただ、あくまでもそれは関連ということであり、この指導方法が結果として、ある学力層に影響を与えたということではない。それから、それぞれの指導方法を個別に扱ってきたが、一つの指導方法や一つの条件が基底因子になるとは思えない。組み合わせた効果や、総合された取組を考えて今後の対応をしていく必要がある。
     もう1つは、19年度の時点での各学校の取組と学力層との関連を問うたが、経年比較により、ある種の因果関係のような、例えばこのような指導が学力層をどう変えていけるのか、といったところを見ることができれば、皆さんに結果を還元できると考えている。
     また、「関心・意欲・態度」については、今回はD層だけに着目した。学力層が下の子どもたちのあり方を指導とどう結びつけていったらいいのかについての関連性であって、因果ではないことも承知していただきたい。たくさんの変数を扱う調査の難しさを感じている。今後の展開の中で、変数を組み合わせた形での整理ができればと考えている。
    ○ チャートを用いた分析検討手法の開発は、これまでの3つの研究とは、ややねらいが異なっており、各学校あるいは各教育委員会が今回の学力調査のデータを活用して、改善に向けていろいろな取組をしていくときの指針になるような手法を提供するねらいがある。一番感じているところは、各学校ごとに学力実態が違うことである。こういった学校ごとのチャートで学力や学習状況の実態を表現すると、全国学力・学習状況調査が悉皆調査で行われた意義あるいはその意味が明確になる。同じ地域の学校であっても、学力等の実態は学校によって異なる。そうしたものをきちんと正確に調査から把握して、改善に役立てなければならないといったことが、今回のチャートで、よくわかってきたのではないか。
     今後、次の4点の課題がある。
     1つ目は、本日チャートを示したが、まだ実際に各学校には返されてはいない。各学校が計算できるような形で計算手法までは紹介したけれども、学校ではまだ実際にチャートをもらっていないので実感がないのだろう。自校のチャートを見て、ここで言われたようなパターンになっているし、その改善ポイントがよく当てはまるなといった実感、手応え、活用できそうだといった感想、そういったものが学校に出てくれば、ますますこういった調査結果の利用価値も検証できるだろうし、また学校の改善も図られるだろう。そういった活用事例をフィードバックする研究が1つ。
     2つ目が経年変化。ただ、このチャートについては、学校質問紙調査は、校長先生が1人で回答したものなので、信頼性は十分保証されないと思う。子どもについても、学年が違うとそれだけで変化する。それでも何らかの取組の結果が反映されているかもしれない。やはり1年たって、学校運営が改善されているかどうかを検証することは大切なことである。そういった経年変化を19年度、20年度でチャートを見比べてみて、幾つかサンプルを例示しながら、変化のタイプ化ができればという期待がある。
     3点目が、今後どうするかという課題である。PDCAで言うと、これはあくまでチェックであり、アクションまで行かない。ここに書いてある改善のポイントは、あくまでも一つのサジェスチョンにすぎまない。これを見た各学校や各教育委員会が、こういうアクションを起こしたらよいのではないか、もっと具体的に各教科の指導をこうしよう、研修をこうしようといったアクションプランの具体的な像がこのチャートとセットになって提案できるようになるといい。
     最後は、今回は各学校のチャートとしているが、理論的には、教育委員会単位の全体像をチャートにすることも可能である。さまざまな表現手法の可能性を今後探っていきながら、各学校や教育委員会が使いやすく、検証・改善が行われやすいデータの視覚化の手法を改善、精選していければと思う。
    ○ このチャートは、いわゆるレーダーチャートの表現の形を変えたものである。同じ学校を一般のレーダーチャートとこのような形のチャートで書いて比べると、やはり今回の形のチャートのほうが、学校の特徴が明確にわかるような印象がある。レーダーチャートでは、どこが優れて、どこが悪いのかというのが少しわかりにくい印象があったので、学校に返却して見ていただくときには、このような形のほうがいいのではないかと考えた。カラーに意味があるのではなく、そのデコボコが非常に見やすいのではないかと思った。そういったこともあり、できればレーダーチャートではなく、ほかの名称などをつけていただけたらと思う。
    ○ 分析活用については、一つは、教育行財政にどうフィードバックするかというものがあって、もう一つは、具体的に子どもや学校や先生にどうフィードバックするかというもの。この2つは分析も違えば、調査の意味づけまで変わってくる。行財政にフィードバックするということだけであれば、悉皆調査を行う必要はなかった。しかし、今回は、子どもに、先生に、学校にフィードバックして、具体的な教育活動の改善に結びつけていく、あるいは子どものさらなる学力や成長に結びつけていくということがあった。悉皆調査でないとこのような分析はできない。まだやれることはたくさんあるが、その中で、時間的に今に間に合っているもの、現場で興味を持ってもらえそうな部分が、今回こういう形でまとめられた。分析は、またこれから続行する。
    ○ ワーキングに参加し、分析の困難さやいろいろな課題を拝見した。今回の追加分析結果を伺い、ようやく日本の学力調査も分析らしい分析結果が出てくる段階に近づいてきたことを大変心強く思う。
     これだけのデータで、これだけの変数を抱えた作業はとても片手間にできるものではないということを、我々は肝に銘じなければいけない。ぜひこれを長期的に、このための研究をしていくような形での支援を、行政サイドでとっていただけるようお願いしたい。
     2番目に、この全国学力・学習状況調査が、なぜ悉皆でなければならないか、あるいはなぜサンプリングではないのかというところは、前段階でいろんな議論があったけれども、これはこの間の基本的な段階を踏まえて、徐々に洗練されていく、より効率的、合理的な形でのかじ取りがなされていくんだろうと思う。
     全国学力・学習状況調査自体は、実質的に非常に感度が鈍い調査だということをまず認識する必要がある。顕著な結果は出てこないことが、実は日本における教育条件が担保されていることなんだということを、これもまた当然のこととして受けとめていなければいけない。
     また、ここで分析できたのは、クロスセクショナルな関連性の分析がなされただけである。これを一定の教育施策なり、改善の結果が反映してくるかというのは、時間軸を伴う形での分析あるいは実施を必要とする。ぜひとも、10年、20年という長い時間軸の中で、日本の教育データを蓄積していくということに関係者、我々も含めて努力しなければと思っている。
    ○ 公表に当たっては、解釈上の留意点を書き加えるべきである。、第1章には、第2章や第3章のような留意事項を入れていただきたい。
     特に重回帰分析の場合などは、統計にあまり詳しくない人が、一つの変数だけをとらえて、何か因果的な説明をしてしまうことがある。例えば、朝ご飯や睡眠時間のような変数だけをとらえて、朝ご飯を食べると学力が上がる、あるいは睡眠時間を多くすれば学力が上がる、と解釈する人が出てくる。おそらく妥当な解釈は、生活習慣や学習習慣を含めた、何か家での模範的なしつけというのがあり、これがしっかりしている家庭は、朝ご飯もしっかり食べる、睡眠時間を十分とる、あるいはテレビも見過ぎない、宿題はきちっとやる、そのようなことがセットになって、いい影響を及ぼしているということはないかと思う。実際には自分の興味のある変数だけを取り上げて、こうすれば、学力は上がるというような解釈が出てきてしまう。
     一つの変数だけから解釈をすることが危険であることや、すぐにダイレクトな因果的説明をしてしまうと危険であるというような留意事項は、公表するときには書き込んだほうがいい
     それから、特に塾との関連も多分何か言われると思うが、補習塾に通うと学力にマイナスの効果があるというような解釈が出ると思う。おそらく妥当な解釈は、あまり学力の高くない子が補習塾に行く、学力の高い子は進学塾に行くという傾向があり、その個人差を反映したものであって、それぞれの塾の効果をあらわしたものではない。それもやはり必ずしもそういう解釈をすることが妥当ではないというような例を挙げながら、留意事項として出したほうがいいのではないかと思う。
    ● 各県や教育委員会等にも配るので、印刷の際には、そのような留意点も入れた形で、最終的なものとしたい。

 

(2)「検証改善サイクル事業成果報告書」について、事務局から説明が行われた。

 

(3)座長より、以降の分析について、平成20年度の調査結果発表後に、19年度との比較も含めて追加分析を行うこと、今年度末まで全国学力・学習状況調査の分析に関して、議論するという考えが示され、閉会となった。

 

 

お問合せ先

初等中等教育局学力調査室